俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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ついに始まるA’S編最終決戦、『蟹座VS双子座』の戦いです。
今回はまともに決まったことのない、あの技が炸裂します。


第35話 蟹座と双子座、聖夜の最終決戦(前編)

 

 

天界のある一室で、アテナ様、アフロディーテ様、アルテミス様3人と対峙する女神。

アテナ様は今にも飛び掛りそうな雰囲気、アフロディーテ様は冷ややかに、アルテミス様はハラハラと様子を見守っていた。

対する女神はニヤニヤと底意地の悪そうな顔で笑う。

 

「あらあら、お揃いで何か御用かしら?」

 

「…随分ふざけたことしてくれてるみたいだから、文句言いに来たのよ。

 そうじゃなきゃ、誰がアンタなんかの顔見に来るもんですか、ヘラ!!」

 

アテナ様はそう吐き捨てるようにして目の前の女神、ヘラに言った。

女神ヘラ…アテナ様、アフロディーテ様、アルテミス様にとってはある意味忘れられない女神だ。

何と言っても彼女たちに星座カースト制度から来る辛い思い出を作ったのは目の前のヘラなのである。

星座カースト制度第一位に輝く頂点、『双子座』であることをいいことにいろいろとやってくれたものだ。

思い出すだけでも屈辱であり、その屈辱が快人とシュウトを転生させた『蟹魚復権計画』の原動力となっていたのだ。

 

「確かに私も面白そうだから私の星座の『双子座』の転生者を送り込んだわよ。

 でも、それだけ。

 あなたたちが何を言ってるのかわからないわね」

 

「嘘おっしゃい!

 デスマスクやアフロディーテは出るし、邪神エリスは出る。

 おまけに今度は『闇の書』に夢神ボペトール?

 あの世界は『リリカルなのは』の世界に酷似した世界だったはずよ!

 明らかにおかしいじゃない!

 誰かが何かをやったとしか思えないわ!」

 

そう興奮しながら言い放つアテナ様に、ヘラの方はというと努めて冷静だ。

 

「あのねぇ…私がそんなことをしてどんなメリットがあるの?

 あなたたちも規則を知らないわけじゃないでしょ?」

 

「う…」

 

その言葉に、アテナ様も途端に勢いを無くす。

神の世界にだってルールはある。

基本的に世界に対して多大な干渉をすることは、大きなルール違反なのだ。

だからこそ、アテナ様もアフロディーテ様もアルテミス様も皆、転生させた後には特に干渉も接触もすることなく見ているだけにしている。

だが今回、あの世界に起こっていることは明らかに規則に違反するような世界への多大な干渉だと思えるが、ヘラがそれをやるだけの動機が全く無いのだ。

これでは問いただす以前の問題である。

 

「まぁ、いいわ。

 せっかく来たのだし見ていく?

 丁度面白いところのようだし…」

 

そう言ってヘラが浮かばせた映像、それは対峙する快人と総司の姿だ。

 

「私の星座とあなたの星座の戦いみたいね。

 まぁ、頂点と底辺の戦いじゃ結果は見るまでもないけど」

 

「それはどうかしらね?

 私の選んだ子は、なかなかにしぶといわよ」

 

ヘラの言葉にアテナ様は言う。

 

「面白いじゃない。

 じゃあ、どれだけやれるか見せてもらうわ」

 

勝利を確信した顔でヘラは言う。

その言葉に、アテナ様は誰にも気づかれず呟いた。

 

「…必ず勝ちなさい。

 この舐めた女の自信をボッキボキにへし折ってやるのよ、蟹名快人…!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

幾多の世界を滅ぼしてきた『闇の書の闇』と、それに憑りついた邪神、夢神ボペトールは滅んだ。

だが、黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちの戦いは終わってはいなかった。

むしろ、ここからが本番である。

 

双子座(ジェミニ)!?」

 

「新しい、黄金聖闘士(ゴールドセイント)!?」

 

新たに現れた黄金聖闘士(ゴールドセイント)に、ユーノとアルフが驚きの声を上げる。

 

「すずか、あの人のこと知ってるの?」

 

「うん…」

 

フェイトの言葉に、すずかは頷いた。

 

「双葉総司くん。 私が図書館でよく会ってた男の子。

 無口だけどどこか優しくて、さっきだって私とアリサちゃんのこと守ってくれた…」

 

闇の書の防衛プログラムの攻撃からアリサとすずかを守ったのは彼であった。

それにすずかには以前、クリスマスには絶対出歩かないようにと忠告をしていた。

今にして思えば彼はこの事態を知っており、すずかが巻き込まれないように配慮してくれたのだろう。

そんな彼が何故…。

 

「総司くんやめて! 何で、何でこんなことするの!?」

 

「…」

 

 

だが、総司はそんなすずかの言葉には答えない。

 

「待て! 君も聖闘士(セイント)なんだろ!

 それが何故、同じ聖闘士(セイント)の快人たちを襲うんだ!?」

 

「…クロノ=ハラオウン、一概に聖闘士(セイント)だからと言ってすべてが同じように行動するわけではない。

 俺は俺の目的のために行動する…」

 

「その目的が、シュウや快人や大悟を殺すことなの!?」

 

フェイトの叫びのような声に、総司は一切感情を感じさせぬ冷たい声で言い放った。

 

「その通りだ。

 俺の目的は始めから、俺以外のすべての黄金聖闘士(ゴールドセイント)を殺すこと。

 そのための最良のタイミングを狙っていたにすぎない。

 安心しろ、お前たちへは一切手だしはしない。

 この戦いが終われば、無傷でそこから出そう。

 だから少しの間黙っていろ」

 

「そんなん、納得できるわけないやろ!

 シグナム、ヴィータ! 一緒にこの壁を破るんや!!」

 

はやての言葉に、至近距離からはやて・シグナム・ヴィータが見えない壁へと全力の一撃を叩きこむ。

だが…。

 

「なん…やて…!?」

 

「我らの攻撃で…揺るぎもしない!?」

 

「G型カートリッジまで使ったっていうのに…どうなってんだよ!?」

 

目に見えぬその障壁は3人の小宇宙(コスモ)によって強化された攻撃にもビクともしない。

 

「無駄だ、その壁はお前たちじゃどうあがこうと突破できない」

 

それはつまり、なのはたちには見ていること以外に何もできないということだ。

こうなれば、内部にいる3人が脱出をすることを期待するしかないのだが、戦える状態なのは快人のみだった。

 

「まぁ、そいつの言うとおりだ。

 無駄なことはやめて、シュウトとクソ牛の治療の準備をしてるんだな」

 

快人の声がなのはたちに届く。

快人の言う通り、シュウトと大悟は大怪我を負っている。

応急処置があるが、すでに戦えるような状態ではない。

快人が総司を抑え、何とかして壁を破壊しなければシュウトと大悟の命が危なかった。

 

蟹座(キャンサー)の蟹名快人、やはり残るとなればお前か…」

 

「へっ、黄金聖闘士(ゴールドセイント)でも最強と名高い双子座(ジェミニ)さまに名前を覚えてもらってるとはね。

 光栄なもんだ」

 

「夏の邪神エリスの時も、神を相手に勝負を決したのはお前だった。

 もし今回も、最後まで喰らい付いて来るとなればお前だろうとは予感がしていた」

 

事実、総司のその予感は当たっていた。

快人がいなければ、『ギャラクシアン・エクスプロージョン』の直撃によってすでに決着はついていたはずだったのだから。

 

「なるほどな、邪神エリスのときの空間の歪み…やったのはお前だったのか。

 随分前から監視されてたらしいな」

 

快人は夏のときの奇妙な空間の歪みを思い出してそう呟いた。

 

「で、最大のチャンスとみて俺たちを一気に皆殺しに来たってわけかい、双子座(ジェミニ)さんよぉ?」

 

「そうだ。

 『アテナ・エクスクラメーション』を放ちお前たち3人はすでにかなり小宇宙(コスモ)を消耗している。

 今なら、労せずに全員を殺すことができるだろう」

 

その台詞に、快人は獰猛に笑った。

 

「オイオイ、ここに無事な俺がいるっていうのにもう勝ったつもりかよ?

 そいつは少し…俺を舐めすぎなんじゃねぇのか、双子座(ジェミニ)さんよぉ…」

 

快人が全身に濃密な小宇宙(コスモ)を立ち上らせる。

そして。

 

「俺たちを殺すなんて笑えない冗談は俺を倒してからにしやがれ!!」

 

「…ああ、そうさせてもらおう」

 

快人が一気に総司へと接近する。

ここに聖夜最後の決戦、蟹座(キャンサー)双子座(ジェミニ)黄金聖闘士(ゴールドセイント)同士の戦いが始まったのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「オラァァァァ!!」

 

快人が小宇宙(コスモ)を込めた右拳を振るう。

先手必勝とばかりに、最大限にまで小宇宙(コスモ)を高めてだ。

実際、快人の中には焦りがあった。

総司の指摘したとおり、快人の消耗は激しい。

黄金聖闘士(ゴールドセイント)である大悟との決戦の後に、夢神ボペトールとの戦いである。

その間に放った技は多いし、究極の秘奥義の一つである『アテナ・エクスクラメーション』まで放ったのだ。

おまけにシュウトと大悟は重傷である。

快人の応急処置と黄金聖闘士(ゴールドセイント)としての身体能力によって何とかなっているが、本格的な治療が必要なのは火を見るよりも明らかだ。

それに…。

 

双子座(ジェミニ)の最大奥義『ギャラクシアン・エクスプロージョン』…アレだけはヤバい! ヤバすぎる!!)

 

双子座(ジェミニ)最大の奥義『ギャラクシアン・エクスプロージョン』…それは双子座(ジェミニ)を最強の黄金聖闘士(ゴールドセイント)と呼ばせる要因の一つだ。

文字通り銀河を砕くと言われる、この一撃の火力はほぼ間違いなく黄金聖闘士(ゴールドセイント)随一だろう。

それもそのはず、『ギャラクシアン・エクスプロージョン』は分類としては対神級奥義に分類されるような超奥義なのだ。

そんなものをもう一度放たれ避けられる保証はないし、シュウトや大悟が避けることなどどう考えてもできない。

 

(『ギャラクシアン・エクスプロージョン』を撃たせないように間断なく攻撃を仕掛ける!

 その上で出来うる限り短期決戦を仕掛けるしかない!)

 

そんなことを考えながら快人は右拳を振るう。

だが。

 

「な…にぃ!?」

 

快人の拳は総司によって受け止められていた。

ただ受け止められただけなら、快人もそう驚きはしない。

だが驚くべきことに快人の渾身の小宇宙(コスモ)を乗せた拳は、総司の突き出した左手の、人差し指1本によって止められていたのだ。

 

「ば、バカな!? 俺の拳を指一本でだと!?」

 

「何を驚く? お前の今の力など、俺の指一本にも劣るというだけだ」

 

総司の人差し指に尋常ならざる小宇宙(コスモ)が集中し、快人の拳を受け止めたのだ。

指先への小宇宙(コスモ)の一点集中…これは言うほど簡単なことではない。

それをいとも容易くと行えるということは、小宇宙(コスモ)の制御の精度が半端ではないという証だ。

 

「ちぃ!?」

 

快人は即座に身体を捻って右のハイキックを見舞う。

総司は特に苦にした様子も無く、一歩後ろに下がってそれを避けた。

 

「かかった!」

 

快人はさらに一歩を踏み込むと、左の肘を放った。

だが回避のために引いたところに踏み込んでの、本来なら必中であるその肘が虚しく空を切る。

気が付けば総司は快人の裏に回り込み、小宇宙(コスモ)を集中させた右拳を快人へと振るった。

咄嗟に身体を捻り右手でその攻撃をガードをする快人はその衝撃で地面に足が引き摺った跡を残しながら数メートルほど吹き飛ばされる。

 

「くぅ…」

 

快人は今の攻防において垣間見えた総司の戦闘技術に舌を巻いた。

蟹座(キャンサー)は技巧に優れた星座であり、その特性を色濃く次いだ快人も戦闘における技巧には自信がある。

だが、そんな快人をして戦慄するほどの戦闘技術を総司は有していたのだ。

そして、快人は改めて自分の考えの甘さを呪う。

 

(強力すぎる『ギャラクシアン・エクスプロージョン』の威力に目を奪われすぎていた。

 双子座(ジェミニ)の本当の恐ろしさは…バランスだ)

 

黄金聖闘士(ゴールドセイント)は全員が互角ともいえる実力を持つものだが、それは総合戦闘能力での話であって、その力の内訳はまるで違う。

最高のパワーとタフネスを誇るかわりに精神系への攻撃に弱い牡牛座(タウラス)が顕著な例だが、黄金聖闘士(ゴールドセイント)にも基本的に得手不得手があるのだ。

しかし、双子座(ジェミニ)にはそれが無い。

全ての能力が高い次元でバランスよく纏まっており、際立った弱点が無いのだ。

その上で、最大級の威力を持つ『ギャラクシアン・エクスプロージョン』という切り札を持っている。

そのバランスの高さこそが、双子座(ジェミニ)の真の恐ろしさだった。

 

「やるじゃねぇか、双子座(ジェミニ)

 さすがは最強と呼ばれた星座だけのことはある。

 まぁ、俺にはさすがに劣るけどな」

 

「元気なものだ…未だにそれだけの減らず口を叩けるのだからな」

 

「へっ! 減らず口かどうかは試してみやがれ!!」

 

言って、快人の姿が掻き消える。同時に総司の姿も掻き消えた。

残るものは閃光と打撃音のみ。

2人の黄金聖闘士(ゴールドセイント)の光速戦闘が始まる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

光と音だけがその場に残る、2人の黄金聖闘士(ゴールドセイント)の光速戦闘。

それは見ているなのはたちからすれば、視認することも出来ない戦いである。

小宇宙(コスモ)に目覚め、その能力が大幅に上昇しているなのは・フェイト・はやてとて音速の動きを視認することが精々なのだからそれは仕方の無いことだった。

だが、その戦いに変化が現れ始める。

 

「がっ!?」

 

「快人くん!?」

 

まるでコマ送りの映像のように、現れては消え現れては消えを繰り返す快人と総司。

その光景は快人に攻撃が命中し2人の動きが止まる一瞬の光景だ。

今までの疲れは確実に快人を蝕んでおり、快人が押され始めてきたのだ。

 

 

バキィッ!!

 

 

「ぐぅ!?」

 

一際大きな打撃音と共に吹き飛ばされた快人が地面を抉りながら転がる。

その拍子に、快人の蟹座聖衣(キャンサークロス)のヘッドパーツが外れて吹き飛び、なのはの足元までそれが転がってきた。

快人はそれを気にする余裕も無いように態勢を立て直すと、口元から流れる血を拭う。

一方、総司はその速度を落とし、ゆっくりと快人の前に姿を現した。

 

蟹座(キャンサー)、これで止めだ…」

 

「トドメ?

 バカ言うなよ、この距離ならご自慢の『ギャラクシアン・エクスプロージョン』をぶっ放すのよりも、俺の炎がお前を燃やすほうが速いぜ」

 

そう言って快人は右手に蒼い炎を宿らせる。

だが、総司は首を振ると右手を掲げた。

 

「『ギャラクシアン・エクスプロージョン』だけが双子座(ジェミニ)の力ではないことはお前も知っているだろう。

 もう1つの双子座(ジェミニ)必殺の技、見せてやろう…」

 

途端に、総司の小宇宙(コスモ)が危険な高まりを見せる。

その総司の姿に、すずかの脳裏をフラッシュバックする光景があった。

それはいつかの夜の薄暗い廃工場。

そして、中空に浮かんだ黒い穴に吸い込まれていく男の姿。

総司によって封印されたすずかの記憶は、目の前の光景によって不完全ながらその封印を解かれていた。

それを思い出したすずかは反射的に叫ぶ。

 

「そ、総司くんやめてぇぇぇ!!」

 

だが総司はそんなすずかの叫びを無視し、最大限に高めた小宇宙(コスモ)を爆発させた。

 

 

「アナザー・ディメンション!!」

 

 

途端、中空に黒い穴がぽっかりと口を開ける。

それを見ていた魔導士たちが驚きの声を上げた。

 

「あれはまさか!?」

 

「『虚数空間』!?」

 

『虚数空間』とはあらゆる魔法が発動しなくなる、魔導士にとっては最悪の空間のことである。

もしも落ちたら最後、重力の底まで落下し永劫に戻ってくることはできない。

クロノやフェイトたち魔導士には、総司の開けた穴がそう見えていた。

その判断はほとんど正解である。

異次元空間への入り口を作り相手を異次元へと放逐する技、それがこの『アナザー・ディメンション』である。

異次元空間を空間移動に利用したり、相手を閉じ込めることにも使用できその利用範囲の幅が広い技だ。

ぽっかりと口を空けた異次元への入り口が、快人を吸い込もうと恐ろしいほどの吸引力で襲い掛かる。

 

「ちぃ、また厄介な技を!?

 だがなぁ!!」

 

快人は舌打ちをすると己の小宇宙(コスモ)を最大限に高めバリアのようにして異次元への入り口からの吸引力を防ぎ、踏ん張る。

その吸引力は、何とか快人の防げるレベルのものだった。

だが…。

 

「言ったはずだ、これはトドメだとな」

 

快人が総司のその言葉に疑問を持つよりも早く、シュウトと大悟の声が聞こえた。

 

「ぐ、ぅぅぅぅ!!」

 

「に、兄さん!」

 

「!? シュウト!! クソ牛!!」

 

見ればシュウトと大悟が急速に異次元への入り口へと吸い寄せられていっている。

重傷を負った2人の小宇宙(コスモ)ではその吸引力から身を守ることが出来ず、その身体では踏ん張りもきかない。

2人はズルズルと異次元への入り口へと吸い込まれていく。

 

「ちぃ!!?」

 

それに気付いた快人は走り出した。

宙に浮いた2人の手を、快人が掴む。

 

「…やはり助けに入ったか。

 これでお前たち3人の命運は決まった…」

 

その様子を見ていた総司の呟きは正しかった。

快人の力と小宇宙(コスモ)だけでは、2人とその身を『アナザー・ディメンション』から守るのには足りない。

吸い込まれまいと踏ん張る快人だが、ズルズルと異次元の入り口へと引き寄せられていく。

 

「ダメだ、兄さん!!」

 

蟹座(キャンサー)、お前も吸い込まれるぞ!

 この手を放せ!!」

 

そんな2人の言葉を、快人は鼻で笑い飛ばした。

 

「何ほざいてやがる、バカども!

 黄金聖闘士(ゴールドセイント)である俺に、目の前で仲間が死ぬのを容認しろってか?

 ふざけるな、アホが!

 それにな…」

 

そこで快人は言葉を切ると、シュウトへと言う。

 

「死に掛かってる1人は弟ときたもんだ。

 どこの世界に、目の前で弟が死ぬのを容認できる兄がいるか!!」

 

「…」

 

快人の言葉に、総司の眉がピクリと動いた。

だが、快人はそれに気付くことなく力と小宇宙(コスモ)を込めていく。

しかし足りない。

力も小宇宙(コスモ)も、3人全員が『アナザー・ディメンション』から逃れるには足りなすぎる。

このままでは総司の言う通り、これで一網打尽にされて終わりだ。

 

「…」

 

快人は無言でチラリとなのはの方を見る。

なのはは弾き飛ばされた快人の蟹座聖衣(キャンサークロス)のヘッドパーツを胸に抱きしめながら、心配そうに、だが視線を逸らすことなく快人を見続けている。

 

(なのは…もし失敗したら悪ぃ、サヨナラだ)

 

そう心の中で呟いた快人は、キッとシュウトと大悟を吸い込もうとしている異次元の入り口を睨む。

 

「…シュウト、クソ牛。

 着地は自分でやれよ」

 

「!? 兄さん!」

 

快人の言葉に不穏なものを感じ取ったシュウトは何かを口にしようとするがそれより前に快人は動いた。

 

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

雄叫びと共に、快人の小宇宙(コスモ)が一気に燃焼する。

同時に渾身の力で快人はシュウトと大悟を後方遠くへと投げ飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

「くっ!? に、兄さん!!」

 

地面へと身体から軟着陸を果たしたシュウトと大悟が顔を上げる。

その2人の目に映ったのは異次元の入り口へと吸い込まれていく快人の姿だった。

 

「兄さん、兄さぁぁん!!」

 

シュウトの声に快人は何も答えず、フッと笑うと快人は異次元へと消えていく。

それと同時に、快人の小宇宙(コスモ)が再び爆発した。

異次元の穴が、段々と小さくなっていく。

その光景に総司は驚きの声を上げた。

 

「俺の開けた異次元の入り口を、内側から閉じるつもりか蟹座(キャンサー)!?」

 

そう、快人は吸い込まれた異次元側から、穴を閉じていたのである。

そして、異次元の穴は遂に消え去った。

 

「兄さん、兄さん、兄さぁぁん!!」

 

シュウトの声が響くがそれに答えるものは無い。

 

「…見事だ、蟹座(キャンサー)

 弟と仲間を救うために、捨て身で俺の『アナザー・ディメンション』を破るとは…」

 

「…」

 

「…」

 

総司の言葉に、シュウトと大悟は無言でゆっくりと立ち上がった。

シュウトはその右手に薔薇を構え、大悟は腕を組む。

 

「俺はあいつに、命の借りがこれで2つ目だ。

 もはや借りは返せないが…せめてその仇は討たせてもらう!」

 

「兄さんの…兄さんの仇!!」

 

2人の目には怒りの炎が宿っていた。

その2人を前にしても、総司は少しも揺るがない。

 

「もっとも傷浅く、やっかいだった蟹座(キャンサー)が死んだ今、お前たちなどものの数では無い。

 …来い、俺の目的を果たさせてもらおう!」

 

「「舐めるなよ、双子座(ジェミニ)ィィ!!」」

 

吠えて、シュウトと大悟が総司へと飛びかかる。

だが、その動きは目に見えて鈍い。

絶望的な戦いが始まった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

快人が消えていくその光景は、見ていた魔導士組にも衝撃だった。

 

「そ、そんな…快人が…」

 

「な、なのはちゃん…」

 

『虚数空間』の恐ろしさを知るフェイトが顔を青くして口を押さえ、はやてはゆっくりとなのはの方を見た。

いや、それははやてだけでは無い。

その場にいた全員が青い顔でなのはの方を見る。

だが、なのははそんな皆の視線に首を横に振った。

 

「あんなことで快人くんが死ぬはずない。

 だって快人くんは、どんな奇跡だって起こす黄金聖闘士(ゴールドセイント)だよ?

 あんな穴くらい、這い上がってくるもん」

 

それになのはには、快人が何の策もなくこんなことをやったとは思えない。

先程チラリと振り返った快人の顔は、自分を犠牲にしてもなどと考えている人間の顔ではなかった。

だから…。

 

「だから大丈夫。

 快人くんは死なない、絶対帰ってくる。

 絶対、絶対に!」

 

そうやって、まるで自分に言い聞かせるように言いながらなのはは胸に抱いた蟹座聖衣(キャンサークロス)のヘッドパーツに力を込める。

その手が震えていることに、少女たちは皆気付いていたが敢えて何も言わなかった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

光も無く、何も知覚出来ず、時間感覚すら狂う空間…異次元空間を快人は漂っていた。

 

「殺風景な景色だこと…異次元ってのは思った以上に味気ねぇなぁ…」

 

その呟きは、決して絶望からの諦めではない。

なのはの信じていた通り、快人は自己犠牲の精神や無策で『アナザー・ディメンション』に飛び込んだのではなかったのだ。

いかな異次元空間と言えど、脱出の方法は確実に存在する。

聖闘士星矢原作においても『アナザー・ディメンション』と同質の技であるカノンの『ゴールデントライアングル』の直撃を受けた不死鳥座(フェニックス)の一輝も舞い戻ってこれたのだから、それは間違いではない。

そして、あの3人の中ではかなり確率の高い『脱出方法』を持っていたのは快人だけだった。

とはいえ、その『脱出方法』というのも確実性は全く無い。

正直に言えば分の悪すぎる賭けだが、脱出の確率がさらに低い残りの2人が異次元へと吹き飛ばされるよりは遥かにマシである。

あのまま踏ん張っていても、いずれ吸い込まれることは目に見えていたため、そこまで考えた快人は『アナザー・ディメンション』に敢えて飛び込んだのである。

 

「さて…始めるか。

 保ってくれよ、俺の身体…」

 

そう呟くと同時に、快人は右の人差し指と中指を立て、その指先に全ての小宇宙(コスモ)を集中させていく。

快人の指先に、紫の怪しい光が宿る。

そして、快人はその技を発動させた。

 

積尸気(せきしき)冥界波(めいかいは)ぁぁぁぁ!!」

 

瞬間、快人の身体が掻き消えた。

蟹座(キャンサー)必殺奥義、積尸気冥界波(せきしきめいかいは)

それは相手の魂を肉体から分離させ、黄泉比良坂(よもつひらさか)と送る技である。

同時に、使い手は自分自身の肉体すら黄泉比良坂(よもつひらさか)と送ることが可能だ。

積尸気冥界波(せきしきめいかいは)は攻撃的なテレポーテーションとも言える技なのである。

その力で、快人は黄泉比良坂(よもつひらさか)を経由し現世へと帰還しようと考えたのだ。

思った通り、快人の肉体が異次元空間から黄泉比良坂(よもつひらさか)へと跳ぶ。

しかし…。

 

「ぐ、おぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

快人が血の混じったものを盛大に嘔吐した。

快人は幼少期のトラウマのせいで自由に積尸気冥界波(せきしきめいかいは)を撃つことが出来ず、無理に使用した場合には拒否反応とも言える耐えられない嘔吐感にさいなまれる。

だが、今回はいつものそれの比では無かった。

何故なら、快人が肉体ごと黄泉比良坂(よもつひらさか)に来るのは、あの両親が死んだ時以来なのである。

フラッシュバックする記憶では無く、肉体がダイレクトに黄泉比良坂(よもつひらさか)の光景と匂いを伝え、身体全体が拒絶反応を起こす。

 

(早く積尸気冥界波(せきしきめいかいは)で現世に戻らないと…やべぇ!!?)

 

激しい嘔吐で呼吸・思考ともに整わない中で、快人は必死に小宇宙(コスモ)を高めようとする。

だが、そのときひと際大きな嘔吐感が快人を襲った。

 

「う、ぐおぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

胃の中のものはほとんど吐き出し、すでに出ているのは血と胃液だ。

さらに連戦による肉体・小宇宙(コスモ)の消耗が快人の精神を削り、意識が持って行かれそうになる。

 

(ここで気を失ったら…死ぬ!?)

 

ここは死の国の入り口だ。

大量の亡者の行き来するこの場に、無防備な生身の人間がいればどうなるか…腹をすかせたライオンの前に野兎を持ってくるのと同じような勢いで、死へと誘われることだろう。

だがそんな思考とは裏腹に、肉体・精神の酷使によって快人の意識が遠のき始める。

 

 

(くそ、がぁ…賭けは俺の負けかよ…)

 

 

「なの…は…」

 

快人は最後に、白い幼馴染の名を呼びながらその意識を失ったのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

生あるものは存在しない場所、黄泉比良坂(よもつひらさか)

そこに、異物である生あるものが倒れた。

生の匂いに引かれたのか、倒れた快人へと亡者たちが群がろうとする。

だがその時、青白い光が快人の傍らへと飛来した。

その光は形を変え、次の瞬間には白い衣の老人へと姿を変える。

そして、老人はその手を無造作に振るった。

途端に、快人へと近づこうとしていた亡者たちへと蒼い炎が向かい、一人残らず吹き飛ぶ。

辺りに亡者たちがいないことを確認した老人は、倒れた快人を見た。

 

「これがあやつの新しい弟子、未来を託すべき聖闘士(セイント)か…。

 やれやれ、手のかかる問題児よな…」

 

そう言いながらも、どこか楽しそうにその老人は顎をさするのだった…。

 

 

 

 




前編はここまでです。
流石は王者の星『双子座』、勝てる気が全くしません。
アナザーディメンションがまともに決まったのって、これが初めてじゃなかろうか…。

次回は中編。
バトルよりも回想中心のお話になる予定ですがお楽しみください。


今週のΩ:獅子座はやっぱり忠義に厚いみたいだけど…何か間違ってる気がする。
     そして技も間違ってる。
     せめてライトニングプラズマくらいは繰り出して下さい…。
     こう考えるとグレートホーンを発動させてくれたハービンジャーさんは素晴らしい人だった気がしてきた…。
     次回はチート星座、乙女座編。
     男でまたも仏教系のようですが…これは乙女座の必須技能なんだろうか?


次回もよろしくお願いします。
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