魔法少女リリカルなのはstrikers――六課の鷹――   作:マジフジ

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アニメで言えば、十三話時点です。空を飛んでいる描写に少しだけ戸惑った。


十話

 怒涛だった前日。

 地上では、レリックを追跡していたガジェットドローン一型が六機を、レリックが運んでいた生体ポッド内の幼女が破壊し、キャロとエリオが保護。フォワード陣が陸士一〇八部隊のギンガ・ナカジマと合流、その後は共に任務を進めた。ルーテシア、アギド、サウル、そしてラバースーツを着た数名の女性と交戦をしたが、全員を取り逃がしてしまう。

 空中ではなのはとフェイト、二人の隊長陣は空中で大量のガジェットと交戦。途中で部隊長のはやてが合流し、それらを引き受けた。なのは達にはヘリの防御を指示して、はやて自身は三ランク限定解除を施して、ガジェットを撃破。

 途中、保護した少女を搬送していたヘリを爆撃されかけたが、間一髪で防御することに成功する。だが、砲撃魔法を放って、ヘリを爆撃しようとした二人の魔導師を取り逃がしてしまった。

 そして、今日の午前。

 保護した幼女は、聖王教会付属の病院で治療を受けており、なのはとシグナムが様子を見に行っている。残った隊長陣及びフォワード陣が、昨日の一連の出来事を報告するためのレポート制作が行われていた。スターズ及びライトニングのデスク、更にロングアーチではデスクでは各々の作業をしている。

「エリオ、キャロ。そっちの分は終わったか?」

 いち早く終わったホークが、年少の二人に声をかける。やらなければならない業務は終わってなかった。しかし、不慣れながらも、二人は少しでも分かりやすいレポートを完成させようとしていた。

「いえ、まだ終わっていません」

「進めてはいますが……」

 エリオとキャロが申し訳無さそうに言う。ホークが書類を確認する。確かに未完成ではあったが、見やすい書類を作ろうとする工夫がしてあった。

「なるほど、良い報告書だ。要点もキチンと書けてある」

「あ、ありがとうございます……」

 エリオが照れくさそうに言った。自分の手助けが無かったとしても、時間内に与えられた業務を終えられる、ホークはそう判断する。

「俺は午前のやるべきことはもう終わった。分からない所があれば、俺のデスクに置いてある資料を使うか、俺に声をかけろ」

 そう言いながら、ホークはポケットから分析装置を取り出した。自力で修理するために工具を取り出し、作業を行う。エリオとキャロは、滅多に褒めないホークから褒められた影響もあり、はにかんだ様な表情を浮かべながら、報告書作りに戻った。

「作業中にごめん。スターズ、ライトニングの皆。至急、こっちに向かってくれるかな?」

 業務をしていると、スターズの隊長のなのはから通信が入る。すぐ近くでは、誰かの鳴き声が響く。珍しく慌てていた様子だった。緊急なことかもしれない、そう即断したホークは修理途中だった分析装置を置き、すぐに向かった。エリオとキャロも作業を中断し、それに続く。そして、スターズの二人とともに、なのはの部屋へと向かった。

 部屋の前で呼吸を整える。

 ティアナが一呼吸おいて、なのは及びフェイトの部屋の扉を三回ノックした。

「どうぞ」と、なのはの声が室内からする。

 その声を聞いて、断ってから部屋に五人は入った。なのはのスカートの裾を持ち、離れない様に幼い女の子が掴んでいる。

「その子は確かライトニングの二人が保護した子供ですよね?」スバルが聞く。

「そうだよ」頷きながらなのはが返答した。

 話を聞くと、シグナムと共に様子を見に行き、なのはは彼女に懐かれたようだ。年齢はおよそ五歳から六歳、名前はヴィヴィオ。右目が緑、左目が赤のオッドアイなのが特徴的である。

「これから仕事に行かなきゃならないの。それでヴィヴィオを見て貰いたくて」

 ヴィヴィオの目から大きな涙があふれ出た。

 なのはは仕事で出かけなければならないのだが、中々ヴィヴィオが離れない。

「嬢ちゃん。泣かないでくれるか?」

 ヴィヴィオと同じくらいの高さになるまで膝を曲げながら、ホークが言う。目線が合った途端、更に恐怖心を刺激してしまったのか、大泣きしてしまった。普段から、睨みつけていると誤解されがちな目付きが原因だった。ヴィヴィオを宥めさせるつもりが、更に事態を悪くさせてしまう。掴んでいたスカートの裾を更に強く握る。

「あーこら、泣かない。泣かないで」

 なのはが戸惑う。ヴィヴィオに泣かれたショックでホークが固まり、フォワード陣がおろおろと困り果てた顔をしている。宿舎にフォワード陣もいるので、なんとかなると思った。しかし、それが裏目に出てしまった。部隊長室にいるフェイト、はやてから通信が入る。なのはから事情を聞いて、すぐに駆けつけてきた。

「エースオブエースでも勝てない相手がおるもんやね」

 はやてがそう呟きながら、スバルとキャロに離れて休むように指示をした。フェイトが落ちていたウサギのぬいぐるみを拾い上げる。

「こんにちは」

 そう言うと、今まで嗚咽を出して泣いていたヴィヴィオがピタッと止まった。目には涙が溜まったままである。子供の扱いになれていたのか、慌てる様子も無く落ち着いて対応をしていた。

「な、何かフェイトさん。達人的なオーラが……」

 スバルが茫然とした表情をしながら、フォワード陣に念話を使う。フェイトには、まだ小さい甥っ子と姪っ子、そして使い魔を育てている。それに加えて、幼少期のエリオとキャロとも交流があったので、手馴れているのは当然だった。

「だからいい子で待ってよう? ね」

 後ろでフォワード陣が念話をしていたら、ヴィヴィオを説得する。

 なのはと一緒にいたい――。だが、自分のわがままのせいで困らせていることに、葛藤していた。渋々ながらも、「うん」と小さく頷く。ようやく、なのはから離れる。それを見て「ありがとう」と笑いながら、ヴィヴィオに感謝した。

 

 ヴィヴィオが泣き止み、なのはがフェイトと聖王教会に出かける。ヴィヴィオの面倒を見るためにエリオ、キャロが担当をする。ライトニングの分の報告書はホーク、ティアナ、スバルの三名が引き受けることとなった。

 チームを二つに分けた理由は、効率を求めた結果である。エリオとキャロの二人は書類作りが不慣れだが、ティアナとホークは書類作成を効率よく行える。スバルは書類作業が苦手だ。しかし、ヴィヴィオの面倒を見るのに三人も必要ないと言う判断から、書類作成に回った。今、事務室の一角ではキーボードがカタカタと鳴り響いている。

「はいおしまい」

 ティアナが報告書を完成させ、それを提出する。ティアナに続くように、ホークも「俺も与えられた分が終わった」と言いながら報告書を提出した。

 スバルはスムーズに終わらせた二人に驚く。ティアナはモタモタしているスバルに対して、自分にも仕事を分ける様に言った。

「うん、ありがとう。書類仕事苦手」

「俺も引き受けるが、大丈夫か?」ホークがティアナに聞く。

「これぐらいなら、手伝わなくても大丈夫よ。それに、保育士もどきより気楽だわ」

 そう言いながら、スバルから分けて貰った書類を纏める作業をする。対照的にスバルは先程のヴィヴィオとの交流は楽しかった、とティアナに返した。ホークは椅子の下に置いてあった工具箱を取り出し、分析装置の修理に取りかかる。

 ロングアーチのアルトから貰ったデータ、ラバースーツを着た複数の女性のデータを見る。スバルの表情が真剣になり、動かしていた手も止まる。ヘリの爆撃未遂、レリックを強奪、その他諸々のことを犯した。しかし、彼女達が使っていたのは魔力では無く、体内に内包されている物だった。スバルの表情が険しくなる。

「スバル」

 ティアナに呼ばれ、彼女の正面にふり返った。狙い澄ました様に、ティアナが鋭いデコピンをスバルに放つ。かなり強めだったのか、スバルは椅子から地面に落ちる。額を抑えながら、目には軽い涙が出ている。

「馬鹿ね。こいつらが何なのか考えるのなんて、あたしらの仕事じゃないでしょ? 判断するのはロングアーチスタッフと隊長たち。あたしらが作ってんのは、その判断材料としての報告書。分かったらさっさと作業」

 デコピンした右手をプラプラと水平に振りながら、スバルに返答した。

「んん……はい」

 スバルが渋々ながら座り、作業を再開する。キーボードを叩いている音、分析装置を修理している音が鳴り響いた。

「確定が出たとしても、あんたが悩むことじゃないでしょ? ちゃんとしてなさい」

 キーボードを叩く手を休めることなく、ティアナがスバルに喝を入れた。

「ティア……。うん、ありがと」

 スバルが頬を染めながら、感謝する。ティアナは照れ隠しからか、そっぽを向いて「うるさい」と一言。

「済まない、スバル・ティアナ。エリオとキャロの様子を見に行ってくる」

 先程のやり取りを見ていて、スバルの違和感に気付いたホークが言う。スバルもティアナも理解の意味を示す相槌を打った。確認した後、ホークは分析装置と工具箱を持って事務室を出る。

 スバルが何故あんな神妙な顔つきをしたのか。そして、ティアナの発言に秘められた本当の真意とは何なのか、想像力を働かせていた。頭の中で色々な可能性が浮かんでは、シャボン玉の様にポツンと簡単に消えていく。それを繰り返している内に、エリオとキャロがヴィヴィオの面倒を見ている部屋――なのはとフェイトの部屋にたどり着いた。

「エリオ、キャロ入っても良いか?」

「どうぞ」

 キャロとエリオの声が重なって聞こえる。それを聞いて、ホークは部屋の中へ入った。机の上には、オレンジジュースの入ったコップが三つ、ヴィヴィオが描いたものと思われる絵の描かれたスケッチブック、描くときに使ったクレヨン。そして、積み木が乱雑に置いてあった。

 ベッドでは遊び疲れたヴィヴィオが、ウサギの人形を抱きながら寝ている。

「エリオ、キャロ、お疲れ。それで何か変わったことはあるか?」と、ホークが聞く。

「いえ、特には何も。本当に普通の子供って感じでした」

 キャロが返答した。隣にいるエリオは真剣な顔で、考えている。心配になったキャロがエリオを覗き込んで様子を見た。心配させてしまったキャロに悟られぬよう、エリオが手を水平に動かす。

「キャロ、休憩に入れ。エリオ、お前と一対一で話がしたい。少しだけ良いか?」

「分かりました。キャロ、ごめん先に休んでいて」

「キャロ、こいつを使え。何か好きな物を食べたり飲んだりして。休んでいろ」

 ホークは自分の財布から金を取り出し、キャロに渡そうとする。彼女は申し訳なさから、断ろうとしていた。しかし、ホークから「人の好意は素直に受け止めるもんだ」と言われ、断りきれずにそれを受け取った。すぐにキャロが部屋から出て行ったので、ホークと二人きりになる。

「それでエリオ。お前、どこまで気付いた? あのガキのこと」

「どこまで気付いたって……キャロと同じ、“普通の子供だな”って」

「とぼけるな。あんな様子をしておいて、俺が感づかないとでも思っているのか」

 これ以上誤魔化しきれない、そう判断したエリオ。自分がヴィヴィオと接したことで気が付いたことを、端的に述べた。一つは知識や言語がはっきりしすぎていて、元となった人物の記憶が残っている。人口の受精児であれば、この様なことはあり得ないという以上の点より、どこかでプロジェクトFがまだ行われている。それがエリオの導き出した答えだった。

「なるほどな」とホークが頷きながら言った。

 前日でヘリに乗せられたヴィヴィオが敵に狙われたことから、敵が狙っていることは間違いない。何が何でも守り通さなければ、意味が無いとすぐに悟った。あるいは――最悪の事態として、敵の手に渡ってしまうというケースを考え、自らの手で殺さなければならないことも頭に入れる。

「エリオ、教えて感謝するぜ。お前もキャロと同じく、少し休憩入れておけ」

 そう言いながら、先程のキャロと同様、財布から金を取り出して渡した。エリオは素直に好意を受け止めて、キャロの休んでいる食堂へと向かった。

 残されたホークはソファーに座り込んで、考え込んでいる。事務室で見せたスバルの真剣な顔、ヴィヴィオの寝顔を見たときのエリオの神妙な顔。二人にとっては、何かきれない縁でもあるのだろうか。ホークが思考を張り巡らされても、ハッキリとした答えが出てこない。自分でも分からないのであれば、本人に聞くしかない――そうホークは結論付けた。

 

 エリオたちが休憩を終え、戻ってくるまでの間、ホークは考えごとをしていた。それはキャロに声をかけられるまで、気付かない程に集中だった。二人が休憩を終え、部屋に戻ってきたのと入れ替わりでホークが部屋を出る。

 既に太陽は沈んでおり、周囲は真っ暗だった。廊下は電気が点灯している。彼が事務室に戻ると、既に事務員の半分近くは仕事を終えていた。それとはお構いなしに、ホークが探している二人を見つける。

「よう、ティアナ、スバル。話しながら、飯でも食いに行こうぜ」

 ホークがいつもの声質で言う。スバルがすぐに承諾の相槌を打ち、ティアナは彼に対して警戒している。普段は絶対にしないことをしていたからだ。そんなティアナにも気付いた上で、すぐにその場から去った。

 食堂の一番奥、四人用のテーブル席でホークはスバルとティアナを待っている。二人よりも早く着いていたので、空き時間を使って分析装置の調整をしている。スバルとティアナがやってきたのを確認して、「遅い、ここだ」と表情を変えずに手を挙げるホーク。

 スバルがホークと向かい合う位置に座り、スバルの隣にはティアナが座った。

「時間を取らせて悪い。一緒に、飯でも食おうぜ」

 ホークは黒いタンクトップ及びスラックス、タンクトップの上に赤いジェケットを着ている格好である。暴走族時代からの、熱血な気質を体現している服装だった。それが、スバルとティアナが見た全体の印象だ。

「どうして、食事を急に誘ったの?」スバルが口にお冷を運びながら聞いた。

「簡単な話だ。お前が今日の業務で、自身の分かったことを聞かせてくれ」

 昼間に思ったことを単刀直入に聞いた。完璧でなくてもいい、自分の中に出来てしまった疑問点は解消したいという思いからだった。スバルの顔が神妙になる。

「ホーク、あんた……!」

 ティアナは遠慮のないホークに怒っている。憤然の感情を前面に出し、席が荒々しく後ろに下がる。平手が机を思いっきり叩いていた。唇が震えあがり、耳が熱くなるのをティアナは覚えていた。

「気持ちは分かる。でも、これは俺にも関係してくる可能性がある!」

 ホークもそれらを全て覚悟して聞いているので、ティアナには怯まない。

 自分の育ての親同然だったサウル・ゼノーニが、自分の目の前でラバースーツを着た女に殺された。更に、前日に自分やフォワード陣の前にサウルが現れ、仲間と思われるラバースーツの女が現れた。そして、今日のスバルらが書類で片付けていた時に見せた神妙な顔つきに何かがあると確信している。切っても切れない関係がある、だからこそホークは一切怯みもしなかった。

「スバル、ティアナ。まず、お前達に話さなければならないことがある」

「話さなければならないこと?」

 スバルとティアナの声が重なった。そうだ、と大きくうなずくホーク。エリオにだけしか話してなかったが、話さなければならない時が来たことを悟っていた。そのホークを見て、彼の正面にいる二人は真剣な顔つきになる。

 ホークは説明する。

 自身が物心着いた時には、生みの親がおらず、天涯孤独だった。そんな自分に手を差し出したのは、サウル・ゼノーニ――ホークが所属していた暴走族のホークの一つ前のリーダーの人物。そのリーダーが自分を学力という面、魔法技術を使うという面、色々な面から鍛えられその背中を見て育った。そんな恩人が、ラバースーツを着た人間に殺された。

 そして、昨日の事件で出会った複数の人間とそっくりであり、何かしらの関係があったのは歴然としている。更に、スバルがその女性たちを纏めたデータを見た時、顔の変化にも何かが引っかかっていた。

「そっか。それで私達を呼んだんだね」スバルが納得するように言った。

 ティアナも先程より、怒りの無くなった顔をする。前日の戦闘で交えた相手とは、切っても切れない因縁。ホークはサウルの敵討ち、敵サイドにいるサウルとも引導を渡さなければならない。今、ホークにはっきり言われて分かったこと――絶対負けない様にするために戦いをしている。本当に守りたいものがあり、そのためにはどんなことだってする人間であると。

「私が知っている範囲でしか話さないけど、良い?」

 スバルの言葉にホークが頷く。自分の知っている範囲で話をした。彼女達は所謂、戦闘機人と言われるサイボーグであり、それぞれが体内に内包しているエネルギーを利用している。そのため、攻撃や防御、そして飛行や防御、機動や移動に関する魔法も妨害するAMFの影響も一切受け付けない説明をスバルから受ける。

 ティアナからは、レリックに施した幻術は対機人戦闘用に施していた説明を聞く。スバルにもまた、因縁があることを知った。

「説明してくれてサンキュー。こんな辛気臭い空気になっちまったから、好きなだけ食べて良い。遠慮するな」

 その言葉を聞いて、スバルが顔を明るくした。ティアナも元気になったスバルを見て安心する。

 皿にはギッシリと野菜が詰まれている物、パスタの麺がたっぷりと山盛りに積まれている物、様々なメニューが届く。スバルはホークの気持ちに甘えて、空の皿を築き上げている。ティアナもスバル程ではないが、料理に舌鼓を打っていた。先程のピリピリした雰囲気は無く、プライベートや普段の訓練の話をしながら食事を取っていた。

 

 食事を取り終わり、三人とも食堂を出る。昼の時間でのエリオとキャロの奢り、スバルとティアナの夕飯のおごりで、懐が寒くなっていた。

「スバル、ティアナ」

 ホークが呼び止める。スバルとティアナが振り返った。まだ何か言いたいことがあるのか――そう訴えようとするばかりの目つきだった。

「俺の命をお前らに預けた」

 そう言いながら、ホークは恥ずかしさゆえに、足早に去っていく。取り残されたスバルとティアナは素直じゃないな、と苦笑する。ホークが自分達を信頼しているように、自分達もまた、その信頼に応えられる様になろうと誓った。

 

 自分でも何故あんなことを口走ってしまったのか――ホークは考えていた。一か月から二か月という短い期間で、自分の命を預けるほど信頼しているのか。自分達が普段の訓練や発生した事件を通じて、積み重ねてきた結果なのか。しかし、どういう経緯でそのような感情を持ったのかは分からないが、信頼しているのは事実だった。

「ホーク、今日もお疲れさん」

 部屋に戻ろうとしていたホークに、部隊長のはやてが声をかける。彼女もまた、部隊長室へ戻ろうとしていた。

「部隊長。ちょうど頼みたいことがあった」振り返り、ホークが言う。

「頼みたいこと?」はやてが聞き返した。

 ホークが彼女に頼んだこと――それは自分が使っていた愛機、ブルー・メテオの使用許可。理由として、ヴィヴィオに空を見せてやりたいこと。彼女が心を開いた人間が、どの様なことをやっているのか、それを間近で体感させたかった、その一点だった。

 戦闘機による攻撃機能を一切しようしないことを条件として、はやてはホークの頼みを快諾した。

「あんたがそんなことを言うとは思わんかったわ」

 率直な感想を漏らす。少年院の面会室で出会ったつい数カ月前、それと比較すると精神的に成長していたことが垣間見えた。そう思うと、自然的に笑みがこぼれた。

「何がおかしい」率直にホークが聞く。

「おかしいんやない、嬉しいんや。あんたにも自覚が出て来たのが見えてな」

 くだらない、そう一言吐いて部屋に戻った。

 そして、翌日。早朝の訓練がいつも通り行われ、何も事件が無く午前中の業務が終わる。昼休みになり、六課のオフィスにいた全員は食堂へ向かった。ホークがヴィヴィオを発見すると、すぐに近くまで行った。

「ヴィヴィオ、空を飛んでみないか?」

 昨日と同じようにヴィヴィオがホークを見て、怖がる。それでも怯まずに、大げさな話し方で説得を続けた。勿論、それはヴィヴィオのためでもあった。しかし、同じくらいチームを想ってのことだったはずなのだ。ヴィヴィオ自身が心を開いた人間が、どのような場所で活動しているのか見せてやりたかった。

 ホークはサウルを亡くし、機動六課に入隊して以来、自身が強くなるためには手段を選ばなかった。自分の前に立ちふさがる敵を倒すためならば、命を奪う事を止むを得ないと考え、行動している。そう思ったのは何度だってあった。俺は強くならなければならないと祈りながらも、チームとしての連携などを無視すること決して無かった。

 それならば――自分自身がチームに出来ることは何なのか、それが結論付けた答えだった。

「ヴィヴィオはなのはさんと、同じ目線に立ちたくないの?」と、フェイトが聞く。

 それを聞いて、しばらくヴィヴィオが考え込んだ。自分が決して届かない所に、近づかせてくれる。それが出来るのはホーク一人のみ。悩んだ末に、彼女はホークに小さくうなずいた。

「よし、分かった。ブルー・メテオのテストをしてくる」

 そう告げると、ダッシュでヘリポートに向かった。自身の愛機を使い、久々に空を飛べることに喜びを隠せなかった。

「ホークじゃねえか。どうした?」ヘリポートで、整備をしていたヴァイスが聞いた。

「ブルー・メテオで、ヴィヴィオに空を見せる」

 ホークは簡潔に説明して、すぐにメンテナンスを行った。エンジン部分、通信機器の二つを重点的にテストして確かめる。どこの部分にも、「all green」と分析装置で表記されたので、問題点は一切無かった。システムの確認が取れた後は、テストフライを行い、自らの体で操縦感覚を思い出す。しばらくフライトを行い着陸すると、なのは、フェイト、そしてヴィヴィオの三名が既にいた。ホークがその三人の近くに、ブルー・メテオの操縦席から直接飛び降りる。

「なのは隊長、フェイト隊長。ヴィヴィオを連れてきて、ありがとうございます」

「大丈夫だよ、安全なフライトでお願いするね」

 なのはが言った。その言葉にホークは「勿論」と一言言って頷いた。フェイトは安全面の配慮から、ヴィヴィオの頭にヘルメットを着けていた。

「ホーク、気を付けて運転してね」

「フェイト隊長、そんなことは分かっている。通信装置を使って、そっちにもどんな様子なのか伝える」

 ホークがそう言って、ヴィヴィオを後ろの席に乗せた。操縦艇を前に倒し、プラズマエンジンを吹かせる。発進準備が完了する合図が出たので、ブルー・メテオが滑走路を滑り始めた。徐々にスピードを上げて行き、やがて離陸する。そして、あっという間に雲の中へ消えていった。

「わあ、凄い!!」

 ヴィヴィオが大きな声で叫ぶ。自力では到底たどり着けない、未知の世界が目の前に広がっていることに大きな興奮を覚える。彼女の視界には、前面の白い雲がフワフワと浮いていて、様々な形をした雲の塊が空を流れていた。

 喜んで何よりだ――そして、自分達の上司がいかに凄い人間であるか、その一部を教えてやれたことに、達成感をホークは感じている。誰かと共に空を飛ぶ感覚も、暴走族時代に味わって以来だった。

「ヴィヴィオ、どうだ? なのはさん達は自分の身体だけで、この領域に辿りつけるんだぜ」

「凄い! ヴィヴィオもいつか、お空を飛べるのかな?」

「勿論だ。練習を積めば、飛べるようになる。それまでに頑張って練習をしような」

「うん!」

 そんな会話をしながら、ヘリポートへと戻る。おっかなびっくりで接していたヴィヴィオも、やっとホークと会話をしても泣かなくなった。心を開いてくれた証――それはホークにとっては、こそばゆいものであったが、決して悪いものでは無かった。

 その後、フォワード陣と合流すると、特にエリオとキャロ、スバルらにブルー・メテオに乗る様にせがまれたのは、また別の話である。

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