ラブライブ! ―夢を追って―   作:北屋

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第十五話 巻き込まれ体質……?

「……かったるい」

 

 

昼下がりの校舎をだるそうに歩く人影があった。

黒いスラックスに半袖の開襟シャツ、空色のネクタイ。身なりこそはそれなりにきちんとしているがイマイチぱっとしない。本人の容姿が悪いわけでもないのに、態度とにじみ出る雰囲気がそうさせるのだった。

目的の部屋の前に着くと、その威圧感のある扉と手元の書類とを見比べて彼は小さくため息をつく。その扉には『理事長室』と銘打たれていた。

購買の仕事の一環として報告書やその他の書類を届ける事になっていたのだが、やはり偉い人と話すのは緊張するものがあり、面倒くささを感じてしまう。

 

 

「いっちょ行くかね……」

 

 

ともあれこんな所でぼーっとしていても解決するわけでもないので心を決める。面倒事は手早く済ませるにこしたことはない。

扉をノックしようとして――

 

 

「津田さん?」

 

 

振り返って確認してみれば、見知った顔がそこにいた。

 

 

「おう……じゃなかった。こんにちは、μ’sのみなさん。お揃いでどうしたんですか?」

 

 

一瞬、いつも通りに話そうとして言い直す。ただでさえよろしいとは言えないのに、校内でもそんな風に口を聞くわけにはいかない。

最近は絡みが増えたため、お互いにまるで友人同士であるかのような振る舞いが増えてきたが、そもそも京助と彼女たちの関係はパン屋の店主と常連客のそれに過ぎない。それ以上になるのは、恐らくお互いのためにもならないだろう。

それが分かっているからこそ、京助はこうして時折距離を測り直すかのような言動を見せるのだった。……もっともその行為が少女たちに効果をもたらしているのか甚だ疑問ではあるが。

 

 

「ちょっと理事長に話があるの。京助さんは?」

 

「自分も似たようなものです。提出書類がありましてね……なんでしたら先にどうぞ」

 

 

扉の前を開けて彼女たちに譲る。

 

 

「いえ、京助さんの場合はお仕事ですし……」

 

「いやいや。ここは生徒さんを優先しないと」

 

 

正直なところ、好意は半分で残りの半分は何となく誰かに先に行ってもらったほうが気が楽という思考からきていた。

 

 

「おじさん、入りにくいからって人を先に行かせるのはどうかとおもうにゃー」

 

「次におじさんって言ったら二度と店にいれませんよ」

 

「否定はしないんだね……」

 

 

そんな風に無駄話をしているうちに、彼女達の前で理事長室の扉が開いた。

 

 

「あら?お揃いでどうしたん?それに津田く……津田さんも」

 

「わ……生徒会長!?」

 

「げ……」

 

 

出てきたのは希、そして京助が初めてこの学校を訪れた際に見た金色の髪の少女だった。

思いがけずに出会った苦手な人物に思わず京助も一歩退く。

 

 

「何の用ですか?」

 

 

金髪の少女――生徒会長は鋭い目をμ’sのメンバーに向け、そして京助を見て怪訝な顔をする。

 

――怖ぇ……

 

その迫力は京助も思わず冷や汗の流れるのを感じるほどだった。

怯える一方で、京助は彼女を冷静に見つめなおす。彼女の様子に何か引っかかる物を感じていた。

固く強ばった表情、つり上がった眉。それは彼女本来のものではないような――そんな感覚を覚える。

 

――焦ってる……のか?

 

何に、かは分からない。

彼女のそれは、追い詰められてどうしようもならなくなって、それでもどうにかしなければならないという焦りからきているように見えた。

持ち前の責任感と義務感に押しつぶされそうになってあがいている――そんな印象を受けた。

 

 

「……難儀なこった」

 

 

しまった。

そう思ったときには既に遅かった。心中で呟いたはずのそれは本人の意図を外れて口をついて出てしまっていた。

きっ、と少女が京助を睨みつける。

 

 

「そもそもあなたは誰ですか?」

 

「いや、その、俺……自分は……」

 

 

正直に言って本当に怖い。

思わぬ状況に口ごもっていると、みるみる内に少女の目が不審者を見るそれに変わっていく。

これはマズイ。

 

 

「この人は購買の販売員さんや。怪しい人やないで?」

 

 

――な?

 

そう言ってウインクをして見せる希の、思わぬ助け舟を受けて彼は咳払いを一つ、

 

 

「はじめまして、販売員の津田と申します。この度は理事長先生に書類をお届けに参りました次第です。」

 

 

京助の自己紹介を聞いて、少女は納得したようにぺこりと頭を下げた。そして再びμ’sのメンバーに向き直り、

 

 

「……で、あなたたちは何の用?」

 

「理事長にお話があってきました」

 

 

真姫が生徒会長の正面に歩み寄り、真っ向から向き合う形で要件を告げる。

すでにその答えを見越していたのか生徒会長の表情は固いまま少しも変わらない。

 

 

「各部の理事長への申請は、生徒会を通す決まりよ」

 

「っ……申請とは言ってないわ!」

 

 

二人の視線がぶつかり合って一触即発の空気が場に流れた。

不穏な空気に、これは自分が止めるべきなのかと、京助が嫌々ながら身構えたところで、小気味良いノックの音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「へぇ~、ラブライブねぇ」

 

 

理事長が感心したようにパソコンの画面を覗き込む。

穂乃果達2年生の3人ににこ、そして生徒会長と副会長の希が理事長と一堂に会していた。どうやらμ’sの活動に関して何らかの話があるらしい。

それは別にいいのだが……

 

――何で俺も巻き込まれてんだ!?

 

何故か京助も理事長室の中に立っていた。6人が招き入れられた際にもののついでとばかりに一緒に呼ばれたが、流されるままにほいほい入ってきてしまったのが運の尽き。今更になって後悔する。

その件に関して全く何も知らない京助は、当然話に入ることもできず、かと言って自分の要件を切り出すこともできず隅っこの方で息を潜めるしかない。

 

 

「ネットで全国的に中継されることになっています」

 

「もし出場できれば、学校のことをみんなに知ってもらえると思うの!」

 

 

大会か何かだろうか?

京助は断片的な情報から話の大筋を推測する。察するに彼女達アイドル部で何らかの大掛かりな大会にでるために学校の許可が欲しい、そういったところだろうか。

 

 

「私は反対です。理事長は、学校のために学校生活を犠牲にすべきではないとおっしゃいました。であれば……」

 

 

京助はまた何かひっかかりを感じた。

傍から見れば彼女の言っていることは正論そのままであるのに、そこには何か彼女の私情が込められているようだった。それはもしかすると何か彼女の芯にふれるような何かなのかもしれない。なんにせよ、彼女が複雑な思いを抱えていることだけは京助にも見て取れた。

 

――難儀してんなぁ……

 

今度こそ口に出さずに胸中でそっと呟いた。

 

 

「いいんじゃないかしら?エントリーするくらいなら」

 

「本当ですか!?」

 

 

理事長の台詞に穂乃果が真っ先に歓声をあげた。

メンバーたちの顔が目に見えて輝き出すが、

 

 

「ただし、勉強がおろそかになってはいけません。次の期末試験で誰か一人でも赤点をとるようなことがあればエントリーは認めませんよ?」

 

 

途端に崩れ落ちた数人を見て、そのまま視線を滑らせて窓の外を見つめる。

本日も快晴、透き通るような青空を白い雲が流れていた。

 

――難儀、だなぁ……

 

京助はまたしても同じセリフを胸中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。確かに受け取りました」

 

 

生徒たちがいなくなった部屋で、書類に目を通し終えた理事長が目線をあげて京助に微笑む。

どうやら不備もなかったらしく、京助もようやく仕事が終わって思わず頬が緩んでしまう。

 

 

「では、失礼致しまし……」

 

「ちょっと待って、津田さん」

 

 

踵を返しかけたところで呼び止められる。

書類に何か不備が見つかったのだろうかと考えて恐る恐る振り返る彼だったが、理事長の次の言葉は彼の予想しなかったものだった。

 

 

「あなたから見て、生徒会長――絢瀬 絵里さんはどう見える?」

 

「……え?」

 

 

質問の意図が……というより質問される意味が分からなかった。

そもそも彼女との面識なんてないというのに、何故購買のパン屋に過ぎない自分にそんな質問が飛んできたのか。そんなことを尋ねるならばまずは担任なりに尋ねるべきではなかろうか。

いろいろな疑問とつっこみが浮かんできて目を白黒させる京助に、理事長は小首をかしげて困ったように微笑む。

 

 

「ほら、津田さんって私や他の先生方よりもあの子たちに年齢が近いでしょ?だから参考までにどう見えたか聞いてみたいと思って。」

 

「いや、俺はただの購買のお兄さんですよ?それにこんなロクデナシの意見を聞いてどうするんですか?」

 

「そんなに自分を卑下する必要はないんじゃない?あなたが言うように、あなたが“ただのお兄さん”で“ロクデナシ”だったら私の娘やその友達たちはあんなに親しくしないわよ」

 

 

京助は、背中に冷や汗が伝うのを感じた。

いつもμ’sのメンバー相手には適当な対応しかせず、しかもこの頃ではかなりぞんざいな扱いをしてしまっているが――その内の一人の親がこの学校の理事だということを忘れていた。

 

 

「ことりから聞いてるわ。いつもみんなでお店におしかけてるのに、親切にして貰ってるって。きさくで優しい人だって」

 

「………は?」

 

 

耳を疑った。

思い返してみても、暇さえあれば店に押しかけてくる彼女達相手にそんなに親切な対応をした覚えはない。むしろ帰れと怒鳴った覚えもある。

それにきさくで優しいなど、とても自分のことを指している表現とは思えない。理事長は他の誰かと勘違いしているのではないだろうか。

 

 

「まぁ、それはともかく。年長者から見てどう思う?」

 

「そう……ですね。憶測で物を言いますけど――あの子、何か悩んでますよね?その悩みのせいで自分を押し殺してるような……そんな感じがします」

 

「そうよね……」

 

 

理事長も同じことを考えていたのか、京助の話に頷いて小さく溜息をついた。

 

 

「誰か、第三者が相談に乗ってやれればいいんですけどね。あの位の年頃で抱える悩みなんて、往々にして本人が思っているよりも簡単なもんですから」

 

 

語りながら昔のことを思い出す。

死ぬほど無茶苦茶なことをやってきたし、ノリと勢いと若さで突っ走ってきた青春時代だったが、そんな彼でも人並みには悩みを抱えていた。

後から考えればどうしてそんなくだらないことで悩んでいたのか首をかしげることばかりだが、悩んでいる最中は視野が狭くなって本質が見えずに苦労するものだ。だから、そんな時には全く関係のない外部の誰かに相談にのってもらうだけで大分事態は好転する。

 

 

「まぁ、そんなところですかね」

 

「そう……ありがとう、参考になったわ。呼び止めてしまってごめんなさいね」

 

 

一礼して京助は理事長室を後にする。

扉がしまりきった時にぼそりと理事長が呟いた一言は彼の耳には届かなかった。

 

 

「その第三者が――あなたになりそうな気がするのよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅー」

 

 

どうして屋外で吸うタバコはこんなに美味しく感じられるのだろうか。特に仕事のあとの一服となれば格別だ。

そんなとりとめもないことを考えながら煙を吐き出す。品物もうまい具合にはけ、運良く少女たちも店に顔を出さなかったため、京助は早めに店を切り上げて買い出しに出ていた。

夕日で真っ赤に染まった公園は、昼間とは違ってなんとも言えない趣を醸し出している。

買い物袋を足元に無造作に転がして、ベンチの背もたれに体を投げ出す。見上げる空の綺麗な夕焼けに目を細めて、大分小さくなったタバコを再び吸い込んだ。

都会の真ん中にぽっかり空いた空、少し目線を動かせば天を突かんばかりのビルが立ち並んでいるのが嫌でも見えてくる。

小さかった頃に比べて空が狭くなったように感じるのは気のせいではないだろう。時代の移り変わりというものだろうか、そんな風に考えて彼はほんの少しだけ寂しいように感じた。

別に変わることが悪いとは言わない。世の中は便利になっていき、その恩恵を受けて生活が潤っていく。

だが、新しいものを優先するあまりに、古いものや伝統がどんどん消えていくのは、少し違う気がする。

『廃校』その一文字がふと京助の脳裏をかすめた。別段彼にとって深い関わりのあった学校ではないが、昔からそこにあって、そこにあることが当然だったものが消えるのは、矢張り感慨深い。

 

 

「……ま、俺には関係ねぇか」

 

 

年を重ねるにつれて、自分に出来ること出来ないことの区別がつくようになってくる。そして出来ないことは見て見ぬふりで考えないようになっていく。それを人は成長と呼ぶのだ。

チビたタバコを備え付けの灰皿に放り込んで、勢いよく立ち上がった。荷物を持ち上げて公園を後にしようとした所で、京助はふと離れたベンチに見覚えのある人影を見つけた。

 

 

「園田ちゃん?」

 

「あぁ、こんばんは京助さん。」

 

 

そんな気はなかったのに思わず声をかけてしまった。どうしてこんなところに、そう考えて目線を移動させると、彼女の横に腰掛ける生徒会長――絵里の姿が目に映った。

見慣れない組み合わせに一瞬面食らったものの、京助と絵里はお互いに軽く会釈を交わし合う。

 

 

「二人共どうしてこんなところに?」

 

「私は少し生徒会長をお話がありまして……そういう京助さんは?」

 

「俺……自分は買い物帰りですよ。……暗くなると危ないですから、気をつけてくださいね」

 

 

二人のあいだの妙な空気を感じ取って退散しようとしたときだった。

 

 

「お待たせしました!」

 

 

中学生くらいだろうか、二人よりも年下と思われる少女が駆けて来て海未に缶入の飲料を手渡した。しかしそれを受け取った彼女は礼を述べた後に固まってしまう。

 

 

「これは……?」

 

「おでん……」

 

 

少女が手渡したのは飲み物などではなくおでん缶だった。思わぬ出来事に京助も思わず帰ろうとしていた足を止めてしまう。

 

 

「ごめんなさい。妹はまだ日本の暮らしに慣れていないところがあるの……亜里沙、それは飲み物じゃないの」

 

 

そう言って彼女が浮かべた小さな微笑みは今までに海未たちが見てきた生徒会長の顔とは全く違っていた。

 

 

「別なの買ってきてくれる?」

 

「はい!」

 

「ちょい待ち」

 

 

元気に返事をして再び自販機に駆けていこうとする少女を、京助が不意に呼び止めた。

不思議そうな顔で見つめる彼女に京助はポケットから出した千円札を渡し、

 

 

「そのおでんは自分が買取りますから、これで買ってくるといいですよ。」

 

「え?」

 

 

ひょい、とおでん缶を一つ受け取って京助は薄く微笑む。

 

 

「生徒会長殿も園田さんも知らない仲ではないですし……ここであったのも何かの縁ってことで」

 

 

京助の顔と手元の千円札、そして姉の顔を見てから亜里沙はぺこりと頭を下げて駆け出した。

 

 

「ごめんなさい、気を使わせてしまって……えっと、」

 

「津田です。カフェ&ベーカリーTSUDAの津田 京助。……では、今度こそ失礼します」

 

 

今度こそ退散しようとした京助だったが、それを海未が引き止めた。

 

 

「これは少しだけ京助さんにも関わりがある話なので……京助さんに教えて貰った私たちのライブの映像ですが……生徒会長だったのですね。あの動画を撮ってネットにアップしてくれたのは。あの映像があったから、私たちは……」

 

 

――なんで今俺を引き止めた……

 

うんざりとした様子を隠そうともせずに彼は胸中で毒づいた。

確かに穂乃果に動画の存在を教えたのは京助だが、それ以上のことは全く関わっていない。無関係も良いところだというのに何故こんな重そうな話に立ち会わなければならないのか。

また気がつけば彼女達の話に巻き込まれている自分がいた。

 

 

「別にあなたたちの為にやったわけじゃない」

 

 

少し嬉しそうな海未に対し、絵里の態度は冷たく固い。

無表情なままで淡々と言葉を紡いでいく。

 

 

「むしろ逆。あなた達の活動がいかに意味がないか、周りの反応を見ればわかると思っただけ」

 

 

 

――こいつ……!

 

京助は無言のまま目を剥いた。

絵里のいう事を信じるのならば、彼女のやったこと、やろうとしたことは必死で頑張っている穂乃果達を晒し者にしようとしたことに他ならない。

京助は久方ぶりに血が熱くなるのを感じた。

ぱん、と軽い炸裂音が響き、絵里と海未が驚きに目を丸くして京助の方に目を向ける。

 

 

「……失礼。開けるのを失敗した」

 

 

京助の腕からおでんの汁が滴っていた。

彼の手の中にはひしゃげて変形した缶がある。開けるのを失敗したとは言っているが、どうみてもそれは力ずくで握りつぶしたようにしか見えなかった。

 

 

「……ともかく、あなたたちのパフォーマンスは人に見せられる段階になっているようには思えない。あなた達に学校の名前を背負って欲しくないの。……話はそれだけ」

 

 

そう言って絵里は荷物を持って踵を返す。その背中に海未が思いをぶつけるように声を投げかけた。

 

 

「もし私たちが、人を惹きつけることができるようになったら……認めてくれますか?」

 

 

しかし、その問いかけに対する絵里の答えは相変わらず冷たいものだった。

 

 

「無理よ。……私にとってスクールアイドルは素人にしか見えない。……A-RISEでさえもね」

 

 

「あなたに……あなたに私たちのこと、そんな風に……」

 

 

言いかけて海未はそこで言葉を止めて、横に立つ京助に目を向ける。

京助は今までに見せたことのない、異様なまでに重苦しい気配をまとっていた。

 

 

「おい、てめぇ」

 

 

底冷えするように低く、それでいてよく通る声。

怒鳴っているわけではない。ほんの短い言葉なのに、彼の心情がそのまま伝わってくる声色だった。

 

 

「何様のつもりだ?」

 

 

町の喧騒や風のざわめき、そういった雑音が一瞬消えたように感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっちまった……」

 

 

公園のベンチに座って盛大に凹んでいる男の姿があった。

 

 

「あれはねぇよ……いくらなんでも学校の生徒、しかも生徒会長をてめぇ呼ばわりとか、何様呼ばわりとか……やばいやばいやばい。下手すりゃPTAに叩かれる……仕事がなくなる……」

 

 

ぶつぶつと情けないことを呟きながら落ち込む二十代男性の図は、見ていてとても見苦しかった。

それを見かねた海未が呆れたように、

 

 

「全く……何をあそこまで怒ってるんですか?」

 

「いや……生徒会長殿は、お前らの頑張りを知らないから仕方ないのかもしれないけどさ……いくら何でも『無理』はねぇだろ……って考えたらつい頭に血が上って……」

 

 

頭に血が登りやすい、短気な性格は昔から変わらない京助の一番悪い癖だった。

その為に今まで何度ロクでもない目にあってきたか分かったものではない。最近ではいくらか落ち着いてきたように思っていたのに、さっきの言動に自分でも呆れてしまう。

京助の話を聞いていた海未は深いため息を一つ、そして微苦笑を浮かべて、

 

 

「もっと落ち着いてください。いい年なんですから」

 

「い、いい年……?」

 

 

おじさん呼ばわりよりも地味にくる物があり、余計にブルーな気分に拍車がかかる。

 

 

「でも……私たちの為に怒ってくれたことには、少しだけ――ほんの少しだけ感謝します。」

 

「……違ぇよ。お前たちのためじゃない。俺が気に食わなかっただけだ」

 

 

――素直じゃない

 

背もたれに体を投げ出してぼんやりと空に視線をさまよわせる彼を見て、海未は口にこそださないがそんな風に思っていた。

 

 

「あの……!」

 

「ん?」

 

 

亜里沙が缶を二つ抱えて二人の前に立っていた。

 

 

「これ、どうぞ」

 

 

差し出された缶を受け取り、海未はまた少しだけ驚いた様子を見せた。

その横で京助はにっこりと笑って渡された汁粉を一口飲む

 

 

「ありがとうな。」

 

「あの……お姉ちゃんのこと、嫌いにならないであげてください。お姉ちゃん、何でも抱え込んで、そのせいで本当のことを言えないところがあって……」

 

「素直になれない、か」

 

 

――あなたが言うか

 

そう思ったが海未はやはり口には出さなかった。

 

 

「あと、私、応援してます!μ’sのこと、大好きです!」

 

 

そう言って彼女はこちらが何かを言う暇もなく公園を走り去っていった。

その後ろ姿を見つめながら、京助はぼそりと呟く。

 

 

「難儀なこった……」

 

 

見上げる空は大分夜の青が強くなっていた。

 




こんばんは、北屋です。
今回も難産でした。
絵里と京助はどうしても相性が悪くなってしまい、上手く話が進んでくれない……

そしてどんどん柄が悪くなっていく主人公が目下の悩みです。

では、次回は出来るだけ早い内に更新します!
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