江戸は本日も平和です ~銀魂短編集~   作:OTZ

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今回はこの話に万事屋はほぼ出てきません
割とシリアスに傾いています。


第三訓 ドロケイっていつの間にか死語になったよね

 それは太陽が燦然と輝き、夏真っ盛りの時期を迎えようとしていた時期である。

 真選組屯所内は臨戦態勢にあった。

 将軍襲撃未遂事件は攘夷志士を結果的に60人を超える犠牲者を出す結果に終わったが、将軍がまともな護衛もつけずに遊び歩いているとの噂は生き残りの証言から事実と判明したのだ。

 あの事件から三か月が経過し、ほとぼりが冷めて将軍の護衛もまた薄くなりつつある。

 しかし、これは真選組にとっては大きなチャンスであった。将軍が松平と外出している隙を狙って過激派を一網打尽にする好機となるからである。

 

―屯所 局長居室―

 

「近藤さん。これが将軍暗殺を企てている郎党どもの一覧表だ」

 

 副長の土方は近藤に直筆の書状を手渡す。

 近藤はしばし黙した後に、言葉を発する。

 

「やはり桂率いる攘夷党は動かないのか」

「奴らはもう全盛の頃と比べれば大分形を潜めちまった。だが、江戸にいる攘夷志士の中では一番根を張っている野郎だ、何か重要な情報を掴んでいることは間違いねぇ」

「俺もそう思うが、奴をつかまえるのは至難の業だぞ。他の手を打つべきじゃないのか」

 

 近藤がそう言うと、沖田が奥の部屋より割って入ってきた。

 

「それなんですがね。近藤さん。大分前になりますが面白いものを公園で見つけたんでさァ」

「おーい。何盗み聞きしたうえ当たり前のように入ってきてんだ」

「まあまあ。おい総悟。そりゃどういう事だ」

 

―――――

 

―北斗心軒前―

 

 桂とエリザベスは人目を忍んで昼食を済ませ、店の前に出ていた。

 そして、店の前には10匹ほどの野良猫が彷徨っている。

 

「ぬ、ヌオオオオ……」

 

 桂はこれを見て大いに感じ入っている。

 一気に飛び掛かりたい衝動が桂の心中に駆け巡ったが、何かを察したエリザベスが片手で制す。

 

―電柱の影―

 

「おい、総悟。本当にこれであの桂がつかまるのか」

 

 電柱の影に隠れている土方は向かいの軒の影に居る沖田に無線機で疑惑の声をかける。

 

「万事抜かりは無いですぜ。やつの動物……というか肉球好きは俺のSの血並みに本能から呼び起こされしものでさァ。今でこそ理性で踏みとどまってますがきっと奴は尻尾を出します」

 

―北斗心軒前―

 

 桂はエリザベスの制止で罠と気づきそれ以上近づくのをやめた。しかし、猫の戯れに心奪われそこから動こうとしない。

 

『はやく行こう』

 

 エリザベスはそう看板に書いて、桂に注意を促す。

 

「いや分かってはいるが、この……この目に、心に訴えかけてくる肉球たちの戯れが……俺の、俺の足を、行く手を阻むのだ! おぉ、この愛すべき肉球達よ。なんと、なんと……」

 

 と言い桂は前屈みになって瞳孔を広げ、目に焼き付ける。しかし、エリザベスが『ダメだって!』という看板を掲げながら制止しているせいかそこまでで一向に動こうとはしない。

 

「いやいやここまでの肉球の戯れはそうそう見れるものではないぞエリザベス。お前もどうだそのコイルのような目に肉球達を映したらどうだ」

 

―電柱の影―

 

「おーい食いつきはよくてもあの化け物のせいで全然先に進まねえぞどうすんだよ」

 

 土方は一向に進みそうにない状況に沖田へ更に強く疑問をぶつけた。

 

「野郎意外としぶといですねェ。だが、大丈夫でさァ。手はまだありますぜ」

 

 沖田は小さく手を動かして猫に合図を示す。

 

「この猫たちは全ていつぞやの大捕物から放された猫を使って躾けた俺の(しもべ)でしてね……」

 

 その合図を見た猫たちは桂に飛びついてじゃれつく。

 

「俺の言う事なら(ピー)豚ならぬ(ピー)猫のように何でも従いますぜ」

 

 と言いながら、沖田はニヤりと笑ってみせる。

 

「ピー音機能してねえんだけど……。オォッ!?」

 

 呆れてタバコをマヨライターでつけようとした土方はその光景を見てタバコを落とし、目を丸くした。

 なんと桂が欲望に負けて地べたであろうと構わずうねうねとしているではないか。

 

「おおっ。我が肉球達が! 俺にじゃれついてくれている! もう、もう俺死んでもいい!」

 

 エリザベスは『あーあ』と看板に出している。

 

「う、嘘だろ。あの桂が……」

 

 土方が立ち尽くしていると

 

「その望み、叶えてやるぜ。かぁぁぁぁつらぁぁぁぁぁ!! ついでに土方」

「え」

 

 真選組バズーカを沖田がぶっ放す。

 爆発と爆風が巻き起こり、桂と土方の近くに命中した。

 

「何してんだお前ら。早く桂を召し取れ!」

 

 土方の近くにいた隊士たちに沖田が指示した。

 深手を負った桂は動くに動けずエリザベス共々真選組に捕縛された。

 

「クッ。この俺も万事休すか……」『やられた』

「まさか俺らがずっと追ってたのは猫好き、いやムツゴロウさんもびっくりの猫狂いとはなぁ。気分はどうだ? 桂」

 

 土方は桂の頬を靴で踏みつぶしながら尋ねる。

 

「フッ。あの桂捕縛に貢献した功績で俺が蹴落として副長になる日も近い。ざまぁねえぜ土方」

「蹴落とすどころか副長殺害企てた罪でその首切り落とされてぇのか。さて、屯所まで連れてけ。今まで世話になった分たっぷりしごかせてもらうぜ。桂」

 

 土方は嗜虐心に富んだ笑みを浮かべながら桂をパトカーに乗せ、屯所に戻った。

 

―屯所 局長居室―

 

 桂はその日の夜に戦利品照覧とばかりに近藤の前に引きだされた。

 既に土方直々による拷問で顔や体のあちこちに痣ができている。

 

「近藤さん。漸く捕まえたぜ。長年にわたる因縁。これで一つケリがついたな」

 

 土方は言葉こそ冷静であるがかなり達成感に満ちた様子である。

 

「うむ。トシ、総悟ご苦労だった。それにしても」

 

 近藤は項垂れている桂の頭を見る。

 

「まさかこんな形で再び会うとはな。フルーツポンチ侍、いや、桂」

 

 桂はフッと笑いながら、痣のついた唇を見せ、面をあげた。

 

「俺もまさか斯様な形で敵の大将に会うとは思わなんだ。フルーツチンポ侍」

「え、なんで俺は言い直さないの。ねぇ。俺直したよね?」

「まさか俺が貴様らのあんな幼稚なトラップに引っかかるとは。フッ、俺も焼きが回ったものだ」

「焼きっつうか地べた這いずり回ってたがな。さて、近藤さん、こいつは案外あっさりと将軍の暗殺に関してあらいざらい吐きやがった。これが直した一覧表と計画予想図だ」

 

 土方は修正した一覧表を近藤に手渡す。

 一覧表の下には(幅こそあるが)決行予定日や場所が克明に示されていた。

 

「決行は一週間から二週間後か……。鬼兵隊もこれには参加していないのか?」

「高杉は今春雨と共に宇宙で活動しているからな。将軍暗殺など構っている暇もないのだろう。それにあいつはド派手な喧嘩を好む。この程度じゃ奴は意に介さない」

 

 桂は物怖じせずにすらすらと答える。

 

「ほう。やけに素直だな」

「近藤さん。踊らされちゃいけやせんぜ。首落とされたくないから敢えてここでしおらしく従順な態度見せて処分を軽くし、仲間から脱獄させてもらうという算段を立てている可能性だってあるんですぜ」

 

 沖田は近藤にそう忠告する。

 

「ほう。総悟にしちゃまともな事言うじゃねえか。ま、それには俺も同意見だ。桂は明日……いや今日の夜にでも俺たちの中で首を落とすべきだ。桂の手下は腐るほどいる。危険な道具は使い終わった後さっさと捨てた方が身のためだぜ」

 

 近藤は土方沖田両名の提言を受けて、腕を組んだまま熟考する。

 

「フフフ……」

 

 桂は静かに笑い始める。

 

「桂、てめぇ何がおかしい!」

「いやどいつもこいつも考えの足りぬ阿呆ばかりだと思ってな」

「猫にじゃれつかれたくらいで地に伏せる奴に言われたくねぇんだよ!」

 

 土方は桂に突っ込む。

 

「俺の首を落としたければ落とすがいい。だが、少しでも人命を救いたければ俺をもう少し延命させてみないか?」

「あぁ!? 何寝言ほざいてんだ!」

「暗殺を企てている者の中に元々俺の仲間だった者がいる。俺の下を離れた者の中には学級会でリーダーの女子に唯々諾々と従う他の女子のように流れで行った者がいる。俺の下に帰順従っている者や俺を恐れている者もその中に多くいる。俺の姿や声を見たり聞いただけで小便を漏らして逃げ出すかもしれんぞ」

 

 桂は冷や汗をかきつつ、捨て身とばかりに発言する。

 

「何が言いたいんだ。フルーツポンチ侍」

 

 意趣返しで桂を呼んだ近藤が尋ねる。

 

「俺をその張り込みに同行させ、決行された際に俺の姿をありありと晒せと言っている!」

 

 桂は赫赫たる大声で自らの意見を示す。

 

「な……仲間に自らの醜態を晒すというのか!?」

 

 流石の土方もこの大胆な案に目を丸くする。

 

「あんな者。仲間でもなんでもない。ただ国を混乱に陥れたいだけのごろつきだ。将軍を……頭一人殺したところで何も変わりはせん。そんな単純な事にも気づかずに感情だけで突っ込む者など我々からしても迷惑なだけなのでな」

「き、局長! これは桂の罠です。そんな事言って自分の命を生き長らえさせたいだけですよ!」

 

 山崎は桂の意見に猛然と反対する。

 

「何を言っているんだ受験生! あの時君は国を憂う攘夷志士だったではないか! 何故我々を裏切ったのだ!」

「誰が受験生だ! あんないかれた問題ばっか出しているからあんたのもと離れていく奴が出てくるんだろーが! この電波バカ!」

「まあ落ち着けザキ。まぁフルーツポンチ侍のいう事にも一理ある。襲撃の際、厳重に捕縛した上で屋根の上にでも晒しておけ」

 

 そう言って、近藤は話を締めくくり、風呂場へとむかった。

 

「ま、待て近藤さん! あんな奴のいう事に……」

 

 納得のいっていない土方は近藤を追いかけていった。

 

――――――――――――――――

 

―街路―

 

 桂は襲撃予定日の期間中ずっとエリザベス共々真選組監視下に置かれ、見込地点近くの民家に監禁されていた。

 そして将軍は桂捕縛から10日後の金曜日。松平と共にまた『すまいる』へと出向こうとしていた。勿論これは真選組が提言した作戦である。近藤と土方が直々に桂捕縛後5日に亘り松平や将軍の周りを説得し、捕縛の為に厳重に仕組まれたものであった。いわば餌である。

 将軍と松平は予定地に差し掛かって、攘夷志士たちは前回の4倍近くの人員で将軍に襲い掛かった。

 

「まーた出やがったか虫けらども。おじさんに何回も銃を放たせんじゃねえーよっ!」

 

 松平はまたも7発ほどの銃弾を素早く放って、7人を致命傷においやる。

 少々時間稼ぎを済ませると、土方は桂とエリザベスを腰縄に手錠の状態で屋根の上に引きずり出した。

 

「おーいチャンバラやってる野郎ども! これが目に入らねぇのか!」

 

「あ、あれは!」

「桂!? 何故ここに。というか」

「真選組!?」

 

 攘夷志士は桂・エリザベスと真選組の登場に狼狽し、刀を動かすのを止めた。

 その隙をついて松平は15人ほど葬る。

 

「御用改めである! 二番隊、三番隊はビクついている野郎どもの捕縛を中心に、四番隊、五番隊は思い切り暴れろ! 行くぞぉぉ!!」

 

 近藤は鬨の声と共に鞘から刀を抜き、突撃。隊士もそれに続いた。

 沖田率いる一番隊と六、七番隊は攘夷志士たちの背後をつき既に戦いを始めている。

 

 しかし、序盤の頃は数の差が大きく(攘夷志士385人に対し真選組は87人)、将軍のすぐそばにまで迫る者もいる。

 

「首は貰った!」

 

 一人の志士がそう呟いたか否かその志士の首は胴体から離れていた。

 そして、将軍と思われたそれは竹馬と着物だけの代物に化けていたのであった。

 

「げっ、まさかあのガキは……」

 

 前の事件の生き残りと思われる志士がその華奢でありながらも気圧されるオーラを放っている人物を見て腰を抜かす。

 眼帯に髪を束ねた剣豪、柳生九兵衛であった。

 九兵衛は将軍暗殺計画について小耳に挟むと、友を守る為だと背の低さは竹馬で補い、隻眼は笠を被ってごまなす程に偽装してまで影武者を請け負ったのだ。

 九兵衛は影武者と発覚するや以前同様柳生珍陰流の奥義を遺憾なく発揮して向かってくる攘夷志士を次々と斬り殺した。 

 一方屋根の上の土方は桂の監視でつきっきりの為暴れられなくてウズウズしているのかと思いきや、存外落ち着いていた。というより、作戦が半ば成功した事に安堵している。

 そして、眼下で八面六臂の活躍を見せる九兵衛を見て

 

「ありゃ確か柳生のガキじゃねえか」

 

 と意外そうな口ぶりで言う。

 影武者を立てるとは言われていたが、誰かまでは聞いていなかったのだ。

 

「九兵衛殿!? 何故……」

「なんだ。知り合いか?」

 

 土方はタバコにマヨライターで火をつけながら尋ねる。

 

「知り合いも何も、俺と堅物まじめキャラの座を争っている敵だ! おのれ、こんなところで人気取りしおって」

 

 桂は苦い顔をしながら九兵衛を睨む。

 

「猫ごときにあっさり魂奪われてあっさり敵の軍門に降る堅物なんざ聞いたことねえぞ。一回鏡見てみろ。電波バカが映って……おっと。もう鏡を見る機会もないだろうがな」

 

 土方は残忍な笑いを浮かべながらタバコの灰を落とし、二本目のたばこに手をつける。

 

「それより桂。指をくわえて見ているがいい。てめぇの仲間が次々と俺たちに捕らわれ、やられていく様をな」

 

 土方はマヨライターでタバコに火をつけ、一服する。

 

「仲間ではないと言っているだろう。あれはただの破壊主義者だ。俺たちのように真に国を憂える者とは一線を画する」

「フッ。何言ってやがんだ。少し前まで大使館爆破などと企んでた野郎が」

 

 土方はそう桂を嘲笑う。

 戦況は九兵衛の参戦や虚を突いた真選組が優勢となりつつあった。戦線は崩壊し、まともに刃を交わしている者の方が少数派となりつつあった。

 

「当時の俺は確かにそうだったが……。俺は変わったのだ。あの後、あの男と出会ってからな」

「あん?」

 

 土方が桂を見たとき、桂はエリザベスと共に立っていた。

 

「桂、それは一体なんの真似だ」

 

 土方は鯉口を切り、いつでも抜刀できる体勢になる。

 

「詰めが甘かったな真選組の諸君」

 

 その言葉とほぼ同時に煙玉と時限爆弾が投げ込まれ、煙玉が炸裂。

 

「桂さんっ!」

 

 一人の攘夷党の志士が煙が目につかないうちに長髪を目印に桂の戒めを解き、エリザベスも解放。

 

「ちっ。謀られた! おい! 桂が逃げ出したぞ! 追えーっ!」

 

 土方は煙にむせながら逃走した桂の後を追う。しかし、襲撃地点となった道路の一本後ろの道路に攘夷党の車が止まっておりそれを使って桂は逃げ出す。

 桂はまんまと真選組の虚を突いて逃走に成功したのであった。

 

 それから数日、江戸全域で桂の捜索がはじまったが逃げの小太郎の名を遺憾なく発揮した桂は形を潜め見つかることは無かった。

 しかし桂逃亡の責は350人近くに亘る攘夷志士の捕縛と30人の死去によってほぼ帳消しにされる。

 そこから芋づる式に八留虎三兄弟をはじめとする過激派攘夷志士がほぼ捕まり、攘夷活動はかなりの落ち着きを見せることとなった。

 とはいえ、トカゲの尻尾をいくら切ったところで真選組や松平の顔が晴れることは無い。

 

―真選組屯所―

 

「結局俺たちは桂の掌で踊らされてたに過ぎないということですか」

 

 山崎はそう土方にごちた。

 

「踊らされたわけじゃねえよ。踊ってやったんだ」

 

 土方は強情張りにそう言う。

 

「だからさっさと首切り落とせと言ったんでィ。あーあこれは責任問題ですぜ」

「おい。桂はテメェらにいる方向に逃げてったんだぞ! なんで捕まえなかったんだ」

 

 土方は沖田を責めたてる。

 

「何言ってんですかィ。元はと言えば取り逃がした土方さんの問題でしょうが」

「いーや桂を追わなかったお前の」

「まあまあ。とにかく桂が囮役になったおかげで追っていた攘夷浪士が大分捕まえられたんだ。桂を逃がしたのは痛いが奴のおかげで計画を周到に立てることが出来たのもまた事実だ」

「近藤さん。そういう問題じゃないんだよ。桂、高杉が居る限り攘夷活動は終息しない。そんな事は分かりきった事だろうが」

 

 土方の反論に、近藤は高笑いして答える。

 

「城を攻めるときは、まず周りから責めることも肝要だろう。今回の一件で攘夷党の連中も大分捕まった。どうやら桂脱出の為に敢えて加勢したものもいたそうだ。それで収まりをつけよう。だが、桂は今度こそ絶対にいつか俺たちの手で摑まえるぞ!」

 

 近藤の一言に漸く土方と沖田は溜飲を下げ、桂捕縛に向けて決意を新たにした。

 真選組は今日も桂の捕縛に向けて捜索を重ねている。

 

―第三訓 ドロケイっていつの間にか死語になったよね 終―

 




次回はマダオこと長谷川泰三の話を予定しています。
万事屋も勿論だすつもりです。次回はギャグに転向しますよ多分。
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