俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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第02話 蟹、誘拐犯をボコる

「そんじゃ、夜も遅いんでそろそろお暇します」

 

夜も暮れた高町家の前で、快人はぺこりと頭を下げていた。

なのはとの出会いから2年、快人は事あるごとに高町家に訪ねてくるようになっていた。

快人自身がなんのかんので寂しいというのもあるが、ほとんどは高町家の大人たちに心配され半ば強引に連れてこられているというのが正しい。

神様の力で7歳で一人暮らしが出来ていてはいるし、対外的な保護者というのも遠い親戚ということでいるにはいるが、やはり世間的に見れば非常に異質なのだ。

 

「あらあら、泊っていけばいいのに」

 

「そうだよ、せっかくだから快人くん泊っていけば?」

 

なのはの母と姉の、桃子と美由希が口ぐちにそう言うが、快人は首を振る。

 

「はは、お気持ちはうれしいですが、じいさんがいるとは言え家を長く開けるのは抵抗があるんで。

 それに…またどっかの寝相の悪い怪獣に蹴られるのは勘弁です」

 

「誰が怪獣なの! なのは怪獣じゃないもん!」

 

それを聞いたなのはが真っ赤になって怒りだすが、快人は肩を竦めて返した。

 

「お前だお前。 この間、俺の顔に思いっきり蹴りを叩き込んだの忘れたんじゃねぇだろうな?」

 

「う、それは…」

 

「器用だよなぁ、ぬいぐるみ抱きながら顔面へのキックなんて。 なぁ、怪獣!」

 

「もう、快人くんなんてキライ! もう一緒のお布団で寝てあげないもん!!」

 

「あははは、結構結構、これで怪獣被害にあわずに済むぜ」

 

快人の軽口に、頬を膨らませツーンと顔をそむけるなのは。

そんな幼い2人の様子を大人たちは微笑ましそうに見つめる…一人を除いてだが。

 

「…」

 

なのはの兄、恭也だけは視線だけで人が殺せそうな視線を放っている。

だがもう快人は慣れっこなのでその視線を黙って受け流した。

 

「それじゃ快人くん、またいつでも来るといい。

 なんなら、このままこの家に住んでも…」

 

「っと、その話はやめて下さい、おじさん」

 

なのはの父、士郎の言葉を快人は途中で遮る。

 

「お気持ちはありがたいんですが、どうしてもあの家を離れるっていうのは抵抗があるんで…」

 

「そうか…」

 

「では、おやすみなさい」

 

士郎は深くは追求せず、快人もそれに便乗して一礼をすると夜の街を進み始めた。

 

「しっかしもう2年か…」

 

なのはと知り合ってからもう2年、今ではよく夕食に招待されるようになっていた。

やはり両親が死に、血の繋がった家族がいなくてもこうやって構ってくれる誰かがいるのは嬉しいことだった。

 

「とはいえ、恭也さんの態度だけはどうにかならんもんかな」

 

恭也が快人に厳しい視線を送る理由は分かっている。

なのはのことを溺愛している兄だから…というのもあるがそれ以上に快人を警戒しているのだ。

快人は自分の力を人には気付かれないようにし続けているが、分かる人間には本能的に分かるのだろう。

大方、士郎を殺しに来た殺し屋か何かだと思われていると快人は思っているし、その予想は大方当たっている。

もっとも、士郎のほうも同じように快人の異常性に気付きながらもあくまで自然体でおおらかな対応をしていた。

この辺りが人生経験の差なのだろう。

 

「まぁいいや、とっとと帰って今日の修行に移るか…」

 

そう呟いて家路に就こうとした時だった。

 

「んっ…この小宇宙(コスモ)は?」

 

小宇宙(コスモ)は魂あるものすべてに宿る力だ。

知り合いの小宇宙(コスモ)がどこか近くで揺れている。

 

(この感情は…『恐怖』か?)

 

快人は辺りを見渡す。

すると、一台の車が通り過ぎていく。そこに乗っていたのは…。

 

(この間なのはと大喧嘩してたアリサとすずかじゃねぇか…)

 

穏やかでないものを感じ取った快人はゆっくりとその後を追うことにした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「こんなガキども攫ってくればいいなんて楽な仕事だったな」

 

港の倉庫でそんなことを言っている男たちに、2人の少女は何もいうことが出来なかった。

アリサは気丈にも男たちをキッと睨みつけているが、それでもその身体は恐怖で小刻みに震えていた。

すずかに至ってはすでに泣きだしている。

 

「さて、お前らの親父さん達から金をたんまりいただくまでの間楽しいことしようぜぇ…」

 

そう言って誘拐犯たちは気味の悪い笑みを浮かべて2人に近付いていく。

 

手足を縛られたアリサとすずかには逃げる事はおろか、身動きも取れなかった。

 

「助けて…誰か助けて…」

 

すずかの泣きごとに、アリサももはや同じことを祈るしか出来ることなど無い。

その時だ。

 

『ドゴォォン!』

 

爆発のような音と共に倉庫の鉄製の扉が、まるで紙のように宙を舞う。

そしてその向こうには…。

 

「ちわーす。蟹で~す。

 幼女に迫る不埒なバカをぶっ飛ばして差し上げにきましたー」

 

まばゆく輝く黄金の鎧を纏った、同い年くらいの少年が立っていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「あーあ、お約束って奴だな、こりゃ」

 

倉庫の中の状態を見て、快人はそう呟く。

今の快人は蟹座(キャンサー)の黄金聖衣(ゴールドクロス)を身に纏い、顔の下半分をスカーフで覆い隠した出で立ちだ。

こうでもしなければアリサとすずかの知り合いである快人はその正体を隠せない。

もっとも、これで隠せているかどうか疑問ではあるのだが。

 

「な、なんだこのガキは!?」

 

明らかにうろたえている誘拐犯に、快人はため息交じりに言い放つ。

 

「だから、さっき言っただろ? お前らをぶっ飛ばして差し上げにきたってな。

理解力の無い大人だなぁ」

 

「舐めてんじゃねぇぞ、ガキ!」

 

そう言って駆けだそうとする2人の男だが…駆けだそうとした瞬間にばたりと倒れ込む。

快人は未だにドアのあった場所から動いていない。

 

「何…しやがった?」

 

「さて…ね」

 

そう言って快人はゆっくりと残った4人の男に近付いていく。

 

「く、死にやがれガキが!!」

 

そう言って4人の男たちは懐から銃を抜き快人に向かって乱射する。

だが…。

 

「傷一つつかないだと!?」

 

「そんな豆鉄砲でこの蟹座(キャンサー)の黄金聖衣(ゴールドクロス)が傷つくわけないだろ」

 

そう言って快人は面倒くさそうに手をあげる。

その途端、3人の男が糸の切れた人形のように倒れた。

 

「うっ、動くな!」

 

最後に残った1人が、アリサとすずかの2人に拳銃を向ける。

 

「動くなよ、動けばわかってるよな」

 

そんな男に、快人はぽりぽりと頬を掻く。

 

「あーあ、倒れた連中の後始末用に1人残しといたんだが…こりゃ、失敗だったわ」

 

「てめぇ、状況が分かってんのか!? 動くんじゃねぇ、動いたらこの嬢ちゃんたちの綺麗な顔に風穴が開くんだぞ!!」

 

快人のひょうひょうとした態度に、男が怒鳴るが快人は同じ調子のまま続けた。

 

「『風穴が開く』、ねぇ…ところで、これなーんだ?」

 

そう言って快人が見せたもの、それは黒光りする拳銃だった。

 

「え?」

 

男が自分の手を見る。そこにあるはずのさっきまで握っていた拳銃が、ない。

そして快人の手にしている拳銃こそ、男がさっきまで握っていた拳銃だった。

快人との距離は10メートル以上は離れている。

それをどうやったら、気付かれないうちに拳銃を奪うことができるのだろうか?

 

「ば…化け物…!」

 

「化け物とは心外だぜ。 俺はお前から銃を奪って、ここに戻ってきただけだ。

 気付かないお前がトロすぎるだけだよ」

 

快人の言っていることは正しい。

黄金聖闘士(ゴールドセイント)の戦闘速度は光速に達する。ただその速度で拳銃を奪って元の場所に戻ってきた…ただそれだけの種も仕掛けもない。

 

「それじゃ、そろそろ眠れ」

 

そう言って手を振り上げた瞬間、男は意識を失い倒れた。

 

「まぁ、当然だけど修行の準備運動にもならねぇな。

 で、大丈夫か?」

 

快人が一瞬にしてアリサとすずかを縛っている縄を小宇宙(コスモ)を集中した手刀で断ち切る。

 

「エクスカリバー! …なーんちゃって」

 

「あ…ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます。誰だか知りませんが、お礼を言わせて頂きます」

 

そう言って立ち上がってお礼を言うすずかとアリサを見て…正確にはアリサを見て快人はぽかんとしていた。

 

「? あの…」

 

「アリサ、お前は『ここに来て靴をお舐め、汚らわしい豚野郎!』とか、素で言っちゃう奴だろ。

 何、その猫かぶり? え、鳥肌立つんだけど?」

 

「ちょ、ちょぉぉぉっと待てぇぇ!! あんた、アタシにどういうイメージ持ってんのよ!!?」

 

「いや、だから『ここに来て…』」

 

「繰り返さんでいい!!」

 

あまりの言葉に、アリサは他所行きのお嬢さまの仮面を脱ぎ棄てた。

 

「そこ行くとすずかはイメージ通り守ってあげたくなるお嬢さまだな。

 うん、アリサのなんちゃってお嬢さまとは格が違う」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「何でアタシとすずかの扱いがこんなに違うのよ!!」

 

地団駄を踏むアリサだが、そこでハタっと気が付いた。

 

「アンタ…私たちを知ってるの?」

 

「やべっ…では俺はこれにて失敬するぞ」

 

慌てて快人が去ろうとすると、

 

「コラ待て! 今、『やべっ』って言った!!

 アンタやっぱり私たちの知ってる奴なんでしょ!

 名前、名乗りなさいよ!!」

 

アリサがそうやって呼び止める。

 

「そんじゃ…『正義の蟹 キャンサー・デスマスク』ということで…」

 

「全然正義っぽくない!! 大体、どう聞いても『デスマスク』って偽名でしょ!!」

 

「いやいや、世の中その名前が墓に刻まれちゃうこともあってだな。

 案外本名かも知れないぞ」

 

「んなわけあるかぁ!!」

 

「あはは! サラバだ!!」

 

快人は来た時と同じように、一瞬にして2人の前から姿を消したのだった。

 

「消えた…」

 

「なんなの、あいつ?」

 

遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。

快人…『正義の蟹 キャンサー・デスマスク』が呼んだのだろう。

 

「あの人、何だったんだろ?」

 

「さぁ? もっとも、バカなのは間違いないと思うけど」

 

「お礼、しっかり言えなかったな…」

 

「次に会った時に言えばいいんじゃない? どうも近くにいるみたいだから。

 アタシも…次に会った時にはギャフンと言わせてやる!

 アタシのイメージを改めさせて、自分から『アリサお嬢さまの犬にして下さい』って言わせてやるんだから!!」

 

「あ、アリサちゃん…」

 

どうにも間違ったことに闘志を燃やす友人に、すずかは嫌な汗をかくのだった…。




アリサ・すずかとの邂逅。
無印開始までまだ遠いです。
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