俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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ついこの間、Ωにて主役とヒロインをフルボッコにして強さを見せつけたオリオン座の人と戦闘です。
今回は流石の黄金聖闘士も大苦戦、その理由は…。


第20話 蟹、亡霊筆頭と対決する

「へっ…やっと御対面ってところか。 邪神エリスさんよぉ!」

 

不敵に笑う快人に、エリスは訳が分からないという風に言う。

 

「何故貴様がここに!? クライストはどうした!?」

 

「クライスト?

 あの亡霊聖闘士(ゴーストセイント)のことなら先に帰ったぜ、地獄へな」

 

何でも無い風に言ってのけると快人は磔にされたなのはを見た。

自分の渡した蟹座聖衣(キャンサークロス)の左手がなのはを守っていることにホッと息を付く。

 

「無事みたいだな、なのは」

 

「快人くん…」

 

「あとは俺が何とかする。 もう少しだけ、待ってろ」

 

「うん…」

 

それだけ言葉を交わして快人は一歩、歩み出る。

 

「さて…すずかを酷い目合わせてアリサを攫った挙句その身体をおもちゃにして、なのはまで生贄とは…随分とムカつく真似してくれるな、クソ神様よ!

 覚悟はいいか、クソ神! これでこのクソつまらねぇ肝試しはフィナーレだ!!

 冥府(タルタロス)へ廃棄物として返品してやらぁ!!」

 

拳をポキポキと鳴らし、獰猛に言い放つ。

小宇宙(コスモ)がまるで燃えるように、快人から立ち上った。

 

「ふん、ゴミの分際でよく吠える。

 いいだろう、この小娘の顔を絶望で歪めてやりたいと思っていたところだ。

 丁度いい、目の前で殺してやろう。

 ジャガー!!」

 

エリスの声に、ジャガーが快人の前に立ち塞がった。

 

「オリオン座のジャガー…元伝説の聖闘士(セイント)

 その力は黄金聖闘士(ゴールドセイント)に勝るとも劣らない…だったか?

 それが今じゃ邪神の犬の亡霊聖闘士(ゴーストセイント)筆頭格とは…落ちぶれたもんだな」

 

「何を言う。 死という終わりで俺の栄光も名も忘れ去られるところを、俺はさらに戦い、この名を上げる機会を得たのだ。

 俺たちの戦いに何も酬いないアテナより、信じられるというもの」

 

「まぁ、確かに信賞必罰は世の常、そういったことをあの女神さまはわからんからなぁ…その気持ちはなんとなくわかるわ」

 

少し思い当たる節があるのか、快人はポリポリと頬を掻く。

同じことを言ってアテナを裏切って、マルスについた蠅座の白銀聖闘士(シルバーセイント)がいたなぁなどと思いながら。

 

「まぁ正直、あんたが何考えてようがどうでもいいんだ。

 俺にとって重要なことはたった一つ…お前らはすずかに、アリサに、フェイトに、そしてなのはに手を出した。

 俺の大切なものにその薄汚い手で触れた。

 …火葬確定だ、クソ野郎! そこのクソ神ともども地獄で後悔しやがれ!!」

 

「貴様こそ、俺の栄光の糧となれ!!」

 

快人とジャガーが同時に大地を蹴ってぶつかり合った。

拳と拳のぶつかり合いが衝撃波を生む。

 

「ほう…流石は黄金聖闘士(ゴールドセイント)、今のを受け止めるか」

 

「そりゃそうだ。 今のも止められずに黄金聖闘士(ゴールドセイント)は名乗れない」

 

その瞬間、快人は身体を捻ると右の足を叩き込む。

上段・中段・下段にほぼ同時に繰り出され、まるで足が3本に増えた様に見える高速の蹴りがジャガーに襲いかかる。

 

「ぬぅ!?」

 

ジャガーは足と腕でそれをガードするが、その一撃でオリオン聖衣(クロス)に細かなヒビが入った。

 

「何!? 俺の小宇宙(コスモ)で強度の増したオリオン聖衣(クロス)に一撃で傷を!?」

 

驚くジャガーに、快人は言い放つ。

 

「ジャガーさんよ、俺を舐めるのも大概にしろよ。

 俺はな、腐っても黄金聖闘士(ゴールドセイント)の看板背負ってるんだ。

 どんな思い上がりか知らないが、お前ら亡霊聖闘士(ゴーストセイント)の力は白銀聖闘士(シルバーセイント)の中位から上位レベル、あんたはそれよりずいぶんマシみたいだが、結局は『黄金聖闘士(ゴールドセイント)に勝るとも劣らない』程度だ。

 それが俺に、黄金聖闘士(ゴールドセイント)に勝てると思ってるのか?」

 

快人はそれだけ言い放つと、右の拳をジャガーの胸元へと叩き込んだ。

 

「ぬわぁぁぁ!?」

 

その一撃で聖衣(クロス)の胸部がひび割れ、衝撃でジャガーが柱へと叩きつけられる。

 

「く…」

 

そして、起き上がろうとしたジャガーは見た。

自分に迫る、蒼い炎の渦を。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

快人の放った積尸気鬼蒼焔(せきしききそうえん)によって、ジャガーは火だるまになったのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「なーんだ、亡霊聖闘士(ゴーストセイント)筆頭格っていうからどんなもんかと思ったら弱いでやんの」

 

つまらなそうに快人は肩を竦めると、興味を失ったようにジャガーに背を向け、なのはに、そして邪神エリスへと向き直った。

 

「さぁて…見ての通り、お前御自慢の亡霊(ゴースト)どもは皆一足早く地獄へ帰ったぜ。

 お前も後を追ってやったらどうだ?」

 

快人の言葉に、しかしエリスはニヤリと嗤い答えたのだった。

 

「ふふふ…最後の優越感は楽しんでくれたかしら?」

 

「何?」

 

エリスの言葉に快人は眉をひそめると同時に、なのはが声を上げる。

 

「快人くん、後ろ!!」

 

「何ィ!?」

 

なのはの言葉に快人が身を捩じらせると、そこを凄まじいスピードの拳が貫いていく。

なのはの言葉が無ければまともに食らっていたところだ。

快人は大きく飛び退くと目の前の光景に驚きの声を上げる。

 

「おいおい、魂まで焼く鬼蒼焔で火ダルマになったんだぞ。

 何だってピンピンしてるんだあいつは…」

 

そこにいたのは先程倒したと思っていたジャガーだ。

だが、先程までとは明らかに何かが違う。

押さえこんでいた何かが解放されたような…そんな気配がする。

 

蟹座(キャンサー)、お前は確かに強いな。 手加減をした状態では勝てんらしい。

 エリス様、『力』を使う御許可を」

 

ジャガーのその言葉にエリスは嗤いながら答える。

 

「よかろう、その無礼な黄金聖闘士(ゴールドセイント)を八つ裂きにしてやれ」

 

「仰せのままに、エリス様」

 

ジャガーのその言葉と同時に、快人は吹き飛ばされていた。

 

「ぐわっ!?」

 

何とか空中で体勢を立て直し着地する快人に、即座にジャガーは追撃に入る。

拳・蹴りが無数に2人の間を行き交うが、その攻防は明らかに快人が押されていた。

そしてジャガーの振り下ろすような拳が快人を捉える。

 

「がっ!?」

 

「快人くん!?」

 

なのはの悲鳴のような声。

バウンドしながら吹き飛ばされた快人は、それでもなんとかバランスをとって着地する。

 

「バカな…」

 

一撃を受けて口から流れ出た血を拭いながら、快人は呟いていた。

 

「この小宇宙(コスモ)…さっきまでとは桁が違う。

 亡霊聖闘士(ゴーストセイント)筆頭とはいえこの小宇宙(コスモ)は異常過ぎるぞ。

 一体何が…」

 

その時、快人の視界の片隅にニヤニヤと嗤うエリスの姿が映る。

瞬間、電光にも似た直感が快人の中を駆け巡った。

ジャガーの異常なまでのパワーアップに、肉の身体を得た邪神エリス…その2つが合わさる。

そして見えた答えは…。

 

「お前まさか…血を!?」

 

「ふふふ…勘がいいな、蟹座(キャンサー)

 その通り、俺はエリス様の血を授かったのだ!!」

 

その言葉に、快人は嫌な予感が当たったことを意識した。

神の血というのは、それだけで特殊な力が備わっている。

アテナの血で作った護符は神すら弱体化に追い込み、ハーデスの血を受けた『翼竜』はまさしく『神竜』となった。

エリスの神としての格、完全に復活していない事実、肉体を得て数時間もたっていないという事実のせいで、かの神竜には比べるべくもないだろうが、それでもその凄まじさには変わり無い。

もはや今のジャガーは『亡霊』とカテゴライズされる存在ではない。

『神霊』、とでもいうのだろうか?

 

「他のヤツらはお前ら黄金聖闘士(ゴールドセイント)をあなどり、勝てると思っていたようだが俺は違う。黄金聖闘士(ゴールドセイント)の力は十分理解していたつもりだ。

 だからこそ、本来は我ら亡霊聖闘士(ゴーストセイント)は全員エリス様の血を授かり、力を高めた後にお前たちを殺しに行く予定だったが…」

 

「俺たちが予想以上に早くここまで来たせいで、お前以外はエリスの血を授かる時間が無かった、ってことか?」

 

どうやら、すぐにアリサを助けるために乗り込んだ快人たちの行動は正解だったようだ。

こんな隠し玉を亡霊聖闘士(ゴーストセイント)全員に施されていたら、どうしようもない事態になっていただろう。

ジャガー1人だけというのは僥倖といえる。

だが、そのジャガーは自分1人で十分だと言い放つ。

 

「俺1人でお前も魚座(ピスケス)も十分。

 神の力を得た俺の前では、黄金聖闘士(ゴールドセイント)など雑魚同然よ!」

 

「へっ、俺たちを雑魚とはね。 大きく出てくれたじゃねぇか…。

 だったら…やってみろよ、このクソ神の犬が!!」

 

快人は飛び出すと渾身の右拳を叩きつける。

だが。

 

「ぐ…」

 

「こんなものか、蟹座(キャンサー)?」

 

快人渾身の拳はしかし、ジャガーの左掌で掴まれ、防がれていた。

そしてジャガーの小宇宙(コスモ)が高まっていく。

快人が危険を感じ、退こうとしたときには遅い。

ジャガーの左手に集まった凄まじい小宇宙(コスモ)が爆発した。

 

「うわぁぁぁぁ!!?」

 

「快人くん!?」

 

快人の苦悶の叫びに、なのはが悲鳴を上げる。

そして、なのはは見てしまった。

最強の黄金聖衣(ゴールドクロス)が…砕ける瞬間を。

その右腕パーツが砕け、快人の右の拳から赤い血が噴出する。

 

(やべぇ! 右の拳が完全にイカれた!!)

 

今の小宇宙(コスモ)の爆発で骨、筋肉ともに一撃でズタズタにされてしまった。

黄金聖衣(ゴールドクロス)のおかげで千切れ飛ぶことはなかったが、右手はつかいようが無い。

快人の顔が苦痛で歪み、衝撃で大きく仰け反る。

その隙をジャガーは見逃さなかった。

 

「はぁ!!」

 

空中へと飛び上がったジャガーは、回転しながら空中から快人へ迫る。

紫の怪しい小宇宙(コスモ)を纏いながら快人に迫る姿は、まるで不吉なる隕石。

そして、その隕石が快人へと襲いかかった。

 

「メガトン・メテオ・クラッシュ!!」

 

オリオン座必殺のキックが、快人へと直撃する。

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!!?」

 

黄金の破片を宙に舞わせながら、快人が吹き飛ぶ。

そして壁へと叩きつけられた。

 

「かはっ!?」

 

息と共に血が溢れ出す。

口から血を吐くと、快人はそのままうつ伏せで倒れ込んだのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「快人くん! 快人くん!!」

 

なのはの叫び。だがその声に、快人はピクリとも反応しない。

そんななのはの様子を見て、エリスはさも楽しそうに嗤った。

 

「あははは、無駄よ無駄。

 お前の信じる蟹座(キャンサー)黄金聖闘士(ゴールドセイント)は今、死んだのよ。

 私のしもべ、ジャガーによってね!

 ジャガーよくやったわ!

 その調子で残りの2人も殺して、ここへ死体を持って来なさい。

 ふふ…蟹座(キャンサー)だけでなく、魚座(ピスケス)とあの小娘の死んだ時のお前の顔が楽しみだわ」

 

「は、仰せのままに」

 

そうしてエリス神殿を後にしようとするジャガーの背中から蒼い炎が襲い掛かり、ジャガーを火ダルマに変える。

 

「快人くん!」

 

「おいコラ…何、勝手に勝ったつもりで話を進めてやがるんだ…!」

 

いつの間にか、起き上がった快人が左手を突き出している。

だが、その姿はどう見てもボロボロ。

血を吐きながら肩で息をし、右腕は出血しながら力なく垂れ下がっている。

快人の身を守る蟹座聖衣(キャンサークロス)も、快人本人と同じく傷付いていた。

その衝撃で所々にヒビが入っていたが、特に右腕パーツとボディパーツの損傷は酷い。

右腕は手甲部分が完全に粉々になり、ジャガー必殺の技である『メガトン・メテオ・クラッシュ』の直撃を受けたボディパーツは特に大きなヒビが入っている。

だがそれでも完全破壊されずヒビ程度で済んでいるのは、黄金聖衣(ゴールドクロス)の強度のおかげだ。

 

「なるほど、さすがは最強の黄金聖衣(ゴールドクロス)

 それに守られ、今の攻撃では死にきれなかったか」

 

ジャガーが手を振るうと、ジャガーを包んでいた蒼い炎が跡形も無く振り払われる。

魂すら燃やす業火を受けたにも関わらずその身体には焦げ目一つ無い。

 

「そのまま倒れていれば楽に死ねたものを…」

 

「悪いがこっちは夏休みの予定が詰まっててな。早いとこなのは助け出して、アリサ助けてすずか助けて、明日に備えて寝なきゃならねぇ。

 お前とクソ神様を火葬にするのに倒れてる暇も、死んでる暇もないんだよ」

 

そう挑発的に快人が言い放つが、ジャガーは鼻で笑って答えていた。

 

「ふん、すでに立っているのもやっとの分際でよく吼える。

 いや、逆にそれだけ吼えれれば上等と言ったところか」

 

「そう思うんなら…試してみやがれ!!」

 

「ふっ」

 

吼えて飛び上がった快人の突き刺すような鋭い蹴りがジャガーに放たれるが、それをジャガーは右手で受け止めると、その足首をつかんで地面へと叩きつけた。

 

「がはっ!?」

 

小規模なクレーターが形成され、快人が血の混じった息を吐き出す。

だが、息つく間も無く迫るジャガーの追撃をかわすため、快人が横へと大きく飛びのいた。

 

「クソ…がァァァァ!!?」

 

快人の必死の形相で吼えながら再び攻撃を仕掛けようと飛び掛るが、ジャガーは涼しい顔のまま快人の攻撃を捌くのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

なのはは目を背けることも出来ず目の前の光景を見続けていた。

利き腕である右手を潰された快人の劣勢は、火を見るより明らかだった。

いや、利き腕が無くても快人は十分に強い。

だが、それ以上にエリスの血を授かったジャガーが異常すぎるのだ。

 

「いや…いやぁ…」

 

ジャガーの拳が、蹴りが的確に快人に突き刺さる。

そのたびに黄金の破片が舞い、嫌な音が快人から響く。

幼馴染が…快人が文字通り『壊されていく』。

 

「やめて…もうやめてよ! 快人くんが…快人くんが死んじゃう!!」

 

なのはの涙交じりの悲痛な声に、邪悪な神は満足そうに嗤った。

 

「そう、お前のその顔が見たかったのだ!

 さぁ、ジャガー! 止めを刺すのだ!!」

 

「仰せのままに、エリス様。

 情けだ蟹座(キャンサー)、一思いにあの世に送ってやろう!」

 

拳に打たれるままになっていた快人が大きく仰け反るのに合わせ、ジャガーが飛んだ。

ジャガーをあの怪しい紫の小宇宙(コスモ)が包んでいく。

それはジャガー必殺のメガトン・メテオ・クラッシュの態勢。

避ける術など、今の快人にはない。

 

「やめて、やめてぇぇぇ!!」

 

ガチャガチャと磔にされた手足をばたつかせるなのはだが、それで何かが変わるはずも無い。

 

「メガトン・メテオ・クラッシュ!!」

 

そして、その一撃は快人の頭に直撃した。

 

「快人くん!?」

 

蟹座聖衣(キャンサークロス)のヘッドパーツが粉々に砕け散る。

吹き飛ばされた快人が、石柱を何本も砕きながら吹き飛ばされ、ベチャリという嫌な音と共に壁へと叩きつけられた。

そして、ズルズルと赤い血の跡を残しながら快人は床へと崩れ落ちようとするが…。

 

「ぐぅ…」

 

踏みとどまった。

頭から血を流し、ふらつきながらも快人はその2本の足で立っていた。

もし今倒れればもう起き上がってこれない…それを強く理解していた快人は全力をもって踏みとどまったのだ。

快人の『死』を強く意識してしまったなのはは、快人が生きていることに少しの安心を覚える。

だが、快人が満身創痍なのは間違いない。

もはや次は無い。

 

「もういい、もういいから! 全部もういいから、快人くんだけでも逃げてぇ!!

 お願い、快人くん!!」

 

なのはからの叫びは本心。

このままでは自分が生贄として命を落とすことは分かっているが、それでも快人に生きて欲しかった。

だが、そんな快人の身を案じたなのはへの回答は…。

 

「…ふざけんな。 ふざけんなよ、なのは!!」

 

快人からの怒りの声だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

メガトン・メテオ・クラッシュの直撃を頭に受け、快人の意識は混濁の海を泳いでいた。

ジャガーの必殺の技を頭で受けたのだから当然である。

むしろ蟹座聖衣(キャンサークロス)のヘッドパーツの防御力と、本能的に防御のために小宇宙(コスモ)を高めたお陰でこの程度で済んでいるのだ。

そうでなければ、今頃頭が粉々に吹き飛んでいる。

 

(やべぇ…今倒れたら、もう起きてこれねぇ…)

 

壁に叩きつけられズルズルと崩れ落ちていく中、それを強く自覚した快人は渾身の力を持って何とか倒れることだけは踏みとどまる。

 

「ぐぅ…」

 

赤く染まる視界と混濁する意識。ガクガクと震える身体。

どれもこれもがレッドゾーン。いつ倒れたっておかしくない。

 

(あはは…本格的にやべぇな、こりゃ…)

 

纏まらない意識の中で、訳も無く苦笑が漏れそうになる。

だが、そんな快人の意識は、なのはの言葉で正常に引き戻された。

 

「もういい、もういいから! 全部もういいから、快人くんだけでも逃げてぇ!!

 お願い、快人くん!!」

 

なのはの涙交じりの叫び。

それを聞いた快人の意識が、混濁の中から引き戻されて行く。

 

(…何バカほざいてるんだ、なのはは?)

 

今すぐにでもバカなことをほざく幼馴染の口を、あのぷにぷに柔らかい頬っぺた引っ張って黙らせてやりたい。

だが、今はそんなことが出来る状態でもない。

だから、気付いたときには快人はなのはに怒鳴ることで、その口を黙らせていた。

 

「…ふざけんな。 ふざけんなよ、なのは!!」

 

「!?」

 

なのはが快人の怒鳴り声に息を呑む。

今の状態でこれほどはっきりとした声が出せることが、快人自身にも不思議だった。

そのままの勢いで、快人は思うままにぶちまける。

 

「俺にお前らを見捨てろって言うのか。 ふざけるなよ、なのは!

 『命も幸せも塵芥』…俺は父さんも母さんも、『死』という暴風から守ることは出来なかった…。『死』にとらわれた後の父さんと母さんには何もできなかった…」

 

それは快人が知った聖闘士(セイント)としての限界。

『死んだ後には救えない』という、至極当たり前の事実。

 

「でも、お前は違う! お前もアリサもすずかも、みんなまだ生きて、俺の前にいるんだ!

 『死んだ後』と違ってまだ生きて、手が届くんだ!

 それなのにそれを諦めて、自分だけ生き残って…そんな俺の力に、聖闘士(セイント)の力に何の意味があるんだよ!

 今度は守るんだよ、例え全部が救えなくても、この力で目の前の散りゆく『命』も『幸せ』もな!!

 これが聖闘士(セイント)としての俺の意地だ!

 だから頼む…俺に意地を通させろ!

 俺に…お前を守らせてくれ、なのは!!」

 

「快人くん…」

 

快人の言葉に、なのはは二の句が告げられない。

快人がどれだけの決意を込めて戦っているか、分かったから。

快人がどれだけ本気で自分たちを救おうとしているか、分かったから。

だから、快人がどうやっても退かないだろうことをなのはは理解する。

そんな快人を、エリスとジャガーはあざ笑う。

 

「あはははは、大層な意地だこと。

 『命』と『幸せ』を守る?

 出来もしないことをよくもまぁ…口は達者のようね」

 

「エリス様の言うとおりだ。

 己の意地を通すと言うのは、強者のみに許されるもの。

 お前のような弱者にはその資格は無い。

 その儚い弱者の夢を抱いて死ねぇ!!」

 

ジャガーが快人に急接近し、その身体へ拳の連打を浴びせる。

棒立ちの快人は何も出来ず、サンドバックの状態だ。

その光景に、なのはの目から涙が零れた。

 

(私も守りたいよ、快人くんを…私の大事な人を!!)

 

命を賭けて、自分を救おうと戦う快人の力になれない…。

快人の危機に、ただ見ていることしか出来ない自分が恨めしい…なのはが思った、その時だ。

 

(!? …できる、私も快人くんの助けになることが!)

 

それは電光のように駆け巡る閃き。

だが、その方法はなのはの命を危険に晒す行為だ。

しかし、なのはに迷いは無い。

 

(快人くんがなのはを守ってくれるように、なのはも快人くんを守りたい。

 だったら快人くんが命を賭けて戦ってくれているように、なのはもこの命を賭けて快人くんの助けになるの!!)

 

なのはは自分の残り僅かな小宇宙(コスモ)を最大限に高め、燃焼させていく。

そして…その小宇宙(コスモ)を左手の蟹座聖衣(キャンサークロス)へと送り込むと、叫んだ。

 

「行って! 行って蟹座聖衣(キャンサークロス)!!

 あなたのご主人様を! 快人くんを! なのはの大切な人を守ってぇぇぇぇ!!」

 

 

パァ…!

 

 

なのはの叫びと共に、なのはの左手に装着された蟹座聖衣(キャンサークロス)が一際強い光を放つ。

 

「なっ!? これは!?」

 

その光に、エリスが思わずたじろいだ。

その瞬間、蟹座聖衣(キャンサークロス)は光となって快人へと飛んでいく。

 

「う、うぅ…」

 

それと同時に、なのはに何かが抜けていくような虚脱感が襲い掛かってくる。

蟹座聖衣(キャンサークロス)が守っていた『黄金のリンゴ』の波動が、なのはの命を吸い始めたのだ。

何かが抜けていく感覚に、苦悶の表情を浮かべるなのはだが、その視線は快人へと注がれている。

 

(勝って、快人くん!!)

 

少女の祈りが、献身が、ただ一筋の光明を与える。

そして…黄金の闘士の反撃が始まった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

パシッ!

 

「何ぃ!?」

 

半死人の快人に自身の拳を防がれるとは思っていなかったジャガーは、驚きの声を上げる。

快人の顔面を襲うはずだったジャガーの右拳が、快人の左掌に受け止められていた。

その快人の左手には、なのはの送った蟹座聖衣(キャンサークロス)が装着されている。

ジャガーがいくら力と小宇宙(コスモ)を込めようと、快人は押し戻せない。

 

「死に損ないのお前のどこにそんな力が!?」

 

ジャガーの驚きに、しかし快人は意に介した風も無く穏やかな顔でポツリと呟いた。

 

「ああ、綺麗だな…」

 

この時、快人はジャガーのことなど見てはいなかった。

蟹座聖衣(キャンサークロス)の左手に、なのはが込めた小宇宙(コスモ)を見ていた。

小宇宙(コスモ)は魂の力。

なのはの魂の色が、魂の想いが、鮮やかに、そして鮮明に伝わってくる。

その真っ白な雪のような綺麗さに、快人は思わず呟いたのだった。

そして、その瞳に今までに無い闘志がこもる。

 

「なのはが、俺のためにここまでやってくれたんだ。

 俺もカッコいいとこ見せないと、なのはに愛想尽かされちまう。

 とりあえずは…このクソ野郎とクソ神ぶっ潰して、すぐに助けてやらないとな!!」

 

言葉と共に、快人の小宇宙(コスモ)が際限なく膨れ上がっていく。

 

「この小宇宙(コスモ)!? お前のどこにそんな力が!?」

 

「今、『しっかりしろ』って尻を叩かれてな! そのお陰だよ!!」

 

快人の左手に蒼い炎が渦巻いていく。

 

「意趣返しだぜ、ジャガー! 積尸気魂葬破(せきしきこんそうは)!!」

 

「うおぉぉぉ!?」

 

快人の放つ積尸気魂葬破(せきしきこんそうは)の爆発が、掴んだままのジャガーの右腕に直撃する。

オリオン聖衣(クロス)の右腕部分が粉々に吹き飛び、ジャガーの右腕から血が噴き出す。

右腕を抱えるように痛みにもだえるジャガーが、その怒りの瞳を快人へと向けた。

 

「貴様ぁ!?」

 

「だから言ったろ、意趣返しだってな!

 お互い、利き手は潰れた。これで互角だ!」

 

「俺はエリス様の血を、神の力を得たのだ!

 お前ごときと互角であるはずが無い!!」

 

そう言って、ジャガーが快人への蹴りを放つと、快人も同じく蹴りを持って迎撃する。

互いの右足がぶつかり合うが、砕けたのはオリオン聖衣(クロス)の右足。

 

「な!? オリオン聖衣(クロス)が!?」

 

「何を驚いてるんだ?

 オリオン聖衣(クロス)蟹座聖衣(キャンサークロス)、強度なら黄金聖衣(ゴールドクロス)である蟹座聖衣(キャンサークロス)のほうが上。

 同レベルの小宇宙(コスモ)で強度が同じように上がってるなら、必然的に破壊されるのは脆いそっち側だ!!」

 

それは今の快人の小宇宙(コスモ)が、神の血を受け超強化されたジャガーの小宇宙(コスモ)と同レベルかそれ以上だという事実。

 

「そんなはずが、そんなはずがあるか!?

 俺が手に入れたのは神の力だ! それがお前ごときに超えられるわけがない!!」

 

「そっちこそ忘れてるんじゃないだろうな。

 小宇宙(コスモ)とは魂の力、人の内側に広がる小さな宇宙だ。

 宇宙は無限、ならば小宇宙(コスモ)だって無限大。

 お前のような自分の栄光のために戦うのではない、守るべきもののために戦う真の聖闘士(セイント)小宇宙(コスモ)は…無限だ!!」

 

「世迷いごとを言うなぁぁぁぁ!!」

 

大きく飛び上がるジャガーが最大限に小宇宙(コスモ)を高め、メガトン・メテオ・クラッシュの態勢に入る。

だが、快人はそれを正面から見据えながら言い放った。

 

聖闘士(セイント)に何度も同じ技が通用すると思うなよ!!」

 

快人が左拳を握り、腰だめに構える。

同時に、最大にまで高まった小宇宙(コスモ)が快人の左拳へと集中していく。

この技は快人が憧れた、ある星座の奥義を再現しようとしたもの。

シュウトが水瓶座(アクエリアス)の『フリージング・コフィン』を真似て、新たな技である『ブリザード・ローズ』を習得したことを知った快人は、どうにか自分にその技が再現できないか試していた。

その結果として、どういうわけか敵側の技に近くなってしまったという本末転倒な技である。

だがその威力に関してなら予想以上、単一目標に対する破壊力なら、現在の快人の最大火力である。

 

「メガトン・メテオ・クラッシュ!!」

 

迫る禍々しき隕石。

それに向かって快人は最大にまで高まった小宇宙(コスモ)を爆発させた。

 

積尸気蒼焔弾(せきしきそうえんだん)!!」

 

拳と共に放たれる巨大な蒼い火球。

積尸気蒼焔弾(せきしきそうえんだん)―――積尸気鬼蒼焔(せきしききそうえん)の煉獄の炎を、限界にまで圧縮・凝縮した火球だ。

快人の憧れた、獅子座(レオ)の奥義である『ライトニングボルト』を、積尸気の炎で再現しようとした結果がこれである。

その結果、なんだかベヌウの輝火の奥義『コロナ・ブラスト』に近いとシュウトに散々言われた技だ。

その蒼い火球が、迫る隕石へと直撃する。

 

「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

積尸気鬼蒼焔(せきしききそうえん)を超えた超高温。

ベヌウの輝火の『コロナ・ブラスト』のように、黄金聖衣(ゴールドクロス)を融解させるほどの純粋熱量は無いが、かわりに積尸気の炎の特性である魂にダメージを与える効果があるそれに炙られ、ジャガーのオリオン聖衣(クロス)が砕け、その肉体が燃えていく。

 

「へ…火葬完了だ、クソ野郎!」

 

ジャガーの断末魔の声に、快人は拳を突き出した態勢のまま、そう吐き出したのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

バタリと、消し炭同然になったジャガーが地面へと転がる。

肉体は魂ごと完全に燃え尽き、残っているのはオリオン聖衣(クロス)の破損したパーツのみだ。

それを確認し、快人はエリスへと向き直る。

 

「まさか私の血を授けたジャガーまで敗れるとは…」

 

「さて…これでお前ご自慢の亡霊(ゴースト)どもは全員、地獄へ舞い戻ったぜ。

 次はお前が地獄へ戻る番だ、邪神エリス!

 俺の大切なものを傷つけた代償は…きっちり払ってもらう!」

 

そう宣言した快人へ、エリスは激昂しながら手にした矛を向けた。

 

「自惚れるな、死に損ないが!!」

 

途端に、強大な小宇宙(コスモ)が突風となり快人に襲い掛かる。

 

「うぉぉぉ!?」

 

快人は吹き飛ばされながらも必死にバランスを取ると着地するが、今までのダメージとで片膝をついてしまう。

そんな、まるで跪いているように見える快人へとエリスは言い放った。

 

「お前たち人間ごときが、神である私に勝てるとでも思っているの!

 お前たちのような虫ケラの始末のような雑事に、神である私が出向くなど面倒だから亡霊聖闘士(ゴーストセイント)たちを使っていたにすぎないのよ!

 だがお前のその不遜な態度…気に食わないわ。

 いいわ、私手ずからこの小娘の前で殺してやろう、蟹座(キャンサー)黄金聖闘士(ゴールドセイント)!!」

 

同時にエリスから放射される圧倒的な小宇宙(コスモ)

 

「へ…こいつはすげぇ。 さすがは神様。

 こりゃ、もうちょっと時間が掛かりそうだ…」

 

そう呟きながら快人は身を起こすと、無事な左拳を握り締める。

右手は壊れ、頭から血を流し、聖衣(クロス)もボロボロ。

その状態で迫り来る邪神エリス。

だが…諦めなど欠片もない。

快人は一つ大きく息をすると、小宇宙(コスモ)を高める。

 

「行くぞ、邪神!!」

 

「来るがいい、虫ケラ!!」

 

この戦いの最終決戦、人と邪神の戦いが今始まる…。

 

 




という訳でVSジャガー戦でした。
感想で亡霊聖闘士が弱すぎという指摘がありましたが、準備不足だったということです。
神の血は薄くても本当にヤバい。

ボロボロにやられた後、ヒロインの決死の行動で立ち上がり逆転…王道展開でしょうが、悪くないカタルシスだと思います。
お約束の飛んでくる黄金聖衣も出来ましたので。

次回は聖闘士星矢においては絶望的な戦力差の戦闘、『対神戦』です。
弱体化しているとはいえ神の猛攻に2人の黄金聖闘士がどう戦うのかご期待下さい。
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