ラブライブ! ―夢を追って―   作:北屋

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第十七話 何が出来るのか

ただがむしゃらに駆けてきた。

何でもかんでも力ずく、無理を通せば道理は引っ込む。

無理、無茶、無謀はやったモン勝ち、悩んだらとにかく全力疾走、気に入らないことがあったら殴って壊す。

そんな無茶苦茶な人生を歩んできた。だからこそ、その先がどうにもならなくなった時、へし折れてしまったのは当たり前のことなのかも知れない……

 

 

 

 

 

「……」

 

 

希とにこがテスト勉強に訪れてからおよそ一週間、彼は自分の気持ちに整理をつけようとしてきた。

思い悩んだ末に出てきた答えは『あの子達の手助けがしたい』、いつもその思いに帰結する。

だけど自分に何が出来るのか分からない。どうすれば良いのかも分からない。

 

 

「ちっ……」

 

 

舌打ちを一つ、自室の隅に立てかけてあったアコースティックギターを手にとってみる。その昔、共に夢を追った仲間でありギターの師でもある友人から借り受けて、遂に返せずそのままになってしまった物である。

じゃらり、と弦を撫でてみた。

痛みきった弦が鳴らす音は想像をはるかに超えて歪なものだった。まるで今の自分を表しているようで、何故だか腹が立った。

ムキになってかき鳴らしてみても、音を重ねれば重ねるだけ余計に歪んで、まるで整合が取れなくなっていく。

 

 

「痛っ……」

 

 

ぴん、と鋭い音がした。

手入れもロクにしていなかったのに適当にかき鳴らしたものだから、遂に弦に限界が来たらしい。6弦がはじけて京助の右手に朱線が走る。

掌から流れる赤を見ながら、京助は考える。

自分はこのギターと同じだ。

使えなくなったものを無理に使っても思うようには行くはずがない。そして最後には周りを傷つけて壊れてしまう――

 

 

「っと!こんな時間かよ!!」

 

 

時計を確認すれば、そろそろ学院に向かわなければならない時間。

京助は気持ちを切り替えて急いで準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、パン屋さん!」

 

 

昼の購買、いつものようにパンを買いに現れた穂乃果は、いつにも増して明るい笑顔を浮かべていた。

 

 

「いらっしゃい、高坂ちゃん。その様子だと、テストの方は……」

 

「うん!ホントはもっと良い点欲しかったけど……それでも赤点はまぬがれたよ!他のみんなも全員合格、これでラブライブを目指せる!」

 

 

満面に太陽のような笑みを浮かべる彼女は本当に、心の底から嬉しそうで――思わず京助も釣られて微笑みを浮かべてしまっていた。

しかしすぐに彼は真顔に戻って何かを思案し、辺りをそっと伺って他に生徒がいないのを確認し、

 

 

「持ってけ。お祝いってことで、みんなでおやつにでもするといい」

 

「さすがパン屋さん!太っ腹!」

 

 

渡されたラスクの詰め合わせを手に、穂乃果は喜びの声を上げる、しかし、間髪いれずに横から伸びた手が彼女の手元から袋を奪い去った。

 

 

「ダメです。この頃ただでさえ間食が増えているんですから少しは気を使ってください」

 

「え~!その位いいじゃん!」

 

 

穂乃果から菓子を奪い去ったのは海未だった。取り返そうとする穂乃果の手をと払い除けて、今度は京助に向かい、

 

 

「京助さんもあまり穂乃果を甘やかさないでください。特にむやみに甘いものを与えるのはやめてください」

 

「お、おう……って、何か餌付け禁止みてぇな言い様だな」

 

「似たようなものです。ともかく、これは返します」

 

 

京助の冗談に、ぴしゃりとそう言い切るあたり海未も何気に酷い。

 

 

「海未ちゃんの鬼!折角穂乃果がもらったのに!」

 

「……いや待て。俺はみんなに、って言ったんだが」

 

 

どうやら独り占めする気があったらしい。

 

 

「海未ちゃん、流石にそんな言い方は津田さんに失礼だと思うよ?折角お祝いにってくれたのに」

 

「ことり……しかし、」

 

 

ふと京助は悪戯心が湧き上がってくるのを感じた。

 

 

「いや、別に良いぜ……こんなロクデナシが祝っちゃ迷惑だったよな……すまないな、園田ちゃん」

 

「い!いえ!そんなことは!」

 

 

京助がわざとらしく落ち込んで見せると、いつも冷静な海未が慌てた様子を見せた。なんというか――面白い。

彼の意図に気がついたのか穂乃果とことりが海未を見て笑いを噛み殺していた。

 

 

「そうだよな、園田ちゃんから見たら俺なんておじさんだもんな……こんなおじさん、気持ち悪いとか影で言われてるんだろうな……」

 

「そ、そんな滅相もない!京助さんは確かに年齢以上に老けていますが、決してそんな……」

 

「俺まだ21なんだけどな……」

 

 

何げに、冗談抜きで凹んだ。そんなに自分は老けているのだろうか。

 

 

「ほ、穂乃果!ことりも何か言ってください!」

 

「っ……あはははは!ごめん、もう無理だよ!」

 

「海未ちゃん……ふっ、ふふふ」

 

 

海未に話を振られ、遂に堪えきれなくなったのか二人は笑い出してしまった。ついでに京助も口元を押さえて肩を震わせ始める。

何事も冷静にソツなくこなしているイメージの海未が、こんな分かり易い冗談でここまで取り乱すとは――人は見かけによらない。

三人が笑い出したのを見て一瞬呆気にとられる海未だったが、すぐに自分がからかわれていた事に気がついたのか、今度は真っ赤になってしまった。

 

 

「穂乃果!ことり!……京助さんまで!」

 

「くくくっ……いや、すまん。園田ちゃんが面白くて、つい……いやいや良い物が見れた。」

 

 

気まぐれの悪戯。しばらくぶりに行ったそれは思った以上の成果をあげため、彼もいつになく楽しげに笑っていた。

こんな風に笑ったのはいつ以来なのか、本人にも分からない程に久しぶりにことだった。

しかしてからかわれた方の海未はたまったものではなかったらしく――

 

 

「京助さん?」

 

 

にっこりと、海未はこれぞ大和撫子というような穏やかな笑みを浮かべていた。ただし、京助はその笑顔に隠された凄まじいまでの殺気を感じ取ってしまう。

マズい――そう思ったときには既に遅い。

既に次に起こることを察したのか、気がつけば穂乃果とことりはこそこそと海未から距離を取っている。

彼女はそっと、優しく包み込むように京助の手を取って、

 

 

「ちょっ!?人間の指はそっちに曲がらな……待て待て待て!腕!それ腕折れるから!俺が悪かっ、たぁぁぁぁッ!?」

 

 

昼時の平和な校舎に、汚い苦鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇ……」

 

 

まだ痛む肘を動かしながら、片手にトレーを持って校舎の中を歩く。

海未をからかうのは面白いが、程々にしなければ……下手にからかって報復で関節技をかけられては身が持たない。

 

 

「しっかし、俺も何やってんだかな」

 

 

ふと口に出してしまった。

最初はただの嫌な仕事に過ぎなかった。穂乃果達もただの常連さんの生徒に過ぎなかった。それが今ではどうだろうか。

こうして彼女たちとの会話を楽しめるような日が来るなんて、思ってもみなかった。

これは果たして成長なのか。これが自身にとって良い事なのか悪い事なのか、それさえも判然としない。

昔の自分だったら今の状況にどう思ったのだろうか。

 

 

「俺は――」

 

 

言いかけた時、不意に前方で扉が勢い良く開くのが見えた。続いてそこから現れたのは生徒会長、その後ろには希がついていた。

 

 

「あれ?京助くんやん」

 

「どうも……」

 

 

気まずい。

先日怒ってしまった相手と顔を合わせるというのは厳しいものがある。直ぐにでも逃げ出したい気持ちを押さえて会釈をすると、何故か絵里もどこか困惑したようにこちらを見ていた。

 

 

「「あの……」」

 

 

意図せずにお互いに同じ言葉を同じタイミングで口に出していた。

 

 

「あ……そちらからどうぞ」

 

「いや、生徒会長殿のほうこそ……」

 

「いえ、あなたから……」

 

 

話がなかなか進まずに平行線になってしまった。そんな気まずい譲り合いを見かねたのか、

 

 

「告白前の男女やあるまいし、ばしっと言えばいいんやない?ほらえりち!」

 

 

とん、と軽く背中を押され、絵里が少しよろける。

 

 

「そうね……先日はお見苦しいところをお見せしてすみませんでした。部外者のあなたを私たちの話に巻き込んでしまって……」

 

 

そう言って絵里は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

「え、いや、ちょっ、頭を上げてください。悪いのは俺なんすから!その節は誠にすんませんでした!!」

 

 

慌てて京助も頭を下げた。

その勢いに絵里と希が今度は驚く番だった。

 

 

「本当ならば俺はあの場からすぐ去るべきだったんだ。あんたたちの話を聞くべきじゃなかった。横から口出しするなんて――ましてやあんな言い方するなんて考えられないことだ。だから――謝って済むかはわからないけど、申し訳ありませんでした。」

 

 

深く頭を下げて謝罪の言葉を口にする姿に、絵里も目を丸くしていた。

そもそもあの一件のことは、彼女は自身の落ち度と捉えていたため、こうして彼が気にしているなど思わなかった。

それを、見るからに適当そうな彼が、こうしてきちんと――口調こそ荒いが、誠心誠意頭を下げてくるなど考えもしなかった。

 

 

「いえ、そんな……」

 

「いや……」

 

「あー……もうその辺にせぇへん?お互いに相手のことは気にしてないんやから、もうこの話はおしまい、ってことでえぇんやない?」

 

 

このまま言っても謝罪の平行線の未来しか見えない。

不器用な二人は、どこか通ずるものがあるのかもしれない――そう思いながら希は二人に声をかける。

 

 

「そう、ですね……では、お仕事中、時間をとってすみませんでした」

 

「こちらこそ、お忙しいところ時間をとっちまってすんませんでした」

 

 

お互いに最後に一度だけ頭を下げ合って、京助はトレーを持ったまま廊下を歩み始める。

その小さくなっていく背中を、絵里はじっと見続けていた。

 

 

「彼、面白い人やろ?」

 

「面白い、かしら?何だか掴みづらい人ではあるのだけど」

 

「掴みづらい……そやね、でも本質は単純明快やと思うよ。――興味出てきた?」

 

「え?どういう意味よ?」

 

「別にー。そうや、えりち。今日の放課後暇やろ?ちょっと寄り道して帰らへん?」

 

「別にいいけど……」

 

 

希の珍しい提案に、どこへ寄るのかと聞こうとして――そこで絵里たちはこちらに駆け寄ってくる人影に気がついた。

 

 

「生徒会長!お願いがあります!」

 

「あなたたちは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、品物忘れてた」

 

 

京助が毎度の頼まれごとのことを思い出したのは車に乗り込んでからだった。

 




こんばんは、北屋です。
絵里加入編がものすごく長引いてます。こんなことならもっと早くから接点持たせるべきでした……
次回こそ主人公大暴れしてくれるのでご期待下さい
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