酔っ払った作者の悪ふざけだと思って下さい……
「津田さんがおかしい!」
一日の授業が終わり、部室にそろったミューズの面々。練習前の穏やかな午後の空気を、ことりのそんな台詞がぶち壊した。
「おじさんが可笑しいのはいつものことだと思うにゃ」
「知らなかったの?先輩、だいぶーー相当、かなり頭おかしいわよ?」
何の気なしといった風な凛とにこの台詞だが、本人が聞いたら間違いなく怒るか泣くかするレベルで酷い。
「それは知ってるけど、おかしいのベクトルが違うの!おかしいの!」
「おかしいとは……何かあったのですか?」
海未が眉をひそめながら尋ねた。
日頃の言動には慣れたものの、それに輪をかけておかしいともなればそれは大事なのかもしれない。
「ちょっと詳しく話を聞かせなさい。先輩がどうかしたの?」
にこも改めて詳細を尋ねる。
まさかとは思うが、ただでさえ不健康そうな彼のこと、万が一もありえると、ほんの一抹の不安がよぎっての台詞だった。
しかし……
「この頃、お母さんの事ばかり聞いてくるの!最初は別に何も思わなかったけど、もうそれが一週間近くだよ!?」
ことりのどこか悲痛な叫び。
しかし、その内容が内容なだけに場は水を打ったかのように静まりかえった。
「は?」
「いや……別に何もおかしい事はないのでは?」
忘れられがちだが、京助は購買の職員も兼任している。それ故に職員室や理事長室に顔を出すこともあり、教職員と話している姿も割とよく見る光景ではある。特に理事長とはμ'sの事もあり、話す機会は多い。
ことりの今の話を聞く限りでは何もおかしいところは無いように思えた。
「お兄さん、一応購買の職員さんだし……何も変じゃないんじゃない?」
「ううん!だってお母さんに聞きたい事があるなら直接聞けば良いでしょ?……それに、お母さんの趣味とか好きなものとか、仕事とは全然関係ないことばっか聞いてくるんだもん!おかしいよ!」
「それは、確かに変ね……」
「そういえば津田さん、この間から少し様子がおかしいわよね?何か関係があるんじゃない?」
先日の京助の様子を思い出してメンバーは顔を見合わせた。
いつもどこか可笑しい京助だったが、この頃の彼は輪をかけて酷い。見ている彼女達が心配になるほどに。
「あの人がおかしい理由に心当たりなんてある?」
「うーん……」
真姫が髪を弄りながら尋ねると、何人かが神妙な顔で考えを巡らせ始めた。
どうやら心当たりがあるらしい。
「もしかしたら、あれかな?」
「凛ちゃん、何か覚えがあるの?」
「うん……この間お店に行った時、おじさんが大事にしてるマグカップ割っちゃって……」
「えぇ!?怒られなかったの?」
「うん……怒られるの嫌だったからかよちんにおにぎりのご飯粒貰ってくっつけておいたの」
「あなたは何をやってるんですか……」
海未が呆れたように凛を睨む。そういえば確かにこの間、京助の持つマグカップが不自然に割れたのを覚えている。
……本人、泣きそうな顔をしていた。
「いや、さすがにマグカップは関係ないでしょ?」
「うーん……じゃあ、あれかな?」
「穂乃果も何か覚えがあるのですか?」
「うん……実は、パン屋さんのガレージにあったバイク、かっこいいから近くで眺めてたんだけど……触った拍子にミラーがとれちゃって」
「ちょっと穂乃果!」
「うん……どうして良いか分からなくて、つい持って来ちゃった。それがこれです……」
部室の引き出しから穂乃果がミラーを取り出した。
無惨にも根本からぽっきり折れていて、もはや修復のしようはなさそうだ。
しかし、穂乃果。何故それをこんな所まで持ってくるのか。
「穂乃果!あなたと言う人は!!」
「うわー!海未ちゃんストップ!凛ちゃんの時と反応違くない!?」
穂乃果のそばまで近寄っていって怒り出す海未。いつもと変わらない光景だった。
いつもと違うのはテーブルの上に置かれたバイクのミラー。
「……これ、どうするの?」
「……放っておいた方がいいかも」
何気に酷い。
というか、みんなしてやっている事が酷い。このまま話し合えば余罪はいくらでも出てきそうだった。
「でも、それも津田さんがお母さんの事聞きたがるのに関係ないよね?一体どうしたんだろう……」
他のメンバーげ繰り広げる漫才をしりめに、ことりが頭を抱えてしまう。彼女にとっては実の親のことでもあるし、他の面々とは違って非常に深刻な問題なのだろう。
「うーん……あ!じゃあ、パン屋さん、恋してるとか?」
「恋?」
穂乃果の唐突な一言に風向きが変わった。
恋という単語と、あの無愛想な青年がどうしても結びつかず、全員が全員、思考がフリーズしてしまう。
やはり彼は、彼女達に男性として見られていないのかも知れなかった。
「おじさんが恋?……ぷっ!あり得ないにゃ!濃いのはおじさんの無精ひげだけで十分にゃ」
「凛ちゃん、それはさすがにお兄さんに失礼だよ……」
「せ、先輩が恋?そんな事あるわけないじゃない!ないない!絶対ない!」
「何でにこがむきになってるのよ?まぁ、あの人だってまだ自称21なんだし、恋くらい……ふふっ」
言ったそばから絵里も堪えられずに笑い出してしまった。
メンバー全員の総意として、あの男が誰かに熱を上げるところがどうしても想像出来ないらしい。
「こ、恋……ハレンチです!」
「いや、恋くらい普通でしょ……でも、もし仮に恋だったとしてお相手は?」
「話の流れからして……理事長先生とか?」
何気なく、冗談のつもりで花陽が口にした一言。
しかし、この場にはその理事長先生の娘がいるわけで。
当の本人は真っ青になっていた。
「津田さんが、お母さんと……?」
「ご、ごめん、ことりちゃん。今のは冗談で……」
「そういえばこの間、お母さんが夜中に酔っ払って帰ってきて……津田さんと飲んでたって……」
再び、場が凍り付いた。
「いや、まさかそんな……あの人に限って」
「でも……!」
「……」
「どうしたの希?さっきから黙り込んで」
先ほどから会話に一切入らずに一貫して黙秘を決めていた希に、絵里が声をかけた。それは危ない方向に進んでいく話を切る目的もあったのだろう。
いつもなら希がここで茶化して何か納得のいく提案をして終わる。しかし……
「言おうか迷っとったんやけどね」
重い、口を開く。
「昨日、見てしまったんよ。津田くんが、理事長室に入ってくところ」
「え?いや、そんなの今までだって何回も見てるでしょ?」
「うん……でもいつも、すぐに仕事の話して出てきとるやろ?だから今回もそうやろ思って、出てきた所をからかおうと思ったんやけど……いくら待っても部屋から出てこないんよ」
「え、それって……」
「さすがにおかしいな思って、ドアに耳当てて中の様子を伺ってみたら……」
「いや、ちょっと何してんのよ?」
つっこみをスルーして、希は神妙な顔で続ける。
「中の様子は良く分からなかったんやけど、何だか激しく動き回るような音がして、それが収まったと思ったらしばらくしてから津田くんが部屋から出てきたんや」
そこまで言って、彼女は顔を伏せ、すぐ意を決したように、
「汗だくで、服も乱れてて……何やろ、ただごとではない様子だったよ」
「……」
全員、言葉を失った。
何を言えば良いのか分からなかった。ことりに至っては顔色が蒼を通り越して真っ白になっている。もとより色白な彼女なだけに、それは病的なまでの白さで、今にも倒れてしまいそうな具合。
「……パン屋さんに直接聞いた方がいいかもね」
ゆっくりと、かみしめるように穂乃果が呟く。それは今にもパニックを起こしそうになっている自分を落ち着かせようとしているかのようだった。
「でも、聞いてみて意味はあるの?もし、その……」
真姫が言いよどんで、横目でことりをちらりと見やる。
その先を口に出すのははばかられた。
そんな折りに、ばん、と机を叩く大きな音がして、皆が一斉にその音の発生源に目を向ける。
「意味ならあります」
きわめて静かに、海未が言い放つ。
言葉こそ静かで見た目には落ち着いて見えるものの、その目を見た瞬間、μ'sのメンバーは察した。
……完全に、目が据わっている。
「あの男に罪を認めさせるのです。その上でお白州に引き出して市中引き回しの上打ち首獄門に処すのです!」
「う、海未ちゃん……怖いよ?」
「あの破廉恥漢を許してはなりません!さぁ、行きますよ!」
「ちょ、待ってよ海未ちゃん!?」
幼なじみのあまりの剣幕に軽く退いている穂乃果とことりを後目に、彼女は自分のロッカーをごそごそと漁ったかと思うとやがて身の丈程もある細長い包みを取り出した。
弓、である。
「って!何弓なんか持ち出してんの!?よしなさい!」
「海未ちゃん、早まっちゃダメにゃー!!」
「にこ、凛!止めないで下さい!」
思えばあまり色事に耐性のない、初心な海未である。この一件は既に彼女の処理能力を遙かに越えてしまっていたのかもしれなかった。
暴走気味の海未を止めようとメンバー総出で大騒ぎしていると、そんな喧噪を知ってか知らずか不意にノックの音が部室に響く。
本当に間が良いのか悪いのか、ノックから少し遅れて顔を出したのは、
「よー、小娘ども。すまんが、ちょっと良いか?南ちゃんにちょいと聞きたいことが……」
「確保ッ!!」
「は!?なッ!!ちょっ!!?」
部長、にこの号令の元、誰からともなく全員が京助に飛びかかっていった。
暴漢なら何人来ようとまとめて返り討ちにしてみせる京助だが、如何せん女の子に突然襲いかかられては反応出来なかった。
為すすべなくあれよあれよという間に押し倒されて組み伏せられてしまう。
「な、何故だぁぁ……むぐっ!?」
叫びさえ上げる暇もなく、口まで塞がれて、哀れ津田京助、完全に無力化されてしまうのだった。
†
……はい。
男、津田京助21歳、本日またしてもピンチを迎えております。
「…もごっ、むぐぐ」
不満の声を上げようとしてもそれは言葉にならなかった。
いや、それどころかまともに身動き一つとれやしない。
購買の仕事の帰りがけ、南ちゃんに用があって、小娘どもの部室に顔を出したら何故か急に9人がかりで押さえつけられて縛りあげられた。
で、今俺は椅子に縛り付けられて、ご丁寧に口にはギャグポールなんかを嵌められて拘束さらてる状況にあるわけだ。
……何だよこの状況。
俺を取り囲んでる小娘どもの目線もやけに刺々しい。不安や困惑、それだけなら分かるが明らかな敵意に、何だその汚い物を見るような目は。
俺が何かしたか?つーか何でギャグポールなんか部室にあるんだよ?今時の女子高生はそんなもん持ち歩いてんの?怖ぇよ!
それよかこんなムサイ野郎縛り上げて何が楽しいんだよ!俺、この後どうなっちゃうの?いや、せめて何か言ってくれよ。無言で睨むのやめてくれませんか?
え?何?俺死ぬの?
「津田さん……何でこんな事になってるか、分かってますよね?」
綾瀬ちゃんがようやく口を開いたかと思えば、良く分からない事を言われた。
いや、ごめん。本気で分からないんだが。
「むごごごご!」
くそっ、言い返そうにも口が塞がってて声にならねぇ。
俺がロクに喋れない事に気づいたのか、ギャグポールが外された。
「っ……てめぇら!一体全体どういう了見だ!?俺が何かしたか……むごっ!?」
開口一番に吠えたてたら、矢澤ちゃんが俺の口を思い切り塞いできやがった。
口から頬にかけてを覆う、小さな手。柔らかくて暖かいその感触に、一瞬だけ動悸が早ま……ってる場合か!
「騒がないで。……ううん、騒いでも良いけど良いの?おじさん、こんな酷い格好の所他の人に見られても良いのかにゃ?」
「む……」
いや、そんな台詞どこで覚えたよ?
つーか、それ立場が逆だろ。少なくとも成人男性とっつかまえて言う台詞じゃねえよ!
それと、矢澤ちゃん!
分かった。黙るからいい加減手を離せ。口だけじゃなくて鼻も塞いでるから。息出来ないから。
ホント、マジで死ぬから!
「……で、だ。何で俺がこんな目にあっててお前らがこんな凶行に走ったのか、詳しい説明が欲しいんだが」
やっとこさ自由に話せるようになったんで、努めて冷静に尋ねてみる。
本当はブチ切れて怒鳴り散らしてやりたい所だが、そんな事をしたら次に何をされるか分かったもんじゃない。
それに……こいつらが理由もなくこんなバカな事をするとも思えないしな。
「パン屋さん、酷い!」
「おじさん、何てことしてるにゃ!!」
「あなた、何を考えてるの?」
「お母さんを取らないで!」
「お兄さん……見損ないました!」
「このロクデナシ!」
「近寄らないで汚らわしい!」
「一遍、地獄見た方がええんとちゃう?」
「てめぇら落ち着けよ……」
一斉に言われても分からねぇから。
何だか知らないがこれ以上ないくらいに罵られてることは分かったけど、マジで俺何かしたっけ?
いや、悪いこといっぱいしてきたし、人には言えない事も、殺されても文句言えないような事も数え切れない程抱えてはいるが……流石にこの子達に恨まれるような事をした覚えはない。
それに何だ?台詞の中にちらっと混じってた『お母さんを取らないで』とか何とか……
「津田、京助さん?」
「ぐえっ!?」
首をひねって考え事してたら、物理的に首を捻られた。
園田ちゃんが俺の襟元掴んですげぇ形相で睨みつけてくる。
「そ、園田ちゃん?……いや近い近い近い!」
いつぞやの高坂ちゃんみたいにこの子もめっちゃ顔近づけてくる。それこそ吐息が顔を撫でそうな距離で、ホントならドキドキわくわくのシチュエーションなのかもしれないが、まったくそんな気にならない。
俺が小娘に興味がないってのも大きな理由だが、般若の形相に迫られてそんな甘ったるい展開期待出来る奴がいるとしたらそいつは筋金入りのバカ野郎だ。
ドキドキわくわくどころかこちとら恐怖で心臓バクバクだわ。
「津田さん……何か申し開きはありますか?」
「あ?えー……いや、状況分からないから、まず一から説明を願いたいんですが」
とりあえず素直に状況説明を願ったら、襟首掴む手に力が入って首が締まった。
この小娘、動けねぇからって好き勝手しやがって。後で覚えてろ、今度店に来たらこっそり飲み物炭酸に変えてやる……
「だから!マジで何の話か分からないんだって!頼むから説明してくれ!俺が悪いならそれ相応の償いはするから!」
ともかくこれ以上うだうだしてても話が進まない。
いい加減縛られっぱなしってのも気分が悪いぜ。俺は縛るのも縛られるのも好きじゃないんだ。
「ふむ……本当に覚えはないと?」
「おう」
少なくとも女子高生に縛り上げられて囲まれる羽目になるような覚えは全くない。
全くない以上、身の潔白を主張し続けるより仕方がない。
「本当にやましい事はないと?」
「お前らに関わる事でやましいことなんざ一つもない」
「そうですか……ことり」
まだ納得はいっていないようだったが、園田ちゃんは俺を離して代わりに南ちゃんを俺の前に立たせる。
「………」
「何で目を逸らすの!?」
あ、いかん。
つい反射的に目を逸らしちまった。
前言撤回。やましい事あったわ。
「津田さん!」
「いや……何だ、その、な。あれだよあれあれがあぁしてこれがこれで、うん。まぁ、そういう事だ」
「どういうこと!?」
「えーっと、えーっと……あ、そうだ、誰か俺の胸ポケットからタバコ取ってくれない?ちょっと一服……」
すっとぼけて誤魔化そうとしたが、言い切る前に園田ちゃんが発する異様な殺気に怯んで冷や汗が滲んだ。
あ、下手なこと言ったら殺られるわ。
ごめんなさい冗談です。
うん、これ以上は無理かもしれない。いい加減ボロが出る。
かと言って……
「津田さんは、お母さんとどういう関係なの!?」
「……………は?」
叫ぶような南ちゃんの一言。
思わず自分の耳を疑った。
気がついたら口をぽかんと開けていて、端から見れば俺はアホそのものだっただろう。
「は?え?」
いや。
いやいやいや。
何かすげぇ勘違いされてないか、俺?
何?俺が?
理事長先生と?
つまり……そういう?
「え?」
俺の反応が予想外だったのか、南ちゃんが目をまん丸にして驚きの表情を浮かべる。
いや、驚いてんのは俺の方なんだけど。どゆことこれ?
「あー……まぁ、何だ。何か誤解があるみたいだな」
何か、一気に全身から力が抜けてく気がした。
こいつら本当に俺を何だと思ってんだ?
「え?じゃあ、やたらお母さんの事聞いてきたりしたのは何でなの?」
「んー……」
唸ってから、俺を取り囲む九人を見渡す。
そう聞かれると返答に困ってしまう。理事長先生には口止めされてるからあんまし吹聴出来ないし、何より俺個人としてもあんまし言いたくないし……かと言ってここで黙秘を貫くってのも余計ロクでもない目に合う気がするし……
まぁ、南ちゃんには安心させてやるって意味でも言っても大丈夫かな?口は固そうだし。
「ちょっと大きな声では言えないんだが……悪い、南ちゃんと二人にしてくれねぇか?五分……いや、三分で良いからさ」
「私と?」
驚いたように目をぱちくりさせて、南ちゃんは困ったようにメンバーに目を向ける。
いや、本当に申し訳ないんだがこっちにも事情があるんだ。
「……津田さん、ことりと二人っきりになって一体何をなされるおつもりですか?」
「てめぇらは俺を何だと思ってる?」
なるほど、良く分かった。
俺のことを男とは思ってないが、ケダモノか何かだとは思ってるってわけか。
悪いが俺はガキになんてこれっぽっちも興味ねぇっんだよ。俺が好きなのはぼんきゅっぼんの年上のおねーちゃんだ。
俺より年食ってから出直せバーカ。
「海未ちゃん、大丈夫。ほら、津田さん縛られてるし」
「そうだな。どうでも良いけどお前らいい加減ほどけや」
ことりに言われてしぶしぶと言った感じで海未が従い、それに習ってメンバーが部屋を出ていく。もちろん誰も俺を椅子から解放してはくれない。ホント良い性格してんなお前ら。
「さて、と」
全員が出て行ったのを確認して口を開く。
あいつらの事だから扉に耳当てるくらいはしてるかとも思ったが、そんな気配はない。たまに妙に行儀いいな、あの娘達。案外何だかんだ言って俺の事をある程度は信用してくれてるらしい。
「……」
「いや、南ちゃんや。怯えんな。一歩退くな!汚い物を見るような目で見るな!別に取って食いやしねぇっての……どこから話すかね」
埒があかないので構わず話を始める。
最初は恐る恐る、半信半疑で聞き始めた南ちゃんだったがやがて目を丸くして、俺の話に頷き始めて……
†
「三分たったよ!」
「お前はどこの大佐だ」
ご丁寧に三分きっかりで部屋に戻ってくる小娘ども。まぁ、こっちの話は終わったから別に良いんだか。
「ことりちゃん、話ってなんだったの?」
「俺の前で聞くのかよ……わざわざ内緒話にした意味考えてくれよ」
入って来るなりいの一番で南ちゃんに問いかける高坂ちゃんだが、対する南ちゃんはにっこり微笑んで、
「ひみつかな」
流石にその辺り心得てくれてお兄さん嬉しいぜ。
誤解も解けたようだし何よりだ。誤解ついでに縄も解いてくれるとなお嬉しいんだが。
「秘密って……」
「まぁ、南ちゃんだけに話すのもちと不公平だしな……そうだな、文化祭当日になったら全部分かるってだけ言っとくよ」
「文化祭になったら?」
顔を見合せて困惑を始めるメンバーを見て、少しだけ面白いような気がした。いつも振り回されっぱなしだし、偶には俺が驚かしてやってもバチは当たらないよな?
「ま、せいぜい当日楽しみにしてな。つーか、そっちもそっちで文化祭ライブの練習頑張れよ」
それだけ言って、もぞもぞと体を動かす。
ちょっとした気まぐれでつき合ってやったが、やっぱりじっとしてんのは性に合わないな。
「じゃ、またな」
はらり、と。
俺が立ち上がると同時に縄が輪っかのまま床に落ちた。
「って、おじさん今何したの!?」
だからお兄さんだって言ってんだろ、猫娘。
こちとらどれだけ修羅場くぐってると思ってんだ。トーシローに縛られたくらいで抜け出せない訳あるか。
「じゃあな!」
窓を思い切り開けてそこから飛び出る。
幸いにしてここは一階だ。そう毎回毎回飛び降りに命かけてられるかってんだ。
まぁ、見てろよ。
大人の男の本気ってのを見せてやるぜ。
本当は上中下の3部作だったのですが、長くなりました。
後一話だけ続きます。