邪神エリスとその配下の5人の
戦いを終えた彼らは日常へと帰っていくことになる。
そして、帰ってきた日常で最初にやっていることは…。
「さて…納得のいく説明をしてもらおうか?」
正座を強要された上での、恭也を筆頭にした保護者の面々からのキツいお説教だった…。
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あの戦いが終わって9時間、現在朝の6時を廻ったあたりである。
とはいえ、快人たちにとっては戦いから9日後だ。
戦いを終えた快人たちだが、その傷は決して浅くは無かった。
なのはとフェイトは体中に打ち身・擦り傷が出来ていたし、シュウトは腹を刺され出血多量の状態。
特に酷い快人は右手・右足が砕かれ、全身ズタボロの状態であった。
そんな状態で戻れるわけもなく、守護宮の特性である『外の世界の1時間=守護宮での1日』を利用して守護宮で傷を癒していたのである。
その甲斐あって、全員普通ぐらいには回復していた。
一番状況の危ぶまれていた快人も、なのはの献身的な回復魔法の治療と、快人自身の
そうして4人は別荘へとこっそりと戻ってきたのだが…待っていたのは明らかに怒った保護者一同である。
そして有無を言わせぬ勢いで、朝も早くからお説教大会が始まったというわけだ。
「大体、何で全員起きてるんだよシュウト…」
「ボクにも分からないよ…」
快人の小声の愚痴を、同じくシュウトが小声で返す。
快人たちの予定ではこんなはずではなかった。
本来なら別荘の人間が全員眠っているところに、素知らぬ顔でベッドに入って何も無かったことにするつもりだったのだ。
そのためにアリサとすずかを別荘に送ったシュウトは、睡眠毒を放つ薔薇を別荘中にばらまき、絶対朝まで起きないようにしていたはずなのだが…現実はこれである。
後で分かったことだが、恭也も忍も直前まで完全に眠っていたらしい。
ただノエルとファリンの2人に起こされたということだ。
ノエルとファリンの2人が何で眠っていないのかは、正直に言えば謎である。
とにもかくにも大説教大会。
快人たちは『夜散歩に出て野原で寝転がって星を見てたら眠ってしまって、今帰ってきた』ということで口裏を合わせて説明することになった。
心配させてしまったのは本当だし、真実はもっとヤバいことをやって帰ってきたとは言えず全員保護者一同のお叱りを黙って聞くのだが、それが戦いから日常へと帰ってきた証に思えて何だか嬉しかったのは4人の秘密である。
結局、その大説教大会は朝食までの2時間に及んだのだった…。
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「「アリサ(ちゃん)、すずか(ちゃん)、脅かしてごめんなさい!!」」
目が覚めたアリサとすずかを前になのはとフェイトが頭を下げる。
「その…悪かった。 ちょっと調子に乗り過ぎたよ」
「ごめん、2人とも。 悪乗りが過ぎたよ」
快人とシュウトもバツ悪そうにアリサとすずかに頭を下げたのだった。
「ううん、私は楽しかったから全然気にして無いよ。
ほら、アリサちゃんも」
「その…私も言い過ぎたわ。
折角の旅行なんだし、あのくらい羽目を外しても大目に見てやらなきゃね」
すずかに促されアリサもバツが悪そうだ。
アリサも勢いで言い過ぎたとちょっと思っていたらしい。
「でも…何かあのあとにあったような気がするのよね…?」
「あ、アリサちゃんもなの? 私も何かあったような気がするんだけど思いだせなくて…」
「まぁ、思いだせないってことは大したことじゃないってことだろ、気にすんなよ」
どうやらシュウトの施した忘却の薔薇の香りは上手く記憶を消してくれているらしい。
そのことを確認した快人は話を強引にそらすことにした。
「ほらほら、そんなことより今日は水族館行きだろ?
夏休みは目いっぱい楽しまないとな」
「アンタに言われなくても分かってるわよ。
みんな、行きましょ!」
「「「うん!!」」」
仲直りを果たした6人は、残りの旅行を心行くまで楽しんだのだった…。
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「ふぅ…疲れたの」
旅行から帰ったその日の夜、なのはは風呂上りに髪を乾かすとベッドに寝転がった。
楽しい旅行のはずが、邪神エリスと
なのはにとってはもう10日近く前の話だが、その程度で薄れるような体験ではない。
「
今回の戦いはなのはの常識を打ち破るに十分すぎるものだった。
『魔法』という力をなかなか高い次元で使うなのはを簡単にあしらうその存在たち。
だが…。
「あれが…快人くんの戦う世界なんだよね」
快人の戦う世界の遠さを、なのはは感じてしまう。
その時だ。
コンコン…
「?」
窓から何かを叩くような音がして、なのはが視線を向ける。
「よっ!」
「って、快人くん!?」
「バカ、静かに!」
窓の外には快人が
驚きの声を上げかかるなのはだが、快人の言葉に慌てて自分の口を押さえると窓を開けて快人を招き入れる。
「どうしたの、こんな夜に?」
「まぁ、ちょっと…な」
そう言って快人がなのはの部屋に降り立った。
「
なのはが痛ましそうに快人の纏う
右手・右足・胸と大きなダメージを受けた部分はそのままだし、ヘッドパーツは無い。
「まぁ、あれだけの損傷だからな。 直るにはちょいと時間がかかるさ」
「それで、快人くんは何しにきたの?」
「そう、それ何だが…ちょっと今から出掛けないか?」
「今から? どこに?」
「まぁ、それは着いてからのお楽しみってことで」
どうにもおかしな幼馴染の様子に、なのははいぶかしむが結局頷いた。
「よし、善は急げだ!」
「にゃ!?」
そう言うと快人はなのはを、いわゆるお姫様だっこで抱え上げた。
「ちょっと快人くん! なのはパジャマだよ!」
「いいっていいって。 俺、気にしないし」
「なのはが気にするの!? それに何でだっこするの!?」
「いや、飛んでくからさ。 お前、今レイジングハートないだろ?」
快人の言う通り、戦いで大ダメージを負ったなのはのレイジングハートは修理のためプレシアへと預けていた。
「ほれ、それじゃ俺がいいって言うまで目ぇ瞑ってろよ」
「はぁ…わかったの」
結局、強引な幼馴染の言葉に諦めの極致に達したなのはは、言う通り目を瞑った。
「よし、行くか!」
快人の声と共に、風を切るような音がする。
快人の
そして、しばらくして快人の声が聞こえた。
「ほい、目ぇ開けていいぞ」
「ん…」
瞑っていた目を開けたなのはが見たのはどこまでも澄んだ星空。
「うわぁ…!」
「どうだ、綺麗だろ? なんたって雲の上だからな」
快人たちのいるのは雲の上、遮る者の無い星々はその輝きを余すところなく伝えている。
「凄い綺麗…」
「ここは俺のお気に入りだからな。 心の綺麗な俺様には相応しい場所だろう?」
「…妄言はほどほどにした方がいいとなのはは思うの」
「…そりゃどういう意味だ、おい」
ジト目のなのはに、快人もこめかみをピクピクとさせながら言い返す。
だが、快人はため息を一つ付くと星空へと視線を戻した。
「俺たち
「そういうものなの?」
「そういうもんなの」
快人の言葉に一応の納得をして、なのはは視線を星空へと戻す。
しばらく、お互いに何も言わず星を眺めていたが、快人が少しずつ話を始めた。
「今日ここに来たのはさ、ちょっと話をしたかったからなんだよ」
「話って?」
すると、快人は言いずらそうに言葉を続ける。
「今回の
だから、さ…」
そこまで言うと、なのはが人差し指を快人の口に添え、そこから先の言葉を遮る。
「…もしかして、『もう自分に関わらない方がいい』とか言ったら怒るよ?」
「…言うわけないだろ。 今回だって俺一人だったら間違い無く負けてた。
なのはがいなけりゃ死んでたよ。
そんな俺が、一人で何かできると思うほどうぬぼれてねぇよ。
だから、さ…」
そしてなのはを真っ直ぐに見ながら快人は言った。
「これからも俺が危なくなったら助けてくれよな」
「もちろん。 その変わり、なのはが危なくなったら助けてね」
「当り前だ。 光の速さで駆けつけてやるよ」
「絶対だからね」
そう言って快人となのははお互いに微笑みあうと、星空へと視線を戻す。
今回の邪神エリスの件は明らかに黒幕がいると、快人は考えている。
本来、
邪神エリスの復活のために
それに、エリスを倒した後に空間の歪みを作った存在…思えば、行きの時のにもあまりにも空間の綻びが分かりやすすぎた。
最初はエリスの罠だと思っていたが冷静に考えれば、相手はエリスの血による強化を全員に施すつもりだったのだから時間が惜しかったはず。わざわざ招き入れるような必要はあるはずがない。
そうなればあれも意図的な何者かの仕業だろう。
あのあとにも接触が無いため意図は分からないが、何かしらが動いているのは間違いない。
そしてデスマスクが消滅の瞬間に言い残した『神』…それは邪神エリスではないだろう。
そうなれば、どう考えてもエリスより強い相手が敵の可能性は高い。
今後はさらに辛い戦いが待っていそうだ。
だが…。
(負けてたまるかよ、そんな奴らに!)
快人はこれからの戦いに決意と闘志を新たにする。
そんな快人の隣では、なのはも決意を新たにしていた。
(敵が強いも弱いも関係ない。 相手が何でも…神様だって関係ない。
なのはは快人くんの隣にいるって決めた。支えようって決めた。
だから…進んで見せる、この道を!)
さっきまで感じていた快人の戦う世界の遠さなど、もはやどうでもよかった。
だって快人が「危なくなったら助けてくれ」と、自分を頼ってくれている、対等に見ていることが分かったからだ。
なのはは右の掌を星空へと伸ばすと握りしめる。まるで星を掴み取ろうとするように。
(必ず、強くなってみせるから…)
不屈の心を持つ少女は、夜空の星たちにその決意を新たにしたのだった…。
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「こんにちは。 ここ、いいですか?」
「…ああ」
いつもの図書館の奥の奥、すずかはいつものように少年に話しかけると少年の正面に座る。
「…手」
「えっ?」
「…随分焼けてるな。 痛くないのか?」
そんな風に少年は本から視線を逸らさずに、すずかへと世間話を振る。
全く会話の無かった最初の頃と違い、少年も世間話くらいはすずかとするようになっていたのだ。
すずかとしては、驚くべき進歩だと思っている。
「これですか? えへへ…実はお友達と海に行ってて…。
それで、何ですけど…」
そう言って少しだけすずかは顔を赤らめると、何かを少年に差し出してきた。
それはネックレスだった。
青とピンクの色の小さなイルカの飾りのついたネックレスだ。
「これは?」
「あなたへのお土産です。 よければ貰って下さい」
「…いいのか?」
「はい!」
「…それならありがたく貰っておく。 ありがとう、すずか」
最初は胡乱気な視線ですずかを見た少年だが、すずかの全く下心の類がない微笑に小さく息をつくと礼を言いながらそれを受け取り、早速首にそれを付けた。
「似合ってますよ」
「…これが似合う男は少々おかしい気がするんだが、まぁいい。
今度、何かしらの形でお礼はさせてもらう」
「そんなのいいですよ、私が好きでやってることだから」
「1の恩には1の恩で報いるものだ。
こちらも好きで何か返させてもらう」
「…わかりました。楽しみにしてますね!」
「…ああ」
若干嬉しそうにすずかは頷くと、少年と同じように本を読もうと思って、ふと少年の読む本が目に入った。
それはこの図書館の本ではない。
表紙はまったくの無地、なんの本か分からないものだった。
好奇心に駆られ、すずかは少年に聞いてみることにした。
「ねぇ…その本って何なの?」
その言葉に、少年は本から視線を外さずにすずかへ答える。
「今朝方、知り合いから届けられたものでな。
まぁ…ファンタジー小説のようなものだ」
「へぇ…どんな話なんですか?」
「女の子がしゃべるフェレットと出会い『魔法』って力を手に入れて、危険物を封印したり、『魔法』で戦ったり…まぁ、そう言う話」
「ライトノベルっていうのですか?」
「…まぁ、そんなところだ」
少年はそのままページを読み進めていく。
「でも、そんな本が届けられるなんて、知り合いの人って作家さんか何かなの?」
「…」
その言葉に、少年はページをめくる手を始めて止めた。
そしてすずかの方を見ながら質問に答える。
「『アレ』が作家? それはない。
『アレ』は観客だよ。 しかも一番たちの悪いタイプのな」
「? たちの悪い観客?」
可愛らしく小首を傾げるすずかに、少年は言葉を続ける。
「そう。
この展開が気に入らない、この役者が気に入らないって文句を言う観客。
挙句の果てに、勝手に脚本の変更までやろうとするような奴だよ。
演じさせられる人間はたまったもんじゃない」
「そ、それは嫌かも…」
「だが、そう言うやつに限って『力』があるものでな…。
役者の交代や脚本の変更を本気でやって、自分の気に入った内容の芝居をさせるんだ」
「…何だか昔の独裁者みたい。 自分の偉業を称えるような映画とか作るような…」
「それ、確かに近いな…」
そこまで話すと、少年は本へと視線を戻す。
そんな少年に、すずかは再び話しかけた。
「ねぇ、あなたはこの夏にどこか行く予定はないの?」
「…特に無い。 ここでこうして本を読んでる」
「確かに図書館はいいところだけど、もっと面白いところがたくさんあると思うよ?」
「…特に興味ないな。
それに図書館はいいところだ。
知識が手に入るし…いい出会いもある」
「そ、それって…!?」
少年の言う『いい出会い』というのが、自分との出会いのことだと感じたすずかは顔を赤くし、恥ずかしがるように自分の本で顔を隠すように読み始める。
だから、すずかには見えていなかった。
少年の視線のずっと先―――そこに車椅子の少女と、それを優しく押す同い年くらいの、だが随分大柄な少年の姿があったことを。
少年は誰にも気付かれること無く、薄く笑った…。
邪神エリス編のエピローグでした。夏の間に終わってよかった…。
亡霊聖闘士や神との戦いを経て、主人公とヒロインたちはさらに強くなることを決意します。
そして…現在作品に登場予定の黄金聖闘士全ての登場になりました。
はやてのところの黄金ですが…たった一行の描写なのに何の星座か分かりそう。
分かってもネタバレはなしでお願いします。
次回から舞台裏を数回挟みA’S編の開幕です。