第01話 蟹と魚、少女たちと出会う
かつて兄弟だった魂は、別の場所、別の次元に新たに降り立つ。
その手に、黄金の力を宿しながら…。
そして…5年の月日が流れていた。
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街を一人の少年が歩いている。
歳の頃は5歳。
だがその年齢にはあり得ない、ささくれ立ったような鋭い眼光をしていた。
「…はぁ、下らねぇ」
周りの景色すべてに吐き捨てるように呟き、何の気なしに公園に入る。
すると…。
「はぁ…」
そこにはため息をつき、ブランコに座る一人の少女の姿があった。
その可愛げな顔に影を落としてため息を付く少女。
「…」
少年は何を思ったかその少女に近付くと、こう言い放った。
「ウゼェよ、お前」
「え?」
少年の言葉に、少女はきょとんとしながら顔をあげる。
「だからウゼェっての。 どこまでデカイため息なんだよ、お前」
「ご、ごめんなさい」
シュンとする少女に、少年はため息を付くと、隣のブランコに座ってため息をつく。
「…はぁ」
「…あなただっておっきなため息じゃない」
少年のため息に、今度は少女がジト目で言葉を返した。
「俺はいいんだよ、俺は」
「自分勝手…」
「ありがとよ、褒め言葉だ」
そう言い合うと、少年も少女も口を閉ざす。
そして…。
「…うちね、お父さんが大けがしたの…」
ポツリと少女が語りだす。
「お母さんもお兄ちゃんたちも大変でみんな私に構ってくれない…。
私はお母さんたちの邪魔にならない、いい子じゃなきゃいけないのに…寂しいよぉ…」
そう胸の内を絞り出すように語る少女。
何故この時こんなことを喋ったのか…後年、少女はこの時のことを思い出してこう語る。
『とりあえず誰でもいいから愚痴りたかったんだよね。 見ず知らずの、同じくらいの子だったから丁度いいなって思ったの』
その言葉の通り、この時の少女の言葉はただの愚痴であった。
そして、その少女の愚痴に、少年はこう答えたのである。
「…羨ましいな、お前」
「何で? どこが羨ましいの!?」
自分の言葉をバカにされたと思った少女が、涙で濡れた眼に怒気を込めながら少年を睨むが、少年は気にも留めずに言葉を続けた。
「だってよぉ…お前、家族がいるんだろ?
俺は…もういない。 この間、父さんと母さんが死んだからな」
「!?」
その言葉に少女は息を呑むが、そんな少女を尻目に少年は言葉を続けた。
「俺さ…自分は『何でもできる』ってマジに思ってたんだよ。
本当に…『この世の何でも好きに出来る』ってな。
なのによ、あっさり…本当にあっさり父さんも母さんも死んじまったよ…」
そっと目を瞑ると、少年の脳裏には両親の、『2度』の死が思い出される。
「人の命も幸せも塵芥…すぐに消えちまうもんだ。
それで無くなってから後悔したって、もう遅い」
そう言って少年は少女を見た。
「お前、後悔、したいのか?」
「ううん、したくない!」
ぶんぶん首を振って、少女は答える。
「だったら難しいことなんざ考えずに、我が儘言って親に甘えろ。
好きなようにやりたいことやっとけ。
それが出来る家族がいるんだからな」
「…いいのかな? 私、いい子でいなくても本当にいいのかな?」
「さぁ? ダメなときは怒られるんじゃねぇの?」
肩を竦めて答える少年に少女は肩を落とす。
「ほぇぇ…無責任だよ」
「こんなことに責任持てるかよ。
やるだけやって、失敗したらまた落ちこみゃいいだろ。
まぁ…愚痴ぐらい聞いてやってもいいぞ」
少年のその言葉に、少女は目を輝かせる。
「…本当に? これからも私のお話聞いてくれるの」
「まぁ、俺暇だし」
「…友達いないの?」
「殴るぞ、てめぇ。
そういうお前だって、ぼっちじゃねぇか。 友達いないだろ?」
「うん、いないよ」
「…即答すんなよ」
少女の返答に、少年は頭を抱えた。
そんな少年に、何やら期待を込めたような視線を送る少女。
そしてしばらくの後…観念したように言葉を繋げたのは少年だった。
「お前よぉ、もしかして…『友達になろう』とか思ってたりしないか?」
「う、うん。 私、友達いなくて。でもどうしたら友達出来るか分からなくて…」
「なんだそんなことも知らねぇのか?」
「自分だって友達いないくせに、知ってるの?」
「…一言多いな、お前。 まぁいいや」
そう言って少年はブランコから降りると、少女の前に立つ。
「いいか、友達を作るにはまず『大地に頭を擦りつけて俺を拝め』と言って…あ、これは違った、神にもっとも近い男のなり方だった」
「?」
「まぁとにかく…お互いに名前を呼んで『今日から友達だ!』って言やぁいいんだよ」
「本当に? 本当にそれだけで友達になるの?」
「さぁ、ホントかな? 嘘かもな」
「じゃぁ…試そうよ」
そう言って少女もブランコから立ち上がる。
「私、高町なのは。 あなたのお名前は?」
「蟹名(かにな)快人(かいと)」
少女は楽しそうに、そして少年はぶっきらぼうに名前を名乗り合う。
「快人くんは今日から、なのはの友達だよ!」
「なのはは今日から、俺の友達だ」
「ふふふ…」
「へっ」
人生最初の『友達』に少年と少女―――快人となのはは笑い合う。
これが運命の出会いだということを2人はまだ知らなかった。
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一方その頃、次元の彼方でも運命の出会いが成されていた。
その時、金の髪の少女は突然の出来事に戸惑っていた。
転移魔法を構成した瞬間、一人の少年が現れたのだから。
いや、現れたというのは適切ではない。
より適切に言えば、倒れていた。
歳の頃は少女と同じくらい。
その顔は一瞬少女かと思ってしまうほどである。
長い髪がその印象をひと際引きたたせる。
服はボロボロだが、身体には不思議なことに傷一つなかった。
「リニス、どうしよう!?」
「フェイト、落ち着いて。 まずは彼を中に!」
突然の事態に慌てる金髪の少女―――フェイト=テスタロッサは側にいた魔法の師であるリニスに問うと、リニスは至極冷静に少年を担ぐと館の中へと入っていった。
少年が目を覚ましたのはそれから2時間以上してからだった。
「ここ…は?」
「気が付いた? もう大丈夫だよ」
その声に少年はベッドの横へと視線を巡らせる。
そこには心配そうに見つめるフェイトの姿があった。
「ここは一体…?」
そう少年が呟いた時、部屋にリニスが入ってきた。
「リニス」
「彼が目覚めたんですね。 私は彼に話を聞かなければなりません。
フェイト、あなたは午後の訓練へ」
「…わかった」
その言葉にフェイトは少し名残惜しそうに少年の方を振り向くと、部屋から出ていった。
それを見届けてから、リニスは少年へと話を始める。
「まず、始めに…名前を聞かせてもらえますか?」
「ボクはシュウト…シュウト=ウオズミ」
少年…シュウトが名乗ると、頷きながらリニスは質問を始めた。
「成程…あなたは次元旅行中に時空乱流に巻き込まれた。
両親に転送ポートに押し込められ起動した次の瞬間、激痛で気絶してしまった、と?」
「うん。 その後は気付いたらここにいたんだ」
その言葉に、リニスは思案する。
(次元航行船が時空乱流に巻き込まれる事故…これは報道されていた事故で間違いない)
リニスは最近起こった事故の記事を思い出していた。
時空乱流の影響で脱出用の転送ポートが使えず、『乗客全員死亡』という大惨事となった事故だ。
そのあり得ない生存者が、今、目の前にいる。
(本来時空が乱れる中で転送なんて出来るはず無いけど…転移のタイミングとフェイトの転移魔法の術式が重なって、ここに引っ張られたみたいね)
そう仮説を立てるが、それは天文学的という言葉が可愛く思えるぐらいの低確率だった。
いや…。
(その低確率を掴む『何か』がこの子にはあるのかもしれない)
そんな風に思いながら、リニスはシュウトを見ていた。
「あのぉ…」
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしちゃったわ。
それであなたの今後についてなんだけど…」
そして、リニスは一瞬だけ目を伏せると切りだした。
「ここで暮さないかしら?」
「はい、いいですよ」
リニスの話に、シュウトは即座に頷く。
「…即答なのね」
「父さんも母さんも死んで、ボクも死んだことになっているんでしょ?
どうせ行き場がないボクには渡りに船ですよ」
そう言うシュウトにリニスは内心で胸を撫で下ろす。
(よかった…この子を殺さずにすんで…)
実はリニスは主であるプレシアに、シュウトを始末するように言われていたのだ。
プレシアはすでに違法研究に手を染めている身、どこかの次元世界にシュウトを送ったりすれば時空管理局に足が付きかねない。
どうせ事故で死んだことになっているのだから、面倒になる前に始末なさい…それがプレシアの指示だった。
だが、リニスにはその指示に頷けなかった。
しかし、時空管理局に足が付くようなことはできない。
そのための折衷案がこれ、こちら側に引きこんでしまおうというものである。
(丁度、フェイトと同い年のようだし友達にいいでしょう。それに…)
リニスがプレシアの指示に難色を示した理由は、間接的にでも最後の一線…プレシアに人殺しをして欲しくないというものあるが、リニスはシュウトに何かを感じ取っていた。
魔力はせいぜいFランク…どうあっても脅威になり得そうにないシュウトだが、リニスは本能の部分でシュウトに何かを感じたのだ。
その時…。
「あっ!」
部屋のドアがガタリと開いて、フェイトが室内に倒れこんでくる。
どうやらドアの外で聞き耳を立てていたらしい。
「フェイト」
「ご、ごめんなさい、リニス。 でも、その子のことが気になって…」
呆れるリニスに、フェイトはシュンとしながらもチラチラとシュウトの様子を窺う。
どうやら気になって仕方ないらしい。
リニスは一つ頷くと、フェイトを側に呼んだ。
「フェイト、彼は今日からここに住むシュウトです。 フェイト、挨拶を」
「フェイト=テスタロッサです」
リニスに促され、フェイトがぺこりと挨拶をした。
「ボクはシュウト=ウオズミ」
「シュウト? 『シュウ』って呼んでいい?」
「うん、いいよ。 フェイト」
そういうシュウトの微笑みに釣られ、フェイトも花が開くかのような満面の笑みを見せる。
それを見ながらリニスは思った。
(もしかしたら…彼は神様がここにつかわしてくれたのかも知れない。
私がいなくなった後、フェイトを支えてくれる存在として)
遠くない未来、確実に自分は最後の時を迎える。
それまでにフェイトには一つでも多くのものを残すつもりだ。
だが、それだけでは足りない。
自分亡き後にフェイトを支える者…そんな幻想にも似た思いをリニスはシュウトに抱いていた。
(願わくばこの子たちの出会いが、幸せな未来への一歩でありますように…)
笑い合うシュウトとフェイトを眺めながら、リニスはそう誰にでも無く祈るのだった。
ヒロインの登場、まだまだ準備期間