タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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4-6-2 病は気から

小学校6年生の秋、紅葉のきれいなころだった。特に代わり映えのない帰り道。ピアノのレッスンからの帰りのことだった。

 

 

 「ねえ、ちょっといいかな?」

 

 

とんでもないイケメンが、ぼくに声をかけてきた。高身長で身なりも清潔。笑顔がとても素敵だった。好みがそういう女性受け最強に良い男ってわけではない。色恋に興味がないわけではないけど、すぐにもイチャイチャやりたいわけでもない。そんな自分がそう思ってしまったっていうのは、一目ぼれとかではなくて、思えばこの時点で洗脳にかかっていたんだろう。

 

 

 「このあたりの地理に詳しくなくてね・・・。よければ”ぼく”にこの町のこと教えてくれないかな?」

 

 

そう言って彼は手を差し出した。ぼくはその手を何の疑いも持たず手を取る。知らない人についていってはいけないと、親からも学校からも言われていたはずなのに・・・。

そうして連れていかれた先はハイエース。彼と一緒にハイエースの後部座席に乗り込んだ瞬間、取っていた手をさらりと後ろに回され、知らず知らずのうちに手を縛られてしまった。さすがに事のやばさを自覚して周りを見渡すと、運転席から太った気持ち悪い男がカメラこちらに向けていたのがわかった。当然足をばたつかせて逃げ出そうとしたが、その抵抗はその男を喜ばせるだけだったようだ。

 

 

 「いいねえ!取れ高最高だお!抵抗してるほうが生々しくて抜けるんだよなあ!」

 「ごめんね、一瞬で終わるからね・・・。」

 

 

彼は暴れる足を無理やり開いた。そうして彼がレギンスのチャックを下げ、アレを露出させた瞬間、一気に彼への嫌悪感が渦巻き、頭が痛くなって、そこからはもう、何も覚えていない。意識を失ってしまった。

気が付くと、ぼくは近くの公園のベンチに座っていた。あたりはすっかり暗くなっていた。ぼくの横には通学カバンがあった。もう帰らないとって思いから立ち上がった瞬間、下腹部に強烈な痛みを覚え、またベンチに座りなおしてしまった。様子を見ると、スカートが汚れていた。よくわからない色、血の色、それがちょうど股間のあたりに―――――――。瞬間、意識を失う前のことを思いだした。同時に、友達同士が話していた、セックスのことも。初めてするときは、すごく痛くて、血が出るって話を聞いていた。その状況と、いまの自分の状況が完全に一致していたから・・・。

たどたどしい足で家に着くと、母が心配した顔で出迎えてくれた。そして、ぼくの姿を見るなり、動きが止まった。無理もないだろう。ただでさえ帰りが遅かったうえに、見てくれが完全に誰かに襲われた後であることがわかるから。母はぼくに駆け寄って「何があったの!?」と声をかけた。ぼくは、どこか他人事のように、母のことを見ていた。だって、最中のことは何にも覚えてないのだから。

 

 

そこからは酷かった。警察に相談しても犯人は見つからなかった。内容が内容なだけに、レイプされたことは誰にも言わなかった。学校にはひどい体調不良だって話をしてごまかした。そんなぼくを友達は心配してよく話しかけてくれた。それ自体はうれしかった。でも、いざ平常に戻ると、話題に上がるのは色恋ばかり。ぼくとしては、そんな幻想とかけ離れた現実を体験してきたから、恋愛や、ましてやセックスに関する話なんて聞きたくもなかった。だから、そんな話を振られるたびに席を立ち、吐き気を我慢しながらトイレに向かった。そんなことを繰り返してばかりいると、友達たちも察したのか、そんな話を振らなくなった。そうすると必然的に、関わる頻度がガッツリ減った。冬になり、彼女らが中学生への期待で生き生きするのと反比例して、ぼくはどんどん陰鬱になっていた。発作のように催す吐き気、授業中であろうがお構いなく席を立ち、トイレに向かう。保健室に一日いたこともある。教室に戻ると、何食わぬ顔して楽しむ女同級生。どうしてこんなにぼくは苦しんでいるのに、こいつらは幸せそうにしてるんだ?なんて逆恨みを、いつしかしていた。そんなぼくの思いは、あからさますぎたのか、同級生たちも察して、気が付いたらぼくは教室内の腫物だ。唯一ぼくに話しかけていたのは、オタクになってしまい、3次元の女にさほど興味のない遼だけ。その人の背景を無視して話してくれていたから、かなり楽だった。どんどんふさぎ込むように暗くなったまま、小学校生活を終えた。

 

 

中学に上がっても、小学の同級生はいるから、ぼくに対する認知はあっという間に広がった。別の小学校にいた人は誰もぼくに関わろうとしない。入学して1か月も立てば、スクールカースト最底辺だ。ぼっちのできあがり。遼が同じクラスで、たまに話していたから、厳密にいえばボッチではないが・・・ぼくはそれでもかまわなかった―――――――そう強がっていた。中2に上がってクラス替えで遼と離れ、真の意味で誰ともかかわらなくなったとき、小学校の時のように何度も吐き気を催すようになり、たびたび席を立つようになった。今思えば、遼と話すことがストレス発散になっていたところもあったんだろう。それができなくなってから、たまった鬱憤を晴らすことができなくなっていたのだ。席を立った時にぼくに付き添ってくれていたが刹那だった。学級委員という立場なのと、彼女の正義感がぼくをほっとけなかったんだろう。席を立つたび、どれだけ拒絶しても、必ずついてきた。勝手に話しかけもしてきた。根負けして、彼女を受け入れ話はするようになった。もっとも、普段話しかけられるのは面倒なので机に突っ伏し、寝たふりをしてやり過ごしていた。普段はなさないからこそ、鬱憤解消の手段にはならず、苦しみ続けることに変わりはなかった。何をどうしたらいいのかわからない。ぼくはやけくそになって、父の吸っていたタバコをせびった。父も、ぼくのやつれ具合を見て、同情したのか、「これだけだぞ。」といって渡してきた。結果だけ見ればひどい親だ。だけど過程を見た時に、どれほどの人が父を責めることができようか。もらったタバコでむせつつも吸い続けると、不思議と鬱憤は消えていった。ニコチンで中和されたのかな。それ以来、父の目を盗んでタバコを吸う不良となった。ただ、それは常用できる手段じゃない。鬱憤を晴らす代替手段が必要だった。そんな中、期末試験が近いため、保健体育のテスト勉強をしていた時、ふと男女の性のページに目が留まった。その手の話題から避け続けてきたけど、嫌でもテストでふれざるを得なくなり、仕方なく教科書を読む。自分のこの秘部に入れられたんだよなって思い、手を伸ばした。そして陰核に触れた瞬間、電撃が走った。オナニーなんて汚らわしくてしてこなかった。だからこそ、この初めての感覚に夢中になり、手が止まらなかった。ショーツがぐしょぐしょになるのも気にせず、夢中で手を動かした。そうしてイった後、不思議と不快感は晴れていた。体にたまるあらゆる不快感を、当時のトラウマと結び付けていたせいで鬱憤が溜まっていたと思い込んでいただけであり、不快感をジャンル分け・・・性欲や食欲などに分類して個別対処すれば、吐き気もなくなるんじゃないかって思った瞬間だった。そしてすぐパソコンで自慰行為について調べた。すると、陰核を刺激するだけでなく、膣内を刺激するのもあるらしい。ただ、処女膜がある場合は避けたほうがいいとも書いていた。その文字を見た瞬間、ぼくは迷わず手を伸ばした。どうせレイプされていたんだから関係ないやって。初めてオナニーをした日に、初めて膣内を刺激するエグ目のやつをやってしまった。気が付いたら1時間経っていた。ぼくは汚れた服と体を清めに脱衣所に向かった。鏡に映る自分の姿をまじまじと見て思った。比較的伸長も高い。座高は低いほうで足も長い。同年代と比べ大きな乳房で、出るところと引っ込むところははっきりしており、スタイルはいいと思う。ただ、繰り返しゲロを吐くことで痩せてあばらが浮き出ている。眼の下のクマが酷く、覇気のない瞳だ。あんなことがなければ、今頃自分は楽しい中学校生活を送れたんだろう。友達と遊び、彼氏も作り・・・。そんな未来をへし折ったあいつらは本当に糞だ。でも、起こってしまった災厄はもう変えられない。それならば、被害者面してぐちぐち現状を疎み、結果体調を崩して別の苦しみを感じている今の現状は自分の問題だ。それならば――――――――どうせ自分は汚れているんだから、もういっそのこと汚れきってやろう。あいつらがレイプしたことは最悪だけど、そのおかげでガッツリ気持ちよくなれるんだからいいやって思った。その時から、レイプされたことをどこか他人事のように捉え、悲劇のヒロインぶって他人とのかかわりを拒絶していた自分から決別しようと思った。人生をめちゃくちゃにされたんだ。忘れてたまるか。けど、その後も長々と苦しめられてたまるか。意地でも解放されてやるってね。

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