第5話「出撃ヘビーアームズ」
一週間という短期ではありながらも、訓練の成果はセシリアとの模擬戦で如実に表れていた。
試合は当初セシリアが圧倒的な優勢で進めていたが、一夏も負けてはいなかった。
初見にもかかわらずセシリアの自立機動兵器『ブルーティアーズ』を何機も撃墜していった。
途中、セシリアの勝ちが決まったかに見えた場面もあったが、試合中に一夏の『白式』の「初期化」と「最適化」が終了。
その後は一夏のペースに持ち込んだと見えたが―
『試合終了。勝者・セシリア・オルコット』
一夏のIS『白式』のエネルギー切れでセシリアが勝利、という結果に終わった。
「・・・どうして、俺は負けたんだ?」
試合後の興奮か、自身が負けたことのショックか、一夏がピットに戻ったときはややぼんやりしていた。
「バリア無効化攻撃を使ったからだ。武器の特性を考えないで戦うからこうなる」
「バリア無効化・・・?」
千冬が一夏の『白式』の解説を始める。
「相手のバリアを切り裂いて直接本体にダメージを与える。雪片の特殊能力だ」
(バリア無効化・・・。なかなか面白い能力だな・・・)
それを傍らで情報収集がてら無言で聞くトロワ。
「これは自分のシールドエネルギーをも攻撃に転換してしまう。私が世界の頂点に立てたのも、こいつの力によるものが大きい」
「なるほど、だから『白式』のシールドエネルギー残量がいきなり0に・・・」
「諸刃の剣だな」
トロワが口を挟む。
最高の攻撃力と引き換えに、自身の防御をかなぐり捨てる。
(ある種、欠陥機だな)
トロワはそう結論付けた。
「ああ。だが攻撃力は私の知るISではこいつの右に出るものはいない。自信を持っていい」
千冬がアドバイスを終えるとトロワの方に振り返る。
「―さて、お前も行ってみたらどうだ?その力を披露するにはいい場ではないか?」
「・・・今日は一夏とオルコットの決闘では?」
突然自身に話を振られて、一瞬怪訝な表情になるが、すぐいつもの表情に戻る。
「あいにくと取るか、運よくと取るか、アリーナを使用できる時間はまだ残っている。お前のISの動きも教師としてみておきたいしな」
「・・・そうおっしゃるのであれば」
「決まりだな。―オルコット、もう一戦いけるか?」
千冬がセシリアに通信をつなぐ
「は、はい!ブルーティアーズ予備機との換装さえ完了すればコンディション的には問題ありませんわ」
「万全の体制を整えておけ。次も専用機が相手だ」
「「「専用機!?」」」
一夏、箒、そして通信の向こう側のセシリアの驚く声が響く。
「試合は10分後だ。各自、準備を怠るな」
「「はい」」
トロワ、セシリアが返事をし、千冬が通信を切る。
「トロワ、お前も専用機を・・・?」
「ああ。こいつのことだな」
ポケットより初めて千冬と対面したときに出てきたピエロの仮面を出す。
「ピエロの仮面・・・?」
その場にそぐわない、口が裂けた笑みを浮かべるピエロの仮面に箒が疑問を示す。
「・・・」
無言で仮面を顔に当てると光の粒子がトロワを包み込んだ。
光が収まるとそこには浅黄色のISに包まれたトロワが立っていた。
そのISはA.C.の世界のヘビーアームズをそのまま縮小したかのような姿だった。
両手にはガトリング砲。
胸部にもガトリング砲。
両肩部、両脚部にはミサイルポッドが装備されていた。
「これが俺のIS、『ヘビーアームズ』だ」
(データでは見ていたが・・・全身重火器だらけだな)
千冬もデータ上では確認していたが、実際のヘビーアームズの姿を見、データどおりの印象を持った。
「・・・なんというか、重装備、だな」
あまりの重そうな装備に言葉を失う箒。
「重くないのか?そんなに装備があって」
「大丈夫だ。俺にはこれくらいがしっくりくる」
両手のガトリングを掲げながら一夏に返事をする。
「バートン、ISに問題は無いな?」
「問題無いです」
千冬が装着したISの状態を確認し、トロワが返事をする。
ディスプレイでもトロワのISの状態を確認し、一つ頷いてからセシリアにも同じ確認を行う。
「オルコット、お前は?」
「私自身もISもコンディションに問題ありあませんわ!ブルーティアーズ全機、予備機との交換が完了してますわ」
「ならば、第二回戦を開始する。両者とも、アリーナへ」
千冬が宣言し、ピットのハッチが開く。
「・・・それじゃあ、行くとしよう」
「ああ、頑張れよ」
見送る側と見送られる側が逆になり、一夏がトロワに声をかける。
「期待に応えられるよう努力しよう」
そういうなり、ダンッと床を思い切りけった直後、体操選手のような飛び方でアリーナへと降下していった。
「・・・なんだ、あれは・・・」
あまりにも人間離れしたトロワの入場の動きに驚きを隠せない箒。
「・・・そういえばトロワはサーカスにいたって言ってたな」
同じ表情をしながら一夏がふと過去の会話を思い出す。
「・・・すごい身体能力だな・・・」
「・・・ああ」
唖然としたまま、試合観戦用のモニターに二人は目を移すのだった。
アリーナでは先の一夏の試合前と同様、既にセシリアがアリーナにて待機していた。
「・・・装備は重装備なのに、ずいぶんと身軽なのですわね。それに、ガトリング砲を両手に担ぐなんて、その重量、正気ですの?」
あまりの重武装に先の一夏や箒と同様に驚きと呆れの表情を見せる。
「俺にはこれぐらいがしっくりくる」
一夏と箒と同様の質問をし、やはり同じように答える。
「そう・・・。それじゃあ!」
セシリアがライフルを構える。
『警告・敵IS射撃体勢に移行』
「始めるか」
『ヘビーアームズ』の警告でトロワもガトリング砲を構える。
「両者、試合を開始してください」
アナウンスが試合開始の合図を告げた後、すぐに動いたのはセシリアだった。
「同じ遠距離戦主体ならば!」
セシリアのライフル―スターライトmk3が光弾を放つが、トロワは地を滑りながら回避する。
「これくらいならば問題ない。それと、俺のほうからもいかせてもらう」
両手のガトリング砲を構え、セシリアに発射する。
セシリアのスターライトmk3から放たれる射撃音とは対照的に低く、重い射撃音が響く。
「っ!かなりの精度を・・・っ!」
ガトリング砲という命中率の悪い武装でありながら、セシリアのシールドエネルギーをじわじわと減らしていく。
「俺も遠距離戦とやらには自信があるんでな」
「っ、行きなさい!」
一気に上空まで浮上してガトリング砲を避け、セシリアは『ブルーティアーズ』をトロワの元へ展開する。
「―来たか」
展開された直後、トロワはターゲットをセシリアから『ブルーティアーズ』に移す。
(このような遠隔操作兵器を相手にするのは初めてだな。こういうものは形の小さくなったMDか、自動砲台と考えればいいか)
実戦でありながら、初めて見る兵器の分析を開始する。
(そして、戦略的に狙われるのは、俺の死角となる場所―)
「そこだ」
その場で宙返りをし、トロワの後方に展開していた『ブルーティアーズ』2機を撃ち落とす。
「もう2機を!?」
「一夏の試合のとおりだな。遠隔操作兵器に意識を集中するとなれば本体からの攻撃は無い。つまり、攻撃は遠隔操作兵器のみに集中できる。あとは攻撃される位置を予測して撃ち落すだけだ」
「あなたもそんな芸当が!?」
「―全弾射程内だ。いかせてもらう!」
ガトリング砲を放ちながら、胸部のガトリング砲、肩部・脚部のミサイルポッドを開く。
「砲門を全開に!?どういうつもり!?」
「目標捕捉。発射する」
セシリアが驚いているのを尻目にトロワはガトリングとともにミサイルを全弾発射した。
単純に直線を描いているミサイル、セシリアを追尾するミサイル、セシリアの移動を制限するためのミサイル。
種類はさまざまなれど、3桁に届こうかという弾がセシリアに一気に襲い掛かってきた。
「嘘!?全弾発射!?ですが、これさえしのげば!」
セシリアがブルーティアーズとライフルを駆使し、ミサイルを打ち落としていく。
いくつか被弾はするもののさすがは代表候補生か、直撃だけは避けていた。
「撃ち漏らしは・・・無し!さあ、チェックメイト―って」
地表を見てみるとトロワは既に消えていた。
「どこに、消えましたの?」
セシリアがトロワを探す。
「警告・上方よりIS」
「!?」
『ブルーティアーズ』の警告で上空を見ると回転とひねりを加えたトロワがセシリア目掛けて急速降下してきていた。
セシリアもライフルを構えようとするも、それより早くトロワがガトリング砲をセシリアの顔面に突きつけていた。
「終わりだな。ブルーティアーズを展開するよりも早く俺はこのガトリング砲の砲撃をお前に撃ち込むことができる」
「参り、ましたわ」
力なく、セシリアが敗北を宣言する。
『試合終了。勝者、トロワ・バートン!』
「ワアアアアアアアアアアア」
アナウンスがトロワの勝利を伝えた直後、観衆が歓声を上げる。
「まさか、全弾発射なんて」
信じがたい戦略に呆然とするセシリア。
「圧倒的な火力で動かれる前に殲滅する。俺の考える基本戦法だ」
「・・・悔しい・・・、悔しいですわ・・・!」
歯を食いしばり、セシリアが悔しそうな表情でトロワをにらみつける。
「・・・俺や一夏が男だからか?」
「・・・」
無言でセシリアが頷く。
「・・・偏見を無くすというのは簡単にできるものだとは思わない。だが、男だから、という偏見を持って生きていてはいろいろ不都合だと思う。お前の生き方にとっても、見識にとっても、それはもったいないことじゃないか?」
「・・・」
「喋りすぎた。すまない」
そういい残し、トロワは再度ダンッ!と地面を蹴り、ピットへと戻っていった。
ピットに着地した後、出撃時のメンバーに迎え入れられた。
「トロワ、おかえり!すごかったな!」
「ああ」
ある意味、自分の敵をとってくれたトロワを笑顔で迎える一夏。
「バートン」
それとは対照的に険しい表情のままの千冬がトロワに声をかける。
「なんでしょうか」
「勝てたから良いものの、弾を使いすぎだ。そんな戦い方をしているともしもという時、お前を窮地に追いやるぞ。気をつけろ」
「・・・わかりました」
(窮地に追いやる、か。確かにそうかもしれないが・・・)
A.C.の世界でも心当たりがあるが、この千冬の指摘だけは結局直すことはなかった。
試合終了後のその日の放課後、千冬と山田先生がトロワのデータを分析していた。
「・・・それにしても、トロワ君、すごかったですね。あれでISを知らなかったなんて・・・」
「ああ。ガトリング砲であれだけの精度を誇っているんだ。前の世界にいた時はさぞかし腕のたつ工作員だったのだろう」
各種データを分析しながら千冬が答える。
「それに、相手はセシリアさん―代表候補生だったのに・・・」
「・・・所詮は戦場を知らない、ということなのかもしれないな・・・」
千冬が呟く。
「え?」
「いや、なんでもない」
聞き取れなかった山田先生が聞き返すが、千冬はなんでもないとごまかした。
(トロワ・バートン・・・やはり奴は戦争を生き延びた優秀な兵士だったということなのだろうな・・・。それに比べたら私たちのこの学園というものは奴から見たら生温いのかもしれないな。だが―)
「・・・子供が戦場で戦う世界だなんて、まっぴら御免だな・・・」
山田先生にも聞こえないくらいの小声で千冬はそう呟いた。
試合で火照った体を冷ますかのように、セシリアは私室でシャワーを浴びていた。
(一戦目・・・私が勝ったのに・・・なんなんですの、この気持ちは・・・)
「・・・織斑一夏・・・」
思わず試合相手の名前を口に出す。
(誰にも媚びることの無い、真っ直ぐな、強い瞳を持った男・・・)
自分が過去出会った男性を思い浮かべる。
それはどれも女性に媚びるような弱い男ばかりだった。
そしてセシリアはそのような男が大嫌いだった。
しかし、今回の試合でそのような男とは正反対の存在を見つけてしまった。
それが、織班一夏だった。
(そして、トロワ・バートン・・・)
もう一人の男のIS操者の顔も一夏の次に浮かんでくる。
(いきなり降って湧いたかのように現れた国籍不明のもう一人の男のIS操者・・・。織斑一夏とは違った性格だけど、彼も今まで出会った男とはぜんぜん違うタイプだった・・・)
「・・・男のこと、少し考え直してみようかしら・・・」
小さい声ではあったが、確かな決意をセシリアは口にしたのだった。
「―という訳で、1年1組クラス代表は織斑一夏くんに決まりましたー!」
山田先生が嬉々としてクラス代表の決定の報告をする。
その報告でクラスが湧き上がる一方、一夏は納得できずに反論した。
「先生、俺負けたんですよ?それに、セシリアだってトロワに・・・」
「俺は辞退した」
「私もですわ!」
トロワはいつもの表情で何とも無いかのように。
セシリアは両手を腰に当て、胸を張って発言した。
「ちょ、なんで!?」
「トロワの辞退は私が受理した」
「千冬ね―アデッ」
千冬が手元にあったチョークを一夏に投げ、ちょうど一夏の眉間に直撃した。
(見事なチョーク捌きだな・・・)
「織斑先生だ、馬鹿者。―とりあえず理由だが、お前の方がこのクラス対抗戦によってより成長できると見込んだからだ」
「・・・」
眉間をさすりながら千冬を恨めしそうに見る一夏。
「私の方も大人気なく怒ったことを反省して、代表の座を一夏さんにお譲りすることを織斑先生に提案したのですわ」
(ありがた迷惑だぁ・・・)
セシリアが胸を張って発言するが、一夏の内心は
「それでは、クラス代表は織斑とする。・・・依存は無いな?」
「はーい!」
クラス一同の返事が教室内に響く。
こうして、クラスは織班一夏という生け贄の元、一致団結するのだった。
少し長くなりましたが、序盤の山場と思っておりますセシリア戦が終わりました。
トロワのIS『ヘビーアームズ』はEndless Waltzのヘビーアームズをそのまま縮小、IS化したものとご想像いただければ幸いです。
ただし、原作ガンダムWとの大きな違いとして、セシリア戦にもチラっと描写しましたが、「空を飛べる」点だけご了承いただければと思います。
(空飛べないと戦うの難しそうですし・・・)