ハイスクールD×D ~絶対悪旗のラスト・エンブリオ~ 作:白野威
火だ。
あらゆるものを燃やし尽くさんとする火の海がそこにあった。
超常的な力によって引き起こされた炎は未だに燃え盛り、建造物の一部となっていた木々が炭となって地に堕ちる。
そんな火の海の中心に、三頭龍は居た。
『………………』
三頭龍の視線の先には、赤子を抱いた人間の女が居た。女は既に息は耐えている。
冷たくなった女の腕の中で、赤子は不思議そうな表情で女を見ていた。まだ“死”という概念を知らぬ赤子が、母親だっただろう女が死んだ事を理解できるはずも無かった。
三頭龍は右腕を天高く持ち上げ、一気に振り下ろした。
大地に、一輪の血の華が咲いた。
◇
ふと、目が覚めた。
夢の中で見た光景が、まるで壊れたビデオのように繰り返し再生される。
(……今更、悔いているのか)
馬鹿馬鹿しいと一蹴するも、先程の夢が脳裏に染みついて離れない。
この生き方は“彼”自身が選んだもの。そこに悔いを挟む猶予などない……はずだった。
いくらアジ=ダカーハとしての
その事を理解しつつも、彼は止める気は無かった。“アジ=ダカーハ”という存在にかけて。
今ここに“彼”が居るという事は、
原作の最期の様に、主人公たちに討ち果たされたのか。
討ち果たされず、箱庭を滅ぼしたif世界の存在なのか。
或は封印され、そのままになっていた時の存在なのか。
そのどちらだとしても、そのどれでもないとしても、“彼”がアジ=ダカーハとして憑依、或は転生したことに変わりない。ならば、“彼”がアジ=ダカーハの代わりに“絶対悪”の御旗を掲げ、光輝の剣でこの心の臓腑を貫く時を待つ。その
そう
『………………』
目が冴えたアジ=ダカーハは、ねぐらとしている洞窟の中から外を一見する。
外は暗闇に閉ざされ、満天の星空だけが大地を照らしていた。人間の頃であれば、この星空の美しさに息を零しただろう。それほどに美しい光景が広がっていた。
暫く夜空を見ていたアジ=ダカーハは、ポツリと呟いた。
『いつまで私を観察している気だ、姿を現せ』
そう、アジ=ダカーハは
――――世界が歪んだ。
世を構築するすべての物質が軋みをあげる。世界が悲鳴を上げるように、ギチギチと、まるで肉を力任せに引き裂くような音を奏でる。そんな音と共に感じられる強大な力の渦。その質はアジ=ダカーハと同等か、それ以上のものだ。
やがてボギンッ、と、無数の骨を一斉に折ったような音が辺りに響く。同時に、感じられていた力の渦がすぐそばにいる事を察知する。が、その渦はアジ=ダカーハの後ろにぴったりとくっついたまま動かない。
疑問に思ったアジ=ダカーハは左の頭で背後を確認すると、
「………………」
『………………』
何故か人間の幼子が、黒い境界線らしきところから顔を出していた。
腰から上のみ。
(………………ゑ?)
思わず素に戻ってしまう程困惑するアジ=ダカーハ。
そんな三頭龍を他所に、その幼子は不思議そうにきょろきょろと周囲を見渡し、腰から下が出ていない事に気付く。
その状態から抜け出す為に境界線の縁を両手で押さえ、下半身を引き抜くために力を入れている…………のだろうか。見る限り、全く動いていない所を見ると、恐らく挟まったままなのだろう。
というか、自ら時空を開けただろう境界線に何故挟まっているのだろうか、この幼女は。
「……抜けない」
『……そうか』
お互い一言話してからジッと見つめること数秒後。
「……抜けない」
『………………』
アジ=ダカーハは 無視する を えらんだ!
「……抜けない」
しかし その行動は 防がれて しまった!
アジ=ダカーハは とうとう あきらめてしまった!
『……どうしろと?』
「手伝って」
このあと滅茶苦茶引っこ抜いた。
◇
一時間後、漸く少女を境界線から引っこ抜けた。永く苦しい戦いだった、とはアジ=ダカーハ談。
とりあえず少女を引っこ抜いた直後に「ぐ~」という可愛らしい音が響いたので、焚火を灯し、
一口かじれば香ばしい肉の臭いが嗅覚を刺激し、溢れ出る肉汁が味覚を刺激する。本来ならば食物水分を取る必要性が無い身体ではあるが、暇な時があれば食べてしまうほど美味な肉だ。
ちなみにこの肉、何故か10mほどある巨大なチーターから手に入れたものである。
「………………(モグモグ)」
『………………(バリバリ)』
余談だが、アジ=ダカーハは肉のついでに骨まで噛み砕くタイプである。
暫くして食べ終えてしまったアジ=ダカーハは、先程まで境界線に挟まっていた黒い少女を観察することにした。
腰まで伸びた黒い髪、首から腹にかけて開放的なデザインが目立つ黒い服。そして、光を宿さない黒い瞳。
一言でいうのなら、正しく「黒」という言葉だけで済むほどに、何から何まで黒尽くし。黒ばかりで飽きないのか、という言葉がのど元まで出かかっていたが、寸でのところで飲み込む。下手な所で地雷原を踏み抜き、周囲一帯が焼け野原になってしまったら目も当てられない。
アジ=ダカーハが観察し終わったのとほぼ同時に、黒い少女の手元から肉塊が消え失せていた。
人間が短時間で食べられるサイズの肉を選んだが、それでも少女の口では多少時間が掛かるだろうと思っていた。だが現実は異なり、僅か3分で少女は完食してしまった。ちなみに、少女に渡した肉は大の大人でも完食するのに10分は余裕でかかるレベルの肉である。
手に着いた油が気になるのか、指を舐めている少女を横目で見つつ、アジ=ダカーハは問う。
『……それで、なぜ私を観察していた?』
アジ=ダカーハの言葉を聞き、黒い少女は舐めていた舌を止め、アジ=ダカーハの中央の顔を見る。
おおよそ人とは思えぬほど黒い瞳は、いっそ機械的な印象を与える。
しかし、そんな印象は、
「見定めるため」
『……なんだと?』
黒い少女の、たった一言で失った。
ゴウッ、と、アジ=ダカーハを中心に強風が吹き荒れる。焚火は消え闇が辺りを支配し、外の木々が悲鳴を上げるように騒めき、鳥たちは異変を感じて上空へ避難する。
この“絶対悪”を、アジ=ダカーハを見定める?
それは、“
“彼”が
ただ一人の女性の涙を拭うために自ら“絶対悪”の御旗を掲げ、この世の不倶戴天の敵として君臨し続けた孤高で、しかし誇り高い悪神。
例え独りよがりでもいい、光輝の剣を持った真の勇者が現れ、この心の臓腑を穿つ時こそ、彼女の涙が拭われるのだ、と。
そう信じ続けた彼の想いと願いは、生前の“彼”の記憶に残るのは必然と言えた。
それをこの見知らぬ、名も知らないただの小娘が、
率直に事実を言っただけだろう、彼女の言葉は――――
――――彼の理性を失わせるには十分だった
「――――ッ!?」
咄嗟に少女が飛び退く。
瞬間、その地面には無数の刺突による穴が出来上がる。
「なにを――――」
三頭龍に抗議する間もなく、少女は洞窟の壁を破壊しながら吹き飛ぶ。その速度は第一宇宙速度に匹敵し、彼女がある種族の特殊な存在でなければ肉体が崩壊していた事だろう。
数十kmと移動したところで少女はようやく止まった。足元を見れば荒々しく残る、何かを突き刺したまま引きずったような跡。少女の手を見れば傷一つないものの、土だらけになっている。
彼女は自分の両手を大地に突き刺し、第一宇宙速度という速さを減速させたのだ。このような荒業すら難なくこなす存在、それが彼女なのだ。
しかし、絶望は待たない。
「……?」
ふと、影が差した。
月光が背を照らしていたはずだが、雲が月光を遮ったのだろうか。しかし様子がおかしい。
そう思い、彼女は振り向いた。
振り向いて、しまった。
「――――――」
月は見えない。当然だ、雲が覆い隠しているのだから。
だが雲も見えない。はて、それはおかしい。
目を凝らす。どうやら雲の前に、何かが居る。
更に凝らす。よく見れば、それは人のような形をしている。
上を見る。
禍々しい雰囲気を放つ紅玉が“六つ”、少女の真上で輝いていて――――
『“アヴェスター”起動――――相克して廻れ、“
絶望の言ノ葉が、静かに響いた。
ほのぼのとした雰囲気を掻こうとしてたら、いつの間にか絶望感(?)漂う雰囲気に。
どうしてこうなった…(´・ω・)
次は戦闘……かもしれない