チートを持って転生したけど、同僚馬鹿ップルが面倒くさい~2X歳から始めるアイドル活動!?~   作:被る幸

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後半の投稿です。
書きたいことが多すぎていつもより長くなってしまいましたが、ようやくNGの3人を出すことができました。
お待たせして、申し訳ありません。


最善の努力をしてみよう。その結果は努力しないものより遥かに良い結果が得られるはずだ。

どうも、私を見ているであろう皆様。

前半戦では、スカートで立体機動をやらかしたり、天使過ぎるシンデレラ・プロジェクトの少女達の優しさを感じたりと色々ありましたね。

現在は、宣材写真の撮影までもう少し時間が有るとの事なので、シンデレラ・プロジェクトの皆と一緒にレッスン中です。

当初の予定ではレッスンが始まったら仕事に戻るつもりだったのですが、麗さんに捕まり強制参加となりました。

私の部下たちに確認をとって退路を塞いでからの命令で、シンデレラ・プロジェクトのみんなのキラキラとした瞳を向けられた私に拒否という選択肢はありませんでした。

どうやら、トレーナー姉妹たちからは最近係長業務の割合が多くなっていて、レッスンを疎かにしていると思われているようなので、今後は気をつけましょう。

本日のレッスンは宣材撮影が控えているので身体を痛めないよう、Da系のレッスンではなく身体的な負担の少ないVoやVi系を重視したものとなっており、演技力を鍛えるための簡単な即興劇をする事になりました。

正直、それを聞いた瞬間回れ右をして、仕事に戻りたくなりましたが。

これは2~4人のグループで、引いた紙に書かれたお題と人物だけが提示され、それを打ち合わせなく演技に入らされます。

なので、演技力だけでなく高いアドリブ能力も要求され意外と難しいレッスンなのです。

この即興劇のレッスンは完全なランダムでお題や役割が決まるので、その人のキャラクターと正反対な役割があてがわれたりして、見ているだけならかなり面白いレッスンといえるでしょう。

レッスンというよりもバラエティ番組とかの1コーナーみたいなこの即興劇ですが、楽しみながら技能を磨くことができるのならそれに越したことはありません。

楽しいと思えば苦にはならないでしょうし、自ら進んでやろうとする気持ちがあれば効率も段違いに変わりますから。

このレッスンに致命的な欠点があるとするならば、お題や役割はレッスンを受けるメンバー達で考えて何枚か用意するのですが、数人に1人はネタに走る人がいるのことです。

確かに普通で無難なものばかりではアドリブ力の特訓等にはならないでしょうが、明らかにネタに走った人物で演技しなければならない人の気持ちにもなってみてください。

それは、人生に新たなる黒歴史が刻まれる事に他ならないのです。

過去の即興劇で起きた悲劇といえば『チヒリン星人』『生徒(28)と教師(14)』『我輩は茸である』『ゾンビ日和』『カリスマ(笑)JK』等挙げれば限がなく、このレッスンを受けて黒歴史を作ったことのない346プロのアイドルはいないでしょう。

反対に名作も生まれたりすることもあるので、黒歴史ばかりではありませんが。

そして、このレッスン最大の苦しみとなるのが全てカメラで撮影されるということです。

黒歴史を映像として残すなんて、極悪非道な悪魔の所業でしょうか。

演技力の上達をきちんと確認するためという建前ではありますが、絶対に面白いからに決まっています。

トレーナールームに行けば撮影された映像の入ったDVDを借りることができますが、その使い道は殆どがパーティとかを盛り上げるための上映会用なのです。

シンデレラ・プロジェクトの皆はこのレッスンは今日が初めてのようで、この楽しそうな内容の裏側に隠された特大級の地雷に関して感づいているものはいないようですね。

先輩アイドルとして教えてあげるかどうか悩みましたが、やめておきましょう。

レッスンが始まる前からみんなのやる気をそぐような真似はしたくありませんし、それにどうせやるならみんなで黒歴史を量産して頭を抱えたほうが良いに決まっていますから。

 

 

「よし、では最初は渡、新田、神崎だ。渡は先輩アイドルとして、皆に恥ずかしくない演技をしろよ」

 

「‥‥はい」

 

 

やはりといいますか、トップバッターになりますよね。予想はしていましたから、覚悟は完了しています。

全てが全て黒歴史になるわけではありませんから、無難な人物が書かれた紙を引けるように神様に心から願いましょう。

 

 

「よろしくお願いします、七実さん」

 

「さあ、我と共に魂の共鳴を!(一緒に頑張りましょう!)」

 

「そうですね」

 

 

ああ、この笑顔が即興劇が開始されても維持されるでしょうか。

神崎さんは黒歴史現在進行形なので大丈夫かもしれませんが、新田さんは役割次第では死ぬでしょう。

 

 

「テーマは『ファンタジー』だ。理解したな?よし、では引け」

 

 

テーマは無難なものが来ましたね。

しかし、地獄はここから始まるので安心など出来るはずがありません。

私は呼吸を整え『人物BOX(大惨事箱)』から紙を一枚掴み、引き抜きます。

気合を入れすぎて引き抜いたため、無駄に芝居がかった行動になってしまいシンデレラ・プロジェクトの皆から不思議そうな目で見られてしまいましたが、気にしません。

今は、この紙の内容を確かめるのが先決ですから。

 

 

『魔王』

 

 

見間違いを疑って、一度紙を閉じてからもう一度開いて確認してみましたが、そこに書かれている2文字は非情にも変わることはありませんでした。

黒歴史確定ですね。恐らくこの人物指定を書いたのは神崎さんでしょう。

ネタとかそういったものではなく、好きなように書けと言われたから本当に好きなように書いた結果なのでしょうが、何もピンポイントに私に当たらなくても良いではないですか。

 

 

「よし、3人とも引いたな。それぞれ何だったか発表しろ」

 

「‥‥魔王です」

 

「私は猫でした」

 

「我が引きしは我仮初の姿(私が引いたのは学生です)」

 

 

ファンタジーというテーマで登場人物は魔王、猫、学生ですか。

この即興劇はテーマや人物を大きく逸脱しなければ拡大解釈も許されますから何とかなるかもしれません。

あの数々の悲劇よりも希望が持てます。

 

 

「では、始めろ」

 

 

即興劇の開始が宣言され、撮影用のカメラが回り始めます。

この即興劇において第一声というものは、これからの流れや背景等を全て決定付けてしまうものですから気をつけなければなりません。

新田さんも神崎さんもこの即興劇は初めてでしょうから、私が上手くリードしてあげなければなりませんから責任重大です。

さて、この設定を上手く生かす流れを作るための第一声は、最初ですから王道系で良いでしょう。

 

 

「よく来ましたね「カット!」」

 

 

上手く流れを作ろうと思ったのに、トレーナーからのカット宣言によって止められてしまいました。

今の台詞のどこが悪かったのでしょうか。

 

 

「渡、それじゃいつも通り過ぎる。もっと人物に即した演技をしろ」

 

「‥‥はい」

 

「お前達も、その役に即していないと判断したら今のようにカットを入れるから覚悟しろ」

 

 

今時の魔王には丁寧語の口調のものいるじゃないですかという反論をしたところで認められないでしょうから、諦めるしかありません。

新田さんや前川さん、双葉さんといった察しのいいメンバーたちはこのレッスンの恐ろしさに早くも気が付いてきたのか、表情が強張っています。

ちなみにこの即興劇の終了は監督であるトレーナーの匙加減ですから、いつ終わるかわからないというのも精神的な負担を強いてきます。

早く終わらせるなら、覚悟を決めなければならないでしょう。

数秒かけて大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出して精神状態を整えます。

 

 

「では、再開しろ」

 

「よく来た。異世界の獣人と勇者よ」

 

 

再開の合図と共に私は黒歴史の波動を感じながらも演技を続けます。

ファンタジーで魔王といえば、ラストバトル前の掛け合いが王道でしょう。

最近は現実から異世界へとトリップして勇者をするという召喚勇者物が流行しているそうですからこれで『学生』という課題はクリアできますし、ファンタジー世界ですから猫系の獣人がいてもおかしくないでしょうから『猫』も大丈夫でしょう。

 

 

「ま、魔王め、この獣人の勇者ミナミが相手にゃ」

 

 

私の意図を察してくれた新田さんが続いてくれましたが、やっぱり恥ずかしいのか語尾のにゃに恥じらいが残っています。

慣れない人にキャラ作りは相当の羞恥心を擽ってきますから、仕方ない事でしょう。

その点においては永遠の17歳と称し、ウサミン星人を堂々と名乗る菜々や猫キャラを貫こうとする前川さん達は素直に賞賛します。

私には絶対に無理です。あの黒歴史を思い出してしまいますから。

 

 

「魔を統べる王よ「カット!」うぃぃっ!」

 

 

いつも通りの厨二口調で演技を始めようとした神崎さんは、予想通りにカットを入れられました。

それにしても神崎さんの声は厨二口調によって隠されていますが、子供らしくて可愛らしいですね。

口調が一々私の記憶の奥底に封印されている黒歴史を発掘しようとしてこなければ、緒方さんや輿水ちゃん、白坂ちゃんと同じようにべたべたに甘やかしたいくらいです。

 

 

「神崎、渡の時に言っただろう。人物に即した演技をしろと」

 

「し、しかし、これは我が魂の一部であり、それを封ずるなど‥‥(こ、これは私の個性なんです。やめることなんて‥‥)」

 

「‥‥渡、翻訳頼む」

 

 

数々の個性的なアイドルたちにレッスンをしてきた百戦錬磨の麗さんでも、神崎さんの難解な厨二言語は解読できなかったようです。

仕方ないので、通訳します。

頭の奥底で何かがガリガリと削れる幻聴がしますが、気のせいでしょう。そうでなくては困ります。

 

 

「なるほど、神崎の言いたいことはわかった。確かに個性は大事だ、大切にしろ」

 

「な、ならば!」

 

「しかしだ!お前もアイドルになるのなら可能性を狭めるな!」

 

 

可能性を増やしすぎてもいいことはありませんけどね。

私のように望まぬプロテインのイメージガールや仮面○イダーとかの仕事が回されてきますし。

 

 

「私が言いたいのはそれだけだ。では、再開しろ」

 

 

そう一方的に打ち切られると、神崎さんは顔を蒼くして助けを求めるようにおろおろとしていました。

正直許されるのなら、今すぐレッスンを打ち切ってでも助けてあげたい気持ちはあります。

ですが、それでは駄目なのです。これは神崎さんが乗り越えるべき壁なのですから。

 

 

「獣人の勇者は、随分と威勢の良い事を言うようだが‥‥異世界からの勇者はそうではないようだぞ?」

 

「ランコ、しっかりするにゃ!魔王に飲まれてるにゃ!」

 

 

固くなってしまっている神崎さんの発言がしやすいように、挑発的な台詞でフォローを入れましたが、状況は芳しくありません。

学生という無難な人物が宛がわれ、神崎さん特有の厨二的な言い回しは封印され、正に苦境に立たされている状態でしょう。

自分のキャラに誇りを持っている神崎さんにとって、それは身を切られる思いかもしれませんが、だからこそ演技の練習にもなるのです。

武内Pならアイドル達のイメージと大幅に違う仕事が回ってこないように配慮してくれるでしょうが、それでもアイドル業を続けていればいつかはそんな事態になります。

それに芸能界を生きるのであれば、いざという時の備えというものはあるに越したことはありません。

特に神崎さんの個性は数年後に黒歴史と化してしまう可能性が高いので、今のうちに普通の演技というのを鍛えておいて損はないでしょう。

それも考慮に入れて神崎さんを最初のメンバーに入れ、フォロー役として私と新田さんが指名されたに違いありません。

 

 

「数多の苦難を越え、ここまで来たというのでどんな強者かと期待していたが‥‥興ざめだ」

 

「ランコ、言い返すにゃ!みんなの思いをムダにしちゃだめにゃ!」

 

「わ、私は‥‥私は‥‥‥‥私は、あなたのしてきた所業を許しません!」

 

 

最初は小さく、弱い声でしたが、段々と大きくはっきりとした声となります。

自分のアイデンティティとも言える厨二的言い回しではなく、普通の言葉で演技を始めた姿を見て私は心の中でやったとガッツポーズをとりました。

後輩が頑張っているのですから、先輩の私が生き様というものを見せなければならないでしょう。

黒歴史なんて今は関係ありません。例え、絶対に後悔する事がわかっていたとしても引けないものはあるのです。

 

 

「許せないという所業がどれを指しているかはわからんが、お前が感じている憤りの原因は間違いなく私だ」

 

「どうして、どうしてこんなことしたんです!」

 

「みんな、みんな死んでしまったにゃ‥‥いったいどれだけの命が失われたと思っているにゃ!」

 

 

神崎さんの発言を切欠に私達3人は役に感情移入していきました。

新田さんも語尾ににゃをつけることに対する恥じらいが消え、神崎さんは私に対して本当に怒っているようです。

ここまで来ると演技を意識する必要もなく、自然と身体も動き出します。

最初はただ立っていたのが、立ち位置も魔王と対峙する2人の勇者というものに変わっていました。

 

 

「理由か‥‥私は人間が大好きなのだ。愛しているといってもいい」

 

「ウソにゃ!」

 

「そんなの信じられません!」

 

「嘘ではない。友、家族、恋人といった守りたい誰かの為に強大な力への恐怖に屈さず、許せぬ悪へと立ち向かう心。

そう、勇気や覚悟といったものだ。私の前に立つお前たちが心に持つような。

ああ、美しいぞ。人とはそうあるべきだ。

力を持つ魔族に対して何度も、何度も立ち上がり、決して屈せず立ち向かう。その命が放つ輝きが堪らなく愛おしく、未来永劫眺めていたいと思う」

 

 

演技しようとしなくても心の奥底がざわめき、考える間もなく滑り出すように言葉が口から紡がれていきます。

 

 

「だから地獄を造った。人は平和の中ではその輝きを維持できず腐らせてしまう。

安全圏で守られてその魂まで腐らせてしまい厚かましく、威勢だけがよく、考慮もしない図々しいだけの愚図の群れ。愛すべき人達がそうなっていくのを只眺め続けるなど、私には認められるものではない」

 

「「‥‥」」

 

 

2人が何も発言できなくなってしまっていますが、私の口は止まってくれる様子がありません。

 

 

「お前達とてそうだ。今、決死の覚悟を持ってこの場に立っているのは、私が造った地獄があったからだ。

不退転の決意と試練によってその美しさを鍛え、磨き、昇華させた。

絶やしたくの無いのだよ。お前たちのような人間を」

 

「黙れにゃ」

 

「地獄がなければお前たちはどうなっていた。与えられる平和を享受し続け、その魂を腐らせ、無為に日々を過ごし今のお前達のようには到底なれなかっただろう。

人を輝かせるには不幸や、理不尽というものが必要だ。例え、その中で愛すべき人達が亡くなっていったとしても、私は見たいのだ。

強く、そう強く光を放つ人の可能性を。天に昇りし太陽の如く輝く黄金の精神を!」

 

「もういいです」

 

 

流石にそろそろ私ばかり話し続けてはいけないでしょうから、口を閉じることにしましょう。

厨二病は完治できない。こんな台詞が即興で口に出るのですから、はっきりわかりました。

 

 

「あなたの言うことは全くわかりません」

 

「そう、そんなの只の自己満足でしかないにゃ。私は人の為とか言いながら地獄を造るという魔王を認めない!」

 

「私のこの力は、みんなを守る為に手に入れた力‥‥あなたを満足させる為のものなんかじゃ、決してない!」

 

 

感情が高ぶってきたのか、新田さんと神崎さんは手を繋ぎ決意を決めた鋭い視線で私を見据えます。

この2人の組み合わせもいいですね。新田さんのノリの良さも確認できましたし、意思疎通が上手くいくようになりさえすれば神崎さんとの相性はかなり高いでしょう。

新たな発見に嬉しく思いながら、私は笑みを浮かべます。

 

 

「それでいい。そうでなくては困る。

所詮、魔族とその他種族は争う運命。これ以上の言葉は無粋。

さあ、お前達の勇気と覚悟を私に見せてくれ!」

 

「ミナミ!」

 

「ランコ!」

 

「そして、人間讃歌を謳わせてくれ、喉が枯れ果てるほどにッ!!」

 

 

勇者ランコとミナミの勇気がきっと魔王を倒し、平和を取り戻してくれると信じて。

 

 

 

 

 

 

あの忌まわしき即興劇のレッスンも終え、宣材写真撮影の付き添いをしています。

すでに撮影開始時間は過ぎており、当初の予定なら武内Pが二次募集メンバーを連れてきて合流しているはずなのですが、何かトラブルでも起きたのでしょうか。

宣材撮影はこれからの営業展開にも大きく影響したりする為、意外と長引いたりすることが多いのです。ですので、勝手ではありますが先に始めさせてもらっていましょう。

メイクさん達に髪型や服装を整えてもらうという初めての経験に、みんな差はあるものの緊張しているようですね。

今まではレッスンばかりでしたから、これが皆にとって初めてのアイドルとしての活動になるのかもしれません。

そういえば、私も宣材撮影の時は緊張していましたっけ。ちひろなんて吐きそうになってましたし。

まだ1年も経っていないことなのに、随分と昔の事にも思えます。

それだけアイドルとしての日々が濃密だったという事でしょうが、なんだか自分が随分歳をとってしまったような気がしてなりません。

 

 

「では、準備ができた方から始めていってください」

 

「「「「はい」」」」

 

「今回の写真は宣材、つまりは宣伝の材料とする写真ではありますが、気負うことなく自分らしく振舞ってください」

 

 

力みすぎて表情の固い写真を何枚も撮ったところで、意味などありませんし。

やはり自然な姿というものがその人が一番輝いている瞬間でしょうから。

 

 

「では、誰から行きますか」

 

「私が行きます!」

 

 

最初に名乗り出たのはカリーニナさんでした。

想定通りといいますか、さっさと準備を完了して目を輝かせてこちらを見ていたら、誰だって普通に気が付くでしょう。

物怖じせず、ロシア系の血の強いハーフの容姿を持っているカリーニナさんなら安心できます。

中身はシンデレラ・プロジェクト1番のフリーダムキャラではありますが、レッスンに対しては人一倍真剣に取り組んでいますから。

今は思い出したくもないあの即興劇においても多田さんが書いたと思われる『ロッカー』という難題を難なくクリアしていましたし。

しかし、自らトップバッターを務めようとするなんて、何かやりたいことでもあったのでしょうか。

 

 

「はい、ではポーズお願いします」

 

 

あの即興劇で叫び過ぎた所為で喉が乾きましたね。

丁度良く先程メイクさんから貰ったコーヒーのカップがありますから、これで喉を潤しましょう。

 

 

「ニンゲンサンカを歌わせてくれ、喉が枯れ果てるほどに!」

 

「ちょっと、カメラ止めてください」

 

 

コーヒーを口に含んでいなかった事を神様に感謝します。

もし飲んでいる最中であれば、私はみっともなく黒い霧を吐き出す噴霧器と化していたでしょうから。

封印作業が完了していない黒歴史を早々に発掘し返そうとするカリーニナさんの行動に、私の精神は瀕死手前です。

やめてください、心が死んでしまいます。

 

 

「凍土の白き妖精!それは我が女教皇(プリエステス)から受け継ぎし禁断の呪文!(アーニャちゃん!それは、私が真似しようと思っていたのに!)」

 

「ランコの言葉難しいです」

 

 

神崎さん、貴方も裏切り者でしたか。

最初に言いましたよね。自分らしく振舞ってくださいって。

これはアレですね。宣戦布告に違いありません。

それとも新手のいじめでしょうか。いいんですか、2X歳のアラサーアイドルが恥も外聞も構わず泣き喚きますよ。

 

 

「わたしもやる~~♪」

 

 

まさかの赤城さんの参戦により、私への精神ダメージは倍ではなく乗で増えていきます。

今手に持っているコーヒーの入った紙コップを落とさないだけでも奇跡に近い状態なのですから。

 

 

「あの、七実さん‥‥大丈夫ですか?」

 

 

カタカタと揺れる紙コップに気が付いた新田さんが心配そうに私を見てきますが、正直大丈夫ではありません。

しかし、ここで動揺しているのを白状してしまって年下の新田さんに負担をかけるわけには行きませんから、精一杯の虚勢を張りましょう。

そう、あの魔王なんて黒歴史時代(中学2年生)で経験済みではないですか、ちょっと童心に返っただけです。

大人だって隙あらば子供のようにはしゃいでみたくなるアレですよ。

 

 

「ええ、大丈夫です。私は完璧に冷静ですよ」

 

「えと‥‥目、濁ってますよ」

 

「ははは‥‥まさか」

 

 

何を言ってるんでしょうね獣人の勇者は。

 

 

「アーニャちゃん、蘭子ちゃん、みりあちゃん!人間讃歌禁止にゃ!」

 

「何故ですか、みく!」

 

「深遠の魔道を感じるというのに‥‥(カッコイイのに‥‥)」

 

「そうだよね。カッコイイのに」

 

「カッコいいけどダメなの!」

 

 

前川さんが私の代わりに人間讃歌禁止令を出してくれましたが、3人は不服そうです。

私の精神衛生上、是非今後未来永劫禁止して欲しいのですが、それは無理な話でしょう。

赤城さんは大丈夫かもしれませんが、フリーダムなカリーニナさんと現在進行形で黒歴史を大量生産中の神崎さんは聞き入れてくれないでしょうね。

見稽古で時間遡行系のチートは習得できないでしょうか、年単位とか大きなことは望みません今日1日分の時間くらいささやかなものでいいんです。

 

 

「もうっ!みくがお手本見せてあげるから、アーニャちゃん達はどいて!」

 

「みく、横暴です」

 

 

撮影場所からカリーニナさん達3人が追い出されました。

スタッフ達が最初に中断をかけた私に再開してもいいかと確認してきたので頷きます。

 

 

「いいですか、皆さん。この写真は、皆さんの今後のアイドル活動に関わる写真です。

悪ふざけ無く、真面目に、そして自分らしい写真にしましょう。‥‥‥いいですね」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「いい返事です」

 

 

そこからの撮影は順調に進み、前川さん、三村さん、新田さんの宣材撮影は終わりました。

前川さんは流石というかぶれない猫キャラらしさで、三村さんは本当に自然なやわらかい笑みで、新田さんは大学から持ち込んだという私物のラクロスのラケットを持ってと個性を生かした良い写真です。

次は再びカリーニナさんが名乗り出てきたのですが、不安ですね。

 

 

「あれあれぇ~~?」

 

 

 

順番待ちをしていた諸星さんが、不思議そうな声をあげます。

入口の方を確認してみると武内Pとちひろに続くような形で3人の少女がいました。

 

 

「あっ、残りのメンバー?」

 

 

私は武内Pから貰った資料と写真によって確認済みでしたが、そこに居たのは確かに島村さん、渋谷さん、本田さんの遅れていた二次メンバーでした。

スタッフに一時中断の旨を伝え、しばらく休憩してもらいます。

やっぱり最初の出会いというものは重要ですから、ちゃんと自己紹介等をする時間を用意してあげなければ、最悪プロジェクト瓦解の原因となる綻びを生みかねませんし。

シンデレラ・プロジェクトのメンバー達が自己紹介しあっている間に、私は大人の話し合いをしましょうか。

 

 

「遅かったようですが、何かありましたか」

 

「申し訳ありません、彼女達との合流が遅れてしまいました」

 

「なんでも、このビルを色々探検したみたいですよ」

 

「なるほど」

 

 

それは遅くなりますね。

自慢ではないですが、アイドル部門においてはまだまだ新顔ではありますが芸能業界では最大手ともいえる美城本社には、無いものを挙げた方が早いくらい様々な施設があります。

シャワールームに大浴場、サウナ、エステルーム、ジム、武道場、巨大冷凍庫、屋上庭園等これらを色々見て回っていたら時間も足らなくなります。

これから芸能界に入る人間としては時間厳守に努めてほしいところではありますが、お年頃で多感な少女達なら仕方ないでしょう。

城ヶ崎妹さんや赤城さんの時なんて、チートフル活用+人海戦術を採る嵌めになりましたから。それに比べれば、これくらいの遅刻は可愛いものです。

 

 

「そちらでは、特に変わったことはありませんでしたか?」

 

「‥‥何も問題ありませんでしたよ」

 

「七実さん?微妙に間が空いてません?」

 

 

ええ、何もありませんでした。

中庭での立体機動も、即興劇での人間讃歌の魔王なんてものもありませんでした。

 

 

「渡さん、何かあったのなら1人で抱え込まず相談していただけませんか」

 

「そうですよ。相棒に隠し事なんて良くない。良くないですよ」

 

「いや‥‥もう、本当に個人的なことですから‥‥」

 

 

心配してくれるのは嬉しいのですが、今はその思いが私の心を殺しにきているので勘弁してください。

これ以上黒歴史を掘り起こされたら、心が壊れて人間ではなくなってしまいそうです。

 

 

「渡さん!」「七実さん!」

 

「皆と一緒にしたレッスンが即興劇でした。後は察してください」

 

 

2人が色々聞いて回って、シンデレラ・プロジェクトの誰かから黒歴史が開帳されてしまう前にある程度情報与えて興味を消しておきましょう。

即興劇で同じように黒歴史を作り上げたちひろならきっとわかってくれるはずです。

 

 

「‥‥無理に聞いてしまって、ごめんなさい」

 

「その‥‥レッスンなのですから、あまり気になさらない方がいいと思います」

 

「あっ、はい」

 

 

どうやら、2人共ちゃんと色々察してくれたようでこれ以上の追求はなさそうですね。

気まずい沈黙が訪れましたが、丁度良くシンデレラ・プロジェクトのメンバー同士の自己紹介が終わったようです。

 

 

「島村さん、渋谷さん、本田さん。こちらが本プロジェクトをサポートしてくださ」

 

「じじ、人類の到達点!アイドル史上最強、渡 な「七実さま!」って、しまむー!?」

 

 

武内Pの紹介を本田さんが遮り、その本田さんの言葉を更に島村さんが遮るという華麗なコンボが繋がりました。

可愛らしい大輪の花のような笑顔で私の元に駆け寄ってきた島村さんは、あの年末ライブの時から原石的な輝きが磨かれているようです。

きっと養成所で、腐ることなく直向にしっかりとレッスンをこなしてきたのでしょう。

 

 

「ああ、あ、あの、わた、わわ、私、し「島村 卯月さん、あの時以来ですね」覚えていてくれたんですか!?」

 

「はい」

 

「わぁ~~、凜ちゃん、未央ちゃん。私、幸せすぎて死んじゃうかもしれません」

 

 

忘れる事なんてないと思い、二度と会うことはないはずなのに、何となくまた逢えるような気がしていた彼女は、今アイドル候補生として私の前に立っています。

この奇跡は、神様の粋な計らいというものでしょうか。

ご都合主義という奴なのかもしれませんが、それでも私にとってこの再会は嬉しいものでした。

 

 

「卯月、大袈裟過ぎない?」

 

「だってぇ~~、七実さまが私の名前を覚えてくれてたんですよ。ファンなら、死んじゃいます」

 

「しまむーは、七実さまの大ファンだもんね。ちひろさんの紹介の時『七実さまは、何処ですか!』ってさけんでたし」

 

 

島村さんのような可愛いファンが増えたことは素直に嬉しいです。

といいますか、総勢14名のシンデレラ・プロジェクトの内既に4名が私のファンらしいのですが、いったいどういうことでしょうか。

 

 

「そういう未央ちゃんだって、『ちっひだ。生ちっひだ!』って言ってたじゃないですか!」

 

「そ、それは、だって、まさか入ってすぐに会えるなんて思ってなかったから、興奮しちゃっただけだし」

 

 

本田さんはちひろのファンなのでしょうか。

最近のちひろは高森さんのラジオのゲストや書店での読み聞かせ会、年下アイドル達とのトークイベント、輿水ちゃんたちと一緒にバラエティ出演と羨ましい仕事ばかりで正統派アイドル路線を順調に進んでいますし、私と一緒にラ○ダーもやりますから、普通にファンがいてもおかしくないでしょう。

仕事内容的には私のしているものの方がメディアへの露出量は多いのですが、どちらを選ぶかといわれれば誰もがちひろの方を選ぶでしょうね。

今度、武内Pに直訴してやりましょうか。

まあ、私の仕事の大半は武内Pではなく、あの昼行灯の策謀によるものが多いのでしょうけど。

 

 

「ちょっと、待つにゃ!」

 

師範(ニンジャマスター)のファンなら」

 

「我を忘却の彼方へと誘わせぬ!(私を忘れちゃ、ダメです!)」

 

 

興奮している島村さんと私の間に入り込むように、私のファンである1次メンバーである3人が立ちはだかりました。

何だか面倒くさい方向に進んでしまいそうな予感がヒシヒシとしますが、どうしましょう。

 

 

「ねぇ、プロデューサー。止めなくてもいいの?」

 

「‥‥現在、思案中です」

 

 

ここで中断させてもしこりを残すかもしれませんし、難しいところですよね。

渋谷さんに尋ねられ、武内Pは首に手を回して悩んでいますし、私もしばらく様子見でいきましょう。

ちひろは本田さんを連れて既に安全圏で観戦モードです。三村さんのクッキーと緒方さんの紅茶までちゃんと貰っているあたり、流石抜け目ないですね。

本田さんが後輩アイドルで自分のファンというのが嬉しいのか、いい笑顔をしています。

 

 

「これが、私のとっておきです!」

 

「ファンクラブ十番台のナンバー!なかなかやるにゃ‥‥」

 

女教皇(プリエステス)と我は、同じ瞳を持ち魂の絆で結ばれし者(渡さんは、私の言葉を理解してくれるくらいの強い絆があるんです)」

 

「私とみくは、師範(ニンジャマスター)の隠れ家に行きました」

 

 

これ戻っていいですかね。

武内Pが合流したので私が監督している理由も無いですし、何だかファンの自慢大会が始まっていますし。

自分のファンの会話を間近で聞き続けるのは、恥ずかしすぎて顔から火が出そうです。

しかし、ここで逃げ出してしまうと余計に話がこじれて面倒くさい事になりそうですし、悩みどころですね。

特にカリーニナさんや神崎さんは、放置しておくと『人間讃歌』について話してしまう可能性もありますし、放置するのは危険すぎます。

後日島村さんから不意打ちでその話題とかを振られたら、私に与えられる精神的ダメージは計り知れません。

人間が困難や苦難に打ち勝つためには覚悟が必要であり、覚悟があるからこそ乗り越えられるのです。

ですから、その覚悟がない状態での一撃は致命傷になりかねないわけです。

どうするか悩んでいると、最高のタイミングで休憩に出ていた撮影スタッフ達が戻ってきました。

大義名分ができたのなら、それを利用しない手はありません。

 

 

「はい、お喋りはそこまでです。撮影を再開しますよ」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

前川さんたちは聞き分けが悪いわけでもないので、素直にお喋りをやめてくれます。

これ以上私が仕切るのも良くはないでしょうから、武内Pに視線で合図を送りこの場を仕切るように促します。

 

 

「それでは皆さん、改めてではありますが‥‥シンデレラ・プロジェクト、始動です!」

 

 

後悔先に立たず、喜色満面、一致団結

ようやく始動したシンデレラ・プロジェクトの行く先に、いつまでも平和があらんことを。

 

 

 

 

 

 

「「乾杯!」」

 

 

私とちひろは特大ジョッキを打ち合わせます。

仕事でお疲れでアフターに全く予定のないあなた、やるせない世の中のストレスも美味しい料理を食べれば万事解決。

そんな時は此処だね、妖精社。世界各国の様々な料理やお酒が揃っており、値段もリーズナブル。

隠れ家的な要素が強い為、騒がしい世間の喧騒からの一時の避難先としても最適です。

 

 

「こうして七実さんと2人で飲むなんて久しぶりですね」

 

「そうですね」

 

 

瑞樹達はそれぞれ仕事が入っており、武内Pも誘ったのですが宣材撮影後にシンデレラ・プロジェクト全員での小さなお茶会があった為、時間が少々遅くなってしまったので赤城さん達年少組を送っていく事になり不参加となりました。

私も社用車を使って前川さん達寮組を送ったのですが、アイドル寮は本社から距離はそれほど離れていない為あまり時間は掛かりませんでした。

まあ、とりあえず今は食に集中しましょう。

私は目の前に置かれたスペアリブのグリルを箸とか使わず、素手で掴みます。

焼きたてである為熱々ですが、掴めないレベルではないのでそのまま口へと運び、豪快に食い千切ります。

食い千切るといっても周囲に脂等を飛ばさない等の最低限のマナーは遵守していますよ。

スペアリブを素手で持っている時点であまり行儀が良くないのですが、箸を使っても食べにくいだけですし、こういうものはお行儀よく決め込まずいったほうが美味しいものです。

骨から引きちぎった肉は柔らかくなるように工夫はされているものの、和牛とかのステーキのようなやわらかくとろけるような感じとは違い。正に肉、肉を噛み締めているという感じがして満足感が素晴らしい一品といえるでしょう。

 

 

「もう、七実さんったら」

 

 

炙り焼かれた香ばしい香りとにんにくをベースとしたと思われる野趣に富んだタレが良く馴染んでいて、いくらでも食べれそうです。

手づかみで食べることにより太古の時代から受け継がれてきた人類の遺伝子のどこかでも刺激するのか、何だか興奮してきました。

異性には絶対見せられない姿ではありますが、今ここに居るのはちひろだけですから問題ありません。

十分ご飯にも合いそうなこのスペアリブのグリルではありますが、こうして齧り付いていると肉が主食と肉食宣言してしまいそうな勢いで食が進みます。

骨の周りにこびり付いている肉すらも綺麗に完食し、皿に骨の山を積み上げます。

一呼吸置いたら、ちひろが頼んでおいてくれたおかわりのビールを呷ります。

ビールの苦味と炭酸の爽快感が口の中に残っていた肉の脂とにんにくダレを押し流していき、さっぱりとリセットされました。

 

 

「早過ぎですよ。もうちょっと落ち着いて食べましょうよ」

 

「こういったものは、豪快なぐらいが丁度いいんですよ」

 

「確かに、七実さんの姿は様になっていましたけど」

 

 

それは、いったいどういう意味でしょうね。野武士のように肉に齧り付く様が似合っていたということでしょうか。

問いただしてもあまり良い結果が見えませんから、付け合わせとして頼んでおいたきゅうりのピクルスでも食べて落ち着きましょう。

こっちはちゃんと爪楊枝を使っていますから、誤解のなきよう。

漬け込みすぎていないのできゅうりの小気味良い歯応えも残っており、それが特有の甘さと酸味と微かなスパイスの香りと合わさり、これ単体でもお酒のつまみとしていけそうですね。

菜々あたりが好きそうな味で、ビールだけでなくウイスキーとかの洋酒にも合いそうな気がします。

 

 

「それにしても、ようやく本格始動しましたね」

 

「そうですね」

 

 

何だか、最初にシンデレラ・プロジェクトの話を聞かされてから此処までくるのに色々あり過ぎて、かなり時間が経ったような気もします。

最初は心配だったこの企画ですが、346プロでもトップクラスの個性派が揃っているもののメンバー間の関係は極めて良好ですし、武内Pも不器用ながらも前に進みだしましたし大丈夫でしょう。

もし何かトラブルが起きたとしてもサポートメンバーに私達がいるのです。大抵の困難は難なく解決してみせましょう。

 

 

「楽しみですね」

 

「ええ、本当に」

 

 

これから彼女たちが、どのような経験を積み、何を思い、どんな答えを得て、素晴らしいアイドルになっていくのかが楽しみでなりません。

765プロの竜宮小町のプロデューサーである秋月さんは、アイドルをしていた時期もありましたけど元々プロデューサー志望でしたっけ。

華やかな舞台とは疎遠になってしまいますが、自分の手がけたアイドルたちが輝く姿を目にするのはその喜びも一入でしょう。

もしかしたら、武内Pもそんな華やかな舞台で輝くアイドルの笑顔に誰よりも惚れ込んでいるから無口な車輪と化してもプロデューサーを続けているのかもしれません。

 

 

「しかし、当面の問題は‥‥」

 

「大丈夫ですよ。未央ちゃん達なら、きっとやってくれます」

 

「そうでしょうか」

 

 

宣材写真撮影中に妹の様子が気になって現れた城ヶ崎姉さんが、何を感じたのかはわかりませんが島村さん達二次メンバーの3人を今度のライブのバックダンサーとして起用したいといってきたのです。

私としては反対だったのですが、昼行灯やちひろが賛成側に回り、最終的にはシンデレラ・プロジェクトの方針について決定権がある武内Pが了承した為決定となりました。

3人の実力については見たことが無いため未知数ですが、先行して346プロで本格的なレッスンを受けていた一次メンバーよりは、低いと考えていいでしょう。

それを数週間後のライブまでに舞台に立てるようにするのは、なかなかの強行軍を強いられる事になります。

資料を見る限り、奈落から飛び出すという登場の仕方を取るようですし、あれは慣れさせておかないと失敗どころか大怪我の危険性がありますから注意しないといけません。

決まったことに反対するつもりは毛頭ありませんから、私は私でできることするとしましょう。

 

 

「信じてあげましょう。私にだって出来たんですから、未央ちゃん達ができないわけないです」

 

「‥‥」

 

「あまり過保護だと、反抗期が怖いですよ」

 

 

たまに庇護欲とかが暴走しかけることはありますけど、私は過保護なんかじゃありません。

それにしても反抗期ですか、もし緒方さんや輿水ちゃん、白坂ちゃんが反抗期になったらと想定してみましょうか。

 

 

「‥‥泣けますね」

 

「何で、泣きそうになってるんですか‥‥」

 

「いえ、ちょっと反抗期を想像して」

 

「七実さんは、彼女達のお母さんか何かですか!」

 

 

なれるのならウェルカムですよ。

おはようからおやすみまで、任せて安心渡 七実。アイドル業も私生活においても、最高のものを約束してあげましょう。

 

 

「安心してください、そうなったら苦労させないだけの稼ぎは確保してみせます」

 

「やめてください!本当にできそうですから!」

 

「当然です」

 

 

神様転生者を舐めないでくださいよ。

 

 

「とりあえず、落ち着きましょう。ね?」

 

「そうですね」

 

 

話が脱線し、無駄に熱くなってしまいました。新しいビールとスペアリブで心を落ち着けましょう。

素手で食べると否が応でも手が汚れてしまい、次の行動をする前に一々お絞りで手を拭く必要があるのが難点ですね。

 

 

「とりあえず、仕事の入っていない時は色々手伝ってあげましょうか」

 

「はい。きっと未央ちゃん達も喜びますよ」

 

「後、他のメンバー達に対するフォローも。武内Pは色々と忙しいでしょうから」

 

「そうですね。一応、私から武内君にはそれとなく伝えておきます」

 

「頼みます」

 

 

武内Pは不器用で口数が少ないですから、下手をすると3人を贔屓しているととられてしまいかねませんからね。

こういったことは第三者がフォローするよりも、拙い言葉でも本人の口から言わせたほうが効果が高いですし。

これからの武内Pやシンデレラ・プロジェクトの未来に期待を込めて、とあるドイツを代表する文豪の名言を送るのなら。

『最善の努力をしてみよう。その結果は努力しないものより遥かに良い結果が得られるはずだ』

 

 

 

 

 

 

あれから、麗さんの独断で即興劇の黒歴史が島村さん達やちひろ達にも公開されたり、神崎さんの厨二言語に『人間讃歌』という単語が良く混ざるようになったりするのですが、それはまた別の話です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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