ラブライブ! ―夢を追って―   作:北屋

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※暴力描写を一部含みます


第二十一話 アイドルショップ / 予兆

『みなさんこんにちは、音ノ木坂学院スクールアイドル、μ’sです!』

 

 

自室、椅子に腰掛けてパソコンの画面に目を向ける。

小さな画面に映し出されるのは見覚えのある風景に、見覚えのある少女達だった。

ステージ衣装に身を包んだ彼女たちは、いつもよりも可愛らしく、凛々しく、そして輝いて見えた。

 

 

『これからやる曲は、私たちが9人になって初めて出来た曲です』

 

 

センターの穂乃果の宣言に続いて始まった音楽に合わせて踊る少女達。

以前見たときよりも格段に上手くなっているのが素人目にも分かった。

先日、音ノ木坂で行われたオープンキャンパス――その中でのμ’sのライブ映像である。何度か見に来るようにとメンバーに声をかけられたものの、結局京助はこうしてネット配信された録画映像を見ているのだった。

いくらなんでも女子高のオープンスクールに行くなど、冗談ごとではすまない。彼にだって少し位は体面があるのだ。

 

 

「若いっていいな……」

 

 

ふとそんなことを呟いてしまい、京助は思わず苦笑いを浮かべた。自分だってまだ20歳少しの癖に何を言っているのか。

自分だって少し前までは、彼女たちほどではないにしろ輝きを持っている時代はあったというのに。

やがてライブが終わると、彼は目を閉じて背もたれにだらしなく体を預けた。

 

――この頃、おかしい

 

そう思う。

ふとした拍子に身の内で燻るものがある。

それは二度と燃え上がることのない、例え燃え上がったとて何かを成すことなど到底できない、夢への未練であった。

火の粉一つ残さずに捨てさったと思っていたのにμ’sの面々と知り合ううちに、まるで呼応するかの如く日に日に熱さが増していくのを感じていた。

 

 

「ちッ……」

 

 

気がつけば京助は部屋の片隅に置かれたアコースティックギターを手にしていた。彼にギターを教えた友人から借り、今に至るまで返せていない代物である。

チューニングを手早く済ませてピックを握る。久しぶりだというのに、ネックを握った瞬間に心が一気に落ち着くのが不思議だった。

指慣らしに練習用の旋律をひとしきり奏でると、μ’sのライブをもう一度再生して、今度は目を閉じて音楽に全神経を集中した。

本来耳コピは得意ではないし、アコースティックへのアレンジなど無茶も良いところなのだが、何故だか今は無性にやってみたい気持ちが抑えられなかった。

確かめるように一つずつ音を出していき、やがて連続したひとつの旋律へと形作っていく。

拙くボロボロで、人に聴かせることなどとても出来ないが、それでもこうして曲を弾くのは楽しかった。

 

――俺がなりたかったのは……

 

自分の夢を思い出しかけたその時、手の動きが乱れた。

 

 

「いっつ……」

 

 

久しく弦に触れなかった左手の指先もじんじんと痛むのを感じた。。

何を今更。

一度失った夢は二度と取り戻すことは出来ない。こんなことをしても何も得ることは出来ない。

まるで無意味だ。

ギターを元に戻し、残り少ないタバコに手を伸ばす。14の時から吸い始めて、ほぼ毎日欠かさなかったそれは彼にとっては癒しでもある。口に咥えた両切りタバコの先端に火を点けようとライターをこするが、こんな時に限って一向に火が灯ることはなかった。

 

 

「……ガス欠かよ」

 

 

100円ライターをゴミ箱に乱暴に放り込んで、舌打ちをしながら彼は立ち上がった。

タバコはあれども火がなくては話にならない。ボロボロのジャケットを羽織って近場のコンビニまで繰り出すつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こうして見ると、結構様変わりしてんな」

 

 

ちょっと近場のコンビニまで――そのつもりだったがふと興がのって、京助は秋葉原の電気街にまで足を向けていた。

特に街に用があるわけでもない、ただの散歩である。

放浪に出る前とは幾分変わってしまった街を見るのは思ったよりも面白く、なかなか飽きない。

たまにはパチンコ以外でのんびりと一日を過ごすのも良いかもしれないと、そう思った。

 

 

「ん?」

 

 

今まで見たことのない店が視界に飛び込んできて、ふと足が止まった。

きらびやかで可愛らしい装飾、飾られたステージ衣装や女の子の写真、グッズ、その他もろもろ……

 

 

「アイドルショップ、ねぇ?」

 

 

話には聞いたことがあったが、別段興味もなく、用事もない。自分には縁のないところと、その前を通り過ぎようとして、

 

 

「あ、」

 

 

店頭に飾られたグッズの中に見覚えのある顔ぶれがあった。

というか、いつも見ている顔だった。

急に興味がわいて、柄にもなく店の中に入ってみれば、店の入口付近、目立つところに作られた特設コーナーにμ’sのメンバーのグッズが所狭しと並べられていた。

”人気急上昇中!”のポップがたてられ、実際いくつかのグッズは売り切れている。

身近な人間がこうして有名になってきるのはなかなか不思議な気分だ。

ギャラだのなんだのはどうなってるのだろうか……などとぼんやり考えながら、京助は店内を物色する。

 

 

「おいおい、これ肖像権大丈夫なのかよ……」

 

 

思わず苦笑を浮かべる彼の視線の先にあったのは、三人組スクールアイドルの写真だった。本人たちの目線が明らかにおかしな方向に向いており、ひと目で許可なく取られたものだと分かる。

A-RISE……以前、京助が広告塔で目にした有名なスクールアイドルだった。

人気が出るということは、それだけ面倒事も増えるということなのだろう。

全く難儀なことだと、もう一度写真を眺めて……ふと京助は何か違和感を感じた。

写真の隅っこに映った、男性と思わしき人影。通りすがりの一般人なのだろう、ぼやけてしまって顔が分からないが、しかし、京助は彼をどこかで見たような覚えがあった。

 

 

「……?」

 

 

なんとも言い表しづらい、不思議な感覚だった。

一種の懐かしさのようであり胃が締め付けられるような不快感でもある。

じっと写真を覗き込むうちに、その正体が朧げながら頭に浮かんできたところで、京助は考えるのをやめた。

あまり深く考えてはいけない気がした。

どうせ自分には関係のないことと、そう言い聞かせて彼は再び適当に店内をふらつき、結局μ’sのコーナーに戻ってしまう。

 

――まぁ、知らない仲じゃないしな

 

陳列された商品を眺めているうちに、何となくグッズの一つでも買ってみるかという気分になっていた。

ストラップやポスター等の商品の中から、棚の端っこの方に置かれたそれに手を伸ばす。それはオイルライターだった。どこにでもあるような安物のオイルライターに、絵柄のプリントされたシールを貼り付けただけのいかにも雑な作り。

もともとライターを探して家を出てきた彼にしてみれば丁度良かった。

足早に会計を終えて店を出る。

今日はもう家に帰ろうかと、そう思った矢先に、

 

 

「京助先輩?」

 

「……げっ!」

 

 

音ノ木坂学院アイドル研究部、スクールアイドルμ’s。

今一番会いたくない集団に出くわしてしまった。

 

 

「その反応はひどいんと違う……ってこれ何回目やろ?」

 

「い、いや……」

 

 

今にして思う。

彼女たちのグッズを買ってしまったのはどう考えても間違いではなかっただろうか?

彼女たちにバレたら、どんびかれるか、さもなければこの後散々いじり倒されるか、どちらにせよ明るい未来が見えない。会計をしたさきほどの自分を殴りたい。

 

 

「京助先輩、今アイドルショップから出てこなかった?」

 

「い、いや。まさかこの俺が……」

 

「えぇ!?お兄さんもやっぱりアイドルに興味があったんですね!!」

 

 

急に目を輝かせた花陽がいつになく積極的に向かってきて、思わず京助も後ずさってしまう。その際に慌てて手元の袋を尻ポケットに突っ込んで……

 

 

「あ!今おじさん何か隠したにゃ!」

 

「な、なんでもねぇ!ただのタバコだタバコ!」

 

「んー?隠すところが怪しいなぁ?」

 

「いや、なんでもねぇっての!……ちょっ、寄るなエセ関西娘!」

 

 

京助の背中を冷たい汗が流れた。

何とかして窮地を脱せねば。

中身のない頭を必死で回転させて、無い知恵を振り絞った末にようやく出てきた答えは……

 

 

「あ!逃げた!」

 

 

踵を返して全力でダッシュ、近くの路地裏に逃げ込み、ゴミ箱やら何やらを蹴倒しながら奥へ奥へと進んでいく。昔取った杵柄で、裏道ならば彼女たちよりも熟知している自信があった。

最早、なりふりに一切構わない必死の逃走だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひでぇ目にあった……」

 

 

公園のベンチに腰掛け、いつにも増して疲れた顔で呟く。

なんというか、タイミングが悪すぎる。やはりあの少女たちとはどこか相性が悪いのかもしれない。

全力疾走で乱れた呼吸をただして、尻ポケットから買ったばかりのライターを取り出すと、やはりそのへんで買ってきた安物のオイルを注入。

一、 二度こするとぼんやりと赤い火が灯った。

 

「ふぅー」

 

 

思えば今日初めての一本目。毎日の日課、これがなくては一日が始まった気がしない

紫煙をあげるタバコをくわえたまま、京助はぼんやりと手元のライターを見つめて困惑の表情を浮かべてしまう。

ノリと勢いで買ってしまったが、割と始末に困る。

普段遣いにはいくらかキツイものがある。アイドルグッズなんて自分には似合いもしないし、そもそも描かれている本人がこれを見たらどう思うのか。

一瞬その辺に放り捨てようとして――もったいないのでやめた。

 

――帰るか

 

煙を舌で転がしながら今日の予定を考える。朝からケチがついてしまって、正直今日一日何もする気が起きない。特にこのまま屋外でなにかをしようものなら、それこそ取り返しのつかないことになりそうな予感さえもする。

今日はもう帰って、自分の部屋でごろごろぐだぐだ、自堕落生活を送るのが一番良いのかもしれない。

半分程になったタバコを二指につまんで煙を吐き出す。このタバコを吸い終わったら帰路につくつもりだった。

ベンチに腰掛けたまま、公園の外を見やる。楽しげに、鬱々と、皆が皆、それぞれの動きを見せながら歩く姿は、案外に見ていて飽きないものがあった。

 

 

「んあ?」

 

 

思わず妙な声が出た。

通りを行く人の中、人ごみをかき分けるようにして走る女の子の姿が目にとまった。

メイド喫茶か何かの店員だろう、この街ではよく見かける格好ではあるが、客引きをするわけでもなく街中を走っているという光景は物珍しかった。

全力疾走――である。

王道的な、ふわふわのメイド服を翻して走る姿は一種異様ともいえた。

あんな格好でよく走れるものだとか、人にぶつかりそうで危ないな、などと目で追いながらぼんやりと考えていたら、

 

 

『きゃっ!』

 

 

案の定、人にぶつかった。

ぶつかられた方は少しよろけた程度だったが、ぶつかった本人ははじかれて尻餅をついてしまっていた。

京助の見ている前で、少女は立ち上がると必死な様子で頭を下げて謝り出す。普通ならそれで終わりそうなものだが、いかんせん相手が悪そうだった。

二人組の、いかにもイマドキといった感じのチャラそうな若い男である。

謝り続ける少女に何事かを言ったかと思うと、彼女は困ったような顔を浮かべていた。

遠目に見ても、何かしらの因縁を付けられているのは明白だった。

 

――ちっ

 

舌打ちを一つ。

こういう所は見ていて面白いものではない。折角のタバコが不味くなる気がして、京助はその場を去るべく腰を上げた。

女の子には気の毒だが、ある意味自業自得の結果だ。自分には助ける義理もなければそんな人情もない。

 

――運がなかったと諦めろ

 

さり際にもう一度彼らの方を見て……彼はその疲れきった目を丸く見開いた。

三人の中に、見知った顔を見つけたのだ。

 

 

「義を見てせざるは勇なきなり、ってか?」

 

 

先ほどとは意見をまるっきり反転させて、足早に少女の方に歩を進めていく。

彼の顔には、ひどく獰猛な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

公園を出て、三人のもとへと早足に向かう。

一人がなにやら言いながら少女の肩に手をかけた。

よく見ればかなり可愛らしい少女だ。

文句ついでにナンパ紛いのことをしているようで、男たちはいやらしいニヤケ面をしていた。

 

――良かった

 

京助はそう思う。

こんな不快な奴相手なら、加減をする必要もない。右の拳を軽く握り締め、

 

 

「おーう、ちょっと兄ちゃん」

 

「!?」

 

 

とん、と。

少女の肩に手をかけていた男の肩を、今度は京助がかるく叩いた。

迷惑そうな顔で振り返った男、その顔の真ん中に京助の拳が突き立った。

男は何も言わずに顔を押さえて崩れ落ちる。指の隙間からこぼれた血が、アスファルトの地面に赤いシミを広げていく。

うずくまる男の脇腹を、今度は容赦なくつま先で蹴りつけた。

 

 

「てめぇ!」

 

 

一瞬あっけにとられていたもう一人が正気に戻って京助に食ってかかった。

鼻息も荒く、胸ぐらを掴む。

だが、逆にその手首を京助に掴まれ、手の甲に、まだ煙を上げ続けるタバコが押し当てられた。

肉の焦げる音がした。

 

「ッ――!」

 

 

苦鳴をあげようとしたところで頬を張って黙らせる。

突然の襲撃からの一連の流れ――明らかに手馴れた動きであった。

 

 

「よう、久しぶりだな」

 

 

声を掛けられた男は、訝しげな顔で京助の顔を見て――この世のものではないものをみたとでも言わんばかりに凍りついた。

 

 

「てめっ、喧嘩屋!?」

 

 

言い切る前に男の鳩尾に肘をいれて黙らせる。

前のめりにうつむいて荒い息を吐く男をみながら、

 

 

「ちげぇよ。今の俺はパン屋さんだ……それよかてめぇ、こんなとこで会うとは面白いめぐり合わせだな。え?」

 

「お前、女に刺されて死んだんじゃ……」

 

「何でそんな噂が広がってんだよ……まぁいいや、ともかく」

 

 

京助の掌が、男の顔を鷲掴みにした。

両手をもってして引き離そうと抵抗するが、指先一つ動く気配がない。

まるで鋼のようだった。万力のごとき力が、指の一本ずつにかかっていた。

 

 

「いつぞやも言ったよな?次に俺の前で面白くねぇ真似したら……その顔引っぺがすってよ?」

 

 

京助の顔に、獰猛な獣を思わせる笑みが深く刻まれた。

右腕の筋肉が、シャツの袖を破らんばかりに膨れ上がる。

男は自分の頭蓋から上がる歪な音にかつてない恐ろしさを感じていた。指先が顔に食い込み、肉をえぐるところを想像して、一気に血の気が引いていく。

指の間から見える京助の顔いっぱいの笑みの凄惨さ。

喜悦に満ちた顔をしていた。

最早悲鳴さえも上げられない程に、全身を恐怖が貫いた。

 

 

「冗談だ、真にうけてんじゃねぇよ」

 

 

す、と京助が手を離した。

さっきまでが嘘であったかのように、京助の顔からは凶相が完全に消え去っていた。

男は青ざめ、恐怖に引きつった顔のまま2、3歩あとずさったかと思うと、そのまま踵を返して全力で駆け出していた。

 

 

「おーい、友達おいてくんじゃねぇよ、っと、こっちももう逃げ出してたか」

 

 

気がつけば最初にノした男の姿も見えない。どうやら京助が見ていないうちに一足先に逃げ出したらしかった。

 

 

「さてと、と。気をつけな、嬢ちゃん。世の中いい人ばかりじゃ……」

 

 

振り向きながら言ってみるが、彼の後ろには先ほどのメイド服の少女もいなかった。

揃いも揃って実に鮮やかな逃走である。

呆れるやらなにやらを通り越して、感心してしまう。

 

 

「……やべ」

 

 

気がついてみたら、道行く人の視線がこっちに集まっていた。

白昼堂々、通りで喧嘩なんて始めたらこうなるのが当然である。まもなくすれば警察がきてもおかしくはない。

深い溜息を一つ。

 

 

 

京助は先ほどの三人に見習って、全力でその場を後にした。

 




こんばんは、北屋です。
いやいや、忙しい日々で更新に時間がかかりました。
もうちょいペースを上げたいところです……

先日、作家仲間の方々とオフ会してきました。
有意義で楽しい一日となり、自分も物書きとしてもっと頑張っていこうと思えました。

ではでは、次回も頑張っていきますよー!
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