ラブライブ! ―夢を追って―   作:北屋

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()長い、夢を見ていた――

 

 

 

 

 

「……ちゃん。……ょーちゃん!」

 

「ん?」

 

「きょーちゃん!起きてよ!」

 

 

けたたましい声によって、夢から引き戻される。

何事かと思って薄目を開ければ、俺の顔の真ん前、めちゃくちゃ近い距離に可愛らしい女の子の顔があった。

 

 

「っ!!うるせぇぞ、穂乃果……」

 

「痛っ!」

 

 

せっかく人がいい気分で眠っていたのに、よくもまぁ起こしてくれやがって……

腹いせにデコピンを一つ。

机から上体を起こして――あぁ、俺は居眠りしてたのか。まさか学校で夢まで見ながら眠りこけるとは思わなかった。

 

 

「んー!ふわぁ……おはよう、俺に何か用か?」

 

 

伸びを一つすると、背中のあたりから軋むような音がした。

最近疲れてたからなぁ……正直まだ眠り足りない気がする。

 

 

「おはようじゃないよ!もう放課後だよ!」

 

「……マジかよ」

 

 

時計を見れば確かにもう授業はとっくに終わっている時間だった。

いや、いくらなんでも寝すぎだろ。

周りを見渡してみれば、教室にいるのは俺と、目の前で頬を膨らませてる穂乃果。

それに――

 

 

「京助!あなたは何をしているのですか……穂乃果じゃあるまいし」

 

「海未ちゃんひどい!私、こんなに寝てないもん!」

 

「どの口がそれを言いますか。あなたもさっき、ことりに起こしてもらっていたでしょう?」

 

 

穂乃果に海未にことり。小さい頃からの幼馴染共。

……どうでも良いが、いつ見ても騒がしいな、お前ら。

勘弁してくれ、起き抜けに騒がれたら頭が痛くなってくる。

 

 

「まぁまぁ……京助くん、もうそろそろ練習始まるよ?」

 

「っと、そうだったな。ちっと待ってろ……」

 

 

ことりに言われて思い出した。今日は彼女たちの練習に付き合う約束をしていたんだっけな。

もう一度大きく伸びをして、荷物を手に立ち上がる。俺の性格をそのまま現したような軽いカバンに、ロッカーの上に寝せておいたギターケース。

こいつらの練習が終わったら、俺も練習に行かなきゃならないってんだからそりゃもう疲れて眠くもなるってもんだ。

 

 

「きょーくん!早く早く!」

 

「分かった分かった……っておい!引っ張るな!」

 

 

穂乃果に片手を引っ張られて走り出す。

逸る気持ちは分かるが、ちっとは落ち着けよ……

 

 

 

 

 

「遅いじゃない」

 

 

屋上にたどり着くと、一年生の真姫が一言。まぁ遅れたのは謝るが、何で俺だけ見て言うのかね

 

 

「ごめんね真姫ちゃん。京助くんを起こしてたら遅くなっちゃった」

 

「いや、それ言わなくていいから」

 

 

ほら見ろ。周囲の目が俺に集まってんじゃん。

そんな冷たい目で見んなよ……しまいにゃ泣くぜ?

 

 

「まったく、授業中に居眠りなんて。京助、あなたちゃんと寝てるの?」

 

「ん?あぁ、問題ない」

 

 

にこに問われて曖昧に答える。

お察しの通りあんまし寝てない、なんて言おうものなら何言われるかわかったもんじゃない。

 

 

「それにご飯も食べてる?顔色悪いわよ?」

 

「大丈夫だっての……お前は俺のおかんか」

 

「どうせあんたのことだからカップ麺ばっかの食生活なんでしょ?ライブ近いのに体調管理怠ってどうするのよ」

 

 

何も言い返せなくなって頬を掻く。

なんでもかんでもお見通しかよ。

 

 

「分かったよ。ちゃんとするって」

 

 

無理無茶無謀が俺のポリシー。夢のためなら何を犠牲にしても良いって思ってるけど……

こうやって心配してくれてるって思うと、流石に無下には出来なくてつい頷いてしまう。

同じく夢を追いかける彼女相手だと、特にな。

 

 

「今日はおじさんも来てるのかにゃー?」

 

「うるせぇ、誰がおじさんだ」

 

 

結構気にしてんだからそういうことを言わないで欲しい。

っていうか、おじさん扱いされるほど年離れてねぇだろ。

全く、真姫といい凛といい、何で一年生はこう小生意気な小娘ばかりなんだよ。思わずため息をついちまう。

 

 

「お兄さん、何か疲れてますか?」

 

 

その点、同じ一年でも花陽だけは違う。

心配そうに俺の顔を覗き込む姿はまさに天使のそれだった。

 

 

「ん?あぁ、大丈夫大丈夫。それよりそっちこそ忙しいだろ?無理はすんなよ?」

 

 

軽く微笑みかけてそう言うと、花陽は嬉しそうに頷いた。

あー……やっぱこの笑顔、癒される。

なんて言うとこいつの兄貴――俺の同級生に何故か怒られるからあんまし言えないんだけど。

そんなことを考えてたら、意味ありげに笑いながら希が話しかけてくる。

 

 

「京くん、花陽ちゃんには妙に優しいんやな?」

 

「別に。ただ、俺は相手に合わせた対応してるだけだ」

 

「ふーん?その割にはにこっちにも素直やん?」

 

「それは……あれだよあれ」

 

 

口ごもる俺をにやにやと見て、希は、

 

 

「え~?そんならうちにも優しくしてくれてもいいんとちゃう?」

 

「断る」

 

 

今度はきっぱりと断った。

この姉ちゃんに少しでも弱いとこ見せたら後でどれだけいじられるか分かったもんじゃない。

大分ひどいことを言った気もするが、俺の考えてることをちゃんと見透かしてるのか、希はまだ笑いながら、

 

 

「ひどいなー。えりちー、京くんがいじめるー」

 

「はいはい。だめじゃない京助、女の子には優しくしなきゃ。それに希も京助をからかわないの」

 

 

慣れたもので、希に話を振られた絵里が呆れながらそう言って俺と希をたしなめる。

 

 

「はいはい。わかったよ」

 

「もう、『はい』は一回!」

 

 

頬をふくらませて怒る絵里を見たら、自然とため息が出てきた。

俺は昔からこの人には勝てない。

絵里とは祖父さんの代から付き合いがあるおかげで、こうして今でも頭が上がらない。

 

 

「はーい」

 

 

気だるい声で答えると、満足したのか絵里はにこにことタンポポの花みたいな綺麗な笑顔を浮かべる。

 

思わず天を仰げば本日も晴天。

むかつくくらいに雲一つない青空に、お天道様が俺を指差して笑ってた。

 

 

 

こんな騒がしい9人の女の子達と過ごす毎日が、俺の日常。

 

 

 

μ’s

 

それが彼女達の名前。

生徒数不足から廃校になりかけたこの学校を救うために、今流行りのスクールアイドルを始めようっていう、穂乃果の立案から始まった

 

最初に聞いたとき、俺はそりゃもう笑わせてもらったよ。

だってそうだろ?

たかだか十代そこらのガキが集まって、廃校阻止しようなんてさ。しかも、何の知識も経験もない奴らがだぜ?

あまりにも荒唐無稽で、馬鹿げてて……こんなに面白いことはないって思った。

こんなのが、成功すりゃそれはもう、なんつーか……とんでもなく素敵なことじゃないか。ってさ。

 

どうやら物好きは俺だけじゃなかったらしい。

穂乃果に海未、ことり。続いて花陽、真姫、凛。そしてにこ、希、絵里。どんどん人が増えるにつれて、目標が現実に近づいてきた。それぞれがそれぞれの思いを胸に、一生懸命、精一杯。

そんで、俺はというと、小さい時の縁が重なって、こいつらに誘われたから渋々手伝いに回ったって訳で……なんてな。

 

本当は、俺からやらせてくれって頼んだんだ。

 

俺もこいつらと同じ。でっかい目標があってそれに向かって我武者羅に突っ走って。

でもこいつらと違うのは、俺は本当は怖かったってとこだ。

本当に夢を叶えられるのか、失敗したらどうなっちまうのかって、そんな気持ちに押しつぶされそうな自分を、無理やり勢いつけて無茶苦茶やってただけなんだ。

 

それなのにこいつらときたら……

 

全く、どいつもこいつも難儀なことだぜ。おちおち凹んでもいれやしねぇ。ここで頑張んなきゃ、俺の沽券に関わるってもんだ。

そう気づかせてくれたこいつらには、感謝してもしきれない。

だから、俺に出来ることならこいつらのために何かしてやりたいって思えたんだ。

まぁ、こんな事、絶対言ってやらないけどな。

 

 

「それより京助。頼んでたものは出来たの?」

 

「あぁ。その辺ぬかりはねぇよ」

 

 

ポケットからCDを取り出して真姫に手渡す。

この前真姫に頼まれてた編曲とギターサウンド。個人的には会心の出来だったと思ってる。

本当は俺よりも俺のバンド仲間に頼んだほうが遥かに良い物が出来るんだけど、意地があんだよ、男の子には。

 

 

「さて、それじゃ練習始めるわよ?京助も何か気づいたところあったらどんどん言ってね」

 

「おーう、任せとけ」

 

 

彼女たちに混じって準備体操を行い、続いてダンスレッスンを見てやる。

俺にはダンスの知識なんざないが、逆に素人から見てどうなのかがいい意見になるそうだ。

俺に出来るのはせいぜいがこのくらい。

ギターの腕はまだまだ三流以下、アイドルとやらの知識は皆無、人間性はまぁまぁ低劣。およそ箸にも棒にもかからない、ロクでもない人間。

でもさ、こんな俺でもこうして何かの役にたてるなら――それは素晴らしいことなんじゃねぇかな?

 

そんなことを、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、もうこんな時間か」

 

 

彼女達の練習に付き合っていたら、時計の針が有り得ない程の早さで進んでいた。

いや、いくらなんでも早すぎだろ。体感五分くらいだった気がするぜ?

 

 

「ごめん、みんな。俺はここであがるわ」

 

 

立ち上がって、ケツをたたいて埃を払う。

今日はこの後、“俺”の練習があるんだ。

 

 

「あ、もうそんな時間なの?」

 

「おじさんも大変だにゃー。これからバンドの練習だっけ?」

 

 

おじさん呼びには苦笑せざるを得ないが、小さく頷く。

ギターの腕はまだまだ三流。

でも俺は三流のまま終わるつもりはねぇんだ。

 

 

「ごめんなさい、京助だって大変なのに練習につきあわせちゃって」

 

「いやいや、気にすんなって。俺が好きでやってんだから」

 

 

自分で決めて、自分の好きなようにやらせてもらってんだ。

そこに文句なんかない。

 

 

「頑張るのはえぇけど、頑張りすぎなんやない?」

 

「それは――まぁ、大丈夫、手ぇ抜くところは抜いてるから」

 

 

そう冗談混じりに言い返すと、希が呆れたように笑い返してきた。

本当は手を抜いてるつもりなんてサラサラないが、休むべき時は心得てるから大丈夫、授業中とか。

こうして心配してくれる奴がいるのに下手に無茶かますわけにはいかないからな……

 

 

「今度のライブ、ちゃんと呼びなさいよ?」

 

「分かってるって。ほらよ、チケット」

 

 

あぶねー、忘れるとこだった。

にこに言われて、ポケットからチケットを取り出してわたす。

今までに何回か機会があったのに誘いそびれてきたから、今回こそは、って思ってたのにな。

 

 

「あー!にこちゃんずるい!きょーちゃん、穂乃果の分は!?」

 

「ことりも欲しいな……京助くん、おねがい」

 

「分かってるって。ほらよ、全員分あるから、気が向いたら見に来いよ」

 

 

全員分のチケットをにこに押し付けて、ギターケースを持ち上げる。

時計を見れば集合時刻の10分前。走れば間に合うか?

 

 

「そういえば京助。パパ……お父さんが、今度ちゃんと健康診断に来いって言ってたわよ。またサボったんでしょ?」

 

「いけね、忘れてた!気が向いたら行くって言っといてくれ!」

 

「お兄さん、お兄ちゃんがたまには遊びに来いって言ってたよ?」

 

「オッケー!ライブ終わったら行くって伝えといて」

 

「そういえば京助、お父様が今度鍛え直してやるから道場に来るようにと……」

 

「分かった!今度こそ勝つって言っとけ!!」

 

 

何で帰り際にこんなに色々言ってくるんだよ!もっと早く言えよ!

適当にあしらって、屋上の扉を開く。

これは遅刻確定だな。

俺の仲間達は――俺を待っててくれるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び場面が変わる。

俺は眩しいくらいのライトに照らされたステージ上に立っていた。

相棒の肩にかかる重みと、掌へのぬくもりがやけにはっきりと感じられた。

ライブハウスいっぱいの観客に見守られる中で、自分の鼓動がやけにうるさい。

どうやら俺としたことが緊張しているらしい。

ピックを持つ手が震える。

 

――怖い。怖くてたまらない。

 

失敗したらどうしよう。

そう考えると逃げ出してしまいたくなる。

 

 

『きょーちゃーん!』

 

 

ふと。

客席の方から、自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。

ついに幻聴でも聞こえたのか?

 

 

『京助ーっ!!』

 

 

いや、違う。確かに聞こえた。

俯けていた顔を上げてみれば――いた。

遠く離れた席に、9人の少女の姿。こんなに離れているのに、こうしてちゃんと見つけられるなんて思わなかった。

 

 

『きょーちゃん!ファイトだよー!』

 

 

穂乃果の楽しそうな大声が確かに聞こえた。

まったく、お前は恥ずかしいってことを知れねぇのかよ……

思わず苦笑が溢れてくる。

そしたらどんどん可笑しくなって――いつの間にか震えが止まってた。

 

 

「ったく、情けねぇ顔なんざ見せられるか、っての」

 

 

小さく呟いて、顔をちゃんとあげる。

 

ちらりと横を見れば、そこには確かに仲間たちがいた。

すまし顔のボーカルに、俺と同じように緊張した様子のドラム。いつもどおりの無表情のギターに、楽しそうなベース。

やけに落ち着いた顔をして、キーボードに向かうあいつと目があった。

俺に気づいた長身のあいつは、どこまでも優しい、ムカつくくらいの笑顔を向けてきやがった。

 

――びびってんの?

 

そう聞かれたような気がした。

だから俺も獰猛に笑い返す。

 

――冗談じゃねぇ!!

 

前を見れば9人(女神たち)が。

横を見れば5人(仲間たち)が。

何も、怖いことなんかあるもんか。

 

 

 

そして――

 

俺たちの演奏が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブは滞りなく進んでいく。

仲間たちはもちろん、俺の演奏もこれまでにないくらいに会心の出来で、ギャラリーの盛り上がりも上々。それこそあんなにド緊張してた自分がアホらしい。

 

そして――ライブは佳境を迎える。

最後の曲は、今までのオリジナル曲じゃなくて、カバー曲。

俺が無理言って選ばせてもらった一曲。

 

 

THE BEATLES『With a Little Help From My Friend』

 

 

無理ついでに、今回だけは俺がメインボーカルを歌わせてもらう。後で仲間たちに何かおごるって約束を考えるとちと財布が心配だが――

 

With a Little Help From My Friend……みんなの力を借りて。

 

つくづく俺にぴったりの曲だと思う。

ただでさえギターも歌もそこまで上手くないのに、無茶したもんだと自分でも思うけど……

今だけは、そんなことは考えないで、全力で弾いて歌う。

 

 

 

しっかりしてるくせに、どっか抜けてて無理しがちな絵里。

お前の加入の時は大変だったよな。俺もムキになっちまって、悪かったと思ってる。でもさ……あのおかげで俺もお前らのために何かをしてやるんだって、決心できたんだ。

 

人一倍繊細で、人一倍周りのことを気にかけてくれる希。

俺がそのフレンドリーな態度にどれだけ救われたことか……これでも、感謝してんだぜ?

面と向かってじゃ言えやしないけど、お前は大切な友達だよ。

 

自分の夢に対して努力を続けるにこ。

走っては空回って、それでもお前は絶対くじけないよな。お前が夢を諦めないから、俺も頑張れるんだ。そんなお前を尊敬してるし、同時にライバルだと思ってる。

それから、俺はお前のこと――

 

元気いっぱい、ムードメーカーの凛

お前との掛け合い、実は結構楽しいんだぜ?なんて素直に言えなくてごめんな。何の遠慮もなく思ったことを言ってくれる奴、お前くらいのもんだ。かけがえのない、最高の後輩だぜ。

 

いつも精一杯に頑張ってる花陽。

悩んで、くよくよして、でもそれはそれで良いと思う。ちゃんと考えてる証だもんな。

考えて考えて、それでもどうにもならなくなったら遠慮なく言えよ。俺は出来ることはなんでもしてやるからな。

 

真面目でちょっぴり天邪鬼な真姫。

弱いところを決して見せようとしない誇り高さ、ホントに凄いと思ってる。

だけどさ、弱さを隠し続けるのは、必ずしも強さじゃないんだぜ?辛い時は辛いって、ちゃんと言うのも一つの強さなんだから、さ。

 

真面目でお堅くて、そんでもって格好いい海未。

ちっとは気を抜けよ、って言いたいとこだけど、お前がそうやって締めるところ締めてくれるから、メンバーの暴走も少なくてすんでるんだよな。お前がいるおかげで俺はバカでいられるってもんだ。

 

メンバーで一番優しいことり。

その優しさと愛らしさに何度俺が助けられたことか……。

引っ込み思案なようでいて、一番芯が強いのは実はお前なんじゃないか?でもさ――何かあったんなら周りを頼ろうぜ?俺でよければ、いつだって相談にのってやるからさ。

 

全てのきっかけ、穂乃果。

前々から思ってた。お前、つくづく俺に似てるよなーって。後先考えないとことか、突拍子もないとことか。周りを散々振り回して、とんでもないことをさらりと始めたり。

でもお前は俺なんかよりずっとすげぇ奴だよな。俺が保証する。お前の夢は、絶対叶うってさ。

だから、その輝きを、ずっと忘れないでくれ。

 

 

曲が最後のパートに入った。

ひときわ声を張り上げて、全身全霊で歌う。

 

 

お前らと会えて、本当に良かった。

俺はお前らのこと、尊敬してるし、とても大事だと思ってる。

 

 

 

本当に、ありがとう。

 

 

 

そんな思いをこめて、精一杯にギターをかき鳴らす。

 

口では小っ恥ずかしくて言えない。

こんな不器用な俺だから、こうして音楽にのせてみる。

今じゃなくても良い。いつかこの思いが伝わってくれれば、それで……

 

 

みんなの力を借りれば、上手くいくよ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、歌いきろうとした時だった

 

 

 

 

 

不意に――

 

 

 

 

 

目の前が真っ暗になった。

それはまるで照明が落ちたみたいな、本当の闇だった。

 

 

やがて目の前に広がるのは灰色の光に照らされただだっ広い舞台。

台上に立つのは俺一人。

共演者もいなければ、観客もいない。台本すらない無間の闇。

 

 

――あぁ、気づいてるさ

 

 

こんなのは俺の都合の良い夢だ。

現実の俺は、夢の中みたいに上手くやれてない。おっかなびっくり手を差し出しては、少し触れただけで逃げ出す臆病者。

夢を追うことを諦めて、代わりにそれを誰かに投影して満足しようとしてる卑怯者。

 

 

もっと早くにこいつらに会ってたら、違ったんじゃないかって。

俺がもしもこいつらと同じくらいのガキだったらって、何度考えたか分からない。

 

 

だから、これは叶わない夢の形。

 

 

俺は夢を諦めたくなかったって、あいつらに会ってようやく気づいたんだ。

だから、夢を追っている彼女たちの助けになってやりたかった。

 

もっと早く会えれば、もっと俺が強ければ、もっと俺が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(お前たち)は、お前たち()になんて出会わなければ良かったよ(良かったのに)




こんばんは、北屋です。

Fragment シリーズはこれで終わりです。
次回より本編に戻ります。

少し次回の更新までに時間がかかるかもですが気長にお待ちください。
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