じーさん「えっ!?読むの!?」
『…以上、現場からの中継でした。繰り返しお伝えします。本日は全国的に風が強く、各地で暴風波浪警報が発令されています。沿岸部にお住まいの方は高波に、また内陸部の方は竜巻などに十分ご注意下さい』
それは風の強い、ある日曜日の出来事であった。
「うへぇ竜巻かぁ。おっかねーなー…」
強風でガタガタと窓が音をたてるリビングで、ニュース番組にしかめっ面を向ける少年。
ツンツン頭で白いジャケットを着込み、顔立ちはまだまだあどけない小学五年生。名を洋助という。
「このままだと、明日は学校休みかもなぁ。とりあえず、今日みたいな日は外に出ないで大人しくしてるのが一番だよな!」
人は、台風や大雨大雪など、異常気象に見舞われた時、妙にテンションが上がることがある不謹慎な生き物である。
洋助少年もまた例外ではないのだが、
「さーてなにして遊ぼっかなー♪ひとまずゲームでも…」
「オーイまごー!」
世の中には、例外を通り越した
ガラッ
「外に遊びにいこうぜぇーっ!☆」
「(言ってるそばからでたよ…)」ズビーン
ここまでのログをいっそ清々しいほどに無視した発言と共に、襖を開け放ち現れたのは、1人の老人。
白いランニングシャツに茶色いハラマキといういかにもな出で立ち。手抜きなのかディフォルメなのか知らないが、ともかくつるんとした両手足。
胴体よりも頭が大きいドラ◯もん的なシルエット。照明を反射する光沢にまたがるすだれ状の髪がちょっと切ない。
そして何より特徴的なのは、スイカ大の顔面で異様な存在感を放ちまくる、「ヒゲ」。
…そう、もうおわかりいただけただろう。
「ワシはでんぢゃらすじーさん!世の中のあらゆる危険から安全に生き抜く方法を教えるプロじゃーーーっ!」どどーん!
「(誰に向かって話してんだ…?)」
画面の向こう側と交流を果たすのは、まだまだ先のようだ。
「っていうかなに言ってんだよおじいちゃん!外は竜巻が起こるかもしれないって言われるぐらい風強いんだよ!?」
「まごよ、昔から言うじゃろう、子供は風の子だと」
「それがなんだよ」
話が見えない、と半眼を向けられるじーさんだが、意に介した様子もなくこう続けた。
「子供は風の子…つまり、風は全ての子供達の親!すなわち!
大風の吹きすさぶ今日というこの日こそ!思う存分風に飛び付いて甘えて遊んでもらうのじゃーーーー!!」どばーん!
「手荒く吹っ飛ばされるわーーーい!!」
危険を避けるどころか、自らスキップ気分でGo to hellするような所業である。
…ところで、どういうわけかこの少年、本名で呼ばれることがほとんどない。[まご]と呼ばれることがほとんど…むしろそうとしか呼ばれないのである。
だが当人はさして気にした様子もなく、諦めたのか慣れてしまったのか、その心中は不明である。
「というワケで今回は、風の強い日にお外で安全に遊ぶ方法を、ビビっと教えてやるぜーーっ!」
「(まーた面倒なことに…)」
顔に暗い影を作るまごであったが、じーさんはこれまた気にした様子もなくにょろにょろと小躍りしている。
「さて、とりあえず何をして遊ぶかじゃが、せっかくイイ風が吹いていることじゃし、それを生かしたイカした遊びをしなイカ?」
「(よくわかんねーけど最後のアブなーーい!!)」イカむすーん
まぁ原作では[少年ジャ◯プ]の名前が出かかったことすらあるので、きっと大丈夫じゃなイカ?
「そこで、今日はこんなものを用意してみたんじゃ」
そう言ってじーさんは襖の陰に両手を突っ込み、大きな段ボール箱を取り出した。ドスン、と畳の上に茶色い紙製の箱が鎮座する。
「これって…」
箱の上には大きく「凧」と達筆な一文字。
「そのとーり……凧揚げじゃーーっ!」
「ムリに決まってるだろーっ!?」
得意気に告げるじーさんだったが、そんな馬鹿祖父にまごは速攻でNGを喰らわせる。
「こんな日に凧なんか飛ばしたって、竜巻に巻き込まれてバラバラのめちゃくちゃになるだけだよ!!」
「このバカチーン!!」バキッ
「ぬはーん!?」
まごは至極全うな意見を言っているだけなのだが、そんな理屈が通じるでんぢゃらすじーさんではない。
唐突に頬へパンチを打ち込まれ、床に倒れ込んでしまう。理不尽極まりない。
「なんで殴られたんだオレは…」
「まごよ!家の中で大人しくしてれば竜巻を凌げると思ったら大間違いじゃ!
竜巻を甘く見るなよ……。竜巻が起こると時空が裂けて神隠しにあうって、むかしともだちのとしひこくんが言ってた☆ミ」
「(としひこくんウソつきすぎーーっ!!)」ドビーン
それが本当なら、ハリケーン大国であるアメリカは行方不明者続出で恐ろしいことになっているだろう。下手するとゴーストタウンだらけになるやも。
「安心しろ、ちょっとやそっとじゃ壊れない丈夫な凧を準備するからの」
「丈夫な凧って、いったいそんなの
しゅばっ
どうや、って…」
言い切る前に、違和感を覚えたまごは自分の身体を見下ろす。
手足は開かれ、長方形の人間大はある木の枠のような物に紐でくくりつけられている。
枠の内側には細かい骨組みが張り巡らされ、全体に隙間なく貼り付けられているのは大きな紙。
それはまるで、漫画などで見る忍者が風を受けて空を飛ぶ時のようだ。
つまりは、
「凧オレーーーーーーーーーーッッ!?!?」ガビビーン
「よーしそれじゃいくぞー!」
「まてまてまてまてまてまてーーーッ!!」
戦慄するまごを尻目に、さっさと外へ出ようとするじーさんに、まごは必死で食らいつく。
このままうっかり実行されたが最後、自分の命は木っ端の如くFly awayしてしまうだろう。
「心配無用じゃ!これまたちょっとやそっとじゃ切れないよう荒縄だって用意してある!チクチクするぜ!」
「もはや凧揚げじゃねーだろクソジジィ!!」
「なんじゃとーっ!?」
とうとうブチ切れたまごから暴言が飛び出し、じーさんと一緒になってヒートアップしていく。
「うるせーバーカ!」「カピバラと結婚しろオマエは!」などと低レベルな罵り合い(?)に発展し、ついに手が出るかというところまで来て…
ソイツがやってきた。
ガシャーン!!
「わーーーーっ!?」
窓ガラスを突き破って。
「いったい何が…って」
窓からダイナミックに乱入してきたのは、2人にとってよーく見覚えのある人物。
ガラスの破片が突き刺さり流血する頭は鉛筆のようにとんがり、先がくるんと丸まった一本毛が生えている。
スーツ姿にネクタイを締め、両頬からも同じようにカールしたどじょう髭を生やす二頭身の男。
「「校長!?」」
校長。まごの通う小学校の校長先生であり、自分が一番エラくないとすまない男である。
「しっかりするんじゃ校長!何があったんじゃ!?」
「う…ここは…?じーさん…?」
衝撃で一瞬気を失った校長だったが、じーさんの呼びかけでどうにか意識を取り戻した。
が、既に息は絶え絶えで死に体だ。
「どうして窓から…?」
「それは…コイツじゃい…」
まごの問いかけに、手に持つそれをプルプル震えつつ掲げる校長。
「旗?」
人の顔ほどの大きさの旗であった。
校長の顔(あきらかに盛って描かれたイケメンフェイス)がプリントされており、根元はへし折れたのかささくれた断面を晒している。
「始まりは昨日のことじゃい…。放課後、校長室の机にこのカッチョいいワガハイの旗が置いてあったのじゃい…」
「(自分で言うなよ…)」
「ワガハイはさっそく、学校の時計の上にこの旗を飾ったのじゃい…。しかし今日になって…」
ーーー【回想ざます】ーーー
「ぐっ、マズイのじゃい。このままでは、カッチョいいワガハイのちょーカッチョいいエラさを表したハイパーカッチョいい旗が風でカッチョ悪く吹き飛んでしまうんじゃい!」カチョーン
ゴオォォォォ
「すっ、凄まじい風じゃい!早くしないと…」
ミシッ…ミシッ
「旗が!ぬおおおぉぉ!!」
…ボキッ!
「させるかぁーーーッ!!」
パシッ
「ぃよっしゃー!とったのじゃーーい!!」
…フワッ
「…へ?」
ビュオオオオオオ!
「あーーーーれーーーー………」
ーーーーーーー
「というわけなのじゃい…ゴフッ」
「(バカ野郎だーーっ)」どがび〜ん
自己権力誇示のためならば、他の何もかも知ったこっちゃないのがこの男である。
その情熱だけは、ある意味評価されるべきなのかもしれない。情熱だけは。
しかし、忘れないでほしい。
今現在、この家の外は警報が出るほどの強風が吹き荒れており、突然の突入者により窓は全壊して全開の状態なのだ。
そして、まごは未だ人間凧の格好のまま…
「…うわっ!?」
ゴオォォォォォォォ!!
「うわああぁぁーーーー!?」
「まごーーーーッ!!」
吹き込んできた風にすくわれ、まごは窓の外へと飛び出していってしまう。
「やらせんッ!」
「お、おじいちゃん!」
間一髪、じーさんはくくりつけられていた縄を掴むことに成功する。
しかし、まごの身体は暴風に煽られ宙を暴れ回り、いまにも飛んで行ってしまいそうだった。
「おじいちゃん助けてーーーっ!!」
「安心しろまごよ!まごのこの命綱、絶対に離さん!ワシの命にかけても、まごは絶対に離さんッ!!」
「おじいちゃん…!」
「ぬっ、ぐぅ………っ!?」
「え…」
力の限り踏ん張るじーさんだが、突如その目が驚愕を浮かべる。
反射的に背後を振り返ったまごの目に、風で破れた凧の穴ごしに写ったのは、
紫電を帯びた、灰色の巨大な渦であった。
「竜巻だーーーーーっ!?」
「バカな!?日本であんな大きな竜巻が起こるワケがない!」
破天荒で知られるじーさんだが、一般常識ぐらい当然知っている。
平地の多い北米ならいざ知らず、起伏に富んだ地形の島国日本で、あんな「町を丸ごと飲み込むような竜巻」など、起こる筈がないのだ。
瞬間、
「しまっ…」
一瞬の驚愕。そのスキを突かれ、ついにじーさんはまごと共に外へと引きずり出されてしまう。
「わあぁぁーーーっ!!」
「まごーーーーーっ!!」
宙でもみくちゃにされつつ、竜巻へ一直線に吸い込まれて行く2人。
そしてじーさんの目に、更なる「異常」が飛び込んできた。
ーーージジジジジジジ…
「(なんじゃ!?空間が歪んで…)」
ジジジジジジジジジジジジジジ!!
「おじいちゃーーーーーん!!」
「まごーーーーーーーー!!」
異常の渦に飲み込まれ、2人は意識を手放したのだった……。
……いちゃん………じい……ん…
「う…?」
おじいちゃんっ!
「…はっ!?」
自分を呼ぶ声が聞こえ、じーさんは目を覚ます。
目の前には、心配げに自分を見下ろす可愛いまごの顔があった。
「まご…?」
「よかった、目が覚めたんだねおじいちゃん」
「ワシは、確か竜巻に吞まれて……」
半身を起こし、自分が随分と寝心地の悪い、硬い所に寝かされているのにじーさんは気付く。
「ここは…?」
辺りを見回し、頭が覚醒していくにつれて、じーさんの中で違和感がどんどんと膨れ上がっていく。
全面灰色の、石造りで武骨な壁、床、天井。
自分が寝ていたのは、ベッドと言うにはあまりにおこがましい粗末な台。
そして最も目を引くのが、背後から僅かに光を取り入れる小さな穴と、正面に見える通路と自分たちを隔てるように嵌め込まれた鉄格子。
それはもう、みまごうことなき…
「牢屋?」
「そうなんだよ、オレもついさっき起きて、そしたらこんな牢屋の中にいて、もうなにがなんだか…」
「うーむ…」
わけがわからない、と首を振るまごの言葉を聞きながら、じーさんは考える。
自分たちは確かに自宅に、住み慣れた町にいた。
竜巻によって吹き飛ばされ、病院や路上、或いは山の中で倒れていることはあるにしても、牢屋にいることにはどうやっても繋がらない。
心当たりがあるとすれば、最後目にした、あの歪み。
「(アレが原因でワシらはこんなところに?それではまるで…)」
カツ、カツ、カツ…
その時だ。石の床を無機質に鳴らす、靴の音が聞こえてきた。
「お、おじいちゃん!誰か来るよ!?」
「シッ!まごよ、どんなヤツがくるかわからん。ひとまず落ち着くのじゃ!」
「う、うん!」
徐々に近付いてくる足音に耳を傾けていると、それが二重であることに気付く。どうやら、向かってきているのは二人らしかった。
そうして、音の主達が姿を表した。
「声がすると思えばやはり起きていたか。おはよう、お目覚めの気分はどうだ?」
「………」
挑発的にも取れる物言いでまず口を開いたのは、黒い長髪を後ろで束ねた女性。
切れ長の目に、赤い口紅で彩られ存在感を示す唇。
その口元は微笑を浮かべると共に、火のついた煙草を軽くくわえている。
白に黒を走らせたような服を身につけ、さらに内側の赤い白のロングコートを羽織っている。
一方、もう一人の女性は緑色という珍しい色合いの髪にちょこんと帽子をのせ、目元には細いフレームの眼鏡を装着している。
ただ、微笑を浮かべる黒髪の女性とはうってかわって、こちらの女性はじーさん達をまるで信じられない物を見るような、更にいえば未知の存在に向けるような目をしており、瞳には困惑の色がありありと見えた。
「…オマエ達は何者じゃ。ワシとワシの可愛いまごをこんなところに押し込んで、いったい何が目的なんじゃ」
「ほう。もしかしたら言葉すら通じないのではないかと心配してたんだがな、どうやら杞憂だったらしい。まあ、その方がこちらも手間が省けて助かると言うものだ」
じーさんが問いかけるも女性は無視。くつくつと笑いながら、コートで隠れていた右手を、くわえている煙草へと伸ばす。
それを目にし、じーさんとまごは息を飲んだ。
「この女の人、右手が…!」
思わず呟くまごに意を介さず、女性は煙草を口から離し紫煙を吹き出す。
手慣れた手つきで煙草を持つその右手は、鋼鉄のソレへと化していた。
「質問に答えてやろう。私はジル、ここの司令を勤めている。隣は監察官のエマ・ブロンソン殿だ。
対ドラゴン用前線軍事施設、アルゼナルへようこそ、
これは、世の中の危険と戦う一人の老人と
苛酷な運命に抗う、不屈の姫君の
二つの世界の命運をかけた、壮絶な戦いの物語である
〈絶体絶命でんぢゃらすじーさん〉
〈クロスアンジュ 天使と竜の輪舞〉
〈でんぢゃらすじーさん邪〉
《絶体絶命クロスアンジュ邪っ!》
いま、数奇な縁が物語を紡ぎ出す---
と、まぁそんな感じで第1話いかがだったでしょうか。
主人公片方出てねぇじゃねぇか!!(サーセン
…実は次回も出番はない予定だったりします(ふるえ声
アルゼナルに漂流し、いきなり牢屋にぶちこまれてしまったじーさんとまご。
不適に笑うジルにじーさんは…
そして、そう言えばアイツはどこにいったのか。
次回にご期待下さい
…ジルが輝くのは、今回と次回を最後に当分ないかもしれない。