人のいないところを探し求めた結果、おれの足取りは部室に向いていた。昼休みで基本無人の場所なんて、あそこくらいしか思いつかなかった。そうして部室の近くまで来た時、ふとあることに気づいた。
「カギがないと入れないじゃん・・・。」
防犯の観点から、だれも使わなければ鍵は閉めておくのが基本だ。部長なら特権で鍵を常に携帯させてもらえるが、一部員ではそこまでは許してもらえない。梓先生がまた職員たちからの隠れ蓑として逃げ込んでいるなら、入れるのだが・・・。
半ばあきらめている状態でドアノブに手を書けると、ガチャリと音がした。鍵は開いていた。
「あれ、先輩?」
そこには一人で飯を食べていた柄谷がいた。なんだか久しぶりに会った気がする。ここのところ、部活に行けるテンションじゃなかったから、一緒にゲームすることもなかったしなあ。差分回収装置を使って過去を追想したときには会っているが、現実世界はそうではないし。
「・・・お前、こんなところでボッチ飯をしていたなんて・・・友達いないのか?」
「なっ・・・失礼しちゃいますね。ちょっと作業しなくちゃいけないことがあったから、一人で缶詰してただけです。いつもは友達と一緒にお昼してるんですから!」
そういう柄谷の周りには、確かに書類が転がって――――――――って、これ全部宿題じゃねえか。しかも夏休み課題って書いているんですけど・・・。
「柄谷・・・」
「生易しい目を向けないでください。そうですよ宿題終わってないだけですよ。作業なんてたいそれたこと言ってすみませんでした!――――――――って、先輩?」
ブーブー言い訳をした柄谷の表情が一変した。
「何かあったんですか?やけに元気がないですし、そもそも昼休みにこっちに来ることだって珍しいですし・・・」
流石に俺のみてくれが様変わりしているのには気づくか・・・。
「ちょっとね、静乃がらみでいろんなことがわからなくなってきてさ。一人で考えているうちに、苦しくなってきてさ。」
「萩原先輩・・・。私は倒れた現場にいなかったし、お見舞いにも行っていないので、正直記憶喪失状態である現状の深刻さをまだ理解できていません。けれど、食堂や廊下で遠巻きに先輩を見た限りでは、これまでがうそみたいに陽気でいました。ただ・・・
「そこなんだよ・・・」
柄谷が俺の抱える懸念と全く同じことを呟いてくれて、少し救われた。俺だけじゃないんだ。
「―――――――しおらしい先輩なんて、らしくないですよ。いつものあのアホさ加減はどこに行ったんですか?」
「ふざけて笑い飛ばせるテーマじゃないんだよ・・・」
「まあそれはそうです。けれど・・・そうですね、その姿を見続けたいとは思いませんね。」
中々にひどいことを言ってくれる。そりゃ、辛気臭いやつを視界に入れるのは不快だってか。
「だって嫌でも気になりますもん。記憶を失っている萩原先輩が、唯一仲良くしていたのが国広先輩なんですよね?確かにこの数日で新たに人間関係を構築できたとしても、5年間の記憶が一切ない中で、切羽詰まった時、人を頼るならば国広先輩になるんじゃないんですか?なのに、そんな先輩が落ち込んで、どこか元気なく接してくるとなれば、萩原先輩は『なにか自分悪いことしたのかな。やっぱり記憶を失った影響は大きかったんだな。』って思っちゃいますよ。」
柄谷の言うことには同意しかない。そうだ、いつ記憶を思い出すかなんてわからないんだ。ならば、いつ思い出すかわからないことにびくびくしながら過ごしていると、今の静乃を悲しませてしまう。記憶をいつ思い出すかわからなくて不安なのは彼女もきっと同じなんだ。だから、俺にできることは、彼女を不安にさせないこと、不自由のない学園生活をおくらせること、
「―――――――柄谷、ありがとう。もやもやが晴れたよ。」
「そんな、私は大したことを言っていませんよ。ただ、先輩にはお世話になっていますから。たとえ普段どんなにアホみたいなことをしていても、変わりはありません。」
思わず心臓がはねてしまった。柄谷のほほえみによるものなのか、それとも、数々の言葉に励まされたのか、それはわからなかった。ただ、柄谷の言葉に励まされ、決意が固まったのは間違いない。
「はは、なかなかいうねえ。――――――――そしたら、ここで時間つぶしてても仕方ない。俺は戻るとするよ。柄谷も宿題頑張れよ。夏休み終わって何日たったと思っているんだ。」
「最後の一言は余計です!!!!」
ぷんぷんした柄谷を横目に、俺は部室を飛び出した。静乃、ごめんな。これからは何事もなかったかのように接するよ。そして怜、昼食中の静乃を頼む。俺はこの間に、先輩方と放課後の打ち合わせをするぜ。