江戸は本日も平和です ~銀魂短編集~   作:OTZ

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季節はずれなのは重々承知の上でバレンタインデーネタです。


第六訓 チビッ子たちは酢昆布の酸味で人生の辛さを知る

 2月14日。

 真選組屯所内はいつになくざわついていた。

 士道を志す女っ気などほとんどない隊士ばかりかと思いきや、意外にも市井の人々から好感を持たれている人も少なくないのだ。

 

―屯所 稽古場―

 

 稽古の合間に隊士たちがわいわいと話していた。

 

「あーあ。俺一個も貰えそうにねーよ」

「それでいいのです。我々は士道を嗜むのでずぞ。女子になどうつつを抜かしていては健全な気風が乱れかねません。武士たるもの身も心も清潔でなければならないのです!」

 

 一番隊隊士、隈無清蔵はそう雄弁を奮って、その場にいた隊士から喝采をうける。

 そんな事をしていると、山崎が稽古場に入る。

 

「あれ、みんな何してんの?」

「これはこれはザキさん」

「いや後輩のお前にザキ呼ばわりされる筋合いないんだけど」

「今私はバレンタインなどというのは我々隊士とは無縁であるべきという事を説いたのです。ザキさんもそう思い」

 

 隈無が山崎の肩を叩くと、何かが三つほど懐から落ちた。

 

「ん?」

 

 隈無が下を見ると、そこにはキットカットの文字が。

 裏面を見ると『寺門通より愛をこめ天然記念物』などと書かれていた。

 隈無は大いに狼狽し、後ろへのけ反る。

 

「え、えええええ!? な、なんで地味キャラのザキさんがお通殿からチョコををを?」

「え? ああ、いつだったか一日局長やってて攫われた事件の時に、潜伏の一環で助け出してね。そのお礼がてらでくれたらしいよ」

 

 などと山崎はすまし顔で言って見せる。が、口の端がやや上がっており本意は透けて見える。隈無に賛同していた隊士達は魂を失ったかのような顔をする。

 

「いやーほんと自慢する気なんてこれっぽっちもなかったんだけどねー。ほらーやっぱり話の流れっていうかー? 魔が差したというかさー」

 

 山崎の表情は段々と崩れ始めていった。その時、山崎の背後に一発の足蹴が入る。

 

「いった!」

「べらべらべらべらうるせぇんだよ。何があったんだ」

 

 蹴りを入れた犯人は土方だった。隈無は味方が来たと言わんばかりに喋りたてる。

 

「副長! 山崎が我々と同じく士道を志す者でありながら、女子からチョコを受け取るばかりでなく、あまつさえ我々にチョコを見せびらかしに」 

「あ、呼び捨てにしたなこのヤロー!」

「たく下らん事で騒いでんじゃねえぞ。山崎、お前は士道不覚悟で切腹だ。今日の夜介錯してやるから今のうちに辞世の句でも認めとけ」

 

 土方は冷徹にそう言い残すと、スタスタとタバコに手を付けながら立ち去ろうとした。

 

「え、ふ、副長? じ、冗談ですよね? バレンタインのチョコ受け取ったくらいで切腹なんて……」

 

 山崎は顔を真っ青にしながら廊下を歩く土方に言う。

 

「ほう……俺も随分テメェなんぞに舐められたもんだな……」

 

 土方は一度吸ったタバコを持ちながら不敵に笑って見せる。

 

「え?」

「俺ァな。やると言ったらやるんだよ。分かったらさっさと白装ぞ……」

「あ。居た居た土方さーん」

 

 沖田が間に入ってきた。

 

「んだよ。今大事なとこだったつうのに」

「まぁまぁ。今玄関に土方さん宛の荷物持ったドライバーがいるんですが」

「俺宛て……。まさか」

 

―玄関―

 

 土方が玄関にたどりつくとそこには段ボール箱が10箱以上敷き詰められていた。

 

「はぁ……」

 

 土方は大きくため息をつく。

 

「あの、ハンコ頂けます?」

 

 配達員は気まずい様子で言う。

 

「どうせ中身はアレだろ? いらねぇ。悪いが送り返してくれ」

「そうですねェ。どれもこれも平凡な手作りばかり……」

「何してんのお前!?」

 

 土方は段ボールを開けて物色している沖田へ突っ込む。

 

「あれ、マヨネーズ入りのチョコまでありやすぜ」

「あ?」

 

 土方は反射的にその包装のチョコを取る。ご丁寧にハートの真ん中にマヨリーンのマークが描かれていた。

 裏側を見てみるとマヨリーンの尻が。両方とも手書きである。

 

「ほぉ。中々分かってるじゃねぇか。誰から……」

 

 と言いながら差出人を見る。名前は『松平栗子』と明記されていた。

 土方はそれを見て真っ青になる。

 

「な……なんで割れた?」

「土方さん。いくらごまかしたと言ってもあんな頻繁に市中を出歩いていたらそら面も割れますよ」

「つっ……冗談じゃねぇ! おい、これに関しては存在しない人物に送ったという事にしておいてくれ」

 

 そう言って土方はそのマヨチョコを配達員に突き返す。

 

「土方さん宛名人よく見てくださいよ」

 

 そこには『マヨラ13様』とだけ書かれていた。どうやら宛名から類推して届けられたようである。

 

「な、なんだ……。い、いやそれでも状況には変わりない。とにかく全部送り主に返してくれ」

 

 そういう事で土方のチョコレートの件は片付く。配達員は全ての段ボールを抱えて戻って行った。

 

「あーあ。本当に良かったんですかィ? 恋する乙女の気持ちを踏みにじるような真似して」

「江戸の市中を預かってんだ。色恋なんぞにかまけてられっかよ。総悟、お前もまさか受け取っちゃいねぇだろうな。さもなければ山崎ともども切腹にすんぞ」

「いやだなぁ土方さん。俺ァ心当たりがないこともないですが、仮に受け取るようなことがあってもそんな生意気な(ピー)には二度とそんな真似しねぇように」

 

 沖田は喜々とした顔で語りかけるが土方が即座に止めにかかった。

 

「あー分かった分かった。お前はそういう奴だったな。さてと刀でも研いでおくか……」

 

 と言いながら自分の居室に戻ろうとするが、土方は禍々しい気を覚え背後を振り向く。

 そこには壁に向かって体育座りしながら沈んでいる近藤がいた。

 

「な、なんだ近藤さんか。どうしたんだそんな所で」

「いいよなぁ。皆チョコを貰う宛とか、心当たりとかあって……」

 

 近藤は沈痛な表情で呟く。

 

「な、何言ってんのさ。近藤さん。あんたにはお妙さんがいるじゃねぇか」

「土方さん。顔ひきつってやすよ」

「う、うるせっ」

 

 土方は小声で沖田を毒づく。

 

「それに、さっきも言ったけど武士たるものチョコ如きに気を取られちゃいけないって。うん」

「はぁ。いいなあああ」

 

 土方の一言で近藤は更に沈む。

 

「え?」

「俺も一度そんな贅沢な事言ってみたいよ。俺がそんなこと言ってもお前らどうせやせ我慢にしか聞こえねえんだろ?」

「そ、そんなことないない! 近藤さんの言う事に万一そんなケチつける奴が居たら叩斬ってやんよ!」

「そうそう。まさか自分がチョコ貰えネェからって人にまでそれを押し付けるケツの穴のちいさぇ強引な野郎とは誰も思いませんって」

 

 沖田は棒読みな調子でそう言った。近藤は更に縮こむ。

 

「お前それフォローになってねぇよ! あれ、近藤さん?」

 

 近藤はすくっと立ち上がる。

 

「ちょっと……市中見廻りしてくるわ」

 

 近藤は居づらくなったのかそのまま玄関から出て行った。

 

「あぁ、おい!」

 

 土方は近藤を呼び止めたが、制止も聞かず戸が閉められる。

 

―かぶき町―

 

 近藤は市中見廻りと言いつつ暗い表情でかぶき町をさまよっていた。

 そうしていると妙と神楽の姿が目につく。

 話しかけようかと思ったが、何か袋を持っているため尾行しつつ話を聞く。

 

「アネゴ、その紙袋何アルか?」

「あぁこれ? これはね、お客さんに配るチョコレートなの」

 

 近藤はそれを聞いて目を輝かせる。自らにもチャンスが回ってきたのだ。

 

「え? という事はあのゴリラストーカーにもあげるつもりアルか!?」

「嫌ねぇ神楽ちゃん。お客さんって言ったでしょ。あれはお客さんじゃなくて店に巣食う”G”って言うのよ。ほんとは出入り禁止にしたいんだけどなまじ幕府の直参でしょう? だからやりにくくて……」

 

 近藤はまたまた沈む。だが、この好機を逃す手は無い。どうにかチョコを貰えないものかと思案に耽る。

 

―20分後―

 

 神楽は友チョコだと言われてチョコを受け取って妙と別れる。その後、酢昆布を手に入れるためか駄菓子屋に向かっていた。

 

「やあやあそこの御嬢さん」

 

 路地の隙間からしゃがれ声が聞こえてくる。

 気づいた神楽は隙間に目を遣る。そこには、厚手の外套を身に包み、シルクハットを被り、サングラスと口に付け髭をつけた男が居た。

 

「私に何か用ネ」

「ちょっとおじさんの頼みを聞いちゃくれないか? いい物あげるから」

「知らない人の誘いには乗っちゃいけないって銀ちゃんに言われてるネ」

 

 とだけ言って、神楽はその場から立ち去る。

 

「ま、待って! 酢昆布3ダース買ってあげるから!」

 

 男は素の声に戻って神楽の肩を叩こうとする。

 が、すんでの所で神楽に手首をつかまれ、逆さに曲げられる。

 

「おい、なんで私が酢昆布好きだと知ってるアルか」

 

───

 

 しばらくして、近藤は路地の隙間に追いやられていた。神楽に正体がばれ、詰問されている。

 

「おいゴリラ。アネゴに愛想尽かされたからって私に鞍替えする気アルか? お前本当にブタ箱にダンクシュート決められたいアルか?」

 

 神楽は何者をも凍てつかせる視線を近藤に注ぐ。

 近藤は神楽に手のひらを見せ、首を大きく横に降りながら

 

「いや違う違う誤解だってば! 俺はチャイナさんにその、できればお妙さんのチョコ貰うにはどうすればいいのかご教授願いたいなーなんて思ったから」

「だからってなんであんな格好で私を誘うネ? あれじゃただの変態アルヨ?」

「恥ずかしかったの! 普段の姿であんな事してるのばれたら事でしょーが! 俺一応警察のトップだからさ」

 

 近藤はキリッと表情を引き締めてかっこつけた風の顔を神楽に見せる。

 神楽は呆れた顔を見せ

 

「普段からあんなことしてるくせに今だけそんな取り繕わられても困惑するだけネ。アホらし、帰る」

 

 と吐き捨てて、きびすを返しつつ市街に戻ろうとした。

 

「待ってよチャイナさん! 今君に見捨てられたら俺はもう一生お妙さんからチョコは愚か、卵焼きすら貰えなくなってしまう! だから、どうか、頼む!」

 

 近藤は神楽に土下座して頼み込む。

 神楽は振り返ってから数秒ほど無表情になったかと思いきや、大きくため息をついた。

 

「はぁ。仕方ないアルなぁ。10グロス」

「え?」

「3ダース如きでこの私が動くとでも思ったアルか。120ダース。つまり、10グロス分の酢昆布を要求するアル」

「え。てことは……あーでこーで……1440個か」

 

 神楽は深く一度頷く。

 

「そんな大量の酢昆布どうする気なんだ」

「非常食ネ。酢昆布はいくらあっても腐らないからな」

 

 神楽は腕を組んで得意そうに言う。

 非常時にそんな物ばかり食うことになる万事屋に深く同情しつつ、千個単位とはいえ所詮駄菓子。これからして貰うことを考えればたいした出費にはならないだろうと近藤は承諾した。

 神楽は少々たじろいだように見えたが、すぐに元の調子に戻って

 

「よし、それじゃあとりあえずそれ着るネ。身元がバレない方がなにかとやりやすいアル」

 

 と言うわけで近藤は先程の紳士風の洋服を着直した。

 真冬とはいえ、普段着の上に重ね着しておりかなり暑そうだが近藤は我慢した。

 そのまま二人は街路に出る。

 

─二十分後─

 

「あの、チャイナさんこれから何処に行くんです?」

「そのチャイナさんという呼び方は嫌ネ。私のことはこれからリーダーと呼ぶヨロシ」

「ええっ!? なんでぇ?」

「言うこと聞かないなら声出して、変な男が私を連れてくのーとか言ってブタ箱に行くアルよ?」

「わ、分かったよ。リーダー」

 

 そういうわけで桂に続いて近藤も神楽の家来となりはてた。

 

「よし。これからちょっと友達の所に行くアル」

「友達?」

「そうネ。かぶき町公園にいるはずだからまずはそこに」

 

 と神楽が言いかけていると、九兵衛に会った。

 

「あ、九ちゃん!」

「ん……神楽殿か。その人は」

 

 九兵衛は隣の人物に目を遣り誰何する。

 

「えっと……」

 

 神楽は特に考えてなかったのか2秒考えた後

 

「私のパピーのそのまたパピーの妹の知り合いの叔父さんのそのまた知り合いネ。私はこの黒い出で立ちからコウモリと呼んでるアル」

 

 なんだその安易なネーミングはと近藤は心中で突っ込む。

 

「それ限りなくただの他人じゃないのか……」

「さっきそこでばったり会って、アネゴにチョコ貰いたいけどどうやれば貰えんのか相談に来たアル」

「どうやってって、そんなのは妙ちゃんの好意だろ。どうしようもないだろう」

 

 九兵衛は少々不機嫌そうに答える。

 

「本命なら確かにそうアル。でも義理ならキャバクラで配るから貰える余地アルネ! でもゴ……コウモリは恥ずかしがり屋でどんな顔してもらいに行けばいいのか分からないようだから参ってるネ。九ちゃんどうすればいいと思うアルか?」

「なるほどそういう事か……。まず服装がキャバクラに行くにしては堅苦しすぎないか? もっと軽い感じの服の方が妙ちゃんも気兼ねしないで済むからいいと思うぞ」

「か、軽いってどういう感じの?」

 

 近藤は声を変え、思わず身を乗り出して尋ねる。

 九兵衛は少々身を引くが、すぐに

 

「その悪趣味な黒サングラスがいけないと思います。いらぬ警戒心を与えることになる気がする」

「え、こ、これは、ダメ!」

 

 近藤はサングラスのフレームを握りながら言う。

 

「どうして?」

「そ、それは」

「コ、コウモリはサングラスを外すと光を浴びて失明しちゃうネ! だから外せないヨ!」

「どこの大佐だ! でも……そうか。そういう事じゃ仕方ないな。他の部分でこの堅苦しさを解消しないと……。そうだ、スーツの色を変えたらどうだろう」

「それじゃ逆に真剣さがなくなるネ! アネゴは不真面目な男は嫌いヨ」

「それもそうだな。じゃあ髭を剃るのはどうだ。むさい感じがなくなるぞ」

 

 九兵衛は顎ひげと口ひげを見ながら言う。

 

「こ、これもダメだって!」

「ダメヨ! コウモリにとって髭は大事な大事なアイデンティティヨ! 今どきのつるっつるな男の肌に対する反骨精神溢れるオールドフェイスネ!」

 

 その後も10分ほど会話したが特に進展もなく九兵衛と別れる。

 

―かぶき町公園―

 

「ここにリーダーの友達が?」

「そうアル。あ、いたいた、おーい!」

 

 神楽は少し離れた場所にいるオレンジ色の帽子を被り褌を穿いた武蔵っぽい人に声をかける。

 

「おー神楽ちゃんか。今日はどうしたんだい?」

「用と言うほどの用でもないアル。おいコウモリ、これ見てどう思うネ」

「え、どうって……」

 

 近藤はまじまじと武蔵っぽい人の姿を見る。

 感想は沢山浮かんだがとても当人の前には口に出来ないので引き笑いしながら黙した。

 

「そう! ワイルド! 女性は皆、ワイルドさを潜在的に求めているといいともの多毛さんが言ってたアル!」

「ワイルドって……これワイルドと言うよりホームレ」

「ワシはホームレスじゃないわい! このマイスウィートホームが見えんのか! え!?」

 

 と言いながら武蔵っぽい人は舌端火を吐く様子で捲し立て、リヤカーを指さす。

 

「あ、すんません。で、ワイルドさってどうすりゃいいんですか、リーダー」

 

 近藤は諦め気味になりながら神楽に尋ねる。

 

「フッフッフ。それはごく簡単な事アルヨ」

 

―10分後―

 

 近藤の姿は見違えていた。

 顎ひげも口ひげもギザギザにし、袖口をギザギザ、髪型まで全てギザギザになってい……

 

「これのどこがワイルドだああああ! ただギザギザになっただけじゃねえか!」

「何言ってるアルか! ワイルドの原点はがさつな所。がさつ、つまりギザギザネ!」

「何その超理論! いや言いたいことは分かるけど、ただ棘とげしくなっただけじゃねえか! ヤマアラシもビックリだよこれ! どーしてくれんのこれ一着しかないんだよ!?」

 

 近藤は滝のような涙を流しながら捲し立てた。

 

「それでいいアル! 女はバラが好きなように棘のあるものに惹かれるネ! 一着しかない服をここまでギザギザにするようなそういう勇気があって危険な所にアネゴもきっと惹かれるアルよ!」

「お……お妙さんがこれに?」

 

 近藤はお妙という単語を聞いて矛を収め始める。

 神楽は腕を組んで一回頷く。

 

「そうか……分かった。俺なりのワイルド、全力でお妙さんに見せつけてくるよ。ありがとな、リーダー」

 

 そう言って近藤はその場から立ち去って行く。

 

―すまいる―

 

 妙の勤めるスナックは大盛況であった。皆思い思いのキャバ嬢からチョコレートを受け取り、いつも以上にご満悦な表情でにぎわっている。

 そんな中、一人の眼の引く客が入ってきた。

 大きく切り込んだ袴に、ギザギザの袖、パンク吹き出し風のサングラスにギザギザの革ジャンバーを羽織っていた。

 そう、近藤である。近藤の入店と伴に店内はにわかに騒然となった。

 妙を指名すると、存外すぐに妙が出てきた。

 

「ご、ご指名ありがとうございます。初めまして、妙です」

 

 妙は少々戸惑いつつも恭しくお辞儀をする。

 

「おう、宜しくな」

 

 近藤は普段よりもかなり低い声で妙に接する。

 その後10分かけて、妙と歓談する。近藤にとって妙とまともに会話したことなど数えるほどしかなく天にも昇る気持ちだった。

 そして、話の流れからバレンタインデーの話になる。

 

「そういえば、コウモリさんはチョコを何個貰いましたか?」

「なかなか縁が無くて一個も貰ってない」

「あら、左様ですか……。あの、宜しければ、これ私の気持ちです、受け取ってください」

 

 と言いながら妙は近藤にラッピングの為されているチョコの入った箱を手渡す。

 

「や、やったあああああああああああああああああ!!」

 

 近藤は希望がかない、嬉しさのあまり飛び上がり、地声で叫んでしまった。

 そして、パンクグラサンも落ちて顔まで割れてしまう。

 

「あ」

「近藤さーん」

 

 妙は指を大きく鳴らしたのち、近藤の肩を叩き

 

「突然、大声を出してはダメじゃないですかー。二度とくんじゃねぇぞこのゴリラストーカァァァァァ!!」

 

 と、ミサイルの要領で店外まで放り投げる。

 

「イツツ……。あれ、ない! お妙さんの、気持ちがぁぁぁ!」

 

 近藤は半ば必死に周囲を探すが、どうやら店内に落としてしまったらしい。

 

―10分後―

 

「ハァ……くっそ。あんな死ぬ思いして手に入れたのに……!」

 

 と諦めかけていると、目の前にある電信柱の隅に見覚えのあるラッピングの箱がおいてあった。

 

「こ、こりゃ!」

 

 間違いない。妙のくれたチョコの箱と同一である。しかし、電灯に照らしてみると色が違っていた。

 要領を得ずに立ち尽くしていると、誰かが走り去るような音が聞こえた。

 近藤は合点がいったのかフッと笑って見せた後

 

「ありがとな……リーダー」

 

 と小さく言い残し、屯所へと戻っていく。

 

―屯所 局長居室―

 

 バレンタインの次の日、昼ごろになって近藤はお礼の件を思い出してノートパソコンを立ち上げて酢昆布の値段を検索した。

 

「どうせ、一個10円くらいだろ……」

 

 などと呟きながら、近藤は検索結果を見る。

 

 

 中野物産 都こんぶ 15g×12箱

 価格: ¥ 1,296 (¥ 108 / 箱)

 

 一箱、108円。この値段を見て近藤は硬直する。

 十秒ほど考えた後、近藤は電卓を叩く。15万5220円。

 予想外の高額だったため、近藤は卒倒してしまった。

 そしてたまたま近くにいた土方が不穏な空気を感じ、中に入る。

 

「あれ……近藤さん? 近藤さんんんんん!?」

 

 数日後、万事屋には無事に酢昆布1440個が送り届けられましたとさ。

 

―第六訓 チビッ子たちは酢昆布の酸味で人生の辛さを知る 終―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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