ラブライブ! ―夢を追って―   作:北屋

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第四十五話 Mephisto-Walzer

本日も快晴、青く澄み渡った空には薄い雲が浮かび、ゆっくりと流れていく。

天辺に上った太陽を見上げ、眩しそうに目を細めると、京助は口元を軽く吊り上げた。

 

 

「さて、と。今日も今日とてお兄さんは仕事といきますかね、っと」

 

 

などと独り言ちて、搬入用の軽ワゴンから商品の詰まったトレーを下ろしていく。

μ’sの合宿から数日、入れ替わり立ち代わり、あるいは全員揃って来訪するメンバーからの報告によると、曲も衣装も全て順調に進んでいるらしい。

あれほど悩んでいたのが嘘のようだ。

 

 

「まったく、あいつらは……」

 

 

独り言を続ける京助だったが、その口ぶりとは逆に、表情はいつにも増して明るい。

最近、彼女たちが上手くやっていると聞くと、我が事のように嬉しいのだった。……否、もっと正確に言うならば、それは最近の事に限らない。

彼女たちが立ち上がったその時からである。

当初は照れくさくて、すでに夢破れた自分がそんな風に思う事が醜く思えて、認める事は出来なかったのだ。

だが、もう、京助は違うのだ。

何もかも認め、受け入れる事はまだ出来ていない。けれども、その為の決意は出来た。

彼女たちの為に一歩、足を踏み出す覚悟は出来ている。

と、

 

『イェーイ!!』

 

「づァ!?」

 

 

考え事をしながら校舎に入った瞬間、京助は耳を抑えてその場にうずくまってしまった。

それがスピーカーから聞こえてきた爆音の所為だと気づくのは次の言葉が続いてからだった。

 

『みなさん、μ’sをよろしく!!』

 

「ッ……饅頭、娘め……ッ!!

 

 

耳を抑えながら、よろよろと立ち上がる。

今の放送は、どうやら彼の良く知る彼女によるものらしかった。

折角良かった気分が台無しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

カフェ&ベーカリーTSUDAは今日も彼女たちの会合場所になっていた。

 

 

「で、どういう事だ?」

 

 

コーヒーと菓子を配膳しながら、仏頂面の京助はメンバーに尋ねる。

今日のお茶うけはドライフルーツとクルミのたっぷり入ったパウンドケーキ。傍には真っ白なホイップクリームが添えられている。

金縁の小皿も相まって、上品で小洒落た一品であった。

 

 

「何が?」

 

 

絵里が小首を傾げると、京助は不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、

 

 

「昼間の放送テロだ。おかげでまだ耳がおかしいし、気分も悪いんだが」

 

「あー……」

 

 

片耳を叩きながら京助は顔をさらにしかめた。

 

 

「あの、もうすぐラブライブ予選だから、校内のみんなに宣伝しようと思ったんだけど……」

 

「なるほど。それで穂乃果がまたやらかした、と」

 

 

ことりが苦笑交じりに言うと、京助は深いため息をつき、しかし彼ははもうそれ以上深く追及はしなかった。

本格的に気分がよろしくないのか、あるいはもう彼女たちの暴挙には慣れたのか。

無言のまま、彼は配膳を終えると、そのままカウンターの向こうに引っ込んで、新聞を広げてしまう。

残された少女たちは菓子をつつきながら、再び相談を開始した。

 

 

「ライブの場所、どうしよう?」

 

「学校の屋上も多目的ホールも、使えるところは全部使っちゃったよね……」

 

「そのほかで、私たちが緊張せずにいられる場所となると……」

 

 

海未の発言を最後に、一同が黙り込む。

思いつく限りの場所はもう配信に使ってしまい、残ってはいなかった。

 

 

「こことか?」

 

「おい、無茶言うな」

 

希が冗談交じりに言うと、新聞から目を離した京助が反論する。

 

 

「何だ、話聞いてりゃ。ライブやる場所探してるのか?」

 

「はい。ラブライブ予選は公式の会場以外でも、自分たちで場所を選べるんです」

 

 

花陽が答えると、続いてにこが、

 

 

「全国配信されるから、私たちが画面の中で目立たなきゃならないの。だからインパクトのある場所が欲しいわね」

 

「なるほどな……」

 

 

頷いて、京助は煙草をポケットから取り出し、すぐにまたポケットの中にしまいなおす。

 

 

「この街のどっか……」

 

「という訳にもいかないのよ」

 

 

絵里が困ったように京助の言葉を否定した。

 

 

「この街は、A-RISEのお膝元やろ? 下手なことは避けた方がえぇやん」

 

「それで喧嘩売ってるように思われるのも、ね」

 

「あぁ、なるほど」

 

 

説明を受けて、京助は合点がいったと首を縦に振った。

 

 

「京助、どこか良いところ閃かない?」

 

「そう言われてもな……」

 

 

真姫に尋ねられるが、彼女たちが考えて思いつかないような事をそんなにすぐに考え付くはずがなかった。

新聞を下ろし、腕を組んで、

 

 

「あ、」

 

「京ちゃん、何か思いついたの?」

 

 

しかし京助は再び眉間に皺を寄せて唸りだしてしまう。

確かに考えがなくはない。だが、実現可能かと言われたらかなり無理がある。

やってみる価値はあるかもしれないが……

 

 

「いや、何でもない。忘れてくれ」

 

「そんな事言われたら余計気になるにゃ!けちけちしないで教えてよ、おじさん!」

 

「おいこら猫娘。次、おじさんって言ったらお前の飲み物にタバスコぶち込むぞ」

 

 

いつも通りの掛け合いをしながらも、京助は頭の中で密かに考えを巡らせていた。

 

 

「さて、それじゃ場所探し、続けましょうか」

 

 

にこがコーヒーを飲み干して立ち上がる。

ふと、彼女と京助の目が合った。

だが次の瞬間にはにこが目をそらしてしまう。京助もつられてあからさまに目をそらしてしまい、すぐに後悔に苛まれた。

人知れず拳を小さく握りしめる。ついこの間、真姫に相談に乗ってもらい、きちんと話し合うと言ったばかりなのに。

まだ、二人の間の溝は埋まってはいない。

 

「そうですね。津田さん、お勘定を」

 

「……あいよ」

 

 

 

 

ドアベルの音が響いて、店内に静寂が戻ってくる。

客の居なくなった店内でコーヒーを一口含んで、煙草に火を点けた。

 

 

「けほッ……」

 

 

まだ風邪は治らないらしい。

何でもないと、さっきはそう言ったが、確かに面白い考えは浮かんだ。だが、出来るかどうかが分からない以上、下手に口にして彼女たちにいらない希望を持たせるのも忍びないと考えて、黙ったのだ。

紫煙を吐き出して、先ほど頭に浮かんできた考えをまとめていく。

穂むらほどではないにせよ、京助の実家であるこの店の歴史はそれなりにある。そのおかげで京助自身はともかく、店の名前のおかげで秋葉原の街の商工会や寄り合いにはそれなりに顔が利く。

その伝手を頼ればあるいは……

 

 

「まぁ、さすがに準備は間に合わねぇよな」

 

 

足りない頭で考えて、彼は呟く。

我ながら、あまりにも突拍子もない考えだ。

だが、彼好みのやり方だし、それはきっとμ’sにとっても悪い話ではないだろう。

だが、本当にやるとしたら、事前準備はとてもじゃないが大掛かりなものになるだろう。色々な筋に協力や根回しをする必要もあるだろう。

今回は勿論のこと、時間がいくらあっても足りない。

きっと、これが実現する事はないのだろう。

 

 

「秋葉原の大通りで、ライブなんて、な」

 

 

コーヒーを飲み干して、マグカップ片手に立ち上がる。

そろそろ次の客が入ってきてもおかしくない頃だ。

そんな風に考えていた、丁度その時だった。

からん、と。

来客を告げるドアベルの音が響き渡る。

 

 

「はい、いらっしゃいませー」

 

 

営業用の笑みを浮かべて振り返った彼の目に映ったのは、二人の少女。

逆光の所為で、一瞬、μ’sの誰かが戻ってきたのかと思った。

誰に、という訳ではない。だが、二人はどこか、京助の良く知る9人の少女たちによく似ていた。

だが、違うと気が付くのはすぐだ。

純白の制服に身を包む彼女達の立ち居姿。

自信とプライド、それから彼女たちのような年頃の少女には似合わないもの、μ’sにはないものを身にまとっているようで、京助は思わず怯んでしまう。

 

 

「こんにちは」

 

 

にっこりと。

一人が京助に優しく微笑みかけた。

思わず見とれてしまいそうな笑みだった。

 

 

「突然すまない。津田、京助さんであっているか?」

 

 

もう一人の少女が凛とした声で尋ねてきた。

別に強い調子で言ったわけでもないのに、彼女の言葉には有無を言わせぬ迫力のようなものがあった。

二人とも、京助が思わず息を飲んでしまう程に美しい少女だった。

 

 

「そんなに身構えなくてもいいのよ?」

 

 

最初の少女が困ったように微笑みかける。

京助は知らず知らずのうちに腰を落として身構えていたのだった。

信じられない事に、彼はいくつも年の離れた彼女たちに圧倒されていたのだ。

 

 

「少し、付き合ってほしいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちが通されたのは、洒落たレストランの一室のような場所だった。

よく掃除と手入れが行き届いているのか、どこもかしこもピカピカに輝いて見えて、チリ一つ見当たらない。

ガラスの向こうには秋葉原の街並みが一望でき、壁には大型の液晶画面までがはめ込まれている。

μ’sの皆がよく通う、京助のパン屋兼喫茶店とは比べ物にならないような施設であるが、真に驚くべきはそれが、学校のカフェスペースであるという事だった。

 

 

「一度、挨拶したいと思っていたの」

 

 

そう言って、彼女は微笑む。

それは力強さと好奇心に満ち溢れた笑みだった。

 

 

「高坂、穂乃果さん」

 

 

心の底から嬉しそうに、歌うように彼女は穂乃果の名を呼んだ。

綺羅 ツバサ。

それが彼女の名である。

そして、彼女こそ、前回のラブライブにて優勝したスクールアイドル、即ち日本一のスクールアイドル、A-RISEを率いるリーダーその人だった。

 

 

「え、私たちの事を、」

 

 

きょとんとする穂乃果だったが、ツバサは当たり前の事のように、

 

 

「勿論。だって、私達、あなたたちの事をずっと注目していたのだから」

 

 

驚きのあまりに言葉を失ったμ’sの9人を見ながら、ツバサの横に並んだ二人、優木あんじゅと統堂英玲奈が先を続ける。

 

 

「前のラブライブでも、あなたたちが一番のライバルになるんじゃないかって思っていたのよ?」

 

「そ、そんな」

 

照れて頬を染めながら、絵里が何かを言おうとすると、彼女たちはそれを遮って、

 

「絢瀬絵里。ロシアでは名のあるバレーダンサーだったと。そして西木野真姫の作曲才能は……」

 

 

次々と、μ’sの一人一人の情報を読み上げるように諳んじていく。

彼女たちが言うように、ライバルのように思っていたというのはお世辞でも何でもなく、本心からの言葉のようだった。

 

 

「そして……」

 

一通り言い終わった後で、ツバサが意味深に言葉を切って、目線を一番端の席に向けた。

釣られたように全員の視線が、さっきから不自然なまでに黙りこくったままの人物の元に注がれた。

 

 

「……何で、京ちゃんがいるの?」

 

「知るか」

 

 

穂乃果に不思議そうな目を向けられて、京助は吐き捨てるようにそう答えた。

音ノ木坂のメンバーと同じくらいに、いや、むしろそれ以上に困り切っているのは京助の方だった。

不機嫌やらなにやら、様々な感情の入り混じった良く分からない表情のまま、京助は憮然とした様子で腕を組む。彼自身、何故自分がこんなところにいるのか分からず、しかし逆に状況が分からな過ぎて何も出来ずにいるのだった。

そんな彼の心境を知ってか知らずか、ツバサは話を続ける。

 

 

「津田京助。いくつものコンテストで好成績をおさめ、メジャーデビュー秒読みとまで言われた伝説的な高校生バンドの元ギター担当。そして現在、μ’sのマネージャー」

 

「誰がマネージャーだ」

 

 

むっとした様子で京助が反論すると、ツバサが目を見開いた。その答えは予想していなかったとでも言うような反応で、しかし気を取り直し、京助に何事かを言おうとするが、

 

 

「え、京ちゃん、マネージャーだったの?」

 

「マネジメント……なんてしてもらった覚えがないのですが」

 

「あー、うん。色々助けてもらってはいるよね?」

 

「ん?んー……でもそうするとおじさんと凛達の関係ってなんだっけ?」

 

「……そういえば、京助って元々は購買のおじさんだったわよね?」

 

「で、でも!お兄さんはなくてもならない存在だよ!」

 

「それは勿論よ!だけど、改めて言われると確かに津田さんと私たちの関係……」

 

「いや、津田くんはうちらの友達やろ?なぁ、津田くん?」

 

 

不機嫌丸出しの京助と、そのすぐ横で首を傾げながら話し合い始めてしまうμ’sの面々を見て、今までの自信に満ち溢れた態度はどこに行ったのか、恐る恐る、

 

 

「え……違うの?」

 

「人違い、か?」

 

 

な十人の反応を見て不安になったのか、A-RISEの三人も困惑したように顔を見合わせる。

場は混沌を極めていた。

 

 

「いや、あってるよ」

 

 

こつり、と。

固い靴音が聞こえた。

カフェテリアの中にいるのは彼女達だけではなく、他の生徒も数多くいて、静まり返っているとは言い難い。

その中に合って、その音はやけに耳に響いた。

 

 

「てめぇは!」

 

 

彼らの席に一直線に近づいてくる人物を視界に入れて、京助は思わず座席から跳び上がるように立ち上がった。

固い足音がどんどん近づいてくる。

 

 

「津田京助、21歳。努力、根性、気合だけが取り柄の僕らの元リーダーにしてギタリスト。当時の牽引力は今の穂乃果ちゃんと同じくらいだったんじゃないかな?」

 

 

靴音が止まった。

同時に、A-RISEとμ’s、その全員が会話をやめて彼を見つめる。

それは一人の、長身の青年だった。

線が細く、柔和な顔立ちは人並み以上に整っている。

服装こそ白いシャツと黒のスラックスと飾り気はないが、清潔感のあるその恰好がよく似合っていた。

性別こそ違うがA-RISEのメンバーの横にいても違和感がないくらいに容姿と立ち居振る舞いが美しい青年だった

その顔には微笑みが浮かんでいる。

どこまでも優しい微笑みだった。どこまでも酷薄な笑みだった。

 

 

悪魔(メフィストフェレス)

 

 

彼こそ、かつて京助がそう呼んだ男だった。

 

 

「こんにちは、μ’sのみなさん。初めまして……じゃない人もいるかな?」

 

 

冗談めかして軽く一礼。

その姿さえも様になっていた。

 

 

「あなた! あの時の!」

 

 

にこが思わず立ち上がって指さした。

彼は、先日、にこが神田明神で出会い、そして津田京助の挫折を教えた青年だった。

青年は嬉しそうに笑みを深くすると

 

 

「やぁ、この間はどうも。矢澤にこちゃん」

 

「おい」

 

 

まるで、にこと青年の間に割り込むように、京助が一歩身を乗り出した。

 

 

「久しぶりだね、京助」

 

「……久しぶりだな。伴瀬、」

 

 

鋭い音が響いた。

続いて鈍く重い音。

何が起きたのか、分からなかった。

思いきり頬をひっぱたかれて、その場に倒れたのだと、そう気づいたのは痛みが遅れてやってきてからの事だった。

 

 

「貴仁。伴瀬 貴仁。A-RISEのマネージャーと作曲を担当してます。今後ともよろしくね」

 

 

京助を殴り飛ばした直後だというのに、表情一つ変えず、優しい微笑みを浮かべたままに彼は名乗りを上げた。

 

 

「よ、よろしくおねがいします……じゃなかった!京ちゃん!」

 

 

伴瀬と名乗った青年が握手を求めるべく差し出した手を取りかけて、穂乃果ははっとした様子で京助の名を呼ぶ。

あまりに自然な彼の立ち居振る舞いに、飲まれかけていた。

 

 

「いきなり何しやがる!」

 

 

怒りに目を吊りあげて、京助は起き上がると伴瀬の胸元に手を伸ばした。

胸倉をつかもうとするその手をやんわりと払いのけて、

 

 

「良いの? 君の大好きなμ’sの前で暴力なんか振るって?」

 

「っ!」

 

 

伴瀬がささやく。それだけで、京助の手から一瞬力が抜けた。

その瞬間を見計らったかのように、伴瀬が京助の手をとり、そのまま握りしめる。

 

 

「本当に久しぶり。元気にしてた?」

 

 

傍から見れば、仲の良い友人が再開の握手を交わすようである。

だが、京助は手を取られたままその場に膝をついてしまった。

 

 

「て、めっ……」

 

 

ただ手を握られているだけだというのに、いかなる術理が働いているのか、京助はその場から立ち上がる事はおろか身動き一つとる事は出来なかった。

彼の額にはうっすらと脂汗が滲みんでいる。完全に極められ、無力化されてしまっていた。

 

 

「あれ、どうしたの京助。ほら、しっかりして。一旦、席に戻ってもらえると嬉しいんだけど」

 

 

わざとらしく言って、伴瀬が放す。

だが、解放されたというのに京助はやり返す事はおろか、普段の口調でまくしたてる事もしない。

否、出来ないのだ。

それだけの理由が、彼らの間にはある。

 

 

「さてと。それじゃ、僕らの感動の再会はまた後にするとして……ツバサちゃん?」

 

 

京助が椅子に座り直すのを確認すると、伴瀬はA-RISEの三人のすぐ横の席に腰を下ろし、ツバサに話を続けるようにと促した。

 

 

「こほん。それじゃ気を取り直して……何故、私たちがあなたたちの事をそんなに知っているのか不思議、という顔をしているわね?」

 

「え、えぇ……」

 

 

絵里が頷く。

 

 

「これほどまでに素晴らしい資質をもったメンバーをそろえたチームなんて、そうそうあるものじゃないから」

 

「だから注目も応援してたの」

 

 

長い栗色の毛をいじりながら、あんじゅがツバサの言葉を引き継ぐ。

 

 

「待ってください。あなたたちは優勝者で」

 

「それは過去の話。私たちは、今この時、一番お客さんに喜んでもらえる存在でありたい。それだけだ」

 

 

今度は英玲奈が先を続ける。

それを聞き、μ’sの面々も、そして京助も黙り込んでしまう。

その台詞には、単純な字面以上の迫力がこもっていて、彼女が、彼女たちが言っていることが心からのものであると分かってしまった。

すさまじいまでのプロ意識。気高く、ストイックな勝利への渇望。

それはまさに王者の風格に他ならない。

 

 

「つまり、何が言いたい……?」

 

 

からからに乾いた喉で、それでもどうにか京助が絞り出すように問いかける。

京助でさえも、彼女たちを前にして気圧されていた。

 

 

「μ’sのみなさん。それから津田京助さん。お互いに頑張りましょう。私たちは負けません」

 

 

不敵な表情で、ツバサが穂乃果たちを見まわしてそう宣言する。

それは明らかな、好敵手への宣戦布告だった。

 

 

「言いたい事は、それだけ。僕と、A-RISEは絶対に勝つ。もう一度、優勝をつかみ取る為に」

 

 

伴瀬もツバサに続いてそう宣言する。

彼の目は、京助を真っすぐにとらえていた。

 

 

「上等だ……」

 

「京助」

 

 

京助が言いかけるのをやんわりと制して、伴瀬は静かに笑いかけた。

 

 

「君とは付き合い長いけど、君が僕に……そうだね。何の分野でもいいけど勝てた事、あったっけ?」

 

「……ッ」

 

 

京助がたちまち言葉に詰まってしまう。

伴瀬 貴仁と津田 京助。二人の付き合いは長く、そして深い。だからこそ京助は彼が言わんとしている事を瞬時に理解してしまう。

すなわち、京助では伴瀬には勝てないと。

それは怒るべきところだった。憤るべきところだった。

それでもと、言い返すべきはずのところだった。

だが、京助は何も口にすることが出来なかった。

長きにわたる挫折の繰り返しの中で傷つき錆び付いた心には、情けないほどん敗北が染みついていた。

 

 

「A-RISEのみなさん!」

 

 

歯を食いしばり、苦悶の表情を浮かべる京助。

そのすぐ横で穂乃果が立ち上がった。

続いて、ことりが、海未が。花陽が、凛が、真姫が。絵里、希、そしてにこが立ち上がる。

座ったまま驚きの表情でそれを見上げるしかない京助を、ちらりと、にこが見やって、しかしすぐに視線をA-RISEのメンバーの方に向ける。その視線の意味が、すぐには分からなかった。

 

 

「私達と京ちゃんも、絶対に負けません」

 

 

静かに、穂乃果はそう言い切る。

彼女たちの眼差しは真っすぐで、真剣そのものだった。

短い、たった一言であるというのに、ツバサが、あんじゅが、英玲奈が息を飲む。

伴瀬でさえも目を丸くして成り行きを見守るばかりだった。

 

 

「……ふふっ」

 

 

最初に耐え切れなくなったのはツバサだった。

これまでと違い、年相応の少女のような朗らかに笑いだす。すると、一拍置いて、伴瀬も初めて声に出して笑い出した。

 

 

「はははっ! 穂乃果ちゃん、君、本当に面白いね。うちの元リーダーにも見習ってもらいたい」

 

心の底から楽しそうに笑う彼の目がもう一度京助を捉えた。

それだけで京助は背筋を冷たいものが走るのを感じた。

分かってしまったのだ。

彼が笑っているのは穂乃果の発言が面白かったからだけではないと。

京助の体たらくを見て、ほくそ笑んでいるのだと。

言い返す事も出来ず黙り込み、挙句の果てはいくつも年の離れた少女に助けられてしまった彼を。

それはまさに悪魔の笑みだった。

拳を、ただただ強く握りしめる。それしか出来る事がなかった。

先ほどの、にこの視線の意味が分かって、胸の奥が痛んだ。

彼女の目は、何故言い返さないのかと、そう問いかけていた。

みじめだった。消えてなくなってしまいたかった。

 

 

「うん。ツバサちゃん、あの話、どうだろう?」

 

 

そんな京助に満足そうな一瞥を与えると、それっきり興味を失ったのか、二度と彼に目を向ける事無く話を進めていく。

 

 

「そうね。やっぱり穂乃果さん達は私たちが見込んだ通り。……ねぇ、次のライブだけど場所は決まった?」

 

「え?いえ、まだ」

 

「そう。なら、うちの学校でやらない? 屋上でライブステージを作る予定なんだけど、よかったら是非」

 

 

不意に別の話題を振られてきょとんとする穂乃果にツバサはそう提案した。

逡巡は一瞬の事。

穂乃果の答えは決まり切っていた。

 

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