第8話 「不明機強襲」
「おーい、トロワ君こっちー」
既に一夏と鈴の試合は始まっていたが、手を振りトロワをアリーナの観客席に呼ぶクラスメイト。
名前は布仏本音、といったか。
「悪いな、本音」
混み合っている観客席の人ごみをわけ、本音がとっていた席に着く。
「みんなの分と一緒だから平気だよー」
他のクラスメイトは既に席に着き、トロワを待っている状況だった。
「それにしてもトロわんは硬いなぁ。みんなのほほんさんって呼んでるんだけどなぁ」
「あだ名か・・・。そのようなもので呼ばれたことは無い」
「じゃあトロワ君のを今決めちゃおうか!そしたら気楽に呼び合えるかもね!」
クラスメイトの一人が提案する。
「普通にトロわんでいいんじゃなーい?」
「もうのほほんさんがそう言ってるから、トロわんでいっか。」
「賛成!」
本音のあだ名の提案に一同が賛成する。
「トロわんもそれでいいかなー?」
「・・・ああ、かまわない」
どこか諦めたかのように。のほほんさんの提案に同調する。
(これが学生というものか・・・。以前の俺たちでは味わえない感覚だな・・・)
しかし、戦争という荒波の中で生きてきたトロワにとってはなんとも言えない、新鮮な感情を生み出していた。
その後はクラスメイトと集中してクラス対抗戦の観戦をしていたが、代表候補生故か、鈴の方が動き一つ見ても何枚も上手だということが見て取れた。
加えて、鈴のIS『甲龍』のある武装が一夏の大きな壁となっていた。
「それにしてもあの攻撃なんなんだろうね!?砲撃がまったく見えないよ!」
「衝撃砲だ」
鈴の武装について解説を始める。
「衝撃砲?」
「砲身も砲弾も見えない兵器だ。だから発射のタイミングも着弾のタイミングも見切るには非常に難しい。そんな武装だ」
「それって欠点が無いんじゃないの!?」
「正しい理解だ」
「トロわんよく知ってるねー?」
本音が感心する。
「情報収集はやっていて損は無い」
それに対していつもどおりの表情で返すトロワ。
「織斑くん、このまま負けはしないよね・・・?」
「学食のデザート半年フリーパスが・・・!」
見えない攻撃に不安がるクラスメイト。
一部、邪な気持ちも漏れているが。
「倒れても這い上がる気力があればなんとかなる」
「トロわん、見かけによらず根性論なところがあるんだね?」
普段からクールなトロワの意外な一面に意外そうな顔をする一同。
そして、試合が動く。
一夏の『白式』が『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を発動させる。
「あ、織斑君が動いたよ!」
「がんばってー!!!」
一夏の<雪片弐型>が鈴を捕らえたその時だった。
ドオオオオオオオン!!!
アリーナ上空のシールドを突き破った何かがアリーナの地面に直撃、周囲一帯に振動を起こした。
「・・・何?」
「地震?」
アリーナの観客にざわめきが広がる。
「なんか土煙上がってるけど・・・何か落ちたのかな?」
「ISが降下してきた。何者かは知らないが」
トロワがアリーナが土煙にまみれる前に降下してきたISを視認していた。
「アリーナのシールド突破する火力だ。ここも避難したほうがいい」
そうトロワが言った直後、アリーナの観客席のシャッターが一斉に下りる。
それと同時に観客席の出口にカシャ、とロックがかかる音もする。
「でも、扉が開かないみたいだよー?」
本音が後方のドアを確認するが、生徒が押し寄せているのが見て取れるものの、一向に出ることができるような気配は無かった。
トロワは千冬に通信をとろうとするものの、通じない状態だった。
(閉じ込められた、か)
非常事態ではあるが―非常事態だからこそ―トロワは現状を冷静に分析を開始した。
「何が起こりましたの・・・?」
「何かが、アリーナのシールドを突破してきたようだが・・・」
ピット内では突然の事態にやはり、セシリア、箒といった生徒は把握できないでいた。
「か、会場内に所属不明のISが現れました!」
山田先生が現状分析を開始し、報告する。
「織斑、鳳、試合は中止だ!今すぐピットに戻れ!」
「すぐに先生たちが制圧に向かいますから!」
教師陣が一夏と鈴に通信をつなげる。
しかし、返ってきた答えは教員の予想を裏切るものだった。
「・・・いや、俺たちが時間を稼ぎます!」
「一夏!?」
「生徒も避難していない状態でアリーナに攻撃されたらどうなるかわかりません!だから、俺たちが」
と、そこまで話している途中で突然通信が切断される。
「織斑くん!?鳳さん!?」
「落ち着け」
焦る山田先生を制止する千冬。
「織斑先生!織斑くんと、鳳さんが!」
「・・・しばらく奴らにやらせるしかないだろう」
「それって、どういう」
「これを見ろ」
千冬がアリーナの状態を示す画面を表示させる。
「これは・・・、遮断シールドがLV4!?これじゃあアリーナへは・・・」
援護を考えていたのだろう。
セシリアが歯がゆい表情を浮かべる。
「そういうことだ。今は誰もアリーナへは進入できないし、避難することも、救援に向かうこともできない」
そして、それは教師陣も同じであった。
「ここもダメなの!?」
「開けてよー!」
トロワたちの閉じ込められている観客席の出入り口は変わらずロックされたままで、生徒は誰一人外に出ることができない状態だった。
「大変なことになったねー」
「のほほんさんは相変わらずだねぇ・・・」
「騒いでも何もできないしねー」
そうのんびりするものの、どこかしら不安そうな気はあった。
(この混乱が長続きするのはまずいな。俺なら大丈夫だが、他は・・・)
周囲の状況を確認するが、不安そうな者、焦る者ばかりであった。
その周囲の状況にトロワは一つの決断をする。
「どいてくれ」
「トロわん?」
トロワが人ごみをかきわけ、ロックされているドアの前に向かう。
「このドアが開けばいいのか?」
「そうだけど・・・」
「了解した」
そう一言を発し、『ヘビーアームズ』の右手のガトリングの部分を展開させる。
その瞬間悲鳴とともに、トロワの周囲から女子がズザザザザ!と音がするくらい後ずさっていく。
「それくらい距離が離れていれば大丈夫だ。―発射する」
そう宣言し、ガトリング砲をロックの部分に向けて発射する。
10分の1秒程度の時間だったが、大量の弾を発射、ロックしているキーの部分を破壊し、強制的にロックが解除されることを確認する。
そのまま自動式の扉を手で押し、人の出入りする箇所を作り上げる。
「さて、これで出れるが?」
そうトロワが言うなり、出入り口に人が殺到する。
それを横目で見ながら、トロワは千冬に再度通信を入れる。
観客席から出たからか、千冬との通信を繋ぐことに成功した。
「織班先生。トロワ・バートンです」
「トロワか!?いまどこにいる!?」
「観客席にいましたが、ロックされていたドアを破壊しました」
「破壊!?」
そばにいたのか、山田先生の驚く声が通信に入る。
「・・・やむを得まい。それで、生徒たちはどうしている?」
「アリーナから避難している最中です。俺はこれから一夏の援護に入ろうと思います」
「ああ、いいだろう。今はアリーナに入ることはできないが、お前も十分気をつけろ」
「わかりました」
一夏への援護の了解を得、通信を切る。
そしてそのままアリーナの入り口へと向かっていった。
「織斑先生!私にはISの使用許可は出ないんですの!?」
トロワとの通信が終わった直後、セシリアも千冬に直談判に入る。
「ダメだ。お前のISは1対多に向いている。多対1では使用には適さない」
「そんな!!それはトロワさんも同じでしょう!?って、篠ノ之さんは?」
「・・・あの馬鹿者が」
セシリアは箒を探すが、いつの間にかピットからいなくなっていたことに気づき、千冬が鋭い目つきになった。
「隔壁制御システムが元に戻ったようだな」
IS学園の教師か、はたまた生徒かがクラックされたシステム制御のアクセスの一部を取り戻したのか、アリーナ内を封鎖していた扉のロックがどんどん解除されていることをトロワ確認した。
ロックが解除され、ありとあらゆる扉から生徒が飛び出し、避難を開始している。
「さて、俺もアリーナへ応援に向かうとしよう」
アリーナへ出撃するためのピットに向かうトロワだったが、千冬から受領した映像を見てからある考えが頭から離れないでいた。
(それにしても、先ほどから映像を見ているが、どうも人間が操作しているとは思えない)
(同じ行動が多すぎる。さも、そうプログラムされたかのように。今現在、ISは人間が操作しなければ動かないとされているが・・・)
(まさか、この世界にもやってきたというのか・・・?)
「・・・MD(モビル・ドール)・・・」
A.C.界の産物、モビル・ドールの可能性について。
アリーナでは一夏と鈴が変わらず、正体不明のISに決定打を入れることができないでいた。
しかし、一夏は正体不明のISの動きに決定的な違和感を感じていた。
「あのISが無人機だって言うの!?」
「ああ。さっきからこっちが同じ行動をしたらあっちも同じ行動しかしていない」
無人機。
一夏は正体不明のISについてそう断定した。
「―じゃあ、あれが無人機だったら勝てるわけ」
「ああ。この白式で全力で攻撃できるからな」
「全力で、って言うけど、さっきから攻撃当たってないじゃない」
「次は当てるさ」
そう断言する一夏に鈴もニヤリと笑みを浮かべる。
一夏の思いついたアイデアに賛成する、そう言いたげな表情だった
「言い切ったわね・・・で、どうするのよ?」
「俺が合図をしたらアイツに衝撃砲を撃ってくれ。最大威力でな」
「別にいいけど、当たらないわよ?」
「いいんだよ、当たらなくて。それじゃあ―」
「一夏!」
中継室から箒の叫び声がハウリングとともにアリーナに響く。
「箒!?」
「男なら、それくらいの機体に勝てなくてなんとする!」
箒が一夏に喝を入れるが、その大音声で正体不明のISが箒にターゲットを向ける。
「まずい!鈴、やってくれ!」
「わかった!いくわよー!」
鈴がエネルギーを収束し、龍砲を撃つ体勢に移る。
そんな鈴の前に一夏がすっと移動する。
このままではあの正体不明のISどころか、一夏に直撃してしまう。
「ちょっ、バカ!どきなさいよ!」
「いいから撃て!」
鈴がいらついた声で一夏をどけようとするが、一夏は動く気配を見せない。
「ああんもう!どうなっても知らないわよ!」
鈴は一夏の背中に龍砲を放つ。
直撃した一夏に重いGがかかる。
龍砲のエネルギーを『白式』が変換することを一夏は数値で確認する。
そして、<雪片弐型>が通常より一回り大きいエネルギーの刃を形成する。
「『零落白夜』使用可能」
『白式』の宣告とほぼ同時に一夏は加速していた。
「ッ!!!!うおおおおおおおおお!!!」
(俺は、千冬姉を、箒を、鈴を、関わる人全てを―守る!)
加速した一夏が正体不明のISとすれ違いざまに右腕を切り飛ばした。
しかし、直後に残った左腕での反撃の直撃を受けてしまう。
「グハァッ!!」
「一夏!」
箒と鈴の叫びが聞こえる。
その叫びを聞き、殴られた鈍痛をこらえながらも、確認する。
「―狙いは?」
「完璧ですわ!」
直後、セシリアの『ブルー・ティアーズ』から放たれた4機のレーザーが無人機に直撃する。
ISはバリアエネルギーを持っているが、一夏の『零落白夜』の一撃でバリアエネルギーすべてを持っていっていた。
小さな爆発を起こし、正体不明のISは崩れ落ちた。
「ギリギリ、でしたわね」
「セシリアなら来てくれると思ったさ」
「あ、そ、そうでしたの・・・」
セシリアの声に照れくささが混じる。
「まあ、とりあえずはこれで終わ―」
「警告:敵ISの再起動を確認。ロックされています」
『白式』が警告を発する。
ハッとしながら一夏が正体不明のISを見ると左腕だけが動いている状態だった。
「一夏!あいつまだ動いてる!」
一夏に斬られセシリアのブルーティアーズの狙撃が直撃し、反応を停止したと思ったが、その腕だけが機能が残っているようで、一夏をロックしていた。
一夏を仕留めんとするエネルギーが腕に収束する。
「くっ・・・!」
間に合わない。
そう一夏が覚悟をした直後だった。
見慣れた浅葱色のISが相変わらずの体操選手のような動きでアリーナに乱入してきた。
そして、ほぼゼロ距離で正体不明のISにガトリング砲を撃ち込む。
数秒の重い音の後、正体不明のISが機能停止したことが確認できた。
「敵の反応がロストしたと確認しない内に戦闘の終了を判断するのは死に繋がる」
「トロワ!」
思わぬ友人の援軍に素直に喜ぶ一夏。
「まあ何にせよ、皆の無事を確認できて何よりだ。それじゃあ俺は帰還する。それと」
反応を停止した正体不明のISの腕をトロワがつかむ。
「このISを教員の方々に持っていく。何か得られるかもしれない」
「トロワ、ありがとうな!」
「気にするな」
『ヘビーアームズ』で正体不明のISをつかんだまま、トロワは一夏が入場してきたハッチへと飛び立っていった。
その日の夜。
IS学園の地下に存在するラボにトロワの他に千冬、山田先生が集まっていた。
「やはり、このISは無人機ですね。登録されていないコアでした・・・」
「どの国家、どの企業、どの組織にも登録されていない、か」
現在この世界ではISは有人機であることを前提に作られている。
それが無人となることは非常に進んだ技術を利用したものと言えた。
「・・・少し、こいつのシステムを覗けるか?」
トロワが提案をする。
避難をしている最中に思いついた可能性を確かめるために。
「心当たりがあるのか?」
そう言っている間にトロワはどんどん作業を進める。
「・・・俺の世界でもMSは人間が操縦しないと動かせないものだった。だが、ある日を境に人が乗らなくてもいいシステムが完成した」
「今回の現象と酷似しているな。だが、それもこの世界にやってきたというのか?」
「俺が来たんだ。他の俺の世界のものがやってきていてもおかしくは無い」
「一理あるな」
そう問答しているうちにトロワの作業があっという間に終了する。
「そして、このシステムのことを俺たちはMD(モビル・ドール)と呼んだ」
トロワが千冬、山田先生に操作していた画面を向ける。
『MOBILE Direct Operational Leaded Labor』
そう画面には表示されていた。
「モビルドール・・・。動く人形と言ったところか」
「そう考えてくれてかまわない。所詮こいつらはパターンが読めればただの人形でしかない」
画面を閉じ、冷たく言い放つ。
「いったい、誰がこんなものを・・・」
「それは俺にもわからない。だが、ISの常識が変わるかもしれないのは確かだ」
トロワの示した可能性に教師二人はただ黙るしかなかった。