第9話 「男子と会った日」
新学期のごたごたから2ヶ月ほど経過し、肌に汗が浮かぶようになった季節。
変わらず、平凡な日常が訪れると信じていたものの、山田先生の宣言で再度ごたごたが巻き起こることとなる。
「なんと、今日は2人も転校生がいます!」
「ええええええええええええ!?」
クラス中に叫び声がこだまする。
噂好きな女子しか折らず、その情報網をかいくぐっての突然の転校生の知らせに驚きは隠せるものではなかった。
「それでは、どうぞ!」
山田先生に促されて、ドアが開く。
入ってきたのは一人はブロンドの髪をもった生徒だった。
そしてもう一人は銀髪を腰のほどまで伸ばし、左目には眼帯をした生徒だった。
ただし、この二人は他の生徒と決定的に違っていた。
まず、ブロンドの生徒は―
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。みなさん、よろしくお願いいたします」
「男・・・?」
一夏、トロワに続く三人目の男の操者だったということだ。
シャルル、と名乗った男子は一夏やトロワと違い、どこか気品を持った、それこそ『貴公子』といった言葉が似合う男子だった。
転校生の一人が男だと気づいた途端、クラス中が黄色い悲鳴に包まれる。
「男子!ウチのクラスにまた男子!」
「美形!守ってあげたくなる系の!」
「しかもフランス人だから美しいブロンドヘアー!」
きゃいきゃい騒ぐクラスを見渡し、山田先生の隣にいた千冬が一喝する。
「騒ぐな。静かにしろ」
千早の一喝で騒がしかったクラス中が一気に静かになる。
「んー、ごほん。それではもう一人の方、どうぞ!」
「・・・」
山田先生に自己紹介を促されるが、無言のままだった。
「挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
千冬の呼びかけに敬礼をし、返事をする。
そう、彼女は他の生徒と違い、本職が『軍人』だった。
(教官・・・?ならあの子は千冬姉がドイツにいたころの・・・)
そんなラウラの姿を見て正体を察する一夏。
まあ、あの姿を見たクラスメイトの大半が一夏と同じく、軍人であると察したことだろう。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
そう自分の名前を口にする。
そして無言。
クラスメイトも皆次の言葉が出てくるのを待っているが、出てくる気配が無い。
「・・・あの・・・以上、ですか?」
「以上だ。」
そして、ラウラが何かを探すようにクラス中を見回す。
「・・・貴様が・・・」
そのターゲット―織班一夏を見つけ、ツカツカと一夏の席まで移動する。
そして
パシイイイイイン!!
一夏に一発平手打ちをかました。
「・・・へ?」
いきなり殴られたことを実感できていない一夏。
なんとも間抜けな顔をしていた。
「・・・私は認めない。貴様があの人の弟であることを・・・認めるものか!」
「初日になかなかのご挨拶だな」
一夏が我を戻す前にトロワがラウラに話しかける。
「何!?」
「男が・・・もう一人・・・?」
ラウラもシャルルももう一人の男の操者がいることに驚く。
鈴のときもそうであったが、このIS学園外には公表されていない存在のため、驚くのは無理もなかったが。
「訳あってこのIS学園に在籍している。トロワ、お前も挨拶をしろ」
「トロワ・バートンです、よろしく」
二人に会釈をする。
(どうしよう・・・、もう一人男がいるなんて聞いてないよ・・・)
シャルルが焦りの表情を浮かべるのに対し、
(・・・こいつの目、私は知っている・・・。こいつも軍人か・・・?)
ラウラはトロワに対して警戒の目を向けるのだった。
HRが終わった後は実習の授業だ。
「これからよろしくな、俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」
「先ほど話したとおり、トロワ・バートンだ。トロワと呼んでくれ」
「ありがとう、一夏、トロワ。僕のこともシャルルでいいよ」
実戦の授業前、男子用にあてがわれた更衣室でお互いに簡単に自己紹介を済ます。
「って、うわっ!?時間ヤバッ!?早く着替えちまおうぜ!」
一夏が時計を確認するなり、制服を脱ぎ捨てる。
「うひゃ///」
その一夏の脱ぎっぷりを見て、目を手で隠すシャルル。
そんなシャルの反応を見、トロワは無言ながらも違和感を感じた。
「早く着替えないと遅れるぞ?遅れたら大変なことになるからな・・・」
「き、着替えるけど・・・、こっち見ないでね・・・?トロワも・・・」
「わかった」
トロワはシャルルに背を向けて着替えを継続させる。
「まあ、着替えをジロジロ見る気は無いけど・・・早くしたほうが・・・って着替えるの早!?」
一夏が一瞬目を離し、もう一度シャルルを見たときには既に制服は脱いだ状態で、男性用ISスーツの背中のジッパーを上げていたところだった。
「アッハッハッハ」
「何か早く着替える技術とかあるのか?できれば教えてほしいんだけどさ―」
(・・・ふむ・・・)
トロワは後ろを向いたまま二人のやり取りを聞いていたが、やはりシャルルへの違和感はぬ拭えないでいた。
その日の授業は1組と2組に専用機持ちがいるということで合同授業となっており、ISの専用機持ちのメンバーと一般生徒とでは練習メニューが別だった。
セシリアは自信のブルーティアーズの精度を、一夏はシャルルと組み、ISに関するレクチャーを受けていた。
(さて、俺は何をしていようか・・・)
「おい、貴様」
トロワが自身のメニューを考えていたところ、ラウラに話しかけられる。
「何の用だ?」
「単刀直入に聞く。どこの国の軍人だ?」
「軍人?何のことだ?それと、国は機密だから教えられない」
トロワがテンプレどおりの返事をする。
「・・・お前はサーカスの団員だと周りには言っているらしいな。だが、私は騙されないぞ。お前は確実に戦闘のプロだ。軍人か、ゲリラか、テロリストか、傭兵か、何かは知らないがな」
同じ本職を持つものだからか、テンプレの返事は通用しなかった。
ラウラはトロワに「戦闘のプロ」としての評価を植えつけていた。
「いつか、化けの皮を剥がしてやる」
去り際に冷たくにらまれ、脅しをかけられる。
しかし、トロワは特に返事をせず、いつもどおりの表情で、改めて自身の練習メニューを考えるのだった。
「―つまりね、一夏が勝てないのは射撃武器の特性を把握してないからだよ」
一夏にレクチャーを続けるシャルル。
今現在は射撃武器についてのレクチャーだ。
「・・・一応わかってるつもりだったんだが・・・」
「・・・もしかして、アレ?」
シャルルがトロワを指差す。
涼しい顔で二丁のガトリング砲を構えているが、端から見ればその重武装っぷりはともかく、重量も意識してしまう。
「ああ。トロワのだな。セシリアも射撃型だからそっちの方も勉強した」
「・・・両方とも特殊すぎるパターンだよ、それ・・・」
「え?そうなの?」
きょとんとする一夏。
「まず、セシリアさんのビットはまだ開発段階のものだし、トロワのガトリング砲なんて重すぎるし、弾が切れたり詰まったら大変だから普通ISには使わないんだよ?しかもそれを両手持ちなんて・・・」
「へぇー・・・」
一夏がしみじみとした声を出す。
たしかにシャルルの言うとおり、セシリアのビット兵器は他のISには無いものだし、トロワの抱えているガトリング砲も他の量産ISの装備にあるとは聞いたことがなかった。
「あと、一夏の装備には後付装備が無いんだね?」
シャルルが別の話題を『白式』の武装へと移す。
「なんか、拡張領域が空いてないらしくてな。追加武装を『白式』にはつけるできないらしい」
「それでね、僕の予想だけど、一夏の白式はワンオフ・アビリティに大きくISの容量を割いていると思うんだよ」
「えーっと、ワンオフ?」
何度か聞いた単語ではあるが、じゃあそれを説明しろとなれば詳しく説明できなかった。
「ISと操縦者が最高状態の相性になった時に自然発生する能力のこと、だね。白式だと零落白夜が該当するかな」
「ははぁー・・・、お前の説明ってわかりやすいな!」
「―とまあ、いろいろ説明したけど、わからないとことか無かったかな?」
「いえいえ、シャルル大先生の説明のおかげで今までわからなかったことがだいぶわかるようになったよ!」
一夏が調子よくシャルルを拝み倒す。
そんな二人の様を箒、セシリア、鈴が歯軋りをしながら見ていた。
男子と男子ということを忘れて。
「ん?あれは・・・!」
突如、箒がアリーナのピットを指差す。
そこにはラウラが自身の専用機を装着した状態でアリーナを見渡していた。
「ドイツの第三世代ISですの・・・?まだ本国でトライアル段階だって聞いてたけど・・・」
「ドイツ、ってことはアイツが一夏をひっぱたいたわけ!?」
セシリアと鈴もそれにつられてピットを見る。
鈴は一夏が平手打ちをされた話は聞いていたが、どんな人物かまでは見たことが無かった。
ラウラがアリーナを見渡し、ターゲット―織班一夏を見つけるなり、開放回線で話を始める。
「織斑一夏、お前も専用機持ちだそうだな。なら話が早い。私と戦え」
「嫌だね。理由がない」
ラウラの勝手な提案を断る。
「貴様に無くとも私にはある!」
戦う理由。
一夏の頭に千冬の顔がよぎる。
教官と呼び未だ千冬を慕っているラウラだ。
一夏のことを「IS学園に縛り付ける無能・障害」と思っていた。
「また今度にしてくれ」
「なら、今戦わなければならない状況にしてやろう」
直後、ラウラが左肩に装備していたキャノン砲を一夏に向けて発射させる。
「っ!」
シャルルが間に割って入り、シールドを展開し、一夏への直撃を防ぐ。
「いきなり戦いを仕掛けるなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね!」
「フランスの第二世代ごときで私の前に立つと言うのか?」
「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代よりかは動けると思うけどね」
シャルルとラウラが涼しい表情でにらみ合う。
そこにアクロバットな跳躍でラウラの前にトロワが着地する。
「少し度が過ぎているな。退け」
ラウラにガトリングを突きつけながら警告する。
「貴様、腑抜けたか?それともこの学園の毒気に中てられたか?」
ガトリング砲を突きつけられながらも動じることなくシャルルに向けていた目線をトロワに移す。
「勘違いだ。俺は元々これくらいだ」
トロワも冷めたい目でラウラを見る。
「・・・今日は退いてやろう。だが、織斑一夏を排除したら、次は貴様だ。邪魔者は、排除する」
そう言葉を残し、ラウラはアリーナのピットの中へと戻っていった。
帰り道、トロワはシャルルの様子について一考していた。
(一夏は気づいていないようだが、シャルル・デュノアは間違いなく・・・)
(そして、なぜ男として入学せざるを得なかったのか・・・。あの“デュノア”という名前がつきまとているのは確かだろう)
(・・・名前、か・・・)
「シャルル」は男性名だ。
そんな偽の名前を使ってまで何を成すというのか。
そう考えが深くなっていったところどんっ、と誰かとぶつかってしまう。
「す、すまない」
「俺も悪かった」
先にぶつかってきた女子が謝り、トロワも謝る。
しかし、
「―ッ!トロワ・バートン!」
ぶつかった女子はラウラであり、トロワであることを確認すると一気に表情を険しくした。
「ラウラ・ボーデヴィッヒか」
「・・・貴様も、教官をここに縛り付けるのか?」
「織斑千冬のことか?」
ラウラは特に返事をせず話を続ける。
「あの方は、こんな場所にいていい方ではない!我々ドイツ軍にもう一度―」
「なぜ、そこまでお前は力にこだわる?」
トロワがラウラの話を切り、疑問を口にする。
そのトロワの発言にラウラが心底呆れたような表情を浮かべる。
「・・・本格的に腑抜けたか?軍人である限り高い力と技術を求めるのは当然だろう?」
さも当然のように答える。
「兵器としてか?人間としてか?」
「・・・私は生まれたときから兵器としての生き方しか学んでいない。それ以外の生き方など・・・」
「・・・昔の俺たちと同じ、か・・・」
そんなラウラの言葉を聞き、過去の自分、そしてガンダムのパイロットたちの姿を思い出し、ぼそっと言葉が口に出る。
「何か言ったか?」
「いや・・・。だが、お前は確実に変わらなければならない。」
「変わる・・・?腑抜けるの間違いではないか?」
軽蔑の目線を変えずにラウラが反論する。
「そう思っている内は無理だ。だが、人である以上は変われるさ。俺たちの様にな」
「俺たち?」
トロワの会話で出た複数の人数に疑問を覚えるラウラ。
それに気づき、トロワはこれ以上の会話止める。
「おしゃべりが過ぎたな」
そうとだけ言い残して、ラウラを残したままトロワは帰路についた。
「・・・兵器である者が、変わることなど・・・」
一人残ったラウラはトロワの発言の真意をまったく理解できないでいた。