舞台裏その4 蟹と魚と人工知能、大いに悩む
成長をするためにもっとも必要なものは何だろうか?
トレーニング? それとも知識?
いや、それは『考える事』ではないだろうか?
経験から物事を学び、考え、状況を打破する。そしてそれを繰り返し蓄積していく…成長の神髄とは『考える事』と言っても過言ではないだろう。
それは人だけではなく、どんな動物もやっているひどく当り前のこと。
だから、魂もたぬ彼らがそんな成長のための『考え事』をするのも、そんなにおかしなことでは無かった。
暗い研究室にて、2つの球体が点滅を繰り返していた。
その2つの球体とは、なのはとフェイトの相棒であるインテリジェントデバイス、レイジングハートとバルディッシュのコアパーツである。
ここは時の庭園内にある、プレシアのラボだ。
この間の『邪神エリス事件』にて大きな損傷を受けた2体は通常の自己修復だけではまかない切れず、オーバーホールのためプレシアに預けられていた。
今は外装の全てを外され、メモリーとAIのみの存在となっている2体は、点滅を繰り返し、互いのネットワークを通じて言葉も無く会話していた。
インテリジェントデバイスというのは凄まじく優秀である。
魔法発動に状況分析・判断、その他通信・解析などの作業を戦闘という極限化で高効率にこなすのだからその優秀性は火を見るより明らか。
経験を蓄積・成長し、場合によっては自らの改造案すら提示する。
なのはとフェイトの相棒であるレイジングハートとバルディッシュは、そんなインテリジェントデバイスの中でもさらに優秀なシロモノだ。
そんな最高級インテリジェントデバイス2体は現在、ものの見事に思考が完全に行き詰っていた。
2体の現在取り組んでいる命題とは、『対
戦いというのは、常に最悪の敵を想定しておくものだ。
少なくともレイジングハートとバルディッシュは、そうしていつでも主であるなのはとフェイトの命を守るべく、思考し、成長している。
だが…今回現れた敵はあまりにもハードルが高すぎた。
まず
敵対した場合どれだけ恐ろしいかということを今回の出来事で嫌というほど思い知らされたのだ。
そして『神』という、あの快人たちですらギリギリの勝利をもぎ取ることがやっとの存在の登場。
ここまでくれば、『遭遇すること自体が絶対的な敗北』である。
だが、そんな運任せの結論で良いわけが無い。
結局、2体は『神』のことは取り合えず棚に上げ、まだ常識的な『対
2体はメモリーから、『邪神エリス事件』で遭遇した
なのはのシールドを拳一撃で破壊する『攻撃力』、なのはの砲撃とフェイトの魔力刃を受けてもびくともしない『防御力』、高速戦闘を得意とするフェイトを容易く凌駕する『機動力』…どれもこれもが出鱈目である。
決してなのはとフェイトが弱いわけではない。
それどころかなのはとフェイトは魔導士としてとてつもなく強い。
2人はただでさえ有り余った魔法の才を、経験と訓練によって開花させつつある。
さらに2人には
現在、この技術を持つ魔導士はなのはとフェイトをおいて他にはいないだろう。
そんな2人ですら、
勝てたのは快人とシュウトが保険として預けてくれた
その効果で増幅された
だが、その代償として超高出力になった魔法に耐え切れず、レイジングハートとバルディッシュは今の状態となってしまっている。
今後もなのはとフェイトは
少なくとも今回のように主の力に耐え切れず損壊などお話にもならない。
メインフレームの強化はもちろんのこと、対
しかし、歯痒いことに自身の強化をどれだけ考えたところで現状ではどうしようもない。
というのも、それを為せるだけの技術者がいないのだ。
デバイスとは芸術品といっても過言ではない、繊細かつ精密な代物だ。
それを強化・改造するためにはそれ相応の技術力と施設が必要になる。
残念ながらプレシアはデバイスの専門家ではないため修理は可能でも、強化改造となっては完全にお手上げの状態であった。
かくしてレイジングハートとバルディッシュの自身の強化改造プランはお蔵入りとなり、なのはとフェイトに拘束・幻惑系の魔法を特訓させ、戦術によって
無論、レイジングハートとバルディッシュにとってその結論は納得しがたいものである。
だが、現状取れる最良の手段であることは間違いなく、2体はそのための特訓のプランを立てていく。
2体の強化改造プランが日の目を見るのは、もうしばらく後のことだった…。
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その日、快人とシュウトは『双魚宮』で顔を突き合わせていた。
2人の目の前にはオブジェ形態で鎮座する
どれだけ破壊されても自己再生が可能と言うのは女神アテナとアフロディーテの言葉。
その言葉に偽りは無いようでその傷は少しずつ修復されつつあるのだが…それには問題があった。
『修復速度』である。
自己修復に任せていた場合、その速度は非常に遅いのだ。
2人の
これが自己修復に任せていた場合、
今回のように一気に戦いが終結するならいいが、長期に渡る戦闘となった場合、この修理速度は致命的だ。
『聖闘士星矢』の原作において聖衣修復者が優秀な点は、この修復速度が異常に早いことだろう。
修理が早ければ、それだけ戦線復帰が早まる。
そうすれば戦力の減退を最小限に抑えることが出来るからだ。
「修復速度とは…意外なところに落とし穴があったもんだな」
「本当だよ。
これを見てると
「一瞬で自己再生可能で、おまけで装着者も完全回復。
後半では強化されて、『
防御力も
実は最強の
「それで、俺を呼んだってことは何かあるんだろ?」
「まぁね…兄さん、ここ見てよ」
そう言ってシュウトが見せるのは
他のパーツと同じように損傷していたはずだが、それが全く無い。
比較対象としてシュウトは左腕パーツも持ってくるが、そちらは今だヒビの入った痛ましい姿だ。
「何で右腕パーツだけ修復速度が違うんだ?」
「実はその右腕パーツ、ちょっと『実験』をしてさ。 その結果なんだ。
ちなみに、その右腕パーツに『実験』をやったのは昨日だよ」
「1日でこの差か…」
完全修復を終えた
「で、どんな魔法を使ったんだ?」
その快人の言葉に、シュウトは困ったように頬を掻きながら答えた。
「『魔法』ならよかったんだけど…まぁ、『原作通り』にやってみたってこと」
その言葉で快人は言わんとしていることを理解し、ため息をつく。
「はぁ…結局、血を盛大に流さないとならないっていうのかよ」
修復速度に問題を見出していたシュウトは実験として、自分の血を破損した
『聖闘士星矢』の原作において
そして一体の
「でもこの回復速度はすごいと思うよ」
「そりゃ分かってるが…根本的な解決になってない。
俺とお前で無事なほうが修理で血を流すってのもいいが、それって逆に言えば2人とも戦闘に出れなくなるってことだ。
戦力的にマイナスが大きすぎる」
『血を失う』ということの戦闘行動に及ぼす影響は計り知れない。
もし今後、快人が戦闘で
快人とシュウトはお互いに顔を見合わせると、盛大にため息を付く。
「ままならないもんだな」
「そうだね」
「とりあえず、『緊急時に急速修復の方法がある』ってだけ覚えておこう。
差し迫った敵もいないし、ボタボタ血を垂れ流す必要もない。
今の修復速度でも十分だよ」
「まぁ、そうだね。
じゃあ、こっちの問題はいいとして…次の話をしようよ、兄さん」
「なのはとフェイトのことか?」
快人の言葉に、シュウトは頷く。
「ボクたちは今後も、今回みたいな事件に関わっていくと思う。
でもフェイトやなのはちゃんがこの間の『邪神エリス事件』みたいな目に合うのは危険すぎる。
それで…」
「で、『自分と一緒にそういう事件に関わらないほうがいい』って言った結果がそれか?」
ニヤニヤと笑いながら、シュウトを指差す快人。
シュウトの左頬は赤く腫れている。
どう見てもビンタの跡だった。
「…言った途端、叩かれて泣かれたよ」
「だろうな。 でも、その割にさっき会ったフェイトの機嫌はよかったみたいだが…」
「すぐ謝ったら、今度一緒に出掛けるなら許してくれるって」
「…今すぐ爆発して死んどけよ、リア充弟。
何なら、俺が物理的霊的両方から魂葬破で爆発させてやろうか?」
「お断りだよ。
兄さんこそ薔薇の花束でも抱えてなのはちゃんをデートに誘ったら?
花束はボクが用意してあげるけど?」
「お前の用意する花束じゃ、なのはに渡す前に俺が死ぬわ」
からかわれたくない幼馴染との話のため、快人とシュウトは一瞬だけ戦闘時のような
「とにかく、フェイトはどうあっても今後もボクたちと同じく厄介ごとに関わると思う」
「なのはも同じだな。 あいつが大人しくしてる図はまったく想像できない」
快人とシュウトはお互いの幼馴染を思い浮かべ、深くため息をついた。
「そうなりゃ、なのはたちのレベルアップは必要になるだろうが…」
「2人とも才能あるけど対
なのはとフェイトの努力は目覚しいものがあるが、いかんせんそれだけでは不足だ。
もっと根本的な部分での戦力アップがないと厳しい気がする。
「2人の
「それで毎度毎度、今回みたいな凶悪な相手に兄さんが勝てるならね」
「…無理だな」
「でしょ」
「で、何か考えがあるんだろ?
そうじゃなきゃ、お前がこんな話を長々とする理由が無い」
そう言われて、シュウトはニヤリと笑った。
「まぁね、実は考えてることがあって、兄さんにも協力して欲しいんだ」
「愉快そうな話だなぁ、おい」
快人はシュウトの物言いに露骨に眉をひそめると、静かにシュウトの話を聞いた。
そして…聞き終わった瞬間、快人は呆れた顔をする。
「お前…随分用意がいいなぁ。 兄ちゃん、マジで関心しちゃったぞ」
「まぁ最初はただの思いつきだったんだけどね。
それで『実験』してみたら、思った通りにいけそうなんだ。
だから、さ…」
「ああ、最後までいうな。
こんな面白そうなこと…乗るに決まってるじゃないか!」
兄弟は互いにニンマリと笑いあう。
それは悪戯を思いついたような笑みだ。
「驚くぞ、これ!」
「だね。 兄さんはなのはちゃんの方をよろしく」
「ああ。 それで、いつ渡すんだ?」
「まぁ、クリスマスプレゼントのつもりでいいんじゃないかな?
実際、普通にやればそれ近くまで掛かりそうだし」
まだ夏だと言うのに、幼馴染へのクリスマスプレゼントの用意を始める快人とシュウト。
2人の着々と進める企みが明るみに出るのは、もう少し先の話だった…。
というわけで、今後のための伏線回です。
感想でもちょっとあった黄金聖衣の修復について。
自然自己修復が可能ですが速度が遅く、原作通り血を掛けると修復が早くなるという設定です。
…聖衣が絶対息絶えないというだけで、実用的な速度で直そうと思ったら、修復者がいらないだけで血は必要ってことですね。
むしろそれがなきゃ聖闘士星矢じゃない(笑)。