それはさんさんとふりしきる雨の中だった。
第14代征夷大将軍徳川茂茂は世話役にして悪友である松平片栗虎と『すまいる』に向かっていた。
「市井に迷惑がかからぬよう」という将軍の意向で護衛もろくにつけないまま傘をそれぞれさして二人でまた女と酒に溺れる為か市井の人々の生活生態を調べるためかかぶき町を闊歩しているのだ。
しかし―――
「征夷大将軍徳川茂茂」
「警察庁長官松平片栗虎とお見受けする」
彼らの宿敵である攘夷志士たちからすればまさにそれは格好の標的であった。
「おんやまぁ」
しかし松平はこういう死線には慣れているのかおどけた調子である。
将軍は黙然としたまま志士を見ている。
「貴様らは夷敵に易々と皇国の土を明け渡し、この国を奇怪な異人だらけにした。そして、我々や父、祖父から職を奪い、武士の誇りを失わせ武士の世に殉じさせる者もだした」
「その者等の無念に報いんがため、我々が貴様らに天誅を下す! かかれーっ!」
二人を取り囲んだ三十人ほどの攘夷志士たちは一斉に二人に斬りかかる。
「フンッ」
片栗虎は咄嗟に拳銃から4,5発を瞬く間に撃ち、見事全弾急所へ命中させた。先日発生した大江戸ヒルズでのテロ未遂事件で破壊王の面目躍如と言うべき戦いざまは伝わっているのか志士たちはそれを目の前にして恐懼している。
「ひっ、怯むな! 所詮は爺だ押さえつけろォ! 将軍を真っ先に殺れェェ! 首級を江戸城の濠に」
全てを言い終わる前に志士は射殺された。
「全くどいつもこいつも諦めの悪ィガキばかりだ。こう楯突くことばかりじゃなくして、もっとその蟻んこよりちゃちいおつむ使えってんだ、こんのスットコドッコォイ!」
松平は更に10発ほど連続で弾幕を張り、これもまた百発百中。
これを見た志士たちの中には戦意を喪失し逃げ出すものも出てきた。
「雑魚が。さぁてとどぉにか撒けたか」
そう油断した刹那、将軍の背後には数十にわたる白刃が襲い掛かろうとしていた。
松平がそれに気づいた頃には時すでに遅く、将軍がミンチにされるのは時間の問題であった。
「しょ、将ちゃ」
だが、将軍の羽織に触れるギリギリのところで白刃の動きは止まった。
何故なら松平の反応を遥かに上回る速さで、それ以上の刃が彼らの身に襲い掛かったからである。
紫電と形容するのも憚られるほどの途轍もなき速度の剣筋。猿やネズミのそれを上回る軽快なる体さばき。
そう、それはまさに将軍家代々受け継がれる柳生のものであった。しかし、将軍が剣を抜いたわけではない。そもそも廃刀令のご時世なのに帯刀している時点で目立つ為刀そのものを持たせていないのだ。
「上様。お怪我は」
気が付けば、白羽織に眼帯をつけた少女が将軍の前に跪いていた。そしてその背後には二人に危害を加えようとしていた47の死体が転がっていた。
「案ずるな」
「テメェ……九兵衛、柳生九兵衛か」
松平は公儀の行事や剣術試合で何度か九兵衛の姿を見ていた。将軍とは時間軸的にはキャバクラ回の後から剣術指南役として何度か顔を合わせるようになっている。
「はっ。如何にも。往来を歩いておりましたら上様が襲われているのを見、居てもたってもおられず僭越ながら加勢させて頂きました」
九兵衛はその姿勢のまま小さく頭を下げる。
「相も変わらず出鱈目な強さだな。銃だのクロスボウなど剣よりよほど使い勝手のいい武器が現れ、侍があんなことになろうとも未だに柳生だけは往時の勢いを保っているのは無理もねぇ話だ」
「九兵衛。そなたのおかげで助かった。礼を言うぞ」
将軍はお礼の握手に託けて手を握ろうと鼻息を荒くしていた。
しかし、手を触れた瞬間
「ウワァァァァァ!!」
将軍は純白のもっさりブリーフを曝して水たまりにダイブするのであった。
──────────────
それから一週間後。九兵衛は相談があって恒道館道場に来ていた。
銀時などの万事屋メンバーも居合わせている
―恒道館道場 居室―
「たいしたものじゃないけど、どうぞ」
妙は九兵衛の古くからの幼なじみである。
武者修行した後、幼き頃の約束を果たすために妙と結婚しようとしたが新八ら恒道館道場に敗れ断念した。女性と判明したのもその時。
九兵衛は出されたお茶を一口啜ると静かに置く。
「ふぅ」
と彼女は一息つく。
「で、今日はどうしたの? 思いつめた顔しちゃって」
妙が尋ねると、九兵衛はぽつりと語りだした。
「実はな。ついに決心したんだ」
「お、もしかしてあの猿を捨て」
「ウキー!」
銀時は途中まで言いかけると、髪にうんこが投げつけられた。
「おい、いつになったら俺は便器じゃないと躾けるんだ。このままだと銀さん黒人になっちゃうよ。銀なのに黒光りしちゃうよいいのか」
「黒人と言うかウン人ネ」
「おいウンってなんだまさかウンコの事じゃないよな。いい加減にしねぇとその白い肌の毛穴一つ一つに」
九兵衛はいつの間にか銀時の目の前に立っている。
そして、鯉口を切り目にも見せぬ速さで銀時を切りにかかったのだ。しかし、銀時は寸でのところで避け、髪が一部切れた。
「うわってめー何しやがんだ! おいお前らこれ禿げてないよね? いくら銀魂だからって何も主人公まで本物に合わせなくてもいいんだよ!」
「ちょっと九ちゃん! 急にどうしたの!? いきなり切りにかかるだなんて」
「そ、そうですよ! いくらなんでもやりすぎじゃ。いったい何があったんですか?」
新八と妙が九兵衛を強めに諌める。
「僕は長年男なのか女なのかそんな葛藤と戦ってきたが……。もうそんなのに振り回されるのはうんざりだ。だからもういっその事ここらで白黒つけるべきじゃないかと思ったんだ」
「いやいやそこからなんで俺に斬りかかることに繋がる訳?」
「色々とあったが、父上然りおじい様然り柳生家の当主は男が務めるという伝統がある。僕の勝手なわがままでそれを捻じ曲げるわけにはいかない」
九兵衛は毅然とした態度でそう言う。
「えーっとつまり、俺のナニを九兵衛にアレしてああするって……ことか?」
銀時は上ずった声で
「銀さん。ギリギリですよ。いくら銀魂とはいえこの小説一応全年齢向けですから」
新八はさりげなくそう突っ込んだ。
「そうだ。だからすまないが銀時。君の持つそのナニを頂戴つかまつ」
と言いながら九兵衛は脇差を使って銀時の股間に近づく。
「待て待て待て!! どうして俺のなんだ! そういう理由なら俺じゃなくてもいくらでも男居るだろ! なんならもう新八でいいだろ!」
新八はすぐに怒髪天を衝く勢いで突っ込んだ。
「なんで投げやりにとんでもないこと言ってんだこの天然パーマ! それに僕のはダメですまだ一回も使った事ありませんし。せめて一回役目を終えてから」
「じゃあ九兵衛君に初体験捧げればそのモノ捧げるんだな! じゃあすぐやろう、Do it yourself!」
「人に勧めといて最後は丸投げかコノヤロー! つーか全年齢って言ってるでしょ! なに平然と危ないネタ持ってきてんだァァ! 僕が九兵衛さんとだなんて」
新八は九兵衛を見る。水着を着ていたことやキャバクラ回、二年後回等などで女の子らしい格好をしていた時と重ねる。
新八は途端に顔が真っ赤になった。
「ほーら満更でもねえんだろ、早くやれ、すぐやれ、女の子としての未練をお前の ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲でぶちぬけよ(ピー)だけに」
「ふ、ふ、ふざけるなあああああああ! それに僕となんか嫌でしょ九兵衛さんも」
「うん。申し訳ないがいくら妙ちゃんの弟とはいっても新八君は新八君だから。それに重ねて申し訳ないが新八君のネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は完成度が低そうだ」
と言って、九兵衛はあっさり断る。
新八はその一言で意気消沈してしまった。
そして、突如庭に東城の姿が
「若ァァァァァ! ならば、ならば私のネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ならばどうです。先ほど(ピー)でつるっつるに」
などといいながら袴を脱ぎ捨て、屋敷の九兵衛めがけて飛びこもうとした。
しかし、九兵衛に爆破される。
「東城、貴様のは砲ではなく錆びついた下水管の管だ。まさかそんなくだらないことをするためにわざわざここまで来たのか」
九兵衛は縁側に立ち、何者をも刺す軽蔑の視線を東城に注ぐ。
「ち、違います若。お父上が探しておられましたぞ。見合いの準備は整えたかと」
「と、東城! なぜそれをここで」
「見、見合いいいいいいいいいい!?」
その場にいた全員が東城の一言に目を丸くした。
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本当の目的が露見してしまった為、東城と九兵衛は事の次第を全て正直に話した。
将軍家から見合いの話が来ていて、九兵衛はその準備に追われている事。
しかし妙にお熱の九兵衛は全く乗り気でなく、いっその事男に性転換して妙と夫婦になることを決断し、あのような凶行に及んだことを説明した。
「ほー玉の輿じゃねえか。これで晴れて柳生家は将軍と親戚になると」
銀時は聞かされた後、そう感想を漏らした。
「はい、そういう事なので、柳生一門の中でも輿矩様はセレブの頂点に立てるとこの婚儀の成立にとても躍起なのです」
「なんであの白ブリーフが九ちゃんに惚れたのか不思議ネ。何かあったアルか?」
九兵衛は少し間をおいて答える。
「一つだけ思い当る事がある。上様が攘夷志士に襲われている所をたまたま目撃し、それで助太刀に入ったことが」
「助太刀アルか! 九ちゃんかっこいいネ!」
神楽は目を輝かせながら褒めたが、銀時は疑問を示す。
「おいおい待てよ。なんで天下の将軍様が簡単に襲われてんだよ」
「ほら銀さんあれですよ。またあの角刈りの人が」
「あぁあれか。将軍夜遊びに連れ出して襲われてんなら世話ねぇや」
「松平公もかなり奮戦しておられたが……それはともかく、どうすればいなんいのだ」
九兵衛は精神的にかなり参っている様子だ。
家を第一に重んずるならばこの婚儀は受ける必要がある。しかし、心の奥底では妙の事が諦めきれない。
そんなジレンマを抱えながら数日の間闘っていた。そんな事が表情より読み取れる。
「九ちゃんは将軍様の事どう思っているの?」
「正直よく分からない。好き嫌いをはっきりと言えるほど親交があったわけでもないからな。ただ、何にしても将軍家の顔に泥を塗る訳にもいくまい。見合いの席には出向こうとは思っている」
「若! まさかこの縁談断る腹積もりにございますか!?」
東城は強い口調で尋ねる。
「そうと決まったわけではない」
「いけませんぞ若。此度の縁談は柳生家の命運がかかっているのです。あちらが断るのならともかくこちらから断るなど将軍家との軋轢を産むやもしれませぬ! お妙殿を好いているのは分かっておりますが同性の間ではどうあがいても結婚できないのですぞ!」
そういわれると九兵衛は表情を曇らせる。
「全く女一人の見合いでどれだけ慎重なんだよ。ラスボス前にして誰を先頭にするかで小一時間潰す小学生ですかテメーらは。結婚なんてよ、お互いの波長が合えばそれでいいんじゃね? 見合いなんざそれがあるかどうか試す場でしかねーんじゃないの」
「銀時殿! 此度の縁談は一般の恋愛とは一線を画するものなのですぞ!」
「そうやって重いモン押し付けてきたから、今あいつは俺の(ピー)を取ろうとするほど追いつめられてんじゃねえのかよ。少しはそいつの心情というか波長も考えてやれや」
銀時は九兵衛に背をむけ、朱に染まりつつある縁側に座っていた。
「銀時……。すまないな。おかげで少し気が楽になったよ」
「若! どうなさるおつもりなのですか?」
「安心しろ。見合いの席にはきちんといく。それでひとつ頼みたいことがあるのだが……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
それから四日後、九兵衛はいよいよ将軍との見合いに挑むこととなった。
いつものような恰好ではなく、髪はしっかりと下ろし、晴れ着姿となって九兵衛は例の料亭に居た。
顔見せが終わり、いよいよこの一室には将軍と九兵衛の二人きりとなる。
九兵衛は異性と二人きりという状況に慣れていない為かカチコチに緊張している。
「九兵衛よ、くどいようで悪いが先日は本当に助かった」
「い、いえ。臣下として当然のことをしたまでです」
「そう固くならなくても良いぞ。ここは縁談の席だ。前説が長く退屈したであろう。ちと外を散歩でもしないか」
そう誘われたので、九兵衛はそれに従う。
襖を開けると、二人の編み笠をつけた者が地べたに跪いていた。
「そちたちは如何なる者だ」
将軍が誰何する。
「はっ我らは上様の護衛任務を受けることとなりました者です。何卒お見知りおきを」
と言って編み笠を少々上にあげる。
それを見て九兵衛は少しばかり表情が緩む。
護衛を司るのは万事屋三人のうち銀時と神楽だったのだ。
「よい。すまぬが二人きりにさせてくれぬか」
「いえ、しかし以前のようなことがあっては上様の御命に関わります故どうか我らの動向をお許しください」
「しかし」
「上様。こちらはぼ……私めが個人的に雇った者です。大事な上様の身に何かあっては一大事にございますれば。勝手な真似とは承知しておりますがどうか」
そう言って九兵衛は深々と頭を下げる。
しかし余程二人きりの方がいいのか将軍は難渋な態度を示す。
「安心召されよ。この者たちはいずれも手練ればかりです。百本の苦無が飛んで来ようと、いくつもの銃弾が襲ってこようと……そして幾人の攘夷志士が来ようとも返り討ちにしてくれます。それに出来うる限り我らの視界に入らないよう護衛させますので」
将軍は九兵衛がそこまで言うのならという事で漸く承諾した。
「オィィィィ! 何勝手な事言ってんだあのくそアマ! 一人じゃ心細いっていうから来てやったというのに」
と、後ろを向いて小さな声で神楽に愚痴る。
「大丈夫ネ。銀ちゃんならきっとネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の一撃も耐えられるアル」
「神楽ァァァ! テメェまで何抜かしてんだ。砲弾の盾にすっぞコルァ」
「おい、そち達何をしておる。護衛するのだろう? 行くぞ」
と言って将軍は石段を降り、庭に出る。九兵衛もそれに続く。
銀時や神楽も遅ればせながらそれに続くこととなった。
―――――――
庭の散歩を始めて十分が経過した。
この庭石はどこそこの庭園にならったものだなどと庭園に関する薀蓄を語られた事もあったが、九兵衛はその分野に疎く曖昧な返事しかできなかった。
九兵衛は輿矩とは異なりあくまで剣術家として修行をかさねてきたため、剣術以外には漢学や兵学などの実学にしか教養がないのだ。
その為話題が弾まずきまずい雰囲気のまま進んでいった。
そうこうしているうちに一本の木の前に通りがかる。
「おお、まだ残っていたか」
「何か思うところでも?」
九兵衛は尋ねる。
「うむ。この木は神君家康公が……」
と言うや否や木から色々な虫や化け物が振り落される。
―木の上―
「九兵衛さんの縁談を破談にする為とはいっても、いいのかなこんな事して……」
新八がマリオネットを用いて毛虫、蜘蛛、パンデモニウムなどがついたものを次々とぶらさげていたのだ。
九兵衛当人が乗り気な様子だったならばこれをする事はなかった。
―木の下―
「ウワァァァこれ何アルか!」
「落ち着け。これは新八の仕掛けた罠。どうせ温室育ちのボンボンだこんな虫なんぞ驚いて……」
銀時の思惑とは裏腹に将軍は虫を掴んだ。
「案ずるな。これはただの玩具だ。全く誰がこんな悪戯を」
「さ、左様ですか。良かった……。あ、あれあそこになんだか見覚えのないものが」
「ん?」
九兵衛が指さしたのは一体のパンデモニウムだった。
「あれは……見たことない。いや、もしかしてあれは……あれは……」
周囲は静かに動向を見守る。予想外に驚かなかった将軍に銀時と神楽は冷や汗をかいている。
「新種の蒲鉾か?」
「え、えええええええええええええええ!?」
万事屋三人はその返答に大いに驚愕した。(声は小さいが)
「え、蒲鉾ですか? 人の顔らしきものがついているというのに」
「金太郎飴も飴なのに顔がついているだろう。あれがあるならこれもありではないか」
いやいやいや確かに顔の付いた蒲鉾もあるけれども! あんな蒲鉾あったら誰もくわねーよ! 消費生活センターに苦情殺到するわ! と新八と銀時は大きな声で突っ込みそうになったが強くこらえた。
「へ、へぇそうなのですか。さすが上様博識でいらっしゃいますね」
「将軍家は代々、蒲鉾は人面蒲鉾だ。それはともかく先に行こう」
え、なに将軍家ってあんなげてもの蒲鉾として食ってんの!? 家康公もびっくりだろうが! とまた二人は突っ込みそうになったが堪えた。
―――――――――――――――
こうしてなんやかんやで見合いは終わり、あれから二時間後に将軍は九兵衛に別れを告げ江戸城に戻ろうとした。
見合いそのものはパンデモニウムの一件で緊張がほぐれたのか話が弾むようになり、少々仲良くなったように見えるほどに成功裏に終わった。
徳川の葵の御紋がついたリムジンに乗る将軍を護衛二人と共に九兵衛は見送りに出た。
「あの、いろいろと無作法な所を見せてしまい申し訳ありませんでした」
九兵衛は将軍の薀蓄に反応できなかった所や最初の頃の薄い反応を陳謝していた。
「良い。そのようなところも余は嫌いではない。また、機会があったら余と話さないか。柳生の剣術の話は中々興味深い」
「は、はい。おじいさまからの聞きかじりで宜しければ」
「そうか。今日は楽しかったぞ。また機会があれば会おう。九兵衛よ。今度は護ってくれた時の服でな」
その一言に九兵衛と護衛二人は驚いた。
つまり、将軍はこの見合いを投げているという事である。そういうと将軍はリムジンに乗り込もうとする。
「待つネ! 将ちゃん、九ちゃんの事好きじゃなかったアルか」
神楽が将軍を呼び止め問いただした。
「う、上様にむかってなんと無礼な!」
江戸城に護送するため将軍の周りにいた供回りが鯉口を切る。
「良い。そうだ余は九兵衛の事を好いていた。だが今日話してみて分かったことが二つある。一つはやはり女子としてより男子の性が強いという事。もう一つは恋人として語らうよりも同性の友人として語らった方が余にとっても九兵衛にとっても良い選択だと思った事だ。だから、九兵衛よ。余と友になってくれぬか」
その一言に九兵衛は少々驚いた様子だが、すぐに表情を綻ばせ
「はい。僕で宜しければ」
と、九兵衛自ら手を差し出し、握手した。
しかしその手は震えており、かなり勇気を振り絞っているように見える。
「そうか。……やっと握れたな。そちの手が」
「ゆ、友人を投げ飛ばしたりすることなど出来るわけがないでしょう」
「フ、それもそうだ」
その後、将軍はリムジンに乗って江戸城に帰還した。
九兵衛は一仕事を終え、深く息をつく。
階段を上がりながら、銀時は話し出す。
「ほー。やっと男の手ぇ握っても平気になったか」
「いやあの銀さん、多分違うと思います」
新八は突っ込む。
「なんだ居たのか。で、それはどういうことだ」
「銀さんは将軍様の近くにいたから分からなかったかもしれませんが、前の襲撃事件を受けてかなり警備が厳しくなっていまして……。壁の上に何人もの狙撃兵がいたほどですよ」
「え!? てことは」
「万一投げ飛ばしたりなんかしてたら九ちゃんがミンチにされちゃうネ……」
神楽は納得がいったかのような表情で言った。
「なるほどね。そういう事か。にしてもこれで良かったんじゃねーの。親戚になれなくても将軍家とはよりお近づきになれたんだし」
銀時も収まりがつき、九兵衛にそう話しかける。
「そうだな。ともかくこれでもうしばらくは今の生活が続けられるという事か」
九兵衛の表情はどこか晴れやかな物であった。
妙の側にまだいることができる以外にも、もう一つ新たな友を得れたという充足がその隻眼の顔からは窺い知れた。
―第二訓 見合いとは口ではなく心の対話である 終―
次回は真選組主役の話行きたいと考えています。