とは言っても戦闘より会話等の中心というお話です。
それはまるで水中から水面へと浮き上がってくるように、ゆっくりと、だが確実に浮上する。
浮上するものは意識、そして蟹名快人は目を開いた。
「生き…てる…?」
「目覚めたか、小僧?」
亡者の行き交う
快人はバッと起き上がると、その声の方向に身構えた。
「あ、あんたは…」
そして、そこにいた人物を見て快人は驚きで目を見開いた。
そこにいたのは老人だった。
白い衣を纏って長い白髪の老人だ。
だが、その身体からは精悍さが溢れ出ており、歳を感じさせない。
そして何より、快人にとってその顔は見知ったものだった。
その老人の顔は、快人の師であり保護者でもあるセージに瓜二つだったのだ。
そんな人物など、1人しかいない。
「ハクレイじいさん…」
ハクレイ―――ジャミールの長であり
教皇セージの兄であり、教皇を補佐する
その実力は
「あんたが助けてくれたのか…。
でも、なんであんたがここに?」
快人の疑問の声に、ハクレイは首を振る。
「わしがここに来た理由は、弟の出来の悪い弟子を笑いに来た、とでも言えばよいか?
「…チィ」
出来が悪い弟子呼ばわりには幾分腹も立つが、事実ハクレイの言う通りなので快人は悔しそうに舌を鳴らす。
「んなこたぁ、じいさんに言われるまでもなくわかってるよ。
ここは、
そう、慣れないんだよ」
事実、今だって嘔吐感が湧き上がるのを必死で耐えているのだ。
なるべく考えないようにしているが、チラチラと脳裏では両親の死がフラッシュバックしている。
そんな快人に、ハクレイは首を振った。
「違うな。誰にとて苦手なものはある。
わしが問題にしているのはそこではない。
わしが問題としているのはお前が目を瞑り、耳を塞ぎ、大切なものから目を背けているからだ」
「大切なもの?」
「今もそうだ。
感じぬか、その大切なものを…」
言われて快人は目を瞑り、周囲へと感覚を広げるが…。
「う、おぇぇぇぇぇ!!」
途端に
ゼィゼィと荒い息を繰り返す快人をハクレイは見下ろしていた。
「快人よ、なぜお前がそのようになっているのか分かるか?
お前は両親の死を目の前で見たことで、無意識に『死』への恐怖がお前をそうさせているのだ」
「死への…恐怖。
バカな…俺は今まで…」
「お前は今まで確かに、凶悪な邪神とも一歩も退かず、戦い続けていた。
どのような命の危機にも不敵に笑いながらな。
それはお前のたぐいまれなる精神力と、目の前の守るべき者のための決意がそうさせていたのだ。
普通の
だが、お前は生と死を見る
ハクレイの指摘は…真実だった。
快人とて心のどこかでは気付いてはいたのだ。
生と死を見る
それが最も『死』を感じさせる奥義、
だが正しいことだとしても、いや正しいからこそそこをズケズケと指摘されれば腹も立つ。
「じゃあ、なにか? 『死』を恐れないことが強さなのか?
俺たち
そりゃ、戦いの中で死ぬことだってある。
だが、それを覚悟しながらも生きる者のために、『生』のために戦うんだ!
その『生』の中にいたい、大切な誰かと共にありたい…そう思って戦う俺は惰弱だっていうのか!!」
快人は膝を付きながらも、ハクレイを睨む。
そんは快人に、ハクレイは首を振った。
「『死』を恐れ、生きようとすることは生きとし生ける者として当然のこと。
その恐れを抱きながらも、屈服せずに愛と正義のために戦い続けるのが我ら
お前を惰弱だというのではない。
だが、お前は
「一歩先?」
そんな快人の呟きに、ハクレイは空を見上げる。
「お前も我が弟、セージの弟子ならば教えられているだろう?
命とは、なんだ?」
「命は…宇宙?」
その言葉にハクレイは頷く。
「そうだ、『命は宇宙』…無限に広がり続ける、煌めく世界よ。
お前は『命も幸せも塵芥』と言っているが、お前もその命の煌めきの尊さを知っていよう?
だからこそ、その人の『命と幸せ』を弄ぶ邪悪な神々とも戦ってこれたのだ。
快人よ、もう一度その意識をこの『死』に満ちた世界、
言われて快人は目を瞑り、再びその意識を広げ始める。
途端に襲ってくる嘔吐感。
だが、快人はそれを無理矢理飲み込みながら、
そして…。
「あっ…」
何かを感じた。
この『死』で満ちた
「…どうやら掴んだようじゃな」
ハクレイの満足そうな声に、快人はゆっくりと目を開けた。
そしてそこには…。
「…魂?」
それは小さな、儚い無数の魂たち。
だがその暖かさはどうだ。
それは誰かに抱かれるように暖かく、太陽のごとく熱い。
「わしはお前に群がろうとする亡者をはじめに一掃したにすぎん。
その後、お前が目覚めるまでお前を守ろうとしていたのは、その魂たちだ。
その魂たち…何かわかるか?」
「おそらく…
「その通り、彼らはわしやセージと共に駆け抜けた
セージの、誇るべき戦友の育てし新たな未来を紡ぐ
そして…その戦友たちの他にも、混じっているものを感じぬか?」
言われて、再び意識を集中させれば確かに祖先ともいうべき
そして、それが何なのか理解した快人の目から涙が流れた。
「父さんに母さん…」
それは新たな世界で得た、快人の愛すべき家族。
快人が『死』から守れなかった愛すべきものの意識がそこにはあった。
「
その力こそ
「『愛』…だって?」
「お前には多くの強い想いが向けられている。
お前に未来を託さんとする想い、お前を慈しむ想い…それらをまとめた言葉は『愛』と呼ばれる想いだ。
死しても消えぬ、強い『愛』があることを誰より理解し、誰より信じる。
その尊い人の心を、想いを形とし、それを踏みにじらんとする悪を討つ…これぞ
「…そうか…はは、お笑いだな、俺。
プレシアに高説垂れながら、自分がしっかり理解していなかったなんて…」
快人はあの『ジュエルシード事件』のときのプレシアへの説得を思い出して苦笑する。
死者の残した重い想いを受け止め生きることを語った自分が、自分を見守ってくれていた想いから目を背けていたのだから、どんな笑い話か。
これでは
「快人よ、お前には数え切れぬほどの想いが向いている。
死しても消えぬ、その想いを信じ、力に変え、お前の信じるままに生きとし生ける者を守れ。
未来を託すべき、新たな世界の我らが子よ!」
「ああ…そうするよ」
そう言って立ち上がった快人に、もはや迷いはない。
「随分とマシな面構えになったな。
そうでなくては、セージの弟子とは言えん」
そういうとハクレイの姿がゆっくりと薄くなっていく。
「ハクレイじいさん!?」
「うろたえるな、小僧。
そう遠くないうちに、再び会うことになろう。
今は現世に戻り、戦え。
死と運命によって捻じ曲げられた、悲しき
それだけ言うと、ハクレイの姿はフゥっと消えていった。
「ハクレイじいさんめ…言いたいことだけ言って消えやがったな…」
そう言いながら、快人は苦笑する。
だが、その顔は晴れやかだ。
快人は周りの儚い魂たちに静かに頭を下げる。
「これだけの魂に見られてるんだ。
無様は晒せねぇ。
俺は戻る、俺の戦場へな!」
快人の指先に
快人の
だが、今までとは比べ物にならないほどに快人の心は穏やかだ。
でも…それすら超える、大いなる『愛』があることを知った。
「もう…恐れない!
俺はこの想いを引き継ぎ、受け止めて戦う!」
そして、快人の身体は
快人の戻るべき世界…生きとし生ける者の待つ現世へと。
~~~~~~~~~~~~~~~
「ピラニアンローズ!!」
「グレートホーン!!」
無数の黒薔薇が、黄金の衝撃が総司へと迫る。
だが。
「ふん!」
総司が
「バカな、こうも簡単にボクの黒薔薇が…!?」
「確かに通常の状態でのピラニアンローズとグレートホーンならば、こうは容易くいかなかっただろう。
だが手傷を負い、
驚愕するシュウトに、総司はその表情を崩すことなく言い放つ。
「このようなことで怯むものか!
グレートホーンが効かないとならば、この拳で直接お前の五体を砕くまでよ!!」
大悟が飛び出し、ワンテンポ遅れてシュウトも飛び出した。
左右から挟み込むように放たれるシュウトと大悟の渾身の拳。
だがしかし、
「なぁ!?」
「俺の拳を、こうも簡単に!?」
総司は不動のまま、右手でシュウトの拳を、左手て大悟の拳を受け止めていた。
パワーと自慢とする大悟が、一歩も進めない。
大悟が怪我と消耗によって弱っていることもあるが、それ以上に総司の操る
そして、総司の
同時に、シュウトと大悟の周りの景色が変わった。
「これは…!?」
「溶岩!?」
総司からの
そして、それが爆ぜた。
「マヴロスエラプションクラスト!!」
「「うわぁぁぁぁ!!」」
星の猛りさえも屈服させるという、煮えたぎる自我の力による一撃にシュウトと大悟は吹き飛ばされた。
「シュウ!?」
「うっしー!?」
フェイトとはやての悲痛な叫び。
シグナムやヴィータ、クロノは目の前の壁を砕こうとするがビクともしない。
このままではシュウトも大悟も死ぬ…誰もがその思いを抱き始めていた。
「ぐ、うぅ…」
「これほど…とは…」
倒れたシュウトと大悟は、血だらけの身体を鞭打って立ち上がった。
だが、そんな2人に総司は冷たく言い放つ。
「覚悟はいいな、
お前たちは、次の一撃で死ぬ…」
同時に高まりを見せる
「骨も残さず、消え果てろ。
ファイナルディスティネーション!」
格子状の
そして襲い来る激痛に、2人の絶叫が木霊する。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
そんな2人に総司は背を向けた。
「その空間はお前らの五感を奪い、その五体を微塵に砕くまで消えはしない。
眠れ、
その言葉が示すように、2人の絶叫が小さくなっていく。
それが意味することはすなわち、2人の命が消えかかっているということだ。
「いや、いやぁぁぁぁぁ!!」
「やめ、やめてぇぇぇぇ!!」
フェイトとはやての絶叫が響く。
なのはは胸に抱いた
(早く、早く来て快人くん!
このままじゃシュウトくんが! 大悟くんが!!)
なのははギュッと目を瞑ると、その名を叫んだ。
「快人くん!!」
そして、その声を待っていたかのように炎が巻き起こった。
「なに!?」
突如として巻き起こった強力な
その目の前で、蒼い炎が逆巻き、『ファイナルディスティネーション』の作り出した封鎖空間を粉々に砕く。
何十枚ものガラスを割ったような音がして、シュウトと大悟の身体が地面に向かって落下を始める。
だが、その身体を受け止める者がいた。
それは…。
「に、兄さん…!?」
「
「何幽霊に会ったみたいなボケたツラしてるんだ、お前ら。
「快人くん!」
思わず喜びの声を上げるなのはに、快人はいつも通りの不敵な笑いで答える。
その様子に、なのはの目から喜びの涙が流れたのだった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
快人はシュウトと大悟を地面に横たえると、再び総司と対峙する。
「
「さぁな。
総司の問いに、快人は肩を竦めながら飄々と答える。
その様子に、総司の纏う雰囲気が変わった。
「いいだろう。 今度は異次元へ放逐ではなく、銀河の塵に変えてやる!」
「できると思ってんのか、
再び、2人による光速戦闘が始まった。
「がぁ!?」
「快人くん!?」
快人の顔面に総司の拳が叩き込まれた。
だが、快人は殴られながらもニィっと笑う。
その快人の意図を、すぐにその場にいた全員が理解した。
「ぐ…おぉ…」
快人の拳が、総司の腹へと叩き込まれていた。
打たれた腹を押さえ、総司が一歩後ずさる。
「お前の技巧は本当にすげぇよ。
でもな、俺だってバカじゃない。 来るタイミングと場所さえ分かればカウンター狙いくらいできるんだよ」
快人の狙いは、もはや技術とかそういったものではなかった。
総司の攻撃を甘んじて打て、その攻撃の一瞬に打撃を叩き込む…防御無用のブルファイト、殴らせて殴り返せの根性戦を総司に仕掛けようというのだ。
「き、さまぁ…!?」
「ほら、どうした
それとも天才さまは、ひ弱か?」
憎しみのこもった視線を向ける総司に、快人はクイクイと手で挑発する。
その態度に、総司の姿が掻き消えるように消えた。
ズドンという衝撃音と共に、快人の腹に強力なボディブローが決まる。
その感触に総司の唇がニィと吊り上るが、すぐにその表情は驚愕へと変わり総司が吹き飛んだ。
快人の強烈な右の蹴りが、総司へと叩き込まれたのだ。
衝撃波すら残しながら、総司が叩きつけられる。
「ぐ…がはっ!?」
むせ返りながら立ち上がる総司を、快人は不動のまま見下ろしていた。
そんな快人の様子を、総司は信じられないように見ている。
「バカな…! 貴様の怪我と消耗で、何故こんなことができる!?」
「おいおい、俺たち
俺にはたくさんの背負っているものがある…」
目を瞑ると、脳裏に浮かぶのは自分を守ってくれた数多くの『愛』。
そして…自分を待っていてくれた幼馴染の姿。
「その背負ったものが、俺に倒れることを許さねぇんだよ。
今の俺に勝てるとか思うんじゃねぇぞ、
その言葉に、総司は俯きながらゆっくりと立ち上がった。
「背負うもの…だと?
貴様…それが俺より上だと、そう言いたいのか…?」
その瞬間、快人は背筋にゾクリと冷たいものが伝うのを感じた。
快人だけではない、総司の雰囲気が変わったことにその場にいた全員の背中に冷たいものが伝う。
そして…。
ドゴン!?
「がは!?」
「舐めるなよ…
総司の拳が再び快人へと叩き込まれた。
同時に、総司は渾身の力で拳を殴り抜ける。
そこに込められた、今までとは桁が違うほどの感情と
だが総司はそのまま攻撃を休めず、吹き飛ばされた快人へと追撃を加える。
「ちぃ!?」
快人の反撃の拳を避けた総司の右膝がその腹に叩き込まれる。
くの字に折れ曲がった快人の首を落とすように、流れるような動きで後頭部に向かって肘を落とす。
それを寸でのところで転がって避けた快人だが、追撃の手は休まず総司の蹴りが快人へと決まった。
「こ、のぉぉぉぉぉ!!?」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
快人と総司が再び乱打戦を繰り広げるがその攻防は火を見るより明らか、総司によって快人が風の前の柳のように揺れる。
(ぐっ!? こいつ、まだこれだけできるのか!?)
快人は歯を食いしばりながら総司と打ち合うが、2発3発と突き刺さる拳が快人の意識を奪おうと的確に狙ってくる。
だが、その時だ。
(!? なんだ今のは!?)
総司に殴られた瞬間、脳裏を何かのヴィジョンが過ぎていった。
それは快人の知らない風景だ。
これは…。
(まさか…こいつの過去か!?)
それゆえ、お互いにとてつもない
それと同じ現象が今、快人には起こっていた。
(これ…は…)
~~~~~~~~~~~~~~~
双葉総司―――彼は快人やシュウト、そして大悟と同じくあの地下鉄事故で死に、転生させられた転生者であった。
それを施したのは女神ヘラ。
「いい?
お前は所詮、私の戯れで存在するのよ。
そのことをしっかり理解して、私の命令通りに動くのよ」
まるでゴミでも見るような視線で、ヘラは一方的にそれだけを宣言した。
新たな生を受けた瞬間からの奴隷宣言、まるで犬のようだと自身を笑う。
だが、それでも総司にとって新たな生は悪いことばかりではなかった。
何故なら、総司の隣には同じ運命を背負った弟がいたのだから。
双葉才牙―――総司の双子の弟であり、同じく地下鉄事故から転生させられた転生者である。
総司は歴代の双子座のように双子の兄だったのだ。
この世界での両親が死に(これにはヘラが拘っているのではないかと総司は睨んでいる)、それでも弟と2人でなら何があろうと生きていけると思えた。
「兄貴、必ずあの女神の鼻を明かしてやろう。
そしていつか自由を!」
「ああ! 必ずいつか一緒に自由を!!」
『神』の戯れに翻弄されながらも、それでもいつかその束縛を跳ね除け、2人で自由になることを夢見て力を蓄える。
師であるアスプロス・デフテロス兄弟に鍛え上げられた2人の力は互角、銀河を砕くほどの力を持つ兄弟がここに完成したのだった。
だが…そこに悲劇が待っていた。
8歳の誕生日のこと、あの女神ヘラが再び総司・才牙の元に現れてこういったのだ。
「2人もいると何かと邪魔なのよね。
そういうわけで…殺しあって生き残った方だけ使ってあげるわ」
当然、その言葉に総司も才牙も、師であるアスプロス・デフテロス兄弟も怒り狂った。
今こそが自由になる好機、その思いで総司も才牙も女神ヘラへと戦いを挑もうとした。
だが…それは出来なかった。
女神ヘラによって転生させられた2人と、その姿を与えられたアスプロス・デフテロス兄弟はその魂に細工を施されていたのだ。
女神ヘラに逆らうことができない―――そんな魂に付いた枷だ。
その枷に操られたアスプロス・デフテロス兄弟によって幻朧魔皇拳をかけられた総司と才牙の双子は互いに殺しあう。
アスプロス・デフテロス兄弟はあれほど自分たちが憎んでいた兄弟同士の殺し合いを、弟子である2人にさせていながら止めることのできない我が身に、血の涙を流し握りしめた拳からは血が滲み出ていた。
互いに互角の双子の戦いは熾烈を極め、2人が死力を尽くした一撃を放った時だった。
ズドン!!
「!? 才牙!!」
「へへ…勝ったぜ、兄貴…」
ニヤリと笑い、才牙が崩れ落ちる。
総司の拳が才牙を貫き、その血で染まっていた。
だが、総司の身体には才牙の拳は触れていなかった。
全く互角の2人であるなら、その結末は相討ちしかない。
だが最後の一撃の瞬間、才牙は幻朧魔皇拳を破り兄に放った拳を止めていたのだ。
「お前…何で!?」
「へへっ…兄貴に初めて勝ったぜ…。
何でもできる兄貴に、悪ガキの俺…いつも比べられてた俺が、やっと兄貴に勝った…」
そう満足そうに才牙は笑う。
「兄貴、俺は結構満足なんだぜ。
悪ガキの俺が、最後の最後で、最高のファインプレーだ。
あの舐めた女神の鼻を明かしてやれる、すげぇ兄貴を遺せたんだからな」
徐々に消えていく弟の体温が、明確にその死を伝えてくる。
才牙は最後の言葉を兄に投げかけたのだった。
「兄貴、いつか必ず自由に…」
その言葉と共に、才牙は息を引き取った。
「なかなかのお涙ちょうだいじゃない。
いい退屈しのぎにはなったわ」
それを見計らったかのように現れる女神ヘラに、総司は憎しみの籠った視線を向けた。
だが、そんな視線を女神ヘラはどこの吹く風、だ。
「そんなに睨んでも何も変わらないわよ。
でもね、いいことを教えてあげるわ。
お前の魂に埋め込まれた枷は、お前以外の
「…本当なのか?」
「本当よ、『神』に誓ってあげましょうか?」
「ちぃ!」
その言葉に総司は憎々しげに舌打つ。
「だから私の命令通りに動き、
自由のために、ね」
「…いいだろう。 お前の犬にでもなんでもなってやる。
この世界のすべての
「それでいいわ。
それじゃ
それまで、ごきげんよう」
そう言って女神ヘラは消えた。
残ったのは才牙の亡骸を抱えた総司と、アスプロス・デフテロス兄弟のみ。
「…総司よ、俺たちはお前にかける言葉が見つからん。
あのような悪神に屈した不甲斐ない師…お前の気が晴れるなら、俺たち兄弟の命をお前にくれてやる」
血の涙を流しながらの師アスプロスの言葉に、総司は首を振った。
「師のせいではありません。
すべては俺の弱さの招いたこと。
俺もあの瞬間に拳を止められればあるいは…!」
それは自分の弱さへの後悔。
だからこそ、総司は師であるアスプロス・デフテロス兄弟へと頼む。
「師たちよ、俺を…もっと強くして下さい! 鬼のごとく!
…いや、鬼じゃ足りない。 『神』を殺す悪鬼、『鬼神』のごとき力を俺に!!」
今は女神ヘラの命令を聞き、必ずすべての
その魂にかけられた枷を解き放ち、そして…。
「俺は…自由になる! 才牙の願い通りに!
そして自由になった暁には、あの女神を必ず殺す!
そのためになら…俺は全てを捨てる!!」
そして、激しい慟哭とともに
~~~~~~~~~~~~~~~
ガシッ!
「何っ!?」
驚くほどの
そんな快人の顔面を打つはずだった総司の右拳は、快人の左手によって止められていた。
総司の拳が、ピクリとも動かない。
見れば、快人からも今までに無いほどの
「貴様のどこにこんな力が残っていた!?」
驚き目を見開く総司に、快人が応える。
「あるさ。
俺だって、お前と同じ『兄』だ。
弟をこの身体で庇うのは当然だろう?」
「!? 貴様、何故!?」
快人の言葉に驚き見開いた総司の顔面に、快人の渾身の右拳が突き刺さった。
「ぐっ!?」
吹き飛ばされた総司だが、すぐに態勢を立て直す。
そんな総司と正面から対峙し、快人はその問いを口にした。
「なぁ、
お前にとって、『兄弟』ってのは何だ?」
というわけで快人の帰還と、総司の過去のお話でした。
重い宿命を背負うのは双子座の伝統です。
ちなみに総司と才牙の2人は合わせて双子座のサガになります。
双子座→そうじ
サガ→さ(い)が
と言った感じ。
今回で総司は新旧ほとんどの双子座奥義を放ちました。
まさにチート星座、技のデパートです。
快人のトラウマ克服の話ですが、積尸気使いの真髄=愛を信じるという凄まじい話になりました。
無論そんな公式設定はありませんが、自分に向けられる想いを信じることが『あの技』のトリガーになりますので、この作品においてはそうしました。
主人公ですし、幾分美化しても許されるんじゃないかなぁ、と。
総司の事情も分かり、快人VS総司はついに最終決戦。
そして聖闘士星矢を取り扱う以上、絶対に避けて通れないテーマである『兄弟』についての話となります。
思えばこのテーマで快人とぶつけるために、ほぼ自動的に兄弟になる双子座をライバルに選んだものです。
快人と総司は共通項の多い『似たもの同士』でありながら、互いに真逆になるように設定されています。
生と死を見続け、生ける弟を守ろうとする兄の快人。
運命に翻弄され弟を手に掛けさせられ、死んだ弟の想いに応えようとする兄の総司。
次回のニーサン大決戦をお楽しみに。
今週のΩ:相変わらず安定の乙女座。そして凄まじい顔芸さんです。
カーンとオームは使ったけど…あれ技って言っていいのかなぁ?
正直、未だに乙女座の技は意味がまったくわかりません。
『仏教系』・『良く分らないけど凄い』というのは乙女座の共通事項のようです。
そして、なんかハービンジャーさんは普通にいい人っぽい。
暴れられればOKなんだろうか。
次回は体育座もといオリオン座のエデンが戦ってくれるみたいです。
でも正直、一輝VSシャカより勝ち目がない気がする…。