安全が担保されたので、俺は静乃の拘束を解きに車に戻った。自分で軽く縛ったのだから、ほどくのは容易かった。
「やっと終わったのね。」
「ああ。みたいだな。」
静乃は車から出ると、身なりを整えて真っすぐと神前を見た。俺はその間にあいつのもとに駆け寄り、あいつの手から零れ落ちたチケットを拾い上げた。3人の男の名前が書かれている。やっぱりこれは、告白券だ。
「キド・・・いったいどうして・・・」
声の聞こえたほうに目を向けると、会長はただただ悲しく、神前を見つめていることがわかった。言葉に出したことで感情が抑えきれなくなってきたのか、何かを言いかけては口を紡ぎ、といったことを繰り返している。普段メリハリのある感情を表さない会長とは打って変わっている。そうして、我慢できなくなった瞬間————————その会長に静乃は割って入り、腕組みをしながら神前に投げかけた。
「こいつらつかってぼくをレイプしようとしてさ、アンタ何が目的なの?」
神前はその問いかけに対し、なかなか口を開こうとしなかった。けれど、それをだれも咎めようともしなかった。静乃に割って入られたことで落ち着いたのか、会長も、黙って彼を見ていた。
「—————————あなたが誰かに取られてしまうくらいなら、自分のものにならないなら、壊してしまえって思っただけですよ。」
「—————————そっか。」
正直、その発言がどこまで信じられるのか、噓にまみれていそうに思える。ただ、今月に入っての神前の動きを見ていた身としては、あながち間違いではないのではないか、そう思ってもしまう。ただ、それを許せるかどうかというのは別問題だ。ただ――――――
「そんなにぼくのことが好きなのに、どうして告白しなかったの?」
「それは――――――」
「アンタから黒い感情は、今まで感じなかったけどね。」
神前の言葉をさえぎって、静乃はそうつぶやいた。神前と相対する形で静乃が立っているから、静乃の顔がよく見える。その顔は、自分を強姦教唆させようとした奴への怒りではなかった。どうしてこんなに軟らかい表情をしているのだろうか。場違いなのは承知だが、その表情に、瞳に見とれてしまった。当の本人がこんな安らかな顔をしているのに、横槍を入れることはできそうになかった。
「————————まあいいよ、理由について話さなくても。もう二度とこんな馬鹿な真似しない。そのマインドコントロールとやらも二度と行わない。物騒なものは全部怜のもとで管理する。それを約束してくれるなら、この話は終わりにしていい。どうかな?」
「————————いやでも・・・」
「アンタ、ぼくのことが好きなんでしょ?約束してくれないと、アンタのこと、嫌いなままだよ?」
静乃はニヤニヤしながら神前に言葉を投げかけた。俺はわかる。これは明らかにからかっている。言質を取らせようとしているんだ。怜による徹底的な管理をすることで、二度と脅威が起こらないように・・・
「・・・わかった。」
「うん、よろしい。———————みんなも、この話はこれで終わり。さ、解散しよう。」
当の本人が、こういっているのだから、我々はこれ以上何も言えなかった。
「————————はやくその手、直してね。ドラム君。」
「————————っ!」
最後に、静乃が彼を愛称で呼ぶと、彼はその場に崩れ落ち、すすり泣き始めた。そこで俺は気づいた。本当にレイプ教唆をもくろんでいたのなら、静乃の言葉で泣くだろうか。静乃のことが本当に好きで、だからこそこんな手段はとりたくなくて・・・だからこそ、嫌われたくない静乃から救いの言葉を投げかけてくれたのなら、感極まってしまうのも頷ける。壊れてしまえなんてヤンデレ的なセリフは恐らく嘘が入っていて、本当のことは言えないから、けれど言葉に納得性を持たせるために、あんなことをいったのではないか。
「…ただ、けじめはつけさせてほしい。ここにいる男共も、数えきれない罪を犯した。現代の法でも、裁かれるよ。」
「…そっか。————————怜、こいつらの処置は任せていい?聞かれたくない話もあるでしょ。」
「承知したわ。」
怜は眉一つ動かさず、そう答えた。
そして、俺らは廃工場を後にする。これで、静乃の身の回りに起こった非日常イベントは、幕を閉じたのだった。