ラブライブ! ―夢を追って―   作:北屋

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第四十話 Strawberry Fields Forever

|「スランプ!?」

 

「そりゃまた……難儀なことだ」

 

 

申し訳なさそうにうなだれる海未、真姫、ことりの三人を前にして、残りのメンバープラス1名は驚きの声を上げた。

 

 

「今までよりも強いプレッシャーがかかっている、ってことかしら?」

 

「はい……気にしないようにはしているのですが」

 

 

絵里に尋ねられて、海未はますます申し訳なさそうにしながら小さな声で返す。

それを受けてことりも、

 

 

「上手くいかなくて予選敗退になっちゃったらって思うと……」

 

「……なるほど」

 

 

京助はどこか納得したかのように頷いてみせた。

今まで彼女たちはごく短時間で、それこそ京助からしてみれば信じられない位の速さで曲を、歌詞を、そして衣装までを作り上げてきた。だが、今まではこんな逼迫した状況ではなかったからこそ出来た事。

ただでさえ難しいことだというのに、こんな悪条件ともなればそれは困難を通り越して無謀の域に等しい。

 

 

「確かに……三人に任せっきりっていうのも良くないのかも」

 

「そうね。三人だけだとかかる責任も大きくなるし」

 

「そいじゃ、九人で話し合いながらやってみりゃどうだ?」

 

 

京助はなんの気なしに火の点いていないタバコを口に咥えて呟く。

しかし、

 

 

「でも、この顔ぶれだと余計な話しちゃって進まんかもしれんなぁ」

 

「む……」

 

 

今までの店での彼女たちのやり取りを思い出して、京助は眉間に皺を寄せた。

希の言うことに、思い当たる節がありすぎる。

三人だけに任せるわけにもいかず、かといって全員で話しても埓があかないとなると果たしてどうしたものか……

そんな折に、絵里が彼の横で彼と同じように首をひねっていたかと思うと、

 

 

「んー……そうだ!津田さん、ちょっと手伝って」

 

「ん?お、おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、庭先に9人の少女と1人の青年が立っていた。

 

 

 

「それじゃあ、みんな引いたかしら?」

 

 

全員が割り箸を持ったのを見ながら絵里が確認をとる。

それは先ほどまで京助がまとめて持っていたところから彼女たちが一本ずつひいていったものである。

 

 

「それじゃ、お箸の先に書いてあるマークごとに集まって。まず、ことりを中心に衣装を決める班」

 

「あ、私、ことりちゃんと一緒だ!」

 

「私も。穂乃果ちゃん、ことりちゃん、よろしくね」

 

 

三人だけに責任を任せるわけにはいかない、しかし九人では話し合うには大勢すぎる。それを踏まえて絵里が提案したのはくじ引きで三人ずつのチームに分かれてそれぞれ話し合うことだった。

まず、衣装作りの班はことり、穂乃果、花陽の三人に決まったらしい。

幼馴染の穂乃果ならことりの事は分かっているだろうし、アイドルに詳しい花陽なら良いアイディアも出せるだろう。

 

 

「私のところは……希と凛ですか」

 

「そうみたいやね。まぁ、気楽に頑張ってこ?」

 

「海未ちゃんと希ちゃんと一緒にゃ!」

 

 

作詞の班は海未と希、凛。

根を詰める嫌いのある海未に対してこの二人の組み合わせは良い具合に気分転換が出来そうだ。

 

 

「そして、真姫の班は私とにこね」

 

「絵里が一緒なら心強いわ」

 

「ちょっと、私はどうなのよ?」

 

 

そして作曲は真姫を中心に絵里とにこの三人。

何だかんだ言ってしっかり者の、姉気質のある二人が一緒なら真姫のサポートも万全に違いない。

くじ引きとはいえ、どの班もなかなかどうして良くバランスが取れているようだった。

 

 

「こりゃまた……悪くないんじゃないか?難儀しなくてすみそうだ」

 

「そういえば京ちゃんはどの班なの?」

 

 

穂乃果に興味津々といった風に尋ねられて、京助は一瞬きょとんとした後で苦笑を浮かべる。

 

 

「俺か?俺は……帰宅班だ」

 

「え!?帰っちゃうの?」

 

「そりゃ、なぁ……そもそも俺はお前らの合宿に付いてきた訳じゃねぇし」

 

 

そう言って、京助は片隅に置いてあったザックを持ち上げる。

もともと偶然会っただけに過ぎないのだから、これ以上ここに長居する道理はない。それに、女子高生9人のところに成人男性1人で泊まるなど、いくらなんでも気まずすぎるし一歩間違えば事案だ。

 

 

「何言っとるん?津田くんには全員の相談役をやってもらおうと思ってたんよ?」

 

「…………は?」

 

 

ぽとり、と。

驚きのあまり京助の口元からタバコが落ちた。

 

 

「いや、何故この俺が」

 

「前に言ってたやろ?“俺に出来る範囲なら力になってやる”って。今がその時なんやない?」

 

「それはそうだが……いやいやいや、そうじゃなくてだな。いや、まぁ言ったには言ったが……」

 

 

勢いとはいえ確かに言った。

今の自分は前とは違う。彼女達が悩むのならば一緒に悩む、助けを求めるならば手を貸すことも惜しみはしない。

だが、それとこれとは話が違う。

 

 

「ここで会ったのも何かの縁。折角やし、な?」

 

 

――マズイ

 

京助は、無意識下で警鐘が鳴り響くのを感じていた。

今までの経験からして、このままだと巻き込まれる。まず間違いない。そんな確信があった。

 

 

「京ちゃんがいるなら心強いね!」

 

「えぇ。聞けば昔、音楽活動をされていたようですし……何かアドバイスなどいただければ」

 

「いや、待て待て待て!俺みたいなロクデナシがいてもうざったいだけで邪魔だろ?ここはほら、メンバーだけでゆっくりと」

 

「お兄さんはロクデナシなんかじゃないですし、いて邪魔だったことなんてないですよ?」

 

 

京助の、自分を卑下するかのようなことを言うのを聞いて、花陽がどこかむっとしたように言い返す。

 

 

「それに、メンバーっていうならあなたも半ば似たようなものじゃない?」

 

「西木野ちゃんまで……!」

 

「おじさんがいるなら安心できるにゃ!山の中だから、ちょっぴり夜とか不安だったんだよね!」

 

「誰がおじさんだ猫娘」

 

 

おじさん呼びはムカつくが、しかし不安だと言われてしまうと少し心が揺らぐ。いくら人数が多いとは言え、人里離れた山の中のこと。何かあったらと思うと、心配なのも確かである。

そういう所がつけ込まれるのだが、本人は気づいていない。

 

 

「それにほら、俺男だから!」

 

「そうね……男の人がいると心強いかも」

 

「そういう意味じゃねぇよ!絢瀬ちゃんまで何言い出すんだよ……」

 

 

すがるように、にこの方に目線を向ける。

しかし彼女は京助と目が合うとすぐにぷい、と目をそらしてしまう。

 

 

「自分の言ったことには責任もたんとね?」

 

「ッ……!」

 

 

ぎりぎりと、歯を軋ませる。

どうにかこうにかこの場を乗り切ろうと、必死で言い訳を考えるがいかんせん元より頭が良くない身、咄嗟に良い案は出てこない。

それに何より、子供相手に必死で言い訳を考えている自分がたまらなく惨めになってくる。

 

 

「だぁぁぁああ!分かった!相談だかなんだか知らんが、乗ってやる。その代わり、俺の出来る範囲だけだからな?お前らの求めてる答えを言えるとは限らんからな!?」

 

 

結果、京助は考えるのを放棄した。

最近、巻き込まれるのも流されるのも恒例行事のようになってきていて、どこか慣れてしまっている自分が嫌になってくる。

ザックを投げ捨てると、京助は両手をポケットに突っ込んで彼女たちに背を向けて歩きだした。

 

 

「京ちゃん、どこ行くの?」

 

「その辺ぶらついてくる。用があったら声かけろ」

 

 

新しいタバコに火をつけて、京助は乱暴な足取りでその場をあとにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

川辺の石に腰掛けて、川のよどみに糸を垂らす。

さらさらと流れる川の音、吹き抜ける涼やかな風。どれをとっても穏やかな様子だったが、それとは逆に心中穏やかではない男が一人。

 

 

「難儀なこったな……」

 

 

咥えたタバコから煙をもくもくと漂わせて、京助は半ば口癖となったセリフを口に出した。

もちろん、力を貸すのはやぶさかではない。彼女たちの役に立ちたいのも本心からだ。

しかし、こう、なんというかいくらなんでも唐突すぎる。

とてもではないが心の準備が追いつかない。

 

 

「あれ?お兄さん?」

 

「うおっ!?」

 

 

考え事の最中に後ろから声をかけられて、京助は飛び上がらんばかりに驚き、あわや川にダイブする寸前でどうにか体勢を持ち直す。

 

 

「あぁ、なんだ、小泉ちゃんか。脅かすな」

 

「べ、別に脅かしたつもりはないんですけど……お兄さん、釣りしてるの?」

 

 

少し困ったような花陽の様子を見て、京助はタバコの火を消すと咳払いを一つ、

 

 

「まぁな。で、どうした?小泉ちゃんは確か……饅頭娘達と衣装のアイディア出しじゃなかったか?」

 

「はい。ちょっと山の中をお散歩したら良い案も浮かぶかなって思って」

 

「あぁ、なるほどな。それで、その……」

 

 

納得がいったように頷いて、京助は花陽が抱えた籠に目をやった。

その中には今摘んできたばかりであろう、白い小さな花が収められていた。

 

 

「可愛いでしょ?白くて小さくて、同じ花なのにそれぞれに個性があって」

 

「まるでお前らみたい、ってか?」

 

 

京助はなんの気なしにそう続けてみる。

それはほとんど無意識に出た言葉だった。言ってみてから京助は自分の口にした事の意味を考えて、口をつぐむ。これではまるで彼女たちのことを可愛いと褒めたようで、何だか照れくさかった。

 

 

「え?」

 

「いや、何でもない。忘れろ」

 

 

ひらひらと手を振って、失言を取り消そうとする。

しかし遅れて気がついた花陽は一瞬キョトンとして、しかしすぐに満面の笑顔で、

 

 

「ありがとう、お兄さん」

 

「知らん。いいから忘れろ」

 

 

眉間に皺を寄せて、怒った風な顔を作って見せるが、花陽はそれを見ても依然としてにこにこしたままだった。

 

 

「……ちッ」

 

「ふふ……」

 

 

ふてくされたように舌打ちを一つ。竿先に視線を移す京助と、その様子を微笑みながら見つめる花陽。

意地っ張りの兄に優しい妹。傍から見ればそんな兄妹のような二人だった。

 

 

「……ノコンギク」

 

「え?」

 

 

京助は横目でちらりと花陽のかかえる花を見て、小さく呟く。

 

 

「その花の名前だ。丁度今が花の時期か。白から紫、ピンクくらいまで花の色にばらつきがあるらしい」

 

「へぇ……お兄さん、花にも詳しいの?」

 

「いいや。昔、爺さんにつれられて山菜採りに来たとき、教えてもらったのをたまたま覚えてただけさ」

 

 

いつもなら花の名前なんて一度聞いたくらいじゃ覚えられるはずもない。

それでも、あやふやではあるがその花のことを覚えていたのは、祖父が似合いもしないことを言っていたから。

 

 

「爺さんから聞い話だが……確か、花言葉は『忘れられない想い』、だったかな?他にも何かあった気がするが……忘れちまった。東條ちゃんに聞けばわかるかもな」

 

 

花言葉。

花に込められた意味を聞いて、花陽はその白い花を見つめた。

きっと、それは今この時のことだと、花陽はふと考える。

μ’sに入ってからこれまでのこと。そして、これから先に待つラブライブのこと。

みんなで過ごした日々は全部忘れられないものになるだろうと。

そんな風に感じた。

 

 

「忘れられない想い……」

 

 

教わったばかりの花言葉をもう一度つぶやいて――彼女は京助の顔をまじまじと見つめた。

“忘れられない想い”

彼女にとって、それはもう一つある。

昔、まだ中学校にも上がっていなかった頃のこと。

学校から家に帰ると、まず靴を確認したのを覚えている。たまに早く帰ってきている兄の靴と、それからもう一つのボロボロの靴。

そんな日はドキドキしながらリビングの扉を開けていた。

テレビゲームに夢中になっている兄と、それから……

 

 

「お兄さん、あの……覚えてますか?」

 

 

意を決して尋ねてみた。

けれど、彼から返ってきたのはきょとんとして首を傾げる仕草のみ。

 

 

「ん?何の話しだ?」

 

「……あの、その」

 

 

尋ねてみたことをちょっとだけ後悔した。

こんな答えが返ってくるのは分かっていたはずなのに。自分が覚えているから相手も覚えていてくれるなんて、そんな都合のいい事あるはずないのに。

でも、何故か、胸の奥がちくりと痛んだような気がして、

 

 

「……何でも、ないです」

 

 

知りたいならちゃんと聞けば良い。ちゃんと話して思い出してもらえば良い。

それなのに、それだけの事も出来なかった。

本当に、忘れられていたら。

悲しくて、怖かった。

 

 

「よく分からんが……まぁいいや」

 

 

京助は花陽の様子に気がついた風もない。

あくびを一つ、京助は視線を川面を漂う浮きへと戻して、勢いよく竿を振り上げた。

 

 

「ちッ。逃がしたか」

 

 

綺麗に餌のなくなった針を手に、なんとも惜しそうに溜息をつく。

 

 

「まぁ、ともかく。今回の曲の、ヒントになるといいな?」

 

「うん!」

 

 

京助に言われて、花陽は嬉しそうに頷いてみせる。

彼女のそんな様子をどこか眩しそうに見て、京助も軽く微笑んだ。

 

 

「あ、そうだ。ちょっと良いですか?」

 

「ん?って、何だ?」

 

 

問いかけると同時に花陽はそっと京助の傍まで近寄って、首元に手を伸ばす。

思いのほかに顔と顔の距離が近づいて、柄にもなく京助はどぎまぎしてしまう。

 

 

「はい、出来ました!」

 

「あ?……なんじゃこりゃ?」

 

楽しそうに笑う花陽と、襟元を見比べて京助は眉をひそめる。

彼のシャツの襟先、だらしなく外されたままになっていた襟ボタンの穴に、一輪の花が挿されていた。

 

 

「おすそ分けです」

 

「おすそ分けって……」

 

 

困ったようにつぶやいて、指先で襟の花に触れてみる。小さくて、ちょっと力を入れただけで潰れてしまいそうな花。

 

 

「それじゃあ、私、そろそろことりちゃん達のところに戻ります」

 

「おう。まぁ、頑張れよ」

 

 

小さく手を振って歩き出した花陽が視界から外れるのを確認してから、彼はまた襟元の花に指を伸ばし、その茎をつまんでみる。

外してしまおうかと思って、しかしそれも何だか妙に寂しい気がして、京助は結局花をそのままにしておくことにした。

自分の柄ではないことは分かっているが、たまにはこういうのも悪くはないと、何だかそう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、どうだ、少しは作業も進んでるか?」

 

 

花陽と分かれてしばらく経った頃、釣りを一旦やめにした京助は、少女たちのテントを訪ねた。

別段、何か用向きがあったわけではない。

強いて言うならば好奇心というやつだろう。

しかし、声をかけてみても返事は一向に返ってはこなかった。

 

 

「おーい、どうした?」

 

 

気配はあるのに返事がないことを不思議に思って、京助はテントに更に近づいていく。

入口は開いたままで、彼の意思とは関係なく中の様子が伺い知れた。

 

 

「って、おいおい……」

 

 

テントを覗いてみて、京助は思わず苦笑を浮かべた。

開け放たれた入り口から差し込む暖かな陽光に照らされて、川の字で安らかな寝息を立てる三人の姿がそこにはあった。

 

 

「……寝顔は天使、か」

 

 

彼のつぶやきはせせらぎの音にかき消されて誰にも届かない。

京助は眠り続ける三人に気を使ってか、音を立てないようにゆっくりと踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

「ま、せいぜい良い案が出るように祈っててやるよ。南ちゃん、穂乃果――妹ちゃん(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

さり際に呟いたその一言も、やはり誰の耳にも届かずに、山の空気の中に消えていった。

 




こんばんは、北屋です。
合宿編はなかなか長い話になりそうです。

今回の話は、珍しく外伝が絡む話になっています。fragment 4 の話を見ていただければ花陽が京助を『お兄さん』と呼ぶ理由、そして今回の最後に京助が花陽を『妹ちゃん』と呼んだ訳もわかるかと。

次回はリリホワのメンバーとのお話になるかと思います!
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