ハイスクールD×D ~絶対悪旗のラスト・エンブリオ~   作:白野威

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三頭龍がまともに戦うそうです・上

 轟音とともに大地が爆ぜ、瞬間、周囲一帯の森林を燃やし尽くさんとする劫火が渦を巻いて巨大な塔と化す。

 劫火の塔から飛び出すのは、大小異なる二つの影。

 一つは前方を解放しているデザインの服装を、所々焦がしている少女。

 一つはそんな少女を目の敵としているように追い回す三頭龍。

 二つの影はそれぞれの残像を残すほどの速さで移動しつつ螺旋を描き、その余波で地上の自然を破壊していく。

 

「っ……!」

 

 苦しげに歪められた少女の顔に、一筋の汗が伝う。

 現状、苦戦しているのはどちらか。そう問われれば一般人が見れば「少女だ」と答える。

 しかし、少女の正体を知っている者達からすれば、今の光景は異常の一言だった。

 

――――“無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)”オーフィス

 

 それが黒い少女の正体。

 たった一体を除き、世界最強を名乗るにふさわしい実力を持つ最凶のドラゴン。無限の龍神という異名にもある通り、無限の龍気(オーラ)を有し、その龍気(オーラ)を使った“蛇”はあらゆるタイプを作る事を可能とする。“蛇”を飲んだ対象に絶大な力を与える蛇がもっとも有名だろう。

 そのオーフィスが追い詰められている(・・・・・・・・・)

 今の彼女は少女の姿だ。対して三頭龍は3mもの身長とそれに見合う手足を持つ。体格やリーチ差から見てオーフィスの方が不利であるのは誰が見ても明らかである。大の大人と子供が喧嘩して、何方が勝つか? そう問われているのと大差ない。

 しかし、オーフィスは外見こそ少女だが、本来の姿はそれこそ無限に思える体長を持つ長大な蛇の如きドラゴンだ。その長大さは宇宙の端から端まで伸ばしてもまだ収まり切れないのではないか……そんな懸念を生み出すほどに大きい。また、その体格から繰り出される一撃は、一惑星など息を吹いて火を消す事よりも容易く行われてしまう。その圧倒的な攻撃力は、たとえ少女の(なり)をしていたとしても健在だ。

 が、どんな攻撃力を持っていたとしても、当たらなければ意味がない。少女の姿を取っている今のオーフィスでは、三頭龍――アジ=ダカーハに攻撃を当てることが出来ないのだ。

 それは単純に体格差、という意味合いもある。

 

 だがそれ以上に、

 

 オーフィスとアジ=ダカーハとの相性が悪すぎた。

 

「――――っ」

 

 オーフィスの双掌に無数の球体状の龍気(オーラ)が集う。その外見こそ黒色のビー玉程度の大きさだが、その内包された力の質は最上級ドラゴンの全力の一撃に等しい。

 それがアジ=ダカーハに向けて放たれる。

 至近距離から放たれた凶弾を避ける術などなく、元より避ける気も無かったアジ=ダカーハは、その凶弾を真っ向から受け止める。着弾する度にアジ=ダカーハを覆い尽くすほどの爆発が巻き起こる。

 三頭龍の足が止められている間にオーフィスは片手で龍気(オーラ)によって形作られた弾丸による牽制をしつつ距離を取り、もう片方の手でボウリング玉程の大きさの龍気弾を生み出す。今度の龍気弾は少しの溜めが必要なものの、その内に宿る龍気(オーラ)の質はビー玉サイズよりは遥かに高い。そしてその威力は、大陸程度の大きさであれば一撃で消滅することを可能とする。

 大陸一つを消滅させる龍気弾をビー玉サイズの龍気弾の中に紛れ込ませ放つ。放たれたそれは、アジ=ダカーハに吸い込まれるように着弾する。一際大きな爆発とともに発生した爆風が周辺の自然とオーフィスを襲う。

 

「………………」

 

 いくらオーフィスと同格の存在であるとは言え、あのグレートレッドの甲殻の表面に傷を入れる事が出来るこの猛攻を受けて致命傷を負っていない筈が無い。

 そうオーフィスは考えながらも、心のどこかで警戒心をさらに強めていた。

 

 故に、オーフィスには見えた。

 

 空へと立ち昇る煙の中に、六つの紅玉が光っているのを。

 

 

 その少し下に、二つの火球があるのを。

 

 

「……しぶとい」

 

 “それ”を見たオーフィスの対応は速かった。

 自身の双掌に龍気(オーラ)を送り、それを球体状に形作る。それの大きさこそバスケットボール並だが、その質は先程のボーリングサイズの弾丸とは比べ物にならない。あまりの質量に弾丸付近の空間が湾曲して見え、さながら光さえ吸い込むブラックホールに似ている。

 双掌の手首を合わせるのとほぼ同時に、形成された弾丸を合成する。

 瞬間、漆黒に染まった柱がアジ=ダカーハに向かう。その先端は槍のように鋭く、これが白い柱であれば光輝く神槍に見えただろう。

 放たれた漆黒の柱を前に、アジ=ダカーハは悠々と構えながらも双掌に宿る火球をオーフィスと同じ動作で撃ち放つ。

 

 激突。

 

 漆黒と紅蓮が入り混じり、周囲の環境を破壊し尽くしていく。木々は葉一つ残らず空中に打ち上げられ、漆黒と紅蓮の激突に巻き込まれて原子レベルに分解される。

 例えあの火球がオーフィスの身体に僅かに傷つけることが可能な代物であったとしても、月程度の大きさの惑星であれば容易く破壊する攻撃力を凌ぎ続けることなど不可能だ。

 他人が聞けば慢心というその思考は、己が最凶にたる存在であるが故の僅かな自信。

 生まれた時から最凶であるが故に、彼女は“敗北”というモノをグレートレッド以外から教わることが無かった。グレートレッドに敗れつづけていた時でも、相手は遥か格上の存在だから、という言い訳が罷り通っていた。

 そう、グレートレッド以外で負けることなど万に一つも無い、と。それが当然だと思っていた。

 

――――その当然が、裏目に出た。

 

 

 

「――――え?」

 

 

 

 辛うじて出たのは、純粋な疑問の声。

 彼女の瞳が写すその光景は、これまでの“当然(あたりまえ)”を根本から打ち崩す光景だった。

 

――――漆黒の柱(じぶんのちから)が、二つの火球(あいてのちから)押されている(・・・・・・)

 

 オーフィスは氷漬けされた物質のように固まる。が、すぐに再起動して思考をフル回転させる。

 単純に考えれば漆黒の柱(じぶんのちから)より二つの火球(あいてのちから)の方が上回っていると考えた方が自然だ。しかし、オーフィスはその考察を無視した。

 初めて邂逅した際にアジ=ダカーハから感じられた力の質は、はっきり言ってオーフィスより下だったからだ。その上オーフィスは無限の存在。那由他の数殺されようがその度に生き返り、幾ら消費しようとも枯渇することのない龍気(オーラ)を持つ存在だ。本来ならばアジ=ダカーハは彼女にとって取るに足らない存在になるはずだった。

 だが今こうして対峙している状態でのアジ=ダカーハの力の質は、オーフィスの“無限”としての格と同等かそれ以上の質を誇っている。突然の戦闘から10分にも満たないこの時間で、これほどまでのパワーアップをすることは、オーフィスの“蛇”を用いること以外にはありえない…………と、ここまで考えた時に、オーフィスの脳裏にある言葉が思い浮かんだ。

 

 

【“アヴェスター”起動――――相克して廻れ、“疑似創星図(アナザー・コスモロジー)”……!!!】

 

 

 アヴェスター。オーフィスはその言葉に聞き覚えがあった。

 オーフィスの記憶が確かならば、アヴェスターとは拝火教(ゾロアスター)の根本教典。アヴェスター語というインドのサンスクリットの最古層・ヴェーダ語と酷似した文法で記された代物であり、何時頃だったかは定かではないが、イスラム教などによる迫害を受け、本来あったテキストの1/4しか残らなかったと言われる。

 その内容は、善悪二元論の神学、神話、神々への讃歌、呪文等から成り、大きく分けて五つに分かれる。

 

――ヤスナ

 全72章にも及ぶ祭儀書の総称。そのうちの17章は開祖ザラスシュトラ自身の作と考えられている『ガーサー』と呼ばれる韻文詩で、言語学的に一番古層を示し、特にガーサー語と呼ばれる。

 

――ウィスプ・ラト

 “ヤスナ”に手を加えられた補遺的小祭儀書。「ウィスプ・ラト」という名称はアヴェスター語の“ウィースペ・ラタウォー”が転訛した物で「全ての権威者」を意味する。この場合の「権威者」とは神々を指すものとされ、事実その内容は神々への讃歌などが記されている。

 

――ウィーデーウ・ダート

 除魔書。“ヴェンディダード”とも呼ばれる。旧約聖書の一書である“レビ記”に比される宗教法で、清めの儀式次第などを説く。また、聖王イマ(インド神話におけるイマ、後に閻魔と呼ばれる)とその黄金時代に関する神話も含まれている。

 

――ヤシュト

 21の神々に捧げられし頌神書。言語的にはヤスナ、もといガーサーより新しいが、内容はガーサーのそれよりも古いものであるとされる。内容の一部に拝火教(ゾロアスター)神学完成以前のインド・イラン共通時代の神話が見られる。また第19章にはイラン最古の英雄伝説が描かれており、後にイラン最大の民族叙事詩で“王書”とも呼ばれる事となる『シャー・ナーメ』にも記されている。

 

――ホゥワルタク・アパスターク

 アヴェスターの簡易版。別名を“ホルダ・アヴェスター”。こちらはアヴェスター本来の文章から日常的に使われるだろう短めの祈祷文を集め、記したものである。

 

 以上が、アヴェスターについてオーフィスが覚えている事である。上の五つを鑑みても、アジ=ダカーハが言ったアヴェスターとオーフィスが知るアヴェスターとは関わりがない事は明らかだ。だからこそアジ=ダカーハがあの時言い放った“アヴェスター”の意味が分からない。先に言った通り、アヴェスターとは本来拝火教の根本教典であり、例え技の名前だったとしてもアヴェスターを名乗るには些か違和感がある。

 それにアジ=ダカーハがアヴェスターの後に言った“疑似創星図(アナザー・コスモロジー)”という名称も気になる。一体何を指す言葉なのか、流石のオーフィスですら疑似創星図についての知識は皆無であった。

 

 が、ハッキリと分かったのは一つ。

 

 あの擬似創星図というモノが、アジ=ダカーハの切り札的存在である、と。

 

『アヴェスター起動――――相克して廻れ、疑似創星図(アナザー・コスモロジー)……!』

 

 唐突に紅蓮の放出をやめた三頭龍だが、その直後に疑似創星図を起動した。同時に、無限と思えるほどに膨れ上がる龍気(オーラ)。それは無限(オーフィス)の存在を揺るがすもの。起動時の衝撃でオーフィスの龍気弾が霧散する。

 自身に並ぶ龍気(オーラ)を肌で感じ、目を細める。

 やはり自身が感じたあの感覚は間違いではなかったのだ、と。

 ムゲンとは、その存在そのものが脅威である。たった一匹で世界を滅ぼすことを可能とするのがムゲンに属するモノ達。人類にとっての災害のような存在、天使たちにとっての罪深き欲のような存在、悪魔たちにとっての神のような存在。

 それがムゲン。

 そしてそのムゲンはあの時まで二つのみだった。

 だが二匹は感じ取った。あの日、新たなムゲンが生まれたのを。

 

 無限(オーフィス)夢幻(グレートレッド)に連なるモノ。

 

 それが、アジ=ダカーハ。

 

「……故に、見定める」

 

 ボソッ、と呟いた。

 現状のアジ=ダカーハはあくまでもムゲンの資格を得ているだけのドラゴンだ。まだ完全なムゲンになったわけではない。ならばこそ、その真価を発揮させる必要がある。

 アヴェスターという技にあの劫火の火球。少なくとも、アジ=ダカーハがこの二つの能力を有するのは分かった。しかしオーフィスは三頭龍を見定める為に彼を探していたのだ。まだ隠し持っている技術や能力があるというのなら、それの全てを見てようやくムゲンとしての格を見定めることが可能となるだろう。

 

 そう考えたオーフィスは空中に龍気(オーラ)を散らばせ、それを球体状に構成する。その一撃は星一つを容易く滅ぼすことを可能とする。

 

 腕を上げる。龍気弾が唸りをあげて標的を穿たんと槍のような形へ変化する。

 

 腕を下に振るう。闇を固形化したような無数の槍が、光とほぼ同等の速さで三頭龍へ向かい、その全身を――――

 

 

 

 

『“光”よ、“盾”と成れ』

 

 

 

 

 貫かなかった。




オーフィスの戦い方やドラゴン姿はオリジナルです。
このあたりからタグ「よりチートになった~」が効果を発揮します。詳細は次回に。

次回は意外にすぐ投稿できるかも?(遅くなるフラグ)
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