ウル・ルガルがエルキドゥと遭遇してから、数年の月日が経ち、彼が成人した頃、父親であるギルガメッシュに自分の元に来るよう呼び出されていた。普通の父親と息子の関係ならば、独りの大人として成長し、五体満足で成人した息子を褒め称え、酒をふるまいながら親族共々祝うのだろう。
だがしかし、ギルガメッシュとウル・ルガルの関係は普通の親子関係では無い。血の繋がりはあるが、互いに人と神の血をワザと混ぜられ誕生した人形。ギルガメッシュが神々に従って作ったモノに過ぎない。故に、ギルガメッシュが子を欲して誕生させた訳では無いのだ。そのため、親と子の間にある愛情があるかどうかさえ疑わしい。
そもそも、ウル・ルガルはギルガメッシュに父親らしい事をされたことは一切ない。別段、そんな事をして欲しくもないし、されたとしても気味が悪くて鳥肌が立つ。
寧ろ、ギルガメッシュとウル・ルガルの関係は親子と言うより〝兄弟〟と評した方が正しいだろう。自分より年下の弟のモノを無理やり奪い取る大人気ない我儘な兄。簡単に例えれば、その様な関係である。だからこそ、呼び出しで、どんな無茶な事を言ってくるか分かったモノでは無い。けれど、エルキドゥが居るため以前よりもマシになったのは事実である。それに、今回は恐らくまたエルキドゥと旅に出るだとかで、その間の政務を代わりにやっとけとでも命令してくるに違いない。そうその時まで思っていた。
奴のいる神殿に着くと、すでにエルキドゥと父がヴィマーナに乗って待っていた。此方の存在に気が付くと機嫌良く声を―――
「ふん、漸く来たか。今すぐ出かけるぞ。乗れ。」
「はぁ?私も行くのか…?何処に何をしに行く?」
「貴様も行くに決まっているだろう。なに――――神の生み出した穢れの大掃除をしに行くだけのことよ。」
「穢れの大掃除って――――フンババを殺すつもりか。」
そう言いながら、ヴィマーナに乗り込む。フンババ――――その声は洪水、その口は火、その息は死をもたらし、60ベールの範囲の獣の雄叫びを聞きつけるとされる、エンリル神が定めた杉の森の番人。人々の自然に対する恐怖であり大地の不浄、穢れだとされる。神々が人を畏怖させるために生み出した魔物―――ガイアの化身の一つと言っても過言ではない。一度、アレを遠くで見たことあるが、確かに父とエルキドゥだけで倒すには骨の折れる作業だろう。
しかし、フンババを倒すと言う事は――――。
「父よ―――フンババを倒せと神々に命じられた訳では無いだろう。それに、アレを倒したら神々にどう思われるか分かっているんだろうな?」
「ふん、貴様に警告されずとも分かっている。しかし、あの魔物をこれ以上、野放しには出来んだろう。」
父の言ってる事はもっともだった。いずれにせよあの魔物を倒さねば、人々に害を成すのは確実だからだ。神々からしてみれば、自身の威厳を折られるようなもので堪ったモノでは無いが。
「分かった。一応、聞いておくが何か作っておいて欲しいモノは無いな?」
「アレを倒すには今ある武器で充分であろうよ。それに、喜べ。息子よ。あの魔物を倒した後の死骸は貴様の好きにして良いぞ。」
そう鼻を鳴らしながら上機嫌に父が言う。神獣の骸を奉るのではなく、その骸で好きにモノを作っていいと言うのだ。この男も常々、罰当たりな奴だと思う。
だがしかし、反対する気は無かった。一応、断っておくが、フンババの骸欲しさでは無い。
いずれ、人々は自身を生み出した父であり母である神々から巣立たねばならない。そうしなければ、人々は神々の奴隷になってしまう。そのようなことを父は許すはずもなく―――そのための、圧政や不自由、神を廃する決意をしたのだろう。王としての使命のために―――これから先の人類の未来のために。
だからこそ、私は警告はするが、父のすることに対しては何も言わなかった。諌める必要が無いと理解したからだ。なにせ、ギルガメッシュも、エルキドゥもまた、己に課せられた使命を全うしているからだ。
――――天罰を下す必要など、最初からなかった。食らうべきは、全く成長しない天上の神々の方ではないかと思う。
次回、フンババ=サンと戦闘。シャマシュ神は見守るだけで出てこない。