弟「兄さん、蟹座には神と戦えそうな技がいくつもあるけど、ボクの魚座ってそれ絶対無理だよね? 神って『毒』効かないだろうし…」
…OK弟よ、その俺なりの回答を見せよう。
そして断言しよう、魚座も他の黄金聖闘士と同じく、最高に強くて格好いい。
「シュウ! シュウ!!」
光に分解するように消えていったシュウトにフェイトは半狂乱になったように叫ぶ。
そして管制人格の少女へと突っ込んで行こうとするフェイトを、なのはが抱きつくようにして押さえつけた。
「なのは離して! シュウが! シュウが!!」
「落ち着いて、フェイトちゃん!」
親友であるなのはの言葉にも、フェイトの心は落ち着きを取り戻さない。
だが、直後に現れた通信ウィンドウの一喝が、フェイトの心を引き戻した。
『落ち着け、フェイトよ!!』
「あ、アルバフィカさん…」
『フェイトよ、お前は今まで何を見てきた?
もっとも近くであいつの、
そのシュウトが、誇り高き
私は師として、シュウトの力を知り、信じている。
お前はどうだ?
シュウトのもっとも近くに居続けたお前が見たシュウトは、こんなところでお前を一人にして死ぬような男だったか?
フェイトよ、シュウトを信じるのだ!』
「…はい」
フェイトは師とも言えるアルバフィカの言葉に頷くと、涙を拭いさり正面を見据える。
なのはとフェイトの視線の先には、管制人格の少女が無言で涙を流しながら2人を見ていた。
『エイミィ殿からだが、お前たちの目の前の少女は八神はやての身体を借りた『闇の書』の管制人格のようだ。
肉体へのダメージはそのまま八神はやてへのダメージになるだろう。
だが、お前たちには相手を気絶させるだけに留める『非殺傷設定』がある。
気絶させればあるいはシュウトを…』
「助けられるの!?」
フェイトの喜色の混じった声にアルバフィカが頷く。
『…可能性はあるだろう。
だが快人は
お前たち2人でその少女を相手取ることになるだろうが…かなりの難敵だ、心するがいい』
「分かりました!」
「シュウの助けられる可能性が聞けた。
なら、あとは…その可能性を手繰り寄せる!」
なのはとフェイトは闘志をみなぎらせ、管制人格の少女を見据える。
そんな2人に管制人格の少女は静かに言った。
「主と今の少年は、我が内で束の間の夢を見る。
定められた滅びを知らず、安らかな夢の内で滅びの時を迎える…。
それが…我の目覚めた世界で、唯一幸せな道だ…。
お前たちにも与えてやろう…滅びの運命を前にして、唯一の幸せを…。
夢のうちでの死…それが最後の幸せだ…」
「…そんな幸せ、いらないよ」
「私たちの幸せは自分で、戦って掴み取る!
皆でこの夜を越えるために!!」
なのははレイジングハートを槍のように構え、フェイトはバルディッシュを振りかぶる。
揃って戦闘態勢に入った2人に、管制人格の少女も魔力を立ち昇らせる。
「…愚かな…誰であろうと今から起こる滅びは止められない…。
それがどのような魔導士であろうと、どんな奇跡を起こそうとだ。
そして…お前たちは我には勝てない…」
「知ってる? そんな絶対無理な条理を覆すことのできる人がいることを!
私は知ってるよ、魂の
「それをなのはと私で教えてあげる!
私たちの魔力と
「…来るがいい、白と黒の魔導士。
お前たちに甘い夢と死を…」
そして、なのはとフェイトは同時に空を駆ける。
その視線は前だけを、越えるべき敵だけをただ見つめていた。
~~~~~~~~~~~~~~~
快人が、シュウトが、そしてなのはとフェイトが激しく戦い続ける中、セージは本局の一室でクロノと共にある人物と対面していた。
その相手とはギル=グレアム、仮面の男たちことリーゼ姉妹の主人で、この事件の裏で暗躍していた存在だ。
「ギル=グレアム殿、もう気付いているとは思うが我々もクロノ少年もあなたのやってきたことをすでに知っている。
あなたの考えていることを聞かせてもらいたい」
丁寧だが有無を言わせぬ口調のセージに、グレアムはため息をつくと話を始める。
すべては11年前、『闇の書』をクロノの父もろとも魔導砲アルカンシェルによって吹き飛ばしたことがすべての始まりだった。
「今でも、何度だって後悔している。 あの時、何故彼の艦に『闇の書』を積んだのか?
責任者であった私の艦に積むべきだったのだ。
そうすれば妻と幼い息子のいる彼ではなく、この老いぼれの犠牲で済んだのだ…。
何故私はそうしなかったのか…この11年、そう思わなかった日はなかったよ。
そして私は…あれに、『闇の書』に復讐を誓った…」
「成程、『悔恨』と『決意』…あなたの瞳に今も渦巻くそれは、その時生まれたのですな…」
セージは初めて会った時のグレアムから感じたものの正体を知り、顎を撫でながら頷く。
その後のグレアムの『闇の書』への行動はまさに執念だった。
何年もの時間をかけ、独自の捜査によって『闇の書』の転生先を見つけ出したのである。
それはこの広い次元世界で、砂漠に落とした針を見つけるようなものだ。
それをグレアムは執念で成したのである。
新たな『闇の書』の主、八神はやてを見つけ出したグレアムはその存在を管理局に報告せず、独自に行動を始めた。
はやての父の友人を騙り彼女の生活を援助、その目的ははやてを監視の目の届く場所で育て、はやてに『闇の書』を完成させその暴走が始まる直前に強力な凍結魔法を用いて永久封印することであった。
「凍結によって仮死状態なら、主が死亡した時新たな主の元に向かう『闇の書』の転生機能を誤魔化せる。
これで永遠に『闇の書』を葬り去れる…。
そう思っていたのだ…」
そのため、使い魔であるリーゼ姉妹を『仮面の男』に変身させ守護騎士達の蒐集に陰ながら協力し『闇の書』の完成を目指していたのである。
「計画は順調…なはずだった…。
貴方達、
グレアムの計画の最初の破綻は大悟の存在だった。
魔力も無く、はやての幼馴染として放置していた存在だった大悟が、未知なる力である
大悟は奇襲などが通じるような相手ではなく、このままでは『闇の書』が完成しても暴走が始まる直前に凍結魔法ではやてを氷漬けにすることができなくなる…そう思い悩んでいた矢先、ヴォルケンリッターたちと大悟の前に、同じく人知を超えた
これでは『闇の書』の完成すら危うい…そう危機感を募らせていた矢先、『彼』が接触をしてきたのだ。
「あのローブの
「彼は八神家を監視していたロッテを捕まえ、私たちと接触を図ってきた。
「彼は何者なのですかな?」
その言葉にグレアムは首を振る。
「彼は一切、自分の素性も目的も語らなかった。
だが、あなたがた強大な
彼は私の計画も何もかも知っていた…まるで未来でも知っているように…。
そんな彼なら、私の計画を達成できるのではないか…そう思いながら…。
結果、彼はよくやってくれた。
そして計画はすべてうまく行った…そう思っていた…」
聞き終えたセージは、ため息と共にグレアムに言った。
「復讐心に捕らわれ、目が曇りましたなグレアム殿。 その計画、大いに穴がありますぞ。
まず凍結による仮死状態で『闇の書』の転生機能を誤魔化せるかどうかが未知数ですな。
それに…凍結後の維持はどうするのです?
魔法の効果時間の問題もありますが『闇の書』ほどのロストロギア、どこに保管しようが利用しようと思う有象無象は出てくるでしょう。
無論管理局内部にもです。 それらのものが封印をとかない保証はない。
あなたの存命中はあなたが維持をするにしても、あなたが死亡した後の封印の維持は一体誰が、どの様にするのですかな?」
「…」
そのセージの言葉にグレアムは答えられない。
するとセージはどこか遠い目をしながら言った。
「それでは犠牲となる少女が報われない…。
私とて
私の命令で戦い、若く将来ある
すべては人に悪意ある邪悪な神々を封印するために…。
だが、我々は邪悪な神々を、永遠に封印できるとは思ってはいない。
その脅威を後世に伝え、邪神の復活する確実な未来に備え次の世代を担う
ただ一時の封印でも、そのために散って行った数え切れぬ同胞たちの命が、ただの一つとて無駄ではなかった証明のために。
一時の平和でも、それを途切れることなく無限に繋ぎ、『永遠』へと近付けるために。
グレアム殿、我々神ならざる人の身では『永遠』など夢のまた夢。
あなたは『永遠』を信じ、一時を繋げて未来に託す道を怠ったのです」
「…そうかも、しれません」
「グレアム殿、若き世代に未来を託してはみませんか?
あなたの弟子たるクロノ少年、そして我らの見守る若き
若き命はいつでも真っ直ぐ愚直に、最良の未来を目指して進むものです。
我々のような老いぼれにできることは、その若い世代を信じて見守り導き、そしてその進むべき道を示すことではありませんかな?」
「…」
セージの言葉に、グレアムは無言のまま懐から待機中のデバイスを取り出すとクロノへと差し出した。
「これは?」
「デュランダル…『闇の書』の永久封印のための強力な凍結魔法を使用するためのデバイスだ。
クロノ、君は現場に行くのだろ?
それは君の好きに使いたまえ」
「…わかりました。 クロノ=ハラオウン、これより現場に急行します。
この事件を…『闇の書事件』のすべてを終わらせるために!」
グレアムに対してビジッと敬礼をして、クロノは急いで部屋から出ていく。
その後ろ姿を、グレアムは眩しそうに見つめていた。
そんなグレアムにセージは言う。
「良いものでしょう、グレアム殿。 若き世代を信じて託すというのは」
「…忘れておりました。
あのどこまでも真っ直ぐな、何かが為せると信じて進むことを…」
「それを思い出せたとは良きことです。 では、我々も行きましょう。
何、若者の努力を特等席で見物するのも老いぼれの特権、使わぬ選択はありますまい?」
「ええ…」
そう言ってセージとグレアムは前線となっているアースラへの転送ポートへと向かい歩き出す。
「ところで、あなた方の
「何、心配はいりませんよ。
彼は誇り高き
この程度で死にはしませんよ。
それに…考えようによっては都合がよかったやもしれません」
「都合がいい、とは?」
「我ら
そしてセージは少し遠い目をして呟いた。
「頼むぞ、若き
~~~~~~~~~~~~~~~
「起きなさい、シュウト。 シュウト」
「う、うぅん…」
柔らかな光と、そして同じく柔らかい声に導かれシュウトの意識は覚醒した。
「ここ…は…」
見渡せば、そこは知らない部屋だった。その部屋のベッドでシュウトは眠っていたのである。
そして先ほどから聞こえる柔らかな声は…。
「やっと起きましたね、シュウト」
「!? リニス姉さん!?」
それは自分にフェイトの未来を託し、消えてしまった姉とも慕う女性、リニスだった。
「どうして姉さんが…?」
「まだ寝ぼけてるようですね。
もうアルバフィカ兄さんも、カイトも起きてますよ。
早く朝食にいらっしゃい」
リニスは呆れたように言うと、部屋から出て行った。
言われるままに食卓に出向けば、そこにはさらに驚くべき光景が広がっていた。
そこにはセージがいた、アルバフィカがいた、リニスがいた、快人がいた。
そして…あの時空乱流に巻き込まれた事故の時、シュウトを脱出用の転送ポートに押し込み死んだはずの、シュウトの両親がいた。
「これは…一体…?」
「何をしてるんですか、シュウト。 早くしないと迎えが来ちゃいますよ」
「迎え?」
その時、家のインターフォンがなり、誰かの来訪を告げる。
「ほら、来ちゃったじゃないですか」
リニスはそう言って玄関のドアを開けると…。
「おはよう、カイトくん!」
「おはよう、シュウ」
制服を着たなのはとフェイトがそこにはいた。
「おう、おはようなのは。 ほら、行くぞシュウト」
「あ、兄さん!」
快人の投げよこす鞄をキャッチして、シュウトはそのあとを追った。
その後、シュウトは学校に行き、アリサやすずか、そして級友たちと平和な、だけどどこか騒がしい日常を過ごす。
…ここまでくればシュウトもすべてに察しがついた。
夕刻、帰宅したシュウトは台所で夕食の支度をするリニスに後ろから声をかけた。
「リニス姉さん…」
「シュウトですか? 夕飯まではもう少し待ってください」
そんなリニスに、シュウトは静かに首を振ると告げる。
「これはただの夢だね」
その言葉に、リニスの手が止まった。
死んだはずの両親がいて、セージが祖父、アルバフィカとリニスが兄と姉、そしてなのはやフェイトとは幼馴染…こんなすべてを無理矢理繋げたような
これは『闇の書』が自分の願望を元に作り上げた夢であると、シュウトは結論付けた。
しばしの沈黙…そしてリニスが振り向くと口を開く。
「夢で、いいじゃないですか?
ここにはあなたが願ったすべてがある。
それが夢であろうがなんであろうが、いいじゃないですか?」
その言葉に、シュウトはゆっくりと首を振った。
「ボクの、そしてみんなの願ったものはここにはありませんよ。
ここには…『未来』がない」
そしてシュウトはこれまでの別れを思い出しながら静かに語る。
「ボクの両親は、ボクを救おうとあの時空乱流で脱出ポートにたどり着いた。
そして奇跡的に接続された転送元にボクを送った…自分たちじゃない、ボクを生かそうと、ボクに未来を託してくれたんだ。
そして…リニス姉さんは言った。『フェイトの側にいて支えてあげて』って…。
リニス姉さんはボクに未来を託してくれたんだ…。
でも…ここには『未来』はない」
シュウトは力強く、断言する。
「ここは夢、過去も現在も未来もない。
だからボクは戻る…フェイトたちの待つ現実に。
そして共に生きて未来を目指す。
それがあの日リニス姉さんと、ボク自身の心に立てた誓いだから!」
「シュウト…」
その言葉に、リニスは涙を流しながらゆっくりとシュウトを抱きしめた。
「シュウト、あなたは本当に素晴らしい男の子になってくれたんですね。
私はただの使い魔…使い魔に祈る神などありません。
でも…もし神がいるのなら、私は神に感謝します。
あなたと巡り合せてくれた運命を…」
「リニス姉さん…」
ゆっくりと抱擁を解くと、リニスはその手にあるものを差し出した。
「
それはクロストーン状態の
シュウトが受け取ると同時にクロストーンが光を放ち、
「行きなさい、シュウト。
この世界は終わり、『彼』が現れるはず」
「『彼』?」
「この世界を、『闇の書』となった『夜天の書』に嘆き悲しむ人よ。
『彼』の話を聞いて、そして…その願いをかなえてあげて。
あなたのすべきことを全うしなさい」
「はい、あの日のリニス姉さんと、自分の心に立てた誓いとともに!」
そしてリニスの姿が、周りのすべてがゆっくりと消えていく。
「現実でも、もっとずっとフェイトとあなたを見守っていたかった…。
でも…今そこにいなくても、私はあなたとフェイトの歩む未来を、いつでも見守っていますよ…シュウト。
愛しい…私の弟…」
その言葉と共に、リニスを含め世界すべてが消えていった。
「リニス姉さん…」
シュウトはそれだけ呟くと、周囲を見渡す。
そこにあるのはどこまでも続く闇、上下も何もわからない広大な空間だ。
そしてその空間の一点、シュウトの目の前に白い人影が現れた。
どこかひどく疲れたような、長髪の白髪の老人だった。
恐らく、リニスが『彼』と言っていた人物だろう。
「あなたは?」
シュウトの言葉に老人は答えず、代わりに嘆くように呟く。
「こんなはずではなかった…。
こんなことを望んで私は『夜天の書』を造ったのではなかった…」
「造った?」
その言葉から、シュウトは目の前の人物こそ『夜天の書』を作り上げた人物の意識なのだと理解する。
「私は…娘の笑顔が見たかった。
生まれた時から病弱で、外になど出ることのできなかった私の娘…。
あの子の見る外の世界は、本の中にしかなかった。
そんなあの子に、望むまま世界のすべてを見せてあげたかった。
だから私は魔法を、知識を、そして世界を記録する本を造った。
それが…」
「『夜天の書』…」
「失われる魔法と知識を後世に伝える…そんなものは二の次だ。
私は娘のために、ただそれだけのために『夜天の書』を造った。
娘は死んでしまったが、せめてその姿形、そして感情を完全にトレースした管制人格にはいつか『夜天の書』の集めた広い世界を見てもらおう…それが娘を救うこともできなかった私の、せめてもの願いだった」
フェイトたちと激しく戦う管制人格の少女は、どうやら『夜天の書』製作者の娘の外見等をコピーした存在らしい。
「私は、『夜天の書』の完成に夢と情熱を注ぎ続けた。
だが…『あの存在』が、私の夢と情熱を、『夜天の書』を『闇の書』に塗り替えた!」
くたびれたような老人に、怒りという名の微かな熱が灯る。
「どこからともなく現れた、我々の理解を超える『あの存在』…。
奴は『夜天の書』に憑りつき、『完成させれば絶大な力を得られる』と嘘を囁いた。
そこに夢を賭けた者が蒐集を働き、蒐集の完了とともに暴走。
最終段階では『あの存在』自身が外に出て、その世界の熱を、命を吸い尽くす…。
破壊されても、私の付加していた『自己修復機能』と『転生機能』を使って次の世界を破滅に導く…それを繰り返し、いつしか私の『夜天の書』は『闇の書』と呼ばれるようになってしまっていた…」
自身の夢と情熱の結晶だった『夜天の書』が、世界を破滅に導く『闇の書』へと変わっていく様を見続けたのか、製作者の声には嘆きに満ちていた。
そして、製作者はシュウトを見た。
「お願いだ、誇り高き黄金の闘士。
歪んでしまった私の夢を、情熱を終わらせてくれ。
『あの存在』の見せる幸せな夢に抗えたのは、君が初めてなのだ。
そんな君なら『あの存在』を…『神』と名乗るあの存在を止めれるかもしれん。
お願いだ、私の『夜天の書』を『闇の書』から解放してくれ!」
製作者の懇願に、シュウトはゆっくりと、だがしっかり頷く。
「わかりました。
あなたの、そして数えきれない人たちの夢と情熱を踏みにじった邪悪なる『神』は…ボクたち
その言葉に、老人は彼方を指さす。
そこには闇の空間でただ一点、微かな光が瞬いていた。
「あれが今の主となった少女だ。
彼女を飲み込もうと『あの存在』もそこにいるはず。
頼む…」
「わかりました…ありがとう」
そう言って光の方へと向かう前に、シュウトは言った。
「今夜は聖夜、『闇の書事件』と言われる悲劇は必ず終わらせます。
それが、あなたと世界へのクリスマスプレゼントですよ」
そう笑って宣言してから、シュウトは光へ向かって飛翔した…。
~~~~~~~~~~~~~~~
はやては微睡みの中にいた。
えも言われぬ倦怠感が身体を覆い、思考が霞んでいく。
「眠い…なんでこんなに眠いねん…」
その呟きに答える声があった。
「…お眠りください、我が主。 もうすぐ『あの存在』が現れます。
そうすれば再び世界のすべての命は吸い尽くされ、滅びるでしょう。
その前に、せめて幸せな夢の中で安らぎを…」
「夢…?」
「そうです。 そこにはあなたの望んだすべてがある。
亡くなった家族も、今の家族も友人も、そこはすべての満ち足りた世界…。
そこでどうか…安らぎを…」
眠りを促すその言葉に、はやては首を振った。
それと共に、霞みがかっていた意識がはっきりとしてくる。
「せやけど…それはただの『夢』や!」
はやてははっきりと、甘い夢の誘いを拒絶した。
「どんなに辛くとも、私らの生きてくのは現実の世界。 そこから逃げたらアカン。
それに…現実には私を待ってくれとるはずの人がいるんや」
はやての脳裏に浮かぶのは、大きな体の幼馴染。
自分を包み込み守ってくれる、誰より暖かい黄金の闘士。
「だから全部終わらせる。
あなたもそうや、誰にも『闇の書』とか、『呪いの魔導書』とか呼ばせへん…。
私が呼ばせへん!
名前をあげる。 希望に満ちた祝福の名前を。
だからもう、こんなことやめさせるんや」
「無理です!
『あの存在』の影響下にある自動防衛プログラムは、今も外で管理局の魔導士と交戦中です。
魔力以上の謎の力によって強化された自動防衛プログラムはこちらでは止まりません。
自動防衛プログラムを撃破してもらえればあなたの管理者権限により切り離しも可能でしょうが…それまでに『あの存在』が現れたら…」
『そう、すべては無駄なことよ。 小娘』
2人の会話に、重苦しい声が響いた。
「なんや!?」
「…来た。 私を変えた『あの存在』が!」
その圧倒的存在感は空で形を作っていく。
それは巨大な人影。黒い鎧を纏い、羽を生やした人影だ。
その圧倒的な威圧感で恐怖に震えながらも、はやてがその影へと言葉を投げる。
「あんた! あんたがこの子を『闇の書』なんかに変えたんか!?」
『ふふふ…この書に込められた夢と情熱は、我らの復活のための道具として利用するのは容易かった。
これから先も、この『闇の書』は我らが復活するための命を集める核として使ってやろう』
「ふざけるんやない! こないにみんなを不幸にして…あんた何様や!」
『無論、我は神だ』
さも当然のように影は答える。
『人など我ら『神』の造った泥人形にすぎん。
それを役立てることの何が問題があるのだ』
そして人影はゆっくりとはやてへと手を伸ばしていく。
『すでに舞台は整った。 小娘、お前は用済みだ。
その命、我が糧としてくれよう…』
抗うことのできない、圧倒的なまでの死の予感。
管制人格の少女がとっさにはやてを守ろうと覆いかぶさるが、それで何とかなるはずもない。
恐怖で目を閉じたはやては、もっとも信じるその名前を叫んでいた。
「うっしー、助けてぇぇ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その時、はやてたちと巨大な人影を引き離すように黄金の光が飛び込んできた。
それは人だ。
黄金の鎧に身を包んだ闘士の姿。
「うっしー!!」
「…ごめん、
はやての喜びの声に、シュウトはバツ悪そうに振り返って答える。
「あんた今日来てくれとった、フェイトちゃんのいい人の…」
「それ、どういう覚え方!?
そう言ってシュウトは人影へと振り返った。
「ここはボクに任せて。
あいつを抑えて、外の自動防衛プログラムとやらを倒してもらえれば、ここから出られて君は正常な状態になるんでしょ?」
「確かに『あの存在』に邪魔されず、その影響を受けた外の自動防衛プログラムがなくなれば管理者権限によって切り離しが可能だが…。
『その存在』はどんな騎士でも、何者も敵わない!
文字通り次元が違うのだ! それを私は何度も見てきた!!
どんな奇跡を持ってももはやどうしようも…」
絶望に嘆く管制人格の少女に、シュウトは振り向くことなく答える。
「その起こりえない奇跡を起こすために、ボクたち
ボクも、兄さんも、そして君たちのよく知る
早く行って! ボクたち
「わかった!
せやけど、死んだらダメや! フェイトちゃんが泣いてまうから!!」
それだけ言い残し、はやては管制人格の少女と共にこの場を離れる。
外部との連絡を取り、切り離し作業とやらをするのだろう。
「さて…これで心置きなく戦える」
そういってシュウトは赤い薔薇を取り出した。
『
我に勝てると思っているのか?』
「やってみせるさ。
それを為すのがボクたち
そして、シュウトは倒すべき存在の名を呼んだ。
「『夢神ボペトール』!!」
夢神ボペトール―――それは夢神の一柱。
人の夢と情熱をかけた器物を核として、人々から熱気と命を吸い取り、最終的にはその場に存在するすべての命を夢界へと吸い上げ、糧とする邪悪の神だ。
そう、ユーノの解読した『闇の書の暴走について』書かれた一節と寸分違わぬ状況を作り出す。
シュウトたち
『よかろう、『神』に挑む愚か者よ。
世界の前に、お前の命を喰らってやるわ!』
「ロイヤルデモンローズ!!」
動き出した夢神ボペトールに、シュウトの
~~~~~~~~~~~~~~~
『効かん、効かんなぁ!!』
「!?」
赤い薔薇の旋風を突っ切り、ボペトールの強大な
「くぅ!?」
その攻撃を寸でのところで回避したシュウトは、そのまま無数の黒い薔薇を
「ピラニアンローズ!!」
大岩をも簡単に噛み砕く黒薔薇の乱舞。
だが、それすらもボペトールの身体に傷をつけることは適わない。
『ふん、無駄なことを』
「無駄かどうかは今わかる!」
舞い降る黒薔薇の花弁の中を、シュウトが駆け抜ける。
その手にはシュウトの最大級の
「ブラッディローズ!!」
まるで槍のごとく、シュウトはブラッディローズをボペトールへと突き立てた。
ピラニアンローズとは違い、ボペトールへと突き立つ感触にシュウトの頬が一瞬緩む。
だが…。
『無駄だというのがわからんようだな!』
「うわぁぁぁ!?」
胸を貫かれたというのに、ボペトールは意にも介さず強大な
空中に浮かされたシュウトに、2発3発と強大な
「ぐ、うぅぅ…」
ガードは間に合ったが叩きつけるようなその攻撃に、シュウトの動きが止まった。
『さぁ、貴様の熱、喰らってやろう』
ボペトールがその口を開く。
同時に、シュウトは強烈な虚脱感を感じていた。
急速に心が萎え、拳が緩む。
感情の熱が…奪われていく。
「ぐ、あぁ…」
片膝を付くシュウト。
感情の熱を奪われることは、
強大な神を前に、シュウトの
そんな圧倒的な力を見せ、ボペトールはシュウトをあざ笑う。
『こんなものか、
この程度の力で、よく我ら神を相手取ろうと分不相応なことを考えたものだ』
「…」
嘲りの言葉にも、シュウトは何も言えない。
それほどまでに感情の熱と起伏を剥奪されていたからだ。
だが、ボペトールの続く言葉が、シュウトの感情を呼び覚ました。
『だが仕方ないやもしれん。
なんといっても…
「…
『知っているぞ、
矮小な人には毒とは厄介なものであろうが、我ら神にそんなものが通じようはずもない。
事実、お前の自慢の毒薔薇は我には通じなかった。
そんな我ら神の薄皮一枚剥ぐこともできん
「…」
嘲り笑うボペトールは気付かなかった。
シュウトの心に、熱が戻りつつあることに。
シュウトがゆっくりと立ち上がる。
「…ボペトール、人をもっとも殺したものは何だと思う?
それは剣でも銃でも核でもない、『毒』こそが人という種をもっとも殺してきた力だ。
『毒』とは、数多の同族の屍を作り上げた最強の戦いのツールの一つ。
それはお前たち神だって変わらない。
神話を紐解けば『毒』によって殺されたとされる神なんて吐いて捨てるほどいる。
お前は今その『毒』を…ボクに繋がる数え切れない『誇り』を傷つけた…」
そして、シュウトは静かに一言呟いた。
「
瞬間、シュウトから爆発的な
『な、なんだ?』
その眩しさは一瞬、ボペトールの視界を塞ぐ。
そして、ボペトールの視界が戻った時、そこに広がる光景は一変していた。
『な、なんだこれは!?』
「ようこそ、
驚きを見せるボペトールに、シュウトは大仰に手を広げて答える。
そこに広がっていたのは一面の薔薇。
それもただの薔薇ではない、黄金に輝く薔薇で埋め尽くされた、黄金の薔薇園だった。
その黄金の薔薇の一つを、シュウトは撫でるようになぞる。
「この黄金の薔薇1つ1つはこの
そう言ってシュウトは遠い目をする。
だから
過去に散って行った装着者たちの、その覚悟と決意、その生きた歴史が。
「これだけの、数え切れない魂がお前の言う『最弱』の『毒』に命を捧げたんだ…。
ボクたち
何者も砕く圧倒的な力で『神』に挑もうとした
何を思い、その道を
シュウトはボペトールを見つめながら、
「毒をもって毒を制す…お前たち邪神という人の世界を侵す『毒』を制する『毒』となること、それが
そのために身体を毒に染めた者がいた、人と交われぬ孤独を耐えた者がいた…人の世界を侵す『毒』を制する『毒』となるために孤高に、そして誇り高く生きた者がいた!
彼らは全員が信じていたんだ、自分たちの選んだ『毒』が、いつかきっと、世界を冒す邪悪の神という『毒』すら制することを!
お前の笑った
見せてやる、その『誇り』の道の一つの最果てを!!」
そして、シュウトはその両手を突き出した。
同時にシュウトから限界を超えた黄金の
風が逆巻き、薔薇園の黄金の花弁が空を舞った。
『こ、この
そのあまりの
この技は途方もない
十分な準備をしてもなお発動は不十分、快人すらその存在を知らず、師であるアルバフィカからはその不安定さと使用時のリスクから『決して使うな』と言われていたものだ。
ありったけの
「ボクでは…ボクでは
シュウトは女神によって転生させられた人間だ。
その血とて『毒』となったわけではない。
すべてを『毒』に捧げて来た歴代の
だがそれでも…。
「素晴らしいと感じたんだ…誰かを守るために『毒』を目指した
誇らしく思ったんだ、そんな先人たちのいる、
だから燃えろ、ボクの
偉大なる数多の
限界を、超えろぉぉぉぉぉぉ!!」
叫び、それはどこかに到ろうとするシュウトの魂からの叫び。
そして…その叫びはどこかに届いた。
「あっ…」
刹那の瞬間、シュウトは見た。
シュウトに微笑みかける、数え切れないほどの誰かを。
それは過去の
彼らの想いが伝わる。
『今こそ、
そして、限界も何もかも超えたシュウトの
「ゴールデンローズ・ストリーム!!」
黄金の薔薇竜巻がボペトールを包み込む。
そして変化はすぐに現れた。
『ぐわぁぁぁぁぁ!!?
な、なんだこの痛みは! 我の神の身体が…侵される!?
神を殺す『毒』だというのか!?』
ボペトールの全身のいたるところが変色し、末端がボロボロと崩れ出す。
「そうだ、これが
黄金の薔薇園は消え去り、超高密度の
シュウトにとって夏に起こった『邪神エリス事件』は様々なことを考えさせられる事件だった。
今後を考えれば、『神』クラスの敵との遭遇は免れない。
だが、シュウトの知る
そこで考えたのが、『原子そのものをうまく操れないか?』である。
ならば、『原子そのものを変質できないか?』というのがシュウトの発想だった。
原子そのものをすべてを侵す毒に変え、相手を内部から侵し破壊する…それこそがシュウトの出した対神奥義の原点だ。
だが、それを為すためには途方もない
当然だ、この技は香気の原子一つ一つを毒へと変質させねばならないのだから。
普通にはどうやったところで不可能、そこでシュウトがヒントにしたのが
『フォトン・バースト』は、発動に周囲に自身の
同じように自身の
その発想を元に研究を重ねていたが、それでも必要となる
だが、この場において初めてシュウトはこの『ゴールデンローズ・ストリーム』を完成させた。
それは
だが、それでもまだ、シュウトの『神殺しの毒』は未完成だった。
『お、おのれ
こんなことで、こんなことで我は、神は死なん!!』
「…くっ、ボクの
大きなダメージは与えられたようだが、ボペトールの完全消滅には到らなかったようだ。
シュウトは肩で息をしながらも、薔薇を構える。
その時だ。
シュウトの遥か後方から光が溢れ出したのだ。
『あ、あの小娘ぇぇぇ!!』
「…どうやら外のフェイトたちがうまくやったみたいだね。
続きは外だ、ボペトール。
今度こそ、完全に滅してやる」
『思い上がるなよ
その様に弱った
「勘違いしないでほしいけど、相手はボクだけじゃない。
兄さんにフェイトになのはちゃん…平和な人の世界はお前の存在を認めない。
そのすべてを持ってお前を…滅ぼす!!」
シュウトはその宣言と同時に光に包まれ、どこかに引っ張られるような感覚に襲われる。
そして…。
「シュウ!!」
「フェイト!!」
泣きながら力の限り抱きついてくるフェイトの身体を、シュウトも力強く掻き抱く。
その柔らかな温もりと甘い香りに、シュウトは現実への帰還を意識したのだった…。
というわけで聖夜決戦編の魚座最大の見せ場でした。
今回もイベント量は半端ない。
なのは&フェイトVS管制人格戦開始、セージとグレアムの会話、シュウトの見る夢、『夜天の書』製作者の想いと取り付いた邪神の登場、魚座の毒の誇りとシュウトの新技…二話くらいに分けるべきだったかな?
『夜天の書』製作者については完全に私の妄想です。ボペトールを出すための理由付けでしたが、こうでもしないと管制人格をあの格好にした製作者は途方もない変態さんになってしまう…。
そして『闇の書』についたやばいものの正体は、LC外伝でエルシドさんに討伐された夢神ボペトールでした。
夢神4人組やタナトス&ヒュプノスを予想していた人は多かったようですが、ボペトールを予想した人はいなさそうでしたね。
そして魚座の毒の誇りについて。
作中でも出してますが、私は『黄金聖闘士は方向性が違うだけで人間のたどり着ける極致にたどり着いた者』だと思っています。
そこで『魚座は何を思って毒の方面に向かったのか?』ということを私なりに考え、この作中では『毒をもって毒を制するため』だったとしました。
シュウト側魚ファミリーのテーマの1つは『誇り』と考えています。
そこで魚座の『毒』と『誇り』を今回はメインテーマに添えてみたつもりですが…正直表現し切れてないかもです。
しかし、前書きの弟は喜んでくれたので良しとします。
シュウトの新技について。
フォトン・バースト+ネビュラストリーム=ゴールデンローズ・ストリーム
…我ながら安直すぎる。
技名のセンスの無さに関してはもはや絶望の域…そのあたりはお目こぼしを。
さて次回は聖夜決戦編のなのは&フェイトVS管制人格です。
聖夜の時系列としては
1、シュウトがボペトールを抑える
2、なのは&フェイトが管制人格を倒す
3、はやての管理者権限発動でボペトールの影響下の自動防衛プログラム切り離し
4、シュウト&はやて脱出
5、蟹VS牛最終決戦を目撃
となりますので先は長い。
次回もよろしくお願いします。
今週のΩ:新蟹座シラーさん、やっぱり安定のクズさんでした。
そしてやっぱり力こそ正義。
やめて踊らないで、笑うから。
ただ、積尸気冥界波には普通に感動した。
かつてない金牛宮の通り方。
…これ本当に主人公たちが勝ち進むヴィジョンが見えないぞ。
やっと次回龍峰が父の通った道を…となってるけど、もちろん脱衣のことですよね。