~ハムside~
私の前では国広と萩原が仲睦まじく談笑を続けている。本当に、以前の萩原とは人が違う。こんな風に彼女は、笑うことができたのだな。いったいどんな凄惨な過去があれば、あのような風体に・・・。
そしてふと、足元に目を向けたところ、右手の路地から2つの影が伸びていた。微動だにしていないので、立ち話でもしているのだろうと思いながらその横を通り過ぎた。しかしながら、ある違和感を覚えた。思わず立ち止まって影の伸びる方向を見る。しかし、
「おとなしくするッスよ。」
後ろから口をふさがれ、ガッツリ拘束された。
「は、林・・・・・・」
どうして林がこんな真似を・・・。少なくとも、こんなことするやつではなかったはずだ・・・。
「おいお前ら、さっさとやれ!長くはもたない!」
林が大声を上げると、2つの影の形が変わった。そうして――――――――
「さすがにこれでおとなしくなるでしょ。」
身体に電流が走り、そのままその場に倒れこんでしまった。ただ、調整が甘かったのか、まだ意識が残っている。しびれているが、指先くらいなら動かせる。国広に連絡を・・・でも電話する隙は無い・・・。そうだ、まず着信を入れてから、メッセージを送れば気づいてくれるはずだ。私はうずくまりながら、ポケットからスマホを取り出し、急いで指を動かした。
「いやほんと、先輩が
「立ち話はいい。お前の役目は終わりだ。あとは合流地点に行け。」
「了解っス。いやーあの静乃先輩を好き放題できるなんて、たまらないっすわ。」
すると、2つの影が国広たちの方向に向かっていくのが見えた。
・・・!やはりこいつらが・・・。糞が!結果的に囮捜査になってしまっていたのか・・・。ただ問題なのは、林の謀反と、敵が見えないことだ。
私はスマホをのぞき、メッセージを送ることに成功していることに気づいた。よし、しびれも取れてきたし、あとは私も頃合いをみて――――――――
「ハム先輩、今スマホでなにしたんスか?」
糞、気づかれたか。
「な、何もしていない・・・」
「とぼけないで下さいよっと。」
林はそうして私のことを蹴り上げる。思わず、握っていたスマホを離してしまった。
「どれどれ・・・って、今時パスワード認証っスか。しかも結構めんどくさいタイプの・・・どうして指紋認証にしてないんスか。」
私は用心深いのでね。そして、お前がスマホに熱中している今がチャンスだ!
地面に這いつくばっていた私は、そのまま手を地面につけ、回し蹴りをあいつの膝にぶち当てた。いわゆる膝カックンの形をとったため、林は思わず手を地につける。
「ケンカを売る相手を間違えたな!」
一瞬の隙をつき、私はそのまま膝蹴りを当てる。怯んだその瞬間にやつを無理やり立たせて、掌底を奴の顎に下からぶち当てる。その衝撃で後ろに林がのけぞったが、その先に電柱があったため、勢いよく後頭部をぶつけた。そうして奴は、そのまま気を失った。
「中学の頃はよくケンカもした。少年に好かれるために筋トレを続けてきたんだ。そんな私が、負けるわけないだろう。」
私はそう吐き捨てたあと、動かなくなった林を邪魔にならない位置にずらした後、急いで元の道に戻ると、もう国広たちは見えなくなっていた。襲われる前からそこそこの距離があったとはいえ、こんなことになるなんて・・・。
「・・・!そうだ、合流とか言っていたな。その場所はどこだ?」
私は林のもとに駆け寄り、スマホを回収した。パスワードはかかっていたが、これは指紋認証。そして、目の前には意識の無い林がいる。ならば、開錠自体は容易い。
私は奴の指をスマホのホームボタンに接触させ、スマホの画面を付けた。そうして、奴のLINEを確認したところ、トップには3人のグループトーク履歴があった。
8/27
Deer
[決行は今日にしましょう。彼女と会うことになりました。メンツは私と国広遼、萩原静乃に、ハムって男の人です。ハムさえ何とかすれば、状況次第では持っていけると思います。] 14:00
チー牛
[俺は問題ない。ルナさんにきいてみる。] 14:01
チー牛
[ルナさんからの許可が下りた。あのハイエースを使って決行するんで、キモタク先輩は学校終わったらちょっと準備お願いします。] 14:15
デブ
[了解] 14:20
Deer
[てかいい加減ルナさんって人教えてくださいよ。俺は
チー牛
[ルナさんはお忙しいんだ。ヤらせてもらえるだけありがたく思え。] 14:31
Deer
[まあそうなんですけど・・・] 14:35
チー牛
[ルナさんが2丁目の廃工場の前で集合せよとのことです。そこで全員集合ということで。] 14:50
デブ
[了解。] 15:00
―グループ通話が開始されました― 16:30
―グループ通話が終了されました― 16:42
Deer
[18:30位に例の路地を通過するので、そこで待機をお願いします。俺が動き始めたら決行です。] 17:45
チー牛
[了解] 17:46
デブ
[了解] 17:47
このスマホは重要な証拠だ!絶対に切ってはいけない。
私は設定でスリープをオフにし、ポケットにしまった。
奴らはあの廃工場に向かう。そこで待ち伏せするのは意味がない。それまでに萩原がやられたら終わりだ。だとすれば、早急にやつらのハイエースを特定して止めなければ!
私はスマホで情報を確認しながらハイエースを探しに、細い路地裏に入って急いで駆け抜けた。