俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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第14話 蟹と魚と魔法少女、答えに行き着く

「くそ、が…!」

 

快人は自分がうつ伏せで倒れたクレーターの中心で、軋む身体を起き上がらせようとしていた。

するとそんな快人に影が掛かる。

 

「ははっ…お早いお着きで」

 

快人が引きつった笑顔のまま吹き飛んだ。

追ってきたデスマスクの容赦の無い蹴りによって、快人は吹き飛ばされ再び大地にうつ伏せで倒れる。

 

「う、ぐぅ…!?」

 

血を流しながら快人は軋む身体に鞭打ち起き上がろうとするが、身体が思うように動かない。

そんな快人にゆっくりとデスマスクは近づく。

 

「弱いな、小僧。

 こんな弱いやつが蟹座(キャンサー)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)とは笑わせてくれる」

 

「ほざきやがれ!!」

 

大地を殴るようにして勢い良く飛び出した快人の渾身の右拳がデスマスクに向かうが、それはデスマスクの左掌でいとも容易く防がれていた。

 

「くっ…」

 

ギリギリと右の拳に力を込める快人だが、その拳はデスマスクの小宇宙(コスモ)に阻まれそれ以上進まない。

そんな快人にデスマスクは言った。

 

「小僧、何故自分が弱いか分かるか?」

 

「何っ?」

 

「それは…貴様には力を振るう『理由』がないからだ!」

 

「うぁ!?」

 

その言葉と共に、デスマスクの小宇宙(コスモ)が膨れ上がり快人は大きく吹き飛ばされた。

何とか倒れることだけは免れたが片膝をついた快人に、デスマスクは言う。

 

「小僧、貴様は究極の小宇宙(コスモ)、セブンセンシズに目覚め黄金聖闘士(ゴールドセイント)としての力は確かに備えているだろう。

 だが、お前にはそれを振るう『理由』がない」

 

「おいおい、あんたがそれを言うか?

 『力こそ正義』で暴れまわってたあんたがよ!!」

 

快人の言葉に、デスマスクは鼻で笑って答える。

 

「確かに俺の考え方は『力こそ正義』だ。そして、その考えはかわっちゃいない。

 だがな、俺はいつでも『地上の愛と平和のため』という理由で戦ってきた。

 サガに組したのも、幼く何の力も無いアテナよりサガのほうが『地上の愛と平和のため』になると判断したからだ」

 

その考えの正当性に快人も押し黙った。

確かに、力を示していない幼いアテナより、確かな実力を示したサガを信用したという話は頷ける。

思えば、デスマスクの代のアテナには本当に『何も無かった』。

いや、正確には『何も残っていなかった』が正しいのか?

前聖戦の時には、その前のアテナから託された様々な力が存在していた。

例えばタナトス・ヒュプノスの二神を封じるための櫃や血で書かれた護符、剣に霊血などアテナの神の力を確かに示す品々が存在していた。

その品々の凄まじさを知れば、姿は見たことが無く、幼くてもアテナの力の凄さを理解し、『アテナと共に進めば、地上の愛と平和を守れる』と信じられただろう。

だが、デスマスクの代のアテナはそういったものがほとんど残されていなかった。

信頼とは行動なれ物証なれ、確固たる証拠によって成り立つものだ。

力の証拠のないアテナへの信頼の揺らぎ…それがあの時の聖闘士(セイント)たちにはあったのだろうことは予想できる。

その結果が、『サガの乱』という形だったのだろう。

 

「わかったか? 俺はいつでも『地上の愛と平和のため』という理由で戦ってきた。

 特に俺たち黄金聖闘士(ゴールドセイント)は最強の聖闘士(セイント)だ。

その最強が出っ張って『力』を振るう以上、負けは許されん。

 だからこそ、どんな手段を使っても敵は『力』で粉砕し、正義を貫いてきた。

 そのために犠牲が出ることも知っているが、『地上の愛と平和のため』という聖闘士(セイント)の理由のためなら安いものよ」

 

戦いに巻き込まれた幼い子供の犠牲すら、デスマスクは些細なことと言い放つ。

それほどまでに、デスマスクの戦う理由―――『地上の愛と平和のため』というものへの覚悟は重く、その意識にはブレがない。

だが…。

 

「それに比べて貴様はどうだ?

 アテナもおらず、世界を脅かす者もいない平和な世界。

 敵の存在しない世界での正義のための力―――貴様はそれを何を思い、何の覚悟があって振るう?

 小僧、貴様の戦う『理由』は何だ!!」

 

言葉と共に、デスマスクから巨大な拳の形をした小宇宙(コスモ)が放たれた。

咄嗟に両手を突き出しそれを弾く快人だが、片膝の状態で立ち上がれない。

身体のダメージもあるが、それ以上に心が折れかけていた。

何一つとしてデスマスクには言い返せない。

女神から黄金聖闘士(ゴールドセイント)の力を貰い、その『最強たれ』という言葉に従っていただけで流された自分と、確固たる『理由』をもったデスマスクでは差は歴然だった。

聖闘士(セイント)の守るべき『地上の愛と平和のため』というのも、聖闘士(セイント)の力なしでそれを実現しているあの世界には意味は無い。

そう、快人には本当に『理由』がない。

 

(勝てない…!?)

 

『理由』がない自分を自覚した瞬間、薄っぺらい自分ではどうやってもデスマスクには勝てないとわかってしまった。

 

「ふん、おしゃべりはここまでだ。

 貴様の魂は、そろそろ死の国へと送ってやろう」

 

そんな快人を蔑むような視線と共に、デスマスクは人差し指に小宇宙(コスモ)を集中し始める。

蟹座(キャンサー)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)の真髄、積尸気冥界波(せきしきめいかいは)だ。

だが、今の快人ではそれに抗うことすら出来そうにない。

 

(ここまで…かよ…)

 

諦めに近いものが快人の中を駆け巡る。

その時だった。

 

「だめぇぇぇぇ!!!」

 

言葉と共に、桃色の光がデスマスクへと迫っていく。

デスマスクは積尸気冥界波(せきしきめいかいは)を中断し、後ろに跳んでそれを避けた。

そして片膝をつく快人の目前には…。

 

「快人くんに酷いことしないで!!」

 

白い幼馴染の背中がそこにはあった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「くぅ…」

 

むせ返るような薔薇の香気の中、シュウトは身体を起こした。

すぐに自分が薔薇園まで吹き飛ばされたことを理解する。

痛みに軋む身体を鞭打って、シュウトはゆっくり立ち上がった。

 

「なかなかの薔薇園だ。 『醜い』君の作ったものにしては美しい…」

 

舞い散る薔薇の花弁の中、アフロディーテは薔薇園の無事な薔薇一輪を手に取り、そう称する。

 

「『醜い』、か…あなたにとってはそうでしょうね…」

 

「…いいや、君は真に『醜い』よ」

 

ただの皮肉と返したシュウトは、アフロディーテのその言葉に眉をしかめる。

 

「君は見ていられないほどに『醜い』。

 こんなにも『醜い』ものが魚座(ピスケス)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)とは…嘆かわしい」

 

「ボクの何が『醜い』っていうんですか?」

 

別に自分の容姿に自信があるわけでもないが、こうも『醜い』を連呼されればムッとする。

それに…アフロディーテの言葉にはそれ以上の意味があるような気がしてシュウトは尋ねた。

 

「君はその黄金聖衣(ゴールドクロス)を纏いながら、なにものも背負っていないからだよ」

 

「!?」

 

アフロディーテは続ける。

 

「我ら黄金聖闘士(ゴールドセイント)は譲れぬものを背負い戦っていた。

 最強たる我ら黄金聖闘士(ゴールドセイント)の敗北は、地上の愛と平和の終焉、多くの罪なきものの死を呼ぶ。

 それを我ら黄金聖闘士(ゴールドセイント)は皆、理解していたからな。

 ゆえに敗北は許されず、求められるものはその力によって美しき勝利を得ることだった。

 それがどんな相手であろうとな。

 だが…君はどうだ?」

 

そう言ってアフロディーテは正面からシュウトを見つめた。

 

「黄金聖闘士(ゴールドセイント)でありながら、平和な、戦う意義のない世界で暮らしていた君はそれほどの覚悟を持って戦っていたか?

 『地上の愛と平和を守る』という大義を、覚悟を背負わず戦う君は己より強いものとでも命を賭けて戦うことができるか?

 否だ!

 君は戦いにすべてを、命を賭けるだけの理由と覚悟を持っていない。

 そんな者が黄金聖闘士(ゴールドセイント)を名乗るとは…そのあり様はあまりにも『醜い』!」

 

アフロディーテの言葉…それは黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちすべての言葉だったのかもしれない。

女神に力を貰い、今までそれを振ってきた。

だが自分には黄金聖闘士(ゴールドセイント)の力を何のために使うのか、どう使うのか、その考えはあっただろうか?

覚悟はあっただろうか?

 

シュウトはがくりと膝をつく。

それはダメージのためもあるが、アフロディーテの言葉に心を折られかけたからに他ならない。

 

「これ以上、醜い君を見続けるのは忍びない。

 せめてもの慈悲だ、この薔薇で美しく散らせてやろう」

 

アフロディーテの取りだしたのは白薔薇ブラッディローズ。

放たれれば相手の心臓を貫く、必殺の白薔薇だ。

それが放たれる。

 

「ブラッディローズ!!」

 

迫る白薔薇を前に、シュウトは動けない。

 

(やられる…。 フェイト…ごめん)

 

シュウトは敗北を悟り、心の中でそっとフェイトに謝る。

だが。

 

「やめてぇぇぇ!!」

 

電光が白薔薇を貫くと、横から飛び込んできた何かがシュウトと共にアフロディーテと距離を取る。

それは…。

 

「フェイト…」

 

自分の目の前で杖をアフロディーテに構える黒の幼馴染の姿が、そこにはあった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「…何してんだ、なのは?」

 

「…」

 

快人はなのはの背中に問いかけるが、なのはは答えない。

そんななのはに快人は怒鳴る。

 

「何してんだバカ! つーか、なんでお前がここにいるんだよ!?

 そこどけ、なのは!!」

 

「どかない!!」

 

快人の怒鳴り声に、なのはは同じく怒鳴り声で答えた。

 

「快人くん、ぼろぼろだよ!

 血だってたくさん流れてるよ!!」

 

「いいんだよ、俺は! こっから大逆転する予定なんだから邪魔すんな!

 だからお前はさっさと行け!!」

 

「いや! なのはもここにいる!!」

 

快人の訴えをピシャリと打ち切ると、なのはは目の前のデスマスクを見据えると杖を構えた。

 

「小娘、何の真似だ? 心配せずとも、この小僧をあの世に送ったらお前も同じ場所に送ってやる。

 順番を守って、そこで黙って見ていろ」

 

デスマスクの言葉になのはは首を振り、ゆっくりとうつむき加減で答えた。

 

「私、セージおじいさんに言われてからずっと考えてた。

 私の『魔法』の力は誰かを傷つける怖い、とても怖い力…。

 何でそんな力が私にあるのか分からない。

 でも…この力でやりたいことは決まったよ」

 

顔を上げるなのはの顔…そこには一切の迷いは無い。

そして、なのはは言った。

 

「救いたい、守りたいの。 私が大切だって思った人たちと、その人たちの暮らす世界を。

 なのはは神様じゃないから、出来ることは少ないかもしれない。

 でも何もせずに、誰かが泣いて、傷付くのはイヤなの!

 大切な人が傷付くのはイヤなの!!

 だから…私は『魔法』を、力を使う!

 救うために! 守るために!!

 それが例えどんな相手だって…私はこの『魔法』で戦うの!!」

 

そして、なのはは手にした杖を構える。

それを見てデスマスクは笑い始めた。

 

「ははは、小娘。まさかお前が俺と戦うつもりか?

 そんな力ごときでは、俺に勝てぬことなど分かっているだろうに」

 

「それでも…それでもなのはは戦うの!

 これが私の、力を振るう『理由』だから!!」

 

その言葉に、快人はハッと顔を上げる。

なのははレイジングハートを構え、そして…新たに開発していた魔法、なのは最大の攻撃の準備に入る。

なのはの持つ膨大な魔力がレイジングハートに集中していく。

だがそれだけでは足りぬと言う様に、周辺の魔力がまるで星が流れるかのように集まっていく。

自身の膨大な魔力と周辺の魔力をありったけ掻き集め、それを収束して撃ちだす、今だ名前の無いその魔法。

なのはは今、その魔法に名前を付ける。

込める願いは唯一つ。

快人を…自分の大切な人を傷つける、あの黒い星座を打ち砕く一撃を!!

そして、なのははその魔法を解き放った。

 

「スターライト・ブレイカー!!」

 

それは光の奔流だった。

なのはの持つ魔力と掻き集めた大気中の魔力、そして星を砕く願いを込めた光はデスマスクへと迫る。

だが…。

 

「ほう…。 この威力…白銀(シルバー)並の力があるな。

 小宇宙(コスモ)を使わずにこれほどの力を放つとは…なかなかだ」

 

デスマスクの突き出した左手が、光の奔流の流れを遮断する。

これだけの一撃がデスマスクに届くことなく、四散していく。

だが、それでもなのははスターライト・ブレイカーの放出をやめない。

 

「いいだろう、小娘。 お前の覚悟に免じて、2人まとめてあの世に送ってやる。

 この俺の奥義でな!」

 

デスマスクの右の人差し指に、恐ろしいほどの小宇宙(コスモ)が集中していく。

そして、デスマスクはそれを解き放った。

 

「積尸気冥界波(せきしきめいかいは)!」

 

紫色の光線が螺旋を描きながら放たれる。

その光線の太さは指先程度だというのに、デスマスクの全身を覆うレベルの太さのスターライト・ブレイカーを一気に押し返してきている。

なのははその光景を、世界全体の時間が遅くなったような、まるでスローモーションのように見ていた。

 

(押し返されるの!?)

 

それを冷静な部分が弾き出すが、なのはには避けるような意思は無かった。

避ければ、動けない快人に直撃してしまう。

そうなれば快人が…死ぬ!

 

(させない、絶対させないの!!)

 

極限の状況下で、なのはの思考だけが際限なく加速されていく。

 

(力を…もっと力を!!)

 

魔導士の魔力生成器官であるリンカーコアが悲鳴を上げながらも、自身の魔力すべてを搾り出していく。

大気の魔力だって吸収しっぱなしだ。

でも…足りない。

あの黒い星座を打ち砕くには力が足りない!

 

(どこかに、どこかに無いの!?)

 

まだ掘り起こしていない魔力が身体のどこかに無いのか?

なのはの意識がその身体の隅々を調べ、力を探していく。

その時、なのはの意識は『ソレ』を感じ取った。

 

(あっ…)

 

身体の内、リンカーコアの奥の奥にとんだ意識はそこで見た。

自分の中に確かにある、無限に広がる小さな宇宙を。

 

(なんだ…こんなところに、こんな近くにあったんだ…)

 

その星の瞬きに、なのはの意識は手を伸ばす。

そして…なのははそれを掴み取った。

 

「な、何!」

 

何の抵抗も無く押し返されていたスターライト・ブレイカー、だがその押し返される速度が一気に下がった。

 

「こ、小宇宙(コスモ)だと!?

 この小娘、この土壇場で小宇宙(コスモ)に目覚めたというのか!?」

 

デスマスクの驚きの声が上がる。

そう、デスマスクの言うとおり、なのはからは小宇宙(コスモ)が立ち上っていた。

小宇宙(コスモ)が魔力と混ざり合い、スターライト・ブレイカーの威力を劇的に増加させている。

 

「小癪な小娘め! だが、その程度の小宇宙(コスモ)など俺の敵ではないわ!!」

 

デスマスクから小宇宙(コスモ)が立ち上り、積尸気冥界波(せきしきめいかいは)の威力が一気に増す。

再び、スターライト・ブレイカーが押し返され始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

快人は軋む身体でその光景を見ていた。

なのはが小宇宙(コスモ)に目覚めたことは驚愕だが、発動させている小宇宙(コスモ)は微量。

このままではスターライト・ブレイカーが押し返され、積尸気冥界波(せきしきめいかいは)によってなのはは死んでしまう。

 

(なのはが…死ぬ!?)

 

思い出すのはあの光景。

自分のトラウマになっている、うつろな瞳で死界の穴へと歩いていく亡者の群れ。

その一人に…今度はなのはが加わる?

 

「ッ!?」

 

その瞬間脳裏をよぎって行くのは、なのはと歩んできた日々。

一緒に笑い、泣き、怒り、過ごした歴史。

その日々を、あの笑顔を自分は手放せるのか?

答えは…否!

 

「!!」

 

それを自覚した瞬間、快人の心に掛かっていた靄が消えていくのを感じた。

 

(そうだ、考えるまでも無い簡単な話だったじゃないか。

 俺が聖闘士(セイント)として戦う理由なんて、いつだって傍にあった)

 

身体の痛みが消え、思考がクリアになっていく。

身体の中が熱い…かつて無いほどに、自分の小宇宙(コスモ)が高まっていくのを感じる。

快人はそれを左手に集中させ、解き放った。

 

「積尸気鬼蒼焔(せきしききそうえん)!!」

 

蒼い炎の渦がスターライト・ブレイカーの光に加わり、積尸気冥界波(せきしきめいかいは)を押し留める。

 

「快人くん!」

 

「面倒かけたな、なのは!」

 

快人はなのはの左に並んだ。

快人の復活になのはは満面の笑み。 快人も同じく満面の笑みを返す。

そんな2人にデスマスクがうろたえた。

 

「あれだけのダメージを受けて立ち上がるのか!?

 それにこの小宇宙(コスモ)…さっきまでとはまるで違う!?」

 

「悪いがこちとら成長期なんでね、小宇宙(コスモ)も成長したんだよ」

 

「おのれぇ!

 だがまだ俺はすべての小宇宙(コスモ)を出し切っていない。

 この小宇宙(コスモ)であの世へ行け!!」

 

快人の軽口に再び、積尸気冥界波(せきしきめいかいは)の力が増す。

だが、快人にもなのはにも恐れは無かった。

じりじりと迫る積尸気冥界波(せきしきめいかいは)を前に、快人はなのはに話しかける。

 

「なのは…情けない話だがあの先輩は俺一人じゃ倒せそうに無い。

 悪い、手伝ってくれ!」

 

その言葉になのはは二・三度目を瞬けたが笑顔で返した。

 

「うん!!」

 

「行くぞ、なのは!!」

 

快人の言葉と共に、快人となのはは同時に自身の技に力を込める。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

蒼い炎が一際勢いを増し、閃光はその太さを増すと積尸気冥界波(せきしきめいかいは)をゆっくりと押し返し始める。

その光景に、デスマスクが声を上げた。

 

「俺の全力の冥界波を押し返すだと!?

 それにあの小僧、黄金聖闘士(ゴールドセイント)を凌ぐほどの小宇宙(コスモ)を放っている!?」

 

信じられないといった風のデスマスクに、快人は笑って答えた。

 

「あんた、俺が弱いのは『理由』が無いせいだって言ったよな?

 なら…裏を返せば俺に戦う『理由』があれば、俺は強いってことだ。

 あったぜ、俺には平和な世界で、それでも聖闘士(セイント)の力を振るう理由が!!」

 

そこで快人は一旦言葉を切り、なのはを見た。

そしてデスマスクに向き直る。

 

「こいつや、俺が大切だって思ったやつらを一人残さず、余すところ無く守り通す!

 こいつやみんなが、今と同じようにバカみたいに笑ってられる未来を創る!

 それが俺の戦う『理由』だ! 文句は誰にも…神様にも言わせない!」

 

「ふん、その程度の『理由』の力でこの俺に勝てるものか!」

 

「勝てるさ。

 なんたって…」

 

そこまで言うと、快人は空いた右手でなのはの腰を抱き寄せる。

 

「きゃ!」

 

なのははスターライト・ブレイカーを放ちながらも、突然の快人の行動に顔を赤くした。

そんななのはを知ってかしらずか、快人は続ける。

 

「先輩、あんたも知ってるだろう?

 アテナの右手に持つニケには戦いを勝利に導く力がある。

 こいつは…なのはは俺の勝利の女神、ニケだ。

 だったら俺の勝利はもう確定なんだよ!!

 行くぞ、なのは! 俺を勝利に導いてくれ!!」

 

「うん!!」

 

快人となのはから、一際強い小宇宙(コスモ)が溢れ出る。

そして…。

 

 

ドグォォォォン!!

 

 

中空で停滞していたエネルギーの奔流同士は、大爆発とともに相殺という形で消え去った。

 

「格下の技の鬼蒼焔と、あんな小娘の力で俺の冥界波を相殺しただと!?」

 

その事実に呆けたようにつぶやくデスマスクだが、すぐに現実に引き戻された。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

爆発の煙を突っ切って、快人が一気に迫る。

そしてデスマスクへと足から飛びついた。その胴をがっちりと両足で挟み込む。

それはすべてを両断する巨蟹カルキノスのハサミに例えられる、蟹座(キャンサー)の極近接奥義。

その名は…。

 

「蟹爪(アクベンス)!!」

 

両足の脚力と小宇宙(コスモ)によって、相手を聖衣(クロス)ごと両断する蟹座(キャンサー)の極近接奥義が決まった。

だが…。

 

「くくく…甘かったな、小僧!」

 

快人の蟹爪(アクベンス)は、デスマスクの冥衣(サープリス)をヒビ割れさせるに留まる。

 

「その身体で繰り出す蟹爪(アクベンス)など所詮子蟹のハサミ、俺を両断など出来なかったな」

 

快人の9歳の身体では、相手を両断するほどの威力を発揮できなかったのである。

おまけに組み付いている状態では身動きが取れない。

 

「これで止めだ!」

 

デスマスクが快人へ向けて必殺の拳を振り下ろそうとしたその時、快人は身体をひねってデスマスクを投げ飛ばす。

 

「ええい、往生際の悪いやつめ!」

 

空中でバランスを取って着地したデスマスクが忌々しそうにいうが、快人はそれを見てニィっと笑って言った。

 

「先輩、俺の勝ちだぜ」

 

「何をバカな…何ぃ!?」

 

快人の言葉を鼻で笑おうとしていたデスマスクは、異常に気付いた。

自分の周りを、無数の青白い光が取り囲んでいたからだ。

 

「先輩よぉ、俺だって自分の蟹爪(アクベンス)が未完成なのは分かってる。

 だから蟹爪(アクベンス)で決めようなんて思っちゃいなかった。

 蟹爪(アクベンス)の意味は、あんたの冥衣(サープリス)を壊すことと、あんたを俺がさっきの爆発の煙に隠れて設置したその鬼火の檻の中に投げ込むことさ。

 そして…俺はその目的を果たした…」

 

そう言って、快人は指を合わせる。

 

「それじゃ先輩…焼き蟹のお時間だ! 積尸気魂葬破(せきしきこんそうは)!!」

 

快人がパチンと指を鳴らすと、デスマスクを取り囲んだ鬼火が爆発する。

その絶え間なく全方位からの積尸気魂葬破(せきしきこんそうは)に晒され、蟹爪(アクベンス)でひび割れた冥衣(サープリス)が砕け散る。

 

「う、うぉぉぉぉぉ!?」

 

決着は付いた。

冥衣(サープリス)を失って容赦なく爆炎に晒されたデスマスクは大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「フェイト、何でここに!?」

 

現れたフェイトにシュウトは驚きの声を上げる。

 

「シュウが心配だったからに決まってるよ…」

 

フェイトはシュウトにわずかに微笑んで返した。

しかし、フェイトはすぐに表情を戻すとアフロディーテに向き直った。

 

「ああ、君か。 素直に逃げていれば少しは長生きできたものを、似たもの同士庇い合いか?

 『造花』の少女よ」

 

『造花』という言葉に、フェイトの眉がピクリと動く。

 

「魂の色は嘘をつかない。 君は作られた命だろう?

 神が創りたもうた命ではなく、人によって目的のために創られた命…それは『造花』に等しい。

 そこの『醜い』偽の聖闘士(セイント)には似合いの相手だ」

 

「ぐ…アフロディーテ!」

 

フェイトをバカにされ激昂したシュウトが、無理やり身体を起こそうとするがフェイトがそれを手で制するとアフロディーテに話しかける。

 

「あなたの言う通り、私は作られた命、あなたのいう『造花』です。

 でも…『造花』の何がいけないんですか?」

 

「何?」

 

フェイトの言葉にアフロディーテは眉をひそめる。

フェイトは胸に手を当て、大事なものを一つずつ拾い集めるようにゆっくりと語りだす。

 

「例え『造花』として生まれても、私には、私を見て、私に触れて、私に言葉を投げかけてくれる人たちがいた。

 私自身が『造花』でも、その人たちの言葉は、想いはすべて本物だから。

 その本物でこの身体も心も育てられた…」

 

フェイトは顔を上げアフロディーテに言い放った。

 

「あなたの言うこの創られた『造花』の身体と心は、私の『誇り』!

 多くの想いを受け続けたこの身体と心で、私は大切な人たちのために戦う!

 一歩だって退いてあげない! 私は…この想いを貫く!」

 

フェイトから魔力と共に電光が立ち上り、大量の魔方陣を形成していく。

プラズマランサー・ファランクスシフト―――電光の槍を大量射出する、フェイトの奥の手の一つだ。

それを見ていたアフロディーテが、言葉を投げかける。

 

「…少女よ、謝罪しよう。 君は確かに『造花』だ。

 だが…本物以上に輝かんとする造花だ。

 そこの醜い少年とは訳が違う。

 少女よ、君は『美しい』…」

 

アフロディーテはそういって白薔薇を取り出した。

同時に大量の白薔薇が宙を舞う。

 

「美しい少女よ、君は私の薔薇たちで美しくあの世へと送ろう」

 

「…あいにくですが、私はまだ生きたいのでお断りします。

 私は、あなたを超えてシュウたちとの未来にたどり着く!!」

 

フェイトはその言葉と共に魔法を起動させ、アフロディーテも小宇宙(コスモ)と共に奥義を放つ。

 

「プラズマランサー・ファランクスシフト!!」

 

「ブラッディローズ!!」

 

目の前の脅威を破壊せんと放たれる大量の電光の槍が、迫りくる白薔薇の群れを撃ち落していく。

一発でも通せば致命の一撃になる白薔薇だ。

フェイトはそれを迎撃し、逆にアフロディーテへの一撃を通すために魔法に集中する。

だが…。

 

(数が違いすぎる!?)

 

電光の槍が、白薔薇をさばき切れなくなってきた。

おまけに魔力が底をつき始め、電光の槍がその勢いを失っていく。

その光景の中で、フェイトの心は叫んでいた。

 

(勝ちたい! 生きてシュウたちと過ごすために…勝ちたい!!)

 

その飢えにも似た渇望が身体の中を駆け巡る。

そして…。

 

(あっ…)

 

フェイトが幻視したものは星の瞬き、銀河の輝き。

それが…自分の中にある。

フェイトは迷うことなく、その星々に手を伸ばした。

 

「なんと!?」

 

一番最初に異常に気付いたのは相対するアフロディーテだった。

白薔薇と相殺するのが関の山だった電光の槍の威力が、明らかに増してきている。

そして、それはアフロディーテの良く知るものだった。

 

「小宇宙(コスモ)!? この少女、小宇宙(コスモ)に目覚めたのか!?

 だが、それだけではどうしようもあるまい!」

 

アフロディーテは驚きの表情を作るも一瞬のこと、さらに小宇宙(コスモ)を高め白薔薇の弾幕が密度を増す。

そして…白薔薇が一輪、電光の槍の弾幕を抜けた。

 

(あっ…)

 

フェイトはそれがスローモーションのようにゆっくりと見えた。

その中で確信する。

あれは狙いたがわずフェイトの心臓を貫く…それが分かってしまう。

 

(母さん、アルフ…シュウ!)

 

フェイトが思わず目を瞑ろうとしたその時、フェイトは後ろから抱きすくめられていた。

そしてフェイトの心臓を貫くはずだった白薔薇は、突き出された黄金の左掌で受け止められていた。

掌を貫通する白薔薇を、そのまま握りつぶす。

そして、それを為した大事な人の声。

 

「フェイト…」

 

「シュウ!」

 

崩れかけていた黄金の闘士は、今再び立ち上がる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

(ボクは、何を考えていたんだ…)

 

フェイトの心臓に迫る白薔薇を認めたとき、シュウトの身体は自然に動いていた。

そう、まるでそうすることが当然のように。

それを邪魔する痛みも、迷いも同時に消え去る。

何故なら、これこそがシュウトの為すべきこと、シュウトの戦う『理由』だったからだ。

 

(あの星の下で、ボクはリニス姉さんとボク自身の心に誓った。

 フェイトを守り、支え続ける、と!)

 

我ながら小さい理由だとは思う。

地上の愛と平和のために戦ってきた歴代の黄金聖闘士(ゴールドセイント)が聞けば、何と小さな理由かと笑うかもしれない。

それでも、自分にはそれでいい。

自分の心に科した誓いと約束を守り通す、それが自分の命を賭ける『理由』だった。

 

フェイトを後ろから抱きすくめるように庇い、心臓へ向かう白薔薇を左掌で防ぐ。

掌を貫通する白薔薇を握りつぶし、シュウトはフェイトに微笑みを向ける。

 

「フェイト…」

 

「シュウ!」

 

シュウトに驚いたような顔をしたフェイトだが、すぐにその顔を微笑みに変えた。

 

「ありがとう、フェイト。 おかげでボクは目が覚めたよ」

 

「寝坊だよ、シュウ」

 

「分かってるよ。 だから…ここからは思いっきり働かせてもらうよ!!」

 

シュウトの身体から赤い霧のようなものが立ち上る。

それはシュウトの血。

それを霧状にしてシュウトは、最大限にまで高めた小宇宙(コスモ)を解き放った。

 

「クリムゾン・ソーン!!」

 

血の霧が、針状の弾幕になって白薔薇の群れを打ち崩す。

そしてシュウトの血の針の弾幕と、フェイトの電光の槍がアフロディーテへと直撃した。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

吹き飛ばされたアフロディーテが地面に叩きつけられ、土埃が視界を奪う。

 

「うっ…」

 

「シュウ!!」

 

血を失い、倒れ掛かるシュウトをフェイトは慌てて支えるが、シュウトは首を振るとフェイトから離れて一歩前へと歩き出す。

同時に、土埃の向こうから声が響いてきた。

 

「…少し侮っていたか。だが、それでは私に敵わない」

 

現れたのはアフロディーテ。冥衣(サープリス)にはところどころに傷があるが、本人は無傷に近い。

だが、そんなアフロディーテにシュウトは話しかけていた。

 

「アフロディーテさん、お礼を言わせて貰います」

 

「何?」

 

「ボクはあなたのおかげで、命を賭けるべきボクの『理由』を、しっかりと思い出しました。

 もう、迷いはない。

 それを…小宇宙(コスモ)を持って証明しましょう!」

 

その言葉に、アフロディーテはフッと笑った。

 

「いいだろう、君の『美しさ』、私の前に証明して見せろ!

 ブラッディローズ!!」

 

必中の白薔薇が放たれる。

だが…。

 

「なにっ!?」

 

必中の白薔薇が、飛んでいる最中にぽとりと地面に落ちた。

驚きの声を上げるアフロディーテは、白薔薇がおかしなことに気付く。

 

「ブラッディローズが…凍っている?」

 

落ちたブラッディローズの花弁が凍り付いていた。

同時に、フェイトが異常に気付く。

 

「さ、寒い。 気温が下がってく…」

 

フェイトの言うとおり、周囲の気温が急激に下がっている。

そんな中、シュウトは語りだした。

 

「アフロディーテさん、あなたが知らない小宇宙(コスモ)の可能性がある。

 それは…『属性』!」

 

『属性』…それはアフロディーテの時代には無かった、小宇宙(コスモ)の新たな可能性。

シュウトは魚座(ピスケス)の聖衣(クロス)と技を引き継いだとき、いくつかその問題点に気付いていた。

毒攻撃に一撃必殺…一言で言えばピーキーな技が多い。

そこでシュウトはそれらを補える技を考えていたのだが、そこで思い当たったのが属性という考え方。

すなわち、同じ属性の技なら擬似的に真似ることが出来るのではないかということだ。

そして、その考えは当っていた。

 

「クリムゾン・ソーンはボクの小宇宙(コスモ)を纏った血を弾幕にして飛ばす技。

 今この空間にはボクの小宇宙(コスモ)が大量に渦巻いている。

 そしてこの状態でなら、ボクはこの技を使うことが出来る!」

 

シュウトが取り出したのは青い薔薇だった。

 

「アフロディーテさん、あなたにこの技を捧げます!」

 

「これは…冷気が集まる!?」

 

シュウトの言葉と同時に冷気がアフロディーテに集まりだす。

そして、シュウトはその技を発動させた。

 

「極寒の青薔薇、ブリザードローズ!!」

 

一輪の青い薔薇が咲いた。

冷気が薔薇の形を成し、棺のようにアフロディーテを閉じ込める。

シュウトが真似たのは魚座(ピスケス)と同じ水属性の、水瓶座(アクエリアス)の氷の闘技。

その奥義の一つ、『フリージングコフィン』の魚座(ピスケス)版がこの『ブリザードローズ』だった。

 

「う、おぉぉぉぉぉ!!」

 

小宇宙(コスモ)を高めたアフロディーテが、青い薔薇を砕き脱出するが、クリムゾン・ソーンとブリザードローズのダメージによって冥衣(サープリス)が粉々に砕け散った。

そこに、シュウトは白薔薇を投げ込む。

白薔薇は狙いたがわず、アフロディーテの左胸を貫いた。

 

「!?」

 

アフロディーテは一瞬驚愕の表情を浮かべるが、すぐにどこか悟ったような顔でつぶやく。

 

「なるほど…醜いつぼみが、花を咲かせたというわけか…。

 認めよう、新たな魚座(ピスケス)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)よ。

 君は…美しい…」

 

そしてアフロディーテは白薔薇を赤く染めながら、仰向けに倒れこむのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「よう、先輩。 喋れるかい?」

 

「ふん、これだけボロボロにしておいてよく言う」

 

身体を引きずり、なのはに支えられながら近づいてくる快人にデスマスクは苦笑する。

そのデスマスクの身体は、手足の先の辺りから透けるようにゆっくり消えていっていた。

 

「悪いな大先輩、俺は加減を知らないんでね」

 

「ふん。

 だが、お前の覚悟と戦う理由が半端ではないといういい証拠か…これはこれで悪くない」

 

デスマスクは満ち足りたように呟く。

そんなデスマスクに、快人は話しかけた。

 

「大先輩よぉ…あんた、実は本気じゃなかっただろ?

 俺やなのはを殺すって話…」

 

「…何故そう思う?」

 

「実力差がこれだけあったんだ。最初から本気だったら、俺もなのはもとっくに死んでるよ。

 あんたの言うように、『俺たちを殺して新しい生を』っていうのを本気で望んでいるなら最初から本気になるはずだ。

 それが無いって言うのはつまり本心じゃない、ってことだ。

 ハーデスの時といい、相変わらずの名演技だよなぁ、先輩?」

 

「チィ、可愛げのない小僧だ…」

 

舌打ちするデスマスク。それは快人の言葉を暗に肯定する返事だった。

 

「お前の言う通り、俺もアフロディーテも本気でお前やそこの小娘たちを殺そうと思ったわけじゃない。

 ただ俺たちの聖衣(クロス)を継いだやつが、どんなやつか試したかっただけだ。

 まぁ、予想以上に出来の悪いクソガキだったがな」

 

「…そりゃ悪かったよ」

 

「だが、最後にはお前の小宇宙(コスモ)は俺を遥かに凌駕した。

 その魂を俺に見せつけたのだ。

 誇れ、新たな蟹座(キャンサー)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)よ」

 

そこまで言うと、デスマスクの姿が加速度的に消えていく。

もう時間が無い、それを感じた快人は最後の質問をした。

 

「こんな茶番をしかけたのはどこの誰なんだ?

 何がこの世界に起こってる?」

 

「目的は俺たちにもわからん。

 だが、俺たちを蘇らせ、冥衣(サープリス)を与えたのは性格の悪そうな女神だった。

 名乗りはしなかったが、あれは間違いなく神の類だ。

 気を付けろ、あの女神はきっと第二第三の茶番を仕掛けてくるぞ」

 

デスマスクはもうほとんど消えている。

デスマスクは快人に最後の言葉を投げかけた。

 

「突き進めよ、新たな蟹座(キャンサー)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)、蟹名快人」

 

その言葉と共に、デスマスクの姿は完全に消え去った。

 

「…ああ、神様だろうが何だろうが退けて突き進むよ、偉大なる蟹座(キャンサー)の大先輩…」

 

快人はデスマスクの消えて行った空に、静かに呟くのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「まさか魚座(ピスケス)の技だけでなく、水瓶座(アクエリアス)の技を取り込むとは…その力と小宇宙(コスモ)を示した君を認めよう。

 魚座(ピスケス)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)、シュウト=ウオズミ。

 これで…私もデスマスクも道化を演じた甲斐があったというものだ」

 

「アフロディーテさん…」

 

もはや動けないアフロディーテは、フッと笑うとシュウトを支えるフェイトへと視線を向ける。

 

「すまなかった、少女よ。

 怖い思いをさせたこと、暴言を吐いたこと…謝罪させてもらいたい」

 

アフロディーテの言葉に、フェイトは首を振る。

 

「いえ、あなたの言葉のおかげで私はまた一歩前に進めました。

 ありがとうございます」

 

その言葉に、シュウトはやはりと思った。

 

「アフロディーテさん、やっぱりボクらを殺すっていうのは本気じゃなかったんですね…」

 

その言葉に、アフロディーテは首を振る

 

「いいや、半分は本気だった。

 もし、下らぬものが下らぬ理由でその聖衣(クロス)を纏っているのなら殺してやろうとは思っていたのだ。

 だが、君はその聖衣(クロス)を纏うに足るものを示した。

 その少女に助けられて、というのはいささか情けない話だがね」

 

「返す言葉もありません…」

 

アフロディーテの身体が徐々に透け始める。

 

「最後に教えよう、私とデスマスクを送り込んだのは神、それもどこかの女神だ。

 どんな意図かは分からないが、お前たちは狙われている。

 さて、君はどうする?」

 

「無論、心にたてた誓いを全うします」

 

その答えに、アフロディーテは満足そうに頷いた。

 

「それでいい、我ら聖闘士(セイント)は全うして死ぬ。

 君はその少女と共に生き抜き、すべてを全うしてから年老いて死にたまえ」

 

アフロディーテが目を瞑り、最後の言葉を呟いた。

 

「仮初でも現世に戻れてよかった。

 こんなにも美しき花を、二輪も見れたのだからな…」

 

そしてアフロディーテはまるで幻のように消えていった。

それを追うように強い風が吹き、薔薇の花弁が舞い上がる。

シュウトは小宇宙(コスモ)で創り出した赤い薔薇を一輪、その風の中に流した。

 

「ありがとう、偉大なる魚座(ピスケス)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)、美の戦士アフロディーテ…」

 

シュウトは感謝の言葉を風の中に流す。その言葉が届くことを祈りながら。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

この瞬間、ジュエルシードから始まった事件は幕を閉じたのだった。

2人の黄金聖闘士(ゴールドセイント)と2人の魔法少女に、この先に進むための大きな何かを残して…。

 




蟹と魚と2人の魔法少女は、それぞれの答えに行き着きました。
次回無印編、後日談。
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