ラブライブ! ―夢を追って―   作:北屋

25 / 62
第二十三話 過ぎし日、友の名

「五本指ソックス……気持ち良い……」

 

 

日も傾き始めた時分の店内、客もまばらな中でブツブツと呟きながらノートと睨めっこをしていることりの姿があった。

 

 

「あー……何、してんだ?」

 

 

いつもは複数人で来ているはずの彼女たちが、今日に限ってことり一人だけというのが珍しく、コーヒーのお代わり片手に、なんとはなしに尋ねてみる。

すると、ことりは泣きそうな顔で京助を見つめ、

 

 

「新曲の作詞を頼まれちゃって……上手くできないんです……」

 

「作詞って……園田ちゃんの仕事じゃなかったっけか?」

 

「今回、アキバでライブをすることになって……一番詳しいだろうからって私が任されたんですけど……」

 

 

ちらり、と京助がノートの中を見てみれば、そこに並べられたのはまとまりのない言葉の群れだった。

書いては消し、消しては書き、相当な苦心の痕が見受けられる。

 

 

「そりゃまた難儀な……」

 

 

かける言葉が見つからなかった。

バンドをやっていた頃は作詞担当者に丸投げしていたものだが――旅の最中はそういうわけにもいかず、自力で作詞作曲をしていたため、彼女の苦労は痛いほど分かる。

何の予備知識もないまま、言葉を紡いでいくことの難しさ。

 

 

「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、助けてー……」

 

 

ここにいない親友二人の名前を出して助けを求める彼女を見て、京助は思わず苦笑を浮かべる。

いくらその気持ちがわかるとはいえ、完全に他人事であれば、見ている分には愉しいのだ。

 

 

「まぁ、頑張れよ。応援くらいはしてやるから」

 

「そういえば、津田さんも作詞とかの経験あるんですよね?」

 

 

くるりと踵を返してカウンターに戻ろうとする京助の背中に、問が投げかけられた。

 

 

「ん?あぁ、まぁ、な」

 

 

嫌な予感がした。

 

 

「お願いします!手を貸してください!!」

 

「……は!?」

 

 

一瞬、何かの冗談かと思った。

だが、すぐにそうではないことに気がつく。上目遣いで見つめる少女は真剣そのものであった。

 

 

「待て待て待て!俺は作詞なんざ出来ねぇって!」

 

「でも経験あるんですよね?」

 

「あるったって、それとこれは話が別だ!」

 

「津田さん……おねがい!」

 

 

キラキラとした、潤んだ瞳。上目遣いで縋るように言うその仕草。

思わず、喜んで!と答えそうになって、京助ははっとしたようにカブリを振る。

 

 

「その手には乗らん!他をあたってくれ!」

 

「そんなぁ……前に力を貸すって言ってくれましたよね?」

 

「ぐっ……そりゃ言ったけど、流石に無理なもんは無理だって!だいたいよ、それはお前らの歌だろ?こんなロクデナシが関わったらロクなもんにならねぇっての」

 

 

一瞬、言いよどんでしまったが意地でも拒否の姿勢を崩さなかった。

 

 

「うー……」

 

 

流石に諦めたのか、彼女は泣きそうな顔でノートに向き直ってみる。しかし、一向にアイデアは浮かんでは来ないようである。

 

 

「あー……なんだ、その、頑張れよ」

 

 

京助ができたことは、そんな在り来りな励ましの言葉を送ることだけだった。

 

 

「頑張れ、って言われても……」

 

「あー……ちっ」

 

 

頭を掻いて、舌打ちを一つ。

落ち込み気味の彼女を見ていたら、どうにもこうにも、口を出さずにはいられなくなってしまった。

 

 

「深く考えんな」

 

「え?」

 

「あんまし悩んでも面白いもんは浮かばねぇし、言葉をこねくり回したところでどうにかなるもんでもない。まずはリラックスしてみな。目を閉じて深呼吸」

 

「リラックス……」

 

 

京助に言われた通り、ことりはペンを置いて目を閉じ、ゆっくりと深い呼吸を重ねていく。

 

 

「そんで、思い浮かべてみろよ。自分がバイト先にいるときのこと、どんな気分であのバイトを始めたのか」

 

「どんな……」

 

「それを、そのまま歌詞にすれば良い。あんまり悩むな、自然でいけ」

 

 

それだけ言って、京助はそっとその場を離れたかと思うと、目を閉じたままの彼女の前に小さなカップケーキを置く。

 

 

「……頑張れよ」

 

 

小さく、それこそ彼女には決して聞こえないような声。

そこには普段の彼からは想像もつかないような優しい調子が含まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつにも増して気落ちした風にことりが出て行った店内。

ほかのお客さんもポツリポツリといなくなり、ガランとした店内で、京助は淹れたばかりのコーヒーをすすった。

 

――平和だ……

 

煩わしい少女達もいないひと時は、彼にとって癒しの時間だった。

だが――

 

 

「なんか、しっくりこねぇな……」

 

 

言ってしまってから口を塞ぐ。

まさか、そんな事が口をついて出るとは思わなかった。

望んでいた平穏のひと時であったはずなのに、最近ではその時間が素直に楽しめないようになってきていた。

その理由には思い当たる節がある。大変不本意だが、それはきっとあの少女達のことだ。

 

――あのガキ共のせいか……

 

煩わしくて喧しくて、面倒くさくて仕方ない彼女達のこと。

中年扱いされるは振り回されるは、ロクな目にあった試しがない。

それなのに何故か放っておけないのは、彼女達の個性によるところだろうか?

向こう見ずなリーダーを筆頭に、堅物に世間知らず、生真面目、不思議、見栄っ張り、天邪鬼に天然、お馬鹿……

本当に見ていて危なっかしい。思わず手を差し伸べたくなるほどに。

 

 

「ちっ……」

 

 

そんな彼女達との関わりが、不思議と楽しく思える自分がいて、何となく舌打ちを一つ。あるいはそれは彼なりの照れ隠しなのかもしれなかった。

 

――からん

 

「っと」

 

 

不意に来客を告げるドアベルの音が響いた。

目線だけをそちらに向けると、そこにいたのは――

 

 

「津田さん、いる?」

 

「ぶっ!げほっ……!」

 

 

タイミングが良すぎる来客に、思わずコーヒーを吹いた。

入ってきたのは、今さっきまで考えていたμ’sの内の一人。赤い髪が特徴的な天邪鬼の……

 

 

「……ッ、よう、西木野ちゃん。いるも何も、店が空いてりゃ俺がいないわけねぇだろ?」

 

 

いつもどおりのからかうような軽口に、いつものように冷たい視線が返ってきた。

このやり取りも慣れてきて、少し楽しい。

 

 

「珍しいな、一人で来るなんて。饅頭娘達は今日見てないし――ひよこ娘もさっき帰ったばっかだぜ?」

 

 

真姫は答えなかった。

いつもなら適当に冷たいことを言って席に着くのに、今日の彼女はどこか妙だった。悩ましげに髪をくるくると弄り、何事かを思案していたかと思うと、カウンターに近づき、意を決したように、

 

 

「津田さん」

 

「んだよ?」

 

「今日はお願いがあって来たの」

 

「あ゛?」

 

 

彼女が素直に彼に何か頼み事をするところなんて想像出来なかった。

ゆえに、嫌な予感しかしない。

思わず聞き返す口調が濁ってしまう。

 

 

「にこ先輩に、昔のCD聞かせて貰ったわ」

 

「……良い。それ以上言うな。ってか、俺を巻き込むのをやめろ」

 

 

昔のCD――

現役で活動していたころのことはあまり触れて欲しくなかった。眉間にしわを寄せて嫌そうな顔をする彼に、残念ながら真姫は気がついてはいなかった。

 

 

「ギターは二人でやってたみたいね。……多分だけど、エフェクターも何も使ってない、大雑把で力強い方があなたでしょ?」

 

「……あぁ、そうだよ。悪いかよ」

 

 

大雑把で力づく。これといった特徴もない音が彼のギターだった。

技量も何もかも今一つで、せめて仲間に負けないように我武者羅に弾くしか脳のない弾き方。ただ弾くので精一杯で、技法や技術まで手が回らない。

今となっては、当時の音源を聞くたびに自分の無才を見せ付けられるようで気分が滅入ってくるばかりだった。

真姫は首を振り、

 

 

「ううん悪くない。むしろ、なんていうのかしら?音に血が通ってる感じがする」

 

「血、ね……ただ無茶苦茶やってただけだ」

 

 

才能の欠片もないのに無理をして無茶をして、無謀を重ねて……その結果何も手の中には残っていない。

所詮、無才がいくら努力を重ねたところで、ひと握りの天才に勝てる道理もないと知っただけで、彼女の言うことは下手な慰めにしか聞こえなかった。

 

 

「本当に音楽が好きで、何か目標があって、だから努力をして、本気で取り組んで――そうやって弾いてるのが聴いてる方にも伝わってくる。まるで――」

 

 

――私達みたい

 

そう言いかけて真姫は口をつぐんだ。

 

 

「よせ」

 

 

京助は力なく、彼女を制する。

これ以上、古傷をえぐられたくはなかった。

 

 

「……ギター演奏をお願いしたいの」

 

 

彼女は、少し言いよどんで、単刀直入に告げた。

それは京助にとって死刑宣告のように重いものに聞こえた。

 

 

「……」

 

「どうしても、私の技術だけじゃ曲を作るのに限りがある。ピアノならともかく、ギターなんて私には専門外すぎる」

 

「……なるほど。餅は餅屋、ってわけか」

 

「えぇ。以前に、手を貸すって言ってたの思い出して……だから、」

 

「断る」

 

 

果たして、京助の口をついて出たのは短く、そして揺るがぬ思いを込めた拒絶の言葉だった。

 

 

「……理由を聞いてもいい?」

 

 

京助は黙り込んだ。

時計の秒針の刻む音だけが、店内に木霊する。

渋い顔をしたまま、彼はコーヒーを一口すすって、重い口を開いた。

 

 

「達人ってのは、そうそう技を安売りしねぇもんだ」

 

「え?」

 

「俺とお前らの間には、そんだけの差があんだよ」

 

「ッ!」

 

 

京助のあまりの言い草に、真姫は唇を噛み締める。しかし、反論することはしなかった。

 

 

「こちとら、腐っても元はトップレベルまでいったバンドのギタリストだ。A-RISEクラスならともかく、ぱっと出のガキ共にはもったいなさすぎる」

 

 

真姫だって分かっていた。こんな不躾で急な頼みが通るはずがないと。

ましてや、相手は相当な実力者なのだから、断られることも十分頭では理解していた。

それでもこうして頼んだのは、そして断られたことにわずかながらショックを覚えてしまうのは、どこか彼女の中に彼に対する甘えがあったからかもしれない。

 

――手を貸す

 

そう言ってくれた、この青年に対して。

京助はそんな彼女の様子を無表情にながめて――やがて、にやり、と不敵に笑った。

それは、彼が始めて彼女に見せる優しい笑みだった。

 

 

「この俺に演奏して欲しいんだったら、それ相応の腕をつけてから来い」

 

 

彼の言葉の意味を逡巡して、真姫は驚いたように顔を上げる。

そこに秘められた意味は、つまり……

 

 

「それって……」

 

「そうさな。そんな実力を――それこそ、A-RISEなんかと真っ向勝負出来るくらいの実力をつけてきたなら――喜んで引き受けてやるよ」

 

 

京助はそう言って、彼女に背を向けた。

 

 

「俺に頼むな。俺が頼むからやらせてくれっていうようなチームを目指してみせろ」

 

 

コーヒーを淹れに、バックヤードに向かいながら彼は小さな、しかしはっきりとした声で言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソがッ!!」

 

 

閉店後のガランとした店内。

京助は壁を思い切り殴りつけて毒づいた。

血の滴る、割れた拳を見つめて、彼は笑みを浮かべた。それは先ほど真姫に見せた笑みとは打って変わって、哀愁の漂うものだった。

悲痛な、壊れた笑みだった

 

――俺は何をしてるんだろう

 

拳を握りしめて、京助は自分に問う。

やりたいことをすれば良いと、散々説教を垂れておいて、今の自分のザマは何なのだろうか。

本心を言うならば、ことりに助けを求められた時、真姫に曲作りの手伝いを頼まれた時、嬉しくて仕方がなかった。

夢を失い、何もなくなったこんな自分にも、まだ出来ることがあるのだと、新たに夢を追いかける彼女たちの踏み台くらいにはなれるのだと、そう思うだけで灰色の景色が色づいて見える気さえした。

だが、それはただの幻想に過ぎない。

 

 

「……差が、ありすぎんだよ」

 

 

悲しげに、呟く。

その言葉通り、京助は自分とμ’sとの間に差があることを見抜いていた。ただし、それは彼の方が優れているということではない。

優れているのは――

 

 

「お前らにしてやれることなんて、俺にはねぇんだよ……」

 

 

真姫に対してあぁ言ったのは、泣けなしのプライドを守るための醜くてどうしようもない嘘でしかない。

9人となってからのμ’sのパフォーマンスは正直、凄まじいものがあった。アイドルといった分野に興味がない京助でも――否、そういった方面に疎い京助だからこそ、その実力がよく分かってしまった。

ダンスの技量、音楽の完成度、歌唱力の高さ、そして、人を魅了する力。どれをとっても彼女達の成長ぶりには目を見張るものがある。

特に音楽分野に関しては、とっくに京助が口出しできるレベルを超えてしまっていた。

才能の差。

一言で言ってしまえば軽いが、その壁の厚さを京助は誰よりも知っている。

あるいは、まだ彼女達と同じくらいだった頃の京助ならば、そんな壁を死に物狂いの努力で乗り越えて見せたのかもしれない。だが、現実を知り、確かな才の差をいうものを知ってしまった彼には、足掻いてみせる気力も立ち向かう精神力も僅かすら残っていなかった。

 

 

「畜生が……」

 

 

静かに、もう一度噛み締めるように呟く。

全て理解しながら、それでも必死で体裁を繕おうとする自分が、ひどく醜く思えて、消えてなくなってしまいたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っくそ、間に合わなかったか」

 

 

ひと段落したのをいい機会とばかりに、京助は早めに店を閉じ、秋葉原の街の中へ駆けつけた。

ことりが作詞したという曲を聴くため、そして彼女たちの秋葉原ライブを見るためであったが、少し遅かったらしい。

ライブのことを語りながら帰る人だけがちらほらと見受けられる。誰もみな晴れやかで楽しそうな顔をしているところを見ると、どうやら彼女達は上手くやったらしい。

 

 

「今回も、ちゃんと見れなかったか……」

 

 

ファーストライブは途中で切り上げたし、その他のライブも画面上でしか彼女たちの勇姿を見ておらず、今回こそはと思ったものの宛が外れて少しだけ、もったいないような気がしていた。

タバコを口にくわえ、仕方なく歩き出す。

行き先は神田明神。

自分には何も出来ないからこそ、せめて彼女たちの今後の成功を祈ることだけでもしてやりたかった。京助にしては珍しい考えだった。

神社の裏門、男坂の急な石段を一歩ずつ登っていいく。夕暮れの、紫色の空は目に染みるほどに美しい。

紫煙を漂わせながらゆっくりと段を登るうちに、京助の耳に誰かの話し声が聞こえてきた。

 

 

「私達、いつまで一緒にいられるのかな?」

 

「どうしたの、急に?」

 

 

聞き覚えのある声だった。

 

 

「だって、あと二年で学校も終わっちゃうでしょ?」

 

「大丈夫だ。心配するな」

 

 

切なげに言うことりに、京助は思わずそう声をかけていた。

 

 

「え……津田さん?」

 

 

石段を登ってきた彼に今気づいたのか、きょとんとした顔を見せる穂乃果、海未、ことりの三人に、京助はひどく優しく微笑みかけていた。

 

 

「大丈夫。縁ってのは……友達ってのは、さ。そうそう簡単に離れたりするもんじゃない。俺が保証してやるよ。お前たちは……きっと大丈夫」

 

 

夕日に照らされた彼の笑みに見とれるかのように、彼女たちは京助を上段から見下ろしていた。

ことりが何かを言いかけた時、穂乃果が急に彼女に抱きつく。

 

 

「そうそう!大丈夫だよ!ずっと一緒!ことりちゃんと海未ちゃんとずっと一緒にいたいもん」

 

「穂乃果ちゃん……うん!ずっと、一緒にいようね」

 

「えぇ!」

 

 

手をつなぐ彼女達を見ているうちに、照れくさくなったのか京助はそっと石段を降り始めていた。

 

 

「津田さん!!」

 

 

その彼の背中にことりの声が投げかけられる。

 

 

「ありがとうございました。作詞のことも……この間のことも」

 

 

彼は振り返らない。ただ、片手を軽く後ろ手にふって……ゆっくりと帰路につくばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……我ながら、臭いこと言っちまったな」

 

 

チビたタバコを携帯灰皿に押し込みながら、京助は呟く。

自分にはあんなことを言う資格なんてないと、わかっているのに。友達を裏切った自分が、友達のことを話すなんて、今考えると笑えてきた。

 

 

「いい加減、逃げられないか……」

 

 

仲間達から逃げ出して、夢から逃げ出して、そうして結局はこの街に帰ってきた。

いまさら、逃げ場所なんてどこにもなかった。

 

 

「難儀な……ッ!?」

 

 

自重のセリフを言いかけ、京助は勢いよく振り返る。

彼は背筋を走る、悪寒のようなものを感じ取っていた。誰かに見られているような、そんな感覚。

鋭くつり上がった目で辺りを見渡すが、周囲には誰もいない。京助の動きに驚いた猫が目を丸くして見つめているだけだった。

 

 

「気のせい、か?」

 

 

――まぁ、いいや

 

首をひねりながらも、京助は気を改めて携帯を取り出して操作する。ディスプレイに表示された番号は、かつての仲間の――彼の幼馴染のものだった。

 

 

「……あ!もしもし?俺だけど……」

 

 

携帯の向こうから聞こえてくるのは驚きと怒りの混じった大声。

今まで何をしていたのか、何で連絡をよこさなかったのか……そんな質問の連続。しかしそれも、しばらくすると、懐かしさの混じった、懐かしい調子に変わっていった。

 

 

「あぁ……ただいま」

 

 

彼の声が、夕暮れの涼しい空気の中に溶けていった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ……」

 

 

夕暮れの街、小さく微笑む青年が一人。

電信柱によりかかり、携帯のディスプレイを操作する顔は、愉悦と好奇、そしてほんの少しばかりの懐かしさを浮かべている。

ひどく、優しい笑みだった。

そして――どこまでも、酷薄な笑みだった。

 

 

「まさか、こんなことになってるとはね」

 

 

画面に映し出されるのは、μ’sのメンバーの写真。先ほどのライブの風景だった。

スライドして次々に画像をめくる指先が不意に止まる。

そこに映し出されたのは、ある一人の青年の、疲れた横顔だった。

 

 

「やっと、見つけたよ」

 

 

そう言った時、不意に携帯が振動を始めランプが光りだす。

着信――画面に映し出された相手を確認してから彼は電話をとる。

 

 

「やぁ、どうしたの?え、僕は今秋葉原にいるけど……あ、練習今日だっけ。ごめんごめん。――それはそうと、さっき面白いもの見たよ」

 

 

形態の向こう側から聞こえる不機嫌そうな声を軽く流しながら、彼は楽しげに告げる。

 

 

「μ’sってスクールアイドルなんだけど……あ、なんだ知ってた?そっか――でも、これは知らないんじゃないかな?うん、じゃあ、後で話すよ。じゃあね――ツバサちゃん」

 

 

相手が通話をきるのを確認して、彼は携帯電話をポケットにしまいなおすと、彼はそっと目を閉じた。

まぶたの後ろ、闇の中に浮かんでくるのは先ほど見たライブの風景、そして……

 

 

「腐れ縁ってこういうことなのかな?これはまた、面白くなりそうだね。……ねぇ、京助?」

 

 

誰に対していう訳でもなく、彼は心底嬉しそうにかつての友の名を口にするのだった。

 




こんばんは、北屋です。
さて、新キャラ登場です!
……とはいうものの、最後に出てきた彼はしばらく出番ありませんがw
次回は別の、京助の電話相手が出る予定です。

では、次回も頑張っていきます!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。