イモジャーを着こみ、お茶を片手に胡坐をかきながら前時代的なブラウン管テレビを2人の美女が見ていた。
ここは天界、そしてこの2人は女神アテナさまに女神アフロディーテさまである。
「「…」」
その2人はその格好とは裏腹の真剣な表情でブラウン管テレビを見続ける。
2人は快人とシュウトの関わった『ジュエルシード事件』でのデスマスクとアフロディーテの登場で、自分たち以外の『神』の干渉を知った。
その後調査は進めていたが一向にその正体は分からず仕舞い。
夏休みには『邪神エリス事件』まで起こったが、それでも黒幕の存在を掴むことが出来なかった。
だが今回、
「…行きましょ、アフロディーテ」
「ええ、そうね。 アテナ」
2人は立ち上がるとその身体が光に包まれ、イモジャーから女神としての正装へと変化していた。
「
「ええ。
私らほどじゃないけど、一緒に酷い目にあってたからね、あの子も」
2人の脳裏に浮かぶのは仲の良かった1人の女神。
「アルテミス、あの子何考えてるのよ!?」
「恐らく私らと同じ、
それで私らの計画に秘密で便乗してたとか…」
アテナは吐き捨てるように言い放ち、アフロディーテはため息をつく。
とはいえ、2人の知っているアルテミスは策謀などやるタイプではない。
単純明快で性格だって竹を割ったような、悪く言えば適当な、好感の持てる女神だ。
デスマスクの言い残した『性格が悪そうな女神』と言うのにはどう考えても当てはまりそうにないのだが…。
「とにかく! あのノーテン女神には話を聞かないと!!」
「そうね、すべてはそれからよ」
頷き合うとアテナとアフロディーテは何処かへと転移したのだった…。
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そして次元世界を魔法の力を持って管理する時空管理局。
それらが今、地球にて邂逅を果たす。
「それでリンディ女史、我々地球の者には『時空管理局』なる組織についての知識はないのだが、どのような組織か説明を求めてもよろしいかな?」
『私たち時空管理局は次元世界の平和維持を主な任務としています。
そして、今回はある任務のため地球へとやってきました』
「成程…形は違えど我ら
『え、ええ…その様な解釈をしていただければ光栄ですわ』
顎を擦りながらのセージの言葉に、リンディは少し戸惑いながらも答える。
「しかしながらリンディ女史、今の快人への攻撃といい、高圧的な物言いといい少々配慮に欠けるように見受けられるのだが?
こちらの世界では、あなた方時空管理局という組織のことは認知されていない。
そこに、そちらの法をいきなり押し付けるのは些か問題だと思うのだが?」
『それは…確かに申し訳ありませんでした』
突如として鋭くなったセージの眼光に冷や汗を流しながら、リンディは素直に謝罪した。
リンディとて現場で多くの命のやり取りをし、権力闘争渦巻く本局で長年生きてきた人間である。
多少の眼力では怯みすらしない自信はあった。
だが、セージは外見からすれば齢70に届こうという老人であるのに、その眼光はリンディの今までの人生の中において最も鋭い。
その眼力だけで格の違いを感じ取ったリンディは冷や汗が止まらなかった。
「それで、先ほど興味深いことを言っていましたな。
『なのは嬢を自分たちに任せて欲しい』、と」
『はい、我々は魔法については専門の機関であり、こちらにはそのための医療施設もありますので十分な検査と治療をお約束できます』
「それは確かに魅力的な話ではありますが…」
セージはリンディの話に難色を示す。
そこに快人が横から口を出した。
「いきなり訳わかんねぇこと言われて攻撃されて、信じられるわけねぇだろ!
お前らがさっきの連中の仲間じゃないって保障もないし、預けた途端なのはを攫ってドロンってことだってあるんだからな!」
「これ、快人…」
快人の言葉をいさめるセージだが、内心では快人と同意見だ。
この短時間では時空管理局という組織がどんな組織であるのか判断が出来ない。
そこになのはを預けることの危険さを重々承知していたのだ。
だが、そのとき新たな通信ウィンドウが開いた。
『彼らのことは僕が保障します。 だからどうか信じて欲しい』
そういってきたのは1人の少年だった。
線の細い中性的な少年である。
そして、その人物を知る快人とセージは揃って驚きの声を上げた。
「「ユーノ(君)!?」」
『お久しぶりです、2人とも』
モニター越しに頭を下げる少年は、あの『ジュエルシード事件』の時にフェレットの姿となって快人たちと行動を共にしていたあのユーノだった。
「久しぶりだな、ユーノ。
でもお前、そいつらと行動を共にしているっていうのは…」
『実はあのジュエルシード事件の後、僕の発掘の腕を買われてね。
時空管理局の無限書庫ってところに就職したんだ』
「なるほど、それはめでたい。
そして…君の目から見て、彼らは信用できるというわけか」
『はい、セージさん。 少なくとも僕と一緒に来た人たちは信用に値する人たちです。
それに…僕だってなのはを危険に晒すようなことなんてさせません。
だからなのはのことを任せてもらえませんか?』
ユーノから感じる視線は企みなどあるはずも無く、どこまでも真摯だ。
その眼差しを見て、セージは頷く。
「いいでしょう、そちらの好意に甘えることとしましょう。
快人、お前もそれで文句はあるまい?」
「時空管理局っていうのはまだ信じられないが…友の言葉なら話は別だ。
でも、万一のために俺も同行させてもらうぞ」
『構いません。 クロノ、彼となのはさんをご案内しなさい』
「は、はい!」
リンディの言葉にことの成り行きを見守っていたクロノは慌てて頷くと、快人となのはと共に転送魔法で消えていった。
『それでセージさん、私たちはあなた方と今回の件で話し合いの場を持ちたいのですが…』
「構いませんが、それを行うのは明日にしていただけませんかな?
ユーノ君と行動を共にしているとなれば、快人の他にもう1人聖闘士がいることもどうせご存知でしょう。
彼らも話し合いに参加させるためにしばしの猶予を貰いたい」
『構いません。
それでは明日の朝、迎えを寄越しますのでこの場所で』
「ええ、有意義な話し合いを期待していますよ、リンディ女史」
通信ウィンドウが消え去り、残ったのはセージとテスタロッサ家の面々だ。
「あの…セージおじいさん、どうするんですか?」
ことの成り行きを見守っていたフェイトがおずおずといった感じでセージに尋ねた。
「敵方に
フェイト譲はすまないがシュウトを連れてきて欲しい。
朝近くなれば守護宮から戻ってくるはずなのでな。
そしてプレシア女史には、時空管理局という組織について教えて欲しい。
相手の規範、理念、歴史といったものが分からなければ話し合いのし様がないのでな。
そして明日の話し合いにも参加をしてほしい」
「ええ、わかったわ」
セージの言葉に、プレシアが頷く。
「で、じいさん。 アタシは?」
「うむ…そうだな、アルフはフェイト嬢の傍についていてもらえればいい」
セージからの話を聞いて頷くテスタロッサ家の面々。
長い夜はまだまだ終わりそうになかった。
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「なのは…」
快人はベッドへと横たわるなのはを眺め続けていた。
あの後快人はなのはを連れ案内されるままに転送ポートを経由し、本局の医療施設へとやってきていた。
なのはの診断結果は命に別状なし、どうやら魔導士の心臓である『リンカーコア』から魔力を取られたらしく、それが著しく小さくなっていたがそれも子供特有の回復力からかすでに回復に向かっているらしい。
そのことを知らされたときには、ほっと胸を撫で下ろしたものだ。
以降、快人はなのはの傍で目が覚めるのを待っている。
そんななのはの病室のドアがノックされ、ユーノが入ってきた。
「お邪魔するよ、快人。
なのはの様子はどう?」
「見ての通りだ、まだ目が覚めないよ」
「そっか…」
そう言って、ユーノは快人の隣へと座った。
「ところで快人、頼まれていたものを持ってきたんだけど…」
そう言ってユーノが差し出したのは数個の錠剤である。
「悪いな、ユーノ」
「それはいいんだけど…何だって増血剤なんて必要なのさ?」
「まぁ、ちょっとあって貧血気味ってことさ」
そう笑って、快人は錠剤を飲み込むと互いの近況を話し合う雑談を始める。
そしてしばらくの後、再びドアが開いて3人の人影が入ってきた。
「兄さん!」
「なのは!?」
入ってきたのはシュウトとフェイト。
そして…あの黒衣の魔導士、クロノ=ハラオウンだった。
快人は思わずクロノに向かって警戒の視線を投げかけると、クロノは静かに快人に向かって頭を下げる。
「僕はアースラ所属の魔導士、クロノ=ハラオウンだ。
先ほどはすまなかった。
そっちの事情も心情も考えない行動だったと思う。
どうか許して欲しい…」
その態度を見て、快人は内心でクロノの評価を改める。
いきなりやってきて高圧的な物言いと武力行使には腹が立ったが、ユーノとの話でそれが管理世界に蔓延する『魔法至上主義』という考え方ゆえであり、決して彼個人が悪いわけではないということは聞いた。
その管理世界の中で、しかも時空管理局でも魔法の資質が高いものはエリート然としているらしい。
そのため、快人もクロノを『魔法至上主義を信望する、いけ好かない頭の固いエリート』と考えていたのだがどうやら違ったようだ。
自分がエリートだと考えている人間は大抵考え方が硬直しており、自分の考えを改めない。
その結果として高圧的な物言いや、相手の事情を配慮しないことが多々あるのだ。
だがクロノは自分の出会った事実から非を認め、謝罪をしてきている。
だから、快人も相応の態度で返すことにした。
「いや、こちらこそすまなかった。
そっちにも事情はあるだろうし、そっちから見たら俺のほうが不審者だからな。
ちょっと強めに手を上げたのは悪かったと思う」
快人もそう言って頭を下げる。
快人を包囲していた武装隊は全員、全治1週間ほどの打撲で収容中だ。
実際、冷静になっていればもう少しやりようはあったかもしれないがセージに指摘された通りなのはがやられたことでイラついていたため、その捌け口に彼らを使ってしまったという自覚と負い目が快人にはあった。
それに未知との遭遇というのは普通、平和的には行かないものだ。
自分の知らない世界で、自分たちとは違う文化・感性の持ち主と出会ったら、人類の歴史からみても普通は握手より先に殺し合いになる。
そう考えると、武装解除を迫ったクロノの対応も致し方ないとも快人は思えた。
「改めて…
よろしく、クロノさん」
「クロノでいいよ。 よろしく、快人」
そう言って快人とクロノは握手を交わした。
「それで兄さん、なのはちゃんの容態は?」
「命に別状はない。 医者の話だともうすぐ目を覚ますだろうって話だが…」
その時、呻きと共になのはがゆっくり目を覚ます。
「…あれ、ここは…?」
「なのはぁ!?」
「フェイトちゃん? それに快人くんにシュウトくんにユーノくんまで…私一体…」
抱きつくフェイトに、なのはは寝ぼけ眼で戸惑ったように呟くのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~
「そっか…私、負けちゃったんだ…」
話を聞いて、今までのことを思い出したなのはは胸元から赤い宝石を取り出す。
ヒビの入ったそれはなのはの相棒、レイジングハートの待機状態だった。
「ごめんね、レイジングハート…」
なのはの言葉に、レイジングハートはチカチカと点滅を返す。
「私のバルディッシュもこんなにやられちゃった…ごめん、バルディッシュ」
フェイトも自身の相棒であるバルディッシュを取り出すが、同じように酷い損傷状態だった。
「しかし連中の使ってたデバイスだが、何かおかしくなかったか?
ヴォルケンリッターと名乗った魔導士たちのデバイスはなのはとフェイトのデバイスとは根本的な部分で違っている気がすると、快人は言う。
それに答えたのはクロノだった。
「話を聞いている限り、それはベルカ式魔法のカートリッジシステムだな」
魔法にはなのはたちが使うミッド式とは別にベルカ式という系統があるらしい。
ベルカ式は遠距離・複数戦をある程度切り捨て、近接戦闘に特化した系統だそうだ。
その特性を象徴するように彼らの使うデバイスも『アームドデバイス』という、最初から戦闘での直接武装となるよう設計されており、その頑強さはなのはたちの使う精密なインテリジェントデバイスを遥かに凌駕しているようだ。
さらにその最大の特徴は『カートリッジシステム』というものを搭載していることだ。
圧縮魔力を込めたカートリッジをロードすることで、瞬間的に爆発的な威力を発揮することの出来るシステムである。
制御が難しく、身体にかかる負荷も相当な限られた人間しか使いこなせないシステムだったようで、それがベルカ式魔法衰退の原因であったという。
「なるほどな…で、連中…というかあのクソ牛が魔力のかわりに
今の特性から、快人はなんとなく今日の相手について納得していた。
シグナムたちからは
『
「それ…ものすごい無茶するね」
「何、あの
それだけ頑丈さに自信があるんだろうぜ」
話を聞いていたシュウトが呆れ、快人が肩をすくめる。
実際にそれはとんでもない無茶だ。
出力を上げるために電子回路に過剰な電力を流すようなものである。
それをすれば数度かは望む結果が得られても、いつか必ず回路が焼ききれる。
電子回路なら部品交換で済むが、これが普通の人間ではどんな状態になるのか?
神経が焼き切れて脳死なり半身不随なり、愉快な結果でないことだけは明白だった。
「で、じいさんたちは何をしてるんだ?」
「母さ…いや、リンディ艦長たちと今後のことについて話し合いをしているよ」
「なるほど…相手に
「私は…あのシグナムともう一度話がしてみたい」
「私も、あの子のお話を聞いてみたいの。 何か事情があるみたいだったし…」
シュウトの言葉に、なのはとフェイトが相槌を打った。
なのはたちも思うところがあったのか、この事件に関わる気は満々のようだ。
そして、それは快人も同じだ。
「おい、シュウト。
この事件の間、あのクソ牛は俺がやる。 お前は手を出すなよ」
「いいの? 相性的にボクのほうがやり易いと思うけど…」
「相手はお前の存在を知らないんだ。いちいち教えてやる必要は無いさ。
それにこう不完全燃焼だと…な」
その言葉にシュウトは苦笑する。
それでも簡単にはいかないだろうとは思うが、
だが、負けず嫌いな兄は
「それはいいんだけどね、一体どんな話になってるのやら…」
今、話し合いに出ているのはセージとアルバフィカとプレシア、そして管理局側はリンディである。
その状況を予想して苦笑を漏らすのだった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
そのころ、アースラの和風庭園を模したような応接室で会談は行われていた。
地球の守護者という
まずはお互いがどのような存在なのかの説明から始まり、現在に至るまでの状況を互いに話をすることになった。
無論、セージたちもリンディもすべての真実を話すわけではない。
それは互いに互いの腹を探り合っているからだ。
セージたちは事前の情報で、時空管理局にはよい印象を持てなかった。
特にアルバフィカはミッド出身のシュウトと共にいたため、時空管理局の知識がある。
数多の次元世界に『管理』という名目で干渉することには、他世界への内政干渉だという風に感じていたし、連日のような管理局幹部の汚職などの事件をニュースで見ては眉を顰めていた。
救いの手を差し伸べねば死んでしまう人々も無論、次元世界にはいる。
それを救いたいという管理局の理念は立派とは思うし、それを志し活動している若い職員や一部の良識ある幹部はいいが、私利私欲に走るものも多い。
『立派な理念を持った優秀な末端と私欲に走る腐った上層部をもつ組織』というのがアルバフィカの管理局に対する印象だった。
セージも
とはいえ、それはセージとアルバフィカの『時空管理局』という組織に対する印象である。
リンディ=ハラオウン個人に対する印象は悪くは無い。
あのセージもその交渉力には驚きを感じた位だし、何よりその言葉には誠意を感じられる。
ユーノが言うだけあって信頼に値する人物だとセージたちは考えていた。
一方のリンディもセージたち
彼女の極秘任務は『
そのため、ユーノに『破滅の予言』についての話をリンディの許可があるまでしないように厳命したのである。
リンディはこの『闇の書事件』をその見極めで利用する腹積もりだった。
「ではそちらの…
「あなた方の言う『闇の書』の危険性を聞けば、
それに相手に
この一件、あなた方に協力しましょう。
ただし…」
セージの言葉に、リンディも頷く。
「ええ、そちらの要望どおりに聞かせてもらいます」
セージの提示していた条件は
1、あくまでリンディ個人への協力であること
2、独自に判断を行い、独自に行動する自由を認めること
3、
主にこの3項目だ。
1は今現在では『管理局』という組織を完全には信用し切れないからだ。
2はありえないとは思うがリンディが
3は快人たちの持つ
これらを呑んでもらえれば、この『闇の書事件』の間の共闘というのがセージの提示した条件であった。
そしてその条件をリンディは快諾し、ここに
握手を交わすセージとリンディ。すると、リンディが思い出したように言った。
「そういえば、あのなのはさんとフェイトさんのお2人なんですが…彼女たちには協力を求めても構いませんよね?」
「あの2人の行動はあの2人が自分の意思で決めることだ。
もっとも、あの2人はこの事件に思うところがあるようだから答えは決まっているがな」
セージは2人のことを思い出して苦笑する。
すると、リンディが提案をした。
「あの2人のデバイスは破損していたはずです。
今後もこの事件に関わるとしたら、修理は必須でしょう。
こちらには優秀なデバイスマイスターもいますので、私たちの方で修理しましょう」
「それはありがたい話ですな」
「いえいえ、共闘関係となったからにはこのくらい当然ですわ」
そう微笑みながら返すリンディだが、プレシアから待ったが掛かった。
「ちょっと待ってくれないかしら?
セージさんもアルバフィカさんもデバイスのことには専門外で分からないみたいだけど、デバイスには今までの戦闘記録が蓄積されているわ。
それは必然的に
彼らとしては知らず知らずのうちに
プレシアの指摘通り、リンディはデバイスから
確かにセージの条件である『情報開示の強制』には払拭しない、まさに抜け道的な考えである。
「…なかなか油断できませんな、リンディ女史」
「は、はは…」
セージとアルバフィカに冷たい視線で貫かれ、リンディは冷や汗を流す。
「リンディ女史の折角のご好意ですので修理はお願いいたしましょう。
ただ、プレシア女史の立会いの下でということでお願いしますよ。
今後のお互いのためにもそれがよろしいと思いますが、リンディ女史はどうお考えですかな?」
「も、もちろんですわ」
リンディとしてもペテンに掛けようとしていたのを見破られたのだから頷くしかない。
こうして第一回の
~~~~~~~~~~~~~~~
「…」
「何を考えている、シグナム?」
目を瞑り何事かを考えているシグナムに、ザフィーラは話しかけていた。
「考えなければならないことが多くあるのでな。
あの金髪の少女は良い太刀筋だった。 一筋縄ではいくまい。
そしてあの
シグナムの言葉に一緒にいたヴィータが反応する。
「まさかこの街にいた魔導士が
「
そして我らと同じくその恩恵を受ける魔導士がいるというのも理解できる話だ。
我々だけで遭遇したときには、即座に退却するしかないだろう…」
「あいつに任せるしかねぇってことか…」
ヴィータが悔しそうに歯噛みする。
家族であるあの少年に強大な相手を押し付け、自分は黙って見ているしかないという事実が騎士としての誇りを傷つける。
だが、それは全員の共通の思いだった。
そこに奥からシャマルと
「ほれ、出来たぞ」
そう言って、少年は1発ずつ、計2発の金色のラベルのついたカートリッジをシグナムとヴィータに投げ寄越した。
「…すまんな」
「それはいい。 だが、そう簡単には作れないんだ。
使いどころを誤らずに使ってくれ…」
そう言った途端に、少年の身体がぐらりと傾き、横にいたシャマルが慌てて支えた。
「…すまない」
「無茶のしすぎですよ。
戦闘の後に、あんなに血を流すなんて…」
シャマルは今までの行動をとがめるように少年に言った。
ヴォルケンリッターの強力な力…
まず通常の圧縮魔力結晶を作り出す。
その後、それに自らの血と共に
事実、
そこからヒントを得た少年は自らの血を触媒にしてヴォルケンリッターが瞬間的に
その威力は絶大だが、普通の人間では神経回路が焼き切れ廃人になってしまう。
だが、ヴォルケンリッターは人ではない。
人の形を取っているが、闇の書のプログラムである。
そのためその強度は人間を遥かに上回る。
『G型カートリッジ』はその身体強度と、フレーム強度に優れたアームドデバイスだからこそ扱えるヴォルケンリッター専用の切り札であった。
だが、こんな製法で生産性がいいわけが無い。
事実、ヴォルケンリッターの所持している『G型カートリッジ』の総数は今の2発を足してもシグナム5発、ヴィータ6発の計11発だけだ。
「おい、あの『金牛宮』ってところで休めよ! あそこだったら時間の流れが違うんだろ。
だったら…」
ヴィータのその言葉に少年は首を振った。
「いつ相手が襲ってくるか分からない今の状態で、連絡の取れなくなる守護宮に入るわけにはいかない…。
それに…我が師ハスガードに会わせる顔がないよ…」
そう言って少年は寂しそうに笑う。
『
どう理由を並べ取り繕っても自分のしていることは通り魔同然の行為、粛清されてしかるべき行いをしている自覚がある。
だが、それでも…。
「はやてを救う。 それが今の俺の『正しさ』だ。
粛清されるのも、償うのも…すべてははやてを救ってからだ」
そこには覚悟があった。
そんな少年の、『家族』の姿に思わずシグナムが言葉を漏らす。
「我らとて同じ。
騎士としての誇りを汚しても…主はやてを救ってみせる!
その心はお前と同じだ…大悟」
シグナムは戦いの場の闘士としてではない、『家族』としての少年の名を呼んだ。
その時、奥からはやての呼ぶ声が聞こえる。
「うっしー! どこや!!」
「…主がお呼びだぞ」
「分かった…はやて、今行く!」
答えて
覚悟を決めたその大きな背中には迷いは無かった…。
今回は話的にはほとんど動かない、各サイドの準備風景でした。
リンディさんはなかなか油断ならない人だと思いますがどうか?
以前書いた通り、ヴォルケンズの切り札『G型カートリッジ』の説明。
誰でも使えたら大変なことになるので『人外の耐久力とデバイスの強度がないと使えない』事実上のヴォルケンズ専用装備です。
次回はヴォルケンズとの第二回戦の予定。