ラブライブ! ―夢を追って―   作:北屋

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今回は後半、京助のみのパートとなります。


第二十四話 合宿・海・再会

「暑い~」

 

「夏だからな」

 

 

毎度のこととなった、練習終わりのカフェでのひと時。

いつでも元気がトレードマークの穂乃果だが、流石に堪えているのか机に突っ伏して、今にもとろけそうな様相を見せていた。

季節は巡り、新緑の季節。

耳を澄ませばどこからともなく蝉の声が聞こえてくる頃。大分日も伸びて、放課後である今の時刻も太陽は燦々と輝いている。

初夏の時分、とはいえ今年の夏は例年に比べて幾分か暑くなるらしい。そっけない態度で答える京助も、ダルそうに手で顔を扇いでいた。

 

 

「先輩~、冷房とかかけないの?」

 

「初夏からそんな無駄遣いしてたら破産するっての……ほらよ、これで我慢しやがれ」

 

 

キンキンに冷えた飲み物の上に、特別にアイスクリームをたっぷり乗せたフロートを9人分。

暑さに閉口していたメンバー達も、目を輝かせる。

いつもならば制止にかかる海未も、この時ばかりは暑さに負けたのか、何も言わずに口をつけ始める。

 

 

「おじさん、太っ腹にゃ!」

 

「俺が中年太りって言われたように聞こえるんだが、気のせいか?」

 

 

眉をひそめて彼もまたカウンターの向こう、自分の椅子に腰掛ける。

無糖ブラック、ホットコーヒー派の彼も、今日はアイスコーヒーに宗旨変え。冷たい苦味を舌の上で転がして、ほっと小さなため息をつく。

 

 

「しっかし、お前らもこんな暑いなか練習大変だな……熱中症には注意しろよ?」

 

「うん?津田くんがうちらの心配なんて珍しいやん?明日は雪でも降るんかな?」

 

「けっ……言ってろ」

 

 

希にからかわれて、京助は手元の新聞に視線を戻す。

天気欄にはこれから一週間、ずっと晴れマークが続いていた。

 

 

「そうよ!こんな暑さの中、練習なんて干からびるわよ!?」

 

「そんなこと言ってても仕方ないでしょ?日々の積み重ねが重要なんだから」

 

 

にこの苦情に、絵里が語尾を強める。彼女もこの温度の所為で少しイラついているらしかった。

敏感にそれを察したのか、一年生の花陽が怯えたようにびくりと肩をすくめる。同じ部活のメンバーとはいえ上級生、まだ馴染みきれていないところがあるらしい。

 

 

「あ……花陽、これからは先輩も後輩もないんだから……ね?」

 

「は、はい!」

 

 

彼女たちのやりとりを横目にちらりと見て、京助は新聞に隠れて微笑を浮かべた。

堅物で融通のきかなそうだった絵里が、こうして少しずつではあるが歩み寄っている。人は変われば変わるもの――いや、もともとの性格を素直に出せるようになってきたのだろうか。

 

 

「悪く、ねぇな……」

 

 

小さく、呟く。

巻き込まれたり、ツッコミをいれたり、たまに心配をしてみたり。そんな煩わしい日々も、この頃ではそう思えるようになってきた。

案外、妹を持つというのはこういう気分なのかもしれない。

 

 

「え?津田さん、何か言いましたか?」

 

「いや、何でもねぇ……っと?」

 

 

不意に、ポケットにいれていた携帯電話が震えだした。

一瞬とろうかとるまいか悩んだが、店内にいるのが彼女達のみなのを確認して、バックスペースへと移動する。

 

 

「おっす。ん?あぁ、大丈夫……」

 

 

先日、久方ぶりに連絡をとったばかりの旧友からの電話だった。

久しぶりに会って話がしたいこと、遊びに行きたいという誘いである。

京助にしてみても渡りに船、かつてのことを詫びるためにも……逃げ出した過去に決着をつけるためにも、彼らに会う必要があった。

 

 

「……オッケ。じゃ、その日にな」

 

 

約束を取り付けて、電話を切る。

実に三年ぶりの、友との約束。懐かしさが勝る反面、不安が心をよぎった。

 

 

「そうだ!合宿行こうよ!」

 

 

京助が店に戻ると、唐突に穂乃果が声を張り上げた。

席を外していた間の会話は分からないが、多方暑さを避けて練習がしたいとかその辺りのことを話していたのだろう。

新聞を広げ直して、BGM代わりに彼女たちの会話に耳を傾けながらコーヒーを口に含む。

 

 

「合宿って……でも、どこに?」

 

「海だよ!」

 

「でも合宿費はどうするんですか?」

 

 

海未のツッコミを受けて一瞬ひるんだかと思うと、

 

 

「ことりちゃん、バイト代っていつ入るの?」

 

「えぇ!?」

 

「ぶっ、けホッ……お前、友達のバイト代にたかるなよ」

 

 

突拍子もないことを耳にして、コーヒーでむせた。

 

 

「えぇ~ちょっと借りるだけだよ?……そうだ、パン屋さん、」

 

「貸せる金はねぇし、バイトも募集してねぇからな?」

 

「むぅ……」

 

 

先手を打って少女を黙らせる。

最近になってようやく扱いが分かってきたのか、涼しい顔でコーヒーを口にする。

今日の豆は少し酸味が強い。

 

 

「それじゃ、真姫ちゃん、別荘とかあったりしない?」

 

「えぇ!?……あるけど……」

 

「ホントに!?真姫ちゃん、お願い!」

 

「ちょっ、そんな急に……」

 

 

潤んだ目で見つめる穂乃果に、期待の目で見つめるメンバー達、計16の瞳に見つめられて、さしもの真姫も言葉を失う。

やがて、観念したのか

 

 

「仕方ないわね……相談してみるわ」

 

「やったー!!!」

 

 

頷いた彼女を見て、8人はそれぞれ、今にも小躍りを始めそうな勢いで喜び始めていた。

冷静な海未やことり、絵里までも傍から見て嬉しそうな様子が分かって、何だか少し面白い。

 

 

「……難儀な、ことだ」

 

 

煩わしそうに、京助は浮かれる少女たちから新聞の釣りの欄に目を移した。

今の時期はいい形のキスが上がっているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京駅構内、休日の朝とはいえ、日本の中心だけあってほどほどの混み具合となっている。

そんな中で、片隅に集まる少女の一団――言うまでもなくμ’sのメンバーである。

 

 

「うーん……やっぱりなかなか慣れないね……」

 

「そう?意識するからよ。すぐに慣れるわ」

 

 

荷物を抱えて改札をくぐっていく少女たち――お互いにかけあう声がいつにも増して硬いように思えるのは気のせいではないだろう

なぜなら、彼女たちは先輩後輩にかかわらず敬語や敬称を使うことをやめたのだ。

活動を続けていく中で、上下関係といったくくりは邪魔になると、そう思っての絵里と希からの提案だった。その試みに全員が賛成し、今日から実施となったのは良いものの、いかんせんまだ不慣れなところがある。

それでも少しずつ慣れていけばいいと――絵里はそう思っていた。

 

 

「おっと、君」

 

 

改札を最後に通ろうとした凛に、不意に声が掛けられた。

振り向いた先にいるのは一人の若い男。

釣りでもする気なのか、一本の竿ケースを肩からかけている。

年の頃は10代後半から20代前半、京助の実年齢とおよそ同じくらいだろうか。身長は170cm弱、何かスポーツでもやっていたのか、やたら分厚くガタイの良い体が印象的な男である。

そんな体に反して、幼さのようなものを残した、どこか人好きのする顔をしていた。

 

 

「え……?凛?」

 

 

恐る恐るといった風に凛が立ち止まり、改札の向こうに立つ花陽達に一瞬視線を走らせる。

だが、男は不安げな彼女達に気づいていない風に早足で凛に近づき、その手を差し出した。

ごつくて大きな手である。だがそこに収まっていたモノに彼女は見覚えがあった。

 

 

「あ、凛の財布!!」

 

「これ、君のだろ?さっき落としたぜ」

 

 

猫があしらわれた可愛らしい財布を男から受け取って、彼の顔を恐る恐る見上げる。

 

 

「あ、あの……ありがとうございます!」

 

「いいっていいって。まぁ、気をつけな」

 

 

男はその顔をくしゃりと崩して優しく豪快な微笑みを浮かべると、後ろでに手を振って券売機の方に歩いていく。

男の羽織ったジャケット、その背中が何故か妙に目に残った。数字を飾った何かのロゴ、それはどこかで見覚えがあるものだったが、それが何なのか思い出せない。

 

 

「……あれ?」

 

「ちょっと凛!何やってんのよ!?」

 

「あっ、ごめんごめん!すぐ行くにゃ」

 

 

にこに声をかけられて改札を通った時には、そんな小さなひっかかりなど頭の片隅からも消え去っていた。

 

 

 

 

 

「すまん、遅れた」

 

「遅ぇよ……まぁ、いつもどおりっちゃいつもどおりか」

 

 

券売機前の柱によりかかる男に、京助は申し訳なさそうに声をかけた。

男は柱に預けていた背を離して、呆れたように言うと、男は京助の格好を頭の天辺からつま先までしげしげと眺めた。

 

 

「しっかし、えらいガチ装備だな」

 

「遊びってのは、本気でやってなんぼだろ?」

 

 

作業ズボンにTシャツ、ジャケットを羽織ったどこか薄汚れた服装。およそ都会の駅には似合わない姿ではあるが、彼の纏う疲れきった雰囲気のおかげであまり違和感がない。

加えて片手にはクーラーボックス、背中にはリュックサックと長い竿ケースという、明らかなアウトドアスタイルのおかげで、むしろ格好が様になっている。

しかし、その背中に竿ケースと交差するようにして背負われたギターケースがそんな調和を何もかもぶち壊しにしていた。

青年は、溜息を一つついて、諦めたように目を伏せる。

 

 

「そんじゃ、行こうぜ。電車の時間は大丈夫なのか?」

 

「お前が遅れたおかげで次の電車までまだ30分はある。お前のそういうだらし無いところは変わらないな」

 

「あいにく生まれついてのもんでね。齢20を越えちまったら直しようもないってもんさ」

 

 

男の皮肉に、京助はカラカラと快活に笑って答える。

粗暴でともすれば暗くも映る、いつもの彼とは打って変わって、別人のようであった。かつての友との再会で出てきたこちらこそが、あるいは彼の本質なのかもしれない。

 

 

「ま、仕方ないし、ホームまで行ってゆっくり待とうや。急ぐ旅でもないわけだし」

 

「遅れてきた奴が言うセリフか」

 

「気にすんなって。行こうぜ、歩」

 

 

歩――野間歩。

それが、津田京助の幼馴染にして、彼と共に同じ夢を追いかけて、その果てに挫折を共にした、かつての仲間の名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あちぃ!!」

 

「夏だからな」

 

 

太陽が燦々と照りつける青空の下、電車を降りて歩くこと15分。目的地にたどり着いた二人は強すぎる日差しに目を細めた。

気温は高いが、湿度は低め、からっとした気持ちの良い天気である。コンクリートの堤防の上、照り返しで余計暑く感じるのは気のせいではないだろう。

 

 

「ほいじゃ、始めますかね……」

 

 

京助は竿ケースから一本の釣竿を取り出し、同じくバッグから取り出したリールを取り付ける。長さ4mはあろうかという遠投用の竿に、大型のリール。

慣れた手つきでジェット天秤と出来合いの仕掛けをつなげ、3つの針にそれぞれ虫餌をかけていく。

 

 

「投げで、キス狙いか?」

 

「あぁ。欲を言えばカレイとかかかれば嬉しいんだが。そういうお前は根魚か」

 

 

よっこらせ、と仕掛けのついた竿を持ち上げながら、京助は歩の仕掛けをちらりと見やる。リールから伸びる糸の先には真っ赤な重りとそれにくっついた針が見えた。

 

 

「ロックフィッシュって言えよ。いちいち爺むさい言い方しないでさ」

 

「そんなん好みの問題だろうが、よ……っとぉ!!」

 

 

思い切り振りかぶった竿を真正面に打ち下ろす。

竿のしなる勢いをそのままにジェット天秤の重さに乗せて、丁度いい位置で糸にかけた指を離すと、しばし仕掛けは宙を舞った後に京助の狙い通りの場所まで飛んで着水した。距離にして30m、水深はよくわからないが、一先ず着水から10カウントをとってガイドを倒し、リールを巻いてたるんでいた糸をピンと張る。

投げ釣りは基本“待ち”の釣り。こうして一度投げてしまえばアタリが来るまでは暇となってしまう。

京助はさらにケースから別の竿を取り出して、サビキの仕掛けを付け始めた。

 

 

「投げだけかと思ったらサビキもやるのか」

 

「この時期は小アジが美味いからな」

 

 

そう言って彼は新しい仕掛けを海に落としこむ。

そこからは二人共無言であった。

時折仕掛けを上下させるのみで、京助も歩も、何も語らない。アタリすらもなく、ただ時間だけが流れていく。

そんな中で、最初にしびれを切らしたのは京助の方だった。

 

 

「……おい」

 

「んだよ?」

 

「聞かねぇのか?」

 

「何をだ?」

 

 

何を――とは言わない。言わずとも、言いたいことは分かっていた。

分かっていてなお、彼はシラをきる。

しかし、口ごもる京助を見て、彼は呆れたように溜息を一つ、

 

 

「聞いても肝心な所は答えないんだろ?」

 

「む……」

 

「お前は昔からそういう奴だ。身勝手で独善的、周りのことなんてこれっぽっちも考えようとしない。……そんな奴に、何かを尋ねてどうする?」

 

 

あまりの言い草である。

しかし、京助は唇を噛み締めるばかりで何も言い返さない。言い返すべき言葉が見つからない。

なぜなら。彼らを裏切り、その夢をぶち壊したのは自分なのだから……反論をする資格など、これっぽっちも持ち合わせてはいなかった。

いかなる悪口雑言や罵詈罵倒も、甘んじて受け入れるより、手立てがなかった。

 

 

「……意外だな?」

 

 

しかして、歩は驚いた風に京助に目を向ける。

先までの罵りの言葉とは裏腹に、その目には不思議と怒りや嫌味は含まれておらず、逆に京助が面食らってしまう。

 

 

「ここまで言われたら逆ギレしてくると思ったのに――変わったな、お前。何か、あったのか?」

 

「さて、な……」

 

 

一拍置いて、京助はタバコに火を点けると、おもむろにクーラーボックスから二本、缶を取り出した。

 

 

「お!なかなか気が利くもん持ってきたな」

 

「炎天下の釣りとくればこれだろうよ」

 

 

ちょうどいい具合に冷えたビールである。歩に一本を投げて渡すと、京助はそのタブに爪をかける。

ぷしゅ、という小気味良い音に続いて、吹き出した泡を慌てて啜る。

冷たいそれを一口飲めば、火照った体に染み渡る。今ばかりは、この燦々と照りつける太陽に感謝しても良い気分だった。

 




こんばんは、北屋です。
ずいぶん更新に日が空いてしまい申し訳ありません。
今年一年ももうすぐ終わり。
それまでには責めて一期分は終わらせたいものです。
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