向かい合う
先に動いたのは
いや、それ以上に動かざるを得ない。
なのはがまともに動けぬ状態であり、敵はもう1人いるのだ。
相手は自分と同じ
今回の目的は目の前の
無理も無茶も承知の上で短期決戦、それが望めないとなれば即座に撤退である。
それに
腕を組んだ体勢こそ構え。そこから繰り出される居合いのごとき神速の掌打によって発生する
『巨漢はノロい』という考えは少なくとも
その癖、
快人の選んだ手段は『グレートホーン』を抜けないほどの極至近距離に接近してのインファイトだ。
「だりゃぁぁ!!」
胸に2発、腹に1発。
快人の高速の拳が直撃するが…。
「ふん! そんな拳は効かん!!」
快人の拳を意にも介さず、アルデバランの右拳が快人に迫る。
「ぐっ!?」
快人は
「うをぉぉ!?」
10メートル近くを吹き飛ばされた快人が、空中で身体を捻り着地した。
「おいおい、ガードの上からこれかよ…」
痺れる腕を振り苦笑いをする。
さすがは
「ラッキーヒット一発でも相手を潰せる攻撃力は流石に厄介だな」
「ふん、よく言う。
そういうアルデバランの左頬には何かが当たったような跡があった。
快人は吹き飛ばされる瞬間、身体を捻って顔面に蹴りを放っていたのだ。
だが、快人の蹴りを顔面で受けてもアルデバランはビクともしない。
快人は内心でアルデバランのタフネスとパワーに驚愕していた。
そして、ただ一度の打ち合いで理解する。
(こりゃ、このままやり合ったら俺が負けるわ…)
『コレ』を相手に短期決戦なんてあり得ない。
今の『万全ではない』快人では、よくて
そうなれば手段は一つ、なのはを連れての即時撤退である。
幸い赤チビ…ヴィータはなのはとの間に割り込むようにしている快人を警戒し、今のところなのはに手を出していないがいつまでも続くとは思えない。
そこまで考えた快人は一つ息を吐き出すと、右手の掌を開く。
そこに蒼い炎が生まれ、それを見たヴィータが警戒で身を固くした。
「それが魂焼く業火、積尸気の炎か…面白い!
俺にその炎、通じるか見せてみろ!」
一方のアルデバランは腕を組み直すと不敵に笑って見せる。
こちらが本気になったと思い、真っ向勝負とでも思っているのだろう。
その様子を見て、快人は内心でほくそ笑むと手の中の炎を、
「
「な、なに!?」
その瞬間、巻き起こった目を焼く閃光にアルデバランは驚きの声を上げた。
以前、邪神エリスの時にも使った目くらましである。
「バァカ、誰が怪我したなのはそっちのけで戦うか。
ここはずらからせてもらうぜ!!」
快人はその隙になのはを抱きかかえると、ビルの屋上から飛び立つ。
だが。
「よい戦術だが、こちらもそうそう逃がす訳にはいかんのでな」
すぐ近くで女の声がした。
快人が視線を巡らすと、そこには剣を快人へと振りおろさんとするポニーテールの女の姿があった。
しかもその女からは
「!?」
快人は咄嗟に自分の身体を盾にしてなのはを庇うと、その刃は快人の背中へと振り下ろされた。
その刃は
「くっ! 降りるぞ、なのは!!」
快人の言葉になのはは身を固くして衝撃に備える。
快人はそのまま地面に着地するが、その衝撃でアスファルトが数メートルにわたって四散した。
「ちィ!?」
即座に快人が空中を見上げると、そこにはポニーテールの女が、ヴィータとアルデバランと並んで浮かんでいた。
「アルデバラン、貴公はあれほどまでに強いのに搦め手には滅法弱いのだな」
「面目ない…」
ポニーテールの女…シグナムの言葉に、アルデバランは頭を掻きながら苦笑した。
「新手だと…?
しかもあの女…今は
「ううん、あの人だけじゃない。 あの赤い子も全然
快人になのはは先程自分を撃墜した時の光景を語る。
あのデバイスが何かした途端、いきなり巨大な
「こりゃ、ちょっと不味いな…」
なのはを抱えた状態で、
こうなれば、覚悟を決める必要があるだろう…。
そんな風に快人が考え始めていると、アルデバランが快人へと話しかけてきていた。
「
お前と互角の俺がいる以上、お前に勝ち目はない…」
「それで?
だとしたら…舐めてんじゃねぇぞ、クソ牛!
3匹ぐらい、まとめて相手してやる!」
「…すまない、俺の思慮が足りなかった。
お前も守るべき者を持った
ならば…全力を持って相手をしよう!」
アルデバランの言葉にシグナムとヴィータがデバイスを構え、戦闘態勢に入る。
快人もなのはを地面に降ろすと、なのはを庇うように一歩前に出た。
「なのは…どうせ『逃げろ』って言っても聞かないんだろ?」
「もちろんだよ」
ダメージでふらつきながらも、ボロボロのレイジングハートを杖にして身体を支えるなのはが気丈に答える。
「なら一つだけ…逃げ回って時間を稼げ。
シュウトはちょっと無理だろうが、フェイトなら異変に気付いて助けに来るかもしれない。
フェイトの助けが得られれば打開の方法も見えてくるかもしれないからな」
「快人くん、フェイトちゃんなら『助けに来るかも』じゃなくて、『必ず助けにくる』よ。
だって逆の立場だったら、私すぐに助けにくるもん」
快人の言葉を、なのはは確信を込めた形で言い直す。
そして、なのはは言葉を続けた。
「それに…逃げ回る必要はないよ。
だって…」
その時だ。
戦闘態勢に入っていた3人へと電光が雨の如く降り注ぐ。
「もう、来てるもん」
「成程、頼りになるこって」
2人の側に降り立つのは黒い少女。
「何!?」
「何だ、あいつらの仲間か?」
突然のことに一瞬の動揺を見せた3人に、電光を放った黒い少女は言い放った。
「違う。 『友達』だ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~
「なのは、大丈夫?」
「うん、なんとか…」
最高のタイミングで駆けつけてくれた親友に、なのはは気丈に答えるがそれをさらに横に降り立つ影が否定した。
「嘘おっしゃい。 デバイスも身体もボロボロじゃないの」
「ここはアタシらに任せて休みな」
そう言うのはフェイトの母と使い魔、プレシアとアルフの2人だ。
テスタロッサ家勢ぞろいである。
「あなたが着いていながら…と、言いたいところだけど、『アレ』はあなたと同じ存在なんでしょ?」
「ああ。
黄道十二星座の一つ、
「
プレシアの言葉に快人が答えると、フェイトは緊張した面持ちでバルディッシュを握り直す。
「あと残り二人はお前となのはと同じく
「フェイトたち以外に
「…あちらにも
それで、状況はそれだけ?」
「もう一つおまけで言えば、『シュウトは来ない』。
俺がここに来たのは完全な偶然だ、シュウトにそれは期待するな」
それを言うと快人は全員の一歩前に出る。
「
いくら
くれぐれも油断するな、アルフは常に2人のサポートに廻ってくれよ」
「あいよ」
「頼むぜ。 頼りにしてるんだからな」
「任せて快人。 母さん、行こう!」
「ええ、私たち母娘の力を見せてあげるとしましょう…」
テスタロッサ母娘がデバイスを構え、アルフが拳を鳴らす。
一方のアルデバラン・シグナム・ヴィータの3人も今の状況でどうすべきか言葉を交わし合う。
「この魔力、この街にいる全ての魔導士が勢ぞろいということか…」
「好都合だよ、片っ端から『蒐集』してやる!」
「落ち着け、ヴィータ。
相手にはこの俺と同じ
一つずつ確実にことを成す必要がある…」
「その通りだ、ヴィータ。 我々には失敗は許されん」
アルデバランの言葉にシグナムは同意すると、ある相手へと念話で語りかける。
『シャマル、状況は分かっているな?
私たちが戦っている間無防備になるだろう、あの白い少女からの『蒐集』を頼む。
その上で余力があるのなら他の者からも『蒐集』を行う。
何かしらの不測の事態が起こった時には即座に退くのでその準備をしておいてくれ』
『わかったわ。 逃走用のジャミングの準備、しておくわね』
『頼む』
シグナムは念話を終了させると、アルデバランとヴィータに話しかけた。
「方針は決まった。 我々はここで彼らを喰い止めているうちに、シャマルが手負いの白い少女を狙う。
その上で余力があれば『蒐集』を続行、不測の事態が起きれば即座に退くぞ。
私はあの黒い少女を狙う」
「だったらアタシはあのおばさんをやるよ」
「俺は
決してお前たちに手出しはさせん。 このアルデバランの名にかけてな」
成すべきことの決まったアルデバラン・シグナム・ヴィータも戦闘態勢に入った。
もはやお互いに言葉は不要。
同時に両陣営が動き出し、ぶつかり合う。
魔法と
~~~~~~~~~~~~~~~
「ぐっ…」
シグナムと数合打ち合った段階で、フェイトは己の不利を悟っていた。
シグナムの格闘戦における踏み込みの速さが尋常ではない。
高機動戦からの近接格闘はフェイトにとってもっとも得意とするものだ。
だというのにシグナムはそんなフェイトの一歩以上先を行く。
それは経験と戦術の差だった。
格闘戦を得意とするシグナムは相手との距離をはかる術に誰より長けている。
そんなシグナムを相手取るには、フェイトの経験は足りない。
そして、さらにフェイトを追い詰めるものがあった。
「レヴァンティン、G型カートリッジ、ロード!!」
ガスンという重い音と共に、シグナムから濃密な
単純に換算してもなのはやフェイトの操る
(これがなのはの言っていた!?)
その力に戦慄しながらも、フェイトは中距離からの砲撃を加えるが…。
「遅い!」
「!?」
気付いた時にはシグナムはフェイトの直上にいた。
通常の戦闘機動、それがさらに
振り下ろされる剣を咄嗟にバルデッシュで防ぐが、バルディッシュの強固な外装が大きく切り裂かれ、コアパーツにまでヒビが入る。
「きゃぁぁぁぁ!!」
衝撃に吹き飛ばされるフェイトだが、何とか空中で踏みとどまった。
「はぁはぁ…」
荒い息をつきながらもバルディッシュを構えるフェイト。
そんなフェイトをシグナムは興味深そうに見つめる。
「いい気迫、そしていい闘志だ。
私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターの将、シグナム。そして我が剣、レヴァンティン。
お前の名は?」
「…フェイト=テスタロッサ、そしてこの子はバルディッシュ」
シグナムの名乗りに、フェイトは同じように名乗りを返す。
「テスタロッサにバルディッシュか…」
フェイトたちを正しく強敵と認めレヴァンティンを構え直すシグナムに、フェイトは緊張の面持ちでバルディッシュを構え直すのだった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
一方のプレシアとヴィータとの戦いはかなり派手な様相を呈していた。
プレシアがその魔力量にものを言わせて、『フォトンランサー・ファランクスシフト』をばら撒いているからだ。
これは立派な作戦のうちである。
元々研究者であるプレシアは、戦闘の手ほどきなどほとんど受けてはいない。
魔力は多いが、それを戦闘用に上手く利用することが出来ないのだ。
対して相手は明らかな戦闘魔導士、プレシアでは普通には勝利は出来ないだろう。
だからこその『下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる』である。
だが、この大規模飽和攻撃はかなり有効だった。
さすがにヴィータは接近することが出来ず、回避に専念することになる。
だが、ヴィータの敵はプレシアだけでは無かった。
「これは!?」
違和感にヴィータが足元を見ると、アルフのバインドが足へと絡みついている。
グラーフアイゼンを振って即座にバインドの拘束を破るが、その一瞬でフォトンランサーが2発3発とヴィータへと突き刺さる。
ヴィータを仕留めるには至らないが、それでも効いているらしい。
ヴィータは一端安全圏にまで退いて、態勢を立て直すと吐き捨てるように毒づく。
「チィ! あのババアと犬、思ったよりやる!」
その瞬間、ヴィータのいた空間を強力な電光が突き抜けていった。
それを放ったのは、青筋を立てたプレシアである。
「誰が『ババア』なのかしら? 近所では桃子と同じく、若い奥さまで通ってるのよ。
それにフェイトと一緒に歩くと、『歳の離れた姉妹に見えました』とか『後妻の方ですか?』とかご近所さんに言われるのよ。
その私を捕まえて…ババアですって?」
「いや、それ絶対ただのお世辞だよ。 あんた十分ババアだぞ」
プレシアの言葉に即座にヴィータは突っ込みを入れるが、それにプレシアは極大の電光を持って答えた。
「ほほほ…口の悪い子ね、私を捕まえて『ババア』を連呼するなんて。
お仕置きが必要よね、それもとびっきりのが!!」
そしてプレシアの周りに現れるのは、大量のスフィア。
「私はまだ若い! 私は永遠の28よ!」
「いくらなんでもサバ読み過ぎで無理があんぞ!
現実見ろよ、ババア!!」
数えるのもバカらしくなるフォトンランサーの弾幕を避けながらヴィータが悲鳴のような声で叫ぶ。
その苛烈な弾幕を見ながら、プレシアに『ババア』と言うのは絶対やめようと心に誓うアルフだった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
快人とアルデバランの戦い、それはもう別次元…言うなれば怪獣大決戦だった。
「おりゃぁぁぁ!!」
「おおぉぉぉぉ!!」
極至近距離に寄った快人とアルデバランの間を拳と蹴りが飛び交う。
2人を比較すれば、快人はテクニックで相手の上を行き、アルデバランはパワーで相手の上を行く。
快人は繰り出されるアルデバランの攻撃を巧みに受け流し、かわして隙をついて攻撃を浴びせる。
だがアルデバランはビクともしない。
お返しとばかりに繰り出される拳を受け流すが、受け流した腕が衝撃でビリビリと痺れる。
そしてその余波だけで地面が砕けていくという人知を超えた光景だった。
「やるな、
「そっちこそ
バーベキューのし甲斐があるぜ!」
「減らず口を!!」
その攻防の中で、アルデバランは腕を組む。
数発の直撃を覚悟してでも、必殺の『グレートホーン』をこの至近距離で放つつもりのようだ。
それに対して快人も技によって答える。
「
拳に乗せた蒼い炎が爆発する。
アルデバランに拳を撃ち込んだと同時に起動した魂葬破の爆風に快人は逆らわず、そのまま吹き飛ばされ大きく距離を取る。
そしてその瞬間に
「グレートホーン!!」
荒れ狂う黄金の野牛の形をした衝撃を、快人は
「ぐ…やっぱ威力が半端ねぇ…」
痛む腕で、衝撃波がかすり流れた頬の血を拭う快人。
至近距離で直撃を受ければどうなるかは考えたくもない。
同じように、アルデバランも快人の技巧には舌を巻いていた。
極至近距離での打ち合いの技術は明らかに快人が上、今のところ防御を抜くほどの攻撃はしてこないが油断はできない。
それに…。
(
『
ならば繰り出される前に倒すしかない…実際には快人は
快人は防御を抜き決定打となる攻撃が出来ずに、アルデバランは『
だが、その膠着状態は全く別の、外部からの要因で破られた。
「あ、ああ…」
なのはの震える声に、快人が反応する。
そして快人が見たものは…。
「なのは!?」
デバイスを構えたなのはの胸から生えた、細い女の手。
なのははそのあり得ない光景を呆然とした表情をするが、すぐに何かを耐えるようにして空を見上げ、レイジングハートに向かって叫ぶ。
「スターライト…ブレイカァァァァァー!!」
なのはの魔力・
そして、バリンという音と共に何かを砕いた。
世界に色が戻っていく。
なのはの一撃がこの一帯の結界を完全に破壊したのだ。
それを確認し、なのはは力尽きた様にレイジングハートを地面に落とし、前のめりに倒れ込んでいく。
「なのはぁぁぁ!!」
快人は目の前のアルデバランを無視して、なのはを抱き止める。
「…」
アルデバランはそんな快人の邪魔をすることも無く、無言のままその場を離れていくのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~
少し時間を遡る。
戦端が開かれた直後から、なのはは状況の打開を考えていた。
フェイトたちテスタロッサ家が援軍で来てくれたおかげで戦況は五分五分になったと見ていい。
そう、五分五分だ。
自分を撃墜したヴィータ、そしてまだその実力を知らぬシグナム、そして何より快人やシュウトと同じ
どう戦況が転ぶか分からない。
万が一快人が敗れればこちらの敗北は確定だ。
だからこそ、今現在戦力として数に入っていない自分が、今のうちにどうにかして戦況を打開できないか考える。
とはいえ、今の自分に出来ることなどたかが知れている。
レイジングハートも損傷し、空は飛べず、今は精密な攻撃は出来ない。
これでは援護のつもりで砲撃を行っても、相手があれだけ速ければ役に立たないどころかフレンドリーファイアをやりかねない。
今のなのはには固定砲台すらできそうになかった。
しかし…。
(今の私には動きまわるものを撃ち抜くことはできない。 でも…動かないものなら撃ち抜ける!!)
そう考えなのはが見上げるのは空。結界特有の、色を失った空である。
結界を張っている以上、相手にはこの街を害しようという意図はないのだろう。
なら、この結界を破壊してしまえば…双方退かざる得なくなる。
「レイジングハート…いける?」
『もちろんです、マスター』
雑音まじりに点滅しながらも自分に答えようとしてくれる相棒に微笑み、なのはは天空へ向かってレイジングハートを構える。
なのはは魔力と
だが、双方いつもとは比べ物にならないくらい遅い。
なのはもレイジングハートも、本来なら戦闘行動など出来るはずのないレベルのダメージなのだ。
それを押して、不屈の心でなのはは歪む視界で空を見つめる。
『マスター、最終カウントダウン。 30、29、28…』
本人たちには果てしなく長い、されどはたから見ればすぐの作業を終わらせ、なのはとレイジングハートはスターライトブレイカー発動の最終段階へと入っていた。
その時だ。
「…えっ?」
なのはの胸から…腕が生えていた。
細い女の腕だ。
その異常な光景になのはの口から漏れたのは苦痛でも悲鳴でも無く、疑問の声。
後ろには誰もいないし、痛みはない。
だが、身体の中をまさぐられる様な言いようのない不快感と、その不気味さになのはは眉をひそめる。
そして、その手がなのはの中から輝く何かをえぐり出す。
それはリンカーコア。なのはの魔導士としての心臓だ。
そして襲いかかってくる虚脱感。
(私の魔力が…吸われてる!?)
それはあの『邪神エリス事件』のときの、黄金のリンゴに命を吸われた時の感覚によく似ていた。
だからこそ、今自分がどんな状態なのかが本能的に分かってしまう。
このままでは自分の意識は長くは保たない。
その間に…自分のすべきことをやる!
そのために、今襲いかかってくる不快感も虚脱感も恐怖心も、自分の中の邪魔なもの何もかもをねじ伏せ、なのはは空を見上げ、最後のトリガーを引いた。
「スターライト…ブレイカァァァァァー!!」
なのはの全魔力・全
そして、バリンという音と共に何かを砕いた。
世界に色が戻っていく。
「やっ…た…」
そこまでが限界だった。
レイジングハートを取り落とし、なのはの身体は地面に向かって倒れていく。
だが、その身体を誰かが抱き止めた。
「なのは! なのは!!
しっかりしろ、おい!!」
言うまでも無い。黄金の
「快人…く…ん…」
そんな幼馴染を安心させたくて、なのはは快人の頬に触れようと手を伸ばすが、そこが限界だった。
ブレーカーでも落ちるように、プツリと意識が切れていく。
(目が覚めたら、なのはは大丈夫だよ、って安心させてあげないと…)
それだけ思いながら、なのはは意識を失った。
~~~~~~~~~~~~~~~
空に上る閃光によって結界が破壊されていく様は、その戦場にいたすべての者に見えていた。
「どうやらここまでのようだな、テスタロッサ…」
シグナムはそれだけフェイトに告げるとレヴァンティンを下ろす。
「目的は達したが、結界が破壊されてしまってはこれ以上の戦闘は出来ない。
ここは退かせてもらおう」
そう言って飛び去っていくシグナム。
そのシグナムは途中でヴィータとアルデバランと合流し、何処かへと飛び去っていく。
「退いた? いや、『退いてもらった』…」
フェイトは荒い息を整えながら、理解していた。
あのまま戦っていたら、自分はそう遠くないうちに撃墜されていたことを。
「…情けない!」
吐き捨て、ギリリとフェイトは悔しさに噛みしめる。
シュウトの隣に居続けるため強くなろうと誓ったというのに、結果は自分もバルディッシュもボロボロ。
戦闘における己の未熟さを思い知らされるばかりだ。
だが、今はそれを考えているだけではいられない。
今、シグナムは『目的は達した』と言っていた。
その目的とは…。
「!? なのは!」
フェイトは親友の安否の確認のため、最高速で飛ぶ。
「フェイト!」
「無事かい、フェイト!」
「母さん、アルフ!」
その最中、プレシアとアルフと合流しフェイトたちはなのはの元へ飛ぶ。
そしてそこで展開されていた光景は…。
「え?」
地面に横たわるなのは、その周囲に倒れ伏す男たち、驚愕の表情の黒衣の少年、そしてセージに殴られた快人という、全く状況がわからない光景だった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
地球までたどり着いたアースラは、早速任務としてサーチをかけたところ、この艦の真の目的地である海鳴市で結界を感知し、状況を監視していた。
明らかに何かが起きている。
「…」
艦長席に座すリンディは次々と入る観測結果と報告を聞きながら、状況を見ていた。
そして、その隣に立つ少年に話しかける。
「これは『彼ら』の仕業かしら?」
その言葉に少年は首を横に振った。
「『彼ら』は特殊な技は使いますが、こういう結界を張ったりは僕の知る限りはしません。
おそらくこの周辺で起こってる魔導士襲撃事件に関係があるんじゃないかと思います」
「そう言えば、『彼ら』の周りには優秀な魔導士の女の子がいるんだったわね」
「ええ、2人ともとびっきり優秀ですよ」
「出来る事なら、『彼ら』だけじゃなくその子たちにも協力を仰ぎたいものね」
管理局の人材不足は深刻な問題だ。
優秀な人材のスカウトも、管理局にとっては重要な仕事の一つである。
そんな時、状況が動いた。
内部からのバカげた魔力量の砲撃で、結界が破壊されたのだ。
「これ…なのはのスターライトブレイカー!?」
「この魔力量…本当に優秀な魔導士みたいね」
少年が声を上げ、リンディはデータを見ながらそのあまりの出鱈目な数値に驚きと呆れを同居させたような顔をする。
「結界、内部から破壊されました!
映像、来ます!!」
オペレーターのエイミィの言葉と共に映し出されるのは合計4人の男女の姿。
その一人の持つ魔導書型のものに、リンディはすぐに気付いた。
「あれは…!?」
見間違えるはずもない、それはロストロギア『闇の書』…幾多の悲劇を呼び、自らの夫を失う原因となったロストロギアだった。
そして、それと共にいる黄金の鎧の少年。
「あの黄金の鎧は!?」
リンディの言葉に、隣の少年は驚愕の表情で首を振る。
「違う、あれは僕の知ってる
まさか…あの2人以外の
「エイミィ、彼らの追跡を!」
「駄目です! 強力なジャミングで目標ロストしました!!」
どうやら相手の方が上手だったらしい。内心でほぞを噛むリンディ。
だが、そこに新たな報告が入った。
「結界内だった場所に複数の人影を確認!
今、クロノくん率いる武装隊が状況確認のため突入しました。
映像、来ます!」
そこに映し出されたのは、倒れた白い少女を抱きかかえた黄金の鎧を纏った少年の姿だった。
映し出された映像の、黄金に煌めく鎧の美しさにアースラのスタッフたちが感嘆の息を漏らす。
その姿に少年は声を上げた。
「快人! それに…なのは!?」
どうやら彼こそ、この少年の知る『希望』のようだ。
確かに予言にある『黄金の鎧の闘士』である。彼らの協力を何としても取りつけなければ…そこまで考えた時、リンディはあることを思い出した。
(そうだ、これは極秘任務。 このことをクロノは!?)
「不味い! エイミィ、クロノと武装隊をすぐに…」
下がらせて…そう言い終わるより早く、映像は最悪の光景を映し出していく。
クロノと武装隊の問答の後、黄金の鎧の少年と交戦し始めたのだ。
「何あれ!?
魔力反応も何もないのに…武装隊が次々に制圧されてく!?」
何をされたのか理解も出来ぬ瞬きの間に、1人また1人と武装隊の人間の意識が刈り取られていく光景が映像には映し出される。
もう残っているのは指揮官であるクロノだけだ。
「リンディさん、すぐに通信を!?」
少年が慌ててそう進言したその時だ。
映像で光と共に老人が現れ黄金の鎧の少年を殴りつけると、落ち着きを取り戻したのか黄金の鎧の少年はその拳を下げた。
「あれは、セージさん…。 よかった、大事に至らなくて…」
映像にホッと息をつく少年。
「エイミィ、すぐにあの場所に通信を。
私が話をします」
「は、はい!」
目まぐるしく変わる状況に放心状態だったエイミィは、リンディの言葉に慌てて端末を操作しだす。
(どうやら最悪の出会いになってしまったようね…)
リンディは内心で頭を抱えると、これからのことを考えながら通信ウィンドウを見るのだった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
武装隊を率いて結界周辺に待機中だったクロノ=ハラオウンは、結界内だった場所に人影を確認すると武装隊を率いて突入を開始した。
この件のことを知る重要参考人であることは間違いない、どうあっても確保する必要がある。
それに、アースラに映し出された映像はクロノも見ていた。
ロストロギア『闇の書』…自分の父の仇とも言えるロストロギアによる事件だ。
父の時のような悲劇を繰り返してはならない…個人的にもクロノには思うところがあったのである。
そしてクロノは武装隊と共に、教本にもある『時空管理局の行動規範に則った行動』をした。
「時空管理局だ!
詳しい事情を聞かせてもらう。 武装を解除して投降しろ!」
武装隊と共にその人影を包囲、武装解除の上で拘束である。
あらかじめ断っておくが、クロノの行動は『時空管理局の行動規範に則った正しい行動』である。
この状況ではこの人物と事件との関係性は不明だ。
敵性勢力である可能性も払拭できない以上、武装を解除させ安全を図った上で拘束し事情聴取というのは正しい。
教本にもそう載っているし、テストでなら間違いなく満点の解答だ。
だが、ここに落とし穴がある。ここは管理外世界だということだ。
当然、『時空管理局』という組織を知る者はおらず、この世界の人間からは自分たちが『意味不明なことを述べながら武器を突きつけてくる危険人物』に見えるということ。
もう一つ不幸なことが、時空管理局に蔓延する魔法至上主義による考え方である。
『魔法こそ人間の持ちえる最高の技能』、という考えによって魔法文化のない管理外世界は軽視されがちだ。
さらに目の前の人物からは魔力反応は皆無…それらのことも相まって、完全に彼らは目の前の人物を甘く見ていたのである。
目の前の少女を抱く黄金の鎧の少年…快人は突然現れたクロノと武装隊を一瞥することも無く、なのはの様子だけを見ている。
その様子に、再びクロノは勧告した。
「もう一度言う! その鎧を脱いで投降しろ!
こちらの要求に応えない場合、力づくで拘束する!」
その言葉に、快人はゆっくりとなのはを横にならせると立ち上がった。
「…さっきから突然現れて何を訳分んねぇことほざいていやがる?
こっちは今それどころじゃねぇ、とっとと俺の視界から消えろ…」
「これが最後の警告だ! その鎧を脱いで投降しろ!」
「断る」
「敵対行為とみなしこれより強制的に拘束する!」
クロノのその言葉と同時に、クロノと武装隊から数十ものバインドが快人を雁字搦めにする。
だが。
「ふん…」
「!?」
快人が少し力を加えた瞬間、そのバインドすべてが吹き飛んだ。
魔力反応は一切ない。
混乱しながらも、クロノは再びバインドを使用する。
そのバインドはストラグルバインドという特殊なバインド魔法だ。
この魔法は対象にかかっている強化魔法を強制解除するという効果を持っている。
魔力反応なしでバインドを吹き飛ばした快人を、誰かに強化魔法をかけられているのではと考えたからだ。
だが、それすらも快人は何の苦も無く吹き飛ばす。
それは快人には強化魔法などかかっていない、魔法を使用せずにバインドを破っているということに他ならない。
「これは…一体…!?」
その動揺はクロノだけでなく、武装隊すべてに広がっていた。
そんなクロノたちに、快人は面倒そうに顔をしかめると拳を振り上げた。
「うわぁ!?」
「ぎゃぁぁ!!」
拳が光った…そう思った時には武装隊が全員、悲鳴を上げながら気絶していく。
残っているのはクロノのみだ。
「何を…何をしたんだ!?」
今までの経験すべてを持ってしても全く理解が出来ない異様な光景に、クロノは悲鳴のような声を上げる。
そんなクロノに向かって快人は無言で拳を振り上げた。
(やられる!?)
本能的にそれを悟るクロノだが、その時光と共に一人の老人が現れた。
「快人…」
その老人…セージが快人の振りあげた拳を押さえつけている。
そして快人の顔面へとセージは拳を叩きつけた。
「!? じいさん、何しやがる!!」
「何をしている? それは私の台詞だ、快人!
お前は今、その
「そんなの目の前の敵を…」
「愚か者が! そんなことも気付かぬほど私の目が節穴だと思っているのか!!
確かにこの者たちはお前に対し攻撃を仕掛けた。
ただの自衛のための拳だというのなら、私も何も言わん。
だがお前は今、大切ななのは嬢を傷つけられ守れなかった苛立ちをこの者にぶつけようとしている!
その様な考えで
セージの言葉に、落ち着きを取り戻したのか快人はゆっくりとその拳を下ろす。
「快人よ…大切ななのは嬢を傷つけられ、お前が苛立つのも分かる。
だが、そう言う時だからこそ冷静にならねばならん。
なのは嬢は生きている。
身体に異常が無いか確認し、すぐにでも休ませることが先決だ。
違うか?」
「…ああ、その通りだよ、じいさん」
快人はセージの言葉に素直に頷く。それを見たセージも頷くと、言葉を続けた。
「ならばすぐにでも行動だ。
なのは嬢は魔法による攻撃を受けた可能性が高い。
プレシア女史ならば、なのは嬢の状態を調べられるやもしれん。
すぐにでもプレシア女史に…」
『それは私たちに任せてもらえないかしら?』
セージの言葉に答えるように、中空にモニターのようなものが浮かび上がる。
そのモニターには一人の女性の姿が映っていた。
「母さん!?」
クロノは突然の通信に驚きの声を上げる。
『始めまして、私は時空管理局所属、次元航行艦アースラ艦長、リンディ=ハラオウンです。
あなたたちの地球とは違う、次元世界から来ました』
その言葉に、セージは言葉を返す。
「始めまして、次元の彼方の客人よ。
私はセージ、地球の知られざる守護者、
こうして
プレシアさん28さい…駄目だ、無理すぐる。
蟹VS牛、第一戦終了。
遂に邂逅した聖闘士と管理局。
次回は交渉と各陣営の日常風景、そして強化。
次回もよろしくお願いします。