-第1話 道化師、異世界へ-
少年-トロワ・バートンが目を開くとらそこは夕方の、とある建物の内部だった。
すべての戦争が終わり、役目を終えた愛機を自爆させたところ、強烈な光に包まれた。
トロワは幾度もの任務で敵味方問わず、いろいろな機体を破壊してきた。
確かに、あの大質量の兵器を爆破するとなると、それ相応の余波はある。
しかし、今回の爆破は今までと感じたことのないレベルの光量だった。
その強烈な光が収まったところ、見たこともない建造物の中に立っている、という状態だった。
強烈な光が続いている間も少年の意識はハッキリとしていた。
そのため、誰かに連れ去られた、という選択肢はありえなかった。
もっとも、誰かに連れ去られるような失敗は犯すようなことは無いのだが。
「・・・さて、俺は機体を自爆させていたはずなんだが・・・、いったいここはどこだ・・・?」
止まっていても始まらないため、その場から移動を始め、分析を開始する。
同じような部屋、その中にある多数の机、イス、同じ部屋、そこから導き出される答えといえば―
(見たところ、学校のようだが・・・)
また、その場で聞こえてくるかすかな声についてもトロワは聞いたことがあった。
(たしか、東洋の島国の・・・)
といったところだが、そこで新たな疑問が浮かんでくる。
トロワは今までブリュッセルで最後の戦いに赴いていた。
しかし、あの光が発せられて終わるまでの時間でヨーロッパのブリュッセルから東洋の島国までどうすれば移動することができるのか。
技術が大幅に進歩したA.C.の世界とはいえ、そんな瞬間移動といった技術は存在していない。
「いったい俺になにがあったんだ・・・」
「誰の、仕業だ・・・」
あり得ない現実に思わず独り言をつぶやいてしまう。
その直後のことだった。
「そこの男、動くな」
女性の声だった。
声の直後、後頭部に冷たい何かが当たる感覚があった。
(・・・迂闊だった。このようなケースでは全力で逃走すべきだった)
内心毒づく。
冷静な状況であれば、この女性の足音にも気づけたはずだ。
しかし、あまりにもあり得ない現実に心が油断だらけになっていた。
「聞こえているのか?ここがどういう場所か知ってのその所業か?」
(なるほど、ここは然るべき場所で、この女は事情を知る者か。ならばここは現状を把握するべく、大人しくして少しでも多くの情報を引き出そう。無闇に騒ぎを起こすのは今の時点では得策ではない。)
「わかった。投降しよう」
両手を挙げ、戦闘の意思が無いことを伝える。
「物分りが良くて助かる。私も無駄な争いは好まん。・・・それにしても投降と言ったか。お前、軍人か?」
「かつて傭兵をやっていた」
「なるほどな。投降の意思を示しているが、動きに隙が無いわけだ」
女性もトロワの分析を始めたようだ。
「それにしても、最近の学校はお前のような者がいるほど物々しいのか?」
両手を挙げたまま、トロワが問いかける。
学校ではあるものの、この頭に突きつけられている冷たい感覚は、学び舎としては相応しくないものだった。
「そういう場所だからな。―それじゃあ事情を聞こう。まず、名前はなんという?名前で呼ばないと不都合だろう?」
女性が最初の質問を浴びせる。
「名前か・・・。俺には名前が無いが―」
振り返り、名乗る。
「トロワ、トロワ・バートン。皆俺のことをそう呼んでいる。」
振り返ったところ、突きつけられていた物を見る。
鞘に収められていた刀剣だった。
刀剣を突きつけていた女性は東洋人で、OLのようなスーツを身にまとい、長い髪をひとつにまとめていた。
「トロワ・・・。フランス語で3を表すが、コードネームか何かか?」
「さてな。こればかりは名付け親に聞いてくれ」
実際のところ、この『トロワ・バートン』は実際の名前ではない。
物心ついたときには自身の名前は覚えておらず、また、名前に執着は無かった。
「まあいいだろう。」
そう言って女性は刀を下ろし、腰に帯剣し直した。
「それでは付いて来い」
「いいのか?拘束していないにもかかわらず武器を収めても?」
名乗った直後に武装を収められたことに少し違和感を感じる。
「ああ。生身でここから逃げられるわけがないからな」
『生身で』
この単語にまた違和感を感じたトロワだが、その意味はこのあとに実感することとなる。