ラブライブ! ―夢を追って―   作:北屋

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前回の続きです。
ギャグ成分がどんどん濃度高くなっていきます。


閑話 理事長と一夜の間違い(中) ~Maria~

今日も今日とて店内にはBGMが流れる。

選曲は完全に俺の趣味。好きな曲に囲まれて仕事が出来るなんてかなり贅沢なんじゃないかと、今では1日の音楽を選ぶのがささやかな楽しみになっている。

今日の一曲はRicky Martínの『Maria』

いつもとは趣向を変えてみたが……うん、今の気分にはかなり不向きかもしれない。

 

「あー……」

 

呻き声ともため息とも、何ともいえない声を出してタバコを一口。

愛飲するゴールデンバットの、変わらない味だけが今の慰め。……なんて格好つけてみても状況は変わらない。

あの夜の事を思い出しては胃がきりきりと痛む。過去に戻れるなら、あの日あの時に戻りたい。そんでもって浮かれた--イかれた?俺自身を殴り殺したい。いやマジで死ね、あの時の俺。

今日、学校で書類提出がてら理事長先生にも会ってきたが、顔を合わせたら意味深な笑みを向けられた。夢オチ、なんて事も考えたがそんな甘い事は起きてはくれない。

畜生が。マジでもう、どうしよう……

 

「パン屋さん!パン屋さんってば!」

 

近くで俺を呼ぶ声がしてふと我に返った。

 

「ぬおっ!?近い近い近い!」

 

俺の顔の前、目と鼻の先に、頬を膨らませた見慣れた少女の顔があって、驚きのあまり椅子ごと後ろに倒れる。

痛ぇ……

 

「何だ、饅頭娘か……脅かすんじゃねぇよ。何か用か?ってか来てたのか?」

 

しっかしこの娘、パーソナルスペース狭すぎやしないか?俺は大分広い方だからとやかく言えないが、野郎相手によくそんなにくっつく程の距離まで接近出来るな。俺だから良いけど、他のーー例えば同年代の多感な男子にそれだといらん誤解を生むぞ。

その辺どう考えて……あぁ、そっか。俺、男と認識されてねぇのか。

 

「来てたのかって……もう随分前からお店にいるよ?注文してるのに全然聞いてくれないんだもん」

 

「え?あ、悪ぃ……」

 

はっとして見渡せば、高坂ちゃん率いるμ's一味が店の片隅で心配そうに俺の方を見ていた。

俺とした事が、天敵の来店にも気が付かないとは大分ヤキが回ったみたいだ。つーか、小娘共に心配されるようじゃお終いだな……

なんて苦笑を浮かべながら灰皿を探す。いくら何でも子供の前で堂々とタバコなんてのはあまりよろしいことじゃない。

あれ?さっきまで吸ってたタバコどこいった?

 

「悪いな。考え事してて気が付かなかった」

 

「考え事?それより大丈夫なん?」

 

東條ちゃんが心底心配そうに俺を見て尋ねる。

珍しいな、いつも人のことおちょくってくるこの娘が心配なんて。明日は雪でも降るのかね?

 

「いや、大したこっちゃない。大人の話だ」

 

軽くふざけてそう返してやるが、内心冗談事じゃなかった。

……ん?なんか焦げくさいな。落としたタバコがどこかで燃えてんのか?

 

「いえ、そうでなくて……その、津田さん、頭大丈夫なんですか?」

 

「は?」

 

園田ちゃんにそう言われて、怒るよりも先に驚きの感情が沸いた。

いや、頭が悪いのは認めるがいきなりその言い方は酷すぎる……しかも、それを言ったのが猫娘ならともかく、真面目で礼儀正しい園田ちゃんだから驚きだ。

こりゃ、もう天気雨くらい降ってんじゃねえか?

 

「あの、頭……髪の毛……」

 

恐る恐るといった感じで小泉ちゃんが俺--の頭の上を指さす。

髪の毛、だと?寝癖でもついて……

 

「あっちぃぃいい!?」

 

あちっ、あちち!燃えてんのか!?

急いで流しに頭をつっこみ、蛇口を思い切りひねる。

どうやらさっき転んだ勢いでタバコが頭に乗ったらしい。幸いにしてまだくすぶってるだけだったようで大惨事になる前に消えてくれたが……びしょびしょじゃねぇか。

 

「くそっ……ひでぇ目にあった」

 

「おじさん大丈夫?うわ、びしょびしょ……」

 

「大丈夫だ。水も滴るいい男って言うだろ」

 

タオルで髪を拭きながらヤケクソ気味にそう言い放つ。 畜生、髪先も少しチリチリになっちまった。

自分で言っといてなんだが笑えやしない。何がいい男だ。気色悪い、豆腐の角に後頭部強打してそのまま死ね、俺。

 

「何だか相当キてるみたいね……」

 

「うん。あんなにぼんやりしてるなんて、変にゃ……」

 

西木野ちゃん、星空ちゃん。心配してくれんのは良いが憐れみの目を向けるのやめろ。

泣きてぇ……

 

「京助さん、悩みがあるなら聞くわよ?」

 

「そうよ。たまには頼りなさいよ」

 

絢瀬ちゃんに矢澤ちゃんまで、やっぱり心配そうに言ってきやがった。

何だかんだでこいつら、面倒見良いんだよな。ホント良い奴らだよな……じゃなくて。何でこの俺様が小娘共に心配されてんだ。ふざけろよ?

 

「何でもない。ちと考え事してただけだ、お前らが気にする事はねぇよ」

 

「気にするよ!」

 

投げやりな俺の返しに、間髪いれずに高坂ちゃんが食いついてきた。

 

「パン屋さんだって、私たちが何か悩んでたら気にするでしょ?」

 

「しない。したこともない」

 

つーか、したくないから気にさせるような事すんな。

これ以上胃痛のタネを増やされてたまるか。いい加減胃に穴あくぞ。これまでに消費した胃薬代金だって馬鹿にならないんだからな。

 

「面倒な人」

 

「うっせぇ」

 

西木野ちゃんにだけは言われたくない。

 

「先輩、少しは素直になったら?」

 

「俺はいつでも素直だ」

 

真顔でそう返してやったら、矢澤ちゃんはやれやれとばかりに肩をすくめた。

 

「いつものお返しです。力になれるかは分かりませんが、何か悩みがあるなら聞きますよ」

 

にっこりと微笑んで、園田ちゃんはそう言う。

だけどさ……冗談じゃないぜ。

ガキに心配なんかされたら俺の立つ瀬がない。お前らは心配なんかする必要ないんだ。ガキを心配するのは俺みたいな大人の役割なんだからよ。

だから俺は鼻で笑ってやった。

 

「……けっ。余計なお世話だ。お前らはこんなロクでなしに構ってないでてめぇのことだけ考えてろ」

 

小うるさくて七面倒で、迷惑極まりない小娘共。なのに、なんでお前らはそんなに良い奴なんだよ。

彼女たちに背を向けて、人数分のグラスと飲み物を用意する。この頃彼女たちの好みも分かってきてしまって何か複雑な気分だ。

 

「さっきも言ったが、大人の話だ。子供が気にすることじゃないから安心しろ」

 

なるべく感情を出さないようにぶっきらぼうに言ってグラスを配る。

今日も今日とて俺の奢り。何はともあれ心配してくれてありがとよ……じゃなくて。全く、毎回奢りなんてたまったもんじゃねぇぜ。仕方のない奴らだな。

 

「大人の話って……」

 

「大人の話だ。詳細は聞くな……んで、何か食いもんも注文するか?」

 

釘を刺してから注文を聞いて、話題を無理矢理反らす。

どうも俺は人に物事を相談するってのが苦手なんだ。まぁ、もっとも、こいつらに相談出来るような内容じゃないんだが。

……あ、ヤバい頭も痛くなってきた。頭痛薬も追加しとくか。

 

「あ、じゃあチーズケーキをお願いします」

 

「おう。丁度練習がてら作ったレアチーズケーキがあるから試食してみるか?」

 

「はい!」

 

そういえばチーズケーキは南ちゃんの好物だっけか。

そう思って彼女の方をちらりと見る。

さすがに親子だけあって似てる。嬉しそうにしている彼女の顔が昨晩の理事長先生と重なった。

 

「?」

 

「あ、いや……何でもない」

 

俺の視線に気づいたのか小首を傾げる南ちゃんに、慌てて言って厨房に戻ることにした。

 

 

 

 

「マジでどうするかな……」

 

ケーキを切り分けていてもつい口に出てしまう。

本当に困った事になった……なんて言うのも今日だけで何度目だ?

大抵の事なら一人でどうにかしてのける自信はあるし、その位の能力はあるつもりだ。

だが、これはちと難し過ぎる。完全にキャパオーバーだろ……

元々頭は良い方ではない。荒事ならどんと来いだが、力尽くでどうにか出来る話でもない。

逃げ出して放浪の旅に出たいところだがそういう訳にもいかない。流石にそれは無責任過ぎる。

そして何より一番辛いのはこれを相談出来る相手がいない事だ。

昔の仲間に頼る?

考えないでもないが、今更合わせる顔がない。よしんば会えたとしてもぶん殴られるか死ぬほど笑われるかのどっちかで、根本的な解決になるとは思えない。

本当にどうすりゃ良いんだ……

 

「お待ちどうさん。チーズケーキとコーヒー、紅茶のセット、ミルクと砂糖はお好みでどーぞ」

 

考えながらでも作業は進む。

馬鹿でかいお盆の上に乗せた、切り分けたケーキとコーヒーをそれぞれの前に置いていく。

今回のケーキはレアチーズケーキ。クッキーを砕いた生地に冷やし固めたクリームチーズ。香り付けにレモン汁を少々。

ひんやり爽やかな一品は、暖かい飲み物にあう事間違いなし。

言っちゃなんだが、結構自信作だ。

 

「毎回思うんだけど、パン屋さん、何でも出来るよね……」

 

「このお店に来る前は何やってたのよ……?」

 

そりゃまぁ、色々やってきたが、笑ってごまかすしかない。

夢費えて流れ者してましたとか、パチスロで生計立てようとして失敗しましたとか、用心棒紛いのことして糊口を凌いでたとか……

多感な十代の、ましてや女の子の前で言える内容ではない。

口が裂けても、な。

 

「まぁ、色々あるんだよ。男の子には」

 

「男の子って年齢じゃないと思うにゃ」

 

……おい、星空ちゃん。

そりゃ確かにちょっと、ちょーっと老けて見えるのは認めるけどな。

ぼそっと何気ないように言うのはやめろ。さすがに凹むぞ。

 

「んー!美味しい!」

 

と、話の流れをぶった切って南ちゃんが歓声を上げた。

どっちかって言うと物静かな方な彼女だが、それでも所詮は小娘一味の一人。

うるせぇ

 

「程良く甘くて、チーズの味もしっかりしてるのにクドくない!口の中でほろほろって溶けて……はぁ~最高!」

 

にこにこしながらケーキを突っつく南ちゃん。

絶賛して貰えるのは冗談一切抜きで嬉しいが……そこまで喜ぶとは思わなかった。お兄さんもびっくり。

 

「お、おう。気に入ってくれたみたいで嬉しいぜ」

 

「はい!これ、正式にメニューにのるんですか?」

 

「あ?うーん……ちっとな、微妙な所だ。何分材料がなぁ……」

 

良い食材を作ったからって美味しい料理が出来る訳ではない。重要なのは作り手のスキルだ。

だが、ある程度の腕があるなら、良い食材を使った方が美味しい物が出来るのは事実な訳で。

今回のケーキに使ったのは知人の伝手で牧場から送って貰ったちょっとばかり値の張るチーズ。ついでに生クリームも。

原価に近い値段で仕入れたけれど、それでもいつものチーズケーキにくらべて単価が高くなるのはどうしようもない。

名のあるケーキ屋で売るならともかく、パン屋が道楽で作って売るには値段が高すぎる。

かといって値段を下げると儲けが出ないし……

 

「作ってみたは良いものの……こいつは今回ばかりの特別限定だな」

 

「そんな……」

 

心底落ち込んだ顔で南ちゃん、瞳まで潤ませてる。

そっか、そんなに残念だったか……何かちょっと悪いこと言っちゃったみたいで心が痛い。

 

「限定品!?……わ!これ凄く美味しい!」

 

一口食べて、顔を輝かせたかと思ったら高坂ちゃん、物凄い勢いでフォークを進め始めやがった。

……ホントに味分かってんのか?

 

「これは……爽やかで品のあるお味ですね」

 

一方で上品にケーキを食べて感想を述べる園田ちゃん。

こいつら何時見ても対照的だな。良く友達やってられんなー、なんて余計なお世話か。

 

「お代わり!」

 

「ねぇよ!」

 

綺麗になった皿を尽きだして高坂ちゃんがお代わりを要求してきやがった。

残念だが、お代わりの用意はない。……ってか試食品で限定品だってさっき言ったよな、俺?

 

「んー………」

 

限定品と聞いた時から、南ちゃんの手の進みが明らかに遅くなっていた。

大層このケーキを気に入ってくれてるみたいだから、食べきるのが勿体ないんだろうな。

なんだろう、ホント心が痛んでくる……いやいや待て待て待て!

そんな憂いを含んだ目で俺を見るな!上目遣いもなしだ!

ええい、その手には乗らんぞ、俺は!

 

「正式にメニューにのせれば?こんなに美味しいんだし、絶対売れるわよ」

 

「ん、……しかしな。1ホールだと値段設定この位になるぜ?」

 

西木野ちゃんまで美味しいって言うんだから、そりゃま確かに味の方は悪くないんだろうな。

だが……

携帯電話の電卓を起動して、数字を打ち込む。うろ覚えなところもあるから大体の値段だが……安く見積もって、と

 

「ぶっ!」

 

「うわってめっ!」

 

数字を見せた途端、矢澤ちゃんがコーヒー吹きやがった。

跳んだ飛沫がシャツにシミを作る。

 

「これは、さすがに……」

 

「だろ?」

 

ついでに言うと今矢澤ちゃんが汚したシャツ、この数字の五倍の値段するんだけどな。

後で覚えてろよ。

 

「あぁ。女子高生の財布には辛いだろ?ってか、一般向けにしても常に売れるもんじゃないぜ」

 

いや、多少は売れるかもだが。売れ残ったら大赤字も良いところだ。

 

「うーん……」

 

まだ煮え切らないのか、南ちゃんが悩ましげな声をあげる。

……弱ったな。

 

「……そうだな。メニューにのせるのは無理だが、そこまで言うなら考えはある」

 

ふと思いついた事を口にしてみる。

情に絆されるようじゃ、仕事は出来ない。

とは言え、小娘が俺の目の前で困った顔してるのは妙に気分が悪い。

寝覚めが悪いじゃねぇか。

これ以上俺の安眠を邪魔されてたまるか。今度は睡眠薬の世話になる羽目に陥るのか?冗談じゃない。薬代で破産する。

 

「一ヶ月前の完全予約制、受注生産……なんてどうだ?」

 

最大限の譲歩。

何だかんだ言ってうち、パン屋だしな。あんまりパン以外に力入れる訳にもいかないんだが、この位ならどうにか。

俺の提案を聞いて、南ちゃんの表情がぱぁっと明るくなる。

……まぁ、この笑顔が見れた訳だし良しとするか。

 

「ホントに良いんですか!じゃあ、来月の分今から予約します!」

 

「急な話だな……」

 

別に構いやしないが……仕入れ間に合うかな?

ってか、気づいたら南ちゃんのペース乗せられてねぇか?この俺が不覚を取るとは……この小娘、末恐ろしいな。

しかし、タダで願い事を聞くってのもあんまり面白くないな。

何より、こうやって甘い顔なんて見せるとつけあがりかねない……あ、もう手遅れ?

ともかく、だ。

何か条件つけるかね、っとそうだ……いや、

 

「構わないが少し頼みたいことが……あー、いや」

 

「?」

 

いや、いやいやいや。

さすがにこれは……うん。人選ミスな気がする。

いや、人選自体はこれ以上ないくらいに的確な筈だけど、しかし……

第一この俺様が何で小娘に相談持ちかけなきゃならないんだ……いや、しかし、でも……

 

「どうしたんですか?」

 

「うん……」

 

南ちゃん、小首傾げて不思議がってんじゃねぇか。可愛いなおい。

その仕草も親譲りってか?

まぁ良いや。ここまでいったらもうチンケな意地とか全部どっかにぶん投げよう。

 

「いや、ちっとさ。理事長先生のこと、詳しく教えてくれないか?」

 

もう後には引けないな、これ。

俺、もう知ーらね。

どうにでもなりやがれ。




まだ続きます
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