これは、ある1人の少年の話である。
その少年には人には言えない特殊な事情があった。
前世の記憶を持つ者…いわゆる『転生者』だという秘密だ。
「これから送られる世界で、その力で思いっきり暴れまわって大活躍して欲しいッス!
もう残念星座なんて言われないくらいの活躍を期待してるッス!」
生まれ変わる前の、あの異常にテンションの高い女神との会話は今でもよく覚えている。
どうやらここは何かの漫画かゲームに極めて近いパラレルワールドらしいが、そういった物に疎かった少年にはどんな世界なのか分からなかった。
そんな世界に生まれ変わって少年が思ったことはただ一つ…『静かに暮したい』である。
調べてみれば、前世での日本とまったく変わらない平和な世界だ。
そんな世界で、女神から貰った
女神は何かしらで力を見せつけろと言っていたが、この平和な世界では
それより少年が優先したかったのは普通の生活だった。
前世では事故と言う突然の出来事でいきなり終わりを迎えた人生をもう一度出来るのだから、ある意味では当然とも言える。
そんな彼には夢があった。
『自分の両親にいつか楽をさせてやりたい』というものだ。
前世において、少年の家は決して裕福ではなかった。
母一人子一人の母子家庭であり、母は朝から晩まで必死に働いていた。
中学を出て働こうとしていた時も、『学校は人生の大切な経験になる』といって高校にも行かせてくれた。
そんな母を見て少年は『自分が働いて、いつか母に楽をさせてやろう』とずっと考えていたが、その夢は事故によって呆気なく潰えた。
前世の母にはもはや報いることはできないが、その変わり今の両親にはいつか楽をさせてやりたいと強く思う。
少年は前世から続くこの夢を胸に抱き、生きてきた。
その内容は順風満帆、家族仲は良好、隣の家とは家族ぐるみの付き合いを形成し、同い年の幼馴染の少女も得た。
衣食住心のすべてが満たされた幸せな時間。
まるで夢のような時間だった。
だからだろうか…その時間が崩れ去るのも、まるで夢のようにあっという間の出来事だった。
『旅行中の事故』というあまりにもあっけなさすぎる終わり。
それは隣の家…八神家との旅行中の事故、自分の両親も八神家の両親も全員死亡という最悪の結末だった。
(何故だ…! 何故俺の夢を、2度も奪うんだ!!)
少年は運命へと呪いの言葉を吐きかけ、夢の終わりに涙を流す。
だが、そんな少年に一つの希望が残っていた。
それこそ奇跡的に無傷だった、隣に住む幼馴染…はやてだった。
「わたしら、もう1人ぼっちなんやな…」
「…1人ぼっちじゃない! 2人だ!
俺とお前の2人で『家族』だ!」
両親を失ったその日、少年とはやては泣きながら抱き合い、新たな『家族』となった。
同じ家で暮らし、同じ屋根の下で過ごす。それは他人から見れば、ただの傷の舐め合い、ままごとかもしれない。
だが、2人にとってはどんな誓約にも勝る永遠の『絆』を確かめ合った瞬間だった。
同時に、この出来事は少年にとっては人生においての大きなターニングポイントであった。
少年は静かに平和に暮らすためには
だからこそ、少年は
幸い、
だが…それだけではどうしようもないこともある。
はやてが原因不明の障害により足が動かなくなってしまったのだ。
はやてに気付かれないように
他の星座の力を持っていれば気付くかもしれないが、少年の纏う
だが、それでも少年は諦めてはいなかった。
(必ず治療法を見つけ出してやる!)
今日も少年は献身的にはやての世話をしながらそう誓う。
『家族を幸せにしたい』という少年の前世から続く夢。
自分の最後の家族であるはやてを救うことこそ少年の目指す夢だった。
そして…そんな少年の夢に転機が訪れたのは、はやての9歳の誕生日のことだった。
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「ごちそうさま」
「おそまつさん」
はやてとの2人での夕食。
少年はいつも通りの役割分担で、食器を洗っていく。
そんな少年の背中を背中をはやてはボケっと見つめていた。
「ん? なんだ?」
視線に気付いた少年が振り返る。
「いやいや、背ぇ伸びたなぁおもうただけや」
はやての言葉通り、少年の背は高い。
平均身長より15センチ以上高いのだから小柄なはやてとの差は実に頭一つ分以上はある。
「好きで伸びたんじゃないんだがな。 いつも9歳だというと驚かれるのは面白くないぞ」
「ええやん、わたしはたくましくてええと思うよ」
「まぁ、そう言われれば悪い気はしないな」
そう言って照れたように笑い、少年は皿を洗う作業へと戻っていく。
「ほら、先に風呂行って来いよ」
「おおきにな」
そう言って車椅子を風呂場へと向けると、はやてはにんまりと笑って少年に言う。
「それとも一緒に入る? この間みたいにお風呂場に乱入されても困るし」
「あ、あれは返事も無しで長々風呂に入ってるからだ!
風呂場で倒れたんじゃないかと心配したんだぞ!」
「せやからってレディの入っとるお風呂蹴破って入ってくるんはどうなん?
この変態さんめ」
「どこがレディだ。 鏡を見てから言ったほうがいいぞ」
「わたしかて、あと数年すればボンキュボンになるに決まっとる!」
「…俺はそういう不確定なものは好かん。
あり得そうにない希望的観測はやめておけ」
そう言ってシッシッといった感じで手を振る少年に、はやては舌を出すと風呂場へと向かっていく。
こんなやり取りが出来る相手が側にいる事が、2人はともに嬉しかった。
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洗い物を終え、風呂に入って、テレビを見て談笑し、気付けばすでに11時すぎ。
そろそろ眠たくなってきたはやての車椅子を、少年は優しく押しながら部屋へと入る。
いつも通りベッドへはやてを寝かせて、少年が自分の部屋へと戻ろうとしたその時だった。
「ええやん。 今日は一緒に寝よか?」
「なんでなんだ?」
「そらなんとなくや。
それに明日はわたしの誕生日、前借りだと思って言うこと聞いとき」
「誕生日の前借りなんて聞いたこと無いぞ」
そうため息を付きながら、少年ははやてと同じベッドに入る。
「へへっ、おっきいからなんかお兄ちゃんみたいや」
抱きつきながらそういうはやてに、少年はゲンナリとした風に答える。
「頼むから身長のことを言うのはやめてくれ。
案外気にしてるんだぞ」
そんな少年の様子にクスクスとはやては笑うと、少年との他愛無いおしゃべりを始める。
それは2人にとって、たった1人の気の許せる『家族』との会話。
そんな2人の会話は突然、未知のものによって中断させられた。
時計が午前零時を告げた瞬間、鎖で縛られた本が宙を舞い怪しい光を放つ。
それは物心付いた時からはやての部屋にあった本。
それがバラバラと音を立てて開いていく。
「な、なんや!?」
はやてが驚きに目を見開く中、少年の行動は早かった。
はやてを抱きかかえると、ベランダへと続く窓の近くに飛び退く。
何かあればすぐに脱出できるような場所だ。
少年とはやての目の前で、事態は進んでいく。
今度は本の真下に魔法陣のようなものが現れ、4つの人影が忽然と現れる。
その光景に、少年ははやてを降ろすとその前に静かに立った。
「お前らは何者だ?」
「それは我らの台詞だ。 主の前に立つお前は何者だ?」
ポニーテールの女性は首にかかるペンダントを握りしめると、それは一振りの剣へと変わった。
返答次第では戦闘も辞さないという、明確な意志と殺意を持って。
それを見て、少年も決意する。
この世界に生まれ落ちてから、守護宮以外では纏わなかった
「来い、俺の
言葉と共に、黄金の閃光が溢れ出す。
そしてその光が収まった時にそこに立っていたのは、黄金の鎧を身に纏い、腕を組んで仁王立ちする少年の姿だった。
この時の光景を、後に守護騎士の一人であるザフィーラはこう語る。
『あれは、要塞だった』と…。
すべてを防ぐ絶対的な防御力と、すべてを破壊する絶望的な攻撃力を持つ、人のカタチをした『要塞』…それがその黄金に対する始めての印象。
「お前は…何者だ?」
ポニーテールの女性が動揺と共に同じ問いを投げかける。
それに対し、少年は威風堂々と、高らかに宣言した。
「俺は
そして…はやてを護る者だ!!」
6月4日、八神はやての9歳の誕生日の出来事だ。
かくして新たな役者は舞台へ上る。
この舞台の内容は喜劇か、それとも悲劇か…それはまだ誰にも分からない…。
A’S編序章とも言うべき話でした。
今回でほぼどの星座か丸わかりですが…技が出て確定するまではネタバレ無しの方向でお願いします。
はやての関西弁はむずかしい…。
次回からA’S編も本格稼働予定。
では。
追伸:ライオネットボンバーがネタ技から超必殺技に変わった件。世の中分からないものです。