「ふん、息子よ。一体、何のようだ?今の我は機嫌が悪い。下手な進言を言えばその首を刎ね落すぞ。」
そう父であるギルガメッシュは不機嫌そうに玉座の手すりに頬杖をつきながら、目の前にいる息子のウル・ルガルに尋ねる。ウル・ルガルは殺気立ってる父を見てため息を吐き、エルキドゥは心配そうにウル・ルガルの事を見ていた。
「エルキドゥさんにも言われてると思いますが、その殺気を納めてください。人々を不安にさせるのは、暴君の与える恐怖以上に厄介だ。」
「ならば、貴様がこの我の怒りを鎮めるか?丁度良い…あの喧嘩はまだ決着が付いていない。続きをするぞ。」
「いえ、その前に女神イシュタルの――――――…」
そうウル・ルガルが言葉を続けようとした瞬間、地面が揺れ、何かが割れる音がウルクに木霊する。瞬く間に、彼がウルクの城塞都市に張った結界の一枚が割れたのだ。城塞都市にいる人々にとってウル・ルガルの張った結界の一部が破壊されるのは一大事なのである。
そのため、宮殿に居た一同は宮殿を飛び出し、天を仰ぐ。
其処には城塞都市すら超える背丈の巨牛が居た。その牛は天上の雲を纏い、群青色の美しい角がそそり立っていた。巨牛の足元では洪水と地震が巻き起こり、城塞都市に逃げ遅れた市民たちが巻き込まれている。ソレを見たフンババは顔を引き攣らせ呟く。
「
「あの
「やはり天の父も娘には頭が上がらないのか………たまげたなぁ…はぁ……。」
「にゃにゃ!?呑気なこと言ってる暇はないぞ!早くあの雄牛を止めなければウルクが滅びる!!!」
「そう喚くなナマモノ。そのような事は我でも承知している。行くぞ…エルキドゥ…。」
「わかったよ。ギル。あの雄牛を倒そう。」
ギルガメッシュは宝物庫からヴィマーナを出すと、エルキドゥと共に乗り込む。
「待ってください!父よ!あの雄牛を倒したら――――…。」
「黙っておれ。貴様はこのウルクの結界を強くし、逃げ遅れた民を救出し守れ。それに、ルガルよ。結界に力を回し、顔を青くさせているお前を共に連れて行っても、足手まといになるだけであろうよ。此処で父の威光をしかと目に焼き付けておくがよい。」
そうギルガメッシュは背中を向け、
「ハハッ……こんな時だけ、父親らしくして名前を呼ぶとはな――――…フンババ…。」
「主よ…何だ。」
何時になく弱りか細くはあるが、威圧を込めた静かな声で彼は使い魔に命令する。
「
「承知した。」
そうフンババは返事をすると、大地へと静かにその身を溶け込ませ消えた。その瞬間、城塞を攻撃していた
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――ッ!!!!!!!!!」
「 ―――――『
神気を纏った天へと放たれる剛撃は、大地を裂く天牛を槍の様に突き刺し、その動きを一時的に止めさせる。
「良くやったぞ、フンババよ。後は我らに任せるが良い。」
何時もフンババを嘲笑っている声の主は、王として自身の臣下を褒め称える。それを聞いたフンババは喜びのあまり笑みをこぼす。そして森の神は、天の楔と天の鎖が天牛に挑む姿を静かに見守った。
鎖と楔が勝つのを祈って。
*
どれ程、時間が経ったであろうか。轟々と雨は降り注ぎ、風は強く吹きすさぶ。
その身に雨風を受けながらも、ウル・ルガルは城塞に立ち、父とその朋友が戦う姿を黙って眺めていた。
「ルガル様…ギルガメッシュ様とエルキドゥ様が心配になのは分かりますが、そのままでは体が冷えます。唯でさえ力を使っているのです。貴方に倒れられればウルクは洪水に飲まれてしまう。どうか、屋内にお入りください。」
「シャムハト…。」
声を聞きウル・ルガルが静かに振り返れば、自身と同様に雨風に打たれながら聖娼シャムハトが心配そうな顔で立っていた。
「………お前は良いのか。女神イシュタルにこのことを止めるよう祈らなくても…。」
「本来ならばそうなのでしょう。しかし、聖娼としてではなく個人的に貴方の事が心配です。」
「そうか……しかし、屋内に入るつもりは無い。我が父にこう言われたからな…自身の威光を目に焼き付けておけと……故に入る事は無い。それに――――…」
ウル・ルガルは目を伏せながら、静かに語る。
「私は――――天の鎖を…死地へと赴かせてしまった…ソレを止めるための楔だったのな…。」
「ルガル様――――それは…!」
「
顔を俯きながら彼は話す。ルガルの声には悲哀と嘆きに満ちていた…。
「我が父に憎まれるだろうな…。」
「顔を上げてください。ルガル様…ギルガメッシュ様に言われたのでしょう?自身の威光を目に焼き付けろと…そのような顔では彼らの勇姿を見られません。それに…ギルガメッシュ様は貴方の事をこの件で憎むことは無い。寧ろ、憎しみはイシュタル様と天上の神々に向けられるでしょう。」
そうシャムハトに言われ、ルガルは顔を上げる。その表情の変化はあまりないもの、泣いているようにシャムハトには見えた。その時である。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――ッ!!!!?!???!?」
紅い光が
「―――――ッ!エルキドゥ!!!」
そうルガルは叫びながら、父とその朋友の元へと向かった。
「許さぬ。何故、お前が死ぬ?罰を下されるのなら、それは我であるべきだ!全ては我の我儘ではないか!!!」
其処には悲痛な声を上げながら、地に帰ってゆくエルキドゥの身体を我が父は泣きながら抱えていた。そんな父を見てエルキドゥは顔を涙で濡らしながら答える。
「…悲しむ必要はありません。僕は兵器だ。君にとって数ある財宝の一つに過ぎない。この先、僕を上回る宝は幾らでも現れる。そこに居る貴方の息子が作り上げるでしょう。だから、君たちが頬を濡らすほどの理由も価値も、僕にはとうに無いのです。」
そう言いエルキドゥは此方を少し見て、視線をギルガメッシュに戻しながら言う。
「価値が無いなんて言わないでください!!!!そもそも、貴方以上の宝を私が作り父に献上する事など出来ない!!!出来る筈がない!!!」
「ルガルの言うとおりだ!価値はある。唯一の価値はあるのだ!我は此処に宣言する。この世において我が友は唯ひとり…。ならばこそ―――――その価値は未来永劫変わりはしない!!!」
そう感情のこもった声で父は宣言する。理解者を必要とせず、孤独である事こそ人類に対する誠意であった自らの矜持を傷つ付けても尚、父は叫ぶ。その言葉を聞いたエルキドゥは苦しげに眉を顰め、荒野の土へと戻る。
後に残ったのは、天雷を思わせる、王の雄叫びだけだった。