以前にじファンに投稿していたものですが、よろしくお願いします。
プロローグ 蟹と魚、転生する
「くっ…あ、あ…」
「が…くぁ…」
血だまりの中で2つの人影が蠢く。
いや、人影というのは誇張だ。もはやそれは『肉塊』に近い。
だが、その2つの影はまだ動いていた。それだけでも他よりはずっとマシだったのかもしれない。
辺りにはもはや物言わぬ肉塊の山。
大規模地下鉄事故…平凡な言い方をすればそれが今の光景だった。
「兄…さ…ん」
「…」
兄と呼びながら、手であろうものを延ばす影。
もうひとつの影も無言で手を伸ばすが、その手は届きようがない。
どこまでも暗く寒い、逃れようのない死の足音はすぐそこまで迫っていた。
混濁していく意識に、2人は死を強く意識する。
その時だ。
「間に合ったわね。まだ死んでないわ」
「んじゃ、手早く魂を回収しましょうか」
この場に似つかわしくない2人の女性の声。
それが、兄弟がこの世界で聞いた最後の言葉となった。
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「ここ、どこだ?」
「さぁ?」
目覚めたら何もない真っ白な空間…そうなればこの反応はひどく真っ当なものだろう。
「どうやら目覚めた様ね…」
首を捻る兄弟の前に、2人の女性が降り立った。
どちらも『美人』などという言葉が陳腐に思えるぐらいの美貌、そして神々しい気配を纏っている。
『女神』…そんな言葉が自然と兄弟の脳裏をよぎる。
そして…その女神の1人は誰もを魅了する笑顔でこう言ったのである。
「ここに来て馬になりなさい」
「「アテナだ! 絶対アテナだこいつ!!」」
兄弟の絶叫が響き渡ったのだった。
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「ごめんなさい、つい癖で」
癖で『馬になりなさい』はどうなんだ女神さま…兄弟は喉まで出かかった言葉を無理やり呑み込む。
「御察しのとおり私は女神アテナ、そしてこっちが女神アフロディーテよ」
「アテナにアフロディーテって…」
「で、女神さまが揃って俺たちにいったい何の用です?」
とんでもなく有名な女神の名前に兄弟は動揺が隠せない。
すると、今度はアフロディーテが口を開いた。
「まぁ、おそらく気付いてるだろうけど…あなたたち、死んだのよ」
「「…」」
その言葉に、兄弟は揃って苦い顔をする。
あの生々しい暗く寒い『死の気配』…それを思い出したのだ。
「実はあの事故ね…私たち神様にとっては予定外だったの。
でもって何とか助け出せたあんたたちだけでも救いとして、第二の人生をプレゼントしてやろうってわけ。
ただし…ちょっと私たちからのお願いを聞いてもらうけどね」
そういってウインクするアフロディーテ様なのだが…どうにも嫌な予感がする。
「で…具体的には何をすれば?」
「その前に聞いておきたいんだけど…あなたたち誕生日は蟹座と魚座よね?」
「「…」」
アテナが誕生日の星座を聞いてくる…思い当たる節は1つ、とても有名な、そして一部の少年少女にトラウマを残したあのマンガしか思いつかない。
「あんたたち2人の第二の人生には…蟹座と魚座の
だからその力を持って…最強であり続けなさい!!」
「最強で…?」
「あり続ける?」
兄弟の言葉に、アテナは深く頷く。
「あなたたちが転生する世界はちょっとした問題を抱えた平行世界…所謂パラレルワールドという扱いになった世界よ。
そこで起こる大きな事件に関わり続け、思うままに力を振るいなさい!!」
「ようは、『蟹座と魚座の大活躍』が見たいのよ!! 私たちは!!」
「あの…女神さまたち?」
弟は汗を一筋垂らしながら言うが、女神たちは拳を握りしめ力強く言う。
「大体、私を守るって内容の漫画なのよ!
その私が蟹座ってだけで、何で『あじゃぱー』とか言って吹っ飛ぶ役やんなきゃいけないのよ!
あー、幼稚園の頃も小学校の頃も! 思い出すだけでも腹立たしい!!」
「あー、アテナ様って蟹座の生まれだったんだ。 つーか、俺もやられてたから気持ちはよく分かるんだけど」
「いや、その前に幼稚園とか小学校にツッコもうよ、兄さん!」
「私なんて12宮最後の
それが何なの、あの薔薇吹雪は!?
もっとこう、強くて真似しやすくてカッコいい技とかやりなさいよ!!」
「あっ、アフロディーテ様は魚座なんだ」
弟はアフロディーテの言葉に頷く。
誰もが味わったことがあるであろう恐怖の制度、『星座カースト制度』…それは一部の少年少女にはトラウマである。
人気漫画『聖闘士星矢』は、星座の加護をもつ鎧、
子供のごっこ遊びではよく題材になったものだ。
そんな作中には最強と言われる
主役たちより遥かに強くカッコイイ、黄道十二星座を模した
そのため、活躍しなかった
これが『星座カースト制度』である。
そしてその制度の『最底辺』に位置するのが、蟹座と魚座である。
その弊害は神様の世界にも及んでいたようだ。
というか神様の世界はこんなことで本当に大丈夫なんだろうか?
「でも、ロストキャンバスで蟹座も魚座も最高に格好いいからいいじゃないですか。
つーかロストキャンバスは生き残った
「確かに、あれは最高だったけど、こんなもんじゃ足りないのよ!
私たちが!
どれだけ!!
長い間虐げられてきたと思っているの!」
「もし断るっていうなら…今からでも地獄に直行してもらうわよ」
「「い…嫌だ。また死の国へ戻るのは沢山だあ!」」
さっき味わった死の気配にガタガタと震えながら、それでもどこか余裕を持ってネタで返す兄弟に2人の女神はとってもいい笑顔でサムズアップ。
「いい反応してるわ、あなたたち!」
「その調子で、カッコいい蟹と魚が見てみたい!!」
この天界、もうだめかもわからんね。
「で、具体的にはどんな風になるんです?」
目の前の惨状は無視して、弟が切り出した。
「まず
これは兄に蟹座、弟に魚座ね。
持ち運びがやりやすいようにΩのクロストーンの状態の
あとその
もっとも
「お、それは嬉しい! 破損するたびに死ぬほど血を浴びせるのは勘弁願いたいからな。
それにクロストーンもいいな。
呼べば来るとはいえ、あのでっかい箱背負って移動は勘弁してもらいたいし」
兄がホッと胸を撫でおろす。
「次に
使い方の知識と、それに耐えうるだけの精神力をあげる。
技は原作通りの技を、出力は
訓練や闘いを積めば、それ以上にも強くなっていくわね。
訓練場所も提供してあげるから」
「いや、それ、思っくそチートじゃないですか」
話の都合上、妙に雑魚っぽくなっている蟹座と魚座の
こんなのと戦闘になって勝てる相手が、漫画広しと言えどそうそう思いつかない。
正直、インフレ漫画の代表作であるドラゴンボールの連中とだって正面から戦える気がする。
「最後に環境についてだけど…絶対に生活に不自由せず、必ずその世界を揺るがす大事件に関わらなければならないって『運命』にするから」
「生活の保障はするけど絶対に平和には暮らせないってことですね、わかります」
「じゃないと最強を証明できないじゃないの!!」
叫ぶアテナ様に兄弟は心底頭を抱えた。
「始めて世界が動くのはお互いに9歳の時からよ」
「随分子供の時に大事件に巻き込まれるんだな」
「何よ、やぎ座なんて10歳のときに、当時最強の
「アレはアイオロスに殺る気がなかったからだろ。その自信がどこから来るのか激しく問い詰めたいんですがねぇ、アテナ様…」
兄の言葉を完全に無視して、アフロディーテは続けた。
「それまでの間は…まぁ鍛錬しておいた方がいいわよ。
強ければ、もしかしたら悲しい物語も回避できるかもしれないし」
どうやら、これから飛ばされる第二の人生は波乱万丈が約束されているらしい。
頭を抱える兄弟に、アテナとアフロディーテは笑顔で杖を振り上げる。
「そうそう、これから送るのは『リリなの』の世界なんで、そのチートパワーでたっぷり暴れまわってね!」
「原作破壊も上等よ!!」
そして、ノリノリの女神たちが杖を振り下ろすと兄弟はいきなり発生した落とし穴に真っ逆さまに落ちていく。
その穴を落ちていく中、兄弟は同じことを思った。
((一体、『リリなの』っていうのは何なんだ?))
そして…2人の兄弟は転生を果たす。
その黄金の力で世界を駆け抜ける運命を背負いながら。