今回は私的にシリアスなギャグとも言える回。
聖闘士星矢の伝統はしっかり守らないと…。
「ア・ル・テ・ミ・スゥゥゥーーー!!」
「い、痛い! 痛いッス、アテナ!!
ロープ、ロープ!!」
「落ち着いてアテナ! それ以上いけない!!」
ここは天界の一室、扉を開けると同時に入ってきたアテナ様のアームロックに悶え苦しむ1人の女神、そしてアテナ様をなだめようとするアフロディーテ様の姿があった。
アテナ様のアームロックに悶え苦しむ女神様の名前は『アルテミス』である。
「い、いきなり何するッス、アテナ!
せっかく久しぶりに会ったのに…」
「そりゃ私たちだって知らない仲じゃないし、何にもなきゃこんなことしないわよ!」
「アルテミス、私とアテナが来た理由は分かってるんでしょうね…?」
「な、何のことかぼくにはとんと見当が…痛ッ、痛ッ!
折れる! 折れるっス!」
痛みを訴えながらタップすることしばし、やっとアテナ様はアームロックを外した。
「お、折られると思ったッス…」
「関節技こそ王者の、いや神の技よ!」
腕を摩るアルテミス様に、何故か胸を張るアテナ様。
神の世界は本当にだめかもわからんね。
そんな2人に頭を抱えながら、アフロディーテ様は話を進めた。
「あの世界のことよ。 私とアテナの送った転生者の他に
あんたなんでしょ、あの転生者を送り込んだのは?」
「あの世界、どこかおかしいことが起こってるし何か知ってるんならキリキリ吐きなさい!」
アテナ様とアフロディーテ様に問い詰められ、ついにアルテミス様は涙ながらに告白したのだった。
「ぼ、ぼくだってアテナやアフロと一緒に復権したかったッス!
それなのに2人とも誘ってくれないから、誘ってくれないから!」
そう言って泣き出したアルテミス様に、アテナ様もアフロディーテ様も顔を見合わせた。
アテナ様とアフロディーテ様の『自分の星座復権計画』、このことを知ったアルテミス様が自分の星座も復権を、と
そこには仲が良かったはずなのに仲間外れにされた、という悔しさもあったようである。
「あー…うん、ゴメン」
「そうよね、よく考えればあんたも一緒に酷い目あってたもんね。
その…声かけなくてごめんね、アルテミス」
「うー、アテナぁ、アフロぉ…」
涙ながらに友情を取り戻した女神様たち。
そして、落ち着いたところで状況を確認する。
「で、アルテミスはあの
「うん…」
「まぁ、アルテミスが性格的にあんなえげつない干渉するとは思えなかったし、予想通りといえば予想通りなんだけど…。
アルテミス、あんた以外であの世界のことを知ってるのは誰がいるの?」
そのアフロディーテ様の言葉に、アルテミス様は答えた。
「2人、いるッス。
まず1人目はガイアっす。
このことを相談したら、『面白そう~、私も混ぜて~』って言って、自分の星座の転生者を転生させたッス」
「あの子かぁ…」
「そう言えば、あんたと仲良かったわね」
アテナ様とアフロディーテ様の脳裏に浮かんだのは女神幼稚園・女神小学校とクラスの委員長だった女神だ。
「あの子も一枚噛んでるの?
正直、『あらあら、うふふ』とかいつも言ってニコニコ笑ってるボケボケちゃんのあの子が、あんなえげつない干渉をしてるとは思えないんだけど…」
「それにガイアの星座って『アレ』よね? 色んな意味で微妙なせいで目立ってない不遇な…。
それらしい転生者なんて見当たらなかったけど…?」
「そ、それがガイア、転生者の『運命接続』を強くするの忘れちゃって…。
『あらあら、またやってしまいましたわぁ』って言ってたッス…」
「「何やってるのあの子はぁ!?」」
アルテミス様の話を聞いたアテナ様とアフロディーテ様がそろって頭を抱えた。
『運命接続』とは、あの世界での事件に関わる運命を強くすることだ。
快人たちはこれがかなり強くなっており世界規模の騒動に必ず関わる運命を背負っている。
だが、それが強くないということは世界規模の騒動に関わる必要がないということだ。
騒動の中心である快人たちのそばに、それらしい人間がいないことも頷ける。
「強くするのを忘れただけで、どうやらもう騒動の中心になる子とは知り合ってるらしいッスけど…」
「…どうやら違いそうね。
あの平和主義のボケボケちゃんが、あんな干渉できるわけないもの。
それに、ガイアの『星座』の技はとっても分かりやすい。
それらしい転生者の暗躍も見えない以上、ガイアはこの件の黒幕ってわけじゃないわね…」
アテナ様の言葉にアフロディーテ様が頷く。
2人の中では、完全にガイア様は容疑者リストから消えていた。
そこで2人は先を促し、あの世界のことを知ってるもう1人について尋ねる。
「で、アルテミス。 あの世界のことを知ったもう1人ってのは?」
「ああ、それは…」
そして飛び出したその名前に、アテナ様とアフロディーテ様は同時に叫んだ。
「「そいつだぁ!!」」
「間違いない、そいつよ!!」
「女神幼稚園・女神小学校と私たちをイジメくさってた、あの性悪女神!
あいつならあのえげつない干渉も納得よ!」
「こうなれば善は急げよ!
アルテミス、あんたも来なさい!!」
「え、えぇぇぇぇ!!」
あの世界に干渉する者の正体を掴んだアテナ様とアフロディーテ様は、アルテミス様の首を引っ掴むと、その者の元へと急ぐのだった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
「オラァァァァァァ!!」
「ハァァァァァァァ!!」
黄金の拳が、蹴りが、膝が、肘が飛び交う。
その様は一見するとまるで輝く星々が乱舞するように華麗だが、そこに込められた力はすべてを砕く一撃。
それは舞台、
その舞台で演じられる今宵の演目の名は、
「へっ! 相変わらずのバカ力だな、
そのデカイ図体は見掛け倒しってわけじゃないな」
「
快人は軽口を叩き、大悟は変わらぬ強烈な殺気を浴びせかけながら、その豪腕を振るって迫る。
「そこまで恨まれる覚えはないんだが、な!」
快人はその攻撃を軽口を叩きながヒョイっと避けると
「
「ぬおっ!?」
なぎ払う火炎放射器のように放たれる煉獄の蒼い炎が、大悟を包み込む。
だが、その炎を物ともせず大悟はその技を発動させていた。
「シャドウホーン!!」
「がはっ!?」
大悟の姿が揺らぐと同時に、快人に強力なボディブローが叩き込まれ、快人の身体が浮く。
続けて背中から一撃、最後に真下への肘打ちが炸裂し快人は地面へと叩きつけられていた。
そして、地面に大の字で叩きつけられた快人にトドメを刺そうと大悟の右手に
それは
「やらせるかよ!!」
倒れたままの快人は振り下ろされる右手に、自身の左足で蹴りを入れる。
同時に小規模な爆発が起こり、大悟の右手が弾き上げられた。
「これは!」
「へっ、
驚く大悟の胴に、快人はそのまま右足で蹴りを叩き込み、それを発動させる。
「
「うわぁぁ!!?」
巻き起こる大爆発に大悟の身体が吹き飛び、快人は立ち上がった。
多くの
さすがに格闘戦を極めた
その特性を色濃く次いでいる快人も非常に芸達者で、足からでも
「とはいえ…」
「
遠く彼方で大悟はユラリと立ち上がった。
その光景にフゥっと快人は呆れと賞賛を織り交ぜたようなため息をつく。
「
まったく…自信無くすぜ」
快人はそう漏らすものの、快人の
弱体化していたとはいえ、夏の『邪神エリス事件』で邪神エリスにトドメを指したのはこの技だし、その威力は普通なら一撃で物理的・霊的両面から相手を死に至らしめるだけの、まさに『必殺技』なのである。
十分に
単純に大悟のタフネスと防御力の桁が違いすぎるだけなのだ。
次の一手をどうするべきか…快人は大悟を隙無く見つめながらそれを深く思案する。
その時、この世界を包む気配が変わった。
「これは…!?」
快人が視線を巡らせれば、そこにいたのは絶叫と共に姿を変えた八神はやてがなのはとフェイトを相手に激しく戦う姿だった。
「ちぃ! なのは!!」
「
「ぐぉ!?」
快人はなのはたちのところに向かおうとするが、大悟の強烈なタックルを受け派手に吹き飛ぶ。
何とか体勢を空中で立て直した快人の着地際を狙って大悟が接近、その拳を振り下ろすが快人はその拳を巧みに反らし、反撃の拳を叩き込んでいた。
「オラララララァァァ!!」
「ぐっ!?」
顔面と胸に数発の拳の直撃を受けた大悟は吹き飛び距離を取るが、衝撃で外れたヘッドパーツを拾おうとも流れた血を拭おうともせず、血走った殺意のこもった瞳で快人を見据え、構えを取る。
快人はその光景に苛立ちを覚えた。
「おい、クソ牛! テメェの目は節穴か!!
八神はやてが! お前の守る女が今、どんなことになってるのかわからねぇのか!!
俺たちで戦ってるような場合じゃねぇ!
あの女救いたいんだったら、もう止まりやがれ!!」
快人にとって、今の大悟の行動は理解もできなければしたくもない。
快人は今日の病室での一件で大悟とはやての関係に、自分となのは、シュウトとフェイトと同じものを感じていた。
自分やシュウトだってなのはやフェイトの命が賭かっているのなら、多少どころかどんな無茶だろうが通すという想いがある。
大悟も同じなのだろうことを快人もシュウトも分かっていた。
そういう意味では快人もシュウトも、大悟のことを大いに認めていたのである。
だからこそ、快人は今の大悟の行動に苛立つ。
すでに状況は変わった。相争うことは八神はやてを救うことの障害にしかならない。
守るべき者が目の前で大変なことになっていながら、無益な戦いを優先するという今の大悟はもう、どう考えてもおかしい。
「ぐ…うぅ…はやてを…守るには…」
案の定、大悟は頭を抱えるようにして悶え苦しみだした。
「はやてを守る…はやてを守るには…。
何かを振り払うように吠えると、大悟は再び快人への突進を開始した。
その異常な様子を目の当たりにして、快人は自分のもっとも当たって欲しくなかった可能性がすべて的中したことを確信する。
(八神はやてを守ること=俺やシュウトを殺すこと、になるように思考を変化させられてるんだな。
八神はやてを想えば想うほど、どす黒い殺意に支配されていく…これは間違いなくあの魔拳の効果!
これで確定だ、あのローブの男の正体は『アレ』以外にありえない!!)
快人はこの戦いを仕組んだであろう相手に苛立だしげに舌打ちすると、迫る大悟の迎撃に意識を向ける。
「おおぉぉぉぉ!!」
振り下ろされる右の剛腕を捌き、快人は再びその胴に拳を叩き込もうとする。
だが…。
「なぁ!?」
大悟へとの叩きつけようとしていた快人の右拳が弾き上げられた。
それを行ったのは大悟の左手…ではない。
それどころか、大悟の身体のどの部分でもない。
快人の拳を弾き上げたもの、それは…。
(
それは
(『
聖闘士星矢の原作においても
この『
そして、その思惑は完全に成功した。
右腕を弾き上げられた快人の胴ががら空きになる。
そんな快人へ上半身裸の大悟は腕を組み、最大の
「グレートホーン!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!?」
ほぼゼロ距離。
その
~~~~~~~~~~~~~~~
快人が吹き飛ばされ爆煙に包まれた場所に、大悟は目を凝らす。
だが大悟は勝利を疑ってはいなかった。
最大にまで高め・燃焼させた
その威力をほぼゼロ距離で叩き込まれれば、本来ならば肉片一つ残っているかも怪しい。
いかに
大悟の勝利は揺るぎないもの…のはずだった。
しかし…。
「…今のはヤバかったぜ。 直撃してたら間違いなく死んでるコースだった…」
「…バカな、この声は
しかも
一体何が…」
もうもうと舞い上がる爆煙の中から快人の変わらぬ声が響き、大悟は爆煙へと目を凝らす。
そして、そこに映ったものは…。
「
そこには快人を守るように不完全なオブジェ形態の
今の快人の身体は上半身が完全に裸、
「言ったろ?
ニヤリと笑って快人は答える。
快人は『グレートホーン』の直撃する直前に、大悟と同じく『
上半身すべての
だが、それだけでは距離を開けるだけに留まる。
だからこそ、さらに快人はもう一つの
それは『
快人は『
快人の言葉と共に、浮いていた不完全なオブジェ形態の
『
だが、これらを行うことになるのは極限の戦闘状況下。
再装着をする隙などあるはずもない。
快人も大悟も再装着を諦め、上半身裸のまま決着の道を選んだ。
「ありがとよ、助かったぜ
快人はそれだけ言うと、大悟へと視線を戻す。
「…」
大悟は快人が健在なのを見て、再び腕を組む。
それを見ながら、快人はセージとの会話を思い出していた。
「『死』のみが魔拳を解くカギ、か…」
以前遭遇したときの戦いで、大悟がかけられているだろう技に心当たりのあった快人は、その技の詳細についてセージに聞いていた。
『愛』も『忠義』も『正義』すら、この魔拳を解くことは叶わない。
これを解くには、同じく魔拳か強い自我か『死』かのどれかである。
しかしながら、当然快人には魔拳は使えないし、今の状態を見る限り大悟の自我に期待というのも無茶が過ぎる。
そうなれば誰かが死ななければ大悟は止まらない。
だが生憎、自分を含め死んでやれるような人間などここには1人たりともいない。
それならば、もはやとる手段は1つだった。
「おい、クソ牛…悪いがここには誰も死んでいい人間はいない。
だから…」
ゆっくりと、快人は構えを取る。
そして、その場に響く声で静かに、しっかりと言い放った。
「お前が、死ね」
「
快人の宣言と、大悟の咆哮。
互いの死を賭けた2人の
~~~~~~~~~~~~~~~
一直線、ただ一直線に快人が大悟に向かって駆ける。
それはすべて大悟の『グレートホーン』を誘ってのことだ。
今現在、快人が纏っている
腕には
となれば、快人が狙うのは『
そしてそこへの付け入る隙を、快人は『グレートホーン』に見つけていた。
(『グレートホーン』は居合の拳、とはよく言ったもんだ。
居合と同じ弱点があるとはな…)
居合の剣は鞘から抜き放つ動作により刀を加速させ、相手を一刀のもとに切り捨てる。
だが、それは避けられた場合に大きな隙ができるのだ。
同じように居合の拳である『グレートホーン』にも避けられた後、元の腕を組んだ体勢に戻るまでのわずかな間、その心の臓ががら空きになる。
それは、それこそ十万分の一秒にも満たない隙だ。
だが、
問題があるとすれば正面から『グレートホーン』を撃たせ、それを避けて懐に飛び込まなければならないということだろうか?
(…クソゲーレベルの無茶苦茶な難易度じゃねぇか)
『グレートホーン』は最速の抜き拳である。それを避けることは至難の業だ。
しかも今、快人は上半身に
直撃すれば、今度こそ死は免れない。
だが…。
(やってみせる! 燃えろ、俺の
快人はすべての
対する大悟は不動、絶対必中のタイミングを狙う。
そして…その運命の瞬間はやってきた。
「グレートホーン!!」
放たれる神速の掌打。
そして、黄金の牡牛の形をした、すべてを破壊しつくす衝撃波が放たれる。
それは如何に
だが、快人はその死を呼ぶ衝撃波に向けて駆ける。
人の機動である以上、どうやってもこの『グレートホーン』は避けられない位置にあった。
身を守る
そして…。
ドンッ!!
快人に爆発が巻き起こる。
だが、それは『グレートホーン』が快人に直撃したものではなかった。
「な…にぃ!?」
大悟が驚きのうめき声を上げる。
その爆発の炎は…蒼い炎だ。
快人は自分自身に
その爆発の衝撃によって、快人は通常の機動では考えられない急制動を行って迫る『グレートホーン』を避けようとしたのである。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
快人の頬と肩を『グレートホーン』が掠り、血が噴き出すがそれを快人は無視する。
大地を無理矢理踏みしめ、急制動によって崩れたバランスを持ち直しながら、快人が一気に大悟の懐へと飛び込んだ。
そして…。
ドゴン!!
その衝撃を伴う音は、やけにはっきりと響き渡る。
快人の右拳が、大悟の左胸へと叩き込まれていた。
「…俺の勝ちだ。 いっぺん死んでろ、
「ぐ…はっ…」
心の臓を打たれた大悟は大きく息を吐き出す。
そして…。
「はや…て…」
その最後の言葉を絞り出すのと同時に、大悟の心臓はその鼓動を止めたのだった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
「…死んでも倒れない辺り、さすがは
呟いて快人は2・3歩後ずさると、そのまま片膝を付く。
「『グレートホーン』の掠った肩の骨と自分で当てた魂葬破でアバラが2本、ヒビがいったか…。
だが、まだやることが…」
そう言ってゆっくりと快人が立ち上がる。
その時、世界に悲鳴が響き渡った。
「か、快人くん!!?」
「う、うっしーぃぃぃぃ!!?」
快人が顔を向けるより早く、なのはが快人の元へと降り立ち、はやてが大悟へと縋り付く。
「う、嘘や!
返事して、うっしー! うっしー、うっしー!!」
はやての涙交じりの呼びかけに、心臓が止まった大悟が答えるはずがない。
それでも半狂乱になりかけながらはやては大悟へと呼びかけを続ける。
「…」
「…どけ、なのは」
事態を知り鎮痛の面持ちのなのはを押しのけると、快人はゆっくりと大悟とはやてへと近づく。
それに気付いたはやてがバッと手を広げ、快人の前に立ちふさがった。
「おい、どけよ」
「近寄んなや!
なんで!? なんでうっしーを、うっしーを殺したんや!!?」
はやての言葉に、快人は呆れたように肩を竦めながら答える。
「先にこっちに手を出してきたのはそっちだろ?
俺は応戦しただけ、言ってみりゃ正当防衛に近いな。
そのクソ牛ぶっ殺したことに、とやかく文句言われる筋合いはねぇよ」
「…確かに戦いを仕掛けたのは我らだ。
お前の言う通り、自衛のために戦うのは当然のこと。
その戦いの結果にとやかく言えることはない。
だが…家族の死を悼むのも、当然のことだろう」
シグナムがヴォルケンリッターを代表して快人へと答える。
ヴォルケンリッターからは明らかな殺気が見て取れた。
だが、快人は気にした風もなくさらに大悟へと近づこうとする。
「うっしーに、うっしーに近寄んな!!」
ついにはやてが快人へとぶつかってその身体を止めようとすると、快人はため息を一つ付きその胸倉を掴みあげる。
「時間が無ぇ! お前らはそいつを『本当に死なせる』つもりか!!」
その言葉に、はやてや快人を止めようと飛び出そうとしていたヴォルケンリッターの動きが止まった。
「『本当に死ぬ』…? それって…」
「まだやれることがあるんだよ。 いいから黙ってみてろ!」
そう言ってドンとはやてを押しのける。
「兄さん…」
「…シュウト、支えを頼む」
快人の言葉にシュウトは頷くと、シュウトは大悟を正面から抱きつくように支え、快人は大悟の横を通り過ぎて距離をとる。
そして振り向くと快人は拳を構えた。
「シュウ、一体何を?」
全員を代表するようにフェイトがシュウトに尋ねた。
「彼の、
そして外傷は特に無く、心臓が停止しているだけ。
これなら…
「ほ、ほんまか!? うっしーは、うっしーは生き返るん!?」
シュウトの言葉に、はやては目を輝かせる。
「全ては兄さん次第だよ。
兄さん以外には、誰も
「何を、するつもりなの?」
「
心臓を停止させたときとまったく同じ力、まったく同じ
「ば、バカな! そんなことが出来るはずが無い…!」
シグナムの言葉ももっともだ。
生と死を分かつ極限の戦いの中で放った一撃、それと全く同じものを正確に真逆から放てと言われても出来るわけが無い。
「でも、それが出来なきゃ彼は確実にこのまま死ぬ。
黙って見てて欲しい、兄さんの一撃を」
話はこれまでと言った風に切り上げるシュウトに、はやては不安そうな顔をする。
当然だ、これからやろうとしていることの無茶さを聞いたのだから。
だが、そんなはやての肩を叩くものがあった。
それはなのはだ。
「なのはちゃん…」
「大丈夫、快人くんを信じて。
快人くんがあり得ない奇跡を起こす瞬間を私は見てる。
快人くんは、私の幼馴染はどんな奇跡だって起こして見せるよ。
だから一緒に信じよう、快人くんを」
「…そやな。
お願いや、神様。 うっしーを、うっしーをわたしに返して…!」
なのはの言葉に頷いたはやては、ギュッと目を瞑ると手を合わせ祈る。
その隣でなのはも目を瞑った。
(信じてるからね、快人くん!)
なのはのその心は、揺るぎない信頼から来るエール。
そのエールを、なのはは快人へと送り続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~
なのはとはやての会話は、快人にも聞こえていた。
「ったく、簡単に言ってくれるぜ…」
苦笑が漏れる。だが、悪い気はしない。
「ここまで信頼されてるんなら、応えたくなるじゃないか!
見せてやるよ、
快人は大きく息をつくと拳を握り締める。
「兄さん、気合入ったのはいいけどその位置じゃ近すぎる。
それじゃ、
「わかった…」
一歩下がった快人は改めて拳を握り、構えを取る。
同時に目を瞑り、快人は静かに
その場にいる誰もが、祈りを込めて快人を見ていた。
「…愛されてんなぁ、クソ牛。
生と死を見る
還って来い、誇り高き黄金の牡牛よ!!」
そして、快人は高めた
「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ドゴン!!
衝撃、そして静寂。
誰も何も言えず、ただその様子を伺う。
そして…。
「…かはっ!?」
重苦しい息を吐き出し、大悟の身体が大きく震えた。
そして、黄金の牡牛の心臓が、再び鼓動を刻み始める。
「うっしー!!」
「大悟ぉ!!」
はやてが、ヴォルケンリッターたちが泣きながら大悟の身体に抱き着く。
「これは一体…?」
未だ状況についていけない大悟は目を瞬かせ、正面から抱き着いたはやてがボロボロと涙を流す。
「はやて…」
「…もうええ。今回のことで色々言いたいことあったけど、もう全部何でもええ。
うっしーが生きてわたしのところにいてくれる。 それだけでもう、わたしには十分や。
うっしー! うっしー!」
「はやて!」
感極まるはやてを、大悟が抱き返す。
ヴォルケンリッターたちも、家族の生還に涙を流した。
「よう、気分はどうだい、クソ牛?」
なのはに支えられた快人が、八神家の元へとやってくる。
「悪くない。 今まであった頭痛が嘘のようだ」
「そりゃ結構。 死んでうまく頭が切り替わってくれたらしいな」
その言葉に快人はホッと一息をつく。
正直、この方法は分の悪い賭けだったのだ。
『死』によってのみ解かれる『あの魔拳』が、本人の死によって解けるかどうかは未知数だ。
ロストキャンバスにおける描写でも『死んでも効果が継続している』描写もあり快人としても不安だったのが…本人の『死』で魔拳を解き蘇生させるという快人の狙いは見事に的中したようだ。
「感動の再会に水を差すようで悪いんだけど、とんでもない相手が迫ってる。
すぐに兄さんもそっちも戦える準備をして欲しい」
「…どうやらその分じゃ、『闇の書』の中にいたのも俺たちの予想通りか…。
シュウト、それはあいつらが到着してからでもいいだろ?」
快人が顎で指す方向にはクロノと、ユーノとアルフに抱えられたアリサとすずかの姿があったのだった…。
というわけでドラゴン最大の奥義、『脱衣』が重要なカギを握った蟹牛最終決戦でした。
そして蘇生方法もドラゴン式という、作者としては渾身のシリアスギャグ回です。
ただ、何の意味のない脱衣が許されるのはドラゴンだけですので、攻撃のために意味のある『攻撃的脱衣』という脱衣方法です。
…もはや何を言っているのか、自分でも分かりません(笑)
つまり、『聖闘士の脱衣はなんか凄い』と皆さんの第七感で理解して下さい。
脱衣防御と変形防御
これはエピソードGにて度々黄金聖闘士たちが行っている行動に、何とかそれらしい名称を付けたものです。
特に脱衣防御は対クレイオス戦で蒼神剣を防ぐのにシュラが使った由緒正しき技…のはず。
つまり…脱ぐのは凄いんです!
次回は遂に現れた『ボペトール+闇の書の闇』戦です。
決着はもちろん、アレで。
次回もご期待下さい。
今週のΩ:ユナちゃんがずっとヒロインしてました!
光牙に会えて思わず抱きついちゃったり、憎しみに覚醒しかかった光牙を止めたり本当にここのところのヒロイン力が半端ない。
『死にたくねぇ』という新蟹の主張でしたが…だったら戦うのが仕事の聖闘士になっちゃだめでしょ!
セージ様が特に理由なく200年以上生きたもんで、黄金聖闘士なら永遠の生をとか勘違いしちゃってるよ!
そしてやっぱり死んだよ、シラーさん! また蟹が戦死一番乗りだよ!
…もう、蟹の待遇について考えるのをやめよう。
今週はホント、ユナちゃんが始終ヒロインとしていい仕事してました。
来週は獅子座相手にエデンくんが数週間ぶりに体育座りから出陣。
プラズマとボルトが見れることだけ期待しよう…。