俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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新章突入です。

今回はA’S編までの夏休みのお話。
そして新たな敵は夏の風物詩の奴ら。

夏と言えば…


夏休み激闘編
第16話 蟹と魚と魔法少女、夏を満喫する


「ハァハァ…!!」

 

薄暗い林の中を、少女が走っていた。

ときどき後ろを振り返りながら、息を乱して少女は駆ける。

その顔にあるのは恐怖だった。

心臓は過剰な運動で動悸を繰り返し、足は鉛のように重い。

身体の全てがすぐに運動をやめることを叫ぶが、心は逃げろ逃げろと叫び続ける。

少女はその心の叫びに従って、駆け続けた。

何故こんなことになったのかと、ふと思う。

自分は友人たちとこの街に海水浴で来ただけの観光客だ。

夜に出歩いた少女たちはそこで怪しい者たちに出くわした。

ローブのようなもので全身を覆う、いかにもなやつら。

その一人が何かをすると、友人が突然倒れ込んだのだ。

少女は倒れる友人を尻目に、本能の命じるまま逃走を続け、今に至る。

林を抜けたところで、やっと少女は一息を付いた。

 

「ここまでくれば…」

 

そう思って正面を見た少女は絶望に目を見開いた。

何故なら、目の前にはあの友人に何かをしたローブの怪しい集団がいたからだ。

後ろにいたはず、抜かれたわけがないのに何故?

そんな少女の当然の思考は、恐怖によって塗りつぶされる。

 

「い、いや、来ないで!」

 

極度の疲労で尻もちをついた少女はそのままズルズルとローブの集団から離れようとするが、ローブの集団がゆっくりと確実に近付いてくる。

 

「いや、いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

少女が最後に見たのは黄金の光。

少女の絶叫が夜の空に虚しく響いた…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「お~~!」

 

「すごいね、ここ!」

 

快人とシュウトは目の前の光景に歓声を上げる。

真っ白な砂浜に青い海。

 

「海だ!」

 

「海ぃ!」

 

「…何やってんの、あのバカとシュウトは?」

 

テンションの異常に高い快人とシュウトに、アリサは呆れた顔をした。

一緒にいるなのは・フェイト・すずかも若干引いた様な顔で2人を見ている。

ここは月村家所有のプライベートビーチだ。

夏休みになった6人は、泊りがけで月村家の別荘へと遊びに来ていた。

子供たちに随伴するのは忍、ノエル、そしてすずか付きのメイドのファリンと言った月村家の面々に高町恭也である。

さて、この6人は旅行を楽しみにしていたが、特に快人・シュウトの兄弟は別格だった。

基本的にイベント好きの快人は理解できるが、シュウトの喜びようは普段の柔らかい物腰からは考えられない状態である。

 

「快人くんは当然として、シュウトくんまでこんなに喜ぶなんて意外なの」

 

「うん、私もこんなシュウは見たこと無いよ」

 

なのはの言葉にフェイトも同意した。

そして脳裏で同じことを考えてしまう。

 

((やっぱり2人とも守護星座が魚介類だから海が好きなのかな?))

 

栄光ある黄金聖闘士(ゴールドセイント)を魚介類扱いするのだから、この2人結構いい性格である。

 

「いやいやいやいや、海だぞ、海! 否が応でもテンションは上がるだろう!」

 

「あんたほどテンション上がんないわよ…まぁいいわ、私たち着替えてくるから」

 

快人のテンションに心底疲れたような顔をしてアリサは他の3人を連れ着替えに向かう。

 

「それじゃ!」

 

「兄さん!」

 

「「クロスアウトッ!!」」

 

バッと服を脱ぎ去れば、すでに海パン装備。この2人、ノリノリである。

 

「さて、泳ぐぞぉ!!」

 

「…待て」

 

駆けだそうとする快人の首根っこを恭也が捕まえる。

 

「まずは男なんだから荷物運びを手伝え。

 シュウトくん、君もだ」

 

「おー、了解了解! シュウト、さっさと行くぞ!」

 

「了解、兄さん!」

 

恭也の言葉に、パラソルやクーラーボックスをひょいひょいと運んでいく快人とシュウト。

その姿に忍はクスクスと笑みを漏らす。

 

「あら、元気がいいじゃない」

 

「頭が痛いほどにな」

 

始終ハイテンションのまま荷物を運び出していく快人とシュウトに恭也は頭を抱えたのだった。

快人たちがパラソルを設置し終えた頃、着替えを終えた4人が海へとやってくる。

 

「おー、やっときたか!」

 

「ふん、待たせたわね」

 

そう言って髪を後ろに払うのはアリサ。

オレンジ色のセパレートタイプの水着を着ていた。

隣を見ればすずかは青を基調としたワンピースタイプの水着を着用しており、本人の落ち着いたイメージを醸し出している。

その隣のなのははすずかと同じワンピースタイプの水着だ。ピンクを基調としており可愛らしいというイメージだ。

4人の中で一番露出度が高いのはフェイトだった。白黒チェックのビキニタイプの水着を着用しており、一番大人っぽい印象を受ける。

 

「ど、どうかな、シュウ? 変じゃないかな?」

 

「ううん。 凄く可愛い。

 似合ってるよ、フェイト」

 

顔をほんのり赤くしながらフェイトが言うとシュウトが答え、フェイトがさらに顔を赤くする。

そんな光景を他の4人は困ったように見つめていた。

すると、アリサが肘で快人をつつく。

 

「ほら、あんたもなのはに何か気の効いたこと言ってやりなさいよ。

 なのは、あの水着真剣に選んでたんだから」

 

「そうなのか…よし! なのは!」

 

「ほ、ほえ!?」

 

意を決したような快人に、なのははビクッと驚く。

そんななのはの肩に快人は手を置く。

 

「なのは、その格好なんだが…」

 

「う、うん…」

 

正面から見つめられなのはが度盛りながら返事を返す。

すると、快人はとてもいい笑顔のまま言い放った。

 

「…土管だな」

 

次の瞬間、快人は宙を舞った。

ザックザックという音に快人の意識が覚醒すると、無表情で快人を埋めようとスコップを操るなのはの姿が。

 

「おーい、なのは? なのはちゃん? なのはさーん…何やってらっしゃるんですか?」

 

「…」

 

無言のまま、なのははスコップで快人に砂をかけていく。

すでに快人の身体のほとんどは埋まっており、顔にまで砂はかかり始めていた。

 

「おい、なのは。 ちょっとマジでやめてお願いプリーズ!」

 

「死ねばいいの死ねばいいの死ねばいいの…」

 

「や、病んでるぅ!?」

 

ハイライトの消えた瞳でブツブツと呟きながら淡々と快人の埋葬作業をするなのはは本気で怖かった。

快人がマジビビりである。

 

「悪かった! 俺が全部悪かった!

 謝る、謝るから許して!」

 

その言葉に、やっと冷静さを取り戻したのかなのはもスコップを止めて快人を見る。

 

「もう、快人くん! なのは一生懸命この水着選んだんだよ。

 それを何? 何で土管なの!?」

 

「そりゃあ、まぁ…」

 

そう言って快人は視線だけアリサとすずか、そしてフェイトに向ける。

3人とも発育が良く、この歳で女性的なラインが出始めている。

あと数年たてば物凄いことになるのが容易に想像できた。

言うなれば三巨頭。対してなのはは…。

 

「うん、空き地の土管だな。

 まぁ、気に病むな。 需要はあるぞ。

 ほら、俺とかに」

 

「…」

 

物凄くいい笑顔と共にそう言いきった快人に、なのはは快人を埋める作業を再開する。

 

「な、何故だ!? ここはポッて顔を赤らめるシーンだぞ!?」

 

バカなことをほざく幼馴染に、なのはは冷酷に、そしてこれ以上ないくらい冷たい声で死刑を宣告した。

 

「死 ぬ が よ い。

 そしてさようなら」

 

「た、大佐ぁ!!」

 

快人のおバカな絶叫がビーチに響き渡ったのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

始まりの一幕から先は、6人は遊び倒すことになった。

 

「行ったぞ、なのは!」

 

「ほ、ほぇぇぇ!?」

 

3対3のビーチバレーでは白熱した戦いを繰り広げ…。

 

「わはははは! シュウト、競争だ!」

 

「ボクに勝てると思っているの、兄さん!」

 

「さ、さすがなの…」

 

「速い…」

 

沖への競争では、快人とシュウトがデッドヒートを繰り広げたり…。

 

「あー、それアタシのお肉!」

 

「早いもの勝ちだ」

 

「むきぃ! なのは、あんたこのバカしっかり躾ておきなさいよ!!」

 

「お、おちついてアリサちゃん」

 

バーベキューで快人とアリサが仁義なき肉争奪戦争を繰り広げたりと、楽しい時間はあっという間に過ぎていったのだった…。

 

「あー、遊んだわ」

 

「ちょ、ちょっと疲れたの…」

 

「私も…」

 

夕食の後、なのは・フェイト・アリサ・すずかの4人は宛がわれた部屋で一休みしていた。

アリサはベッドに大の字で寝転がり、なのはとフェイトもへたり込む。

と、そこへ勢いよくドアが開いた。

 

「たのもー!」

 

「って、このバカ! ノックぐらいしなさいよ!!」

 

アリサは入ってきた快人に手近にあったマクラを投げつけるが、それを快人はしっかり受け止めると悪びれる様子もなく部屋へと入ってきた。

その後に続いて、どこかすまなそうな顔でシュウトも部屋に入ってくる。

 

「なんだなんだ、夜はこれからだっていうのに、もうお寝んねですかい?」

 

「そんなわけ無いでしょ、せっかくの旅行なんだから…」

 

アリサのその言葉に、快人はしたり顔で頷く。

 

「OKOK、それじゃあさ、みんなで今から出かけようぜ!」

 

「快人くん、出かけるってどこに?」

 

「それはな…夏の風物詩『肝試し』にだ」

 

なのはの言葉に、快人はニヤリと笑いながら言うのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

快人たち6人がやってきたのは細い山道へと続く道だ。

周囲に灯りはなく、山道の脇はすぐに林である。

 

「ふぇ、フェイトちゃん…」

 

「なのはぁ…」

 

何か出そうな、凄く不気味な雰囲気が漂っており、なのはとフェイトはおっかなびっくりと言った感じで辺りを見渡す。

ホーホーという鳥の声と虫の声が、その雰囲気に拍車をかけていた。

そんななのはたちの様子にしてやったり、といった感じの快人はゆっくりと説明を始める。

 

「それじゃルールを説明するぞ。 といっても、ルールは簡単だ。

 この山道を登っていくと、奥に古い神社がある。

 そこに行って帰ってくる、ただそれだけだ。

 行ったって証明は…そうだな、神社には正面から入るといくつか石灯篭が立ってるけどそれが何個かにしよう。

 ちゃんと数えて報告するってことで」

 

「何、それだけでいいの?」

 

アリサが拍子抜けと言った感じで返すと、快人はニヤニヤと笑いながら答えた。

 

「そりゃ何事もなければ簡単だろうよ。

 でもな、今回のコレは『肝試し』だぜ?

 ここ…マジで出るらしいからな」

 

「!?」

 

快人のおどろおどろしい口調に、なのはは思わず飛び上がりそうになった。

 

「ここは戦国時代に近くで戦争があってな、負けた方の侍たちがこの山に逃げ込んだらしいが…いわゆる落ち武者狩りってやつで一人、また一人と死んでいったそうだ。

 その武者たちの無念の霊がこの山には住みついてるんだと。

 目的地の神社も、その霊を鎮めるために建てられたって話だからな…」

 

快人の言葉に引きこまれ、なのはとフェイトはまるで目の前にその亡霊がいるかのように身を振るわせる。

アリサも何でも無いという様子にしているが、強がっているだけだというのはすぐに見て取れた。

逆にすずかは興味しんしんといった感じになり、シュウトは呆れたように苦笑をしている。

 

「というわけで、肝試しには持ってこいってわけだ」

 

「お、面白そうじゃない! いいわ、さっさと始めましょう!」

 

「よし、それじゃ2人一組ってことで行こう。

 ここに厳正公平なクジを用意したから、これで決めようか」

 

快人がそう言って取り出したクジを、すずかはためらい無く引き、アリサはむしるように引く。

そしておっかなびっくりといった様子でなのはとフェイトが引くと、最後にシュウトがくじを引く。

メンバーは決まった。

アリサ・すずかペアに、快人・なのはペア、そしてシュウト・フェイトペアである。

 

「あんた…クジに細工したんじゃないでしょうね?」

 

「まさか? 天の采配だよ」

 

狙ったようなペアにアリサがジト目で快人を見るが、快人は肩を竦めてやり過ごす。

 

「ほら、行こうよアリサちゃん」

 

「そ、そうね。 行きましょ、すずか」

 

楽しそうなすずかに手を引かれアリサも歩き出すが、どこか腰が引けていた。

そう言ってアリサ・すずかペアが山道を上り始める。

その姿が見えなくなるまで、快人は不気味なまでにニコニコとしていた。

そしてその姿が見えなくなったのを確認して、シュウトたちへと向き直る。

 

「さて…それじゃ俺たちも肝試しを始めるか」

 

「う、うん…」

 

そう言ってなのはは快人の手を握り歩き出そうとすると、そこで快人が止めに入る。

 

「おいおい、なのは。 お前どこ行く気だ?」

 

「え、この上の神社に行くんじゃないの?」

 

なのはは小首を傾げ、隣で聞いていたフェイトも何を言っているのかといった感じで快人を見る。

そして、シュウトが首をすくめながら言った。

 

「確かに肝試しには参加するけど…ボクらは脅かす側ってことだよ」

 

「そういうこった」

 

快人は愉快そうにくつくつと笑い、シュウトは呆れ顔だった。

結局、この肝試しはすずかとアリサをちょっと脅かしてやろうという快人のイタズラだったのだ。

ことの次第を聞いたなのはとフェイトは、幽霊がいないことにホッと息を付くと同時に無駄にエネルギッシュな快人に呆れる。

 

「もう…快人くん意地悪だよ」

 

「いいじゃないか、ちょっとぐらい脅かしたって。

 折角の旅行なんだ、羽目を外させてくれって」

 

なのはの戒めの言葉もどこに吹く風と言った感じだ。

 

「兄さんらしいというか何と言うか…」

 

「まさに平常運転って言った感じだね…」

 

シュウトとフェイトはお互いに顔を見合わせて苦笑いする。

 

「うるせぇ、お前らだってちょっとぐらいは面白そうだって思ってるだろ?」

 

「そりゃぁ、まぁ…」

 

シュウトは何とも曖昧に頷くと、なのはとフェイトも頷く。

結局、全員ちょっと面白そうとか思っているのだ。すでに立派な共犯である。

 

「で、どうするの? 言っておくけど、やり過ぎはダメなの」

 

「分かってるって。 でも…ちょっとぐらいは怖がって貰わないとな」

 

そう言って快人は指を鳴らすと小宇宙(コスモ)で鬼火を作りだして宙を漂わせる。

どう見ても人魂に見えるそれは演出効果バッチリだろう。

 

「ほら!」

 

「きゃ!?」

 

快人がなのはとフェイトに何かを投げよこす。

それは白いシーツだ。

それだけで、自分たちの役割を理解したなのはとフェイトは顔を見合わせる。

そんな2人を見てニヤリと笑うと、快人は宣言した。

 

「さぁて…ショータイムだ!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふふふ、何が出てくるのかな? 楽しみだね、アリサちゃん」

 

「ふ、ふん。 幽霊なんて非科学的なものいる訳無いじゃない。

 そんなことでこの私が怯えるとでも思ったのかしら、あのバカは」

 

そう快人への愚痴をもらすアリサだが、その手はすずかの手を握ったままだ。

その様子にすずかがクスリと笑みを漏らす。

すると…。

 

「ね、ねぇすずか…なんか…寒くない?」

 

「本当。 山の気候は変わり易いって言うけど…」

 

アリサの言う通り、2人の周りだけクーラーでもかかっているような奇妙なひんやりとした空気になっている。

その不気味さにアリサは怯えながら辺りを見回し、すずかは面白そうに周囲を窺う。

すると、2人の視界にそれが入ってきた。

 

「ひ、人魂!?」

 

アリサの言うように、そこには青い炎の人魂が宙を舞っていた。

アリサは飛び上がるようにすずかにしがみ付く。

 

「うわぁ…すごい!」

 

「すずか、あんた何冷静に言ってるのよ! 人魂よ人魂!!

 早く逃げましょうって!?」

 

感心するすずかの手を、アリサはすでに半泣きになって引っ張る。

そして2人の背後から白い塊が2つ…2人にゆっくり寄ってくるのだ。

 

「「う ら め し や…!」」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ! お化けぇぇぇぇ!!」

 

青い人魂の光で不気味に浮かび上がる2つの白い塊とおどろおどろしい声に、遂にアリサが悲鳴を上げた。

しかし、すずかはクスクスと笑いながら2つの白い塊に言ったのだ。

 

「可愛い幽霊だね、なのはちゃん、フェイトちゃん」

 

「へ? なのは? フェイト?」

 

その言葉に、すずかに抱きついていたアリサが顔を上げる。

そこには…。

 

「バレちゃってたんだ」

 

「ごめんね、2人とも」

 

すまなそうに苦笑するなのはとフェイトが、頭から被ったシーツを取っているところだった。

 

「あと、あの人魂は快人くんとシュウトくん?」

 

「おいおい、肝試しなんだから少しは驚いてくれよ。

 でないとこっちの立つ瀬が無いぜ」

 

ガサガサと茂みを掻き分け出てきたのは快人とシュウトだった。

快人は頭をポリポリと掻きながら、すずかが驚かないことに少し不満げだ。

一方のシュウトは何とも言えないと言った感じで肩を竦める。

 

「ふふふ…だっていきなり肝試しやろうっていいだして、それで私たちを一番最初に行かせようとするんだもの。

 快人君のことだから何か仕掛けてるんだろうなぁと思って」

 

「読まれてたってわけか、そりゃ驚かないわな。

 でも…」

 

快人はしてやったりという顔ですずかの隣のアリサを見た。

 

「いやぁ、お前の反応最高!

 すっごくいい反応だったぜアリサ。 もう、俺様大満足!!」

 

「な…な…」

 

グッといい笑顔でサムズアップする快人に、アリサは口をパクパクさせるがそれが次第に収まると俯きながら肩を振るわせ始めた。

 

「ん? どうしたアリサ? もしかして怖くて泣いちゃってる?」

 

快人はニヤニヤとアリサの顔を覗き込もうとする。

 

「…」

 

それを見て、シュウトは無言でフェイトの手を握り後ろへ引っ張る。

その行動になのはもすずかも無言で頷くと後ろに下がった。

そして…審判の時は来た。

 

「この…バカ蟹ぃぃぃぃ!!」

 

「ん…ぴぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

どこにそんな力があったのか、アリサのアッパーカットが快人を宙に舞わせる。

そして頭から地面に落ちた快人にアリサの追撃が入った。

 

「このこのこの! 死ねぇ、このバカ蟹!!」

 

「ストップ、ストップアリサ!

 スカートで連続ストンピングは淑女のやることじゃない!?

 れ、れ、冷静になれ!!」

 

「冷静よ! 冷静に燃え上がって、この世の害悪を滅ぼそうとしてんのよこのバカ蟹!!」

 

「ストップだ、それ以上いけない!

 出ちゃう、蟹みそ出ちゃうから!! ぴ、ぴぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

やがて快人が動かなくなるまでストンピングを続けたアリサは、残った3人へと視線を向けた。

 

「なのはもフェイトもシュウトも、こんなバカの片棒担いで!

 もう知らない! 行くわよ、すずか!」

 

そう言ってアリサはプリプリと頬を膨らませながらすずかを捕まえると、別荘の方へと肩を怒らせながら歩いていくのだった。

 

「アリサちゃん、怒らせちゃったね」

 

「後でアリサには謝ろう…」

 

なのはとフェイトはそんな風に頷き合う。

一方、シュウトは倒れた快人へと歩み寄った。

 

「兄さん、生きてる?」

 

「…奇跡的にな。

 あいつ実は神の一人だったりしない? 夢の神の部下辺りの?」

 

「声が似てるって言いたいの? その理屈だと、フェイトは冥王軍の女幹部?

 バカ言ってないでさっさと立ち上がってよ」

 

「分かってるよ。

 おー、痛ぇ…」

 

「快人くん、アリサちゃんにやり過ぎなの」

 

「…分かったよ、後で謝るよ」

 

「シュウもだよ。 私たちも謝るから一緒に、ね」

 

「分かってるよ、フェイト」

 

なのはとフェイトがちょっと怒ったようにいうと、快人とシュウトの兄弟もバツ悪そうに頷いた。

今回は正直、一般人相手にはやり過ぎなのだ。

シュウトが小宇宙(コスモ)で周囲の気温を下げ、快人が小宇宙(コスモ)によって作りだした鬼火を出していたのだからなのはたちの言葉も当然とも言える。

 

「もうちょっとほとぼりが冷めたあたりで謝るよ。

 俺だってあいつに嫌われるのはイヤだしな。

 …それじゃ、もうしばらく散歩でもするか、なのは。

 おい、シュウトもフェイトも付き合え」

 

快人の言葉になのはは思わず苦笑を洩らすが、なのはとしても快人の提案は悪くないと思っている。

空気が綺麗で、空は満天の星空…絶好のロケーションではある。

 

(肝試しなんて言わずに、最初から普通にお散歩すればよかったのに…)

 

そうは思うが、あそこで騒いでこそ快人らしいとも言える。

隣ではシュウトに手を引かれ、フェイトが満天の星空を見上げていた。

それに倣うようになのはも快人の手を取って、綺麗な星座たちの輝きを眺めるのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「まったく、あのバカ蟹! なのは達もなのは達よ!」

 

「まぁまぁ、アリサちゃん」

 

未だ怒り心頭のアリサを、すずかがなだめながら月村家への別荘へ向かう。

 

「すずかは何とも思わないの!?」

 

「だって、肝試しとして面白かったと思うし…」

 

すずかとしては早い段階から快人が自分たちを驚かせようとしていると気付いていた。

そんなすずかにとっては、一体何をするんだろうという興味もあって今回の催しは満足だったのだ。無論、文句を言う気なんてない。

だがアリサは違った。

 

(あの蟹にはめられるなんて…覚えてなさい! 今にぎゃふんといわせてやるんだから!!)

 

アリサはその胸に快人への逆襲を決意する。

やられたらやり返せというのは万国共通の摂理なようだ。

と、そんな2人がもうすぐ林を抜けようかというところで…。

 

 

ゾクッ!

 

 

「「ッ!?」」

 

2人は世界が一変したのを感じ取っていた。

まるで突然氷の塊を背中に突き刺したかのような悪寒。

周囲は無音、さっきまで当り前のようにそこにあった風の音も、鳥や虫の声も全てが消え去っていた。

そして、背後からは無視することのできない、圧倒的な存在感を感じる。

2人は油の切れたブリキ人形のように、ゆっくりと背後へと振り返った。

そして2人が見たもの…それは怪しい5つの人影。

ローブのようなものを纏い、一目で普通ではないと分かる。

いや、見た目以上に放つ気配が自分達とは違うものであることを本能的に理解する。

 

「あ…あぁ…」

 

ガチガチと恐怖で歯が鳴り、アリサは声が思うように出せない。

そんなアリサを見て、5人の影のうち先頭の男が驚きの混じった声で呟く。

 

「この娘の星座は…? 成程、この娘が…」

 

アリサとすずかは意味は全く分からないが、自分たちにとって良くないことだろうことは容易に想像できた。

そして、男は懐から何かを取り出すと、それをアリサへと近づけていく。

だが、恐怖に魂を縛り付けられたアリサは動けない。

 

「…アリサちゃん!?」

 

それを見たすずかは咄嗟にアリサを突き飛ばした。

吸血鬼…夜の一族として、今まで普通とは違う経験をし続けたすずかだからこそ、恐怖を振り払い動き出せたのである。

結果としてすずかはその身を無防備に晒すことになった。

 

「あ…あぁぁぁぁあぁぁぁ!?」

 

ローブの男が懐から取り出したものが光を発すると、すずかの白い喉から絶叫が響く。

 

「すずか!?」

 

親友すずかの絶叫に、アリサは意識を巡らせるが、突き飛ばされた拍子に腰が抜けてしまい立ち上がることも出来ない。

やがて、すずかがバタリと倒れこんだ。

 

「すずかぁぁぁ!!」

 

アリサの声に、しかしすずかは反応を示さない。

そんなアリサたちを尻目に、ローブの人影はなんでもないように続ける。

 

「また瑞々しい精気が手に入った…では娘、今度はお前に役立ってもらおう…」

 

自身に伸びてくる手に、圧倒的な恐怖がアリサを支配する。

誘拐犯などとは根本から違う、身体ではなく魂を汚される恐怖。

 

「いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

その恐怖に押され、アリサは力の限りの悲鳴を上げていた。

だが、ローブの人影が腕を軽く振るっただけで、アリサの意識が刈り取られる。

闇に意識が落ちる寸前、アリサが見たのは『リンゴ』だった。

それも普通のではない、黄金に輝くリンゴだ。

その怪しい光をまぶたに焼き付けながら、アリサは気を失ったのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「んっ…?」

 

「これは…?」

 

夜の散歩の最中、いきなり快人とシュウトは歩みを止めると振り返り空を睨むように見つめる。

 

「どうしたの? 快人くんもシュウトくんも?」

 

なのはの言葉にも2人は真剣な顔で何かを探っている。

 

「いや、今…不気味な小宇宙(コスモ)を感じた…」

 

「ボクも感じたよ。 何かが…いる!」

 

快人とシュウトの只ならぬ気配になのはとフェイトはデバイスを握り締め、いつでもセットアップできるようにすると、ゆっくりとあたりの小宇宙(コスモ)を探り始めた。

これはなのはとフェイトの最近の特訓の成果で、まだまだ拙いながらわずかではあるが小宇宙(コスモ)を感じ取れるようになってきていた。

そんな2人も小宇宙(コスモ)の流れがおかしいことに気付く。

それはまるで澱んだような、重苦しい小宇宙(コスモ)

なのはとフェイトがそれを感じ取ると同時だった。

 

 

「あ…あぁぁぁぁあぁぁぁ!?」

 

 

聞きなれた綺麗な声で奏でられる、ありえてはならない絶叫。

これは…。

 

「今のは!?」

 

「すずか!?」

 

それを理解する前に快人とシュウトは動き出していた。

なのはとフェイトもその後を追う。

 

 

「いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「今度はアリサちゃん!?」

 

「ちぃ!?」

 

なのはは親友たちの悲鳴に焦燥を募らせ、快人は苛立たしげに舌打ちする。

そして快人たち4人が林を抜け出した。

そこにあったのは…。

 

「すずかちゃん!?」

 

「アリサ!?」

 

地面に倒れるすずかと、怪しいローブの人影の小脇に抱えられる意識の無いアリサの姿だった。

 

「お前ら…!?」

 

「フェイト!?」

 

その姿を見たフェイトが即座にバルディッシュを起動させ、アリサを救出しようとローブの人影に斬りかかる。

 

ガキン!

 

だが、フェイトの魔力の刃はその人影に当たるより前に、別のローブの人物が間に割って入る。

甲高い音と共に、その人物の左手の楯がフェイトの魔力刃を受け止めていた。

そのバリアジャケットとは違う特徴的な形状に、なのはとフェイトの声が重なる。

 

「「聖衣(クロス)!?」」

 

左手だけしか見えてないが、それは明らかに聖衣(クロス)だった。

楯も腕に装着され、決して拳を阻害しないようになっている。

 

「…」

 

「!? フェイト!?」

 

動揺するフェイトに、今度はアリサを抱えた人物が右手に持った『何か』をフェイトに掲げようとするが、それより早くシュウトがフェイトを抱え後ろへと下がる。

同時に、快人は倒れたままだったすずかを抱きかかえ後ろへと下がった。

一箇所に集まり、油断無く5人のローブの人影を睨む4人。

そんな4人に、アリサを抱えた人影は感嘆の声を上げた。

 

「さすがの身のこなしだな、黄金聖闘士(ゴールドセイント)

 それに2人の小娘からもわずかだが小宇宙(コスモ)を感じる…」

 

快人とシュウトをはっきりと『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』と言ったことで、なのはとフェイトはよりいっそうの警戒を強める。

そんな中、快人とシュウトは相手の正体に気付いていた。

アリサを抱える人物が右手に持つのは『黄金のリンゴ』、そして5人の聖闘士(セイント)と言えば、それが指すものは一つしかない。

そして、快人が5つの人影に言った。

 

「おいおい、いくら夏の風物詩だからって本当に幽霊が出てくることはねぇだろ…なぁ、亡霊聖闘士(ゴーストセイント)どもよぉ!!」

 

それは争いの女神エリスに忠誠を誓い、蘇った聖闘士(セイント)

過去の世界で英雄とされながらも、死してその名が忘れられることを嘆き、邪神に魂を売った亡霊たち。

その名を…亡霊聖闘士(ゴーストセイント)と言った…。

 

 

 




という訳で『邪神エリス』編の開始です。
夏といえば幽霊、幽霊と言えば亡霊聖闘士ということで。
今思うと、亡霊聖闘士は冥闘士の設定と被り過ぎな気がするなぁ。

夏と言えば海…とも考えましたが、ポセイドンはちょっと荷が重すぎる。
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