白い人魂が舞う非常識な光景、だがその場にいる全員の視線は黒い穴から現れた2人の男に集中していた。
やがて黒い穴がゆっくりと閉じる。
「ふぅ…久方ぶりの現世は悪くないな」
「できる事なら、聖域(サンクチュアリ)のような美しいところに出たかったものだ。
こんなホコリの匂いのする城は美しくない…」
蟹座(キャンサー)のデスマスクは伸びをし、魚座(ピスケス)のアフロディーテは顔をしかめる。
一見すれば平和そうな会話だが、快人とシュウトからの雰囲気を感じられればとても平和とは思えないだろう。
「そう言うなアフロディーテ。 見ての通り、俺たちの後釜どもの前に出てきたんだ」
「ふっ、あれが蟹座(キャンサー)と魚座(ピスケス)の聖衣(クロス)を手にした者たちか…」
デスマスクとアフロディーテが意味ありげに快人とシュウトを見た。
「これはこれは、始めまして大先輩がた。
蟹座(キャンサー)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)、蟹名快人です」
「同じく、魚座(ピスケス)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)、シュウト=ウオズミです」
快人は大仰に、シュウトはあくまでも丁寧に礼をするが、なのはとフェイトは幼馴染たちが今までにないほど緊張しているのを感じていた。
「それで先輩がたは、遠路はるばる一体何の御用で?」
「それ以前にあなたたちは死んだはず。
何故その身体が? そしてその冥衣(サープリス)は?
どうしてここに?」
快人はまるで世間話でもするかの如く、シュウトは慎重に探るような視線で問う。
そんな2人をデスマスクはさも面白そうに笑った。
「なぁに、未熟な冥界波で穴を開けていたのでな。 辿るのは容易かったぞ」
「…そりゃ悪ぅござんした」
「この身体も冥衣(サープリス)も、ある女神から特別な使命を貰って与えられたのだ」
「特別な使命? それは…?」
すると、突然デスマスクとアフロディーテから攻撃的な小宇宙(コスモ)が放出された。
「「!?」」
快人とシュウトは小宇宙(コスモ)を障壁として展開し、放たれた一撃を受け止める。
ドゥン!!
「「きゃぁぁぁぁ!!」」
小宇宙(コスモ)同士がぶつかり合い、爆発が巻き起こった。
轟音と巻き上がる砂埃に、なのはとフェイトの悲鳴が重なる。
「…おいおい、先輩がたよぉ。 これは何の後輩イジメですかい?
ちょっと今のは笑えないぜ」
「今の一撃、ボクたちが防がなかったら後ろのフェイトたちが全員死んでましたよ。
一体、どういうつもりですか?」
快人は口調こそ軽いが目が全く笑っていない。
シュウトは怒りを押さえこんでいるのがありありと見て取れた。
そんな2人の様子に、デスマスクとアフロディーテはくつくつと笑う。
「なに、さっきも言ったがこれはある女神からの命令でね。
その少女2人と君ら2人の首をとってこい、とのことだ」
「バカな!? ボクたちだけならまだしも、何故フェイトとなのはちゃんの命を!?」
「そんなことは知らん。 だが、そうすれば俺たちに新たな生を与えるという約束だ。
まぁ、そういう訳で大人しく死んでもらおうか!」
そう言ってデスマスクとアフロディーテは殺気を放ち始める。
「「!?」」
その圧倒的な殺気にあてられ、なのはとフェイトの身体が震えだす。
間違い無く殺される…それをなのはとフェイトは本能で理解してしまい恐怖が身体を駆け巡る。
(こ、怖いの…)
(この人たち、本気だ。 本気で私たちを殺そうとしている!?)
そんな2人を殺気から守るように、2人の黄金が立ちふさがった。
「何バカなことほざいちゃってくれてるんですか、この先輩どもは?」
「本当、よくもまぁそれだけバカなことを言えるもんだよ…」
殺気の暴風の中、快人とシュウトが一歩を踏み出す。
陽炎のように立ち上る小宇宙(コスモ)は、怒りの色に燃えていた。
「おい、なのは! 今すぐ皆と一緒にここを離れて家まで戻れ。
俺たち兄弟はちょっとあの先輩がたと『お話』してくる…」
「ちょっと賑やかな話し合いになりそうだから、すぐにここを離れて。
プレシアさん、みんなの地球までの引率、お願いできますか?
こっちが終わったら連絡しますから」
「わかったわ、すぐにこの娘たちは避難させるけど…『お話』が終わったらすぐに来なさいよ」
プレシアがなのはとフェイトたちを伴い、この場を離れようとする。
だが、なのはとフェイトは無言のまま、その場を離れる事が出来ない。
快人とシュウトはあの2人を『先輩』と呼んでいた。
相手は快人とシュウトと同じ聖闘士(セイント)なのだ。そして2人の雰囲気から相当の力を持っているだろうことが分かる。
「快人くん…」
「シュウ…」
なのはとフェイトの心配そうな声。
だが、快人とシュウトは振り向かない。そのまま、背中越しで2人に言葉を返す。
「さっさと行け、なのは。 邪魔だよ」
突き放すような快人の口調。
「大丈夫…だよね? 快人くん、強いもんね?」
なのはの言葉に、背中越しに少しだけ振り返り快人が答える。
「当り前だ。 俺が負ける訳ないだろ?
すぐにあの舐めた先輩を焼き蟹に変えてそっち行くよ」
「信じてるからね! 嘘ついちゃ駄目だからね!!」
「分かってるぜ、なのは」
快人は笑いながらサムズアップで答えた。
「シュウ…」
「フェイトも行って。 あの先輩は片手間でどうこうなる相手じゃない。
ボクのすべての小宇宙(コスモ)を持って…戦う!」
そう言ってシュウトは小宇宙(コスモ)で作りだした薔薇をフッとフェイトに投げる。
赤いその薔薇は、フェイトの美しい金の髪に髪飾りのように刺さった。
「ボクはいつまでもフェイトを支えるって誓ってるんだ。
…ボクもすぐに行くよ」
「…うん。 待ってるから。
私、ずっと待ってるから!!」
なのはとフェイトが快人とシュウトから離れ、大広間には蟹座と魚座の黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちだけが残った。
「おいおい、シュウト。 薔薇の髪飾りなんてやることがキザだなぁ、おい」
「キャラクターの違いだよ。 兄さんがそんなことしたらなのはちゃん絶対引くね。
兄さんにはサムズアップ辺りがふさわしいさ」
「…なんだかお前ともゆっくり『お話』をする時間が欲しくなってきたぞ」
「それはいいけど、この一件が終わってからね」
「そうだな、それじゃ…」
「行こうか…」
言って兄弟は一歩踏み出す。
「死ぬなよ、弟」
「そっちこそ、兄さん」
兄弟はお互いの拳をコツンと合わせ別れると、お互いの倒すべき敵へと歩み出た。
「おまたせ先輩。 律儀に待ってくれるなんて案外優しいな」
快人は軽く手を上げながら、まるで知りあいに挨拶でもするような気軽さでデスマスクに言うと、デスマスクも不敵に笑いながら返した。
「ふん、俺は慈悲深い男なのだ。 別れの挨拶ぐらいはさせてやる。
もっとも、すぐに同じあの世で会えるからそんな必要はないのだがな」
「『慈悲深い』って言葉を今すぐ辞書で引こうぜ、先輩。
またはそんな妄言垂れ流してる口を縫ってくるかしたほうがいい」
「口の減らん小僧だ」
そしてデスマスクが構えをとった。
「こい、小僧。 このデスマスクが貴様に絶対的な力というものを教えてやろう」
快人も構えをとる。
立ち上る小宇宙(コスモ)、そして気迫はいつものどこか余裕のある快人ではない。
掛け値なしの快人の本気だ。
「ぶっとばし甲斐のありそうな先輩だな。
そんじゃ…遠慮なく行かせてもらうぜ!!」
吠えて、快人はデスマスクに向けて一気に駈け出した。
~~~~~~~~~~~~~~~
「お待たせしました、アフロディーテさん」
「本当に待たせてくれる。
この程度が今の魚座(ピスケス)を継ぐものだと思うと嘆かわしい」
大仰にため息をつくアフロディーテ。
「言ってくれますね。
だったら…ボクの薔薇、受けてもらいましょうか、先輩」
シュウトが取り出すのは赤い薔薇一輪。
同じようにアフロディーテも赤い薔薇を取り出す。
「いいだろう、君ごときがこの薔薇の美しさを解することが出来るとは思えんが君に見せてやろう。
真に美しき、薔薇と私の戦いをね」
立ち上る小宇宙(コスモ)に乗せ、赤い薔薇の花弁が舞う。
そして…。
「「ロイヤルデモンローズ!!」」
赤い薔薇吹雪がぶつかり合った。
~~~~~~~~~~~~~~~
時の庭園を揺るがす震動の中、プレシアに先導されながらなのはたちは転送ポートへと急いでいた。
不気味な呻きのような震動が、なのはとフェイトの心を揺さぶる。
「快人くん…」
「シュウ…」
心配そうに2人が呟く。
その時、いくつもの数え切れない人魂が現れ、それが形を成していく。
「な、なんだぁ!?」
「一体何が?」
アルフとユーノが見つめる中、人魂は簡素な鎧のようなものを付けた人間に変わった。
「ま、まさか聖闘士(セイント)!?」
ユーノの声には、若干の恐怖が混ざっていた。
それというのも、ユーノたちの知る聖闘士(セイント)というのは快人とシュウトが基準となっているのである。
それが敵だというのは、考えるだけでも恐ろしい。
ユーノの言葉に、なのはとフェイトが緊張の面持ちで身構える。
そして…その鎧を着た男たちが襲いかかってきた。
だが…。
「ディバイン・バスター!」
「サンダー・スマッシャー!」
「サンダー・レイジ!!」
なのはとフェイトとプレシアが同時に魔法を発動させると、鎧の男たちの一画が吹き飛ぶ。
「ふぅ…この身体で魔法行使は流石にきついわね」
プレシアは魔力行使で負荷がかかり、息の切れる身体を杖で支える。
なのはとフェイトは全員を守るように鎧を着た男たちへと杖を構えた。
「フェイトちゃん!」
「うん、この人たち聖闘士(セイント)かもしれないけどシュウたちより圧倒的に弱い。
私たちでも何とかなる!」
話ながらも、なのはとフェイトは魔法を次々と放つ。
2人は知る由もないが、この相手は雑兵(スケルトン)と呼ばれる冥界の兵である。
小宇宙(コスモ)を使用することはできるが、聖闘士(セイント)の頂点たる黄金聖闘士(ゴールドセイント)の戦いを間近で見続け、自身も青銅聖闘士(ブロンズセイント)級、破壊力だけなら白銀聖闘士(シルバーセイント)級の戦闘能力を持ちかけている2人にとっては対処は可能な相手だ。
「そうと決まれば、いくよ、フェイトちゃん!
アクセルシューター!」
「うん! アークセイバー!」
白と黒の魔法少女がお互いの杖を構えて飛び出し、雑兵(スケルトン)たちをなぎ払い道を作る。
2人の戦いで自分のすべきことを取り戻したアルフとユーノもバインドを使用し2人を援護し、プレシアも息を乱しながらも魔法を行使する。
少女たちの目指す転送ポートまでは、まだ遠い。
~~~~~~~~~~~~~~~
広間では快人が拳・膝・蹴りを織り交ぜながら、デスマスクに猛攻を加えていた。
だが、その光速の攻撃が一撃も入らない。
ガードされ、甘い拳は避けられダメージらしいダメージを与えられないでいた。
「ちぃ!」
一端距離を離し、快人は構えたままデスマスクを見据える。
デスマスクも構えたまま、隙の無い動きで快人との距離を取っていた。
「ふふふ…どうした小僧? 一撃も俺に攻撃が届かんではないか」
「そう思ったら黙って俺の拳を受け取ってくれませんかねぇ、先輩。
もちろん顔面で」
「断る。 俺は後輩には厳しいのだ」
軽口を叩きながらも、快人は心の中でデスマスクの強さに舌を巻く。
(どこのバカだ、デスマスクを雑魚とか言った奴は。
技術・判断力・速さ…どれもこれも俺の一歩先を行ってやがる!?)
その事実を快人は努めて冷静に受け止めていた。
それはある意味では仕方のないことかもしれない。
デスマスクは戦闘経験豊富なうえ、かなりの技巧派聖闘士だ。
そんなデスマスクには快人の攻撃は捌けないほどではないのだろう。
さらに、快人の心に焦りを植え付けるものがある。
それは積尸気冥界波(せきしきめいかいは)の存在だ。
積尸気冥界波(せきしきめいかいは)はまさに必殺の攻撃だ。快人は同じ積尸気使いのため抵抗も対策も可能だが、積尸気の扱いにかけてはどう考えてもデスマスクの方が上。
挙句、快人は精神的な事情により積尸気冥界波(せきしきめいかいは)をまともに撃てない。
そうなれば積尸気冥界波(せきしきめいかいは)を放つ隙を与えず戦うしかないのだが…未だ活路は見えない。
「今度はこっちから行くぞ」
「!?」
そう言って、今度はデスマスクの殺気の籠った重い攻撃が快人へ迫る。
快人は小宇宙(コスモ)を燃やしてその攻撃を見切ろうとするが、ガードをするのが精一杯で反撃には転じられない。
そして快人のガードが刹那の瞬間、崩れる。その隙をデスマスクは見逃さなかった。
「もらった!」
「ぐぁ!?」
顎に強烈なアッパーカットを受けた快人は大きく吹き飛び、頭から地面に落ちて倒れる。
「どうした、終わりか小僧?」
「誰が…終わるか!」
衝撃で落ちたヘッドマスクをそのままに、頭から血を流した快人は立ち上がると同時にデスマスクに接近し、猛攻を加える。
「何度やっても…なに!?」
今度はデスマスクが驚きの声を上げる。
快人の両手が燃えていた。
その炎の色は蒼、煉獄の炎の色である。
快人は積尸気鬼蒼焔(せきしききそうえん)を腕に纏わりつかせ、攻撃力の強化を図ったのだ。
魂までも燃やす炎を纏った拳に、さすがのデスマスクも防御を多用する。
そして、十分に回避不能な状態になったところで快人はそれを放った。
「ここだ! 積尸気魂葬破(せきしきこんそうは)!!」
「うぉ!?」
拳のインパクトと同時に、ゼロ距離で積尸気魂葬破(せきしきこんそうは)を発動させ爆発させる。
派手に吹き飛んでいくデスマスクが、大広間の柱を何本もなぎ倒し辺りに煙が舞った。
「やったか?」
そこまで呟いて、ハッと快人は気付く。
「ヤベェ、今のセリフ思いっきり死亡フラグじゃねぇか…」
その言葉に答えた訳ではないだろうが、巨大な拳の形をした小宇宙(コスモ)の塊が煙の中から飛び出し、快人に襲いかかった。
「うぉぉぉぉ!?」
咄嗟にその小宇宙(コスモ)を受け止める快人だが、身体ごと後方へと押し出されてしまう。
地面に足を引きずった溝が出来るほどに押されてから、快人はやっとその小宇宙(コスモ)の塊を無力化したが、ガクリと片膝をついた。
「それでおしまいか、小僧?」
煙の中からゆっくりと、デスマスクが現れる。
その姿には傷一つない。
「あはは、こりゃ…ヤベェな」
デスマスクに集中していく強大な小宇宙(コスモ)に、快人は乾いた笑いを上げる。
そして、爆音が響き渡った。
~~~~~~~~~~~~~~~
薔薇吹雪が地面を抉り取る。
その薔薇吹雪を間一髪のところで避けたシュウトは苦い顔で着地する。
ロイヤルデモンローズ同士の撃ち合いの結果は、シュウトの敗北であった。
まったく同じ技で押し切られる…これは完全に小宇宙(コスモ)で敗北したということに他ならない。
(やはりアフロディーテの小宇宙(コスモ)は強大だ…。
毒が効かない相手なんだし、技の撃ち合いでの勝ち目は薄い。
なら!)
「ピラニアンローズ!」
シュウトの小宇宙(コスモ)によって生み出された黒薔薇たちがアフロディーテに迫る。
同時に、シュウトもアフロディーテに向けて走り出していた。
シュウトの狙いは格闘戦である。
技の撃ち合いで勝てない以上、格闘戦に活路を見出す他ないという考え方だ。
「ほぅ…向かってくるか?
ピラニアンローズ!」
アフロディーテは興味深そうに呟くと、ピラニアンローズを展開しシュウトを迎撃しようとする。
だが、シュウトのピラニアンローズが進路を守るようにアフロディーテの展開したピラニアンローズにぶつかる。
ぶつかり合い、互いに散っていく黒薔薇の花弁の中を、シュウトが駆け抜けた。
「たぁぁぁぁ!!」
シュウトが必中の拳を叩きつけようとする。
だが…。
「な、なに!?」
アフロディーテがシュウトの拳を受け止めていた。
必中の拳を受け止められ、驚愕に目を見開くシュウトだが、アフロディーテはさも下らなそうにいった。
「何を驚く? 私も黄金聖闘士(ゴールドセイント)、殴り合いは私も得意だ」
「がっ!?」
そう言ってアフロディーテが振るった拳がシュウトの腹部に突き刺さる。
衝撃で身体をくの字に曲げるシュウト。
アフロディーテはそんなシュウトに更なる追撃の拳を振り上げるが、シュウトは間一髪で大きく後ろに飛んで避けた。
頬をたれる嫌な汗を拭いながらシュウトは思う。
(甘かった…アフロディーテだって黄金聖闘士(ゴールドセイント)の一人。
近接距離での殴り合いが不得意なはずが無い)
今の攻防で、アフロディーテには格闘戦でも水をあけられていることを知り、シュウトは愕然となった。
アフロディーテはいつも薔薇で戦っていたからとんでもない勘違いをしていた。
彼も最強の黄金聖闘士(ゴールドセイント)、聖闘士(セイント)としての基本である殴り合いだって十分強いに決まっている。
ただ、薔薇と毒の方が殴るより効率がいいから使っているにすぎないのだ。
でも…。
「それでも、勝つのはボクだ!」
シュウトの言葉と共に、自分の周囲に濃密な小宇宙(コスモ)が現れアフロディーテは辺りを見回す。
「なに? この小宇宙(コスモ)は!?」
そこにはいくつもの白薔薇が突き立っていた。
その正体は誰もが知る魚座(ピスケス)一撃必殺の血吸いの白薔薇、ブラッディローズである。
シュウトは格闘戦として接近したときに地面にいくつかのブラッディローズを残して行ったのだ。
「これで終わりだ! 心臓に赤い花を咲かせろ!
ブラッディローズ!!」
シュウトの掛け声と共に、大地から白薔薇がアフロディーテに向けて放たれる。
アフロディーテの心臓目掛けて飛んでいくブラッディローズに、シュウトは勝利を確信した。
だが…。
ガギン!
「な…に!?」
目の前の光景に、シュウトは絶句する。
必中のブラッディローズは狙い違わず当った。
当りはしたが、アフロディーテの纏う冥衣(サープリス)を貫けなかったのである。
「バカ…な…」
「何を驚くことがある?
君の小宇宙(コスモ)が私の小宇宙(コスモ)に劣っているというだけの話だ」
驚きで目を見開くシュウトに、アフロディーテはさも当然と答えた。
「知ってのとおり聖衣(クロス)や冥衣(サープリス)は装着者の小宇宙(コスモ)に比例し、その強度を増減させる。
最強の黄金聖衣(ゴールドクロス)といえど下らぬものが纏えば粗悪なプロテクター程度の強度しかなく、青銅聖衣(ブロンズクロス)でも強大な小宇宙(コスモ)の使い手が纏えば、その強度は常軌を逸したものになる。
その結果がこれだ」
そう言って大仰に手を広げるアフロディーテ。
その言葉を理解したシュウトは血の気が引く思いがした。
ブラッディローズが貫けない強度の冥衣(サープリス)と、それを為すだけのアフロディーテの小宇宙(コスモ)―――この組み合わせは考えるまでも無く恐ろしい。
(ボクが勝つためには、とにかくあの冥衣(サープリス)を砕いて突破口を作り、そこに攻撃を叩き込むしかない。
でも、それをこのアフロディーテを相手にどうやれば…!?)
恐ろしく強大な小宇宙(コスモ)を高めるアフロディーテを前に、シュウトの頬を冷たい汗が伝った。
~~~~~~~~~~~~~~~
雑兵(スケルトン)たちをなぎ倒し、ここへ来たのと同じ庭先にある転送ポートへとやって来たなのはとフェイトたち。
アルフとユーノは転送ポートの転送のための準備の作業中、プレシアは病をおしての魔法行使のせいで完全に息が上がり動けない状態だ。
そんな3人を護衛しながら、なのはとフェイトは魔法を使用し続ける。
『マスター、左後方距離80、敵数4接近』
「アクセルシューター、シュートォ!!」
レイジングハートの的確な状況把握の元、なのはが誘導魔法弾を即座に放ち敵を無力化していく。
撃ち漏らした敵も、なのは得意の大出力砲撃でなぎ払うようにまとめて吹き飛ばした。
今は己の特性である大出力遠距離魔法を生かし、なのはは『固定砲台』として不動のまま魔法射撃を続ける。
ごく稀に小宇宙(コスモ)による衝撃波が飛んできたが、それはなのはの強力な防御魔法とバリアジャケットの前にすべて弾かれていた。
『正面敵集団、数6』
「フォトンランサーを撃ち込んだ直後に、格闘戦でケリをつける!」
『イエス、サー』
一方、なのはほど遠距離魔法に威力の無いフェイトは自慢の速度を生かし、奇襲近接戦を仕掛けていた。
遠距離魔法を敵集団に撃ちこみ隙をつくって懐に飛び込む。
数の有利は懐にさえ飛び込んでしまえば、それほど大きいものではない。
何故なら、近接戦闘において同時に敵に攻撃できる人数というのは限られているからだ。
それを無視して近接戦闘で集団が攻撃してくるとしたら、待っている結果は無様な同士討ちである。
必要なのは速度と格闘技術、そして敵の懐に飛び込む勇気である。
幸いにして、フェイトはそのすべてを持ち合わせていた。
雑兵(スケルトン)たちを、フェイトは確かな才能と今までの特訓の成果と学んだ戦術で瞬く間に屠っていく。
「座標、確認! いけるよ!!」
「おいで、2人とも!!」
ユーノとアルフが作業を終え転送準備が整ったころには、すでに2人によって雑兵(スケルトン)は制圧された後だった。
「行こう、フェイトちゃん…」
「うん…」
なのはとフェイトは浮かない顔のまま転送ポートへと向かう。
一端地球まで避難し、2人の連絡を待つ…それが正しいことはなのはもフェイトも分かっている。
あの2人が緊張するほどの相手だ、自分たちが近くにいれば足手まとい以外の何者でもない。
だからこれが最善、これが最良だとわかってはいるが、戦う2人を置いて逃げるように避難することに抵抗があるのも事実だった。
「大丈夫だよ。 快人くんもシュウトくんも強いんだから」
「そうだよね、大丈夫だよね」
2人は何度も頷く。
その言葉は他の誰でもない、自分自身に言い聞かせるようだった。
そして2人が転送ポートへと入り込もうとした、その時。
ドォン!!
ドォン!!
2つの大地を揺るがすような轟音になのはとフェイトは振り向いた。
振り向いてしまった。
その目に映ったのは…建物を貫通し、遥か高みから大地へと吹き飛ばされていく2つの黄金の光。
「快人くん!?」
「シュウ!?」
見てしまった2人には、もはや歯止めが効かなかった。
快人とシュウトの理屈の正しさなど、意識のどこにもない。
「ユーノくん、先に行って!」
「アルフ、母さんをお願い!」
それだけ言い終えて、なのはとフェイトは別々の方向へと向かう。
なのはは時の庭園の外周へ、フェイトは薔薇園の方へ。
お互いの幼馴染の下へ、2人の魔法少女は飛ぶ。
苦戦の前半戦。
後半に続きます。