魔法少女リリカルなのはstrikers――六課の鷹――   作:マジフジ

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ちょっとだけヴァイスに見せ場を与えたかった。ちょっとスバルとティアナが子供じみてしまったのは否めないかもしれない。


六話

「現場調査もお仕事の一つだし、勉強だよ。私は向こうにいるから、分からないことがあったら遠慮なく聞いてね?」

 とフェイトが言うと、フォワード陣は返事しつつ敬礼をして、それぞれの調査現場へと向かい、フェイトはそのまま無限書庫司書長のユーノ・スクライアの所へと向かった。ライトニング部隊は三人で調査をしている。不慣れなエリオとキャロのサポートしつつ、ホークもまた調査をこなしていた。しかし、ホークの中には一縷の疑問が残っていたのでエリオに聞く。

「おい、エリオ。ちょっと良いか?」と呼ばれエリオは、疑問の顔をしながら振り返る。

「何でしょうか?」

「ヴィータ副隊長からティアナとスバルは命令違反をしていたと聞いた。あの時、その現場を見ていたのはお前とキャロの二人だ。お前の覚えている限りで良い、差支えなければ俺に教えてくれ」

「分かりました」とエリオが承諾する。

 ティアナが自分とキャロに対して、センターに下がるように指示してスバルと二人で無茶な攻撃をしたこと。それでいて、致命的な連携ミスを犯して、一歩間違えばスバルが大怪我をするような行動だったと。更にそれ以前に、シャマルからは防衛ラインを、ヴィータが来るまでに持ち堪えろという指示があり、ロングアーチのシャーリーからも「四発ロードは無茶」と警告もしていたのをエリオから聞いた。ティアナにしては珍しい判断ミスだ、とホークは思う。

 だが――センターガードとしては致命的なミス。更に、ロングアーチやこの作戦の司令塔とも言えるシャマルからの制止を振り切ったことによる命令違反。そして、自分の実力を見間違えたことによる誤射。この二つが重なってしまっては、誰だって怒ると彼の頭の中で結論が出る。

「分かった。サンキュー、エリオ。ちょっとあいつ等に話をつけなきゃならねえ。少しの時間、お前とキャロの二人にまかせっきりになってしまう。だが、テスタロッサ隊長に分からない所を聞きながらやれるか?」

 やれます、とエリオは短くもはっきりと真剣に答えた。その瞳を見て、ホークは安心したのか、「行って来る」と短くも穏やかな声質で返答してから、ホークは最初にフェイトの元へと向かう。ちょうど、彼女はなのはに護衛する役割が変わっていたのか、こちらに向かっていた。

「テスタロッサ・ハラオウン隊長。少し良いだろうか?」とホークが言った。

「普通にフェイト隊長って言って欲しいかな? スターズも、ライトニングのフォワードの皆もそう言っているからね」と苦笑しながらフェイトが言ったのを見て、ホークは軽く咳払いをする。

「フェイト隊長。少し、スバルとティアナの両名ともに話してきても良いだろうか?」

「スバルとティアナの二人に? どうして?」

「エリオから聞いたことがちょっと引っかかるんですよ、さっきの防衛のことで。もしかしたら、今後ギクシャクするかもしれません」

 なるほど、とフェイトは思う。更にホークが「五人一組の所もあるし、ティアナはそのリーダー格だ。その核がぶれると困りますからね」と言う。フェイトはクスリと微笑みを浮かべた。それを見て、ホークは「何がおかしい」と反論をした。

「おかしいんじゃないよ、どちらかと言えば嬉しいって言うべきかな。まさか、ホークの口から説得するって言葉が出るなんてね。それに言葉遣いもはやてに言われて、治そうとしている努力しているから」

「くだらない事を……。と、とにかく! スバル達の説得に行って来ます」

 任せたよ、とフェイトが短く言うと、ホークはフェイトへの照れ隠しからか、すぐにその場を離れた。素直じゃない所はクロノに似ているかな、と思いつつも自分の保護しているエリオとキャロとは距離が良い感じに縮まって、フランクに接していることに安心をしていた。

 

「よう、スバル。ちょっとだけ手を離せるか?」とホークがスバルに質問する。

「あ、ホーク。うん、少しだけなら」とスバルは返答した。

 ホークは彼女にありがとう、と一言いう。そして、先程の戦闘による作戦ミスをしたことで話がある、単刀直入に切り出す。スバルはホークの口からそれを聞いて、ヴィータに怒られたことを思い出し、少しだけ肩を落として落ち込む。

「エリオから聞いたことを確信に変える為に来て、お前に対して話を聞くために来たんであって、説教したいために俺は来たんじゃない」とスバルに言う。

 スバルが言ったことを整理すると――ティアナは悪くない。作戦の一つで、自分が不甲斐無い動きをしてしまったから、無茶させたからティアナがミスした。だから、ティアナは悪くは無いと。

「お前達二人が、互いを大事に思っている所までは認めてやる。だが、ちゃんとした理由もなく、ミスした相手を庇うのは間違っている」

「あれは! ティアだって、わざと撃った訳じゃない!」とスバルが反論する。

「そりゃそうだ。ティアナも味方を打つなんて馬鹿なことやらないだろうぜ。だが、今回の一件、自分の今の実力を見誤った上に、更にロングアーチに無茶するなと警告も届いたにも関わらず、それを無視してこの様だ。ヴィータ副隊長が本気で怒るのは当たり前だ」

 ホークはティアナのポジション、センターガードの重要性をスバルに教える。

 センターガードと言うポジションを与えられたティアナは、部隊の中心で最も冷静に部隊全員を見渡し、状況を瞬時に確認する洞察力、その状況の中で最善と言えるべき策を練る判断力、的確に指示できる指揮能力。それを実行しなければならないポジションで、チームの核とも言えるべきポジションだ。このことを忘れて、無茶をやったティアナが咎められても仕方がない話、とスバルに伝える。

「でも! 失敗しても、次はミスしない様に頑張れば良いじゃない!」とスバルがすぐに反論した。

「次? 俺達が立っている場所は所謂、戦場だ。お前の言う次の機会は無かったかも知れない話だ。現に俺も召喚魔法士を追う任務に失敗した上に、その召喚士を守る戦士に俺は敗北した。その戦士の情けが無かったら、俺はとっくにこの世にはいない人間だ」

 彼女もホークが任務を遂行している途中に、何者かに襲われてやられてしまったことは知っている。そして、最悪の事態を想像して――スバルは気付いて、目を丸くする。スバルにしては珍しく察しが遅れた。

「戦場とはそういう所だ。だからこそ、隊長や副隊長達は俺らフォワード陣の育成をしているし、そのための訓練でもある。そういったのを無視するのか?」

 と攻める様にホークが言うと、スバルは黙る。随分言いすぎたかもしれないが、もしギンガいたのなら彼女も恐らく、自分と同じことを言ってスバルを叱責しているはずだ、と考える。

「もういい! ホークの馬鹿!」

 とスバルは悔しそうに拳を握りしめながら、ティアナの所へと向かった。やはり自分はこういうのが苦手な役割だな、と考える。ギンガならば――彼女ならば、どうスバルを宥めていたのか、と途方に暮れつつも、自分の担当している区域に戻る。「ティアナが堅実で正確な指示をとばせるセンターガードであり、彼女自身の周りにはエースやら、レアスキルを持っている人間ばかりだが、それに対抗できるかなり優れた物を持っている」と考えながら――。

 

 撤退準備が完了し、六課隊舎に戻れたのはもう日が大分傾いてからだった。そのため、午後の訓練は中止となり、明日に備えてゆっくり体をリフレッシュさせろとなのはとフェイトが指示を出した。フォワード陣全員で宿舎へと向かうが、全員が誰一人として喋ろうとしない者で、それは気まずい物であった。スバルはやはり先程の件で気持ちを引っ張っているせいか、ホークのことをいない者として無視を極め、ティアナもまた今日のミスショットのことを引きずっていた。エリオとキャロとホークは、全く喋らない空気を読んでか口を開かない。

「……スバル、あたしこれからちょっと一人で練習してくるから」歩くのを止めて、ティアナが言った。

 それを聞いてか、スバル、エリオ、キャロも時分も練習に参加すると言う。だが、ティアナは一人でやりたいと言い、自主練習場所へ向かおうとするがホークがそれを許さなかった。

「待て、ティアナ。お前、高町の言ったことに命令違反する気か?」

「ホーク!!」とスバルが怒りもあらわに強力な大きく、険しい声で言う。

 ティアナは自分自身への怒りや悲しみなど様々な感情が混ざりながら身体を震わせているが、そんなティアナに釘を刺すようにホークは続ける。

「お前の焦る気持ちは分かる。しかし、今の疲れた体で訓練しても悪い癖が身に着くだけだ。今日みたいなミスを繰り返すつもりかよ?」

 弾かれるようにティアナが振り返って、ホークのパーンと頬を打つ。彼女に強くぶたれた頬の皮膚は、ぴりぴりと細かく震え、痛みが走る。ティアナは今にも泣き出しそうなくらいに目に涙を溜めて、彼を般若の如く睨んでいる。それでも、ホークは引くわけにはいかなかった。どう考えても彼女が無茶しているのは否めない上に、隊長の言ったことを無視している、最悪の場合、チームさえ壊しかねないという自分の信念の基で。

「自分のミスショットが悔しいのよ! だから、少しでも訓練して強くなりたい!!」

「ティアナ、お前が強くなりたいという意思が強くある所までは認める。だが、そういう勝手な理由で、上層部の意向を無視するのは見過ごせないな」

「そうだとしても、やらなきゃならないの! あたしには、才能が無いんだから!」

「待て。今のお前は、自分のことさえ分からないのか!?」

「分かるわよ! だから、もうあんなミスは二度としない!」

 売り言葉に買い言葉の状況だ。このままでは埒が明かないと判断するホーク。彼女の体調やメンタルの状況を考えても、これ以上言うと精神的に追い詰めてしまうだけだ。そんな中で説得するメリットなんて無い。

「分かったよ、ティアナ……。止めはしない、お前の納得いくまでやれば良い。これだけは言っておくぜ、今の自分さえ把握できないならセンターガードの指示に従って戦う、俺はそれが出来ない」

 ブルっとティアナが体を震わせた後、もう一度ホークの右頬をひっぱたいて、背を向けて宿舎へと走って行くティアナ。その次に、スバルがホークを今度は左頬に衝撃と痛みがはしる。スバルはホークの意地っ張り、何でティアの気持ちが分からないんだと一言残してからティアナの後を追った。殴られたホークを心配する

「……あの、ホークさん。大丈夫ですか?」とエリオが心配する。

「平気だ。悪い、不愉快な物を見せちゃったな」

 心配そうに声をかけてくれたエリオに、苦笑して返答する。キャロも何一つ発言こそしないが、同じく心配そうな顔でホークを見ていた。

「いえ……でも、スターズと、ティアさんとスバルさんの二人と喧嘩しちゃって、平気なんですか?」

「さあな。俺とスターズの二人はちっとマズイ関係になっちまった。でも心配するな、必ずこのしこりは残さないでおく」

 エリオとキャロに済まないと頭を下げつつ、ホークは二人と一緒に宿舎に戻っていったが、ホークが向かったのは部屋ではなく部隊長の所だった。どうしても、ティアナが無茶するのを放置するわけにもいかなかったから。

「部隊長達、少し良いか? 話を聞きたいことがあってきた」

「聞きたいこと? その険しい顔ってことは……どうしても知りたいってことだよね」となのはが言う。

 ホークが短く、「そうです」と答えた。彼が何故、ここに来たのか。それはティアナのことであり、やはりチームメイトとして放置するわけにはいかなかったという考えありきでここに来たのだ。

 なのはは、部隊長がいる中で改めて説明する。彼女には唯一の肉親と言うべき兄、ティーダ・ランスターがいて、その兄が当時の階級は一等空尉で所属は首都航空隊とうエリートと言うべき存在だった。任務中に違法魔導師を追い詰めていたが、事故で亡くしてしまった。更に上司への心無い言葉から、ティアナはひどく傷ついた。それで兄の魔法が役に立たないと言うことの証明、兄の叶えられなかった思いを自分が引き継ぐ為に執務官を希望した経緯まで話してくれた。

「しかし、どこの管理局の野郎も自分が手を汚さないから好き放題言えるんですね」

 とホークは言いながら、拳を強く握りしめて怒りを抑えていた。それを証明するかのように、両方の手のひらから血が流れ出ている。こんなふざけた奴らのために――ティアナの兄やティアナの誇りを傷つけてしまうのか、と。

 時を同じくして――

 ティアナは外が暗くなった今でも自主トレーニングを行っている。周囲に浮かびながらランダムに光るマーカーに狙いを定め、マーカーが光ってはそれを狙い、また別のマーカーが光ってはそちらに狙いを定めると、ティアナはただそれを繰り返す。

「もう四時間も続けているぜ」手を鳴らしながら、ヴァイスは彼女に近づく。

「いい加減倒れるぞ」と彼女に言った。

 彼はヘリの整備をしながらスコープ越しで、たまにティアナの訓練を見ていた。今日のミスショットが悔しくて訓練している彼女の気持ちを汲みつつも、「精密射撃はそう簡単に上手くなる物では無い。無理な詰め込みで変な癖を身に付けるな」と、心配そうに言う。

 しかし、彼女はヴァイスの心配に対し、自分は凡人だからそれでも詰め込まないと意味が無い、と返答した。

「凡人か……俺からしてみれば、お前は充分に優秀なんだがな……羨ましいくらいだ」とそう呟いたが、訓練に集中しているせいか彼の声は耳に届いていなかった。

「お前らは体が資本なんだ。体調には気を使えよ」

「ありがとうございます」と言い、ティアナは訓練を再開させた。

「不満とかがあったら、ため込むんじゃなくてなのはさんにちゃんと言っておくんだぞ」とヴァイスが去り際に言った。

 その後も、ティアナはちょうど日付けが変わったであろう時まで訓練していたので、彼女の身体はへとへとになっていた。

 

 ホテル・アグスタでの任務から数日が経過していた。あの日以降、スバルとティアナは朝練の前に自分達だけで早朝練習をしていて、二人で勝手なフォーメーションを行い、早朝練習の疲労や勝手なフォーメーションによる行動で五人の連携があまり上手くとれていない。そんな二人になのはやヴィータら隊長陣は注意する。訓練中では謝罪してその場で指示にこそ従うが、早朝練習をすることだけはやめない。昼休みの食堂になって、ホークがヴァイスにそう愚痴を漏らした。

「もしかしたら、なのはさんは、アイツらがいつかは分かってもらえると思ってやっているんじゃねえかな」

「あくまでも憶測ではあるが、自分の教導に不満を持っていない、疑問点がないって、フォワード陣もそれを分かっていると思い込んでいるのでは?」とホークは言った。

 短い教導期間の中、いつも同じことの基礎トレーニングの繰り返し。それが長期にわたる教導で同じことをすれば不満が出てくるのも当たり前であり、中には強くなっている実感を持てない人だっている。最初に訓練の方針やについて話し合い、意味を理解させるのが普通だが、それを怠っていることから彼女の悪い所を指摘していた。

「俺も昔は暴走族で、リーダーを務めていたという過去を覚えていますよね?」

「ああ、覚えているぜ。お前なりにチームを纏めようとしていたな」

 そうだ、と短くホークが答える。

 彼なりの良いチームの条件――訓練の問題点、結果などを知らせることで、指示された訓練の進行状況を伝え、訓練の方向性の確認、効率的に訓練を進める事へのアドバイスや指示を得る事が重要。 情報整理の方法を学ぶ事により、自己中心的な考えの方向性をただして、チームワークを向上する事ができる。知らない間に話が違った方向に進んでいると、判断ミスに繋がってしまう。要は、「自分の訓練の進行状況について、隊長陣と共通認識をもつ」よう心がけねばならないこと。

 また、教導の意味を理解していない、疑問を持っている以上、彼女達、特にティアナが焦るのは当たり前である。悩んでいたら悩む暇がないほどに練習をすればいいと思っていたのだろう。

「勿論、俺は悪いとは思いません。しかし、こういう疑問点を持ったままだとマズイですよ」

 理由を説明しようと思ったホークだが、「取り返しのつかないことが起こる、ってなる訳だな」とヴァイスが口をはさんだ。

「その通りです」と短くも彼が自分の言いたいことを代わりに言ったことを肯定した。

「今、徹底的に認識のずれが生じています。そのずれを治さなきゃならない、その為にも俺は例え上司であろうとも、この一件は話します。ヴァイス曹長、ティアナを見ていてください」

 そう言いながら、自分の食べた食器を片づける。やはり――自分は敬語を使うこと自体には慣れないな、と思いながら。

 その後は隊長室へと向かい、なのはと今回の一件を話した。彼女は静かに黙ってホークの話を聞いていたが、以前の自分と重ね合わせているのか不安そうな表情をしている。それでも、ホークは続ける。

「ティアナとスバルは今、焦って自分を見失いつつある。有望な人間が焦りから、潰れてしまうのは悲しい。彼女に話したのか?」

 話したのか、という言葉になのは詰まる。自分やフォワード陣の皆のために練習メニューを考えていたり、メンバー其々の特性、癖などを把握していることはホークにも訓練越しで分かっていた。

 しかし、それは暴走族のリーダーとして上の立場に立っていたこと、実力を見誤って六課に挑んだ自分自身の実力が無い過去に基づいた経験談だ。一度痛い目を見ているから分かっていることであり、この様な経験をしていなければ自分も分からなかっただろう、とホークは心の中に思う。経験を積んでいない彼女らはそれに気づいていない。

「時には自分から部下に歩み寄るのも大切なことだ。俺も暴走族時代、よくそうしていたさ。素直に伝えて、不満を抜かせるのもまた重要な役割ですよ」

 そう言うと、ホークはなのはに「説教じみたこと言って申し訳ありません」と一礼をして、その場を後にした。しかし、その後もなのはとティアナが共に腹を据えて話せる機会が訪れず、最悪の日々が訪れることになる。 

 

 数日が経過したある日。その日は午前訓練のまとめで、なのはが訓練の締めとして模擬戦にて見極めを行う日だった。最初に行うのがスターズの二人、ティアナとスバルの二人。次にライトニングの三人が行うという計画だ。

 ヴィータはエリオとキャロを連れて戦闘区域を離れるため、近くの廃ビルの屋上へ向かった。ティアナとスバルはバリアジャケットを展開し、戦闘準備をする。

「やるわよ! スバル!」ティアナがを伝え、「うん!!」スバルはそれを返す。

 二人は早朝自主練の成果をなのはに見せるためお互い気合をいれる。

 ちょうど模擬戦が始まろうとする時、フェイトは空間シミュレーターへ向かい走っていた。そして、擬似空間の廃ビルの屋上へたどり着き、ヴィータ、エリオ、キャロがいた。

「あぁ、もう模擬戦始まっちゃってる?」

「フェイトさん!」

 ビルの屋上に着いたフェイトに挨拶をするエリオとキャロに、彼女は手を軽く上げて答える。

「私も手伝おうと思ってたのに」

 ヴィータは合流したフェイトを見て、現在の進捗状況を伝える。フェイトが本当は自分がスターズの分の模擬戦を引き受けようとする意思があったことを言うと、ヴィータもまた同意するかのように、最近は訓練密度が高いから、と言いながら見る。ワーカーホリックとは言え、少し休ませるべきだと判断していた。

「なのは、部屋に戻ってからもずっとモニタに向かいっぱなしなんだよ。訓練メニュー作ったり、ビデオでみんなの陣形見たり」

「なのはさんは訓練中も、いつも僕達のこと見ていてくれてるんですよね……」

「ほんとに……ずっと……」

 何故、そこまでしているのに疑問を持っていた彼女達に説明しない、とホークは腕を組みながら内心で思っていた。数日前に自分が言った、部下の不満を解消させろと言うことはしていたのだろか、ヴァイス陸曹に任せっきりではあったが、ティアナもなのはさんとも話しておけと言っている。

 ホークとは対照的、なのはを賛同するように嬉しそうに見ているエリオとキャロにヴィータは微笑みながら見つめる。ホークは、そんな二人がなのはのやっている事に対して、理解を示していたことに安堵した。おそらくスバルもなのはのそういう思いはわかっているだろう。なのはが自分達のことを考えて行動してくれている。実際、エリオとキャロはわかっている。だが、ティアナは別だ。彼もホテル・アグスタで戻って来た時の一連のやり取りから、ティアナは理解をしていないという結論だった。

「おっ、クロスシフトだな」とヴィータが言う。

「クロスファイア……シュート!」

 ティアナは魔法弾をなのは向けて発射した。しかし、その魔法弾はスピードが遅い。

 ヴィータはティアナのクロスファイアにいつもの勢いとキレが無いことに疑問を抱いていたが、フェイトは正確なコントロールに目を着けていた。それでもヴィータは釈然としないようだ。

「囮か? スバルが攻撃を当てやすくするための」とホークが言う。

 その言葉にヴィータがホークを見る。

「だとしても、あんな分かりやすい囮、なのはくらいならすぐにバレるぞ」

 なのはがクロスファイアを飛んで回避しつつ、後ろを追尾し続けるのを対処していた時、なのはの前にスバルのウィングロードが展開しその上にはスバルがなのは向けて近づいていた。なのはは迫り来るスバルを確認する。

「!? フェイクじゃない、本物!?」

 なのはは即座に魔法弾を展開し前方のスバルに向けて発射する。スバルは飛んでくる魔法弾をシールドで防御しつつ突進をする。全ての魔法弾を捌ききると、スバルは叫びながらなのはに目掛けてリボルバーナックルを振り下ろす。

 なのはは咄嗟にレイジングハートでシールドを展開しスバルのリボルバーナックルを防御する。スバルは力押しでなのはのシールドを破ろうとしているのか、回避するそぶりを見せない。リボルバーナックルのナックルスピナーが回転数をあげ唸る。なのははスバルの無茶な突進に顔を顰める。すると、なのははレイジングハートを振り、スバルを弾き飛ばし、吹き飛ばされたスバルはなんとかウィングロードの上に着地する。

「こらスバル! ダメだよ、そんな危ない軌道!」とスバルを叱りながら、ティアナのクロスファイアを避けながら言っていた。

「すいません! でも、ちゃんと防ぎますから!!」

 なのははティアナを探す。何故なら、自分の周りのクロスファイアがどこかへと行ったから。なのはは周囲を見渡と、別の廃ビルの屋上で光の反射を確認できた。

 そこには、ティアナが砲撃準備し、しっかりなのはをロックしていた。

「砲撃? ティアナが!?」

 フェイトは驚いている。当然だ、ティアナは普段の訓練では砲撃などしていないし、教えていない。

「どこまで命令無視してるんだ、アイツは……。砲撃魔法、それも教導で教わって無い上に、無茶なやつだ……」と周囲に聞こえない様に、小声で愚痴を言うホーク。

 ティアナの合図と同時にリボルバーナックルがカートリッジをロードし、マッハキャリバーがうねりを上げる。そして、マッハキャリバーの突進力で一気になのはとの距離を詰めるスバルは、リボルバーナックルを振り上げなのは目掛けて体ごと突撃する。なのはは魔法弾を展開するが、スバルはそれ等を全て避け、拳の届く距離まで近づき、リボルバーナックルを振り下ろした。

 だが、なのはもレイジングハートでシールドを展開しリボルバーナックルの攻撃を防ぐ。両者の魔法がぶつかり合い、火花を散らせる。ナックルスピナーの回転が上がるが、シールドが突破できない。スバルは必死になのはに喰らいつき、なのはの隙を作る。なのははスバルの攻撃を防御しつつ、ティアナの方を見る。すると、砲撃準備をしていたティアナはその場から消えた。

 誘導弾を防いだスバルはそのままなのはに突撃する。近接戦になったが、なのはがレイジングハートでリボルバーナックルの攻撃を捌く。

 スバルがなのはの攻撃を受け、その隙を突いて上空からティアナがオレンジ色の魔力刃でなのはへ攻撃する。自分を省みない危険行動と、慣れない魔法、自分のポジションを無視した戦略、なのはがとうとう怒った。

 ティアナの掛け声と共になのは達のいた場所は爆発、周囲は爆煙に包まれた。更に衝撃波が、離れて見ていたフェイト達にも襲い掛かる。ホークは詳細を確かめる為に左目の分析装置を作動させた。

「な、なのは!?」

 フェイトはなのはの安否を心配する。おそらく、まともに喰らっていたらただでは済まないだろう。だが、スバルの拳とティアナの刃を片手ずつ受け止めたなのは。ティアナの刃を受け止めた側の拳からは血が流れていた。

「おかしいな。……二人とも、どうしちゃったのかな? 頑張ってるのは分かるけど、模擬戦は喧嘩じゃないんだよ。練習のときだけ言うこと聞いてる振りで、本番でこんな危険な無茶するんなら、練習の意味、無いじゃない」

 スバルとティアナも震えていた。自分の上官のかつてない姿を、目を合わせずに淡々と怒りを表している場面を目の当たりにしているのだから。スバルは恐怖で真面に口が開けていない。

「ちゃんとさ、練習どおりやろうよ。ねぇ。私の言ってること、私の訓練……そんなに間違ってる?」

 クロスミラージュのダガーモードを解除して、ティアナはなのはとの距離を取る。体勢を立て直して、クロスミラージュをツーハンドで構え、カートリッジをロード、魔方陣を展開し、砲撃準備を行う。

「私は、もう誰も傷つけたくないから! 亡くしたくないから! だから……強くなりたいんです!」と涙流しながら叫んだ。

 エリオとキャロはショックが隠せないようで、呆然としている。ヴィータとフェイトはまっすぐ事の成り行きを見ている。ホークは無理矢理でも俺やヴァイスが干渉するべきだったかもしれない、と自分自身の判断の甘さを後悔していた。

「……少し、頭冷やそうか」

 なのはの足元に魔方陣が展開し指先に魔力が集まりだす。なのはは静かに魔法を唱え、ティアナが必殺の砲撃魔法、ファントムブレイザーと言い終わる前に、なのははクロスファイアをティアナ目掛けて発射した。そして、クロスファイアはティアナに被弾し、爆発した。

「ティア……!? バインド!?」

 スバルはティアナの所へ駆け寄ろうとするが、いつの間にかバインドで拘束されていた。スバルはなのはを見るが、なのははティアナから視線を離さない。そして、なのはが無常の言葉を告げる「じっとして……よく見てなさい」

 煙の晴れた中に、今にも倒れそうなフラフラのティアナがいる。なのはは二発目のクロスファイアをティアナにそのまま向けた。

「!? なのはさん!?」

 スバルの悲痛な叫びも空しくなのはの指先からクロスファイアが発射される。そして、ティアナに被弾し爆発。そのままウイング・ロードへと倒れた。

 なのはが淡々と二人とも撃墜されて終了、と言い切るとスバルがなのはを睨みつけるように見ていた。

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