放課後を迎え、いよいよ帰宅となった。それまでの間、静乃の身に変なことは特に起こることはなかった。まあ普通に授業を受けている間に無理に起こしようがないということもあるのだが・・・
「静乃、そしたら帰るか。」
「そうだね!でもあれ、刹那ちゃんとかは?」
「ごめんなさい静乃。今日は急遽生徒会の仕事が入ってしまいまして・・・。役職つきは強制なんですよ・・・。」
静乃がそう尋ねるのはもっともだ。そして、刹那は案の定悲しそうな顔をしていた。そりゃ、急にぶち込まれた仕事というのは、不快だろうな・・・。
「まあそういうことだ。ひとまずやることないし帰るか。」
「そうね。じゃあ静乃、一緒に帰りましょう。」
怜が静乃にそう呼びかけたものの、どうやら静乃には思うところがあるらしく、手を顎に当てて、考え事をする仕草をした。
「うーんそれはそうだけど・・・。そうだ!」
静乃は何かを思いついたのか、食い気味でこちらに話しかけてきた。
「それならいっそのこと寄り道しようよ!私、今の街が昔とどう変わったのかまだよく知らないし。」
「それは・・・」
いやいいのかそれは?良くないよな?街に繰り出すということは、人が増えるんだし、どこから何が飛んでくるかなおさらわからなくなる。だが、木を隠すなら森の中ということばもあるし・・・。いずれにせよ、まず怜の許可をとらないと・・・。俺は怜に視線を向けた。彼女はこの一部始終を聞いていたのか、首を縦に振った。ああ、いいんだ別に出かけても。
「ちょっと待ってくれ、すぐ戻るから。」
俺は教室を出て、ハムに電話をかけた。ワンコールで彼は電話に出てくれた。そして事の顛末をハムに告げたら、彼はしばらく黙り込んだ後、快く返事をしてくれた。大勢の中に紛れることで、襲われないことを最優先にしたということだろう。俺は教室に戻った後、静乃を連れて教室を出た。
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「やあ国広、奇遇だな。」
「国広先輩、ちっす!」
玄関に向かうと、そこにはすでに待機していたハムと林鹿夫という男がこちらを迎えてくれた。林ってそうか、やたらでかい丸刈りの男か・・・。彼は俺と初対面のはずだが、非常になれなれしく挨拶してきた。
「おお、なんか珍しいメンツだな。」
それはそうだろう。ハムが林と交友があるなんて聞いたことがない。いや聞いてもいないんだが・・・
「フッ、少年に話しかけようと追いかけていた時に、話す機会があったのでな。彼も生徒会の一員なんだ。当然だろう。」
「ハム先輩には大変お世話になりました!男としての立ち振る舞い、見習うところが多いっス!」
そう説明されたら確かに納得してしまう。刹那と放課後も絡むってことは、他のメンバーにも遭う可能性あるしな。どおりで林への連絡がスムーズなわけだ。
「そちらは、萩原だな。事情は聞いている。私のことも思い出せないのだろう?」
「うん、ごめんね。初めましてになるかな。ええと―――――」
「私は武士道。国広の友人で、同じ部活に属している。」
「そっか武くんか。・・・え?なんでハムって呼ばれてるの?名前にハム要素なくない??」
言われてみれば、どうしてこいつはハムって呼ばれているんだっけ。ハムって呼んでくれっていったのはあいつなんだよな・・・
「これは俺の推測なんすけど、ハム先輩と飯行くとき、めっちゃ”ハムッ!!!”って感じでご飯食うんスよね。そこからあだ名がついたんじゃないかとにらんでるんスよ。」
「なんかよくわからないけど・・・なるほど。ちなみにあなたは?」
「俺っすか?俺は林鹿夫――――――――」
そういって静乃が林に近づいた時、みるみる彼の顔が赤くなっていくことがわかった。
「はうあっ!なんて可愛い子!俺と相思相愛なのは会長だけだと思っていたのに!!!!俺の心が震えるぜ・・・」
「あはは、ありがと!てか、え?あの結衣さんって林君と付き合ってたの!?」
「そんなわけあるか。林、あまり調子に乗るとまた会長に絞られるぞ。」
「うっ頭が痛い・・・。なんだか嫌なことを思い出しそうな予感・・・・・・」
こいつ・・・いったい過去にどんなことをされたんだ・・・。
「そうだ、これから街に遊びに行こうと思ってたんだけど、よかったらみんなもどう?遼と二人だけって、なーんか頼りないんだよねえ。」
「ひどい言い草だ。・・・でも否定できないのは否めない。どうかな?」
静乃は俺が頼んでもいないのに勝手に彼らを誘ってくれた。この誰とでも仲良くなれるのが過去の静乃なんだよな。さすがだ。そして、まさか彼女から誘われるとは思っていなかったのか、ハムは少したじろいでいた。そりゃあ、ハムの知っている静乃は、人を何かに誘うなんてこと、なかったからなあ。
「私たちでよければ、喜んで参加させてもらおう。特にこの林、遊ぶことだけには長けているからな。」
「任せてくださいよ。俺の遊びテク、存分に見せてあげますよ。」
この丸坊主、やたら自信満々である。まあ陽キャっぽい感じだし、本当にこいつに任せておけば行く場所は何とかはなりそうだな。
「よし、そしたら向かおうか。」
俺は3人を引き連れて、玄関を出――――――るときに、ふと傘立てが視界に入った。そこには以前忘れていた自分の傘があった。なので、その傘を回収した後、俺たち4人は一緒に校門を出て、街へ繰り出していった。その間、周りに気を付けていたものの、怪しい人を見つけることもなく、特に危ないことは起きることはなかった。
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「さすがに自信満々でテク見せてやるとか言ってただけあるな・・・」
詳しく説明するのはあの男を上げるようで非常に癪だが、確かに林のプランは面白かった。まずラウンドワンでビリヤードに興じる。そうして疲れてきたころに、並ばなく手も入れ、かつ質の高いカフェで一息つく。細かいが、遊んでいる最中の数々で林の細かい配慮が光る。こいつ、ナルシストと丸刈りやめたらモテるんだろうなって思った。静乃は非常に楽しんでくれていたようでほっとした。特にビリヤードは初めてやるようで、キャッキャしながら球を小突いていた。球が穴に入るたびに満面の笑みを向ける彼女は非常に輝いていて、正直何度も見とれてしまった。そしてこの間も、特に怪しい奴に出会うことはなかった。
「今日はありがとうね。林君。とっても楽しかったよ!」
帰路につき、電車から降りて4人で歩く。静乃の状況を考慮して、暗くなる前に帰ってきた。差し込む夕日がアスファルトを優しく照らしていた。
「いえいえそれほどでもないっスよ。俺もめちゃくちゃ楽しかったっス。にしても静乃先輩、ビリヤード本当に楽しかったんスね。めちゃくちゃ写真撮っちゃいました。」
「え?ちょっとあとで私にも見せてよ!」
あの静乃が勝手に写真を撮られて怒らないなんて・・・。
「そうっスね・・・。写メ送るんで、スマホ見せてもらえません?連絡先教えてなかったッスよね?スマホのロック解除さえしてくれればもろもろをやっておきますよ。LINEの画面開いてもらえます?」
「手際良いな・・・。」
思わず感心してしまった。スマホを使えないことを見越して具体的な指示を出す林。そうしてその指示に従い、ロックを外したスマホを林に渡した静乃。右手には林のスマホ、左手には静乃のスマホをもつ。右手の親指がやけにけたたましく動いて――――――まあ写真をたくさん選んでいるのだろう。
「はい、完了しましたよ。トーク画面を見てみてください。それに皆さんも。」
そういわれて俺とハムもスマホを確認した。すると、林から無数の写真が送られていることに気づいた。静乃の写真だけではなく、俺とハムの写真もいっぱい・・・・・・。確かに俺も写真撮られていたような気がする。細かいところでマメだな・・・。
「林、確かに確認した。ありがとう。少年にも送っておこう。」
ハム、それって静乃の写真だよな?自分の写真じゃないよな?――――――――てかあれ、いつのまにこいつ連絡先手に入れてたんだ?この前俺がぶっちした神前とのお茶会で本当に刹那と進展したんだな・・・。
「ありがとな林。」
「いえいえ、それよりハム先輩って家どっちなんですか?この方向なんですか?」
痛いところを突いてきた。そう、ハムの家は俺の家とは学校を挟んで反対位置にある。だからいつも、ゲー研の活動が終わった後、帰り道は俺一人しかいない。ハムがこちらについてきているのは、完全に防衛のためである。
「ちょっと国広の家に忘れ物をしてね。早急に回収しないといけないものなんだ。明日提出の課題プリントでね、まだやり終えてないから非常にまずいんだ。」
「あーそれは納得ですね。そしたらハム先輩は静乃先輩をおうちに送り届けてから国広先輩の家に向かう感じですかね?」
林はハムの隣に並んで質問をし続けていた。4人で帰ると、やっぱ2-2で歩いて帰ることになっちゃうよなあ。俺と静乃が前を歩き、その後ろに2人がならぶ。必然的に、俺は静乃とガッツリ話すこととなる。
「静乃、街に行ってみてどうだった?」
「いやーほんとにおもしろかった!ラウンドワンができてたなんて知らなかったよ。」
「たしかに俺らが小学生のことはなかった気がするなあ。もっとも、街に遊びに行くなんてこと自体あんまりなかったから、知らなかっただけかもしれないけど。」
「それはあるかもね。みんな遊ぶと言ったら公園とか、友達の家とかでしょ?地下鉄乗って街に出るなんて、小学生はあんまりしないよねえ。」
「だよなあ。」
ははは、と笑いながら路地を歩いていった。
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伸びる影がやがてなくなりつつあることにふと気づいた。そういや、小学生の頃にちいちゃんのかげおくりを国語の時間にやったなあ。静乃と話していると、嫌でも小学生の頃を思い出されるなあと思っていた時、気づいてしまった。伸びる影の数は4つあるのに、全く声が聞こえない。ふと後ろを振り返ると、気が付いたら、ハムと林がいなくなっていた。
「え?なんであいつらいないんだ?」
「そういえば、確かに気が付いたらいなくなってたねー。」
なぜ?そんな話は聞いていない。いったい何が・・・
俺はスマホを取り出した。その時、画面にはLINEのポップアップが表示されており――――――――
武士道
[不在着信] 3分前
武士道
[いますぐひとどおりのおおいところに] 2分前
え?
そしてハッと静乃の方を見た時、
「遼!?いったい————————」
「お前はこっちだ!」
何もない空間から男の声が聞こえてきた。影は4つあるのに、そこには俺と静乃しか見えない。――――――――そうか、これは怜の家であいつが使っていた透明ジャケット――――――――
「助けてっ誰か!」
「クソっなんだよこれ」
静乃は見えない何者かに引っ張られていった。向かう先には1台のハイエースが止まっていた。
「は、早くするんだな・・・。」
「わかってますってば。おいこら女ァ!暴れんじゃねえ!」
そうして何もない空間から、スタンガンが現れた。そうか、透明になるのはあくまでもジャケットの内側だけ――――――
「おいやめろ!!!!!」
俺の声むなしく、スタンガンは静乃に接触。静乃は気を失ってしまった。俺は何もできない。どれだけ暴れてもうんともすんともしない。巨体に押しつぶされているようだ。
もう1人の男は静乃をハイエースの後ろの後部座席に放り込んだ後、後部座席に乗り込んだ。
「よ、よし・・・じゃあ俺も・・・」
巨体の男は思い切り俺を踏みつけた。俺はあまりの衝撃にその場に数秒うずくまってしまった。立ち上がったころには、もう巨体の男は運転席に乗り込んでしまった。
まずい。このまま行かせたら、取り返しのつかないことになる。早く、早く何とかしないと―――――――――