正義の闇医者さやか   作:ナマケ

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さやかちゃんの次回作にご期待下さい。


第1話 さやか凶弾に倒れる

あたしは今、夢を見ている。多分切なくて、辛くて、救いようのない、そんな夢を

 

 

『……は僕を……』

 

『……ですか』

 

やめて

 

 

『人魚姫は朝日に溶けて、泡にかわってしまったのでした』

 

やめて

 

 

『独りぼっちは、寂しいもんな……いいよ、一緒に居てやるよ』

 

『さやか』

 

 

あなたは、だあれ

 

手を伸ばす

 

届かない。

 

どうして?

 

届かない。

 

 

届いてよ

 

 

『……だって……だよ』

 

 

ま…どか?

 

 

 

意識が水の底からゆっくりと浮かび上がっていくような感覚がする。

 

 

目覚めたら、きっとこの夢も忘れてしまうのだろう

 

 

辛くて、苦しくて、まるで心が砕けてしまうかのような夢だったけれど

 

忘れてはいけない

 

この夢は、あたしの大切な……

 

 

~~~

 

 

 

何かが耳元でがなり立てている。

 

「うぅ……ん」

 

いつもの目覚まし時計の音だ。

 

目をつぶったまま、音を止めようと右手を伸ばす。

 

カチッと音がして目覚まし時計は鳴り止んだ。

 

 

「さて、もう一眠り…っと」

 

 

枕に顔をうずめる。

 

 

 

おやすみなさい……じゃない!

 

 

ここで二度寝したら遅刻確定だ。

 

 

「ふわあぁぁ」

 

寝ぼけ眼をこすりながら上半身を起こす。

 

 

 

 

 

「着替えなきゃ」

 

 

顔を洗い、歯を磨き、パジャマから制服へと着替えを済ませる。

 

朝ご飯は目玉焼きと食パン、飲み物は牛乳。

 

 

「行ってきまーす」

 

まだ待ち合わせの時間には余裕があるから、走らなくても大丈夫か。

 

 

歩いて2人との待ち合わせ場所へ向かう。

 

 

うん、今日もいい天気だ。

 

 

いつもよりすこし早く着いた待ち合わせ場所には、既に仁美の姿があった。

 

 

「仁美、おはよー」

 

 

「あら、おはようございます、さやかさん。今日は早いんですのね」

 

 

いいじゃんか、たまには早く来たって

 

「仁美ぃ、それどういう意味よ」

 

軽く睨んでやる

 

「いつも最後にいらっしゃるさやかさんがこんなに早いなんて、今日はひょっとすると槍でも降ってくるかもしれませんので気を付けなくてはなりませんね、という意味ですわ」

 

 

「仁美、あんた実は喧嘩売ってるでしょ」

 

 

「あら、やりますの?」

 

「望むところよ」

 

互いにファイティングポーズをとり、向かいあって睨み合う。

 

道行く通行人達が何事かとこちらに注目するが、あたし達の姿を見て、またか、というように視線を逸らした。

 

 

「いくよっ!」

「ええ」

 

一瞬の間を挟み、ほぼ同時に踏み込む。

 

そして

 

「今朝もお元気そうでなによりですわ、さやかさん」

 

「そういう仁美も、ね」

 

 

両手を広げて抱き合った。

 

 

まあ、親友同士のいつものじゃれあいだ。

 

 

一番最初の頃は仁美の事を近寄り難いお嬢様だなぁと思っていたけど、付き合ってみるとなかなかジョークのわかる可愛い子だという事に気が付いた。

 

 

もちろん、直接は言わないが

 

 

「あら? さやかさん、どうかしましたか?」

 

「いや、何でもないよ」

 

 

しばらく、仁美と今日の授業について話をしていると

 

 

「さやかちゃん、仁美ちゃん!」

 

まどかが慌ててやってきた。

 

 

「まったく、遅いぞ、まどか」

 

 

「まどかさん、おはようございます」

 

 

「遅くなってごめん、2人ともおはよう」

 

あれ? 今日はいつもとリボンが違う。

 

 

「可愛いリボンだね」

 

素直にそう言うと

 

 

「そ、そうかな? 派手過ぎない?」

 

 

まどかは照れくさそうにもじもじした。

 

 

「いや、すごく似合ってる。まどかにぴったりだよ。ねぇ? 仁美」

 

 

「はい、とても素敵ですわ」

 

 

「えへへ、ありがとう」

 

 

「じゃあ、学校行こっか」

 

 

「うん」「ええ」

 

 

 

~~

 

 

3人で歩きながら、色んな話をした。

 

どうやらまどかのリボンを選んだのは、詢子さんらしい。詢子さんはまどかのママの美人さんで、バリバリのキャリアウーマンだ。

 

スーツを格好良く、ビシッと着こなす姿には痺れてしまう。

 

 

しかし、こんな可愛いリボンを付けていたら、ただでさえ男女問わずの人気を誇るまどかなんだから、いよいよ告白とかされちゃうんじゃないだろうか。

 

 

全くけしからん、まどかはあたしの嫁なんだぞ。

 

 

まどか可愛いよ、まどか

 

 

 

 

そして、仁美は相変わらず面白い子だ。天然ボケというか、思い込んだら一直線というか。

 

 

仁美にラブレターを渡してくる奴は、この子がこんな性格だって知っているのだろうか? ただの清楚なお嬢様だと思ってるなら、それは大きな間違いだぞ。

 

 

 

「やばっ、始業ベルだ」

 

「急がないと」

 

 

あたし達がじゃれあう様子を見て、何事か叫びながら物凄い勢いで走り去っていった仁美を追うように、まどかと手を繋いで走りながら、ふと思う。願わくば、こんな穏やかな時間がずっと続きますように

 

 

 

 

~~

 

 

 

「今日は皆さんに重大な話があります、心して聞くように」

 

 

始業ギリギリに教室に駆け込んだあたし達を待っていたのは、深刻な顔をした我らが早乙女先生だった。

 

 

「目玉焼きとは、堅焼きですか? 半熟ですか? はい! 中沢くん」

 

 

「ええっ!」

 

 

哀れ中沢、強く生きろ。恐らく教室中のみんながそう思ったことだろう。

 

 

「え、えっと……どっちでもいいんじゃないかと」

 

 

「その通り、どっちでもよろしい! たかが玉子の焼き加減なんかで女の魅力が決まると思ったら大間違いです。女子の皆さんは、くれぐれも、半熟じゃなきゃ食べられなーい、とか抜かすような男とは交際しないように!」

 

 

「駄目だったか」

 

 

「駄目だったんだね……」

 

 

早乙女先生は、また彼氏と上手くいかなかったらしい。

 

 

思わず、まどかと顔を合わせて苦笑してしまった。

 

 

「そして、男子の皆さんは、絶対に玉子の焼き加減にケチをつけるような大人にならないこと!」

 

 

どっちでもいいのでは? と答えた中沢が何故か重点的に睨み付けられている。

 

 

不憫でならぬ

 

 

「はい、あとそれから今日は皆さんに転校生を紹介します」

 

 

「そっちが後回しかよ!」

 

 

はっ! ついツッコんでしまった。このツッコミマイスターさやかちゃんにツッコませるとは……流石は我らが早乙女先生、ツボを心得ておりゃれる。

 

 

「さやかちゃん、そこは……おられるじゃなくて、いらっしゃるだよ」

 

流石は第2のツッコミマイスター、ロックオン・まどか、あたしの胸の内など、まるっとお見通しだ、と言わんばかりに狙いすましたツッコミを入れてくる。

 

 

 

どうでもいいな、うん。

「暁美ほむらです」

 

 

ぼんやりしていたら、いつの間にか転校生が教卓の前に立っていた。

 

とりあえず観察する。……なんだこの子、ものすごい美人さんじゃないか。

 

まどかとはベクトルの違う魅力がある気がする。

 

 

戦闘力で例えるなら、まどかがセル完全体、転校生がダーブラといった所か。

 

当然あたしはラディッツだ。

 

 

強いぞ、凄いぞ、サタデークラッシュ。その気になれば日曜日なんて簡単に消しちゃえるんだ!

 

 

「さやかちゃん、サタデーは土曜日だよ」

 

 

すかさず狙い撃たれる。

 

 

日本で暮らしてるんだから、英語なんて出来なくても困らない。以前、早乙女先生ではない英語科の先生にそう言ったら、「さやか イズ フーリッシュ」 と文字通り馬鹿にされ、しばらくの間、クラスでのあだ名が『フーリッシュさやか』になった。

 

 

あの時、仁美が「馬鹿でも愚かでも、いいじゃありませんの、それがありのままのさやかさんですわ」と慰めてくれなかったら、あたしは今も教室の隅っこで体育座りをしていたかも……あるいは、教室のカーテンの後ろに隠れたままだったかもしれない。

 

ありがとう、仁美

 

 

 

……ってちょっと待て

 

よくよく考えると、あたしすごく馬鹿にされてないか?

 

 

「さやかちゃん、ホームルーム終わったよ」

 

 

「え?」

 

 

~~

 

 

「ねぇねぇ、暁美さん、前はどこの学校だったの?」

 

 

「答える必要はないわ」

 

 

「部活とかやってた?」

 

「やってなかったわ」

 

「凄い綺麗な髪だよね、シャンプーは何を使ってるの?」

 

「あなたと同じ物よ」

 

 

「不思議な雰囲気の方ですわね、暁美さん」

 

 

「まさか、ダーブラに例えられるとは思いもしなかっただろうね」

 

「ていうか、あの転校生、さっきから辛辣過ぎじゃない?」

 

 

 

「ごめんなさい、あまりに騒がしいものだから、ちょっと気分が」

 

 

「ほらまた」

 

 

 

「え、暁美さん大丈夫?」

 

 

「保健室に行かせてもらえるかしら?」

 

 

「「「だが断る」」」

 

 

「解せぬ」

 

 

このクラスの一体感に、流石の転校生も苦笑い。悔しいでしょうねぇ。

 

 

結局、保健委員のまどかが転校生を保健室まで連れていく事になった。

 

 

帰ってきたまどかは、何故か困惑しているようだったのだが、一体何があったのだろう。

 

 

 

きっとあの転校生に辛辣な言葉を吐かれたに違いない。よくもまどかに、おのれ許さんぞほむらあけみ。

 

 

今度会ったら近くにあるもの(トマトかザクロが好ましい)を投げつけてやる。

 

 

 

そんな事を思いながら、目も眩むテリトリーである数学の授業や割と好きな体育の授業をこなしていると、あっという間に放課後がやってきた。

 

 

「仁美、まどか、帰りにマツキユ寄らない?」

 

 

まどかは放課後になっても何か考え込んでいるようだったので、話を聞くためにファーストフード店に行く事を提案した。

 

 

悩み事は口に出したらすっきりするからね。

 

 

お嬢様である仁美は今日もお稽古事があるらしいが、少しなら、大丈夫だと頷いてくれた。

 

 

 

~~

 

 

「さあ、何があったのか洗いざらいぶちまけちまいなよ、まどか」

 

 

「隠し事をすると、あなたの為になりませんわよ?」

 

 

「ええっ!?」

 

 

仁美と一緒にまどかに圧力をかける。最初は渋っていたまどかだったが、仁美がアップルパイで買収を図ると、実は……と重い口を開いた。

 

「えぇ…、なにそれ」

 

 

 

 

「訳わかんないよね」

 

 

「文武両道で才色兼備かと思いきや、実はサイコな電波さん?」

 

そこに萌えるのだろうか?  

 

 

それとも名前の通り燃えるのだろうか? ……うん、我ながらくだらない事を考えてしまった。

 

 

「さやかちゃん……」

 

「正直寒いですわ」

 

 

親友同士の以心伝心にも困ったもんだな。

 

 

「にしても、あの転校生とは本当に初対面なの?」

 

 

「うーん、常識的にはそうなんだけど」

 

常識的じゃない所で面識がある、と?

 

「まさか、夢の中で会った、とか言わないでしょうね?」

 

 

「すごいさやかちゃん、なんでわかったの?」

 

 

まさかの大当たりだったよ。

 

 

「いやー、考えてみたらあたしも今朝は変な夢を見た気がするからさ、もしかしてまどかもそうだったりしたのかなーって思ってさ」

 

 

「そうなんだよ、よく思い出せないんだけど」

 

 

「さやかさんとまどかさんもおかしな夢を見たんですの?」

 

 

「まさか、仁美も?」

 

「ええっ!?」

 

 

「その、まさかですわ」

 

 

仁美が優雅にクーのすっきり白ブドウを飲み干す。

 

 

ストローの音をまったく立てないとは、やるな。仁美

 

 

 

「さやかさんが凶弾に倒れる夢を見たんですの」

 

 

なんて縁起の悪い夢を……

 

 

「詳しく言うと、失意のどん底に落ち込んださやかさんが自暴自棄になって黒服のマフィアさんとの戦闘で倒れ、『あたしが死んでも、第2第3の美樹さやかが現れ、貴様らの前に立ちふさがるだろう』と言い残して自爆する夢を見ました」

 

 

まさかの悪役ポジションだった。

 

「マフィアさん達とドンパチ抗争をした記憶と、さやかさんの記憶が混ざり合って、きっとおかしな夢を見たのだと思いますわ」

 

 

なるほど、確かに夢は深層心理を表すものだという話を聞いた事があるような気がする。

 

 

マフィアと抗争をした時の記憶と、ノリノリでアニメの悪役の真似をするあたしを見た時の記憶が混ざれば、そんな夢を見てしまう事もあるかもしれない。

 

 

うん? マフィアとの抗争?

 

 

「仁美、マフィアとの抗争って何?」

 

 

「あら、もうこんな時間、お茶のお稽古のジカンデスワー」

 

 

スタタタ、と小走りで去っていく仁美をあたしとまどかは見送る事しか出来なかった。

 

 

というか仁美め、お嬢様の癖してあたしのポテトを最後に3本もつまんでいきやがった。

 

 

「普通は1本ずつ食べるだろ、くそっ、ブルジョワめ」

 

あたしもポテトを一度に3本まとめて食べられるくらいのお金持ちになってみたい。

 

 

「さやかちゃん、私のテラマツキユ食べる?」

 

「食べるよ」

 

 

「あぐっ、はぐっ」

 

 

まったく、仁美にも困ったもんだ。しかしマフィアとの抗争とは、志筑家も恐ろしい家なんだな。きっと仁美はクロースクォーターズコンバットとかを習得しているに違いない。……あんまり怒らせないようにしよう。

 

「あ、そうだまどか、ちょっとCD屋寄っていい?」

 

 

「いいよ。あ、また上条くんの?」

 

「まあね」

 

 

 

う、お腹が重たい。少し食べ過ぎたかな

 

 

~~

 

「ブラックジャック、やっぱ面白いわ」

 

 

うんうん、三千万です、あなたに払えますかね? のやり取りとか、あなたに助けられた時、私の方が嬉しかったって台詞とか

 

名作は何回読んでも面白いな。心にジーンと来るものがある。

 

 

「ありゃ? まどかがいない」

 

ついさっきまでそこに居た筈なんだけど。

 

 

入り口の方を窺うと、丁度自動ドアが音を立てて閉まる所だった。

 

 

ひょっとして、まどかが出て行った?

 

どうして?

 

 

 

本を棚に返し、あたしも店を飛び出した。

 

 

急がないと……何だか嫌な予感がする。

 

 

漠然とした不安感に襲われ、まどかの名前を呼びながら辺りを探し回る。

 

 

杞憂だったらいいんだけど。

 

 

「あたしの勘って、悪い方には当たるからなぁ」

 

 

早く見つけないと、大変な事になる。

 

何故だかそんな気がした。

 




初めて原作でさやかを見た時には、なんだこのキャラクター、駄目駄目じゃないか。と嫌っていたのですが、何度も見返しているうちに不器用ながらも頑張る姿に惹かれていき、いつしか駄目な子ほど可愛いの理に導かれてファンになりました。


拙い文章ですが、応援いただければ幸いです。
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