モノを作るのは好きだ。
故に、多くのモノを生み出し、世に送り出してきた。
その中でも一番、気を使って作るモノがある。
人形だ。
人形は言葉の通り〝人〟の〝形〟をしている。
そのため、仮初であれ、器が出来れば、何かしらの意志や感情が生まれるのだ。
それゆえ、人に近ければ近いほど、人の真似事で感情や意志を持ってしまう。
けれどその感情や意志は、人とは違い純粋無垢である。
故に、報われることは無い。
真夜中の病室。
その室内で、独りの老いた男が己の死期を悟り、唯ひたすら死ぬのを待っていた。そんな中、病室の扉が独りでに開く。
昼間は親族など友人が見舞いに来るので、扉が開くのは可笑しくは無いが、今は真夜中…草木が眠る丑三つ時―――恐らく人ならざるモノだろうと男は思い、顔だけ扉の方へ向け、驚愕する。
其処に居たのは、独りの少女――――いや、男が若い頃に作った
その人形は男の作ったモノの中で最高傑作と謳われ、ヒトと見紛うばかりの美しい姿に多くの美術家や富豪たちがこぞってその人形を買おうと小競り合い、最終的に一人の富豪が買い取った筈だ。
なのに何故此処に――――。
疑問に思うのは束の間、人形は男を見ると嬉しそうに微笑み、まるで再会を喜び踊っているかのように、足音を立てずスキップして、男が横たわっているベッドの元まで行った。
死ぬ間際に見る幻かと思ったが、男の目をごまかすことは出来ない。それは確かに中身を除いて自分の作った人形だ。
「お前は誰だ―――何故、その姿でいる。」
そう男が問うと、人形の中にいたモノは微笑みながら答える。
「神の眷属…名前に意味は無いから言わない。この人形の中にいるのは気に入っているからよ。流石は貴方の最高傑作として謳われてるだけあるわ。中身さえあればヒトと何ら変わらない。――――どうして、
「愚問だな。中身が有ろうが無かろうが、どうあがこうが所詮はモノだ。ヒトに成ることは出来ない―――中途半端な存在にすれば悲劇が生まれる。世の常だ。」
「そう、それが貴方の
「そんな事は今はどうでも良い――――――して、神の眷属よ。死にかけの老いぼれに何の用だ。魂でも貰いに来たか。」
男は酷く気だるげな声音で神の眷属と名の乗る存在に問いかける。そのモノは首を横に振り、答えた。
「まぁ、あながち間違えじゃないけど似てるかもね。私は貴方を転生させるために来た。」
「転生…?」
「そう、簡単に説明すると、神曰く貴方ほどのモノを作る事に関して長けている者は少ないから、此処で記憶を無に帰すのは勿体無いので記憶と共に別の存在に転生させるだって。これは、貴方にとっても好都合な話よ。なにせ――――ヒトの域を超えたモノを生み出すことが出来るようになるのだから。」
その言葉を聞いて男は眉を顰める――――ヒトの域を超えたモノだと?
「化かすのは大概にしろ。良い話の裏には何かあるのは普通だ…―――何が望みだ?」
「私に望みなんてない。これは神に言われた言葉だ。嘘偽りは無い。貴方を害する事は基本的に無い、だが、貴方が我々に危害を加えた場合は別だ。どうする?転生する?」
その人形の中に居るモノの言葉に嘘が無く、真実だけを言っていると分かると男はニヤリと笑い答える。
――――この病室で過ごすのも飽いていたところだ。久々にモノ作りたくなった。
某病院に入院していた芸術家が死亡したと世間一般に瞬く間に広がり、誰もが偉大なる芸術家の死を悼んだ。
その反面、彼の死に関する不思議な話も存在する。
彼の死んだ後の病室には、何と彼の作り出した最高傑作と謳われる人形が発見されたのだ。
噂によればその人形は主人の死を悲しみ一晩中、涙を流していたと…。
それが真か嘘かは定かではない。