続・刀語   作:リンゴ丸12

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三人称になれない……。見づらかったらすみません。


旅立ち

虚刀流。それは開祖、鑢一根が生み出した流派である。一根は剣術修業に至っては至極真面目な青年であったが、どんなに修業をしても葉の一つも切ることが終ぞ叶わなかった。しかし彼はそれでも諦めることなく毎日毎日剣を振り続けた。

そんなある日彼はある男と出会う。彼は元占い師で現刀鍛冶だと名乗り、彼の剣術の無才さを指摘した後、彼は言った。『お前の努力が花実をつけるように取り計らってやる』と。その男こそ伝説の刀鍛冶、四季崎記紀である。

そして四季崎の指南もあり、一根は剣術に対してある結論を出すことが出来た。曰く、『刀なんて重くて扱いづらいもの持たなければいい』と。

なんとも本末転倒な考えだがこれこそがいずれ日本最強の称号を得ることになる虚刀流の生まれた瞬間だった。

自らの肉体を刀とし、鑢をかけるように磨き研鑽していく剣術。虚刀流。

その十一代目当主鑢士朽。彼もまた修業を積み研ぎ澄まされた一本の刀である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「刀集めの旅?」

 

士朽は尋ねる。唐突に彼が住む村にやってきた、骨灰と名乗る黒髪美人の女に。

女の割に背が高く姿勢もいい、何よりこの砕けた喋り方。まだ女性の権力が弱かった時代にこの喋り方ははっきり言って異質である。

士朽はすでにこの女に軽く気圧されていた。

 

「あなたの先祖、鑢七花が変体刀を集めたのはいいわね?まぁこれもあまり出回ってない情報なんだけど、あなたはどこまで知ってる?」

 

ここで士朽は考える。そういえば詳しいことは聞いていない、と。それこそ親父に昔話として聞いたくらいか、それも脚色があったのだろうな、と。

 

「……親父からご先祖様の英雄譚として聞かされてるぐらいかな。誰も集められなかった四季崎の変体刀を実質一人で集めきったすごい人だって。だから俺も鑢家の人間としてその英雄に恥じぬ障害をおくれ、って耳にタコが出来るぐらい言い聞かせられたよ」

 

「ふむふむ、なるほどね。じゃあぴったりよ!あなたも歴史に名を残す旅がこれから出来るのだから!」

 

「そ、そうなのか……?」

 

どんどん気圧されていく士朽。この男あまり推しは強くないらしい。恋愛の話ではないが、現代で言う「草食系」の気があるのかもしれない。

……まぁ女性に下ネタを臆することなく言えるところを見ると、存外そうでもないのかもしれないが。

 

「まず説明ね。『変則刀』のことは知ってる?」

 

「いや、全然」

 

「じゃあ最初からね。四季崎記紀は刀鍛冶として千本の刀を作った。そのうちの九百八十八本は変体刀十二本の習作だったらしいけどね。彼が作ったのはその千本だけ」

 

「うん」

 

これは鑢家では語り継がれていることの一つである。その全てがもう現存しないことも。変体刀の方は鑢七花が破壊し、残りの九百八十八本は彼の妻が錆びさせたことも。

妻ということで気付いたかもしれないが鑢七花は四季崎記紀の子孫、否定姫と籍を入れている。そこにどのような成り行きがあったのかはわからないが、それなりに仲のいい夫婦だったそうだ。

「でも彼にも娘がいたのよ。彼女はお父さんをとても尊敬していてね。変体刀に並ぶ秀作を作り出したの。その娘、四季崎寧々(しきざきねね)が作ったのが七本の刀、変則刀よ」

 

「変則……?」

 

四季崎の娘が作ったなら鑢家に伝わっていそうなものだが、士朽はそのことに関しては全く知らされていなかった。

 

「これはなんの歴史書にも残ってないもの。本来なら語られない物語なの」

 

「へー。スゲェな」

 

ここで士朽はなぜこの女がその情報を知っているのか、などとは考えが至らない。

 

 

「で!ここからが本題よ!なんとこの七つの変則刀!集めるとどんな願いでも叶うそうなの!すごいでしょ!?」

 

「………」

 

胡散臭すぎて黙りこくった、のではない。士朽は何かヤバいものを感じ取ったのだ。

先祖返り、という言葉を知っているだろうか?遠い先祖の遺伝の特性が末孫に反映されることを言うのだが、実はこの鑢士朽、四季崎の予知能力の先祖返りなのだ。

とは言っても全盛期の四季崎記紀のような予知能力ではない。もっと前、四季崎がまだ占術で生計を立て始める前の時代の先祖返り。つまり自由に予知が出来るわけではなく、不意に、唐突に未来の現象が頭をよぎる程度のことなのだ。

しかも予知の映像もはっきりしないので正直何の役にも立たない。なので変な言い回しにはなるが士朽は時折、外来語で言う所の『デジャヴ』が未来に対して起こることがあるのだ。

 

「なぁ、それ大丈夫なのか?なんか見たことが…いや、聞いたことあるような……」

 

「ん?何言ってるの?こんな革新的な発想、有史以来誰も思いつかないって!」

 

「いや、過去はそうかもしれないけど後々…」

 

「ふふ!しかもこの変則刀ね!願いを叶える際に、なんと神様みたいな龍が現れて、その龍が願いを叶えてくれるとも言われているのよ!」

 

「おい!やばい!なんか知らんがそこまで行くとヤバいぞ!」

 

士朽の頭では「何かがヤバイ!」と警鐘を鳴らし続けていた。

 

「な、なによ……ともかく!願いは三つ叶えてくれるそうよ。私は一つでいいから、残りの二つはあなたにあげるわ。だから刀集めの旅!手伝って!」

 

「う、うーん」

 

士朽は考える。どうしたもんか、と。が、考える暇はなさそうだった。

 

「いいでしょ!ね!いいわよね!いいに決まってるわ!」

 

「あ………えっと……」

 

「ん?どうしたの?まだ知りたいことでもあるの?」

 

「んー…いや、少し考えさせてくれないか?この村の人たちにも感謝してるから、さ……その…急に旅に出るって言われても……」

 

「なによ!男のくせにうじうじと!こういうのは勢いで決めるものなのよ!」

 

「えぇ!?」

 

「早く決めなさい!ね!」

 

「うぅ……」

 

 

 

骨灰に今にも気圧されてしまいそうになっているその時。

 

ドガン!

 

と、鈍い爆発音が聞こえてきた。

 

「「!!」」

 

士朽は慌てて家から飛び出す。

 

「何事だ!」

 

見るとそこには無残にも消炭になった民家が広がっていた。

 

「ッ!直の婆さん!雲雀のおっちゃん!村長!」

 

すでに息絶えていた。中には見るも無残な姿になっている。

 

「………なんで……」

 

「士朽くん?ッ!…酷い……!」

 

「よぉ、お前が鑢士朽か?」

 

「!」

 

そこには軍服を着た一人の男が立っていた。隣には鉄の塊らしきものもある。廃刀令が発布されて以来、政府の役人が権力を持つようになった。これからは力ではなく知恵の時代、らしい。

 

「悪いな。この老人達、親父達がよ。お前の道場潰すっ言ったら猛反対しやがってさ。ムカついたから殺しちまった」

 

「………それだけか」

 

「あ?はは、政府の役人に逆らうだけで重罪だぜ?それだけも何もねぇよ。俺に歯向かった時点で死罪だぜ。で、お前はどうする?おとなしく道場を潰すか?」

 

「士朽くん……」

 

村長の死体に手を添えたまま動かない士朽。骨灰もこの状況はまずいと考えていた。この役人大砲を持ってきている。さっきの音はそれだろう。大砲はまだそんなに出回っていない代物。特に爆薬が入っているものならなおさらだ。それだけでもまずいのに大砲があるということは今は控えているだけで、あの男の部下たちも大勢いるということだ。よしんば倒せたとしても多勢に囲まれることになる。

 

「………それだけか」

 

「あ!?だからそれだけだっつってんだろ!俺に逆らえば問答無用で死刑なんだよ!」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

 

 

 

ーー言いたいことはそれだけか?

 

 

 

 

瞬間、役人の胸から血が止めどなく溢れでる。胸がぶち抜かれているようだ。

 

「な……ガハッ!」

 

「虚刀流・『蒲公英』」

 

役人はあっという間に絶命した。刀を抜くこともなく。しかし、その途端役人の部下たちが一斉に物陰から襲いかかってくる。その数七人。

 

「士朽くん!」

 

「死ね!虚刀流!」

 

「……ぴったり七人か。……『七花八裂・応用編』」

 

虚刀流には七つの構えがあり、それぞれに奥義が存在する。

 

一の奥義ーー鏡花水月

二の奥義ーー花鳥風月

三の奥義ーー百花繚乱

四の奥義ーー柳緑花紅

五の奥義ーー飛花落葉

六の奥義ーー錦上添花

七の奥義ーー落花狼藉

 

その奥義を一気に叩き込む、鑢七花が考案した最終奥義、七花八裂。応用編は多人数に対しそれを分散して行う奥義である。

この場合は七つの奥義を一人に対し一つずつ、となる。

 

「…………」

 

「全滅……この一瞬で………」

 

骨灰は虚刀流に対して知識をつけてきたと思っていたが、百聞は一見にしかず。その威力は想像以上だった。

 

「なぁ」

 

「え?あ……な、何?」

 

「変則刀…だっけ?集めるの」

 

「うん……」

 

「……手伝うよ。ここにいるとそばの村にまで迷惑がかかりそうだ」

 

「そう………ありがとう」

 

「それに願い事がなんでも叶うんだよな」

 

「らしいわ」

 

「だったらそれで村長たちを生き返らせる。俺の巻き添えで死んじまった。俺が殺したも同然だ。ケジメはつけねぇとな」

 

「……………」

 

突拍子もない願いで、死者蘇生などといった願いまで叶うとは限らない。骨灰はそう思ったが、彼の目を見るとそれを否定はできなかった。

 

「分かったわ。じゃあこの人達のお墓を作ったら早速出発しましょう」

 

「悪いな」

 

 

 

 

 

 

三時間後、村人全員の墓を作り終わった。

 

「手伝ってくれてありがとう」

 

「大丈夫よ。これから相棒になる人だもの。持ちつ持たれつで行かないと」

 

「……そうだな。お詫びに俺もあんたが危なくなったら命を賭して守り抜くよ」

 

「あら、ありがと」

 

「ただし、その頃にはあんたは八つ裂きになっているだろうけどな」

 

「なんで!?矛盾してるし!」

 

これをもってこの二人は正式に相棒になったのだった。

 

 

 

 

 

「それで最初はどこへ行くんだ?刀の場所はわかってるのか?」

 

「二つだけね。あとはこれから調べるしかないわ。最初は薩摩よ。変則刀の一本『流刀・鎖』がそこにあるわ」

 

「了解。じゃ行こうぜ」

 

「えぇ。これからよろしくね。士朽く……士朽」

 

「あぁ、骨灰」

 

こうして変則刀集めの旅の幕が開くのだった。




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