俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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A’S編
第23話 蟹と白、赤と黄金に遭遇する


 

深く広がる星の海の如き空間を、一隻の白い艦が航行していた。

この艦の名は次元航行艦アースラ、次元世界を管理する組織『時空管理局』に所属する艦の一隻だ。

現在、アースラは第97管理外世界、現地惑星名称『地球』へと向けて航行中だった。

その目的は、最近この辺境管理外世界周辺で起こっている不可解な魔導士襲撃事件の調査である。

だが、アースラにはもう一つ、極秘の任務が課せられていた。

その任務の内容を知るのは現在、アースラのブリッジに座す提督であるリンディ=ハラオウンと、もう一人だけである。

星の輝きを見つめながら、リンディ=ハラオウンはポツリと呟いた。

 

「『星の力を秘めた黄金の闘士』…ね…」

 

それこそ、リンディ=ハラオウンに科せられたもう一つの任務であった。

 

 

ことの始まりはカリム=グラシアという一人の少女である。

彼女にはある特殊な能力があった。

預言者の著書(プローフェティン・シュリフテン)』というその能力は、詩文形式で記される予言能力である。

その予言内容は難解な古代ベルカ語であるが故に様々な解釈が可能で、的中率は「よく当たる占い程度」だ。

しかし、それでも当たる可能性があるのである。

過去、これらの予言は世界の危機に警鐘を鳴らし、見事世界を護るきっかけとなるほどの重要な能力だった。

そんな彼女の予言に、『次元世界全体の危機』を示すほどの恐ろしい内容が記載されたのである。

内容は以下の通りだ。

 

 

『古の彼方に在りし者たち、幾星霜の果てに目覚めの時を迎える。

 彼の者たち、長き時を経て蘇りし傲慢なる王なり。

 王たちの傲慢は死を運び、王たちの軍勢は破滅を呼ぶ。

 屍の山を築き、血の大河を成し、それでも王たちの蹂躙はとどまる事無し。

 法の力にこれを止める術はない。

 現世はすべて、古の闇へと還るであろう』

 

 

この明確すぎる滅びの予言に、時空管理局上層部は慌てに慌てた。

しかもその規模は現世、つまり次元世界全体の危機と読みとれるからだ。

ここに記された『王』というのが何者かは分からないが、『王たち』と複数形で表されていることから複数人であることが予想される。

しかも『王たちの軍勢』と言うのだから、それ相応の組織力を持った者たちだろう。

さらに悪いことに法の力…つまり『魔法』では止められないと書かれている。

あまりにも突拍子もない内容なので、信憑性を疑問視する声はある。

だが、仮に真実であったのなら一大事だ。

 

時空管理局はすぐさま最重要案件の一つとしてこの件に対し、秘密裏に対処することが決定された。

混乱を避けるため、ごく一部の人間しか知らないトップシークレットである。

そうして破滅の予言に対する対処が決定され、古代からの文献の解析や次元世界での捜査など情報収集が行われたが、追加の情報は何一つとして得られなかった。

その間にそれらしき事件も起こらず、信憑性への疑いももたれ始めていた破滅の予言だが、つい先日新たな局面を迎える。

 

この予言に新たな内容が追加されたのである。

そこには破滅に対する希望ともとれる内容が記されていた。

その情報を元に時空管理局は調査を再開するのだがその矢先、破滅に対する『希望』の可能性を知る者が現れたのだ。

ごく最近管理局の誇る超巨大データベース、『無限書庫』へと勤め始めた少年である。

破滅の予言に対する情報収集のため、『無限書庫』では該当しそうな記録の捜査に日夜当たっていた。

そして破滅の予言を見た少年は、予言において希望とされる『星の力を秘めた黄金の闘士』に心当たりがあるという。

 

 

曰く、それは黄金の鎧を纏っている。

曰く、それは魔法とは違う技能を使う。

曰く、それはAAAランク相当の魔導士をまるで物ともしない強さを誇る。

曰く、それは古くからその世界を守ってきたという伝説の闘士たちである。

 

 

彼はとあるロストロギア事件に関わっており、その事件の解決のため現地で彼らの力を借りたという。

しかし彼らとの約束があり、その存在自体を秘匿していたとも語った。

彼の証言を鼻で笑ったものは多い。

魔法第一主義であるミッドチルダでは、魔法に勝る力など無いというのが当然の話なのだ。

しかし、やっと掴んだ有力な情報である。

そこでリンディ=ハラオウンに白羽の矢が立った。

現在起こっている魔導士襲撃事件の調査と言う名目で地球へと赴き、少年の言葉の真偽を確認、対象の人物が予言における『希望』であると考えられるなら時空管理局への協力を取り付けるという任務だ。

かくして、リンディ=ハラオウンとその少年を乗せたアースラは一路、地球へと向け航行を続ける。

そこで待つ事件のことを想像すらせずに…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

まだ早朝の公園に、1人の少女が立っていた。

白い私立聖祥大学付属小学校の制服に身を包んだツインテールの少女…高町なのはである。

なのはは空き缶を手にしながら、自分の相棒であるレイジングハートに話しかける。

 

「行くよ、レイジングハート」

 

『いつでもどうぞ』

 

その言葉を聞いたなのはは、空き缶を宙高くに放り投げた。

空中を舞う空き缶に、なのはは目を瞑り意識を集中させる。

なのはが作り出した魔力弾が空き缶に空中でぶつかり、宙を浮く。

さらに別の魔力弾が空き缶を浮かせ、それをなのはは繰り返していた。

魔力弾を用いたリフティングである。魔力弾の精密制御の訓練の一環だ。

その魔力弾の勢いはどんどん増していくが、空き缶は決して地面に落ちない。

 

「うん、いい調子!」

 

満足げになのはは頷くと、最後に空き缶をゴミ箱へ落ちる軌道へ変化させようと魔力弾を放った。

だが、必中を確信していた魔力弾は空き缶を外し、空き缶はそのまま地面に落ちてくる。

 

「やーい、下手っぴ」

 

いつの間にか、ニヤニヤと笑いながら快人がなのはの元へとやってくる。

そんな快人を、なのははジト目で睨んだ。

 

「快人くん、またなのはにイジワルしたでしょ?」

 

「おいおい、何のことだ? 話しかけたのだって、お前が魔力弾を外してからだぞ?」

 

肩を竦める快人だが、レイジングハートが冷静に種明かしをする。

 

『今の空き缶の落下軌道は明らかにおかしく、何者かの干渉があったことは疑いようがありません。

 あなた以外の心当たりがありませんが?』

 

「あ、バレた?」

 

悪びれた様子もなく言うと、快人は指を指揮棒のように振るう。

すると地面に落ちた空き缶が宙に浮いた。

快人のサイコキネシスである。

聖闘士(セイント)中最高の超能力を誇る牡羊座(アリエス)ほどではないが、蟹座(キャンサー)もその手の超能力には強い方で、原作においてはギリシアから中国の最奥地である五老峰まで届く攻撃的念動波を使ったりもしている。

そんな蟹座(キャンサー)の力を継いでいる快人にとって、このぐらいは造作もないことだった。

 

「でも実際の戦いで相手が成すがままなんてことはないんだから、あれぐらい咄嗟に魔力弾の軌道を変えて直撃させられないと不味いんじゃないのか?」

 

「うぅ…反論できない」

 

快人の正論に、なのはも何とも言えない顔をする。

特に射撃型のなのはにとって、命中率は命である。それをしっかり自覚しているから余計に耳に痛い。

そんななのはに快人はしばし何かを考えたが、ポンと手を打つと突然こんなことを言い出した。

 

「それじゃこうしよう。

 3分間の間に俺が動かす空き缶に魔力弾を当てれたらなのはの勝ち、できなければ俺の勝ち。

 勝ったら相手のいうことを何でも一つ聞く、ってのはどうだ?」

 

「何でも?」

 

「そう、何でも」

 

その言葉に、なのははしばし考える。

『戦闘』となれば絶対に勝ち目は無いが、こういうルールの上での『試合』なら勝てる可能性はある。

それに、なのはは負けず嫌いなのだ。

 

「いいよ、やろうそれ!」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

快人は空き缶を宙に放り投げると、その空き缶が激しく動く。

 

「よし、スタートだ!」

 

「いくよぉ!」

 

なのははスタートの合図と同時に、魔力弾を2発同時に放つ。

空き缶を挟み込むような絶妙なタイミングだが、快人の空き缶は鋭く動き回り、なのはの魔力弾を避けていく。

 

(動きが鋭くて、普通には当たらないの…)

 

完全に慣性などの法則を無視して機動し続ける快人の空き缶に、どうしても当てることが出来ない。

もちろん複数の魔力弾でのコンビネーションなどはやっているが、それでも当たらない。

それを見ながら、なのはは快人に舌を巻く。

能力もあるのだろうが、快人となのはでは戦いにおいて重要な『戦場を見渡す能力』…いわゆる分析眼に大きな差があるのだろうとなのはは考える。

快人にとって、今のなのはは想定内の動きをしているだけだ。

ならば…。

 

(快人くんの思いもよらないことをしないと、当たらない!)

 

それを理解したなのはは一計を講じる。

タイミングを計り、なのはは2発の魔力弾を発射した。

1発が回り込むように移動し、1発がそのまま空き缶へ直進していく。

何度もなのはが行っている時間差コンビネーションだと考え、快人は空き缶を魔力弾から回避させ、迫るもう1発の魔力弾を避けようとした。

だが、直進していた魔力弾は、空き缶が避けた瞬間弾ける。

なのはが空き缶の横を通り過ぎる瞬間、魔力弾を爆発させたのだ。

その衝撃で空き缶が一瞬動きを止め、そこを狙って回り込んでいた魔力弾が迫る。

だが、快人にはまだ余裕があった。

 

(いい戦法だが、まだ俺には余裕がある)

 

空き缶を動かし魔力弾を避けようとした快人だが、その時になって快人は始めて違和感に気付いた。

 

(空き缶が…重いだと!?)

 

空き缶の予想外の重さに、快人のサイコキネシスに隙が生まれる。

そして、なのははその隙を逃さず、魔力弾は空き缶に直撃したのだった。

 

「やったの!」

 

なのはは自分の作戦の成功に歓声を上げる。

これはなのはの対聖闘士(セイント)戦を想定した特訓の成果である。

聖闘士(セイント)は攻撃力・防御力・機動力がどれも桁違いに高い。

だが、なのはの魔法の最大威力はその聖闘士(セイント)の防御力を抜けるレベルなのだ。

ならば後必要なのは当てるための方法である。

そこで考え出された新しいバインド系魔法が今のである。

魔力を相手に付着、重りとして相手の足を殺すという吸着型移動阻害バインド魔法、名づけて『ゲル・バインド』だ。

これで相手の足を殺し、遠距離大出力魔法で圧殺。

それが出来なくても生まれた速度差により逃げ切るというのが、レイジングハートとなのはの現在での対聖闘士(セイント)戦の答えである。

 

「今のは汚いだろう。 汚い、さすがなのは汚い!」

 

「いいもん! 最終的に勝てばよかろう、だもん!

 そうだよね、レイジングハート?」

 

Exactly(そのとおりでございます)

 

快人の負け犬の遠吠えをなのはは胸を張って一蹴し、レイジングハートが合いの手を入れる。

快人としても口では汚いなどといいながら、なのはに感心していた。

本当の戦いにおいて、汚いも何も無い。まさに『勝てばよかろう』だ。

最後の『良心』として人質などの本当に卑怯な手は許せないが、それだって『良心』としてだ。

究極的には戦いにおいては何をされても文句は言えないし、こっちが何をしても許される。

そして出来ることすべてをやらずに生き残れる程、戦いは甘くないのだ。

そういう意味で、問題を打開していくなのはの発想力や応用力に快人は『これが天才か…』と素直に驚嘆する。

同時に、『魔法』というものにも素直に感心していた。

『魔法』は戦闘能力を見るなら、聖闘士(セイント)の『小宇宙(コスモ)の技』にはまるで敵わない。

だが、出来ることの幅を見ればその差は歴然、『小宇宙(コスモ)の技』は『魔法』の足元にも及ばない。

思うに、『小宇宙(コスモ)の技』は戦いのために研磨され続けてきた。

だが『魔法』はより便利に、と利便性を追求して研究が続けられていた。

進化の方向性が違うのである。

その有効性に、最強の聖闘士(セイント)たる快人も唸る。

 

「それで快人くん。 約束、忘れてないよね?」

 

「二言は無いよ。

 ここで約束を反故にするようなら聖闘士(セイント)として、いや男としてダメだからな。

 でも…なるべくお手柔らかに頼むよ」

 

「うん、それじゃぁ…」

 

ニヤリと笑うなのはに、快人はため息と共に肩を落として頷いた。

そんな快人に、なのはは可愛いらしく唇に指を当てながら考え込む。

でも、特にどんなことをさせようというのは思い浮かばなかった。

 

「…いいや。 今特に快人くんにやって欲しいことないし、しばらく保留にするの」

 

「おいおい、いつどんな無茶やらせるかと俺を精神的に追い詰めるつもりだな。

 このドS女め!」

 

「うーん、なんだか学校で快人くんの裸踊りが見たくなってきたかも」

 

「あ、ごめんなさい! 謝るからそれはマジ勘弁して!」

 

ジト目になったなのはに即座に平謝りの快人。2人の力関係を正しく表しているようでもある。

 

「クリスマスくらいにまではお願い決めておくの。 覚悟しておいてね」

 

「おいおい、覚悟しなきゃならないような内容にするつもりなのかよ?」

 

「もちろん!

 だって何言ってもいいなんてこんなオイシイ話なかなかないもん。

 だったら精一杯有効活用するの」

 

「鬼かお前は…」

 

快人はため息をつくと、かばんを担ぎなおす。

 

「そろそろ学校行く時間だぞ。 いくか?」

 

「うん!」

 

早朝の訓練を終えた2人は連れ立って学校へと向かって歩いていく。

これがとある事件を前にして最後の平和な一幕になるなど、この時2人は露とも思っていなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「この街に魔導士がいる?」

 

「それもかなり強力な魔力をもった魔導士、それが3人も」

 

「それは確かなのか、シャマル?」

 

「ええ。 間違いないわ、シグナム」

 

「どうするのだ、シグナム?」

 

ポニーテールの女性、シグナムの問いに、シャマルと呼ばれた女性が頷く。

それを見て褐色の肌の男はシグナムへと判断を尋ねるが、隣の赤い小さな少女が間髪いれずに言った。

 

「ザフィーラ、んなもん考えるまでもねぇ。 アタシがすぐに行って『蒐集』して来てやる!」

 

「しかしな、ヴィータ…」

 

ヴィータと呼ばれた赤い少女のあまりにも単純なものいいに、褐色の肌の男、ザフィーラは苦い顔をする。

 

「うっせぇ! アタシらは一刻も早く『蒐集』を終わらせなきゃならないのはわかってんだろ!

 目の前にそんな美味しいものがあるって分かったんだ、だったら迷うことはねぇだろ!」

 

「…ヴィータの言葉はいささか乱暴だが真実でもある。目の前にあるそれだけの魔力を無視できるような余裕は我々には無い。

 だが、ことは慎重に運ぶ必要がある。

 ここは主の暮らす街、そこに害悪を振りまいてはひいては主にも不利益は生じよう。

 それでは元も子もない。

 ザフィーラは主の護衛を、残りの我ら3人で万全の態勢で向かうとしよう」

 

そのシグナムの言葉に、ヴィータ・シャマル・ザフィーラは頷いた。

すると。

 

「俺も同行しよう」

 

ドアを開けてやって来たのは大柄な少年だった。

 

「すまん、協力感謝する」

 

「構わない。 もう俺たちは家族のようなものだ。

 家族を助けることは、当然のことだろう?

 それとも邪魔か?」

 

「何言ってんだよ、お前がいてくれりゃ百人力だ!」

 

ヴィータの嬉しそうな言葉に、全員が頷く。

全員が戦士として、少年の強さに尊敬のような念を持っていた。

そんな少年の力を、『家族』の助けが得られるのなら百人力である。

 

「もう夕飯の時間だ。 行こう、はやてが待ってる」

 

そう行って背を向けた少年はポツリとつぶやく。

 

「すべては、はやてのために」

 

その言葉を残して一足先に食卓へと向かった少年。

その後姿を見つめながら4人は頷く。

 

「我ら4人も心は同じ。 すべては我らが主はやてのために。

 我らを『家族』としてくださった主のために!」

 

シグナムの言葉に全員が頷くと、4人は食卓へと向かって行くのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

その異常は、なのはが風呂から上がり、髪を乾かし終えた辺りで気が付いた。

 

『マスター、緊急事態です』

 

レイジングハートが若干緊張したように状況を伝えてくる。

 

「どうしたの、レイジングハート?」

 

『付近で結界が展開されたのを確認しました』

 

「フェイトちゃんかな?」

 

『結界に通信阻害の機能があるらしく、念話は使用不能です。

 これは敵性存在の可能性があります』

 

その言葉になのはは顔を真剣なものに変えると、急いで着替えを始める。

 

「行こう、レイジングハート。

 何が起こっているのか確かめなきゃ。

 もしフェイトちゃんが巻き込まれてるなら助けなくっちゃだし」

 

『わかりました…ただ、相手が敵性行動をとる可能性もあります。十分な警戒を。

 また可能性は低いでしょうが、相手が聖闘士(セイント)という可能性も捨てきれません。

 通信が可能ならミスター蟹名に連絡をとることを推奨するのですが…』

 

「大丈夫だよ。 私たちはあくまで何が起こっているのか確かめに行くだけ。

 危なそうなら、すぐに逃げればいいの」

 

着替えを終えたなのははレイジングハートを握りしめる。

 

「レイジングハート、セットアップ!」

 

なのははバリアジャケットを展開し、空を飛んで目標地点であるビル街へとやって来ていた。

その瞬間、なのはに誘導弾が迫る。

 

「!?」

 

瞬間的に左手で発生させたシールドで誘導弾を防ぐなのは。

だが同時に、その背後を狙って手にしたものを振りかぶる赤い影が迫る。

 

「でぇぇぇぇい!!」

 

振り下ろされた魔力を纏ったハンマーを、なのはは右手で発生させたシールドで防いだ。

通常ならシールドが一気に破壊されるレベルの攻撃力である。

しかし、

 

「えぇぇぇい!!」

 

「!?」

 

なのはは誘導弾もハンマーも強引に押し弾いた。

小宇宙(コスモ)の併用によって強化されたなのはのシールドだからこその芸当である。

 

「お前…」

 

赤い少女…ヴィータから動揺でうめく様な声が漏れる。

 

「あなた誰なの? いきなり襲われる覚えなんてないんだけど?」

 

なのはの問いには答えず、ヴィータは魔力弾を撃ち放つ。

同時にヴィータ本人も、ハンマーを手に突撃を仕掛けてきた。

魔力弾を迎撃し、ヴィータの攻撃を避けたなのははそのまま魔力弾を2発放つ。

それを見たヴィータは魔力弾を避けようとするが、それを見てなのははほくそ笑んだ。

 

「かかったの!」

 

「何!?」

 

なのはの魔力弾が弾け、その魔力がヴィータへと付着し重りとなって機動性を奪う。

その時出来た隙はごく僅かなものだったが、なのはにとってはそれで十分すぎた。

その隙に、幾重ものバイントがヴィータを完全に拘束する。

 

「こいつは!?」

 

ヴィータはバインドを吹き飛ばそうともがくが、小宇宙(コスモ)によって強度のブーストしたなのはのバインドはビクともしない。

 

「無駄だよ、それはそのぐらいじゃ外れないの。

 さぁ、お話してもらうよ。

 なんでいきなり私を襲ってきたの?」

 

勝利を確信したなのはは、何故自分を襲ってきたのか尋ねる。

だが、完全に敗北と思われるこの状況でヴィータは獰猛に笑った。

 

「この魔法、よくわかんねぇけど普通じゃないな。

 お前誇っていいぞ、このアタシに…『切り札』を使わせたんだからな!」

 

ヴィータは右手に握られた自身の相棒であるデバイス『グラーフアイゼン』へと力を込め、そして命じる。

 

「アイゼン、G型カートリッジ、ロード!!」

 

ヴィータの言葉と共に、彼女の相棒たるデバイス『グラーフアイゼン』が重い音と共に撃鉄を落とす。

それと同時に、なのはの掛けていたバインドがすべてまとめて吹き飛んだ。

 

「う、嘘!?」

 

なのはは目の前の光景に信じられないように目を見開く。

自分の強化されたバインドを破られたことは驚いた。

それはいい。 それぐらいなら、まだありえるだろうことだから。

だが、目の前でヴィータが発するものはなのはが良く知りながら、ありえないものだった。

 

小宇宙(コスモ)!?」

 

そう、ヴィータが発しているものは紛れも無い小宇宙(コスモ)である。

先ほどまではまったく感じなかったはずなのに、ヴィータは今小宇宙(コスモ)を放ち、それによって強化された魔法でなのはのバインドを吹き飛ばしたのである。

なのはの言葉を聞いたヴィータが今度は驚いた顔をした。

 

「お前、『小宇宙(コスモ)』を知ってるのか?

 ますますわかんねぇヤツだけど、まぁいい。

 とっとと…ぶっ飛びな!!」

 

ヴィータのデバイス、グラーフアイゼンが激しく変形しロケットのついたハンマーのような形状に変化する。

ブースターに火がともり、まるでハンマー投げの選手のように振り回すとなのはに向けて突撃を開始した。

 

「ラケーテンハンマー!!」

 

「!?」

 

そのスピードはあの亡霊聖闘士(ゴーストセイント)並の加速力である。

避けることは不可能と判断したなのはは咄嗟にレイジングハートを構え、魔力・小宇宙(コスモ)も出せるありったけを使いシールドを展開した。

だが、そのなのは渾身のシールドが容易く砕け散る。

そしてレイジングハートを激しく傷付けたハンマーは、そのすさまじい衝撃をなのはへと正しく伝えていた。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

悲鳴を上げながら吹き飛ばされたなのはがビルを二つほど貫通し、三つ目のビルへと吹き飛ばされた。

 

「う…うぅ…」

 

コンクリートの壁にめり込むように倒れたなのは。

なのはの身を守るバリアジャケットは千切れ、その機能を維持できないレベルまで破損していた。

レイジングハートも激しく損傷し、バチバチと紫電を放っている。

 

「ふん、手こずらせやがって」

 

そんななのはへ、ヴィータはなのはの突き破ったビルの穴からゆっくりと近づいてくる。

グラーフアイゼンが強制冷却に伴う蒸気と共に、金色のラベルのついた薬莢を排出する。

なのはの歪む視界に、止めとばかりにハンマーを振り上げるヴィータが映りなのはは痛みで動かぬ身体に鞭を打つが、身体は言うことを聞いてくれない。

そしてついに最後の時かと思った瞬間だった。

 

「これで終わりだ」

 

「ああ、お前がな」

 

「!?」

 

ありえない第三者の声にヴィータが振り返ろうとするが、その時にはすでにヴィータの身体は隣のビルへと叩きつけられていた。

 

「うわぁ!!?」

 

ヴィータのビルへ突っ込むと同時に発生した砂埃でその姿は見えなくなる。

その間に、現れた第三者はなのはを抱えるとビルから飛び出していた。

こんなことが出来るのは1人しかいない。

 

「快人くん…」

 

「大丈夫か、なのは!?」

 

心配そうになのはを抱く、黄金聖闘士(ゴールドセイント)の姿がそこにはあった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

快人が結界に気付いたのは偶然だった。

快人とシュウトは、このところなのはとフェイトのための『クリスマスプレゼント』作りが佳境に入っていたことで『守護宮』に入りっぱなしだった。

限りある『時間』というものが増大される『守護宮』はすごい物であるが欠点はある。

それは外のことが分からないということだ。

別空間である『守護宮』には、現世での不気味な気配も感じ取ることは出来ないし、連絡も出来ない。

『守護宮』に入った場合、本人が出てくるまで何があっても外部の情報を得ることが出来ないのだ。

快人は偶然、家への忘れ物を取りに『守護宮』から出てきたため今夜の異常を察知して慌ててやってきたのである。

 

「しっかりしろ、なのは!?」

 

「快人…くん?」

 

降り立ったビルの屋上で快人がなのはに小宇宙(コスモ)を送り込みながら揺さぶると、なのはは朦朧としながらもその意識を取り戻した。

 

「無事か、なのは?」

 

「うん…とは言えないけど、大丈夫だよ」

 

そう言って立ち上がろうとするなのはだが、その足はダメージによってガクガクと震えていた。

それを見て、快人はなのはの肩を押し、強引に座らせる。

 

「レイジングハート、よくなのはを守ってくれたな」

 

『これが私の役目ですので』

 

快人の言葉にレイジングハートは雑音交じりの途切れ途切れの返事を返した。

 

「なのはもレイジングハートも無理すんな。 あとは俺に任せろ」

 

「でも私、あの子のお話が聞きたい。

 突然なんで私を襲ってきたのかとか」

 

「それも任せろ。 締め上げてでも吐かせてやるから」

 

なのはにそう答えると、快人はなのはに背を向け空中へと視線を向ける。

そこにはあの赤い少女、ヴィータが浮いていた。

 

「そこの赤チビ、よくも俺の連れにやってくれたな…」

 

快人は拳を握り、バキバキと指を鳴らす。

その黄金聖衣(ゴールドクロス)を纏う快人を見て、ヴィータは納得言ったように言った。

 

黄金聖闘士(ゴールドセイント)…そこの白いのが小宇宙(コスモ)を知ってるはずだよ」

 

「…俺たち黄金聖闘士(ゴールドセイント)を知っているなんて聞きたいことが増えたな。

 俺は蟹座(キャンサー)黄金聖闘士(ゴールドセイント)、蟹名快人。

 知ってること洗いざらいはいてもらうぜ!!」

 

そう快人は吼えると、右手に蒼い炎が灯る。

そんな臨戦態勢の快人を目前に、ヴィータは構えていたデバイスを下ろした。

 

「投降か?

 意外なほど殊勝な態度だな…」

 

「…悔しいがアタシじゃ黄金聖闘士(ゴールドセイント)には敵わないからな。

 アタシはお前と戦う気はない」

 

そこまで言うと、ヴィータは唇を吊り上げ不適に笑う。

 

「あくまで『アタシは』だけどな!」

 

「それはどういう…何ぃ!?」

 

ヴィータの言葉に眉をひそめた快人だが、次の瞬間ヴィータとは違う方向の空を見上げる。

そこに快人が感じたものは、濃密な黄金の小宇宙(コスモ)

そしてなのはは見た。

快人に向かって突進する黄金の衝撃を!

 

 

「グレートホーン!!」

 

 

それは駆け抜けていく黄金の野牛だった。

それに気付いた快人が右手の炎をぶつけるが、勢いは衰えず黄金の野牛の形をした衝撃は快人へと直撃する。

 

「うおぉぉぉぉぉ!?」

 

「か、快人くん!?」

 

快人が屋上の貯水タンクをなぎ倒しながら吹き飛ぶ。

瓦礫と共に巻き上がる砂埃。

その屋上にガチャリという金属の足音がして、なのははその方向を見た。

そこにいたのは黄金の闘士だった。

がっちりとした大柄な体格の少年で、腕を組み仁王立ちしている。

彼の正体は間違いなく、なのはの良く知る者。

なのはの幼馴染と同じ存在。

 

「…黄金聖闘士(ゴールドセイント)

 

なのはの驚きを含んだ呟きに答えるように、その黄金の闘士は名乗りを上げた。

 

「俺は牡牛座(タウラス)黄金聖闘士(ゴールドセイント)! 巨星、アルデバラン!!

 果たすべき誓いのため、その女の魔力を貰い受ける!!」

 

それはなのはに対する明確な敵意であるが、その視線は瓦礫の山へと向けられていた。

 

「へっ…牡牛座(タウラス)かよ。

 どういう理由か知らないがそっちにも黄金聖闘士(ゴールドセイント)がいるとはな…」

 

ガラリと瓦礫をどかして立ち上がるのは、こちらも黄金の闘士。

 

「クソ牛の名乗りは聞いたからこっちも返してやる。

 俺は蟹座(キャンサー)黄金聖闘士(ゴールドセイント)、蟹名快人。

 そいつの幼馴染だ」

 

ゆっくりと快人がアルデバランへと近付いて行く。

そして並び立つ2人の黄金。

片や蟹座聖衣(キャンサークロス)を纏い不敵に、片や牡牛座聖衣(タウラスクロス)を纏い腕を組み不動のままで。

 

「さて…お前にはご大層な誓いがあるみたいだが、俺にも決めてることがある。

 それは…なのはを傷つけるやつはただじゃおかないってことだ!

 ミディアム? レア? ウェルダン?

 好きな焼き方を選べクソ牛。 好みの焼き加減でバーベキューにしてやるぜ!!」

 

「お前に出来るか、蟹座(キャンサー)

 この巨星アルデバランを焼き尽くすことが!!」

 

そして、2人の黄金聖闘士(ゴールドセイント)がぶつかり合う。

こうして、後に『闇の書事件』と呼ばれることになる事件の幕は開いたのだった…。

 

 

 




今回からA’S編の本格稼働です。
とはいっても初っ端からA’S編の後のもっとヤバい伏線が出ているせいで、『闇の書事件』は印象薄そうですが。
ちなみに私はドラゴンボールではバーダックが大好きです。
たった1人の最終決戦…惹かれる響きです。
こっちは…たった5人の最終聖戦、でしょうか?

そしてはやてのところの黄金聖闘士は牡牛座でした。
『デカい・仁王立ち』だけでバレバレでしたね。


今後作中でやりますが、誤解の無いように先にヴォルケンズについて解説しておきます。
ヴォルケンズは小宇宙に覚醒していません。
そのため小宇宙を感じることはできません。
ヴォルケンズは牡牛座の込めた小宇宙と魔力ブレンドしたものを封入したカートリッジ、G型(ゴールド)カートリッジによって瞬間的になのはたちと同じような小宇宙による魔法ブーストの恩恵を受けます。
そしてその瞬発力はなのはとフェイトを軽く凌駕します。
ちなみに、このG型カートリッジはヴォルケンズしか使えません。
この話ではなのはたちはカートリッジシステムを導入しませんし、なのはたちでは『ある理由』で小宇宙の封入されたG型カートリッジを使えません。
その辺りは次々回あたりで詳しく書きますが、『小宇宙の安売り』等は言われたくないので先に書いておきます。
あくまでヴォルケンズもなのはとフェイトと同じ、特殊な事例です。

では、また次回お会いしましょう。
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